2017年09月17日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第11話「Can you hear my voice from the heart?」感想

 これまでデレアニの中で結成されたユニットの内、単独編成である蘭子のローゼンブルクエンゲルを除いた3つのユニットには、「ユニット編成前からある程度仲の良かったメンバーで構成されている」という共通点があった。ニュージェネレーションズは言うまでもなく、キャンディアイランドのかな子と智絵里、凸レーションの莉嘉とみりあもユニットを組む前から2人で一緒にいる場面が何度となく描かれており、そこにある種の異分子とも言うべき杏やきらりが加わることで生まれる物語やアイドル同士の関係性の深化を描写してきたのが9、10話の内容と言える。
 と同時にこのメンバー編成は、ユニットを組む上で本来なら一番最初に描かれるべき「ユニット結成時に生じるドラマ」を意図的に省略することにも成功している。それまでバラバラの「個」であった者同士がユニット結成という環境変化の中で理解し合い、時にぶつかりあいながらユニットとしてまとまっていくという流れは、そもそも複数の人物が1つの「集団」を形成するシチュエーションにおいて必要不可欠な要素と言え、実際にその流れは7話までのニュージェネレーションズにおける物語として描写されている。しかし9話のキャンディアイランドでも10話の凸レーションでも(さらに言えば6話で正式に結成したラブライカでも)その様子は描かれなかった。
 それは言うまでもない、改めて描く必要がなかったからである。かな子も智絵里も、莉嘉もみりあもユニット結成前から仲が良かったのだから。むしろ結成した後の各メンバーの描写、とりわけ杏やきらりの立ち回りを積み重ねることで、杏もきらりも他メンバーとさしたる軋轢を生むことなく、むしろユニットにおける調整役としてのポジションを確立させ、それを視聴者に周知させることを重視した構成となっていた、というのは前述のとおりである(10話の場合はそこにさらにもう一押しのドラマが用意されていたが)。
 では本作において「ユニット結成」のドラマはもう描く必要はないのだろうか。結論を言えば否なのであるが、改めてユニット結成のドラマを描くにあたってスタッフが用意したものは、結成前から仲の良かったニュージェネレーションズやラブライカとは正反対の人間関係、つまりこれまでの話の中で特別な交流がほとんど描かれてこなかった関係性、且つアイドルとしての明確な「武器」とも言うべき個性を持っているため安易に他人にすり寄ろうとしない頑なさを持つ2人のアイドルだった。

 「2人」のアイドル。それは当然シンデレラプロジェクトの中で未だユニットを結成していない最後の2人、前川みくと多田李衣菜のことである。
 片やネコキャラとしてキュートさを前面に出していくアイドル、片やロックを愛するクール系で行こうとしているアイドル。まさに水と油、ニュージェネの3人でなくともうまくいくとは思えない組み合わせの2人は早速宣材撮影の現場でも反発しあう。

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 2人がユニットを組むよう提案したのは勿論プロデューサー。プロデューサーは彼なりの見立てがあって2人にユニットを組ませることを決めたようだが、2人にしてみれば到底納得できるものではない。キュートなアイドルとクールなアイドル、2人の目指す理想のアイドル像が全く異なる以上仕方のないことではあるが、当然のごとく2人は反目してしまう。
 この時にプロデューサーが2人を組ませる理由をきちんと説明していれば2人ももう少しまとまれたかもしれないのだが、プロデューサーは理由についてはっきり話さない。それについては後ほど考えてみるとして、プロデューサーはユニットのための曲も既に用意できていると2人に告げる。
 2人の考えを尊重するためということでまだ詞はつけられていないものの、曲の仕上がりにはみくも李衣菜も満足した様子。だが2人の気があったのはそこまでで、この曲にふさわしい詞は何かで押し問答を繰り広げてしまう。冒頭の撮影現場での言い争いはこれが原因だった。
 ユニット結成を意識しての差配だろうか、その後もミントキャンディのキャンペーンや写真撮影などの仕事を一緒にこなすみくと李衣菜だったが、どの仕事でもやはり噛み合わず口喧嘩ばかりしてしまう。それでも仕事自体はどうにか成功しているようで特に失敗した描写もないのは、それぞれが仕事をこなす上で最低限の必要十分な力量を既に備えていることを示唆してもいる。実際2人がそれぞれ考えたキャンディの宣伝方針はどちらも別段間違ったものではないし、撮影時に選んだ衣装は各々にはぴったりマッチしている。ただ相手に合わせようとしないからどうにもバランスが悪くなってしまうのだ。

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 「CAT」というメーカー名の電気ポットが「ロック」のかかった状態でどんどん加熱していくというお遊び描写も含め、これまでの2人のやり取りはコメディタッチの軽いノリで描かれているが、ユニット結成という決定事項が先にある以上、こんな状態はいつまでも続けられるものではない。
 卯月たち他のプロジェクトメンバーもそのことを憂慮していたが、肝心のみくと李衣菜が互いに歩み寄ろうとしない以上どうすることも出来ない。同時に彼女らもまたこの2人を組ませることにしたプロデューサーの真意を読み取れず、不思議に思った莉嘉とみりあは早速プロデューサーに聞いてみようと彼の部屋へ向かう。
 このあたりは遠慮しない性格である年少組の個性が遺憾なく発揮されていると同時に、ユニット結成に疑問があっても「新曲」という魅力的な要素につられて十分に反論しないままなし崩しで活動を続けているみくや李衣菜に対し、自分自身には直接的な影響がないからこそ遠慮せず行動できる他メンバーとの対比が明確となっていて面白い。良くも悪くも「他人事」という意識がまだ残っている現在のシンデレラプロジェクトメンバーの関係性をも浮き彫りにしているわけだ。
 さて当のプロデューサーは自分の居室である作業を進めていた。部屋に入り込んできた莉嘉とみりあが目にしたものは、彼が立案したアイドルフェスの企画書だった。プロデューサーはフェスという大きなイベントにシンデレラプロジェクトの全ユニットを参加させようとしていたのである。尤もみくと李衣菜が組む(はずの)ユニットについては保留の意味を込めて「*」と入力していたが。

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 まだ企画段階なのであまり公にして騒がないようにと彼は一応釘を刺したものの、シンデレラプロジェクトにとっては初の大イベント、黙っている方が無理と言うものだろう。フェスの件はほどなく全員の知るところとなり、他のメンバーもにわかに色めき立つ。
 それは仕事から戻ってきたみくや李衣菜も同様だが、ライブにおいてネコ耳とロックのどちらを押すかでまたまた口喧嘩を始めてしまうところもまた今までと同様だった。しかし凛の何気ない一言が2人の焦燥感を駆り立て始める。
 ライブはユニットでの参加が原則だから、ユニットを組んでいないアイドルは出場できないのではないか。2人はその言葉を受け、何とかライブに出場するためとりあえず目の前のレッスンや仕事と言ったいつもの作業を協力してこなしていくことにする。完全に呉越同舟だった2人がここでやっと「ライブに出演したい」という1つの共通した目的を見出せたわけだ。相変わらずのノリではあるものの、ほぼずっとバラバラだった2人がわずかではあるが繋がったというのはかなりの進歩と言えるだろう。
 だが所詮は目的が1つ同じになっただけであり、互いに歩み寄った上での協同一致と言うわけではないのだから、当然これだけでいきなりすべてがうまくいくようになるほど甘いものでもない。どうしても事あるごとに衝突してしまうのは避けられず、そのためかオーディションには落選と仕事も思うようにいかなくなり、さすがに嘆息する2人。

 とうとう2人はソロでデビューさせてほしいとプロデューサーに談判する。さっぱりうまくいかない状況の中で疑問が再燃したのだろうか、自分たち2人を組ませた理由を続けて質問するみく。実際に原作ゲームでもこの2人の絡みはほぼ皆無と言ってよく、この2人を何故組ませたのかという疑問を抱いた人間も決して少なくないのではなかろうか。そういう意味でみくの抱いた疑問は即ち視聴者の疑問とも言える。
 そして李衣菜も同じ疑問を抱いていることは想像に難くなく、「余っている2人を適当に組ませたのか」という問いかけもそんな無理からぬ感情から生まれたものに違いない。
 だがそれについては言下に否定し、相性の良い2人だからと組ませた理由を告げるプロデューサー。最初にユニットの件を伝えた時には理由について話さなかったので、何かよほど重大な理由があるのではとも思われたが実際は割とありきたりなものであっただけに、肩透かしを食らったと感じる向きも少なくないかもしれない。ただ席から立ち上がり2人の目をまっすぐ見て話すプロデューサーからは、6、7話の出来事を踏まえた実直さが窺えるとともに、この回答が嘘偽りや適当なごまかしでないことをも裏付けてはいるが。
 ただ一連のシークエンスから見えてくる今回のプロデューサーの態度について、ちょっとした危険性を孕んでいるということには留意しておくべきだろう。7話での経験を経て「無口な車輪」となる前の状態に戻ったと思しき彼ではあるが、それでも今回の件は普通ならユニット結成の第一報を伝えた時に真っ先に伝えておくべき重要な事柄であることを考えると、伝達する情報の優先度を明確に定められていないという点で、まだまだ彼自身もプロデューサーとしては未熟であるということがわかる。今回は大事には至らなかったが、この「伝えるべき時に伝えるべきことを伝えない」彼の欠点が今後何らかの影響を及ぼすことは必至と思われる。
 尤も今回の場合は最初に伝えたとしても今になって伝えても、それを聞いた側である2人のリアクションは変わらなかっただろう。それはそうだ、ここまでほとんど噛み合うことなくやってきてしまっているのであるから、「否定する」以外の反応をしようがあるまい。

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 そんなみくたちの態度にプロデューサーもようやく考えを軟化させ、ソロデビューと言う妥協案を出してきたので一瞬笑顔になる2人。このあたりは先ほど未熟と評したばかりではあるが、アイドル側の反応を受けて別案を出せる程度には柔軟な対応ができるようになったプロデューサーの成長度合いを窺い知ることも出来よう。
 だがその場合どちらか片方はデビューが後回しになるとも聞かされ、大いに焦り出す2人。デビュー出来ないということは当然それよりも前に開催されるであろうフェスにも出場できないわけだから、焦るのも無理はない。慌てて2人は善後策を協議しあう。
 こういう時にはみくも李衣菜も申し合わせたかのように息ぴったりの行動を取れるという、その事実自体プロデューサーの「相性が良い」という言葉がある程度は正しいと認識させると同時に、この「ある場合に対してのみ、みくと李衣菜の息が合う」という行動パターン自体を今話における重要な鍵としている。
 さて話し合った結果2人は完全に打算的な思惑から、今まではお互いのことをよくわかっていなかったからもう一度ユニットとしてやっていってみたいとまくしたてる。2人にしてみれば苦し紛れの屁理屈に過ぎないものであったが、それを真に受けた莉嘉から「だったら一緒に住んじゃえば?」との予想だにしない提案が飛び込んできてしまう。
 寮住まいのみくの部屋に李衣菜が泊まればと卯月やかな子たちも後押しし、プロデューサーも同意してしまう急展開に開いた口が塞がらない2人であったが、莉嘉たちの提案は2人のことを気にかけた善意からのものであるし、そもそもの言いだしっぺが自分たちである以上拒絶することもできず、2人は本当に一週間一つ屋根の下で暮らすこととなってしまった。
 このような所謂お泊りイベントを女の子同士で行う場合、大抵は女の子同士の華やかで可愛らしい雰囲気が構築されてキャラ同士はより仲良くなるし、見ている側としてもかわいい女の子同士の様々なやり取りを見て幸せな気持ちになれるものと相場が決まっているが、そこは5分と持たずに口ゲンカを始めてしまうようなこの2人、いざ同居となってもやはりトラブルが絶えるものではない。
 入居の日、李衣菜が持ってきたのは引っ越しかと思わんばかりの大荷物。その中には一週間程度の同居生活には明らかに不要と思われる愛用のヘッドホンやらポスターが何個も入っており、みくも早速突っ込まないではいられない。
 しかし全く意に介さない李衣菜は持参したポスターを「画鋲で」壁に貼り付けだし、みくからさらに顰蹙を買う結果となってしまった。
 当の李衣菜は何が悪いのかすら分かっていない様子だが、一般的に賃貸アパートの場合はポスター等を壁につける際に画鋲等を使って壁を傷つけることを禁止しており(傷つけた場合、その部屋から引っ越す際に修繕費としてこちらがその額を払わなければならない)、みくが怒るのは当然の話である。ただ実家住まいの李衣菜にしてみればそのことを知らないのも無理からぬことではあるが。
 いずれにしても先行きに不安を抱かざるを得ない同居生活のスタートであった。

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 本格的に始まった同居生活においても2人の感覚や価値観の違いはどんどん浮き彫りになって行く。
 朝食を普段摂らないという李衣菜に朝食を食べさせようとするみく、目玉焼きはソース派のみくと醤油派の李衣菜、そもそも食自体にあまり関心がなかった李衣菜と、アイドルは体が資本と夕食には30品目ほど摂るようにしているというみく、入浴時もすぐ上がろうとする李衣菜とゆっくり温まろうとするみく…。
 些細なことですぐぶつかってしまうのは相変わらずだが、確かに事務所や仕事場だけではわからなかった一面を知るきっかけになっているという点は、スーパーで安売りの総菜を賢く買おうとするみくに感心した表情を向ける李衣菜の様子に象徴されている。
 現実的でしっかり者というみくの一面は普段のネコ耳キュートアイドルとしての姿からは想像しにくい個性であり、それを李衣菜が知ることが出来たという点において同居生活は一定の効果を上げているとは言える。尤もそれがユニット結成に役立つかどうかはこの時点では不明なのであるが。
 では李衣菜の別の一面は何かと言えば、入浴時の脱衣籠に入れた衣服の畳み方からわかる几帳面さと、風呂上がりにみくと同じく寮住まいの小日向美穂や小早川紗枝に出会った際のミーハー的な態度だろう。これらもまたクールでロックなアイドルを目指す普段の様子とは異なる、上品で可愛らしい個性である。本人としてはそういう面を隠したいのか、みくに指摘されるとこういうのも意外とロックかもと慌てて返すものの、それはみくから見てもすぐにわかる苦しい言い訳だった。

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 同居生活が続く中、とあるオーディションを受ける2人。オーディションの会場がアニマス劇場版のEDで矢吹可奈が待機していた会場と同じというのはスタッフが盛り込んだサービスと思われるが、場所だけでなく緊張して待機しているみくを劇場版における当該場面の可奈の様子と重ね合わせており、単なるお遊びにとどまらないスタッフの拘りが感じられる。
 一足先にオーディションを終えた李衣菜とこれからオーディションに向かおうとするみくが互いに励まし合う描写からは、一緒に仕事をするようになった最初の頃よりは若干歩み寄っている様子が見て取れ、今までが事あるごとに衝突してばかりだっただけにホッとさせられる一幕だ。
 みくの順番まではまだ時間がかかるということで李衣菜は先に帰り、みくも遅れて帰宅する。ドアを開けたみくに飛び込んできたのは、台所で料理をしている李衣菜の姿という意外な光景だった。いつもスーパーの総菜ばかりではと帰りがけに材料を買ってきていたのである。
 料理は時々と軽い調子で答える李衣菜だが、みくも思わず顔をほころばせるほどいい匂いを漂わせていることからも腕は確かなのだろう。これもまた今まで知ることのなかった彼女の意外な一面に違いない。
 だが李衣菜の作っていた料理が「カレイの煮付け」と聞くや否や愕然としてしまうみく。なんとみくは魚が大の苦手だったのだ。普段からネコ耳をつけネコキャラアイドルとして売っているのだから、魚料理も好きで当然と李衣菜が思い込んでしまうのは極めて自然なことでまったく非はないのだが、それでもみくは怒り出し結局また口論になってしまう。

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 以前からゲーム版の方に馴れ親しんでいる人であれば、みくのこの真逆と言える好みは承知の上だろうが、みくという少女のアイデンティティの1つとも言えるこの設定も、デレアニという作品世界の人物である李衣菜はまったく知らない、知るはずもないのである。これまで両者はさして接点がなかったのだからそれは当然であり、我々からすればそんな基本的なところから相手を知って行かなければならない、相互理解というものがいかに大変であるかを雄弁に物語っているとも言えるだろう。
 結局夕食時になっても仲直りできないままの2人であったが、作ったものはどうあれ李衣菜の行為はみくを嫌ってものでは当然なく、むしろ彼女のことを考えてのものだったという点に思いを致したみくは、謝罪の言葉と共に仲直りの印として2人がキャンペーンで宣伝していたあのミントキャンディを渡そうとする。
 みくにしてみれば李衣菜の気持ちを慮ってどうにか歩み寄ろうとした、言わばみくのためにと料理を作った李衣菜と同じことをしたわけだが、今度はその李衣菜の方がすげなく断ってしまう。李衣菜はミント味が嫌いだったのだ。
 キャンペーンでは宣伝だからとカッコいいことを言っていたものの実際は甘い方が好きという李衣菜。思わずそれのどこがロックなのかと思わず返すみくに、李衣菜も負けじと自分がロックだと思えばロックだと言い返し、結局いつも通りの状態に戻ってしまう。
 それは事務所でもまったく変わらず、ロックなアイドルを目指していると言うにもかかわらずギターが弾けない李衣菜にみくの容赦ないツッコミが飛ぶ。同居生活をしてみても尚あまり変わらない2人のそんな様子を見やり、卯月や凛が不安がるのも無理もないことだった。
 厳密に言えば2人とも互いに若干なり歩み寄ろうという姿勢は見せているものの、その都度相手が予想外の反応を示すものだから関係性が好転せず振り出しに戻ったようになってしまう。予定調和に収まらない人間関係を描写するのはドラマの醍醐味ではあるが、見ている側からすれば何とも歯がゆいものでもある。
 ただ前述のとおり互いに歩み寄り始めているという点で2人が変わり始めてきているのも確かなので、あと何かしらのきっかけがあれば、また状況は変わっていく可能性も十分にあるのだ。
 そしてその「きっかけ」は思いがけない形で二度、2人の前に現れる。

 深夜、ふと目を覚ましたみくの耳に、ぼそぼそと囁くような李衣菜の声が聞こえてくる。バスルームに籠って誰かに電話をしているようだが、それに気づいて明らかに不機嫌な表情を作るみく。夜、人が寝ている間にこっそり起きて電話をし、それが原因で目を覚ます羽目にもなってしまったのだから、李衣菜を泊めている側のみくとしては不快に思うのも当然だったろう。
 だがそんなみくも李衣菜が電話口に向けて発したある言葉を聞いてハッとする。その言葉とは「お母さん」。李衣菜は実家の母親に電話をしていたのだ。それを受けて部屋に飾っている写真に目を向けるみく。写真には遊園地と思しき場所で両親と一緒にいる幼い頃のみくが写っていた。
 大阪出身のみくはアイドルになるため親元を離れて上京し、寮生活を送っている。まだまだ親の庇護下にあって当然の年齢である15歳の少女にとってはそれだけでも大変なことのはず、まして大成できるかどうか、そもなれるかどうかすら分からない「アイドル」のためにそこまでやるのには相当な覚悟が必要であったろうことが容易に想像できる。
 何故そんな苦労を進んでやるのかと言えば当然アイドルになるため、もっと言えば「自分の理想のアイドルになるため」である。その強い信念を持っているからこそ信念だけを頼りに1人暮らしすることもできるし、5話のように方向性は誤っていたものの自分の求めるものに貪欲になることもできるのだ。
 そんなみくにとって李衣菜という存在は、ただ理想を掲げるだけでそれを実現しようという覚悟の希薄な甘い存在に見えていたかもしれない。改めて今話を見返してみるとみくと李衣菜が揉める時は必ずと言っていいほどみくが先に突っかかっていることがわかる。目玉焼きに醤油かソースかの件でさえ、李衣菜に断りなく勝手にソースをかけたのはみくだった。
 キュートなアイドルを目指すみくにとってロックでクールなアイドルという李衣菜の理想像はまったく別次元のものだから、それ自体を拒否するのはわからないでもない。だが拒否すること自体に躍起になって、それこそ5話の時のように周りが見えなくなり自分の信念を貫く「だけ」の状態に陥ってしまっていたのではないか。それが今話におけるみくの態度から窺い知れるのである。
 だが李衣菜の言葉を聞いて、みくもあることに気づいたのだろう。今の李衣菜もまた自分と同じく「親元を離れている」ということに。それがとりもなおさず「自分の目指す理想のアイドルになるため」ということに。距離の問題ではない、自分と同じ目的のために自分と同じ行動をしている、その点に関する限りは相手も自分と同じ、同質の存在なのだとこの時になって初めて自覚したのだ。
 対する李衣菜の方も、そのことに気づいたみくと同じタイミングで彼女の表情がインサートされるという演出やその際の彼女の表情から、李衣菜もまたみくと同じ気づきを得ているものと窺い知ることができるが、李衣菜の場合はこの時点で初めて明確に自覚したみくと違い、ここの至るまでの流れで徐々にそういう思いを抱くようになって行ったという方が的確だろう。
 みくにとって李衣菜は言わば自分の領域に入り込んできた異分子であったのに対し、李衣菜からすればみくの領域に(半ば強制とは言え)自分から踏み入ったわけであるから、みくよりはフラットな精神状態のままでみくの様々な面を受け入れやすかったという点もあったろう。みくがしっかりと1人暮らしを営んでいる様を見て感心したり、先に相手のことを想って「料理を作る」という具体的な手段を講じたりといった諸々の行動にそれが表れている。

 互いに気づいていないながらも互いの気持ちが以前よりもしっかりと重なりつつある状況の中、第二の「きっかけ」が訪れる。
 それはプロデューサーの元に舞い込んだ仕事の依頼、というより相談だった。あるイベントのメインとして出演するアイドルが出られなくなったため、代わりとなるアイドルはいないものかと持ちかけられたのである。
 プロデューサーの居室外からそのやり取りを偶然聞いたみくは、その話を断ろうとしていたプロデューサーの言葉を遮り、自分と李衣菜の2人にやらせてほしいと懇願する。それは李衣菜にもまったく相談しない、完全なみくの独断だった。
 1人で勝手に決めてしまった理由を問う李衣菜に、チャンスと思ったからだと告げるみく。それはプロデューサーからユニット結成の話を受けて以降、一度もまとまれていない自分たち2人が本当にアイドルユニットとしてやっていけるのか、それを自分たちで見定められない中途半端なままでアイドルフェスに出場するような
ことをしたくないから。だから強引にでも見極めるための機会としてイベントに出ることを決断したのである。
 そしてもし組むのが無理だという結果が出た時は、アイドルフェスには李衣菜に出てほしいとも。その想いこそは第一のきっかけで李衣菜が自分と本質的には同じアイドルだと認識したからこそ生まれた、ユニットを組む「かもしれない」相手との小さな、だがしっかりと結ばれた絆の証だった。
 みくの想いを聞き届けたプロデューサーは、しかしイベントの日程は2日後で2人が歌う予定の歌も未だ歌詞は用意されていないと厳しい現実を突き付ける。それは7話での経験を経て彼が再認識した、プロデューサーとしてアイドルに対し果たすべき役割でもあった。
 言葉に窮したみくに2日で詞を作ればいいとフォローを入れる李衣菜。それが困難なことは李衣菜にも十分わかっているはずだが、それ以上に彼女を動かしたものがみくと同じものであったことは疑いない。
 プロデューサーもそんな2人の想いを汲み、雑事は自分が引き受けるからと作詞作業を2人に一任するのだった。

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 2人はすぐさま作詞に取り掛かるが、もちろん簡単にできるものではない。単なる技量の問題もだが2人は別に仲良しこよしになったわけではないので、当然ぶつかる時は今までと同様に衝突してしまうのだ。互いの作った拙い詞の内容を見てお互いに幻滅した後すぐ口喧嘩に発展するのが良い証左だろう。
 だが今の2人はそこで止まらず邁進し続ける。みくの部屋はもちろんのこと、それぞれが通う学校でも時間のある時には作詞作業に勤しみ、時にぶつかることはあってもそれで終わらずもう一度2人で思案する。
 それは無論この作業が2人で一緒に見定めた目的・目標に繋がっているからだ。単にそれぞれが別個に立てた目的が結果的に一致したというものではない。みくが李衣菜を、李衣菜がみくを想い考えた末の結論としての目的なのである。だから止まらないし止めることなどあり得ない。歌を完成させることもイベントに出ることも、個人個人の目標ではなく「2人」の目標なのだから。そしてそれはアイドルユニットを組む上で必要不可欠な繋がりが2人の間に確かに育まれたことをも意味していた。
 その関係性を何より強調しているのはBGMとして挿入された楽曲「We're the friends!」だ。見た目も何もかもバラバラだけどただ1つ、心に抱いた想いだけは同じ、だから同じ場所を目指せるという旨の歌詞は、そんな関係性の2人を「最高の友達」と謳い上げている。互いに素直になれない2人の心情を代弁しているかのような本曲がこの一連のシーンにかかることで、みくと李衣菜の心情描写が完成されたと言っていいだろう。
 差し入れにとアナスタシアや蘭子が持ってきた食べ物が、甘いもの好きな李衣菜にも魚嫌いのみくにも合った「たい焼き」であったり、7話にも見られた雨→晴れの時間経過が描かれたりといった細かい演出がそれを補強している。
 同時にそんな2人を支えるために文字通り奔走しているプロデューサーの様子を挟み込むのも確かな演出だった。

 2日という短い期間はあっという間に過ぎ、ついに迎えるイベント当日。
 詞はどうにか完成し、衣装等を含め準備はほぼ整った。詞の完成がギリギリだったこともあってリハーサルも満足にできていない状況にも大丈夫と言い切る2人だったが、その表情は一見してすぐわかるほどに強張っていた。
 それが緊張から来ているであろうことは容易に想像がつくし、大丈夫という言葉にもそれを担保できるだけの自信があるわけではないというのもすぐわかることだったが、プロデューサーはそこには言及せず本番に臨む意思を確認した上で、後を2人に託す。それは無論「敢えて」そうしたのだろう。
 本番直前、舞台袖で出番を待ちながら自分たちは本当に気が合わないと自嘲気味に呟く李衣菜に対し、それが自分たちのユニットの持ち味と返すみく。
 「ユニットの持ち味」。2人の今までの歩みは順風満帆などという言葉からはほど遠い、とても褒められるような内容ではなかったし、その原因も外的な要素に起因するものではなく、ほぼ100%完全にそれぞれがそれぞれの意地を通して譲ろうとしない頑なさから生じたものだった。だが普通に考えれば欠点にしかならないところを、この2人は自分たちの持ち味≒長所に変えてしまったのである。
 自分の信念や意地をむき出しにしてぶつけ合うというこれまでのユニットとはだいぶ異なる経緯を経てはいるものの、結果として2人の間に育まれたものが他のメンバーと同様のものであったことは相違ない。それはそれぞれの好みを前面に出しながらも大元のデザインコンセプトが共通しているという2人の衣装に如実に示されている。
 後は本番を成功させるのみ。テンションを上げてステージに上がり込む2人だが、知名度皆無のアイドルを見やる観客の目はさすがに冷めたものだった。それでも2人は負けじと煽りを繰り返すものの、やはり観客のノリは悪い。
 堪らずプロデューサーに視線を向けてしまう2人に、プロデューサーは2人をしっかりと見据えたまま強く頷く。元よりアイドルが一度ステージに上がればプロデューサーは何もしてやることはできないが、何よりプロデューサーは本番前に2人に話した通り、2人を信じてステージを託したのである。
 万全とは言えないこの状況の中でプロデューサーはみくと李衣菜を信じた。その想いに些かの揺るぎもないことは彼のその行為から十分に壇上の2人に伝わっただろう。プロデューサーからの信頼を受けて強く頷き返す2人の表情にもう緊張はない。
 既に何度となくこのブログでも触れてきた、アイドルマスターという作品が是とする「アイドルとプロデューサー」の関係性はこの時点で完成した。それは同時にこのステージの成功が確約された瞬間でもある。
 さらにテンションを上げる2人の煽りに呼応するように観客のコールも次第に大きくなっていき、それはこの歌のタイトル「OωOver!!」のコールで最高潮に達する。
 みくと李衣菜が共同で詞を書きあげたという設定のこの歌、実際にみく役の高森奈津美と李衣菜役の青木瑠璃子が作詞を担当している。劇中の展開に合わせて詞に素人感を出すため担当声優に任せたようだが、出来あがった当初の詞が結構上手なものだったので修正を行ったこともあったという経緯もあるこの歌、みくと李衣菜2人の個性を盛り込みながらも、「前にひたすら進んでいく」ことを主眼に置いた力強い内容となっている。
 それは個々人の考え方の違いや置かれた状況といったものをすべて飲みこんで突き進んでいく、今現在の2人が出した結論とも重なっており、まさしく2人が組んだ「ユニット」を象徴する楽曲になっていると言えるだろう。

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 ミニライブは一応の成功を収め、2人も互いの個性を尊重していくということでユニットは正式に結成される運びとなった。だいぶ時間はかかったが、これでついにシンデレラプロジェクトの全アイドルがデビューを果たすことになる。
 と、そこへちひろさんがアイドルフェスの企画書を携え、社内に出しても良いかと聞いてきた。プロデューサーはみくと李衣菜が組むユニットの名前がまだ決まっていないからと保留の意を示すが、それを聞いたちひろさんは不思議そうな顔を浮かべながら何気なく「『アスタリスク』じゃないんですか?」と返す。
 ちひろさんはユニット名が決まっていないためプロデューサーが仮に記載しておいた「*」を、そのままユニット名だと勘違いしてしまっていたのだ。PCを使う仕事に従事している人間なら「*」を読めて当然のところだが、みくたちにとっては初耳だったようで、その言葉の意味をちひろさんに質問する。
 ラテン語で「小さな星」というその意味を聞いた2人は、口にした言葉こそ「ロック」「かわいい」といつもの感想だったものの大いに気に入ったようで、プロデューサーも了承し2人のユニット名は「アスタリスク」に決定した。

 デレアニそのものの主たる命題を背負ったニュージェネレーションズの結成(とそれに伴う物語)を除けば、今回のアスタリスクは最も結成まで時間がかかった、難産とも言うべき存在になっている。それはアイドルユニットという小単位グループを結成する上でのメンバー間、引いては各人物間の心の寄せあい方が一辺倒なものではないということを描きたかった言う面はあるだろう。
 だが今話で真に描きたかったことは最後の最後、衣装イメージを見た2人が例によって可愛いかロックかで口論し出し、解散まで口にするほどの騒ぎを聞いてのきらりの言葉「仲良しだにぃ」に象徴されているのではないだろうか。有り体に言ってしまえば「ケンカするほど仲がいい」ユニット、みくと李衣菜の2人が組むユニットがそう呼ばれるようになるまでを描きたかった、その一点に尽きるように思われる。
 改めて今話を最初から見てみると、みくと李衣菜のやり取りは最初のアバンの頃からほとんど変わっていない。一つの事柄に対して可愛いと思うかロックと思うか、可愛いものを選ぶかロックなものを選ぶかで衝突してきたという点はずっと同じであり、ユニットが組めるほどには互いのことを理解したからと言ってその部分まで変質したというわけではないのだ。
 ただ1つ変わったのは2人が互いの考え方を尊重できるようになったということ。ただしこれもあくまで尊重の意識を持つようになっただけであり、基本的に自分の信念を優先しようとする押しの強さは全く変わっていない。そして敢えて言えば自分の信念について妥協しないその押しの強さこそがミニライブを成功させた最大の原動力とも言えるのだ。
 観客を巻き込みライブを成功させるパワーの源は2人が元々持っていたものだった。そしてそのパワーはシンデレラプロジェクトにおける彼女ら2人の見方まで変えてしまったのである。
 ユニットのメンバーであるみくと李衣菜は相互理解を果たすまで文字通り体当たりで臨んできた。客観的には不器用としか言いようのない強引な方法ではあるが、2人の内包するパワーはその強引さまでもアスタリスクというユニットの特色として昇華させてしまった。これもまたアイドルユニットとしての1つの有り方であると、それを描きたかったというのが今話の目的だったのではなかろうか。
 その意味ではみくと李衣菜というキャラクターは今話の内容に最もマッチしたアイドルであったろう。どちらも我が強く、なりたいアイドルの理想像を明確に抱いているにもかかわらずその理想には届いていない、しかし理想に妥協はせず信念だけは決して曲げない。そんな2人でなければメンバー間の衝突も理解も、そこから生まれるパワーも描出することは叶わなかったに違いない。
 それはこれまで生まれたどのアイドルユニットとも異なる独特のものであり、デレアニ由来のユニットとしては6つ目にしてなお独自の魅力を紡ぎ出せるスタッフの手腕には感嘆の念を禁じ得ない。

 前述のとおりシンデレラプロジェクトに所属するアイドルはすべてデビューを果たし、さらにはアイドルフェスという大きなイベントへの出演も確定した。
 だがアイドルフェスに出るためにはまた今までとは異なる準備をしていかなければならないことも事実である。次回はそれについて描かれるようであるが、予告編を見るとどうやらどこかで見た場所が舞台になるようで、それも含めて楽しみな次回である。

2015年07月11日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第10話「Our world is full of joy!!」感想

 前話までにシンデレラプロジェクトも過半数のメンバーがそれぞれユニットを組み、めでたくCDデビューを迎えてきたが、その編成については多くの視聴者、とりわけ原作ゲームに以前から慣れ親しんできた人々にとって、かなり意外性の強いものだったというのは衆目の一致するところだと思う。
 原作を代表するプレーンな存在としての卯月、凛、未央のニュージェネレーションズはともかく、ラブライカの美波とアナスタシア、キャンディアイランドのかな子・智絵里・杏などは原作ゲーム中では全くと言っていいほど接点のなかった間柄だったのだ。
 既にある程度人物関係が定着してきている原作ゲームに敢えて追従せず、設定を今一度撹拌、再構成して組み直すという行為はともすれば批判の的になりかねない危険性を孕んでいるが、新たに提示された人間関係から生じるドラマやキャラの個性が常に丁寧に、且つ緻密に構築されてきているということは、これまで本作を見てきた人であれば素直に認めるところであろうと思う。
 そんな本作は今話でまたも新しいユニットを我々ファンの前に送り出す。名前は「凸(デコ)レーション」。諸星きらり、城ヶ崎莉嘉、赤城みりあの3人で編成されるトリオユニットだ。
 年少組2人に年長組のきらりという編成は、一見するとこれまでのトリオユニットよりも統一感を出しづらそうであるが、子供のみりあや莉嘉の面倒を実は精神年齢高めのきらりが見るという視点で考えるとバランスが取れていると言えなくもなく、何とも評価の難しいユニットである。
 だが前話の感想に書いたとおり、きらりは今までの話の中だけでも杏との絡みが一番多く、莉嘉も基本的には姉である美嘉と一緒にいるイメージが強い。この3人の取り合わせがどのような化学反応を起こすのか想像もつかないという点では、先のキャンディアイランドと同様だろう。
 果たして凸レーションの物語はどのような顛末を迎えるのであろうか。

 凸レーションもキャンディアイランドと同じく、今話の開始前にCDデビュー自体は果たしていたようで、今プロジェクトルームで3人とプロデューサーが打ち合わせを行っている内容は、CDの販促についてだった。
 販促の目玉としてプロデューサーが企画・実施したのはファッションブランド「PikaPikaPop」とのコラボレーション。話を聞いたみくが羨ましがるほどの有名ブランドのようで、コラボ衣装から見るに凸レーションというユニットが本来持つポップなビジュアルイメージともマッチしており、宣伝効果は抜群というところか。このコラボを実現させたプロデューサーの手腕もまた見事と言えるだろう。

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 有名ブランドとのコラボ実現に凸レーションの面々も大いに喜ぶが、そこはシンデレラプロジェクト内でも有り余るほどの元気さや明るさを湛えている3人、打ち合わせもそれですんなり進行するはずはない。
 プロデューサーの発した「露出は多ければ多いほどいい」という言葉に莉嘉が即反応して「エッチ」と返せば、みりあがプロデューサーに「エッチなの?」と質問し、この場合の「露出」はメディアへの露出という意味だときらりが解説する、といった具合である。
 意味のわからないままみりあに「エッチなの?」と質問させたり、ソッチの方の意味の露出が多めでもいいと莉嘉に言わせる流れに背徳的な何かを感じなくもないが、それはそれとしてこの場面では事あるごとに年相応以上のことを求めて背伸びしたがる莉嘉と、よく理解できないながらも莉嘉に同調するみりあ、そんな2人を優しくフォローするきらりという、ユニット内におけるそれぞれの役割や立ち位置が過不足なく描写されている。
 元々みりあと莉嘉のそのような関係は2話や4話などで描かれてはいたが、ここに3話あたりからさり気なく描かれてきたきらりの常に周囲の誰かをフォローしようとする姿勢をうまく噛みあわせており、結成したばかりではあるが早くもユニットとして十分な関係性が築かれていることがわかるだろう。
 そんな3人に対応するプロデューサーとのやり取りは、アナスタシア曰く「楽しそう」、凛曰く「遊ばれてる」ようなものであったが、どちらにしてもプロデューサーを含んだ4人の関係もまた良好であることは間違いない。それはみくの「Pチャン」呼びと同様、既に莉嘉がプロデューサーを原作ゲームに即した「Pくん」というフランクな呼称で呼んでいる点からも察せられるところだ。
 プロデューサーは3人に、グッズの販売に合わせてコラボイベントを実施することを伝える。しかし場所の都合で歌は歌えずトークショーのみとの話に、莉嘉はかなり不満な様子。
 それでもトークショーのことがよくわからないみりあに、すぐ気分が切り替わり嬉々として話を始めるあたりは年相応のお子様らしいと言えるが、その内容は「恋バナしたり○○の話をしたり」と少々危なっかしい。これもある意味で背伸びしたがる子供らしいと言えなくもないが、さすがにこのまま進行させるわけにもいかず、トークの内容について改めて打ち合わせを行うことを提案するプロデューサー。
 プロデューサーも以前に比べると会話によるコミュニケーションを積極的に取ろうとしているようだが、主に莉嘉やみりあの持つ子供特有のパワーは細かな理屈を容易に跳ね飛ばしてしまうような力を持っているだけに、振り回されてしまうのは仕方のないところだろう。生真面目な性格故に彼は2人の攻勢をまともに受け止めてしまうのだから尚更だ。
 和気藹々とはしているものの、2人の子供パワーにプロデューサーが振り回されがちなその様子は、傍から見ている凛やみくに不安を抱かせるには十分すぎるものだった。

 イベントの当日。PikaPikaPopの店舗横にある駐車場と思しきスペースにステージは設営されていた。場所が場所なだけにステージ自体は小ぢんまりとしたものだが、結構な数の観客が集まってきており、コラボによる相乗効果は確実に発揮されていると言えるだろう。
 司会に呼ばれてステージに上がる3人。まだデビューしたばかりではあるが3人揃ってのユニット名紹介もきちんと合わせており、前話のキャンディアイランドと違って全員まったく緊張しているような素振りがないのは、生来の性格故であろうか。
 コラボ元であるPikaPikaPopの服についてや「凸レーション」という名前の由来などについてのトークをそつなくこなしていく3人。メンバーの身長差や年齢差が文字通り凸凹しているから、というユニット名の由来やメンバー間の立ち位置をイベントのトークという形で説明調にせず視聴者に明示している巧い構成となっている。

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 これを見ると逆に前話のキャンディアイランドは、何故ユニット名の由来について劇中で一切触れなかったのか少々疑問が湧いてくるが、これはメンバー間の関係性と同様に言葉ではなく劇中の描写すべてを使って指し示そうという演出意図だったのだと思われる。
 とすると今話の凸レーションはここで言葉で説明を一旦終えてしまったわけであるから、この時点で今話は「ユニット」というものについて前話とは異なるスタンス、アプローチが行われるであろうことを示唆している、とも取れるだろう。
 イベントは順調に進められたが、莉嘉がプロデューサーの方に視線を向け、プロデューサーが慌てて視線を戻すよう身振りで支持する一幕もあり、まだ完璧とまではいかないようだ。トーク自体も観客を喜ばせるには十分な内容であったが、敷地外の道を行く通りすがりの人を惹きつけるまでには至っていない様子。
 そのイベントもとりあえずは無事に終了した。この会場でのイベントはまだ一回目で、別の会場でのイベントは控えているものの、ひとまずはとステージ裏のテントに戻ってきた3人に労いの言葉をかけるプロデューサー。
 と、そこへ3人のトークに少々厳しめの評価を下しつつ、サングラスをかけた少女が入り込んできた。先程のステージも観客の中に紛れて見ていたその少女をプロデューサーは慌てて外へ連れ出そうとするが、そんな彼を遮るように莉嘉が駆け寄る。
 莉嘉だけはすぐに気付いた彼女の正体は変装していた姉の美嘉だったのだ。時間が出来たので少し寄ってみただけという美嘉だったが、3話や6話、及び6話のNO MAKEなど随所で面倒見の良さを発揮していた彼女のこと、今回も妹とその仲間たちの仕事が気になって駆けつけてくれたのであろう。

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 美嘉はアイドルの先輩としてステージ上での3人のトークに、それぞれアドバイスを送る。一時期は中の人の影響によってか、原作ゲームでは小さい女の子に対して過剰とも言える愛情を露呈してしまうこともあった美嘉であるが、現在は原作の方でもそのような描写は控えめになっており、今話のこのシーンについても年少者のみりあに対しては良きお姉さんとして優しくアドバイスを送っている。
 年下のみりあだけでなく同い年のきらりにアドバイスをしているのは、もちろん話の流れ的には当然なのであるが、単に先輩としてだけではなく、先に触れた6話のNO MAKEでのきらりとのやり取りにおいても発揮された、血の繋がりに関係ない彼女の持つ「お姉ちゃん」としての個性を強調する、という側面もあったのだと思われる。
 莉嘉へのアドバイスだけ少々明け透けなのも、付き合いの長い実の姉妹ならではの会話を他の2人との対比という形で強調しており、このシーンは総じて美嘉の「姉」の部分をかなり前面に押し出したものとなっている。
 さらに言えば特にきらりとのやり取りについては6話NO MAKEを想起させること、それ自体が後々の展開に向けた伏線と取れなくもない。
 続けて美嘉から意見を求められたプロデューサーは、もっと客を巻き込みたい、見に来てくれた観客だけでなく通りがかった通行人にも足を止めてもらえるような何かがあればと話す。
 今回のイベントは閉じた会場ではなく言わばオープンスペースのようなものなので、興味を持たずに歩き去っていく通行人の姿も嫌でも目に入ってくるのは道理である。実際にイベントの最中にそのような光景を目の当たりにしていたからこそのプロデューサーの意見に、同じ気持ちを抱いていた莉嘉も賛成する。
 しかしすぐに妙案が出てくるはずもなく、その件はひとまず置いてまずは次の会場への移動の準備をするよう3人を促す美嘉。
 莉嘉たちに準備をさせる一方、テントの外で美嘉は次のステージをどうするのか、プランについてプロデューサーに質問する。3人には軽めの態度をとりながらも、彼女らに聞こえない場所で「仕事」についての話題を持ちかける辺りに、美嘉の先輩アイドルとしての後輩に対する気遣いが見て取れる。
 プロデューサーは特に指示はせず次も3人の思うように進めてもらうという。その回答に疑念を抱く美嘉だが、それは自由に行動させることこそが凸レーションというユニットの魅力を引き出す一番の要因であり、そこに賭けてみたいというプロデューサーの確たる判断があっての発言だった。
 凸レーションの結成に至るまでの流れや各メンバーをそこまで強く信頼するに至った経緯は劇中で明確に描写されてはいないものの、元より7話の展開を経てプロデューサーと彼女たちとが強い信頼で結ばれたことは自明であるし、メンバー3人の人となりは2話以降の劇中描写で見ている側にわかる形で明示されており、つまりは劇中で最も彼女たちの近くにいたであろうプロデューサーもまた彼女らの個性を十分理解する機会があったわけだから、彼の判断理由が薄弱ということにはならないだろう。
 さらに自分の考えを述べる時のプロデューサーの柔和な表情が、その判断を補完する形になっている点は見逃せない。3話や5話でステージデビューやユニットデビューを決めた時の彼の表情がどうであったかを思い返すと、彼の表情の変化それ自体がきらりたち3人とそれぞれ濃密な時間を過ごし、信頼をおける関係になったことの証左として機能しているのである。
 そんなプロデューサーの言葉に美嘉が半信半疑な態度を示したのは、凸レーションの3人ほどには彼を信用していないということであろうか。シンデレラプロジェクトに所属していない美嘉からすれば、7話での事件が終息したこと自体は認知していても、事件がこじれ妹たちを始めプロジェクトメンバーを混乱させる要因となったプロデューサーに対して信を置けないのは止むを得ないところかもしれない。
 この態度ややり取りから7話で明かされたプロデューサーの過去を絡ませて「美嘉とプロデューサーは過去に何かあったのでは」と推測されることがネット上では何度となく見られるが、今話の時点ではそれとはっきり示す情報は皆無であるから、あくまでファンの二次創作的独自解釈に留めておくべきであろう。

 自動車で次の会場へ移動する3人だったが、車中でも「お客を巻き込む」その手段をどうすれば良いか妙案が浮かばず、まだ思案に暮れていた。
 「『お話聞いて下さい』と言ってみたら」とみりあが子供らしい素直な意見を言う一方で、莉嘉は「セクシーに言ったらいいかも」と相変わらず背伸びがちな提案をしてきたので、さすがにプロデューサーもやんわり却下する。
 ちなみに蛇足であるが、この却下されてむくれた時の莉嘉の目のあたりが、先程プロデューサーと会話して彼に疑念の眼差しを向けた時の美嘉の目が非常によく似ており、意としてのものかはわからないが、こんなところでも姉妹らしさが強調されていることが微笑ましい。
 考えあぐねた莉嘉はプロデューサーに救いの手を求めるが、当然彼にもすぐには良い案は出てこない。
 その時きらりが唐突にみんなでクレープを食べに行こうと提案してきた。甘いお菓子を食べればテンションも上がっていいアイデアが浮かぶかもというきらりの言葉は、思案に行き詰まり元気がなくなってしまった他の2人に向けた、いつも「みんなで一緒にはぴはぴする」ことを望んでいる彼女らしい心遣いでもあった。

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 きらりの提案に莉嘉もみりあもすぐ笑顔を作って賛同し、お伺いを立てられたプロデューサーも時間的には余裕があるからと了承。プロデューサーを含めた4人は車を降り、一路クレープ屋へと向かうことに。
 4人が降り立ったのはちょうど原宿の駅前だった。駅からすぐの商店街の賑やかさにみりあたち3人のテンションもすぐに上がってきた様子。
 莉嘉に頼まれ莉嘉のスマホで写真を撮ったプロデューサーは、商店街を歩く3人の様子を撮影し、シンデレラプロジェクトのホームページに掲載することを思いつき、3人はきらりを先頭に商店街の中へと入っていく。

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 挿入歌「Orange Sapphire」をBGMに、クレープ屋へ向かいつつ商店街を散策して楽しむ3人と、それを撮影する1人の様子が軽快に描写される。「Orange Sapphire」はパッション属性アイドルのイメージソングでもあるので、原作ゲームでは同じパッション属性であるきらり、莉嘉、みりあの3人の道中にはふさわしい選曲と言えるだろう。
 そんな中でみりあと話をする時にしゃがんでみりあの目線に合わせるきらりや、店頭に飾られたマネキンに合わせてセクシーポーズを取ってみたり「自分は池袋派」と説明する莉嘉と言った、各人の細やかな仕草や言動がしっかり描写されているのはさすがである。
(埼玉出身の莉嘉が電車で行ける一番近い東京の「若者が集まる」繁華街としては、埼京線もしくは東武東上線ですぐに行ける池袋と言うことになるのだろう。ちょっと足を延ばせば新宿や渋谷にも行けるのだが、そうしていないあたりがついこの間まで小学生だった莉嘉らしい。)
 いかにも蘭子が好みそうなゴスロリ風の服が売っている店を見つけて、3人とも蘭子を思い出すところは、ユニットの隔てなくプロジェクトメンバーの仲が良いことを強調しているとも取れるひとコマだ。
 そしてこのシークエンスでは本作で半ば恒例となった「新規にCVが設定されたデレマスアイドル」が登場している。
 クレープ屋の前を通りがかる形で登場したのは空手少女の中野有香、清楚なお嬢様然とした振る舞いの水本ゆかり、そしてとにかくドーナツが大好きな椎名法子の3人だ。もちろん3人とも今話にて新規に担当声優が割り当てられ、放送終了直後に原作ゲームの方にも反映されている。

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 この3人は同じキュート属性アイドルであり、原作ゲームでは他に「今井加奈」「間中美里」の2人を入れた5人で「イエローリリー」というユニットを組んでいるのだが、最近はゲームの方でも3人だけセットで登場する場合がままあり、さらに有香とゆかりは2人だけで「ストレートフルート」というユニットを組む場合もあるので、多少ややこしくなってしまっている。
 今話では3人とも私服姿での登場であるため、アイドルとして活動しているかどうかは今話を見るだけでは不明なのだが、後の11話放映時に更新された原作ゲーム内コンテンツ「マジックアワー」では346プロ所属のアイドルとしてしっかり登場している。いつか本作内でアイドルとしての3人の姿も見られるのだろうか。これについても今後の展開に期待したい。
 さてクレープ屋に到着したきらりたちの方はたくさんの種類のクレープに目を輝かせるが、プロデューサーの方は3人にクレープを奢るのを「接待交際費」と言い回したために、みりあや莉嘉から「デート」と騒がれてしまったり、購入したクレープの最初の一口をどうぞと勧められたりと、3人のパワーに少々押され気味の様子だ。
 それでも仕事の一環と3人のスナップ撮影に余念のないプロデューサーだったが、年頃の女の子3人をひたすら撮影し続ける厳めしい大男、という光景は傍から見るとどうしても怪しく見えてしまうもので、彼もさすがにそういった目を気にしたらしく3人から少し離れてしまう。
 1話や7話でも不審者に間違われてしまった経験から、彼なりに気を遣った行動だったのだろうが、その様子が莉嘉の言ったとおり逆にもっと怪しくなってしまっているのは悲しい皮肉であった。
 その厳しい現実は早速、またも不審者として警官に呼び止められるという事態を招いてしまう。
 ちなみにこの時きらりたち3人が物色していたアクセサリーの中には、アニマス14話にも登場したスピンオフ作品「ぷちます!」のぷちどるや765アイドル・水瀬伊織が常に持ち歩いているうさぎのぬいぐるみ(シャルル)、我那覇響のペットであるハムスターのハム蔵に劇場版「輝きの向こう側へ!」での矢吹可奈の思い出の品となったパンダのぬいぐるみと言ったキャラクターのキーホルダーも含まれている。

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 これよりちょっと後のシーンでは劇場版のエピローグで結成が示唆された響に双海真美、高槻やよいの3人編成の新ユニットの宣伝広告が貼られており、この辺はストーリー上決して重要なファクターではないが、長年のファンに向けられた制作陣からの嬉しいお遊びと言うところだろうか。
 それはさておきプロデューサーが警官に連れて行かれたのを知らない3人は、タイミング悪くスナップ撮影を求めてきたカメラマンから「デビュー済のアイドルだから」と走って逃げたこともあり、結果として完全にプロデューサーと離れ離れになってしまう。
 プロデューサーの方は交番で聴取を受ける羽目になっていたが、これまたタイミング悪く名刺を切らしてしまっていたために身分を証明できるものがなく、ようやくプロデューサーがいないことに気づいた莉嘉からの電話にも出させてもらえない。
 現実に不審者の聴取をしている場合、不用意に自分の携帯電話を持たせるとその途端に携帯そのものやSDカードなどを破壊し、保存されたデータを確認できないようにする場合があるため、聴取中は電話に触らせないという話があるが、それを考えると妙にリアルな流れではある。
 莉嘉に続いてきらりが事務所に電話をかけてみるが、こちらもこちらで間の悪いことに事務所の方にはプロデューサーの身分を確認するためか警察の方から電話がかかってきており、ちょうど美波が応対している最中だったのできらりからの電話は繋がらなかった。
 事務所の方は事態を知った卯月こそ動揺してテンパってしまうものの、他にいたのが美波や凛といった落ち着いた性格の面々だったためさほど混乱せずに済んだが、現地のきらりたちはそう落ち着いてもいられない。
 事務所とも連絡が取れない中、莉嘉は今度は美嘉に連絡を取る。当然と言えば当然の行動かもしれないが、すぐに連絡が取れて且つプロデューサー以外に頼れる人物として真っ先に姉が思い浮かぶところは、仲の良いこの姉妹らしい行動とも言える。
 ちょうど仕事が終わったばかりだった美嘉は妹からの連絡を受け、同僚のアイドルを楽屋に残して現場に急行する。
 楽屋にいた「同僚のアイドル」と言うのは、1話のポスターなどでビジュアルだけは既出だった大槻唯、そして今話で本作初登場となる藤本里奈の2人だった。この2人も先の由香たち3人と同様、今話で新規にCVが設定されたアイドルだ。

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 美嘉と同じく見た目はいかにもなギャルと言った感じの2人は、原作では美嘉を含めて「セクシーギャルズ」というユニットを組むこともあり、美嘉とセットという形での今話の登場はその縁からであろうか。軽そうな見た目に反して仕事に対してはきちんと向き合って取り組んでいるというのも美嘉と同様である。

 プロデューサーとも事務所とも連絡がつかず、さすがに困り果てる凸レーションの面々。そんな中みりあは自分たちがあの時走り出したからプロデューサーとはぐれてしまったと、落ち込んだ様子で謝罪の言葉を口にし、その様子に莉嘉も視線を落としてしまう。
 実際にはその前にプロデューサーは警官に捕まっていたのだからみりあたちのせいというわけではないのだが、プロデューサーの方の事情を未だ把握できていないのだから、責任を自分に負わせてしまうのも仕方のないところであろう。2人ともまだまだ子供の年齢だが、子供なりに事態の深刻さを感じ取っているからこそ意気消沈してしまったのだと言える。
 そんな2人を明るくハグするきらり。きらりは来た道を戻ってプロデューサーを探そうといつもの調子で2人に提案してきた。「この辺みんなきらりのお庭」と冗談めかして話すきらりの朗らかな笑顔に2人も少し元気を取り戻したようで、微笑みながらきらりに頷く。

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 きらりの気遣いがここでも発揮された形であり、余計な事を考えずにまず動いて事態を打開しようという提案自体も的を射たものであるが、ここはAパートでも見られた同様の描写をただ重ねて見せただけではないという点に、注意を向けておく必要があるだろう。
 ここで重要なのはみりあや莉嘉が意気消沈していた時に見せたきらりの表情である。自責の念に駆られるみりあを見つめるきらりの表情は、今までの挿話の中で見せたことがないくらいに悲しげなものだった。
 無論みりあのそんな様子を目の当たりにすれば誰でもそんな表情を作ってしまうに違いないというのも確かだが、常に笑顔で例外的に5話や7話で不安げな表情を見せるくらいであったきらりが、それらの時以上に悲しげな表情になった。それを視聴者側に見せること、そしてその様子はきらりに背中を向ける位置関係になっていたみりあと莉嘉にはまだ認識されていないこと、これら2つの事実を見せることがシーンの役割だったとも言えるのである。その役割がいかなるものかについては今後の展開の中で触れられよう。
 一方のプロデューサーは身元引受のためなのか、ちひろさんに交番に来てもらうことでようやく解放されていた。逆光気味に映し出される彼女のご尊顔は変に凄みを帯びており、屈託のないにこやかな笑顔もそんな印象に拍車をかけているが、実際にこれをみて怯えた一部ファンもいたとかいないとかいう話を聞くし、ある程度「狙った」演出なのだろう。

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 やっと手元に戻ってきた自分の携帯電話に、莉嘉やきらりからの着信履歴が大量に残っているのを確認したプロデューサーは慌てて電話をかけるが、こちらもこちらで繋がらない。またタイミング悪くきらりはようやく電話の繋がった事務所と、莉嘉は美嘉と連絡を取っていたために繋がらなかったのだ。
 到着した駅で莉嘉に電話をかけていた美嘉は、とりあえず3人に駅まで来るようにと莉嘉に伝えるが、ちょうど莉嘉は隣で事務所の美波と話をしているきらりから、プロデューサーが警察にいるという話を聞かされたようで、警察に行くとだけ伝えて電話を切ってしまった。仔細が未だわからないものの、とりあえず美嘉も警察へと向かう。
 きらりたちと連絡のつかないプロデューサーは、遠くへ入っていないと判断し街中を歩き回って探そうとする。彼本来のまっすぐな性格が顕著な行動と言えるが、それを制したのはちひろさんだった。
 連絡が取れた時に全く別の場所にいた場合を考えると、今はむやみに動かない方がいい、彼女たちも子供ではないのだからと極めて真っ当な忠言を述べるちひろさんに、プロデューサーも押し黙るしかなかった。
 このプロデューサーとちひろさんのやり取りに、もしかしたらアニマス12話のプロデューサーと小鳥さんのやり取りを想起した人もいるかもしれない。どちらも焦燥感に駆られ先走ってしまいそうになったプロデューサーが、身近な大人の女性に諭されるという点で共通している。アニマス同様にアイドル同士だけでなく、アイドルを支える側のプロデューサーとサポートスタッフもまた助け合っているという横の繋がりが垣間見えた瞬間とも言えるだろう。
 アニマスでは小鳥さんのアドバイスにプロデューサーが己の至らなさを痛感していたが、その意味では本作のプロデューサーもまだまだ未熟な点、逆を言えばまだこれから成長していける余地があるというところであろうか。
 しかしすれ違いは未だ収束を見せない。莉嘉たちが向かった交番には当然だが既にプロデューサーはおらず、美嘉の方は「警察」とだけ聞かされていたため、勘違いして交番ではなく近くの警察署に向かってしまい、結局莉嘉たちとは合流できずじまいとなってしまう。
 美嘉が警察署に行ってしまったことを知らずまだ駅にいると思い込んでいる3人は、美嘉との合流も兼ねて駅へ向かうが、またまた間が悪くちょうどプロデューサーは事務所と連絡を取っていたため、彼との連絡はつかないままだ。
 プロデューサーの方は美波からきらりたちの話を聞き、自分は彼女らが行ったと思われる交番へ向かう一方、プロデューサーは事務所に残っているメンバーの中でこちらに来れる人はいないか質問する。
 美嘉がようやく件の交番に到着していたが、既に莉嘉たち3人は駅に向かっていたため当然だが合流できない。ちょうど駅に着いた莉嘉に電話をかけた美嘉は場所を動いてしまった莉嘉に思わず怒ってしまう。
 莉嘉たちを心配しているからこその反応だとはわかるものの、待ち合わせの約束や場所の確認をしっかり行っていなかったのは美嘉も同様なので、ここで莉嘉個人を責めるのは酷と言うものであろう。
 と、今度はみりあが雑踏の中にプロデューサーによく似た後ろ姿の人物を認めたため、本人と思い込んで走り出してしまう。後の2人も慌てて追いかけようとするが、その際人にぶつかった莉嘉は携帯を落として破損、美嘉との電話が切れてしまう。突然の事態にしばし呆然とする美嘉。
 さてここまで一連のすれ違いについて比較的淡々と文章にして記述してきたが、段階的に高まっていく各人の緊迫感が文章から感じ取れないのは筆者の文章力の問題として、それとは別にこの騒動について一つ考察を試みる必要があるだろう。即ち「何故このようなすれ違いが起きたか」である。
 本放送の時点からよく言われているのは、「何故メールやSNSで連絡を取らなかったのか」「何故GPSを活用しなかったのか」という疑問である。昭和の頃のようにリアルタイムで連絡を取る手段が固定電話や公衆電話しかなかった時代に比して、現代は電話以外にも即応性のある連絡手段は複数存在し、対象の位置情報さえも道具があればすぐに知ることが出来る時代である。だが今話の中でそれを活用しているシーンはない。であれば上記のような疑問を視聴者が抱くのは無理もないと言える。
 その意味では前述の「何故起きたか」という疑問は、より正確を期すなら「連絡を取る手段が複数ある中で「すれ違い」というシチュエーションを劇中でうまく描出出来たのか」と言い換えることが出来るだろう。
 まず7話でのプロデューサーは未央とSNSでやり取りをしているところから、他のプロジェクトメンバーとも連絡手段として平素はSNSを活用していると思われる。無論メールも今のご時世使っていないと考える方が無理がある。GPS等位置情報取得の手段については本作中でそれを行使した描写が今までに存在しないため、考察対象としては若干優先度を下げておく。
 これらを前提とした上で今話のすれ違いに考えてみると、全体としてそういった手段を「使えなかった」のではなく、自ら「使わなかった」、もっと言うなら「使わなくてもいい」と思い込んでしまうような状況に、それぞれが段階的に陥っていった事実が見えてくる。
 まず最初に凸レーションの3人とプロデューサーがはぐれてしまった時、すぐにプロデューサーと連絡を取れなかったのは、プロデューサーが警官に自分の携帯を確保されてしまっており出ることが出来なかったという明確な理由がある。さすがにこれでは電話はおろかメールやSNSも役に立つものではない。
 続けて電話した事務所の方も、ちょうど警察やちひろさんとのやり取りで電話を使っていたため繋がらない。美嘉には莉嘉が連絡を取ったとは言え、この段階で3人以外の当事者とまったく連絡が取れない自体が成立する。さらに「すぐ近くではぐれた」という認識ときらりのみりあや莉嘉への気遣いもあり、3人はとにかくも動いてプロデューサーを探すことにしたため、ツールを使っての連絡や確認を二の次としてしまったのだ。
 さらにもう一つ重要な点は、それぞれの探す相手の居場所が中途半端に伝わってしまったということである。劇中で明確に各人のいる場所として名前が挙がったのは「警察」と「駅」であるが、あくまで場所を提示しただけで後は各々それなりの根拠あってのものではあるものの、結果的に見ると「勝手に」動き回ってしまったため、すれ違いは続くこととなってしまった。
 電話という限りなくリアルタイムで情報伝達が行えるツールを使っているからこそ、却って伝達するべき情報が漏れてしまうという、便利なツール故の落とし穴に完全にはまってしまったと言えるのである。
 最終的に凸レーションの3人、プロデューサー、そして美嘉も「動いて探しまわる」ことを行動上の第一義としてしまったこと、そして情報伝達の不備、この2つがそれぞれのすれ違いを拡散させてしまった原因であろう。
 このように考えてみると一連のシークエンスは、実はかなり計算というか練られた上で用意されたシチュエーションであるとわかるのだが、それでも難点はなくはない。
 考察する上で対象としての優先度を下げたGPSの件もそうだが、何より大きいのはこの各人の思考と行動の流れが一度見ただけでは分かりにくいことだ。
 元より本作には一度見ただけでは把握しきれないような細かい描写やネタが数多く用意されてはいるが、今回のように結構な人数のキャラクターが、短い時間の中で入り乱れつつすれ違うというシチュエーションを一気に見せるのは、結構強引な手段と言わざるを得ない。人があまりおらず且つ広い場所で起きたのならともかく、今回はかなり狭い範囲を舞台としているだけに、余計に次々とキャラ視点を変更して見せなければならず、それもまた分かりにくさを増幅させてしまっている。
 二度、三度と見返せばきちんと理解できるものではあるから、この状況の描き方をおかしい、間違っているなどというつもりは毛頭ない。完全ともまた言えないが、情報伝達の手段が発達した現代において描写しにくいであろうシチュエーションを、露骨なギャグ展開等に頼らず描ききったという事実は認めてしかるべきところであろう。

 その頃凸レーションが向かう予定である次の会場にはちひろさん、そして凛に美波、蘭子が姿を見せていた。凸レーションの3人の捜索をプロデューサーに任せたちひろさんは、万一彼女らが時間に間に合わなかった場合、凛たちにステージを繋いでもらうことを伝える。先程事務所への美波との電話の中でプロデューサーが話そうとしていたのは、この依頼だったのだ。

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 ちひろさんの依頼を了承する凛たちではあったものの、その場合は用意されている派手な衣装を自分たちも着用すると聞かされ、蘭子が嬉しそうにする一方で凛と美波は露骨に渋い表情を作る。どう見ても普段の凛や美波が着ないであろうポップな衣装だけに、ためらいを覚えるのは当然か。卯月と同様に留守番していれば良かったと独りごちるのも無理からぬ話だろう。
 ゴスロリ以外の服を着るのを喜んでいる蘭子が少し意外に思えるが、単純に可愛らしさに惹かれたのか、ある意味ゴスロリに相通じる非現実的な衣装に惹かれたのか、この場合はどちらだったのであろうか。
 みりあが追いかけていた男性はやはりプロデューサーはなく人違いだった。Aパートに続いて後先構わず走り出したために余計混乱する結果となってしまったわけだが、Bパート冒頭で自責の言葉を漏らしたあたりからずっと彼女なりに責任を感じていた故の行動と考えると、とても批判できるものではない。落ち込むみりあをきらりが優しく慰めるのは最良の対応だったと言える。
 次のイベント開始時間が迫っていることに気づいたきらりは、とりあえず自分たちだけでも会場へ向かおうと提案する。まだ合流できていないプロデューサーを案じる2人を、イベントはきちんと行わないとダメといつものようにきらりが優しく諭すが、2人の表情は晴れないままだ。
 その頃美波との会話から交番に戻ってきていたプロデューサーは、ちょうど同じ交番を訪れていた美嘉を目に留める。
 同じくプロデューサーに気づいた美嘉はつかつかと歩み寄り、強い口調でプロデューサーを非難する。美嘉にしてみれば突然莉嘉との通話が途切れ、以降連絡もつかなくなってしまったのであろうから、焦りと苛立ちとで膨れ上がった激情をプロデューサーにぶつけてしまうのは無理もない。

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 そんな美嘉をプロデューサーは努めて冷静に制し、美嘉を落ち着かせようとする。「目を見て話して下さい」と美嘉を諭すプロデューサーの姿勢は至極真っ当なものであるが、同時にアイドルたちとまっすぐ向き合うようになった、7話を経ての彼の成長も窺える。
 凸レーションの3人はきらりの言うとおりに次の会場へ向かっていたが、莉嘉やみりあの足取りはやはり重い。プロデューサーだけでなく美嘉とも合流できず、美嘉との連絡も中途半端に終わったままなのだから、2人が気まずい思いを抱くのは当然と言えるが、そんな2人をきらりはいつものように明るく元気づける。
 きらりに励まされて2人も一緒に会場へと走って向かおうとするが、その時不意に顔を歪める莉嘉。長時間の歩行には不向きな靴で歩き回っていたためか、莉嘉の足が靴ずれを起こしてしまっていた。
 実は交番に行ったあたりから莉嘉は足の痛みを気にしていたのだが、ずっと我慢していたのである。「おしゃれは我慢」とごまかすように笑顔を作る莉嘉だったが、そんな莉嘉の状態の変化に気付かず我慢をさせ続けてしまったことに、強くショックを受けるきらり。
 プロデューサーを探すために歩き回らなければ、そもそもクレープを食べようと自分が言い出さなければプロデューサーとはぐれることはなかったし、莉嘉やみりあに大変な思いをさせることもなかったとしゃがみこんで2人に謝るきらりの姿は、いつもの彼女からは想像もできないくらい弱々しいものだった。

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 きらりは普段の言動や立ち居振る舞いから誤解されがちだが、単に明るく騒ぐだけの能天気な性格では決してない。もちろんそのような明るさが嘘偽りない彼女の本質であるのは事実だが、常に周囲に気を配り、時には他者のネガティブな感情さえも敏感に受け止め、その上でなお明るく振る舞い周りの人を元気にさせようと、半ば意識的に行っている面があると言うのも、今話Bパート冒頭で落ち込むみりあを見つめる彼女の悲しそうな表情を例に挙げるまでもなく、これまでの挿話を見てきた人であれば容易に理解できることと思う。
 彼女はなぜそうするのか、それはひとえに「みんなではぴはぴしたい」からに他ならない。みんなと一緒に喜びや楽しさを感じ共有しあうことを何よりも望んでいるからこそ、きらりはいつも明るく振る舞っているのである。ただ騒ぐのではなく、周囲の人たちの様子を気にかけながら。ここはただ無頓着に騒ぐ凡百のキャラクターとは一線を画すきらりの特徴でもある。
 そしてそれ故に、6話のNoMakeで既にその片鱗は見せていたが、彼女は自分が原因となって誰かが迷惑を被ったり悲しんだりすることを強く恐れている。自分が迷惑をかけた張本人となれば、周りの人たちが「はぴはぴ」出来ない原因は即ち自分自身となってしまう。それはみんなで幸せを感じあうことを最良としているきらりにとって、何よりも辛いことだったのだ。
 常に他者を気遣う優しい性格の持ち主だからこそ、その「気遣う」という行為が通用しない事態になった時、彼女は身動きが取れなくなってしまう。優しさの裏返しとも言える繊細さをも内在している、それがきらりという少女なのである。
 莉嘉もみりあも恐らくは初めて見たであろう、きらりの弱々しい姿。だがそんな様子に取りみだすことなく、みりあはきらりの頭をそっとなでる。ちょうど落ち込む子供を大人が慰めるかのように。
 みりあに合わせて莉嘉も大丈夫と笑顔で返し、走って会場まで行こうときらりに明るく声をかけるが、莉嘉が無理をしていると思ったのだろうか、きらりの表情はまだ晴れない。
 その時みりあが何事かを思いついたらしく、莉嘉にその内容を耳打ちする。最初こそ露骨に困ったような顔をする莉嘉だったが、みりあに懇願されてしぶしぶ承諾し、きらりにある頼みごとをする。
 それは足を痛めている自分を抱っこしてほしい、というものだった。ダッシュで会場に行くことはできないけれど、今ここから「ステージ」を始めれば遅刻じゃないと、2人は上着を脱いでステージ衣装姿となり、3人で一緒にアピールしようと、しゃがみこんだままのきらりに手を差し伸べる。
 最年少のみりあらしい良くも悪くも大胆な思いつきであるが、ここで大事なのは提案したその内容ではなく、みりあや莉嘉の側からきらりに「提案した」という行為そのものにある。
 「みんなで一緒にはぴはぴする」ために時としてきらりが行ってきた周囲への気遣いを、そのまま同じ理由の下に莉嘉とみりあがきらりに向ける。言葉で表すと実に簡単なものだが、実際に行動に移すとなるとそう簡単にいくものではない。みりあは12歳で莉嘉は13歳。同じ十代とは言え17歳のきらりとは、特に精神面においては文字通り子供と大人ほどの違いがあるのだから。
 他者のネガティブな感情を受け止めてなお自分の持つ生来の明るさを発揮し、周囲をそれに巻き込んで空気を変えていくなど、12、3歳の子供には容易にできることではない。本来的には子供は幼さ故にむしろ気を遣われる側なのだから出来なくとも当然の話ではあるし、実際にみりあがきらりを気遣って提案したアイデアは稚拙と言われても仕方のない面を内包している。
 しかしみりあは彼女なりに考えた上できらりを思いやり、莉嘉もそれに同調した。ただきらりを励ましただけではない、きらりと同じように「みんなではぴはぴする」ためのやり方・手段を、各々のきらりに向けた気遣いからの発露という形で提示した。
 即ちきらりが常日頃求めてきたものと同じものをみりあと莉嘉が望んだ上で、普段のきらりと同様の気遣いを周囲(この場合はきらり)に見せた。ここが一番重要なのである。
 当たり前だがユニットのメンバー間で価値観を共有するのは一番大切なことであると同時に、ユニットとしてのある種理想の形と言える。個人の価値観を他者に強要するのではなく、全員が同一の価値観を是としてそれを実現するために行動する。それが「互いを支えあう」行為に繋がり、凸レーションの3人は年齢の差を越えてこれを実践してみせたのだ。
 アイドルマスターという作品に慣れ親しみすぎると忘れがちになってしまうが、アニメ版アイドルマスターにおける765プロは全員出会って既に一定の期間(世界観のベースになっているアイマス2の設定からいくと半年ほど)が経過しており、それ故に互いを支えあうという良質な人間関係は本編開始の時点である程度完成していた。
 しかしシンデレラプロジェクトの面々は出会ってまだ日も浅く、さらに凸レーションの場合はまだユニットを組んだばかり。みんなの仲が良いというのは765プロと変わりないが、アイドルという仕事をこなす上での関係性においてはまだ未成熟だった。その未熟な関係性が一定の完成形を成すまでの通過儀礼としての役割を、この3人の一連のやり取りが担っていたのである。
 ただ仲良く一緒にいるだけではない、共に支えあいながら前に向かって歩んでいける関係性へと、3人は言わば「ランクアップ」を果たしたわけだ。差し出された2人の手を、いつもの笑顔に戻ったきらりが掴む画は、その象徴と言えるだろう。

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 プロデューサーと邂逅を果たしていた美嘉は、彼の説得に平静さを取り戻して今現在の状況を伝えていた。美嘉には定刻に合わせて次のイベント会場へ向かってもらい、自分は3人の行きそうな場所をもう一度探すと伝えるプロデューサー。
 イベントの開始時間が迫っていることがわかれば、3人は仕事を優先して会場に向かってくれるはずだと言う彼の言葉からは、3人に対する彼の信頼の強さが窺えるが、それ以上にこの場面では妹を心配するあまり私人の立場に戻ってしまっていた美嘉を配置することで、あくまで公人としての立場を貫いているプロデューサーの性格を浮き彫りにしているという面がある。
 そんな時、周囲の人々の喧騒が2人の耳に飛び込んでくる。人々の注目を集める何かが行われているらしいという周りの話に、2人も向かってみることに。
 辿り着いたその先にいたのは、自分たちの歌を歌いながら会場への道を練り歩くみりあにきらり、そしてきらりに肩車された莉嘉の姿だった。3人はみりあが「ここからステージ始める」と言ったとおり、道行く中でパフォーマンスを披露して周りの人たちを惹きつけていたのである。その様子に驚きながらも感嘆するプロデューサー。

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 このパフォーマンス、次のイベントに向けた「興味のないお客を巻き込む」という命題に一つの回答を示したのみならず、図らずも5話で莉嘉がデビューしたらやりたいこととして挙げていた「ゲリラライブ」が実現した形となっているのが面白い(ライブとは呼べないほどの小規模なものではあるが)。
 見ようによってはきらりの「みんなではぴはぴしたい」という願いと、4話のPR動画撮影時に述べられたみりあの「いろんなことをやりたい」という望みも実現していると考えられるわけで、3人の夢や目標が1つに重なり合ったこのシチュエーションは、凸レーションというユニットとして3人が一つの完成形に到達した証左とも言える。
 そんな3人に多くの人が惹きつけられたのも、3人がプロデューサーや美嘉をようやく見つけられたのも、成長を遂げた3人に向けられた物語世界からのご褒美であったのかもしれない。
 会場に向かった3人を待っていたのは、万一3人が間に合わなかった場合に備えてPikaPikaPopの衣装を着用していた凛、美波、蘭子の面々だった。喜んでいた蘭子はともかくかなり戸惑っていた凛や美波からすれば、3人が本番開始前に間に合って安堵するのも止むなしと言うところだろう。

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 準備が進む中、美嘉は先程の非礼を、プロデューサーは自分が至らなかったことについて互いに謝罪する。プロデューサーの言葉に美嘉が少し微笑んだところへ、後でプロデューサーにいっぱい謝るからと伝えに来るきらりたち。結果的に問題は解決したとは言えお互いに落ち度があった、それを素直に認めて謝罪出来るのもユニットメンバー同士、引いてはアイドルとプロデューサーの結束の強さがあるからこそに相違ない。
 プロデューサーと美嘉の後押しを受け、3人は再びステージに上がる。前の会場の時よりも格段に増えた観客の歓声を沸き起こらせたのは、一つの困難を経てより繋がりを深めあった3人のアイドルが見せる満面の笑顔だった。

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 3人のステージを満足げに見つめるプロデューサーに、アンタも笑ってみたらと勧める美嘉。こちらの関係も今回の事件を通じて多少深まったのかと思わせるような美嘉の振りであるが、言われるままに「ニコッ」と笑ってみせた彼の笑顔は、蘭子に「禍々しい」と言われるほどのぎこちないものになってしまったため、傍らの凛やちひろさんも苦笑せざるを得なかった(尤もこれはいつもの蘭子の言葉遣いなので、実際の意味がどのようなものなのかは不明であるが)。

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 エピローグを兼ねるエンディング映像のバックにかかるのは、凸レーションのデビュー曲「Let's Go Happy!!」。メンバー3人のパーソナリティを前面に押し出した、ハイテンションな仕上がりのナンバーだ。個性的な3人がまとまって未来に向かって進んでいくという旨の歌詞が今話の内容とシンクロしているのは、無論偶然ではあるまい。
 イベントの盛況ぶりから凸レーション3人とプロデューサーの謝罪、そして最終的にその場にいた全員がニコッと笑顔で締めるという明るく心地良いクロージングにふさわしい楽曲と言えるだろう。

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 これまで登場したシンデレラプロジェクトのアイドルユニットは、ソロの蘭子を除いては皆それぞれ互いが互いを支えあうという、ユニットとしては理想的な人間関係を比較的早期に築いてきた(キャンディアイランドの場合は杏というイレギュラー要素があるにはあるが)。
 ではなぜ今話でユニットメンバー間の信頼が強くなる過程を改めて描いたのかと言えば、それは一重に今回登場したユニットが凸レーションだからに他ならない。もっと言えば先述したとおり、メンバー間の年齢差に開きがあるユニットだったからだ。
 最年少組2人と最年長に近い年齢のメンバー1人がトリオを組めば、見る側としては当然年長の方がリーダーシップを取り、問題が発生しても常に率先して他メンバーを引っ張っていくものと考えるだろうことは想像に難くない。人によってはさらに弱気な面など全く見せない剛毅なリーダー像を重ねる場合もあるかもしれないが、スタッフ側の意図として凸レーション3人の関係性を、それこそ冒頭に記した「子供のみりあや莉嘉の面倒を精神年齢高めのきらりが見る」という一方向的なものにまとめるつもりは全くなかった、と言うのは今話を視聴した人ならば容易に理解できるだろう。
 その意図を視聴者側に伝えるために、三者の関係性が等質なものであると、等質なものになっていく過程を含めて物語の中で明確に描く必要があったのだ。まだまだ幼い莉嘉とみりあの2人がきらりと価値観を共有し、落ち込むきらりをいつも彼女がしてくれているように気遣い共に進んでいこうとするようになる。そこを凸レーションというユニットのとりあえずの到達点と定めきちんと描くことで、3人が年齢の関係なく支えあう関係になれたという結果を強調しているのである。
 アイドルとしての素養はともかく、年齢という絶対的なハンデが存在していた凸レーションは、今回の物語を経験することで他のユニットと比較しても遜色のないアイドルユニットになれたと言える。それは紛れもなく彼女たちにとって新たな始まりの第一歩であった。
 と言うような固いテーマが主軸ではあるが、その画はプロジェクトメンバー内でも一際元気で派手な3人がメインなだけに、終始にぎやかで楽しいものに仕上がっていた。街中が舞台となっていることも、そんな雰囲気に拍車をかけている。
 メインの3人や美嘉については言うまでもないが、他のアイドルたちも随所で個性を見せており、特にラスト近くで凛と美波が早々にPikaPikaPopの衣装を脱いでいたにもかかわらず、気に行ったのか1人だけずっと着続けていた蘭子の可愛らしさは特筆に値するだろう。

 そしてシンデレラプロジェクトのメンバーも、未デビュー組はあと2人を残すのみとなった。良くも悪くも我が道を行くタイプである2人の少女たちのデビューはどのような顛末を迎えるのか、そもそもきちんとデビューできるのであろうか。

2015年06月15日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第9話「"Sweet" is a magical word to make you happy!」感想

 今更言うまでもなく、シンデレラプロジェクトは14人のアイドルと1人のプロデューサーが所属している、結構な大所帯である(アシスタントという立場でちひろさんも間接的に関与しているが)。
 7話までで描かれた1つの大きな流れの物語が完結した現在、全員がまずしなければならないのはお互いをよく知ることであるというのは前話の感想で既に記した通りである。
 このうち7話で示されたプロデューサーとアイドルという関係の方向性をさらに突き詰めたのが8話の流れであった。アイドルを知るためにプロデューサーはどう行動するか、その行動を前にアイドルはどのような想いを抱き対応するか、それらをプロデューサーと蘭子という一つの具体的な例を通して明示したのが前話のストーリー上の主軸であったと言えるだろう。
 であれば本作が次に描かなければならないのは、必然的に「アイドル同士の関係性」となる。プロデューサーとは異なり基本的には自分と同じ立ち位置、極めて近しい存在である同僚アイドルとの関係性は、プロデューサーとのそれとは当然異なるものになるわけだが、さらに今話ではその関係性が紡がれる過程のドラマを色濃く浮かび上がらせるために、一つのギミックが施された。
 それは「複数メンバーで構成されたアイドルユニット」である。前話で誕生したローゼンブルクエンゲルはソロユニットであったし、ラブライカの美波とアナスタシアやニュージェネレーションズの卯月、凛、未央は元から同じ面子で行動を共にすることが多く、ユニット結成は普段の交友関係の延長線上に位置するものでもあったが、今回新たに結成された「CANDY ISLAND(キャンディ・アイランド)」の構成メンバーは前3ユニットとは決定的に異なっている。
 所属メンバーのうち、かな子と智絵里は2話以降たびたび一緒にいるシーンが描かれていたのでさほど違和感はないが、3人目のメンバーである杏とはまったくと言っていいほど絡むシーンがなく、ユニット結成によって初めて行動を共にすることとなった間柄だ。
 もちろん決してこれまでの3人の仲に問題があったという話ではないが、3人で行動することは皆無であったこの面々が、外的な要因とは言え共に行動するようになることで、どのような関係性が築かれていくのか、そこを描くのが本作の肝となる。

 さてこのキャンディアイランド、作品世界の時間軸上では今話の開始よりも以前にデビューとCDリリースを行っていたようで、冒頭で描かれるのはそのデビューCD「Happy×2 Days」のリリースイベント、いわゆるお渡し会だ。
 結構広めのイベント会場は、かつてのアニマス1話でまだ売れていない頃の天海春香が自らCDを販売していたCDショップの店頭とはえらい違いだが、肝心の手渡しをするかな子や智恵理たちアイドルの様子は、終始笑顔だった春香と違って少々ぎこちない。
 こちらはデビューしたばかりだからやむを得ない部分はもちろんあるが、そんな中にただ1人、にこやかな笑顔を作って積極的にCDの手渡しとユニットの宣伝に勤しむアイドルがいた。

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 少しでも杏のキャラクター性を知っていれば「誰だお前!?」と突っ込みたくなること必至であろう。原作ゲームから慣れ親しんできた層であれば、彼女が「そういう一面」を持っていることも理解できるはずであるが、それでも普段の杏からはあまりにかけ離れたこの姿や笑顔の放つインパクトは、ほとんどの視聴者に強烈過ぎる印象を残したであろうことは想像に難くない。
 前述のとおり原作ゲームでの杏を詳しく知っていれば、今回のこの振る舞いも決して不思議なものではないのだが、予備知識があってもなお見る者が驚かせられるのは、やはりアニメという映像媒体でその描写が具体的な画として明示されたからに他ならないだろう。この辺はアニメならではの利点というところか。

 イベントから数日経った後のプロジェクトルームでは、キャンディアイランドのテレビ番組への初出演決定の報を聞きつけた未央やみくたちが、嬉しそうにかな子や智絵里に話しかけていた。
 3人が出演する番組は「頭脳でドン!Blain's Castle!!」というクイズ番組。二組のアイドルチームが「アピールタイム」を賭けて成績を競う形式で、346プロアイドルの先輩である川島瑞樹、そして十時愛梨が司会を務めている番組でもある。
 ちょうど明日収録と言うことでクイズの予習をしていたかな子や智絵里を未央にみく、そして李衣菜は素直に羨ましがるが、2人の方は初のテレビ番組収録に対して不安の色を隠せない。殊に智絵里は生来の弱気な面が災いしてか、大勢の観客に見られながらの収録という状況にかなり緊張している様子だ。
 そんな2人に同調するのは3人目のメンバーである杏だが、前話で持ち込んだウサギ型の大きなクッションに座り込みながら不安と呟くその様は、どうにもかな子や智絵里と同様の意味での「不安」を抱えているようには見えない。それもそのはずで後に続いた言葉を聞けばわかるとおり、杏の不安とはCD発売の件で自分としては珍しく働いたので今後しばらくは働かなくていいと考えていたのに、その上テレビ番組の収録まですると働きすぎなのでもう限界、という意味でのものだった。
 このセリフを聞いて原作を遊んでいる人であればニヤリとしただろうし、アニメから入った人であれば冒頭の杏の笑顔に得心が行ったことだろう。つまり冒頭のお渡し回で見せた笑顔は決して勤労意欲に目覚めたからではなく、とりあえず働いて一定の成果を出しておき、その成果を元にしてまた働かないで済む生活を過ごそうという算段からのものだったのである。
 「明日の楽のために今日少しだけ苦労する」という考え方は杏の生き方の根本の一つと言ってもいいもので、特に4話でも少し触れていたがCDの販売は印税が発生する仕事だから、「印税生活」「不労所得」を目標にしている杏にとっては多少無理してでもやり遂げるべき仕事だったわけだ。
 アイドルとしては甚だ不純な動機ではあるが、未来の安定した収入と自由な生活を得るために今存在する仕事をきちんとこなすという姿勢は真面目そのものとも言えるので一概に否定もできない、何とも不思議な話ではある。
 そんな杏にしてみればCD販売関連の仕事をこなした時点で自分のノルマは達成したようなものなので、テレビ番組出演を面倒がるのは当然と言えなくもないのだが、一般的な考え方からはかけ離れているのも事実。やる気のない態度を見せる杏に未央からのするどいツッコミが飛んだ。
 ハッとする3人に未央は「バラエティの基本はボケとツッコミとリアクション」と持論を展開、これらを習得すれば問題ないと力説する。2話でも見られた未央のミーハーチックな一面が再び描かれているが、かな子や智絵里にとって自信たっぷりのその発言はかなり頼りがいのあるものと受け止められたようだ。2人以上にみくが力強く同意しているのは、お笑いに関してはうるさいとされる大阪の出身故だろうか。
 早速ツッコミの練習を始める2人。ツッコミの定型文句とも言うべき「なんでやねん」をひたすら繰り返すその光景は、どこからかハリセンまで持ち出して指導する未央や、いつの間にか指導に参加しているみくの大真面目な態度も合わさってかなりのシュールさを醸し出している。

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 2人に反して杏は特訓には参加せず、みくたちからモノボケするよう指示を受けてもただ寝返ってツチノコの物真似をするだけという、いつものようにやる気のない態度を見せていた。
 そんな杏のボケを待ってましたとばかりにすかさずツッコミを入れるみくはさすが大阪出身と言うべきところだが、自分のボケを未央に「ぬるい」と評されてむっとした表情を作る杏にも、やる気はなくともある程度の自尊心、意地のようなものを持っていることが窺えて楽しい。

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 ところがツッコミの件はともかく、スタジオ内の観客の存在を思い出してまたも智絵里は弱気になってしまう。控え目で引っ込み思案な性格の智絵里にとっては、大勢の人に見られることそのものがかなりの緊張を強いられる事態なのだ。
 まずはそれを何とかしなければということで、何かしらの妙案?を思いついた様子の未央は、そのまま別室のプロデューサーを訪ねる。智絵里の緊張をほぐすためにプロデューサーの協力を求める未央だったが、カット内に映っているプロデューサーのデスクの上のディスプレイをよく見ると、「緊張のほぐし方」というタイトルのサイトが表示されており、プロデューサーとしてもテレビ出演を控えて緊張している智絵里たちを心配し、緊張を解消するための方法を元々思案していたようだ。
 その智絵里はアイドルをすること自体は楽しいが、大勢の人の前ではどうしても緊張してしまうという自身の悩みを改めて吐露していた。智絵里の悩みに同調するかな子。そんな2人に自分なら絶対楽しむ、お客も楽しませると豪語するのはみくだった。そちらに同意する李衣菜も含め、このシーンでそれぞれの個性を強調しているのは興味深い。
 人前に立つことを楽しもうとするみくたちの姿勢は、これまでの挿話の端々でも見受けられたアイドルを目指す者としての意識の高さが窺え、その意味では緊張している智絵里やかな子の方が少なくとも精神面においてはアイドルとして未熟と言わざるを得ないところであるが、同時にそれは普通の人間が普通に抱くであろう、ごく当たり前の感情でもある。簡単に克服できる者がいれば、そう出来ない者がいるのも当然の話なのだ。
 だからこそ様々な性格のアイドルたちを様々な点でサポート、フォローし背中を押す存在が必要になってくる。それが誰を指しているのかは今更言うまでもないだろう。
 ところがそんな重要な存在であるプロデューサーの呼びかけを聞いて皆が視線を向けたその先にいたのは、彼の着こんだ大きなカエルの着ぐるみだった。お世辞にもかわいいとは言えない着ぐるみの見た目と大きさに驚いて一同が悲鳴を上げる一方で、彼と一緒に現れた未央はあまりの似合わなさに大笑いする。

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 未央が言うには「緊張したらお客の顔をカボチャと思えばいい」というよく言われる話を実践してみたとの話だが、実際にプロデューサーが着てきたのはカボチャとはまったく違うカエルだったのだから、ここは李衣菜でなくても突っ込まざるを得ないだろう。
 カエルの着ぐるみしか残っていなかったためにこうなったらしいが、それでも少しでも智絵里たちの役に立てればと敢えて着こんでくれたプロデューサーの気遣いに、智絵里もかな子も笑顔を作る。
 その真剣な態度とカエルの着ぐるみという見た目のアンマッチぶりから来る可笑しさも少しは影響しているのだろうが、何はともあれ明るさを取り戻した2人は勝負に勝ってアピールタイムをゲットするべく、かな子が音頭を取って掛け声を上げる。唯一反応しなかった杏もみんなの視線を受け、いつものだらけた感じの調子ではあるものの後から声を上げるのは、御愛嬌と言うところだろうか。

 そして翌日、番組収録の日がやってきた。キャンディアイランドの3人も既に楽屋入りしていたが、前日に気合を入れたとは言えやはり本番直前となれば緊張するなと言うのが無理な話で、かな子はクイズの予習を繰り返し、智絵里は昨日のプロデューサーの行動に倣って観客をカエルと思い込もうとしたり、ツッコミの練習を思い返したりするのに余念がない。
 ただ1人、杏だけはいつものように飴をなめながらだらだらと寝転がっていた。いつもと変わらぬ堂々と?した態度はさすがと言うべきなのだろうが、とてもやる気があるようには見えないので素直に褒めるのも難しいところか。ただやる気はないにせよ仕事自体をサボるような真似をしていないのは、何だかんだで受けた仕事は一応きちんとこなすという原作ゲームからの性格設定をしっかり踏襲している。
 と、そこへ1人の少女が入り込んでくる。応援に駆けつけると言っていた未央たちかと思いきや、入ってきたのは先輩アイドルの輿水幸子だった。本編では1話冒頭のライブと2話での卯月たちの「冒険」シーン、ナレーターとしては3話の予告編に登場したのみであったが、今回ようやくの本格的なゲスト参加である。

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 見てすぐわかるとおり何もしていなくとも素直に可愛いと思えるルックスを持つ、いかにもアイドルと言った感じの美少女なのだが、楽屋に入ってきた時のセリフを聞けばわかるとおり自分の可愛らしさに過剰なまでの自信を持っており、それを言動や行動の端々に反映させるため、若干小憎らしく思えてしまうのが玉にきずだ。
 しかしキャンディアイランドの楽屋に入ってきたのが自分の所属するユニット「KBYD」の楽屋と間違えてのものであったり、同じユニットメンバーの小早川紗枝や姫川由紀にそのことを茶化されてバレバレの言い訳をしてしまうなど少々抜けた面があり、それも含めて幸子の魅力となっている。

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 幸子に2話でも登場した紗枝、そして今話で初登場の由紀を加えた3人のユニット「KBYD」が、かな子たちキャンディアイランドの対戦相手になるわけだが、楽屋に現れた先輩アイドルたちを前にかな子や智絵里が驚いたのも束の間、「ケガ」や「ハード」という紗枝や由紀の言葉に違和感を覚える3人。
 実は3人の知らないうちに、今回から番組内容がアクションバラエティへと変更になっていたのだ。「筋肉でドン!Muscle Castle!!」へと変わっている番組タイトルを見て、応援に来ていた卯月、凛、未央の3人も、そしてプロデューサーも一様に困ったような表情を浮かべるしかなかった。

 それぞれの戸惑いをよそに番組収録は始まった。司会を務めるのは冒頭で未央が言ったとおり、川島瑞樹と十時愛梨。瑞樹は1話から3話まで連続で登場、特に3話では名前の字幕付きで紹介されたこともあって、視聴者にとっても「346の先輩アイドル」として記憶しやすかった存在になっていると思われるが、一方の愛梨は1話冒頭のライブシーン以来の登場であり、幸子同様まともに他キャラとコミュニケーションを取るのは今話が初となる。

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 18歳の大学生という美波に近いプロフィールを持つ愛梨だが、その性格はのんびりしていて良くも悪くも天然気質という、しっかり者の美波とは正反対の個性の持ち主だ。その性格と抜群のプロポーションもあって、原作ゲームではサービス開始当初から人気が高く、2012年7月にゲーム内で行われた第1回シンデレラガール選抜総選挙では堂々の1位を獲得、初代「シンデレラガール」の座に輝いたという実績を持つ。
 すぐに暑がって着ている服を脱ぎたがるという困った癖があるが、さすがに今話の中でそこは描写されていないものの、少々深読みするなら着用している瑞樹とお揃いのこの衣装、パンツルックの瑞樹と違ってかなり際どい短さのミニスカートを着て長い脚を露出しているのが暑がり対策と考えられないこともない。
 さらに言えばこの衣装はゲーム中イベント「アイドルLiveロワイヤル」の期間中に取得できる限定Rアイドルが着用していた衣装「ロワイヤルスタイル」とほぼ同じものになっている(初期のイベントのみで現在の同イベントでは「ロワイヤルスタイルNP」という別衣装)。ゲームの方では瑞樹も愛梨もこの衣装を着用した姿が描かれることはなかったため、ゲーム側の設定と本作の設定とをうまく組み合わせた結果の産物と言えるだろう。
 ただこのMCシーンでは愛梨以上に瑞樹の方に注目すべきだろう。10歳年下の愛梨と一緒になって「キュンキュンパワーでハートを刺激しちゃうわよ♪」などと言っている様は、2話や3話でメンバー最年長としての落ち着いた大人の女性らしい魅力を見せていた瑞樹からはおよそ結びつかない姿だが、これが2話の感想で書いた彼女の「かなりお茶目な一面」である。
 瑞樹はもちろんこのままでも十分綺麗なのだが、美容や体力面において必要以上に年齢を意識しているところがあり、そのためさながら十代の女の子のようにはっちゃけてしまう時がある、という側面がある女性なのだ。本作ではそれほどでもないが、原作ゲームの方ではノリノリでビーチバレーに興じたりクリスマスパーティでは率先して騒ぐなど、「大人の女性」の一般的イメージから離れた可愛らしい一面をたびたび披露している。たまにやりすぎて痛々しく見えてしまう時もあるが、そういった部分もまた瑞樹の代替し難い魅力であるということは、デレマスに長く慣れ親しんでいる人間であれば誰しも認めるところであろう。
 そんな2人をMCとして番組は開始する。今回からいきなり番組コンセプトが変わった原因について、「登場アイドルがあまりにクイズに答えられないから」と愛梨がいきなり暴露してしまうが、そんな天然故の危うさを本番中でも発揮してしまう愛梨と、基本的には落ち着いた年上の女性として愛梨をフォローできる瑞樹のコンビは、なかなか良い組み合わせなのかもしれない。
 2人の進行を受けて対戦するチームが入場してくる。番組常連なだけあってこなれた感じのKBYDチームに反して、今回初出場のキャンディアイランド側は自己紹介する言葉のタイミングもうまく合わせられず、少々不安な出だしになってしまった。
 ちなみにここではKBYDの意味が、「カワイイ」「ボクと」「野球」「どすえ」というメンバー3人の個性を象徴する言葉の頭文字を組み合わせたものだったということが判明する。今話分のマジックアワーによれば最初は3人がそれぞれチーム名の案を出したものの、それぞれあまりよろしい案ではなかったため、折衷した結果としてこの名前になったとの由。
 「カワイイ」「ボクと」はもちろん幸子のこと(彼女の一人称は「ボク」)で、「どすえ」は京都出身で京都弁を使う紗枝を象徴している。そして「野球」というのは最後の1人である由紀の最大の趣味、と言うか特徴を表していた。
 彼女は趣味のプロフィールが野球観戦となっているとおり、自他共に認める大の野球好きなのだ。特に原作ゲーム中に登場する強豪プロ野球チーム「キャッツ」がお気に入りで、ビール片手に応援するスタイルはファンの間で完全に定着しているほど。その一方、今書いたとおり飲酒できる年齢(20歳)にもかかわらず、キャッツのマスコットキャラクター「ねこっぴー」の着ぐるみを本物と信じている態度を見せたり、何でもかんでも野球に結びつけて考えた結果ひどいことになってしまう(料理など)場合があったりと、かなりフリーダムな性格でもある。
 キャンディアイランドの3人が杏を除けばかなり控えめな性格であるのに対し、メンバー全員尖った個性の持ち主であるKBYDチームは、対比という意味でもお互いに良い対戦相手なのかもしれない。
 早速MCの流れから始まるマイクパフォーマンス対決。KBYD側はその流れを引き継いで幸子がキャンディアイランドを挑発する。しっかり自分の可愛さをアピールするのはさすがであるが、一方のキャンディアイランド側はよくわからないままスタッフからマイクを渡された智絵里がすっかり動転してしまい、とっさに幸子に謝ってしまう。
 そのリアクションは存外受けたようで、キャンディアイランドがどうにか10ポイント先取することが出来た。次のコーナーの準備のために一旦撮影は中断し、客席の卯月たち3人もとりあえず一息入れる。しかし先にポイントが取れたし幸先いいのではという卯月に反し、未央は厳しい見方を崩さない。確かに今の採点はMCの采配に拠るところが大きく、智絵里自身はテンパって何もできていなかったことを考えると、未央の心配も決して的外れではないだろう。
 それは当の智絵里もよくわかっているようで、舞台裏で休憩している間にも、大勢の観客を前に頭が真っ白になってしまったと2人に謝る。そんな智絵里をフォローしたのは杏だった。

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 昨日のカエルの件を持ち出して、観客をカエルと思うようにとアドバイスするのは実に的確なフォローである。が、よくよく思い返してみると智絵里は収録開始前の楽屋でのシーンで既にカエルのことを口にしていたので、一見するとまるでここで初めてカエルの件を話題に出したようにも受け取れるが、これは智絵里の「頭が真っ白になった」という言葉から考えて、収録開始してスタジオに登場した時点で、直前まで頭の中にあったカエルの件もすっかり忘れた、緊張の余りどこかに飛んで行ってしまったとするのが一番妥当な見方だろう。
 それは杏のアドバイスにかな子もまたカエルのことを改めて思い出したかのような同意のセリフを発しているあたりからも窺える。かな子も智絵里ほどではないにせよ、カエルのことをパッとは思い出せないほどに緊張し、精神的な余裕がなくなっていたというわけだ。なかなかリアリティある人間臭い描写とも言える。
 そう考えるとこのカエルというアドバイスを行う役回りをこなせたのは、良くも悪くも緊張とは無縁の存在である杏しかいなかった。だらだらしている杏のいつも通りの態度も、今回ばかりは2人の緊張をある程度緩和させる良い方向に働いたと言えるだろう。智絵里も改めて収録に臨む意思を強める。

 再開した収録で次に行うのは風船早割り対決。その名の通り大きな風船に3人一斉に空気を入れて、先に割った方が勝ちという一昔前の対決ものバラエティでチラホラ見られた趣向のものだ。
 最年長の由紀が一番楽しそうにしている一方で、杏は単純な体力勝負のためかあからさまにやる気を出さない。そのためかは不明だがKBYDの方が空気を入れるのが早く、キャンディアイランドの面々の頭上に仕掛けられた風船は勢いよく破裂してしまう。
 杏が空気入れを止めて一早く身構えたり、かな子が破裂の勢いで倒れ込んでしまったりとおいしいところは持っていったものの、負けは負けなので罰ゲームとしてかなり苦い味の健康茶を飲む羽目になってしまった。
 この辺はアニマスの15話と同様に劇中劇たるバラエティ番組の進行を、気を衒うことなく大真面目に追っており、それを通して劇中の世界観そのものの拡大化を行っているだけでなく、見方によってはいわゆるライブ回などと同様、アイドルたちが取り組む様々なシチュエーションのドキュメンタリー風映像と解釈することもできる。
 今話のストーリー自体がここで極端に変化するわけではないが、キャンディアイランドの面々のみならず、名称を適度に省略して呼ぶ瑞樹の司会慣れした様子や、その際「カワイイボク」が省略されたことに慌てる幸子など、各登場人物の細かい描写が随所に盛り込まれており、それがキャラクターが単なる類型的な記号から独自の個性を持つ存在へと脱却するのに一役買っている。
 それは次のマシュマロキャッチ対決も同様で、キャッチする側に野球好きの由紀とマシュマロ好きのかな子がそれぞれ立候補したり、手を抜く気満々の杏がマシュマロを撃つ方として半ば強引に智絵里を推挙するなど、イベントを通しての各人の個性が遺憾なく描写されていた。
 またそれを抜きにしても、挿入歌「アタシポンコツアンドロイド」に乗って描かれるそれぞれのアトラクションシーンは非常に可愛らしいものになっており、かな子と智絵里はもちろんのこと、今回が初めての本格登場となった幸子と由紀の活躍にもたっぷり時間を割いており、自然と彼女たちについても見る者の興味がいくような構成になっているのは、注目しておくべきだろう。口で直接マシュマロを食べるルールなのに由紀が迷うことなく両手で「キャッチ」するシーンなどは、原作ゲームで色々描かれてきた由紀の野球バカという面を知っている人ならば納得の行動だったのではないだろうか。

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 結局マシュマロ対決は一対一の引き分けで終わり、続いて私服ファッションショーに進む。おしゃれを「女の子が常に磨き、鍛え上げなければならない筋肉」と形容するのは叶い強引と言わざるを得ないが、アイドルがメインの番組である以上、アイドルらしい部分を見せるコーナーも必要ということなのだろう。
 一番手として登場した杏が着てきた服は、当然いつもの「働いたら負け」Tシャツ姿。あまりにもいつも通り過ぎるその出で立ちに見ていた卯月たちも大いに驚くが、当の杏が涼しい顔をしているのは、このコーナーに関しては自分のやる「仕事」がただ歩いて簡単なポーズを決めるだけのものだったからかもしれない。その意外性もあってか、観衆にも瑞樹にも受けは良かったようだ。

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 対する紗枝の服装は、いつも和装の紗枝には珍しいセーラー服姿だった。原作ゲームにおける限定ガチャ「新・制服コレクション2013」での限定SRで披露したのと同じ制服だが、これは狙ってのものではなく下校して直接仕事に来たからのようで、紗枝本人にとってこの姿を見せるのは結構恥ずかしい様子。

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 ところがそんな恥じらいを見せる姿が観客の主に男性陣、そして瑞樹の琴線をいたく刺激したようで、今回の対決もKBYDチームの勝利に終わる。負けた杏がそれほど悔しそうにしていないのは、この時点では勝敗そのものにさほど拘っていなかったからだろうか。尤も未央が「爪あとは残せた」と表現したとおり、強烈な印象を観客や視聴者に残したのは間違いないであろうから、デビューしたてのアイドルとしては、これはこれで良いのかもしれない。
 先ほどと同じ罰ゲームが行われた時点で得点差はちょうど100点。いよいよ最後の対決と相成るわけだが、その前に合計得点で負けた場合の「豪華な」罰ゲームが渓谷の吊り橋上からのバンジージャンプだと説明され、アイドルたちも一様に顔を強張らせる。
 次の対決への準備のためにまた収録は小休止に入るが、舞台裏に引き上げてきたかな子たち3人の表情は暗いままだ。何だかんだで仕事をこなしてきた杏もさすがに弱音を吐くが、勝つにしろ負けるにしろこれもアイドルとしての仕事の1つなのだから、プロデューサーとしては彼女らの弱気をそのまま受け入れるわけにもいかない。
 しかしプロデューサーが言葉を言い終えるより前に、緊張と疲れからか智絵里がその場にへたり込んでしまった。慌ててプロデューサーも駆け寄り、楽屋に戻って智絵里を休ませることに。
 横になった智絵里は何とか落ち着き、次の収録について尋ねたプロデューサーにも了承の返事を返すが、プロデューサーは改めてもう一度、「笑顔で出来ますか?」と智絵里に問いかける。
 今更言うまでもなく「笑顔」とはプロデューサーがアイドルにとって一番必要なものと考える、アイドルをアイドルたらしめる最も重要なファクターである。それを今この場で問いただしたのは、智絵里が次に控えている収録を「アイドル」としてやり抜こうとする意思があるか、その覚悟を確認するためという点に疑いの余地はない。
 そしてその覚悟は次回以降の仕事についても影響を及ぼすほど大きなものでもある。智絵里は時と場合に応じて上手に立ち回れるような器用な性格ではない。智絵里がもしここで拒絶してしまったら、アイドルをやりたいという自分の意思を自分自身で否定することになり、今後どのような仕事をしたとしても彼女はもうアイドルとして人前に立つことができなくなることすらありうるのだ。
 その意味ではこの問いに対する智絵里の回答は、彼女の今後を決める上での重要な分水嶺になるものと言えるだろう。
 それを感覚的に理解しているのか、智絵里もすぐには返事をせずに口をつぐみ俯く。わずかの沈黙が楽屋を支配する中、口を開いたのはかな子だった。
 バンジージャンプは怖いけど本番は笑顔でがんばると言うかな子の言葉は、智絵里への説得としては殊更に感動を呼ぶような劇的なものではない、ごくありきたりの内容である。しかしこの言葉は度合いの違いはあれど智絵里と同じようにアイドルを楽しみ、同じように緊張し、同じように悩みながら努力してきたかな子が発したものだからこそ、字面以上の重みが込められているのである。
 単に「仲間がいるから強くなれる」と言うのは容易いが、かな子の場合は智絵里に取って苦楽を共にしてきた仲間というだけではない。2人はそれぞれアイドル活動に喜びや楽しみを見出しながらも、それに伴い直面する様々な出来事にその都度不安や緊張も覚えてきた。前述のとおり程度の差はあるものの、智絵里とかな子はキャンディアイランドとして活動するようになって以降も、そしてそれ以前からアイドル活動というものに対して極めて近しい感じ方、感性を持ち、それを自然と共有してきたのである。
 2話で自分たちもいつか出るであろうステージに想いを馳せたり、3話で卯月たち3人の晴れ舞台を心配しつつ応援したり、5話でアイドルとして客に喜んでもらったり幸せな気持ちになってほしいと夢を語らったり…。明示的にではないし、本人たちも自覚してはいないだろうが、アイドルに関する限り2人の考え方や受け止め方は「似た者同士」に近いものとなっていたのだ。
 そんなかな子が自分と同じような緊張や恐怖心を抱きながらも、アイドルとしてきちんと自身の「アイドル」という立場と向き合おうとしている。その事実は智絵里の心に小さな勇気を呼び起こす。
 怖さは消えたわけではないし自信もないが、それでもみんなに勇気をもらえたから、キャンディアイランドとして仲間と一緒にアイドルをやりたいという自分の想いを、たどたどしくもはっきりと伝える智絵里。彼女の決意にかな子も杏もまずは胸をなでおろす。
 だがここにもう一つ、智絵里が思い定めなければならないものがあった。それは自分がそのような決意をしてまで、アイドルとして何をやり遂げたいと思うのか、即ち今回の仕事における「目標」である。自分たちが何故がんばる必要があるのか、何を目指して頑張らないといけないのか、そこが定まっていなければ智絵里の決意も地に足がつかないが如く曖昧になってしまうのだが、内心の緊張や不安定さ故に智絵里のみならずかな子までもそれを見失ってしまっているのである。
 それを2人に再認識、そして新たな目的を認識させる役目を担うのがキャンディアイランドの3人目、つまり杏だ。ちょうど収録が始まって緊張している2人に「カエル」の件を思い出させたように。
 バンジーは怖いと現実的な見方を口にしつつも、逆転勝利すればいいということを彼女らしいレトリックで提案する杏。対決に勝てば罰ゲームをする必要はもちろんないし、当初立てていた目標であるアピールタイムでの曲紹介も行える。杏の言葉でそのことに智絵里もかな子も気づいた(思い出した)のだ。
 杏にとってはいつも通り、自分の直面している事態を円滑に処理する(仕事を早く終わらせる)ために考えた最善の案を提示したのだろうが、決してそれ「だけ」ではないということも、笑顔を作るかな子や智絵里と共に杏自身も少々照れながら笑顔を見せているところから十分に察せられるだろう。特別に仲間への想いが人一倍強いと言うわけではない、困っている仲間を放ってはおけないという人間が本来当たり前に持っているはずの人間らしい小さな優しさが発露した結果としての助言だったのである。
 ここにおいてようやく「罰ゲームを回避し、自分たちの歌を観客に聞いてもらうためにアイドルとしてがんばる」という目標が3人の中で一致した。それ以外の思惑を秘めている者もいるにはいるが、とにかくも3人の想いが1つになったことを象徴するように、今度3人で上げた掛け声は、前日のあの時とは違いタイミングもテンションも見事に揃ったものとなっていた。そんな3人の様子にプロデューサーも安堵の表情を見せる。

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 再開した収録で行われる最後の対決は滑り台クイズ。解答者は滑り台に乗り、クイズに間違えたり答えられなかったりするごとに滑り台の角度が上がっていき、耐えきれなくて滑り落ちてしまったら失格、という昭和の頃から存在するポピュラーな形式のクイズである。別のパネルに出題クイズのジャンルと得点が表示されており、クイズで正解すればその分の得点を取得できるというルールだ。
 早速対決開始ということで、最初に瑞樹が出題パネルの中から選択した問題は芸能の10。「先週の放送で天然回答を連発し、番組を終了させたアイドルチームの名前は?」というクイズに幸子が正解の「B.Bチーム」と解答、かな子も答えるものの幸子より若干遅れたので負けとなり、滑り台は一段上がってしまう。
 ちなみにこのB.Bチーム、原作ゲームを遊んでいない人でもモニタに表示された画像を見ればすぐわかるとおり、2話や5話で登場した及川雫と今回初登場の大沼くるみの2人ユニットである(わざわざ目の部分に黒線を入れるのはいかがなものかと思うが)。

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 くるみは弱虫で泣き虫、何かあればすぐ泣く上によだれまで垂らしてしまうという大変に難儀な性格の持ち主。13歳という年齢の割に幼い思考を持つ半面、不釣り合いなくらいの豊満なバストが目につくが、男子にからかわれるため本人にとってはこれも悩みの種になっているとのこと。
 この2人がBパート冒頭で愛梨の言った「クイズに答えられないアイドル」というのはこの2人を指しているのは明白だが(2人「だけ」かは不明)、具体的な状況を推理してみると、まずくるみはその気弱な性格上まともに解答できず、それが続くうちに泣きだして解答するどころではなくなってしまった、というのは容易に想像できる。
 雫の方は5話の感想に書いたとおり考え方や行動は決して天然ではないのだが、原作ゲーム内「シンデレラガールズ劇場」の278話や365話で描写されているように、のんびりした性格のためかわからないことについて考える時も非常にゆっくりなので、結果的に解答が出せない状態に陥ってしまうパターンが多い(278話では温泉に浸かったまま考えすぎてのぼせてしまい、365話ではスイカ割り挑戦中に考えすぎた結果としてあさっての方向に進みすぎ転んでしまう)。なので制限時間が決まっているクイズ番組ではその思案の途中でどうしても解答しなければならず、結果として天然的な解答になってしまったというところだと思われる。
 クイズの方は幸子が続いて芸能の20を選択、男性ユニットアイドルについてのクイズに、今度は紗枝が「ジュピター」と解答する。ジュピターの3人も1話での広告に、別ゲーム「アイドルマスターsideM」に登場する315(サイコー)プロ所属と思われる状態で登場していたが、本作がアニマスから直接時系列を引き継いでいることを考えると、961プロを離脱してから地道に活動を続けてついに全国ツアーを実現できるほどにまでなったというのも、アニマスから見てきた者にとってはなかなか感慨深いものがある。
 その後もKBYDチームが正解を連発し、キャンディアイランドの方は合計三段階も滑り台が上昇、ついに杏が耐え切れなくなって滑り落ちそうになってしまう。あわやというところで杏の腕を掴んだのは智絵里だった。智絵里の励ましを受けて杏も何とか耐えられるように体勢を変えて持ち直す。
 小さなことではあるが、かな子や杏の応援を受けて立ち直った智絵里が、今この場では杏を応援してどうにか踏み止まらせる立場となっているというのは非常に巧い構成である。特定の人物に依存するのではなく、文字通りに互いが互いを支え合う仲間同士の理想の連携に近いものが育まれていることが、この短い場面から窺い知れるだろう。
 一方のKBYDチーム、特に幸子は次で決めると意気揚々だ。自信たっぷりに歴史の10を選択するものの、「徳川将軍の三代目は誰か?」という出題の正解がわからず、あっさり答えに詰まってしまう。そこにすかさずかな子が先ほどのお返しとばかりに正解を答え、何とか相手側に一矢報いる。
 本文中では敢えて記述しなかったが、この徳川幕府歴代将軍についてはAパートの終盤、収録前の楽屋においてかな子がクイズ対策にと暗記をしていたものである。事前の努力が本番で奏功したというのは、勝負の流れが変わってきたということを何より端的に示す事柄であると言えるだろう。
 問題の選択権がキャンディアイランド側に移ったところで、杏は最高得点である30番台のジャンル「科学」を選択する。取得できる点が高いということは無論それだけクイズの内容も高難度になっているわけだが、逆転勝利を達成するために杏は敢えて選択したのだ。
 その出題は「スカイツリーのてっぺんからリンゴを落としたら、落下直前の速度はいくつになるか?」というもの。
 これは高校物理(物理T)でいうところの「等加速度直線運動」の問題である。一般的にこの計算をする場合は初速度v0、時間t、加速度aに移動距離sを用いて、tの時点での速度vを求めるのだが、今回の問題では時間についての条件が指定されていないので、v0=0とa(今回は重力加速度なのでg=9.8)、それにs=634(m)を用いた方程式で答えを出す必要がある。
 ただこの場合はある理由から暗算で計算するのが非常に難しく、今回のような場で容易に答えられる類のものではなかった。KBYDもキャンディアイランドも答えられず思案にふける中、ただ1人があっさりと解答を口にした。

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 「秒速111.474メートル」と切り出した杏は、さらに瑞樹からの指摘に合わせて「401.306キロ」と時速への換算も一瞬で行い、見事に正解する。
 この計算、何がそんなに難しいのかと言うと、時間tを使用せずに距離で速度を算出する場合の公式はv^2−v0^2=2gsとなり、v=の形に直すと「v=√2gs」となる。つまり平方根を利用する必要が出てくるからである。
 平方根自体は中学の課程で学習する「平方(自乗)すると元の値に等しくなる数」のことである。例えば4の平方根は2^2で2、9の平方根は3^2で3、という具合だ。
 ところが数字によっては整数で表現しきれない平方根と言うものも存在する。例えば2の平方根や3の平方根は実際には延々と続く少数になるため、わかりやすく記述するために√2や√3と記述している。実際の値については語呂合わせで2の平方根を「1.41421356(ひとよひとよにひとみごろ)」などと暗記した諸兄も多いことだろう。
 √2や√3のようにある程度基礎知識として浸透している値ならば良いが、今回のようにまっさらな状態から出てきた計算結果の平方根を求めるのはかなり大変である。今回ならば2gs=2×9.8×634=12426.4の平方根を計算するのは、紙なり電卓なりあれば可能だが暗算で行うのはかなり難しい。ましてクイズである以上制限時間つきなのだから、余計に難しくなっていたのであるが、それを杏はわずか数秒で計算してしまったのである。しかも小数点3ケタ以下をわざわざ四捨五入までして。
 時速換算は秒速に3.6をかければいいだけではあるが、これも暗算に慣れていないと結構苦戦することを考えると、いずれにせよ杏のこの暗算能力は常人をはるかに上回る技能と言える。これがだらだら生きることを信条とする杏の「本気」だったのだ
 尤もスカイツリーが出来た時点で同様のクイズは色々出ているだろうから、杏が本番前にどこかで予習しておいたという線も考えられなくはないのだが、現時点でそこに至るような伏線が劇中で見つからない以上、杏の能力そのものと考えるのが妥当であろう。
 長々と解説したがとにかくキャンディアイランドが正解したわけで、驚くKBYDの方の滑り台も容赦なく上昇していく。二段階目の時点で幸子はあっさりと滑り落ちてしまうが、滑り台にしがみついて何とか落ちることだけは免れる。愛梨の言うとおり傍目には変な格好だが、落ちないために幸子も幸子で必死なのだから仕方がない。
 ちなみにこの「滑り台クイズで落ちそうになるもしがみついて必死に耐えるアイドル」というのも、アイマスとは関係ないが元ネタ自体は存在するようなので、興味があれば確認してみてもいいかもしれない。
 続けて杏はアニメの30を選択。劇中世界で放送されていると思われるアニメ「幽体離脱!フルボッコちゃん」のクイズが出題されるが、これもまた杏が難なくこなし、さらに一段上がったKBYDからはついに紗枝が脱落してしまった。
 ここで余談だが、フルボッコちゃんとして登場しているキャラはどう見てもデレマスアイドルの1人である小関麗奈である(ついでにマスコットキャラは太田優の飼っているペットの犬「アッキー」と思われる)のだが、これが「アニメ」であって「実写」ではないということを考えると、これは麗奈をモデルにしてデザインされたキャラクターと言うことになるのだろうか。であれば麗奈は声優として参加しているのかもしれない。

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 何にせよ麗奈もまた今話において初めて登場したデレマスアイドル。声なしとは言え彼女のファンにとっては待ちに待った瞬間であったろうし、彼女と対になる?存在のヒーロー系アイドルの出演にも期待したいところだ。
 閑話休題。続けて杏が選択したのはスペシャルの30。ここで決めるつもりだと客席の未央たちも期待の表情を浮かべて見つめる中、クイズが出題される。
 「江戸時代のオランダ貿易でガラス製品の緩衝材として持ち込まれた外来種で、花言葉に「幸運」「約束」などがある花は?」という内容に皆が杏に注目するが、当の杏はわからないとあっさりギブアップを宣言する。
 このタイミングでのギブアップに愛梨を始め観客からも笑いが漏れるが、わからないのであればと瑞樹が解答権を移そうとした時、1人声を上げたのは智絵里だった。

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 未だ緊張しているのか顔を強張らせながらも、自分の背中を押してくれた大事な仲間と繋ぐ手を強く握りながら、はっきりと解答を口にする智絵里。その答えとは「シロツメクサ」。智絵里がいつも大切にしている四つ葉のクローバーを湛える花である。智絵里の小さな勇気に四つ葉のクローバーが応えてくれたかのような幸運に、客席の卯月たちも、仲間であるかな子や杏も、そして智絵里自身も顔をほころばせる。
 KBYDチームの滑り台はさらに一段上がり、今度は由紀が脱落、次いで滑り台にしがみついていた幸子もとうとう耐え切れずに落ちてしまい、この対決は晴れてキャンディアイランドの勝利となった。
 滑り落ちるのをずっと耐えていた杏もようやく一安心するが、感極まったかな子が飛びついてきたため、さすがに耐えられなくなって智絵里も巻き込み滑り落ちてしまう3人。本気出すのは疲れると独りごちる杏をかな子と共に笑顔で見つめる智絵里は、客席に未央たちの姿を認めて手を振る。
 今までお客は「カエルさん」だったから気づかなかったという智絵里に、ならしょうがないと3人は笑い合う。それは苦労しながらも互いに助け合って1つの事を成した、キャンディアイランドというアイドルユニットの1つの成果であったと言えるだろう。
 すべての対決が終わり結果発表となるが、結果は何と同点の引き分け。この場合はアピールタイムはそれぞれ半分ずつの時間で、そして罰ゲームのバンジージャンプも一緒に実施という説明を聞かされ、KBYDチームの面々慌てて文句を言うが、愛梨たちにも言わないようにとのお達しがあったようでもはや後の祭り。
 智絵里はまた3人で仕事ができると喜ぶが、それに反して仕事を早く終わらせるためという名目もあって本気を出していた杏は当てが外れてしまい、文字通り涙目になりながらそんなつもりじゃなかったと叫ばずにはいられなかった。

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 そして3人のデビュー曲「Happy×2 Days」をバックに、待望のアピールタイムが始まる。時間は短くなっているようだが、智絵里が皆を代表して述べたとも言える「みんなにハッピーを届けたい」というこの楽曲に込められた想いは、見ている人たちにも十分伝わったに違いない。
 最後の最後でいきなり引退宣言をする杏に「なんでやねん」とすかさずツッコミを入れられたのも、事前の努力を活かせたという点で彼女らがアイドルとしてきちんと成長できた証と言えるだろう。
 そのままHappy×2 Daysをエンディング曲として描写されるのは、罰ゲームであるバンジージャンプの様子。
 全員強制参加のようで杏も結局バンジーをする羽目になったが、ここで面白いのはやはり涙目になりながらバンジーに臨む幸子の描写だろう。
 幸子はそういう系統のアイドルではないにもかかわらず、原作ゲームで排出される限定SRではスカイダイビングに挑まされたり遊園地の絶叫マシーンで水を被ったり、泳げないにもかかわらず水泳大会に参加したり、何かと体を張った仕事をやらされることが多い。今話の場合も罰ゲームがバンジーだと判明した途端にツイッターやニコニコ生放送におけるコメントでは「幸子がオチか」と視聴者のほとんどが一様に呟くほどに浸透しているネタであるが、その予想に違わぬ奮闘をアニメでも見せてくれたのは実にすばらしいことであった。

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 キャンディアイランドの方も最終的にどうにか全員無事にバンジーをこなしたようで、髪の毛がぼさぼさになりながらも仕事の達成を喜ぶ3人の笑顔でクロージングとなっている。智絵里の目に浮かんでいる涙も怖さだけではない、もっと大きな理由故のものであるに違いないだろう。
 さらに言えばこの「Happy×2 Days」、普通に歌詞を追っていくとよくあるラブソングのように思われるのだが、途中で歌詞とは関係なく杏が自身のフリーダムさを歌うラップが同時に挿入され、最終的にメインの歌詞を歌っているかな子と智絵里がツッコミを入れるという結構な異色作となっているので、ぜひ一度聞いてほしいところだ。

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 冒頭に記した通り、キャンディアイランドはニュージェネレーションズに続く2つ目の3人編成ユニットである。ニュージェネに関しては1話から7話までたっぷり時間をかけて、ある一定までの関係性の成熟が描かれたが、尺の都合上、今回のキャンディアイランドについても同じような見せ方で関係性を描くことは非常に困難であった。これはキャンディアイランドに限らず、まだデビューしていないメンバーが将来的にユニットを組んだ場合においても該当する、言わば共通の懸案事項と言える。
 そこでスタッフは2つの方策を用意した。1つは最小単位の人間関係を、省略した上で序盤(2話)からずっと描写し続けたという点だ。最小単位の人間関係とはもちろん一対一、即ち「2人」の関係である。2話の時点からかな子と智絵里は基本的にずっと一緒、言わば2人一組のような体制で行動し続けてきた。ストーリー上の中心に来ることはこれまでなかったものの、共にいる描写を継続的に挿入することで、視聴者側に2人がどのような性格で2人一緒の場合はどのような役回りになるかをある程度把握させ、そこから「2人は基本仲が良い」という見方を映像上の情報のみで見る側に刷り込んできたのだと言える。
 これが「省略した上での描写」だ。劇中ではかな子と智絵里がどのように出会い、どのように2人一緒に行動するほど仲良くなったのかについては一切触れられていない(そのような背景設定があるのかどうかも見ているこちらとしてはわからない)が、そのような設定を見せる行為を敢えて省略し、今現在の2人の仲の良さを何度も映像として見せることで、「2人は前から仲が良い」という印象を強烈なものとして見る側に植え付けている。
 かつてのアニマスの、特に仲が良かった伊織とやよいがどのように出会いどのように仲良くなったか、その辺りの設定を完全に省略した上でストーリーを進行したのと同様の見せ方になっているわけだ。
 さらにもう1つの方策とは、そのような最小単位の人間関係のうち一つをあえて崩し、既にある程度完成されている別の関係性に入りこませることである。キャンディアイランドで言えばきらりと一緒にいるシーンがずっと強調されてきた杏が、1人その関係性から抜け出してかな子と智絵里という2人きりの人間関係に組み込まれたというのが該当する。
 そうすることで杏、かな子、智絵里の3人別個の関係ではなく、「杏」と「かな子・智絵里」という一組の関係性が成り立ち、その関係性を描写するという手段を今話では取っているのである。これにより3人がバラバラの状態から関係性を描くよりは短い尺で、より濃密に描写できるという利点が生じることになる。
 また別の組み合わせから半ば強制的にこちらの組み合わせに編入される(今回の場合は杏)ことによる画的なインパクトそれ自体が、3人の物語展開、及び関係性の発展に説得力を付与してもいる。
 これはストーリー構成としてはかなり強引なやり方には違いないのだが、にもかかわらず今話にさしたる破綻なく3人がお互いの繋がりを深められたのは、3人が元々シンデレラプロジェクトの仲間同士で、互いの人となりを以前からある程度把握していたという点が大きい。「相手を知る」ことからではなく「相手との関係性を深める」ところからのスタートなのだから色々省略できる一方で、見せたい部分だけを強調して描写することが出来るのだ。
 ニュージェネ3人を通して本作の「アイドル」観を描写するという基本プロットにデレマス、引いてはアイマスそのものの世界観を考慮した上でキャンディアイランド3人の関係性が深まるストーリーを構築する。これは決して行き当たりばったりでできることではない。様々な制約等を考慮した上で計算しつくされた構成の下に今話は生み出されたと言える。1話完結のアンソロジー形式を基本としながら様々な要素を配置しておき、必要な話の中でそれらの要素を1つの縦糸軸として機能させるストーリーテリングは見事と言う他ない。
 そんなストーリーテリングによって紡ぎ出されたキャンディアイランドの関係性は、前述のとおりニュージェネレーションズとは似て非なるものになっている。
 元々やる気のない杏にお互い控えめな性格のかな子と智絵里という3人がメンバーのため、誰かが誰かを引っ張っていくというよりは、常に誰かが誰かを支えている、静かに互いの背中を押してくれる関係性、という表現が一番適当であろう。
 お互い緊張しながらも目標のためにがんばろうと誓いあうかな子と智絵里、そんな2人の心が少しばかり楽になるようそっと助力する杏、今話で一番強調されていたこれらの描写を思い返すと、そんな風に思えるのである。
 互いを支え、背中を押すばかりでは歩調が合わない時もあるだろう。しかしどんなにゆっくりでもしっかりと、着実に歩みを進めていけるということは、支えてくれる手に込められた優しい想いを知っている3人なら十分わかっているはずだ。「CANDY ISLAND」とはそんな3人の優しさが生み出す幸せな時間そのものと言えるのかもしれない。

 また今回は幸子を始め様々なアイドルのユニークな一面を色々見ることが出来る挿話でもあった。3話のように字幕表記が出てもおかしくないくらいの出番だったのにもかかわらず字幕は出なかったが、本作の世界や人物関係の広がりに各人の個性と、十分に堪能できたと思われる。
 そんな中で1つ個人的に一考してみるとすれば、愛梨のセリフが天然を通り越して若干毒舌の領域にまで達しているように思われる点だろうか。
 と言ってもそんな大仰に考えるほどのものでもなく、構成台本上のセリフと素の自分自身の言葉とが入り混じってあんな妙な感じになってしまったのだろうと自分の中では決着をつけているが、どこまでが台本でどこからが自分の言葉なのか、これについてはもう少し考えてみるのも一興だろう。

 さて今話の時点でまだデビューしていないシンデレラプロジェクトの面々は残り5人。次回予告を見る限り次のデビューユニットも3人編成のようだが、キャンディアイランドとは180度異なる賑やかなユニットになりそうだ。次に迎える物語はどのような展開になるのだろうか。

2015年06月08日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第8話「I want you to know my hidden heart.」感想

 卯月、凛、未央の3人を中心としたアイドルを目指す14人の少女たちの物語は、互いに手を取り合いながら力強く新たな一歩を踏み出す3人の姿を象徴として、一旦の節目を迎えた。
 少女たちがそれぞれの立場や経緯からアイドルを志すようになり、時に傷つきながらも互いに努力し励まし合いながら、仲間やプロデューサーとの絆を育み、それを糧として各々が抱いた夢に向かって歩き始めるという展開は、まぎれもなくアイドルマスターの名を冠するにふさわしい、「アイドルを目指す少女たち」の成長譚として成立していたと言えるだろう。
 そしてもちろん彼女たちの物語はまだまだ始まったばかりだ。その先にはまだ知らないことや未知のものがたくさんあり、それら一つ一つに彼女たちが直面する都度、新たな物語が生み出されていくことになるのである。
 さてそんなたくさんの「知らないこと」がある中で、皆が真っ先に知らなければならないものと言えば、まずは同じシンデレラプロジェクトに所属する仲間の人となりであろう。とりわけ過去の経緯もあってメンバーから一歩引いて接していたプロデューサーにしてみれば、それは急務の事項と言っても差し支えあるまい。
 今話でクローズアップされるのは、そんなプロジェクトメンバーの中で最も人となりがわかりにくいと思われる少女である。その理由は言うまでもなく、彼女の「言葉」に起因していた。

 前話から幾分かの時が流れ、初夏の強い日差しが346プロのビルを照らす中、元気良く挨拶をしながらプロジェクトルームに入ってくる未央。もうすっかりいつもの調子に戻った様子だ。
 先に部屋に来ていた蘭子とアナスタシアも親しげに挨拶を返すが、蘭子は例によって大仰な言い回しでの挨拶だった。さすがに「煩わしい太陽ね」という言葉を「おはようございます」とすぐに解釈できる人間は滅多にいまい。
 そんな言い回しを好む蘭子にしてみれば、未央のつけた「らんらん」という可愛らしい自分のあだ名に戸惑うのも仕方のないところだろう。
 しかし蘭子が決して偏屈なわけではなく、むしろ純粋な性格の持ち主であるということは、未央の取り出した携帯扇風機や衣類用の冷却スプレーを見て「涼しそう」「冷たそう」と、ごくごく普通の感想を述べた点からも十分察せられる。ただそのような素直な感想も、彼女の言い回しにかかると「シルフの戯れ」「シヴァの息吹」となってしまうのであるが。

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 今のこの流れを引き合いに出すまでもなく、蘭子という少女は別に本心を隠しているわけではないのだが、それを伝える手段が第三者からすると難解なために、結果としてコミュニケーションが成立しにくくなってしまっている。ニュアンス程度なら既に皆も理解できているようだし、それだけでも蘭子がいい子だということは十分認識できるのだが、だからこのままの状態でいいと言うものでもない。
 今話はその「このままの状態」ではいられなくなった時に、蘭子や周囲の面々が何を考えどう立ち回るのか、それを描くのが骨子となる。
 ちなみに本筋とはあまり関係ない話だが、蘭子の発言の中にあった「シルフ」とは中世の錬金術師・パラケルススが提唱した地水火風の四大元素にそれぞれ存在する四精霊のうち、風の精霊とされる存在であり、「シヴァ」とはヒンドゥー教の最高神の1人(一柱)である破壊神のことである。
 前者はともかく後者は冷気とは本来関係ない存在なのだが、これは恐らく近来の各種ゲーム作品によって付与された「氷・冷気を司る」属性に影響を受けているのだろう。

 やがて部屋に集まったみんなもめいめい、未央の持ってきた扇風機や冷却スプレー、そして7話でも未央の部屋に置かれていたハンバーガーを模した大きなクッションを話の種にして盛り上がる。初夏というだけあって全員夏を意識した服装に変わっており、原作ゲーム中では私服の変化があまり見られないだけに、かなり新鮮な印象を見る側に与えてくれる画となっている。
 そんな中、当の未央はプロデューサーに私物の持ち込み許可を進言していた。その提案に仕事に関係ないものは必要ないとつれない態度を示すみくであったが、彼女が普段つけているネコ耳は仕事用だからセーフらしい。確かにアイドルとしてのみくのアイデンティティを形成する大事な道具であることは間違いないのだが。
 みくに反対されて少し意気消沈する未央。それにより事務所の中がより明るくなる、みんなの個性が見えるようになって面白いという未央の考え方は、誰に対しても物怖じせず積極的に交流を図ろうとする性格の未央らしいアイデアだろう。
 少々深読みをしてみれば、6話及び7話で起きた事件の原因の一端は、未央とプロデューサー相互の理解度不足にもあったのだから、それを踏まえてプロジェクトメンバー全員との関係性を強めたいという意思が働いたと考えることも出来るのであるが、実際にはそこまで過去の事象に深く縛られた故の発想ではないだろう。やはり未央は単純にみんなともっと仲良くなりたいという極めて純粋で素直な衝動からこのような提案をしたと捉えるべきで、その方は明るく元気で人懐っこいいつもの未央らしいと言うものである。
 そんな未央の心情を汲み取ったのか、プロデューサーは改めて全員にこの提案の是非について尋ねる。それはプロデューサーとして非常に良い姿勢なのだが、前話のラストで未央から言われた「丁寧口調を止めよう」という提案もあって、普段の「です・ます」調的言葉で話した後に慌てて「だ・である」口調で律義に言い直すというのを繰り返しており、何とも言えない可笑しさを醸し出している。その様子を見ていた卯月と凛が苦笑してしまうのも当然と言ったところだろう。

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 プロデューサーからの問いに美波やきらり、莉嘉にみりあは賛意を示すが、みくは仕事とプライベートは分けたいという考えから、先ほどと同様に否定的な返事を返す。そんなみくの意見に「今の事務所の雰囲気はクールで嫌いじゃないから」とまったく異なる理由ではあるものの、李衣菜が賛同しているのは面白い。みく本人がそれを珍しがっているのは、視聴者が抱くであろう印象のメタフィクション的な代弁とも、制作陣という神の視点からの茶化しとも取れる。
 真面目すぎるみくと莉嘉とが、意見の相違からあわや口論というところにまで発展しかかってしまったため、プロデューサーは少し悩みながらもそれぞれ1人一品ずつのみ持ち込みOKとしてはどうかと妥協案を提示してきた。
 直前まで寝こけていたにもかかわらず突然飛び起きてきた杏の質問から、ある程度弁えてさえいれば基本何でも持ち込んで良いという言質も取れ、みくも李衣菜もとりあえずは了承し、喜ぶ一同。未央も嬉しそうにプロデューサーにお礼を告げる。
 プロデューサーのこの異なる二種の意見のどちらか一方を否定することなく、両方を掛けあわせた上で妥協点を模索したというやり方は、片方を無下に否定すればそちらに遺恨が残る可能性もあり、それが引いてはメンバー間の軋轢に発展しかねない危険性を考えれば、プロジェクトメンバーをまとめる立場としても、1人のプロデューサーとしても理想的な提案であったと言えるだろう。それはそのまま「アイドルマスター」という作品がずっと定義してきたプロデューサーとしての理想像の1つに重なるとも言えるのだから。
 この「相手の考え方を否定しない」彼のやり方、プロデューサーとしての有り様は、後々の展開に生かされることとなる。
 一気ににぎやかになった室内に大西部長とちひろさんが入ってくる。ちひろさんに促され、プロデューサーは改めて皆を集めてある重大事項の説明を始める。それはラブライカ、ニュージェネレーションズに続くプロジェクトメンバーのCDデビュー決定の知らせだった。
 久々の朗報に一同もにわかに色めき立つ。次は誰がデビューするのか、自分がデビューできるのかを気にかけるものがほとんどの中で、みんなに悪いからデビューを譲るとあっさり言ってのける娘がいるのは、何ともシンデレラプロジェクトらしいところではあるが。

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 プロデューサーが口にした次のデビューメンバーは蘭子だった。今回は前回と違い蘭子単独のソロデビューということで、また次回以降となってしまったみくや莉嘉は残念そうな表情を浮かべるが、「待っていて下さい」というプロデューサーの言葉に笑顔を作り、蘭子に激励の言葉を送る。
 みくたちが不満を飲み込んで素直に蘭子を祝福出来たのも、5話や7話を経てより深まったプロデューサーとの強い信頼があればこそだろう。7話での一件以降はそれぞれプロデューサーと良好な関係を構築してきているであろうという時間経過も窺えて、6、7話の展開を見届けた視聴者は、このやり取りだけでも一種の感慨深さを抱いたのではないだろうか。
 皆の祝福を受け、蘭子も全力で取り組むといつもの口調で宣言する。その表情が喜びに溢れているのは言うまでもない。

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 デビューに向けて蘭子とプロデューサーがミーティングを始める一方、他のメンバーはいつも通りベテラントレーナー指導の下でレッスンに勤しむ。さり気なく描かれる美波とアナスタシア、ラブライカのダンスがかなり切れの良いものになっており、表情にも以前より自信が感じられ、2人の著しい成長が垣間見えよう。
 未デビュー組のみくたちはストレッチをしながらデビュー話に花を咲かせる。蘭子の次は3人編成のユニット2組でデビューというプロデューサーの説明があったようで、今はプロデューサーを信じて待とうというみく。彼女がいつの間にか原作ゲームではおなじみの「Pチャン」呼称を使用しているところからも、彼への信頼感が強まっていることがわかるだろう。
 みくが非常に良い変化をしている一方で、杏はいつものごとくレッスンを嫌がって抜け出しており、全員が全員一斉に何かしら変わったと言うわけでもないようだ。それぞれが独自の個性を持っている以上それは当然の話なのであるが、それをここできちんと見せるのは、制作陣がキャラクターに対して常に真剣に向き合って描写しようとしているからこそと言える。
 蘭子の歌はかな子やみくが想像した通り、ゴシック的な雰囲気を前面に押し出したものになっていた。一口にゴシックと言っても具体的にどういうものか言葉で説明するのは非常に難しいところだが、蘭子の場合は単純なゴシックというよりはいわゆる「ゴスロリ」様式に比重が置かれていると考えた方が正しいかもしれない。曲調もパンクやデスメタルと言うよりは軽めのロック(ポップ・ロック)であり、その意味では李衣菜の「めちゃロック」という言葉もあながち的外れではないのかもしれない。
 まだ曲が出来ているだけで詞は完成していないもの、蘭子のイメージに合わせて作られたという曲の出来栄えには蘭子もご満悦の様子。プロデューサーは残る作詞と同時にPVの企画を進めているということで、その企画書を蘭子に手渡す。
 こちらも蘭子のイメージに合わせてダークなゴシックホラーの雰囲気で制作する計画のようであるが、企画書を一読した蘭子はその内容に何か衝撃を受けたらしく、企画書をゆっくりと差し戻す。やけに丁寧な仕草なのが可愛らしいが、どうやら企画の内容に不満があるようで、蘭子はもっと違う感じで行きたいという意思をいつもの口調でプロデューサーに伝える。

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 そこでプロデューサーが取り出すメモ帳に、蘭子の使う言葉とそれについての自分なりの解釈がまとめられているのが何とも面白い。わざわざメモとしてまとめているところに彼のちょっと度が過ぎていると言えなくもない几帳面さが窺え、ギャグ的要素として機能しているだけでなく、難解ではあっても自分から蘭子に歩み寄ろうとしている努力や誠実さも同時に描いている点は巧い見せ方と言えるだろう。
 そのメモを頼りに企画の内容に問題を感じているところまではプロデューサーもどうにか察し、蘭子は自信たっぷりといった様子で自分の考える案を披露する。
 特徴的なポーズを取りつつ放った発言内容を単純に書き記すと「かつて崇高なる使命を帯びて、無垢なる翼は黒く染まり、やがて真の魔王への覚醒が」となるのだが、さすがにプロデューサーがこの意味を理解するのはメモ帳を使っても難しかったようで、蘭子の希望を完全に読み取ることは出来なかった。
 蘭子の希望と現在の企画案との間に明確な差異を見出せないプロデューサーに、思わずふくれっ面をする蘭子。原作ゲームの限定SR「[覚醒魔王]神崎蘭子」でも見られたこのふくれっ面は、自分の想いが相手に通じない場合に蘭子が思わず取ってしまう仕草として、ファンにはよく知られたものである。

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 こういう特徴的な言葉遣いをしていれば、今回のようなすれ違いや認識の齟齬はいずれ起こりうることであり、客観的に見ればこのような事態になっても言葉遣いを平易なものに変えない蘭子がわがままと思われても仕方のない場面ではある。無論それにはきちんとした理由があるのだが、この時点ではまだそれは明らかにはされない。仮にそれが明らかになっていたとしても、それを以て彼女に一方的な変化を強いるのもまた酷と言うものであろう。
 なぜなら彼女は14歳。莉嘉やみりあとさほど年齢の変わらない、プロジェクトメンバー内でも年少者の側に属する「子供」だからだ。変化が必要だと理解していても、それをすぐに実践できるような器用な立ち回りが、14歳の子供に容易く出来ようはずもない。曲がりなりにも蘭子の言葉遣いは彼女の重要なアイデンティティなのだから。
 それを理解しているのかは不明だが、変化を求めようとせず自分の側からの歩み寄りに徹底しているプロデューサーの姿勢は、極めて賢明なものと言えるだろう。
 しかしそれはそれとして意思の疎通が取れていないのは大きな問題である。結局その日のミーティングは問題が解決しないまま終わり、1人事務所を出て帰路につく蘭子。ちょうどニュージェネ3人とラブライカの2人、それにみりあも帰宅するタイミングだったため、蘭子を見かけた未央がデビューの件について気さくに尋ねるが、浮かない表情の蘭子に皆も訝しむものの、肝心の話す言葉が例によってわかりにくいため、具体的に何があったのかは判然としない。だからなのか、1人ごく普通に頷いている者がいることに誰も気づかなかったようであるが。
 寂しそうにお疲れ様の挨拶を意味する「闇に飲まれよ」という言葉を残して立ち去ろうとする蘭子を追いかけるアナスタシア。熊本出身の蘭子と北海道出身のアナスタシアは346プロ所有の女子寮に住んでいるため、帰り道が同じなのである。
 元気のない様子の蘭子を凛たちも案じるが、詳細が分からない以上どうすることもできなかった。
 このあたりの蘭子とプロデューサーの考え方のずれは、言葉の足りなさがすれ違いを生じさせる一端となった6話や7話と違い、蘭子としては言葉を尽くしているのにもかかわらずすれ違いが生じてしまっているという点で、前話でのコミュニケーション上の問題とは若干異なる。ニュアンスを理解する程度ならという注釈を加えるなら、蘭子とプロデューサーの会話は普通に成立しているだけに、なおのこと蘭子の本心が伝わらない、プロデューサーも理解してあげられないという事実に対するジレンマが深まる構成となっている。
 原作ゲームにある程度通じている人間であれば蘭子の意図するところは比較的容易に理解できるであろうが、本作からデレマスそのものに触れる人にとっては蘭子の言い回しの理解に苦慮するプロデューサーの姿は、そのまま初見である視聴者自身の蘭子に対する印象とシンクロしているとも言えるわけで、その視点から考えると積極的に理解しようとしているのに理解しきれないプロデューサーの戸惑いは、そのまま今話の内容への見る側の没入度を高める効果としても機能していると言えるだろう。
 赤信号に自動車の赤いテールライト、消火栓や送水口を示す赤い標識、赤いカラーコーンなど、執拗に「赤色」を押し出してくるカットも、蘭子とプロデューサーとの関係性が「止まっている」ことを明示するだけでなく、このような現状の物語世界への没入度を高める意図があるのかもしれない。
 アナスタシアは元気のない蘭子を案じるが、それに対する蘭子の答えはただでさえ難しい日本語が苦手なハーフのアナスタシアに到底理解できるものではなかった。
 それでもなお健気に蘭子を案じ、力になれることはあるかと問いかけてくるアナスタシアに心配無用と返答する蘭子だったが、その表情が笑顔に戻っていたのはアナスタシアの優しさに触れたからというのは言うまでもない。蘭子もまた他人の気遣いを素直に受け止め汲み取ることのできる、心の優しい女の子なのだ。

 女子寮に戻ってきた2人を迎えたのは1話以来の登場であり、先に5話の予告編でも蘭子とのやり取りを披露していた(そしてOPでは美嘉たちと共にワンカット出演している)先輩アイドルの白坂小梅、そしてこちらは本作では初登場の星輝子だった。
 2人ともたどたどしいしゃべり方が特徴の女の子だが、同時に2人揃って非常に際立った個性の持ち主でもある。
 輝子は手に持っていた(恐らく自分で栽培したと思われる)シイタケの声真似?をして蘭子たちに挨拶していたことからも察せられるが、大のキノコ好きであり、「親友」と呼ぶほどにキノコを溺愛している少女だ。それだけでも十分に一風変わっているのだが、輝子にはまだここでは描かれない強烈な個性が実は隠されている。彼女がステージ衣装をまとってステージに立った時に判明するのであるが、それを本作中で見る日は来るのだろうか。

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 一方の小梅は通販で届いた映画のディスクが届いたので一緒に見ようと2人に持ちかけるが、その映画の内容はホラー。小梅はホラー絡みのものが大好きで、公式プロフィールでも趣味として挙げられているものはホラー・スプラッタ映画鑑賞に心霊スポット巡りと、ホラー・心霊ネタが目白押しとなっているくらいなのである。しかも単に好きというだけでなく実際に…、という面も隠れているのだが、こちらもこのシーンでは描かれないので、今後に期待と言うところだろう。

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 しかし小梅からの誘いを受けた蘭子は慌てたそぶりで「儀式があるので」と言い残して早々に部屋に戻ってしまった。
 その際の冷や汗をかいている様子や体を震わせている仕草からも容易にわかるとおり、実は蘭子は小梅とは正反対にホラーの類が大の苦手なのである。これは既発売済のドラマCDなどでも触れられている由緒正しい設定であるが、それならば蘭子がPVの企画案を拒否した行為についても得心がいくと言うものであろう。
 自室に戻った蘭子は決意の表情を浮かべ、おもむろにスケッチブックを手に取り、何かを書き込み始める。食堂での夕食も1人で先に終え、「何か」の作成に夢中になる蘭子。しかしそれが何なのかはアナスタシアや同じく寮住まいの大阪出身であるみくにはわかりかねるところでもあった。

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 ちなみにみくやアナスタシアの食事シーンでは、同じ寮に住んでいると思しき小梅や輝子以外のアイドルが何人か登場している。輝子の姿に隠れているのはそのアホ毛から見るに、蘭子と同じ熊本出身の小日向美穂だろうが、その正面に座っているのは仙台出身の佐久間まゆであろうか。端の方に映っている後ろ姿の少女は1話でも少し登場した福岡出身の上田鈴帆、その正面にいるのは大阪出身の難波笑美だろう。
 元々シンデレラガールズに登場するアイドルは全国各地(場合によっては海外)から集まっており、本作のシンデレラプロジェクトだけでも関東以外の場所が出身の娘が幾人かいるため、住まいがどうなっているのかは以前からファンの気にしていた事項であったのだが、今回明確にその回答が得られたわけで、この設定が今後どのようにストーリーに絡むか、あるいはストーリーを膨らませる上で貢献してくれるのか、大いに期待したいところだ。
 ついでに言えば食事中、口に食べ物を入れている状態のアナスタシアがしゃべる際に、手を口に当てて口が相手に見えないようにする仕草が、アニマス11話でパスタを食べる時の春香の仕草と同様な育ちの良さを感じさせる好演出だった。

 あくる日もプロジェクトルームでスケッチブックへの書き込みを続けていた蘭子だったが、ついに完成した様子。画面から判断する限り、可愛らしい絵柄のイラストを描き込んでいたようだが、それに気付いた未央が近寄ると慌ててすぐにスケッチブックを抱え込んでしまう。
 このスケッチブック自体は未央が考えていた蘭子の「私物の一品」ではなく、蘭子曰く自分の魂の一部で決して切り離すことのできない「グリモワール」であるらしい。
 実は5話でも少しだけ出てきていたこのスケッチブック、「グリモワール」の本来の意味はヨーロッパで流布したという実際の魔導書の名前(総称)であり、かの有名な「エロイムエッサイム、我は求め訴えたり」という呪文の原典でもあるが、蘭子の場合はさしずめ自分の空想や夢をイラストとして描き残すための道具と言うところか。いかにも蘭子らしいネーミングであるが、実際の魔導書というものが有り体に言って非現実の内容が書き記されたものであることを考えれば、あながち的外れな名前とも言えないだろう。
 何にせよこのスケッチブックは事務所に置くために持ってきた私物ではないということで、蘭子は改めて持参してきた「一品」を未央に指し示す。
 やがて皆も部屋に集まりいつものように和気藹々とすごす。未央を始め私物の一品を一早く持参した者も何人かおり、皆は思い思いのスタイルでその一品を活用していた。
 劇中で明確に名指しはされていないが、画面上から判断する限りではかな子の使用しているティーセットはそのままかな子、パターゴルフセットは未央、クローバーの形をした置物が智絵里で2話で撮影したプロジェクトメンバー全員の集合写真が入ったフォトスタンドは恐らく卯月、お絵描きセットはみりあ、天球儀はアナスタシアがそれぞれ持ってきたのだと思われる。フォトスタンドと卯月はすぐには結び付かないので判断が難しいところではあるが、後に出てくる他メンバーの持ち込み品を考えた上での消去法と、7話で過去に撮影した写真を大切に扱っている描写がなされていたという二つの点から、卯月の私物と考えて差し支えないだろうと思われる。
 そして凛は花屋の娘らしくきれいな花を持参していた。涼しげな印象を与える白色の花に卯月たちも見とれる中、蘭子は小さく「きれい」と感想を漏らす。いつもの口調ではない、彼女の素直な想いがそのまま吐露された言葉に凛もアナスタシアも、そして部屋に入ってきたプロデューサーも思わずハッとして蘭子に目を向ける。しかしプロデューサーの存在に気付いた蘭子は驚いたように顔をこわばらせて目を逸らしてしまった。

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 かな子からのお誘いを受けてお茶とクッキーをいただくことにするプロデューサー。クッキーはいつものようにかな子が自作したものと思われるが、4話での智絵里とのやり取りを踏まえて、恐らく智絵里のために四つ葉のクローバーの形をしたクッキーをきちんと混ぜているのは、かな子の優しさと細かい気遣い故のものだろう。
 ここでもプロデューサーは律義にいつもの丁寧口調を砕けた口調に言い直していたが、さすがに毎度毎度言い直す苦労を見兼ねたか、提案者の未央を始めみんなも彼の口調の変更についてはあきらめた様子で苦笑する。
 元々未央が口調の変更を提案したのは「プロデューサーがアイドルたちにより近づくため、仲良くなるため」という理由だったことを考えると、みくや莉嘉たちからも一定の信頼を得、かな子たちと一緒にお茶やクッキーを楽しむほどに親睦を深めている現在のプロデューサーに、そのような瑣末な変更はもはや無用なのであろう。
 小さくさり気ないコメディタッチの描写ではあるが、実はとても大切なことをこの一連の流れは訴えている。
 そんな中、李衣菜が入口のドアノブにぶら下がっている飾りについて尋ねてきた。それは蘭子がみんなの中では一番最初に持ってきた私物の一品だと未央が説明するが、当の蘭子は恥ずかしいのか頬を赤く染め、先ほどと同様に視線を逸らしてしまう。
 蘭子の持ってきた一品は、馬に使われる蹄鉄を飾りにしたものだった。本来は馬の蹄を保護するために使用されるものだが、扉にぶら下げることで魔除けや幸運のお守りとして扱われる場合もあるという話に感心する一同。

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 それを説明するのが凛というのは、所謂「中の人ネタ」を知っている人なら思わずニヤリとしてしまいそうなシークエンスだが、蹄鉄をお守りとする考え方もヨーロッパが発祥のようなので、ゴシック的なものを愛好する蘭子らしい私物と言えるだろう。
 蘭子もいつものように大仰な振る舞いを取りつつ難しい言葉を並べるが、その意味は要約すると「お守りの力で皆さんも幸せになって下さいね」という、ストレートに話すとなると少々気恥ずかしい内容であるためか、堂々とした振る舞いに反して顔には冷や汗が浮かんでいた。みんなから素直に感謝されたり褒められたりすると、照れてすぐ言葉少なになってしまう点も、彼女の見た目と内面のギャップを端的に表している。
 莉嘉の発した「ドクロとか血塗られた十字架とか持ってくるかと思った」という旨の発言は、そのような蘭子の見た目や立ち居振る舞いから受ける印象と内面と間に生じる齟齬を、最も如実に示したものと言えるかもしれなかった。
 ドクロとか血と言った言葉を聞くだけで怖がってしまう蘭子を、ホラー系は苦手なのだとフォローするアナスタシア。「意外だね」という凛の言葉が象徴しているように、みんなも大なり小なり莉嘉と同じような印象を持っていたようで一様に驚くが、とりわけプロデューサーは驚きも一入であったろう。PVの企画案を蘭子が拒否した理由が今ここで判明したわけだから。
 思わず蘭子を見つめるプロデューサーであったがしかし、蘭子はまたも視線を逸らすだけだった。

 偶然とは言え蘭子の本音の一端を知ることができたプロデューサーであったが、それで即事態好転とはならない。確かに蘭子がPV案を拒否した理由はわかったが、では蘭子はどのようなPVを望んであの時口にしていたのか、そもそも今回の件でさえ偶然わかっただけで蘭子とのコミュニケーションに未だ難があることは変わりないからだ。
 根本的な問題を解決できていない以上、当然このまま放置しておくわけにはいかない。プロデューサーは改めて話をするために蘭子の下へ赴くが、蘭子は何かを言いたげにしながらもそれを抑えるように「プロヴァンスの風」とだけ叫んで立ちさってしまう。その後も幾度繰り返しても蘭子はその都度同じような態度を取って立ち去る、と言うよりは逃げてしまうため、プロデューサーも困惑するばかり。
 「プロレタリア文学」やら「プロテイン」などと様々な言葉を用いるものの、最後はネタが尽きたのか力なく「プリン」と呟くところは失礼ながら可愛らしく見えてしまうが、それをいちいちメモに取り、蘭子にとってはどのような意味なのかを思案するプロデューサーの真面目ぶりも、その接し方は良いことだとわかっていても何とも可笑しい。
 蘭子が本当に言いたい言葉は「プロ」で始まる単語らしい…と白々しいことを書くまでもなく、彼女が口にしたい言葉、そしてその次に何を行いたいのかは、視聴者側からすれば明々白々であろう。そしてそれを実際に口に出来ない理由も。
 これまでの蘭子の描写を見ていれば容易に察せられることと思うが、彼女は本来相当な恥ずかしがり屋なのだ。相手の名前をそのまま呼ぶことにさえ抵抗を覚えてしまうほどの。彼女がいつも難解な言葉を使っているのは、その性格故に普通の言葉は素直に口に出来ないからという側面があったわけなのだが、今回はその言葉遣いでの意思疎通が完全に行えなかったため、何とかごく普通の言葉で自分の気持ちを伝えようとしているのである。
 極度の恥ずかしがり屋が「恥ずかしい」と思っている行為を実行するのには、大変な勇気と決断力が必要になるが、今の蘭子にはその2つとも欠けてしまっているのだろう。だからプロデューサーに本心を告げられず1人思い悩み、プロデューサーと蘭子のやり取りを見かけた未央たちのとりなしも拒んでしまう。一連の様子から蘭子はスケッチブックに描いたイラストをプロデューサーに見せたいのではと未央は推測するが、肝心の蘭子がそれを見せたがらないのではどうしようもない。
 蘭子とまともに話ができず、プロデューサーもどうすれば良いか考えあぐねる。書き取ったメモを見てもそれらの言葉自体にはさしたる意味はないのだから、そこから蘭子の真意を汲み取ろうとするのは無理な話なのであるが、残念ながらそれは今のプロデューサーの考えが及ぶところではなかった。
 そんな彼の下を訪ねる凛。凛は蘭子から避けられているというプロデューサーの考えをやんわりと否定し、言葉を理解することよりもまず蘭子に近づいてみたらいいとアドバイスする。

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 それは前話においてプロデューサーへの信頼を喪失し弱りきった自分の心が、まっすぐな想いを胸に再び駆けつけてくれたプロデューサー自身の行為に救われた、その経験があったからこその意見だった。
 これはプロデューサーへのアドバイスという形ではあるが、あの時来てくれたプロデューサーに対する凛なりの謝意を示したとも言える。あの時プロデューサーが駆け付けたこと、自分の混乱する心情を受け止めてくれたこと、その上でもう一度アイドルとして進む道を示すとはっきり言ってくれたこと、それらすべてが凛にとっては本当に嬉しかったに違いない。
 凛はそういう感情をストレートにプロデューサーに打ち明けるタイプではないが、この「自分たちにしてくれたことと同じことをすればきっとうまくいく」という言い方の中には彼の行為、引いては彼自身への強い信頼が込められており、見ようによってはこの時点における凛のプロデューサーに対する最大級の「デレ」だったと言えるのではなかろうか。
 それを意識していたのかはわからないが、プロデューサーと凛のやり取りを部屋の外で聞いている卯月と未央の様子が、プロデューサーとアイドルと言うよりむしろ「仲の好い男女の会話」を聞きながら喜んでいるように見えるところも、受け手のそう言った捉え方を肯定しているように思える。
 プロデューサーは改めて他のプロジェクトメンバーに蘭子の人となりについて尋ねる一方、蘭子も自分の気持ちを伝えられないことをメンバーに相談していた。会話を弾ませるきっかけにとかな子がお菓子を差し出すのはいかにもかな子らしい提案であるが、それは同時にみりあや智絵里と言った、蘭子の悩みに共感し協力したいと想う仲間たちの優しさの象徴でもあった。
 そこへあの時と同じように駆けつけるプロデューサー。さり気ない描写だが歩いてきたのではなく「駆けつけてきた」ことも、殊この場面においては重要な演出であろう。プロデューサーは蘭子と話をするため、2人で346プロ内の「聖なる泉」、すなわち噴水前に移動する。
 陽も傾いた夕焼け空の下、蘭子と少し離れた位置に腰を下ろしたプロデューサーは、空が綺麗だと他愛ない世間話を始め、蘭子も強い日差しのせいで日焼けしそうだと他愛ない返事を返す。

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 仕事の話を持ち出さず世間話を続ける行為が、蘭子により近づきたいというプロデューサーの意思から生じているのは疑いないだろう。そして蘭子も彼と同じ気持ちだというのは、日差しが強いと漏らしたプロデューサーに自分の日傘を手渡すことで2人の座る位置が近づき、かな子からもらったお菓子をプロデューサーに差し出すという描写として表現されている。日傘を渡されたプロデューサーが結局自分に対してはほとんど使わず、隣の蘭子の方にだけ傘を傾けているところに、彼のさり気ない気遣いが感じられて良い。
 静かに流れていく時間の中、他愛のない会話をゆっくりと進める2人。休日は何をしているかとか音楽は何を聞くかと言った質問から始まるやり取りは極めて平凡なものだが、蘭子の言葉遣いはいつものままなので、どこかシュールな印象を受ける。そんな蘭子に対し彼女の言葉の意味を書き記していたメモ帳を脇に置き、彼女の言葉の意味を直接理解しようとしているプロデューサーの接し方は注視すべきだろう。
 当人たちは至って真剣なのであるが、傍から見るとまるでお見合いでもしているかのようなやり取りになってしまっているのも面白い。2人の様子を後ろの建物の中からかな子やみりあたち他のメンバーが心配そうに見守っているのも、そんな印象に拍車をかけている。
 とは言え一足飛びに相手を理解することなど出来るはずもないのだから、地味で定番な質問を重ねて蘭子に少しずつ歩み寄ろうとするプロデューサーの姿勢は、愚直ではあるが非常に的を射たものと言える。
 彼のそんな態度が功を奏したのは、彼がハンバーグを話題に出した時だった。ハンバーグとは先ほどプロデューサーが他のメンバーに蘭子の人となりを尋ねていた時にみくから聞いた、蘭子の好きな食べ物である。
 その言葉を聞いた蘭子が立ちあがって驚いたのは、「禁忌に触れる」という発言から考えてみても、それがあまり知られたくない事柄だったからだろうというのは容易に察せられる。そこにはハンバーグという「子供の好きなもの」のイメージが強い食べ物と普段の自分とのギャップを気にしたからとか、食べ物の好みという単純な事柄ではあるが自分の内面が曝け出されてしまうのを恥ずかしがったと言った、彼女なりの複雑な理由があったのは間違いない。
 ところがプロデューサーが次に口にしたのは、「自分もハンバーグが好き」という言葉だけだった。蘭子の好みを自分と同じだと言い回すことで肯定し、ありのままを受け入れようとしている彼の姿勢は、生来の恥ずかしがりな性格やPV企画の件で一度コミュニケーションに失敗した経験からの緊張故に頑なになってしまっていた蘭子の心を静かに解きほぐす。一度はプロデューサーから離れながらもまた元の位置に戻る仕草は、その証左と言うところだ。
 ここで改めて考えてみると、蘭子が自分のスケッチブックをプロデューサーになかなか見せられなかったのは、恥ずかしがり屋という自分の性格が多分に影響しているのは間違いないが、それとは別にこれでもまたもし自分の意図や考えがプロデューサーに届かなかったら、という恐れがあったからと思われる。自分を曝け出す恥ずかしさを乗り越えたとしてそれでも自分を理解してもらえなかった時のことを考えると、彼女がスケッチブックを見せるのを躊躇してしまっていた心情も理解できよう。
 しかしプロデューサーはすべて意識した上での行動ではないだろうが、結果として本題に入る前にハンバーグの件というワンクッションを置くことで、蘭子の素直な気持ちを受け止めようとしている自己の姿勢を明示した。その態度は蘭子の胸中に芽生えていた恐れを軽減し、恥ずかしがり屋の自分の背中を後押ししてくれるには十分なものであったろう。
 蘭子は意を決して立ち上がり、何度も逡巡しながらついにずっと言いたかったに違いない「プロデューサー」という言葉と共に、持っていたスケッチブックを手渡す。
 それでもまだびくついた様子で目を閉じてしまうのは、ここまでしてもなお自分の想いが通じなかった場合を想像しての恐れ故だろうか。ちょうど蘭子だけが画面に映って隣にいるプロデューサーもスケッチブックの中身も一切映されておらず、スケッチブックを見ている瞬間のプロデューサーの様子を一切窺い知ることが出来ないという構図もまた、蘭子の抱いている不安感を強調している。
 ややあって口を開くプロデューサー。彼はスケッチブックに描かれたある2つのイラストの関係性について尋ねてきた。すぐには返答しない蘭子を促すように、プロデューサーは「とても大事なことだと思う」と質問した理由を続ける。
 このプロデューサーの発言に対する蘭子の心の変遷の見せ方は実に巧妙だ。一見するとプロデューサーは蘭子の描いたイラストに興味を持って理解しようとしているのに、未だ躊躇う蘭子が頑な過ぎるように見えるのだが、ここまでの2人のやり取りを思い返してみると、単に「プロデューサーが蘭子を理解しようとしている」だけではこれ以上の進展が見込めないということがきちんと描写されている。
 プロデューサーが自分の気持ちを受け止め理解しようとしてくれているというのは、ハンバーグの件で蘭子も既に十分理解しており、むしろそれを理解しているからこそ勇気を振り絞ってスケッチブックを手渡せたのであって、蘭子がそれ以上の行為、即ちもう一度自分の言葉で自分の想いを伝えられるようになるためには、プロデューサーもワンステップ上の行為を示さなければならなかった。それがストーリーの文脈上の必然だったのだ。
 そこでプロデューサーが次に示した行為、それは2枚の絵の間に何かしらの経緯があって変遷している、つまり「イラストの中に蘭子独自の世界観とストーリーが存在している」ことに独力で気づくことだった。本人としてはそれを意識的にやったわけではなく、あくまで蘭子という一個人と真摯に向き合った結果としての気づきだったのだが、この第8話という物語の中では彼の気づきは蘭子に対する最適解だったと言うわけである。それは取りも直さず蘭子の価値観を共有する者、彼女の言うところの「瞳を持つ者」であることの一番の証にもなるのだから。
 蘭子もそれを理解したからこそ自らの瞳を輝かせ、プロデューサーを「我が友」と称して、イラストに託した自分の想いをとうとうと語り出す。今までの不安げな所作が吹き飛んだかのような自信たっぷりの蘭子の姿は、作画の流麗さもあって「美しい」という言葉がふさわしい振る舞いとなっている。一気に話し終えた後に疲れて息を切らせてしまう、少々子供っぽい仕草とのギャップによるコントラストも良い味を出していた。

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 一度焦点がぼけたような画面が次第にはっきり映し出されるという演出が入るのは、語っているうちに内なる自信をより確かなものに出来た暗喩だろうか。二羽の白い鳥が羽ばたきながら彼方へ飛んでいく描写も象徴的だ。
 プロデューサーも蘭子の話を聞き、イラストに込められているものが「聖なる存在の堕天」という世界観であるとついに理解する。自分の想いが通じたと破顔する蘭子と改めてPV企画についての話を始めるプロデューサー。そんな2人の様子を見守る卯月たちも笑顔を浮かべる。
 決定した蘭子のユニット名は「ROSENBURG ENGEL(ローゼンブルク・エンゲル)」。ドイツ語で「薔薇の城の天使」を意味するこの名称は、「聖なる存在でありながら闇に堕ちた堕天使」の持つ妖しい美しさを、美しさ(花)と危うさ(棘)とが共存しているバラに形容して表現している凝ったネーミングである。
 元々の名称が「ROSENBURG EKLIPSE(ローゼンブルク・エクリプス、ドイツ語で「薔薇の城を蝕む」)であったことを考えると、バラについての名称上の意味合いが若干変わったようであるが、蘭子の望むイメージを具象化するという点では怪我の功名的効果と言えるかもしれない。
 そして蘭子の新曲PVが今話独自仕様のエンディングテーマとして流される。曲は「-LENGE- 仇なす剣 光の旋律(しらべ)」。LENGEというのは「ENGEL」を逆から表記した造語で読みはそのまま「エンゲル」とのことだが、聖なる存在である天使と闇に堕ちた堕天使という、同一でありながら光と闇というまったく異なる属性を備えた存在を謳う曲のタイトルにはふさわしい言葉であろう。
 衣装もダークイメージを強調しつつ、背中の一対の羽は光と闇の暗喩と言える白と黒の色を湛え、歌詞も闇に堕ち罪の業火を纏いながらも堕天の存在として在り続けるというような、総じて蘭子のイメージに即したものに仕上がっている。

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 ついでに言えば今話の放送終了後すぐに本曲の発売日が告知されたが、アニマスも含めて劇中で初披露された新曲のCD発売としては非常に短いスパン(最速放送:3月6日→発売日:3月25日)になっているのも、デレマスのみならずアイマス全体としても初めての試みであり、今後の展開も含めて興味深いところだ。
 自信たっぷりに、そして楽しそうにPVを撮影する蘭子。その胸中には自分の言葉に込められた思いを理解してくれたプロデューサー、そしてシンデレラプロジェクトの仲間たちへの感謝の気持ちで溢れていた。

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 それから幾日か経ち、プロジェクトルームはそれぞれが持参した私物の効果により、今までよりも親しみやすい、「彼女たちのお城」に変わっていた。
 Bパート冒頭の描写から新たに追加されたものは、杏の巨大なうさぎ型クッションにみくの猫足型マグネット、美波が持ってきたと思しきキャンドルセット、きらりのソファーカバー、李衣菜のヘッドホンセット。未央や莉嘉たちが遊んでいるいわゆる「ブタミントン」はわかりにくいが、今話の脚本担当の言を参考に考えると、パターセットと入れ替えに未央が持ってきたと考えるのが妥当だろう。どちらも「みんなで一緒に楽しめるもの」であるところが未央らしい選択である。
 そこへやってきた蘭子に文字通り飛びつく未央。未央の「らんらん」呼びにはまだ若干の抵抗はあるようだが、抱きつかれても照れることなく笑顔を見せるあたり、以前よりも確実に蘭子と仲間たちの距離が縮まったことが窺える。
 蘭子の新曲CDは売り上げ好調のようで、今日もこれからステージの仕事が控えているらしい。未央も莉嘉も我が事のように喜ぶが、返ってきた蘭子の「月は満ちて太陽は滅ぶ。漆黒の闇に解き放たれし翼」という言葉は相変わらず難しく、容易には理解できない。
 ところがここに、その言葉を「今日も仕事で帰りが遅くなる」と完璧に理解した者が1人いた。仰天する一同にむしろみんなは今までわかっていなかったのかと返すみりあ。これにはさすがのプロデューサーも思わず突っ込みを入れてしまう。

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 無垢なる少女のような澱みのない純真な心こそが、言葉の壁や思い込みを超えた純粋な想いを理解するのに必要だった…ということなのかもしれない。

 シンデレラプロジェクトのこれからの進展に向けて互いが互いを、とりわけプロデューサーはアイドルたちをより深く知っていかなければならないというのは冒頭に記した通りであるが、今話はそのうちの後者、即ちプロデューサーの側に注目した内容となっている。
 今回目指されたのは6、7話での復帰劇を経てアイドルとプロデューサーの関係性の深化の必要性に改めて気づいたプロデューサーが、それをどのように実践するか、アイドルはそれに対してどのように対応するのか、それを見せることだったわけだ。
 アイドル同士の関係性についてのドラマを盛り込んでしまったら、今話の目指すところであるアイドルとプロデューサーの関係性についてのドラマという大事な焦点がぼやけてしまうことにもなりかねず、次のデビューアイドルをソロユニットとしたのはその辺りの物語的な説得力の付与という側面も多分にあったのだろう。
 さらに物語上の焦点をより浮き彫りにするという意味で、プロデューサーに決して空く感情は持っておらず、しかし意思疎通にはかなりの困難を伴い、他のメンバーアイドルも助け船を出しにくいキャラクターとして、プロデューサーと一対一で向き合うアイドルに蘭子が選出されたのは必然であったと言える。
 蘭子とのコミュニケーションがうまくいかず立ち止まりかけてしまうプロデューサー。そんな2人の関係性を回復させ、より強固にしたものとは結局のところ7話で未央や凛の心を救ったのと同様、彼自身の愚直なまでにまっすぐなその姿勢だった。お世辞にも器用な立ち回りとは言えないが、その真摯な想いは凛や未央と同様に蘭子の心を救い、関係性を進化させるに至った。これは言うまでもなく作品世界としてはプロデューサーのやり方こそがこのシンデレラプロジェクト、引いては所属する蘭子たちアイドルにとっては最良の方法であることを示唆している。
 7話でそのやり方を実践した結果としての今の凛との関係性を、蘭子とどう向き合えばいいか分からず悩むプロデューサーを凛の助言が救うという展開で描いておくことで、その示唆をより強調しているという点も忘れてはならない。
 忘れてならない演出上の良点と言えば、前話のラストから継続して描かれていたプロデューサーの丁寧口調を止めるか否か、という描写が挙げられよう。
 未央たちに言われた通りプロデューサーも何とか口調を変えようと努力はするものの、最終的には無理に変えるのは難しいという判断に落ち着く。しかし彼の口調が一時的にフランクになったから、また結局元の丁寧口調に戻ったからと言って、特にプロデューサーのアイドルへの接し方や話す内容が変わったわけではないし、逆もまた然りである。
 これが何を言っているか、今話を最後まで見た諸兄であればすぐに理解できるだろう。つまりこのプロデューサーの「変わらない」描写は、そのまま蘭子の口調が最終的に「変わらない」ことの物語的な肯定につながっているのだ。
 一般的に考えれば他人が聞いても意味がよくわからない言葉、しかも外国語のようなれっきとした言語ではなく単なる言い回し上の問題となれば、その言葉を使う側により平易な言葉を使わせようとするのが普通だろう。今話で言えば蘭子の言葉遣いがまさにその対象になるわけだが、今話の登場人物の中で誰一人蘭子の言葉遣いを平易なものに強制的に変えようとする者はおらず、現在の口調のままでその意味を理解しようと努めている。誰も蘭子に「変化」を強要していないのだ。
 相手を無理に変えようとする前にまず相手を理解しようとし、変わるか否か自体は当人の意思に任せる。これがプロデューサーの選んだ「まっすぐ」というプロデュース方針の最たるものであった。それは同時にかつてのアニマスのプロデューサーが選択した、そして歴代のアイマス作品で最も良しとされているアイドルとのコミュニケーションの手段でもある。
 アイドルの意思を尊重して一方的に抑えつけず、それでいてより良い方向に進めるよう行動する。今話でそれを実践してみせたプロデューサーは、本当の意味での「アイドルマスターのプロデューサー」にようやくなることができたと言えるだろう。
 そして変化を強要されなかった蘭子は、最終的に自分の意思で「自分の考えをきちんと相手に伝えるために勇気を出す」という変化を遂げている。実際にやれたことと言えばスケッチブックに描いた内容を見せるだけという傍目にはごくごく小さな変化であるが、喜んでスケッチブックを取り出したにもかかわらずその中身はきらりに見せようとしなかった5話での描写を思えば、今話でのこの変化は蘭子にとっては大きな一歩となったことは論を持たない。
 さらに言えばこの「相手に変化を強要しない」シンデレラプロジェクトメンバーのスタンスを、見ている側に素直に納得させる要因として、アナスタシアの存在及び今話におけるクローズアップも挙げられよう。
 知っての通りアナスタシアは日本語に若干不慣れなところがあり、ロシア語で呟いてから同じ意味の日本語を口にする、という独特の喋り方をする。日本語とロシア語、2つの言語が自分の中で共存しているという点において、アナスタシアは蘭子の鏡写しと言える存在なのだ。
 そして2話での初登場の時点から誰もアナスタシアに口調の修正を強要してはいない。このアナスタシアに対する皆の接し方、それ自体が「相手に変化を強要しない」スタンスを静かに作品世界に、そして見ている我々視聴者に根付かせていたと言えるのである。
 制作側がどこまで意図していたのかは不明だが、もしこの見せ方が相手に変化を強要せず自由意思を尊重するという本作らしい優しい世界観を根付かせるための計算であったとするならば、まさに見事と言う他ない。
 いや、この場合はやはり計算ではなく偶発的な要素が重なっての結果と捉えるべきか。振った賽の目が偶然良い結果に繋がるというのは、作品それ自体が計算を超えたパワーを内包していることの証左なのだから。

 今話ではプロデューサーとアイドルという関係性の深化が描かれた。となると次は当然アイドル同士の関係性の深化が描かれることになるのだろう。
 予告を見る限りではかな子、智絵里、杏の3人がメインになるようだが、杏という非常に癖の強いキャラクターを前に、他の2人はどのように立ち回るのであろうか。

2015年06月01日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第7話「I wonder where I find the light I shine...」感想

 ずっと待ち焦がれていた初のライブ。しかし目の前に広がっていたのは、バックダンサーとして始めてステージに上がった時とは比較にならないほど閑散とした光景。それは未央にライブの「失敗」を印象付けるには十分だった。
 失敗という認識、あの時の光景がまた見られると思い込み全く疑おうとしなかった愚かさ、ニュージェネレーションズのリーダーとしての役目を果たせず、デビューできていない他のプロジェクトメンバーの想いにも応えられなかった自責の念。
 未央の胸中に様々な想いが渦巻いていたであろうことは想像に難くないが、最後の最後に彼女の精神を追い込んでしまったものはそのどれでもなく、自分の混乱するその想いをプロデューサーに拒絶されたことだった。
 何より未央にとって辛かったであろうその事実は、彼女の抱いていたプロデューサーへの信頼感を完全に喪失させ、未央に「アイドルを止める」とまで口走らせてしまう。魔法の解けてしまった「シンデレラ」は、ひび割れ砕けたガラスの靴を残して走り去る。そしてそんな未央に対し、何故かプロデューサーは呆然とするだけだった。
 壊れてしまったガラスの靴は、二度とは元に戻らない。窮地の中で未央に卯月、凛、そしてプロデューサーは何を想い、どう行動するのであろうか。

 ミニライブから一夜明けた翌日、プロジェクトルームで卯月と凛は未央が来るのを待っていた。
 湧きあがってくる不安を打ち消そうとするかのように、未央はちゃんと来ると自ら口にする卯月だが、傍らの凛はそれに答えようとはしない。軽々しく同意をしないのは冷静な性格の凛らしい態度だが、今回に限っては「しない」と言うより「できない」とするのが正解だろう。
 卯月の言葉を肯定も否定もできない、極めて曖昧で不確かな状況。光を遮り部屋の中を薄暗く彩る曇天は、不安や戸惑いを抱く彼女たち2人の今の胸中そのものと言える。

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 不意に響いたドアの開く音に2人は思わず視線を向けるが、入ってきたのは2人の期待していた人物ではなく、プロデューサーだった。
 未央が来ていないことを凛から聞かされても言葉少なに返事をするだけのプロデューサーは、いつも通りの態度を取っているように見えるが、未央の家に行ってみたいという2人の懇願を拒否する彼の表情からは、明らかに普段とは異なる感情が胸中に湧き上がっていることが見て取れる。
 しかしそれが何であるかを彼が吐露することはなく、彼は未央の件はこちらに任せてほしいとだけ言い渡す。その返事はいつものように簡潔で端的であったが、今は殊更に頼りないものに感じられた。

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 不安を抱いているのは卯月や凛だけではなく、シンデレラプロジェクトの他のメンバーも同様だった。
 とりあえずはプロデューサーの言に従い、ルーキートレーナーの指導の下で卯月たちが日課のレッスンをこなす一方、レッスン場の片隅で未央のことを口にするかな子と智絵里。
 2人とも昨日の未央とプロデューサーのやり取りを直接聞いているのだから、未央が来ない理由も当然知っているわけだが、「力なく」という注釈こそつくものの、ライブ疲れで休んでいるのかもと直接の理由を明言しなかったのは、一緒に座っている李衣菜やみりあたち傍らの4人への気遣いもあったろうが、本当の理由を口にしたくなかったというのもあるのだろう。口にしてしまったら、その理由に起因している不安が、彼女たちの中でより明確なものとなってしまうかもしれないのだから。
 だが彼女たちとしてもその不安から目を背けるわけにはいかず、その意味でかな子たち年長組が意図的に口にするのを避けていた「未央が止めてしまうかもしれない」という不安を、最年少のみりあに言わせる流れは、物語上の展開としてもみりあというキャラクターから見ても、極めて順当な構成であったと言える。
 みりあの言葉を受けて莉嘉と李衣菜も不安を口にする中、ただ1人未央を「プロ失格」と断じるみく。未央たちよりも先にプロジェクトに加入し、デビューを迎えるその時までずっとがんばってきたみくが未だデビューできない中、トントン拍子に話が進んでいく後発組の未央たちニュージェネ3人に対しどうしても虚心ではいられないという、3話や5話でたびたび描かれてきた事実を考えれば、そのような発言が出てくるのはごく自然なことだった。

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 しかし言葉の内容とは裏腹にその声に怒気はこもっていない。むしろどことなくためらいがちに発言しているのは、みくのそんな複雑な気持ちを超えたもっと深い部分に根付いている、未央や卯月たちを案じる優しさ故であろう。
 レッスン中に思わず転倒してしまうほど精神的に不安定な状態の凛たちを思いやらないではいられないが、それでも未央の勝手な行為を許せない。今のみくがそんなアンビバレンツな感情を抱え込んでいる状態だというのは想像に難くない。

 当の未央は自室にこもり、力なくベッドに横たわっていた。見つめているスマホの画面には卯月に凛、そしてプロデューサーからのメッセージが表示されていたのだが、見つめるばかりで何らかのリアクションを起こす気配はなかった。
 と、その時スマホの着信音が鳴る。それはプロデューサーからの着信であったが、未央は出ようとはせずにスマホを放り出す。表情は全く映しだされないものの、今の未央がプロデューサーに対してどのような感情を抱いているのかは、その行動から容易に窺い知れるだろう。

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 ややあって部屋を覗きこんできた弟が、プロデューサーが自宅マンションの入り口に来ていることを伝えてくる。帰ってもらってと返す未央に自分で話すよう言ってそっけなく立ち去るあたり、弟は未央の現在の状態を知らないと思われるが、過剰に介入しようとしないこの兄弟関係は却ってリアルなものとして映るかもしれない(ちなみに未央は上に兄、下に弟という3人兄妹の真ん中である)。
 インターホンに出た未央は会いたくない、家にまで来ないでと短く、そして強くプロデューサーを拒絶する。プロデューサーの言葉にも耳を貸そうとしないその態度は傍から見れば自分勝手以外の何物でもないが、それを他ならぬ彼女自身が一番よくわかっているというのは、未央1人の問題ではないと話すプロデューサーの言葉への返答からもよくわかる。
 そして図らずもこのやり取りは、前話にて未央がプロデューサーへの信頼を失った最後のやり取りと酷似したものになってしまった。
 このような状況に陥っている原因が自分にあることも皆に迷惑をかけていることも、彼女はきちんと理解はしている。理解していても感情の面で納得できない今の彼女にとって、プロデューサーの言葉はあの時と同じ、自分でわかっていることをただ繰り返しただけだったのである。
 わがままと言えばそれまでだが少なくとも彼女が望む言葉ではなかったし、むしろあの時と同様に最も聞きたくない言葉だったに相違ない。自分で認識している自分の誤りをただ繰り返されただけというのは、弱っている彼女の心をより追いつめることにしかなっていないのだから。
 言わばこのやり取りで未央の「ガラスの靴」はより一層ダメージを受け壊れてしまったわけで、直後に描かれる346プロを出た卯月がガラスの破片を踏みつけてしまうというシークエンスは、その辺りの未央の感情の暗喩とも言えるだろう。
 夜も更けた頃、帰宅しようとしていた卯月と凛は、346プロの正門前で戻ってきたプロデューサーと鉢合わせる。しかし未央のことを尋ねられたプロデューサーは2人から露骨に視線を逸らし、未央の家に行きたいという2人の再度の頼みも、未央が会いたくないという意を汲みたいと断り、このままでいいのかという凛の問いにははっきり答えないまま立ち去ってしまった。

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 「未央が会いたがらないから」という理由は、当人の意思を尊重するという点では真っ当なものなのかもしれないが、彼の言葉の中に未央をいずれ必ず連れ戻すというやる気や熱意のようなものは感じられず、流れに任せているだけのような消極的な姿勢しか見受けられない。
 そんな煮え切らなさをプロデューサーの態度に感じ取ったのか、凛ははっきりと彼に対する不信感を募らせる。そんな凛の様子にも無反応だった卯月は、彼女自身が言うとおりかなり疲れている様子だ。今回の未央の件だけでなく、CDデビューに合わせてレッスンやプロモーション等をずっとやってきたことを考えれば、身体に疲れが出るのも止むを得ないところであろう。

 その夜、とうとう降り出した雨は次の日になっても止むことなく、街並みを濡らし続けていた。しとしと降る雨の音だけがプロジェクトルームに響く中、凛は昨日と同じ椅子、同じ位置に座って、来てくれるはずの人物を待つ。昨日とただ一つ違うのは、その傍らにいた人物もまた、今日は姿を見せていないことだった。

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 卯月までも姿を見せないという事実に、さすがの凛も焦燥感に駆られたようで、ロッカールームやレッスン場などを歩き回るが誰もおらず、レッスン場の掃除をしていたルーキートレーナーも、まだ誰も来ていないと言う。卯月に電話をかけてみるものの応答はない。
 一方自室にいたプロデューサーは、デスクに座ってはいるもののやはり心中穏やかではないようで、キーボード上の手も動かす気配はない。ふと傍らに置いてある写真を取ろうとした時、凛が卯月のことを尋ねに部屋を訪れる。
 プロデューサーは先ほど卯月の家から連絡を受けていたらしく、卯月は体調不良で休暇を取るという話だった。昨夜見せた疲れは体調を崩す前兆だったのであろうか。
 しかし未央については未だ連絡はないという。凛が今後の自分たちの去就についてプロデューサーに問いただすのは、昨日とさほど変わらないこの現状を考えれば、当然の質問だった。基本的に冷静な性格の凛だからこそ、未央がこのまま来なかった場合のことを嫌でも考えないではいられなかったのだろう。

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 凛の問いに「こちらで調整」「皆はそれぞれできることを」と返すプロデューサーだったが、そのあまりに中身のない内容は、どれも凛を納得させられるものではなかった。
 これからどうするつもりなのかと語気を強めてプロデューサーに問う凛の態度からは、明らかにプロデューサーに対する苛立ちが見て取れる。現在のこの状況が、プロデューサーが「見解の相違」と言い表した未央と彼とのすれ違いに起因しているのは明白であり、彼自身もそれを認識しているのにもかかわらず、事態を打開するための行動を全く行おうとしていないのだから、凛が苛立つのも無理はない。
 思えば前話で未央がアイドルを止めると言い残して走り去った時、凛が後を追おうとしなかったプロデューサーに厳しい表情を向けたのは、根底にその苛立ちの萌芽と言うべきものが生じていたからなのだろう。それがプロデューサーの煮え切らない態度を前にして、次第に顕在化、肥大化してきたのだと思われる。
 その自身の覚えている苛立ちを、凛は「逃げないでよ」とストレートに口にしてプロデューサーにぶつける。彼が凛をスカウトする際に言った「夢中になれる何か」。初めてステージに上がった時、初めての自分たちの歌を聞いた時、それが見つかるように思えたが、今はそうは考えられない、と。
 元々内面に直情的な部分も持っている凛らしい行動だが、ある意味ではこの時の凛は前話ラストの未央と同じような精神状態になっていたとも考えられるだろう。即ち自分の中の不安や苛立ちと言った、自分自身で処理しきれない感情を受け止めてほしい、解決できるかはともかく真正面から向き合ってほしいという想いがそこにはあったに違いない。それは無理からぬことだろう。彼女だって未央や卯月より理知的な面はあるものの、まだ15歳の年若い少女なのだから。
 独白する凛のカットが雨に濡れた窓ガラス越しの描写となっており、流れ落ちる雨水によって、さながら儚い陽炎のように凛が揺らめいて見えるという演出が、彼女の想いを何より雄弁に物語っていると言える。
 「あんたは何を考えてるの?」という最後の問いかけは、そんな極めて不安定な状態にある凛からの救いを求める言葉であったのかもしれなかった。しかしその言葉に対してさえも、プロデューサーはただ一言の謝罪しか返せない。

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 彼のその態度に一言、「信じてもいいと思ったのに」と言い残して立ち去る凛。それは未央に続いて凛の「ガラスの靴」までもが傷つき壊れてしまった瞬間でもあった。そしてプロデューサーもまた未央の時と同様にただ茫然と佇むだけで、自分の前から去りゆく「シンデレラ」に無力だった。
 ちなみにプロデューサーの前から未央や凛が去っていく時にオーバーラップする「シンデレラ」のシルエットは、原作ゲームにおけるキュート、クール、パッションの属性色でそれぞれ描かれているが、これが単なるイメージなのか、それとも具体的な対象者がいるのかは不明なままだ。個人的にはゲームでのイベントなどでよく使われている、「アイドル」を意味する抽象表現としてのシルエットに似通っているように見えるのだが、今後のストーリーに無関係とは今の段階では言い切れないだけに、留意しておくべき点かもしれない。

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 凛が帰ってしまったこと、そして卯月が休んでいることを知り、みく始め他のプロジェクトメンバーも動揺の色を隠せない。ただでさえ埒外にある彼女たちは今回の問題にほとんど介入出来ず、さらに渦中の3人が3人とも不在になってしまった状態では、皆が問題の解決はもはや絶望的と考えるのも無理からぬ話だろう。歯噛みするみくの描写がそんな各人の心境を如実に示している。
 そしてこのような状況に美嘉も1人苦悩していた。あの時半ば強引に3人を自分のライブに参加させたことが、今回の問題の遠因になったのではと自責の念を覚える美嘉。もちろん直接的な原因は未央たち3人の誤った思い込みにあり、前話の感想にも書いたとおり3話で見たあのきらめく瞬間を目標に据えること自体は悪いことではないのだから、彼女が責任を感じる必要は本来まったくないのであるが、責任を感じずにいられないのは3話や6話での面倒見の良い描写とも繋がる、派手な外見の内にある美嘉自身の優しさや真面目さ故からであろう。
 しかし現実問題としてこの問題は美嘉にも対処できるようなものではなく、莉嘉から相談を受けても答えあぐねてしまうのは仕方のないところだった。プロデューサーの対応を問いただす美嘉にみりあも力なく首を横に振るばかり。
 それに続く莉嘉の「あの人何考えてるかわかんないんだもん」という言葉は、未央や凛だけでなく莉嘉たち他のプロジェクトメンバーからも、プロデューサーへの気持ちが離れつつあることを示唆していた。アイドルとプロデューサーの信頼感が損なわれることは即ち、シンデレラプロジェクトそのものの存続にも影響を及ぼしかねない。今にも泣きだしそうな莉嘉の弱々しい声が、その危機的状況を端的に物語っていた。
 帰宅した凛は母親の呼びかけにも返事をすることなく、自室のベッドに横たわる。視線の先にあるのはコップに生けられた一輪の花、というシチュエーションは1話のラスト、卯月やプロデューサーからの言葉を受けた後の時と同じものだ。ただ1つ異なっているのは、その花の横にニュージェネレーションとラブライカ、つまり自分たちの出したCDが置かれていること。
 あの頃から様々な人に出会い、様々な出来事を体験し、変わっていくように思えた自分。本来ならそのCDはそんな変わりゆく自分の象徴となるはずのもの。しかし今の凛にとってはそのような価値すらも見出せなくなってしまっていた。窓の外の雨がちょうどCDに降り注ぐかのように重なるカットが、彼女の今の心情を代替的に物語っている。
 1話のあの時には自分の心に湧き上がる想いを確かめる如く胸に手をやっていた凛が、今は胸に当てていたその手を下ろしたというのも、その想いを彼女の中で完全に喪失してしまった証左と言えるだろう。

 いつも誰かしらがいて和気藹々としていたプロジェクトルームも、とうとう誰もいなくなってしまった。
 扉で仕切られたプロデューサーの部屋には一応プロデューサーとちひろさん、そして美波とアナスタシアがいたが、ちひろさんから今後の予定について説明を受ける2人の表情もやはり暗い。
 説明を聞き終え立ち去ろうとする2人に、プロデューサーが声をかけてくる。一昨日のミニライブについてどう感じたかを2人に尋ねるプロデューサーだったが、2人から視線を逸らしてのその質問は、まるで2人からの回答を恐れているかのようにも見える。
 2人は自分たちが抱いている正直な想いを伝える。ステージで歌っている間は何も考えられず、ただ歌うだけで精一杯だったこと、歌い終えて観客から拍手をもらった時、ここが自分たちにとっての第一歩なのだと嬉しく思えたこと、そして今のこの状況でどうすればいいのかわからないこと…。

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 無論彼女たちには何の落ち度もないし、先日のライブも彼女たちにとってはむしろ成功と言うべき内容だった。しかし同じプロジェクトのメンバーが、誤解によるものとは言え悩み苦しむままに離脱、その影響がプロジェクト全体に波及している現状で、自分たちは前に進んでいけるのか、不安を抱くのは当然のことと言えるだろう。
 しかしそんな2人の言葉を聞いてもなお、プロデューサーは答えを示さない。未央や凛からの信頼を失い、今また美波やアナスタシアからも、そして本人の知らぬところで他のプロジェクトメンバーからも信頼を失いつつあるこの状態は、プロジェクトのみならずプロデューサー自身をも確実に追い詰めていた。
 1つの事象を段階的に描いて範囲を拡大させつつ詳細な描写を盛り込んでいくと言うのは、アニマスからのアニメ版「アイドルマスター」シリーズがよく用いる演出手法であるが、このプロデューサーを追い込んでいく流れも実に巧妙な構成が仕組まれており、アイドルたちだけでなくプロデューサーも苦悩し、その彼の苦悩がまた他のアイドルを苦悩に追いやっていくという感情のやり取りの相乗効果による派生が、わずか10分足らずの短い時間で効果的に且つ明確に描出されている。
 この見せ方がアニメ版アイマスシリーズ独自のものであるというわけでは無論ないし、むしろ構成的には非常にオーソドックスなものと言える。しかしその基本的な要素を丹念に練り上げ構築することにより、地に足のついた骨太のドラマを生み出せるというのは、かつてのアニマスを視聴した大部分のファンであれば十分理解できるところだろう。

 その頃体調不良で休みを取っていた卯月は、自宅の部屋で寝込みつつ母親の看病を受けていた。どうやら発熱していたようだったがそれも落ち着いたらしく、母親も安心して部屋を出ていく。

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 体調不良で休んでいたのだから卯月が寝込んでいるのは当たり前の話なのだが、このシーンを見て驚いた、あるいは拍子抜けしたという視聴者も少なくなかったのではないだろうか。すなわち現在の状況に未央や凛だけでなく卯月もショックを受け、精神的に参ってしまったために休んだと考えていた視聴者も一定数いたのではないかということである。
 卯月も未央の今後について不安を抱いていたのは確かだから、体調を崩したのが彼女の精神状態とまったく無縁というわけではないかもしれないが、そういった劇中内の事情よりはむしろ、視聴者がある程度そのような勘違いを起こすと見越した上で、このブラフと言うべき流れを劇中に仕掛けた制作側の巧妙さを、ここでは堪能すべきだろう。
 もちろん「卯月が風邪を引いて家にいる」というシチュエーション自体がこれからの展開に必要なものであるから、このような手筈を整えたというのも事実であろうが、その上でこのようなブラフを仕掛けられるところに、制作陣のある種の余裕のようなものまで窺えて興味深い。
 寝込んだままでスマホの着信履歴を眺める卯月。一番上には凛からの着信が不在着信として記載されているが、そのすぐ次に表示されている自宅からの着信も不在着信となっていることを考えると、ちょうど凛からの電話がかかってきた時間は、病院なり薬局なりにいて電話に出られない状態だったと考えるのが妥当と言える。卯月はごく普通の女の子なのだから、病気で体調が悪くても構わず四六時中スマホをいじってツイッターのTLを眺め続けるような層とは違うと言うことであろう。
 凛からの着信履歴を見、連絡を取れず凛に心配をかけてしまったであろうことを気に病む卯月。未央の件も含めて、未だ彼女の胸中から不安が拭い去られていないという点がよくわかる。凛までも自発的にプロデューサーの下を去っていってしまったことなど、この時の卯月は無論知る由もなかったのだが。
 卯月はしばし1人でベッドに横たわる。少し引いた視点からのそのカットでは前話の描写で映らなかった部分もはっきり映っており、いかにも先ほどまでいた母親が片づけてくれたように見える床の本や、数枚の写真が貼られた壁のボードなどが見て取れる。
 ちなみにそのボードには2話での宣材写真撮影時にプロジェクトメンバー全員で撮った集合写真や、1話冒頭の冬のライブで撮らせてもらったと思しき美嘉や瑞樹たちの写真が貼られているが、それだけでなく1話で購入したアネモネの花や、CDデビュー決定時に家族で行ったのだろうお祝いのケーキ、そして養成所時代の仲間たちとの集合写真も貼られている。養成所時代は仲間たちがどんどんいなくなり、最終的に1人だけになってしまった卯月だが、その頃の記憶も良き思い出として彼女の中に息づいていることがはっきりとわかるカットだ。
 なおケーキについては、劇中で直接映ったのは5話Aパート冒頭のケーキの残りだけであったから、食べる前のホールケーキの状態が映されるのはこのシーンが初となっている。
 その時不意にドアをノックする音が響く。卯月の返事に続くように漏れ聞こえてきたのは、卯月が想定していた母親の声ではなく、何とプロデューサーのものだった。聞こえるはずのないものが聞こえてきた予想外の事態に、思わず飛び起きて大声を上げてしまう卯月。
 卯月を見舞いに訪れたというプロデューサーは、お見舞いの品だけ置いて帰るつもりだったものの、卯月の母親に勧められて仕方なく家に上がったらしい。
 それでもプロデューサーは卯月にドア越しに声をかけるのみで(ある意味当然とも言えるが)、見舞いの品を置いて帰ろうとするが、卯月に呼び止められる。すぐに行くから階下で待っていてほしいという卯月の言葉に、多少困ったような様子を見せながらも従うプロデューサー。
 リビングにやってきた卯月は、風邪を引いて休んでしまったことをまず謝る。風邪の話題を口にしたからか、ずっとベッドで寝ていて髪の毛がぼさぼさになっていることに気付き恥ずかしがる卯月。今話の脚本担当によると卯月は元々癖っ毛なのでこういう場合はぼさぼさとするよう、キャラ原案の杏仁豆腐氏から注文があり、話の展開とは別に力を入れて描写したという。
 髪の毛の件や突然の来訪ということもあるのだろうか、今一つ会話らしい会話を切り出せない2人。そんな2人への助け船のような立場として間に入ってきたのは卯月の母親だった。

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 フルーツと紅茶を出しつつ卯月以上ではないかと思われるような朗らかさで、娘がきちんとアイドルをやれているかと話しかけ、一昨日のライブに関しても不安がっていた卯月が1人で何度も練習していたことを楽しそうに語るところは、キャラクター原案担当である杏仁豆腐氏のメモに書かれていたと言う「卯月ママはパッション属性」という点を忠実に反映させていると言えるだろう。
 入学式など何かしらの節目に撮影されたと思われる卯月と母親のツーショット写真もいくつかリビングに飾られ、これを撮影したのがすべて父親であると考えると、親子中も非常に良好であることが窺える。これまでアニメのアイマスシリーズで登場アイドルの家庭環境が実際の親が登場する形で描かれてきたのは、765アイドルの如月千早程度であったため、古参のファンにとってもこの一連のシークエンスはなかなか新鮮に映ったのではないだろうか。
 恥ずかしがって母親を退散させた卯月は、未だ黙したままのプロデューサーも風邪を引いたのではと気遣う。実際に今のプロデューサーは意気消沈した状態なのだから、卯月がそう考えてしまうのも当たり前であるが、プロデューサーはまた例によって仔細を話そうとはしない。
 その時プロデューサーが目に留めたのは、卯月たちニュージェネレーションズのCDだった。卯月の両親が購入したものであるのは間違いないところだろうが、開封済の1枚を含めても合計16枚も購入しているには少々驚かされる。単なる親バカと言えなくもないが、それだけ娘がアイドルとして活躍するのを純粋に楽しみにしているのだろう。
 「純粋に楽しむ」その姿勢が娘の卯月にもしっかり受け継がれているというのは、同じCDを見つめながら、これからはどんな仕事をしていくことになるのか、今後への期待を述べる卯月に向けられた、どうなりたいかというプロデューサーの問いに屈託なく「テレビ出演ができればいいな」と答える彼女の様子からもはっきりと認識できるところだ。
 ややあって卯月は、過日のミニライブの件で心残りがあったと切り出してくる。言うまでもなくそのミニライブをきっかけとして未央や凛からの信頼を喪失してしまっているだけに、プロデューサーも卯月の次の言葉に思わず身構えるような姿勢を取るのは仕方のないところだろう。

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 ここで卯月の言葉に触れる前に考えておきたいのは、プロデューサーが卯月を見舞いにわざわざ卯月の家にまでやってきた、その理由だ。
 純粋に病欠している卯月を案じてと言ってしまえばそれまでだが、彼を取り巻く現状を考えれば、とてもそんなことをしている余裕はないと言うのは明白である。未央や凛のみならず他のプロジェクトメンバーからも信頼を失いつつある状態の中、彼がわざわざ卯月の家を訪れた理由は何であるのか。
 凛がAパートで言ったとおり、彼自身の「逃げ」の姿勢がそうさせたと考えるのは容易いし、実際にそういう側面も多分にあったのだろうが、ただ単に現実からの逃避だけを意図したのであれば、何も担当アイドルの許へ出向く必要はないわけで、そこには別の理由があると見るのが妥当であろう。
 では何故卯月の家へ行ったのか。卯月がミニライブのことに触れた際、プロデューサーが表情も体も強張らせた描写から考えると、このミニライブの件について卯月に聞くのが彼の目的だったのではないだろうか。もっと言えば彼女もまた未央や凛と同様、ミニライブでの出来事を通して自分に対する信頼感をなくしているのではないか、それを確認するために出向いてきたように思えるのだ。
 先ほど卯月が体調不良で休んだことを「精神的に参ってしまったためではと視聴者を勘違いさせるブラフ」と記述したが、もしかしたらその「ブラフ」に真っ先に引っかかってしまったのは、他ならぬプロデューサーであったのかもしれない。凛に未央と立て続けに信頼を失ってきてしまったプロデューサーだが、その酷な状況がいつしか卯月に対する信頼感を彼から見失わせてしまっていたのではないだろうか。
 本来であれば実際にどう考えているのか、この時点では確認の取れていない卯月よりも、今現在はっきりとした問題が起きている凛や未央の方に対処しなければならないのが道理であり、その点から言うと間違いなくこれは「逃げ」の行為なのだが、それ以上に卯月の自分への信頼感がどうであるか、彼にそのような想いを抱かせる、気づかぬうちに芽生え恐らくは今も気づいていないであろう己の猜疑心が真実であるか否か、それを確かめたいと言うのが最も強い動機なのではなかったかと、そう考えられるのである。
 そう考えると彼が卯月の家を訪れた時点で、見舞いの品だけ置いて帰ろうとしたのは、卯月が本当に風邪を引いて休んでいるという事実が確認できたからとも解釈でき、言わばこの時点でプロデューサーはいくらか救われていたと見なせるかもしれない。
 そして卯月がミニライブの件に触れた時、体を強張らせたのは、次に出てくる言葉が自分を否定する言葉と無意識のうちに思い込んでしまったからではないか。卯月への信頼感を見失いつつあるのと同時に湧き上がってきた猜疑心が、彼にそう思い込ませていたように見える。
 しかし卯月が次に話した内容は、彼にとって予想外のものだった。
 あのミニライブの時、卯月は最後まで笑顔で歌うことができなかった。だから次の機会がある時は最後まで笑顔で、凛や未央と一緒にステージに立っていたい。目を輝かせながらそう話す卯月を、ハッとした表情で見つめるプロデューサー。
 笑顔でやり切れなかった後悔があった。未央が戻ってくるかどうかわからない不安もあった。だがそのようなネガティブな感情よりもずっと強い未来への希望が、卯月の心の中に確たるものとして存在し続けていたのである。それは取りも直さず、自分たちの未来を示し背中を押してくれる存在であるプロデューサーへの信頼感が些かも失われていないことを意味していた。

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 アイドルになる夢をずっと抱きながらそれを叶えられずにいた卯月を見つけてくれた、自分を輝くステージに立たせてくれたプロデューサー。凛のようなスカウトにも未央のようなオーディションにも恵まれなかった、そういう意味では彼女ら2人よりも不遇な環境に卯月は甘んじていたと言える。しかし卯月はそんな状況にも決してめげることはなく、明るく元気に夢を信じて日々努力をし続けてきた。そんな彼女の象徴たる「笑顔」を理由に卯月を見出し、アイドルとして導いてくれた大恩ある人への信頼感が揺らぐことなど、彼女にとってはあろうはずもなかったのである。
 卯月にとってプロデューサーは夢を叶えてくれるかもしれない人であると同時に、一部ではあるがもうその夢を叶えてくれた人でもある。その「実績」や「体験」は、卯月にとって彼を信頼するに足る根拠として十分すぎるものであろうことは想像に難くない。だから彼女は今でも迷うことなくプロデューサーを信じ、彼が示してくれるであろう未来も信じることができるのだ。
 これまでの物語の中で卯月がプロデューサーとの間に紡いできた信頼という繋がり。その強さは自分の側から信頼関係を見失いかけてしまっていたプロデューサーの弱った心を奮起させるには十分なものだった。卯月の家を辞したプロデューサーは卯月の笑顔、そして2人がこれまで紡いできた絆の強さに後押しされるように、雨の中を駆けだしていく。その姿はアイドルとプロデューサーの関係性が強まることでより大きな力を育む、「アイドルマスター」の世界観そのものを象徴しているようでもあった。

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 事務所に戻ったプロデューサーはある物をかき集め、またすぐに出かけようとしたところで、ちょうどそこに現れたみくたちと鉢合わせする。
 プロジェクトルームに集まった11人は、みくを先頭に未央たち3人、そしてプロジェクト自体のこれからをプロデューサーに問いただす。その根底にあるのが自分たちが何を頼りにすればいいのか、誰を信用すればいいのかがわからなくなってしまったことへの不安というのは、「やっとデビューまで信じて待っていようって思えたのに」というみくの言葉からも容易に理解できるだろう。

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 現状、彼女たち11人は自分たちで積極的に動いて事態を解決できるような立場にはない。美波とアナスタシア以外は正式デビューすらしていない彼女らにプロジェクトの今後をどうこうできるはずもないし、ニュージェネ3人の去就についても未央の件は近くにかな子や智絵里たちがいたからある程度は把握可能としても、凛や卯月が今この場にいない理由はわからない(無論彼女たちも卯月が「本当に体調不良で休んでいる」と認識できていない)のだから、わからないことに対して対処できないのは当然だ。
 この状況に不安を覚えていても、自分たちはそれを打破するために動くことすらできない。それを口惜しく思っているというのは、凛や卯月の不在を知って歯噛みするみくの描写からも一目瞭然である。彼女たちはニュージェネ3人の今後やプロジェクトの今後そのもの以上に、それらがまったく明確に指し示されず、自分たちで示すこともできない現状に不安を抱いている。
 いや、ここはもう「怖がっている」と表現するのが正しいのかもしれない。自分たちが不安を抱いている要素のすべてが明確に示されず曖昧なまま、時間だけをズルズルと消費していく今の状況に対し抱く感情というのは、怖れ以外の何物でもないだろう。重ねて言うが彼女たちはまだ十代の年若い女の子なのである。湧き上がる負の感情を自分で制御することなど到底望めるものではない。
 莉嘉やみりあの悲しそうな声もだが、杏がいつものだらけた態度を取らずに皆を見つめるというカットが、逆説的に皆のそのような感情を強調し、浮き彫りにしてもいた。
 ここで以前のプロデューサーであれば、かつての未央や凛の時と同様に曖昧な言葉を返すだけだったかもしれない。だが今の彼には信頼という力に後押しされた強い想いがあった。その想いは彼にはっきり「大丈夫」と言わしめる。ニュージェネレーションズは解散しないし誰かが止めることもない、未央も凛も必ず連れて帰るから待っていてほしいと。それは今まで基本的に事実を淡々と伝えることしかしてこなかった彼が、少女たちに向けて初めて話した、彼自身の「望み」だった。

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 そんなプロデューサーの言葉を外で聞いていた大西部長は、彼が部屋を飛び出して行った後、皆を案じてか姿を見せた美嘉と共に部屋に入る。
 どうしたのかと尋ねてきた部長に、まだ若干弱々しいながらも「プロデューサーを待っている」と伝えるみく。
 確たる根拠はない、確約された未来の事象というわけでもない。ただ自分がこうしたい、こうしてみせるという純粋な希望、決意。未だニュージェネ3人も他の11人の未来も、そしてプロジェクトの今後もまだ曖昧なのは事実だが、プロデューサーが内に秘める強い意志を初めて明確に示した、その真摯な態度そのものが、怖れや不安に疲弊したみくたちの心を幾分なりとも救ったというのが、このみくのセリフから窺い知れるだろう。
 そんな少女たちに、部長はとある「昔話」を語り出す。
 それは1人のとてもまっすぐな性格の男の話。男はシンデレラたちが正しく道を進めるよう、いつもまっすぐに道を示してきた。しかしどれほど正しくとも、どんなにまっすぐな示し方であっても、時と場合によってはそれらすべてを息苦しく感じてしまう者が現れるのは避けられない。結果、幾人かのシンデレラが男の下を去っていき、それが繰り返されるうちに男はとても臆病になっていき、いつしか自分を「シンデレラをお城へ送るだけの無口な車輪」に変えてしまった。
 言わば自分で自分に枷という名の魔法をかけてしまったその男は今、その魔法を解き、再びシンデレラに道を示すために雨の中を走り続ける。傘も差さず、ずぶ濡れになりながらもまっすぐに。
 彼の導き出す結果を待ってみようと話す部長。その顔にはまるで結末がわかっているかのような穏やかな笑みが浮かんでいた。

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 未央は昨日と同様、ベッドに横たわったままだった。スマホに表示されている卯月からの未央を案じるメッセージを見やりながらも、卯月への謝罪の念やリーダーとしての責任を放棄した罪悪感を覇気なく吐露するだけで、ベッドから起き上がろうとはしない。
 昨日の、つまりAパートでの同様のシーンの時に比して未央が体をより小さく丸め、縮こまってしまっている描写からは、むしろ時間の経過により、彼女の中で罪悪感や孤独感と言ったものが一層膨れ上がってしまっているようにも見える。
 まして未央の見ていた卯月からのメッセージは、未央や凛に迷惑をかけないよう自分もがんばるから、未央が戻ってくるのを待っているという旨の内容のものばかりで、現在の未央の行動を否定する文言はまったく含まれていない。未央を信じ、未央に迷惑をかけないようにがんばるとまで言ってくれる卯月の優しさがわかるからこそ、実際に今最も迷惑をかけているのが自分であるとはっきり自覚している未央にとってはそれが重すぎる励ましであり、応えられないことへの罪悪感が未央の中でより顕著になってしまっていたのかもしれない。
 と、その時新たなメッセージが着信される。それはプロデューサーからのものだった。気のない態度を示す未央だったが、未央と話をするために家の下まで来ているというメッセージの内容を見て、思わず窓から階下に視線を向ける。

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 果たして階下、マンションの駐車場にプロデューサーはいた。事務所を飛び出した時と同じく、傘も差さずに1人で佇むその姿に未央も驚くが、思わず呟いた「あんなこと言っちゃったのに」という言葉からは、プロデューサーに向けて言い放った「アイドル止める」「もう来ないで」という類の発言に、ある程度の後ろめたさを覚えていたことを窺わせ、ごく普通にそう思える性格こそが未央の本質であって、無下に他人を突っぱねるような今の状態が異常なのだと見ている側に改めて認識させてくれてもいる。
 ところがそんなプロデューサーの下に、マンションの住人からの通報を受けたと思われる警察官が現れて話しかけてきたため、未央も驚いてしまう。
 まあ雨の中を傘も差さずただマンションを見上げているだけの男がいたら、住人が不審者と誤解するのも止むを得ないところであろう。1話での凛のスカウトの時にも見られたこのシークエンスは、張りつめた状態の未央の心を偶然とは言え若干緩和させる効果を発揮しているし、ずっと緊張して見続けていたであろう視聴者側にとっても、わずかながらにホッとさせてくれるシーンとして機能している。
 だがそればかりではなく少々飛躍させて考えてみると、良くも悪くも周囲を顧みない彼の行動は、彼の本来の性格であるまっすぐさに直結しているものと言え、その前提で見ると1話の頃から見られた彼のこの行動は、「無口な車輪」となってしまった現在の状態で、なお発露していた唯一の本来の彼自身と言えるものだったのかもしれない。
 さて前述の「未央の張りつめた心を若干緩和させた」効果は、未央がわざわざ階下に降りてプロデューサーの誤解を解いたと目されるシーンという形で描かれた。しかし未央はすぐ頑なな態度に戻って部屋に戻ろうとする。
 呼びかけたプロデューサーに小さく向けた「止めるって言ったよ」の言葉に、またも委縮するプロデューサー。かつて味わった、彼に本来の個性を抑えつけさせてしまうほどの苦い記憶が今また目の前で再現されていると考えれば今回の、更には6話ラストでの彼の態度にも納得はいく。
 その意味では彼もまた、シンデレラプロジェクトのアイドルたちと同じく「不安」や「怖れ」をずっと抱いてここまで来たのだろう。自分の言動や行動がいつかまた少女たちを追い詰めてしまうかもしれない。自分の最も見たくない光景、聞きたくない言葉を見、聞く羽目になってしまうかもしれない。その想いが彼を「無口な車輪」に変えてしまっていたのだ。
 そんな彼の心を救ったのは、1人の少女の信じる気持ち。自分の未来も大事な仲間も、そして自分を夢見た世界へ誘ってくれた人に対しても、揺らぐことなく信じ続けてくれる少女=アイドルの強い想いが、プロデューサーに力と勇気を与えてくれる。
 みくたち11人の「アイドル」の心を「プロデューサー」の決意が救ったように、「プロデューサー」の心を救ったのも1人の「アイドル」の強い想いだった。「アイドルとプロデューサー」という絆に支えられ、プロデューサーは今まで躊躇っていたその一歩を踏み出し、未央を力強く引きとめる。

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 実家の花屋で物憂げな表情を浮かべる凛の描写を皮切りに、プロデューサーと未央の会話が始まる。
 Bパート冒頭における卯月とのやり取りの開始時にもインサートされた凛のこの描写、意味するところは何かと考えてみると、凛のある心情に思い至るのであるが、それについては後ほど触れることにする。
 1階のエレベーターホールで話を始めたプロデューサーが未央に手渡したのは、あのミニライブの際にプロデューサーが撮影した3人の写真だった。写真に写っている自分自身の顔を見やり、全然笑っていないと自嘲気味に呟く未央。
 そこへプロデューサーが、ミニライブの後に告げた「当然の結果」という言葉の真意を語り出す。失敗して当然という意味の発言ではなく、ライブはむしろ成功だったと。
 「失敗」と決めつけている未央はその言葉を素直に信じようとしないが、プロデューサーは未央の傍らに腰を下ろし、未央に次の写真を見るよう促す。
 細かい点だがこのプロデューサーの「立っている→腰を下ろす」という動作の流れは非常に丁寧だ。誤解が生じていた部分を淡々と説明させる時は立ったまま、つまり未央と視線を敢えて合わせず、自分の考えをきちんと未央に伝える段になった時には腰を下ろし未央と目線の高さを合わせて、「対等に会話している」シチュエーションを構築している。
 ずっと立ったままで話をしていた場合、プロデューサーが未央に高圧的な態度を取っていると視聴者側に受け取られかねず、かと言って心情的に弱り切った状態の未央を無理に立たせるのは演出上難しいし、何より立たせたところでプロデューサーとの目線は、身長差から言っても合わず、どうしても未央が見上げる形になってしまう。ここで重要なのは「プロデューサーが未央に歩み寄る」こと。彼が未央に目線の高さを合わせて屈んだのは、苦い記憶を乗り越えて一歩踏み出した彼自身の決意の象徴でもあったわけだ。
 プロデューサーの指し示した写真には、3人のライブを見つめる観客の姿が小さく写っていた。笑顔を浮かべながら3人を見てくれている観客の姿が。
 言葉を続けるプロデューサー。確かに観客の数自体は決して多くはない。けれど写真に写っているこの人たちは、足を止めて3人の歌を聴いてくれていたのだと。
 数は少なくても3人の歌を聴いていた人はちゃんといた。歌を聴き、ライブを見て笑顔になった人たちがいて、3人は間違いなく自分たちの歌と踊りでその人たちを笑顔にしたのである。その事実こそがこのミニライブを成功と彼が判断した理由だった。「笑顔」をアイドルに必要な条件としてずっと拘ってきたプロデューサーらしい理由と言えるだろう。
 プロデューサーの言葉に、あの時観客から拍手をもらえていたことを思い返す未央。観客が喜び拍手をしてくれたという事実を、彼女もちゃんと記憶の片隅に留めていたのだ。しかし観客の人数にしか目を向けられないままライブを「失敗」と断じた、その思い込みが未央の視界を曇らせ、自分たちに拍手が向けられた、「失敗ではなかった」という事実の根拠さえも記憶の中で喪失させてしまっていたのだろう。
 本来ならばライブ終了後のあのやり取りの中でプロデューサーがそれに気付かせてあげなければならなかったのであるが、さすがにあの時点でプロデューサーにそこまで完璧な立ち回りを求めるのは酷と言うものである。その時の彼は物言わぬ車輪と同等の存在であり、苦しむアイドルを諭すような役回りは、当時の彼の中には存在していなかったのだから。
 今回の一件に明示的な悪人はいないし、悪と断じるべき行動を取った者もいない。しかし確実に2人の間には各々の「落ち度」が存在していた。それが事態をより深刻な方向へ推し進めてしまったのだ。
 そういう意味では随分遠回りしたものの、未央の心情に一歩踏み込む勇気を取り戻した彼は、あの時に本来すべきであったプロデューサーとしての役目をようやく果たせたのだと言える。
 あのライブは決して失敗ではなかった。しかしそれを自覚しても未央はなお顔を伏せる。それは未央の言葉からもわかるとおり、未央にとってミニライブは「成功」でもなかったからに他ならない。

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 未央のその考え方は今更言うまでもなく、自分の勘違いによってライブをダメにしてしまったこと、そして1人であの場から逃げ出してしまったこと。それら自分自身の行為に起因していた。プロデューサーの言うとおり客観的に見れば今回のライブは十分成功と言えるのだが、艦違いとは言えショックを受けていた状態でのライブパフォーマンスは万全ではなく、さらにはリーダーという立場であるにも関わらず、1人逃げ出して最後の最後に気まずい空気を作ってしまったという事実が、彼女に「自分のせいでみんなのライブをダメにしてしまった」という想いを今なお抱かせていたのである。
 顔を伏せる未央を前に、自分も辛そうな表情を浮かべるプロデューサー。今の彼には未央の心情が我が事のように理解できるのであろう。目の前の現実から目を背け「逃げた」ために多くの人に迷惑をかけてしまった、それはプロデューサーも同様だったからに他ならないからだ。
 凛に指摘された通り、彼は自らを「無口な車輪」に変えてかつての苦い記憶、そして今現在目の前にいるプロデュースアイドルからも「逃げて」いた。未央や凛の心を追いつめ、他のプロジェクトメンバーをも混乱させてしまったのも、彼のその逃げの姿勢による部分が大であることは明白なのだから、未央の苦しみに自分を重ねたとしても何ら不思議はないだろう。
 だがただ未央の心情に同調していればいいわけではない。彼はプロデューサー。アイドルが時に迷い苦しむことあらば、また一つの道を指し示してやらなければならない、そういう立場の人間なのだから。
 プロデューサーは未央に、そして自分自身にも言い聞かせるように一言、「戻りましょう」と呼びかける。
 それでもどういう顔で会えばいいのかと渋る未央に、だからこそこのままではいけないと語るプロデューサーは、「このまま貴方たちを失うわけにはいかない」と、自らの正直な想いを打ち明ける。初めて耳にしたプロデューサー自身の純粋な想いに突き動かされるように、涙を拭ってようやく顔を上げる未央。
 それはみくたち11人に向けたものと同様の彼の真摯な言葉が、未来を怖れ先に進むことを躊躇っていた未央に、不安を抱きながらも一歩踏み出す決意を固めさせた瞬間であった。いつしか雨も止み、厚い雨雲の隙間から光芒が差し込む空は、彼女のそんな心の様の暗喩なのであろう。

 雨も上がり日もだいぶ傾いた中、凛はハナコを連れてあの公園のベンチに腰掛けていた。
 そこは初めて出会った卯月の夢と笑顔に心を揺さぶられ、初めてプロデューサーの言葉に耳を傾けようと思えた、凛にとっての始まりの場所。
 そこで凛は自分たちの初めての歌を口ずさんでいたが、その声にやはり覇気はない。やがて歌も止め小さくため息をついたところに、凛を呼ぶ声が響き渡る。
 声の主はプロデューサーと一緒に駆けつけてきた未央だった。自分たちの姿を認めた凛に未央は、一瞬言葉に詰まりながらも自分の正直な想いを口にする。1人で逃げ出して皆に迷惑をかけてしまったことへの謝罪、そしてそれでもこのまま終わりたくない、一緒にアイドルを続けさせてほしいと。
 精一杯の言葉で懸命に紡いだ未央の素直な気持ちに、しかし凛は視線を上げることなく俯いたままだった。凛が未央を大切に思っているというのは今更語るまでもない話だが、ではなぜその凛が未央の謝罪と懇願を聞いても顔を上げなかったのか。

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 あのような形でライブという「仕事場」から未央が逃げ出したことについて、完全に虚心でいられたのかはわからないが、仕事上の是非はともかく凛が卯月と共にひたすら未央を案じ、未央の自宅に向かおうとまで考えた事実があるのだから、今更未央に殊更腹を立てた結果としての行動とは考えにくい。
 そこまで考えると凛の心理状態が見えてくる。未央は凛たちと再びアイドルをしたいと願って戻ってきた。ところが当の凛が今はアイドルというものに意欲を見出せなくなってしまっている。未央が改めて顔を上げ一歩を踏み出した時点で、凛と未央とで心理面における立場、立ち位置と呼ぶべきものが逆転してしまっており、それ故にアイドルを続けたいという未央の言葉に視線を上げられなかったのではないだろうか。
 未央の想いだけでは今の凛の弱った心は戻らない。そんな凛に向け、彼女の心を著しく憔悴させたであろうもう1人の人物が歩み寄る。
 プロデューサーからの呼びかけに視線を向ける凛。プロデューサーは自分のこれまでを振り返り、凛たちと正面から向き合わず逃げていたこと、そのために凛や未央たちを混乱させ傷つけてしまったと語る。
 だがここでプロデューサーは謝罪の言葉を口にしない。何故なら凛はAパートでのプロデューサーとのやり取りで「謝罪」自体は聞いているから。プロデューサーがそれを念頭に入れていたというわけではないだろうが、少なくとも今の凛に必要なものは謝罪の繰り返しではなく、未央たち他のアイドルと同様に、プロデューサーが素直な気持ちを凛に打ち明けることだったのだ。
 彼の言葉に触発されたのか、凛も静かに語り出す。アイドルが何なのかよくわからないまま初めて、よくわからないままここまで来た。でももうこれまでのようにわからないままは、迷った時に誰を頼ればいいのかわからないままなのはもう嫌だという凛のその言葉は、単に内面の不安を吐露しただけではなく、その不安に自分1人では抗いきれない、彼女の弱さをも曝け出していた。

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 Aパートの時のように気を張ってプロデューサーを問い詰めるわけでも、まして叱咤するわけでもない。その性格故に普段は、そしてこのような状況に至っても容易に露わには出来なかった、しかしずっと胸の奥に秘めていた自分自身の弱さを、凛は恐らく初めてプロデューサーという他者の前に曝したのである。
 それは今回の出来事のみならず、アイドルそのものに対して常に彼女が心のどこかで引っかかっていたものだったのだろう。卯月や未央のようにアイドルというものに対する明確な憧れや目標のない自分が、アイドルという自分のまったく知らないものになっていく、そのことに怖れを抱かないはずはなかったのだ。
 そして無理もない話であるが卯月も未央も、そしてプロデューサーも、彼女のそんな弱い面に気づく者は誰もいなかった。今まではそれでも良かったが今回のような重大事に直面し、自分よりもずっとアイドルに愛着を持ってきた未央がアイドルを止めると言い出したその時から、凛は弱い自分を抑えられなくなってきたに違いない。
 弱い自分を支えてほしい、だがそれを一番期待していたはずのプロデューサーに対する信頼感は喪失してしまった。それでもやはり諦めきれない。凛のそんな複雑な胸中を描くための描写、それが卯月や未央とプロデューサーがそれぞれ会話を始めるシーンの冒頭でインサートされる、実家の花屋での凛の様子だったのではなかったか。期待できないけれども完全には割り切れない、そんな十代の少女の相反する想いを見せるのがあのシーンの目的であったように思えるのである。
 その直後からプロデューサーと卯月や未央の会話シーンが始まるのは、凛が打ち明けられるまで、凛の本心が聞けるほどになるまでに、プロデューサーが卯月・未央との会話を経て成長する、段階的なプロセスを明示する意味もあったのかもしれない。
 自身の弱さを曝け出すのは凛にとって重大な選択であったろうことは疑いない。もし自分のこの気持ちさえも拒絶されてしまったら、少なくともアイドルを続けることは完全に不可能となるだろう。目線を下げつつ独白する凛の姿からは、そうなることを怖れている様がありありと窺える。
 それでも言わないではいられなかった凛にプロデューサーは歩み寄り、もう一度みんなに信じてもらえるよう努力すると、凛に手を差し伸べる。無論これもはっきりと約束できる類のものではないかもしれない。しかしはっきりと凛を見つめて話すプロデューサーの真摯でまっすぐな想いは、凛の怖れを次第に霧消させていく。

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 しかしその怖れをまだ完全に打ち消すことができないのか、差し出されたプロデューサーの手を取ろうと出した自分の手を、凛は下げようとしてしまう。
 そんな凛の手を引きとめたのは、駆け寄った未央の手だった。未央はプロデューサーと凛の手を取り合わせ、想いを込めて凛に呼びかける。
 かつて卯月の想いに触れてプロデューサーへの信頼感を抱き始めた凛が、今また未央というもう1人の仲間の助力を受け、改めてプロデューサーとの信頼を紡ぎ始めようとするシークエンスは1話の再現であると同時に、未央とも同様のプロセスを経ることで凛がかつての1話で卯月に抱いた想いと似て非なる想いを未央に抱かせ、凛にとって卯月と未央の双方とも極めて等価な存在=仲間であることを再認識させる構成にもなっている。
 つまりこの時にしてようやく3人は、「ニュージェネレーションズ」の仲間としてとりあえずの完成を見たと言えるのである。
 だからあの時と同じ「夢中になれる何かを見つけに行こう」というプロデューサーの言葉も、素直に受け止められるほどには信頼感を取り戻すことができたのだ。
 出自も立場も異なっていた3人が、図らずも同様のシチュエーションを経て結束を高めるその話運びは、実際に画とするためには細かい伏線を幾重にも張り巡らす必要があるというのは、1話からずっと視聴してきた方であれば容易に理解できるところだろう。離れ業と言ってもいいこの構成をきちんとクライマックスに持ってきた制作陣の手腕には、今更ながら舌を巻かざるを得ない。
 プロデューサーの手に引かれるように立ち上がった凛、そして未央に、「明日からもよろしくお願いします」と伝えるプロデューサー。2人の力強い返事は、勘違いとすれ違いの中でいつしか見失っていたものを再び見定めた証であった。

 すっかり天候も回復して青空が広がる翌日、凛と未央はシンデレラプロジェクトに戻ってきた。
 揃って頭を下げる2人に涙を見せながら飛びつき、戻ってきてくれたことを喜ぶ卯月。未来への希望を失うことはなかったものの、不安を拭い去ることも出来なかった「普通の女の子」である卯月らしい行動だろう。それでも2人に何も言わずただ戻ってきたことを喜んでくれる卯月に、凛も未央も救われたような笑顔を見せる。

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 ちなみに厳密には卯月は寝込んでいたため、その間の凛や未央にプロデューサー、他のプロジェクトメンバーの様子はまったく知らないのであるが、それについて卯月自身がどう捉えて何を思ったかという点については、本放送では今話の翌週、8話の一週前に放送された特別番組「スペシャルプログラム」内における1話から7話までの出来事を卯月の視点で振り返るというコーナーにて、卯月のモノローグという形で触れられているので、機会があれば是非視聴していただきたいところだ。
 部長に一礼したプロデューサーは11人の方に向きなおり、自分たちが戻ってくるまで待っていてくれたことへの感謝と、改めてシンデレラプロジェクトを進めていくことを伝える。

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 一緒に一歩ずつ階段を登っていこうと呼びかける彼の言葉に大きく返事をする一同。紆余曲折あったものの、結果的にはプロジェクトとしての結束もより高まったのかもしれない。それはそのすぐ後に未央から出た「プロデューサーの丁寧口調を止めてみたら」という提案に、皆が賛意を示すところからも察せられるだろう。
 少々困った態度を取りながらたどたどしく言葉を言い直すプロデューサーに、部屋の中はひとしきり楽しげな笑い声に包まれる。そんな様子を扉の向こうから美嘉は1人、笑顔を浮かべながら聞いていた。
 今回の出来事が無事に解決して胸をなでおろしているのは美嘉も同じだったわけだが、中に入ってはというちひろさんからの誘いを、部外者だからと少々寂しそうに断る姿も印象に残る。彼女が今後シンデレラプロジェクトの面々と関わることはあるのだろうか。
 そして卯月、凛、未央の3人はプロデューサーと共に、ミニライブを行った会場を再び訪れる。
 心残りもあったし、辛い経験も苦い想いもたくさん味わった初めてのライブ。しかし同時に彼女たち3人の中に残ったものも、新たに育まれたものも確実に存在している。それらすべての、そして彼女たちニュージェネレーションズにとっての始まりの地と言うべき会場を、複雑な表情で見つめる凛と未央。
 その中にあってただ1人、卯月だけは一切の迷いなく、次に行うであろうライブに想いを馳せていた。凛に未央、そしてプロデューサーと一緒にどこまでも前を見て、夢に向かって進むことを願う卯月の揺らがない想いに、2人も思わず笑顔を作る。卯月のその強い想いは、2人にとって心の拠り所となるのだろうか。
 3人は手を取り合い、今度こそ自分たち自身の足で歩み始める。夢を叶えるため、求めるものを得るため、そして一度失った「ガラスの靴」を再び自分たちのものとするため、かつて自分たちに勇気をくれた大事な言葉と共に、いつか見たきらめくステージを目指して新たな一歩を踏み出すのであった。

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 今話の中で描かれているのは本文中で何度も触れているとおり、「アイドルとプロデューサー」という関係性の喪失と再構築である。アイドルマスターという作品そのものが、基本的にその二者間の関係性を中心軸として作品世界を展開させているのであるから、アイマスの名を冠する本作においても、この関係性を物語世界の根幹に据えるというのはごく自然な流れであろう。
 アイドルとプロデューサーが互いを信じあい、より強い絆を育むことでそれぞれが願う夢や目標に向かって歩み続ける原動力が生み出される。既に先達たるアニメ版アイドルマスターで幾度となく描かれてきたテーゼであるが、本作ではその流れを一旦初期化し、二者の信頼関係がいかにして生み出されるか、困難を乗り越えて育まれるのかを改めて初手から描くことに注力している。
 その意味ではプロデューサーに出会った1話の時点で強い信頼感を抱いていた卯月、逆に1話開始の時点ではむしろマイナスに振り切れていたものの、段階的に信頼感を積み上げてきた凛、そしてオーディション選抜という経緯もあってか3人の中では可もなく不可もなくと言ったスタンスだった未央の3人に焦点を当てて、それぞれの関係性構築と喪失
を描いたのは、三者間における対比がしやすいという意味でも非常にわかりやすい構成として仕上がっていた。
 そして喪失した信頼関係を取り戻す、回復させる手段として全編通して貫かれている、もっと言えばアニマス本編の時分から一貫している理念は、理屈ではなく各々の極めて純粋な想いを相手に届ける、ということだった。相手がそれを受け止められるかはわからないし、言ったところで未来が自分の願うとおりになるかどうかも不明ではあるのだが、まずは自分の素直な想いを信じたい、信じてほしいと思う相手に自分の心からの想いを曝け出すこと。決して最良の選択とは言えないが、本作においてはそれが最適解なのである。
 その視点に立って考えてみると、卯月だけがプロデューサーへの信頼が揺らがなかった理由も容易に理解できる。彼女は3人の中でただ1人だけ、事務的な内容や客観的な事実だけでない、プロデューサーの「本音」を間近で聞いてきていたのだ。
 1話で1人レッスンに励む卯月の成果に「いい感じですね」と、3話でバックダンサーの大任を果たした卯月に「いいステージでした」と言葉少なに、しかしはっきりと自分の想いを伝えている、全体通してみればほんの些細なやりとりであるが、それが大きな柱のような存在となって卯月の心を支えてきた、だから彼女は迷うことも見失うこともなかったのである。
 素直な想いを相手に届けることが、互いの関係性をより強くする。6話から生じていた一連の問題の解決の糸口は、1話や3話の時点で実は既に明示されていたのだ。
 そして良くも悪くも常に素直な未央に対してプロデューサーは自分の正直な気持ちを話し、凛はそんな2人を前にやっと他者のことではなく自分自身の素直な想いを口にする。それぞれがやるべきことに気づき、あるいは気づかされ、互いにそれを実践する。
 当たり前だが信頼関係というものは互いに相手がいて初めて成立する関係だ。だからこそ一度喪失したその関係性を再構築するためには、互いの心の交流を描くことが必須となる。それをドラマとして描くには非常に丹念に且つ丁寧に各々の心情や交流を描写する必要があるが、本作の制作陣はそれに真正面から臨み、見事に喪失と再生の物語として完成させた。その手腕と作品に対する真摯な姿勢には、今更ながら感嘆を禁じ得ない。
 本作がこれからどのような挿話を紡いでいくのかはわからないが、少なくとも本編に登場するアイドルの少女たちにとって、どんな形であれ幸福な結末が待っていることは間違いないと、改めてそう確信させてくれるような、今話はそんな物語であった。

 もう一点触れねばならないところとしては、このアイドルとプロデューサーという関係性の喪失と再生というテーマは、かつてのアニメ版アイドルマスターでも描かれたものだった。
 古参のファンには今更説明不要だろうが、アニマスの6話から13話に至るまで、物語の縦糸軸として連綿と構築されてきた「美希とプロデューサー」の物語である。
 別にどちらがどうと比較するわけではなく、かつてのアニマスが第1クール終盤を彩るメインの物語の一つとして用意していたこのテーマと同じものを、本作では第1クール序盤の物語の目玉として用意してきたことに注目したい。本作とアニマスの関係は、同様のテーマを掲げていても、構成や演出の仕方が変われば内容そのものはこれほどまでに変容するというこれ以上ない好例と言えるだろう。
 とりあえずは第1クール終盤を彩る物語がどのようなものになるのか、そこに大いに期待したいところである。

 さて一つの大きな問題が解決したシンデレラプロジェクト、彼女らが次に直面する物語は如何様なものとなるのか。
 特番を挟んでの第8話からは他のプロジェクトメンバーに焦点を当てていくようだが、どのような展開になるのか、興味は尽きない。

2015年05月25日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第6話「Finally,our day has come!」感想

 卯月、凛、未央の「ニュージェネレーションズ」に、美波、アナスタシアの「ラブライカ」。5人のCDデビュー決定に伴って発生した騒動もとりあえず一段落し、ユニット名もそれぞれ決定した5人は、いよいよデビューに向けて全力を傾注していくこととなった。
 デビューと一口に言ってもただCDを出すだけではなく、関連するプロモーションも並行してこなすわけだが、その最たるものはCDデビューを記念してのミニライブである。小規模とは言えラブライカの2人にとっては初めて、ニュージェネの3人にしても自分たちがメインとしてステージに立つのは初の体験となるだけに、このミニライブが5人のこれからのアイドル活動を左右する重要なターニングポイントとなっているのは間違いないだろう。
 5話での5人の様子を見る限り、一部に不安を覚えている者はいても具体的に失敗を誘引する要素はほとんど存在していないように見えるが、さて…?

 上述の通り、ニュージェネ3人のレコーディング風景を見ても、特に不安な要因は見当たらない。初めてのレコーディングに卯月あたりは若干緊張しているようだが、未央ともなるとむしろ心底から楽しんで臨んでいる様が容易に見て取れ、3人共に好調なようだ。
 レコーディングした3人のデビュー曲「できたてEvo!Revo!Generation!」も上々の仕上がりのようで、プロジェクトルームでサンプルを聞く3人も、初めての「自分たちの歌」に目を輝かす。

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 後ろで聞いていたプロデューサーも例によって露骨な態度にこそ示さないものの、静かに指でリズムを取っているところからは、彼自身もその出来に十分満足していることが窺える。
 続いて行われるのは雑誌の取材。3人への取材を行うのは、かのアニメ版アイドルマスターを見続けたファンにとってはお馴染みの人物、即ち善澤記者であった。765プロダクションの高木社長や961プロダクションの黒井社長とは若い頃からの馴染みで、いつもアイドルに関する良質の記事を執筆している敏腕記者である。

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 これまでアニメ版アイドルマスターと本作「アニメ版シンデレラガールズ」の世界観が同一のものであるという明確な説明はなかった(と筆者は記憶しているのだが、実際にはどこかの記事のインタビューで軽く触れているものがあるらしい)のだが、2月16日配信分のネットラジオ「デレラジA」における美嘉役・佳村はるかさんによると、善澤記者役の星野充昭氏とアフレコ時に話をしたのをきっかけに世界観の繋がりについて確認を取ったところ、アニマスと本作(デレアニ)は同一の世界観だと説明を受けたらしい。
 今のところはだから何だ程度の話でしかないのだが、後々共通の世界観であることを生かしたエピソードが作られないとも限らないので、覚えておいて損はないだろう。
 そのインタビューも卯月が一番緊張して未央が一番元気がいいのはレコーディングと同様だったが、未央がいつにもまして元気なように見えるのは、この場面で初めて判明したことだが、彼女がニュージェネレーションズのリーダーを務めているからかもしれない。
 劇中で選ばれるシーンが描かれてはいないのでいささか唐突気味ではあるが、確かに3人の中では一番緊張する場面の多い卯月や、性格上どうしても言葉少なになりがちな凛と比して、明るく社交的な性格の未央は最もリーダー的な気質を備えていると言えるだろう。
 件のインタビューも「がんばります」程度のことしか言えなかった2人と違い、ライブやイベントなどこれからの目標を身振り手振りを交えてまくしたて、新人ユニットとしては十分すぎるほどのインパクトを残している。
 インタビューを終えた後もまだしゃべりたかったと呟く未央に、凛はもう十分話したのではと苦笑するが、卯月はそんな未央の姿にリーダーとしての頼もしさを覚えていたことを素直に話す。未央もリーダーとしての責任を自覚した上でインタビューを受けていたようだが、それでもまだ物足りなく感じている様子。それはインタビューの内容だけでなく、インタビュー自体がプロジェクトルームの一角で行われた小ぢんまりとしたものであることも影響しているようだ。
 未央としてはもっと派手な記者会見のようなものを開くかと思っていたようだが、新人アイドルがデビューする時の様子というものを知らない3人は、実際の状況が自分たちの実態に即したものになっているか、今一つ自分たち自身で判断しかねているらしい。
 ふと、自分たちと入れ違いにインタビューを受けているラブライカの2人が気になった3人は、インタビューが行われている部屋をこっそり覗いてみる。
 2人は落ち着いた様子で淀みなくインタビューに答えていた。自分たちのことだけでなく、歌を聴いてくれるファンのことも考えた模範的な回答内容に3人も、そしていつの間にか一緒に覗いていたみりあに莉嘉、みくも感じ入る。

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 だが人数がいきなり増えた上、めいめい勝手に呟き始めたため次第に騒がしくなってきて、最終的には覗き見しているのが見つかってしまった。あまり品のいい行為ではなかったが、以前よりは確実に打ち解けてきたプロジェクトメンバー同士の仲の良いやり取りは見ていて微笑ましいものがあるし、その様子を善澤記者が以前から懇意にしている事務所のアイドルたちと重ねていたら、などというifを考えてみるのも面白いだろう。
 インタビューが終わった後、美波たちのしっかりした受け答えを褒める卯月だったが、2人は実際のところかなり緊張していたと言う。そんな風には見えなかったと感想を述べる凛だったが、2人は実はあらかじめインタビュー内容を想定した練習を行っており、そのために自分たちの伝えたい気持ちをスムーズに話すことができたのだった。
 周到な準備ぶりに自分たちもそうすれば良かったかと若干後悔する3人だったが、インタビューで伝えられなかった分、ミニライブでがんばろうという未央の言葉に、凛も卯月も同意する。
 そこへ現れたのは、3話以来の登場となる美嘉だった。CDデビューが決まったことを聞きつけて、様子を見に来てくれたのである。デビュー決定と発売イベントの実施に、まずは祝福の言葉を送る美嘉。美波やアナスタシアとのやり取りを見るに、美嘉はニュージェネ3人以外のプロジェクトメンバーとも、恐らく第2話の初登場以前からそれなりの親交はあったようだ。美嘉もまた社交的で面倒見の良い性格であるし、身内である莉嘉が所属していることもあって、メンバーと打ち解けるのも比較的早かったであろうと思われる。
 美嘉はイベント中に行うミニライブに向けた練習について尋ねるが、物怖じせず自信満々に答える未央に、少々驚いた表情を見せる。美嘉にしてみれば初のメインイベントだけあって、当然緊張しているものと思っていたのだろう。と言っても緊張していないと言い切れるのは未央だけで、卯月のように普通に緊張している者もいるわけだが。
 そんな卯月をフォローする未央や凛に、美嘉も3人が本番に強いのは自分が一番知っているからと激励するのだった。

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 当たり前だがレッスンに妥協は許されない。今日もベテラントレーナーの厳しいレッスンが行われるが、ニュージェネ3人は個々人のパフォーマンスにまだ結構な差があるようで、特に卯月にはベテラントレーナーからの𠮟咤が飛ぶ。
 それでも決してめげることなくさらにがんばろうと前向きな姿勢を崩さないのは、卯月という少女の強みだろう。
 レッスン終了後に姿を見せたプロデューサーからの指示を受け、3人は衣装室へ向かう。そこにはイベントのために用意された3人の新しい衣装があった。共通のデザインに要所要所のアクセントにはそれぞれのイメージカラー(原作ゲームで言うところの「属性色」)が用いられており、その仕上がりには3人も満足の様子。

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 動きやすさやヒールを履いた状態でのダンスに考えが及んでいるのは、バックダンサーとして一度ステージを体験した故の精神的な余裕があればこそのものだと言える。
 衣装を身にまとった未央は、本番で自分たちが体験するであろうステージに想いを馳せる。3話でのステージで見たあの輝くばかりの光に包まれる光景をもう一度、しかも今度は自分たちがメインのステージで見ることができる。いやがうえにも高まっていくその気持ちは、卯月も凛も同様だった。
 遅れてやってきたラブライカの2人やプロデューサーも3人の衣装姿に目を奪われ、感想を求められたプロデューサーも、相変わらず言葉は少ないものの似合っていると褒める。
 そして美波たちも用意された衣装を着用する。2人に取って初めての自分たち専用の衣装は、ガーリーなデザインのニュージェネ衣装と違い、大人の女性らしさを強調したアダルティなものだった。

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 大胆なデザインの衣装に少し恥ずかしがる美波だが、そんな衣装をきちんと着こなしているあたりはさすがである。凛から似合っているとの言葉をもらい、嬉しそうに微笑むアナスタシア。
 5人の様子を見にやってきたかな子や智絵里、きらりも皆の晴れ姿を喜び、当日も応援に行くと約束する。自分たちを応援してくれるプロジェクトの仲間のためにも、先陣を切る立場として必ず成功させるという未央の言葉に、他の4人も力強く頷くのだった。
 プロデューサーもその日に向けて準備を着々と進めていた。と、その様子を見に部長が彼の居室を訪れる。
 だが単にプロデューサーの仕事を労うだけではないその口ぶりは、アイドルたちも我々視聴者も知らないプロデューサーの何かを知っているようであり、その言葉にプロデューサー自身も何かしら思うところがあるようだった。

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 夜、自分の部屋で未央は学校の友達と忙しく連絡を取り合っていた。5話での友達との会話の中で言っていたように、ミニライブ当日に会場へ来てもらうため、友達を誘っていたのである。
 友達に一通り連絡するだけでもかなり大変な様子で、5話でも見られたとおり、未央の友達の多さや交友関係の広さがよくわかる一幕だ。
 連絡先のアドレスを見ていた未央はふと凛のアドレスに目を留め、特にこれといった用事があるわけではなかったが、凛に電話をかけてみる。
 凛の方は自室でデビュー曲の歌詞を見返しているところだった。見ているうちに気になる箇所が出てきたという話を聞いた未央は、ちょうどそこが3人でのユニゾンのパートであったため、一度3人で意識を合わせておこうと卯月にも連絡を入れる。
 それについては翌日意識合わせをすることになったが、何気ないきっかけとは言え未央が率先して連絡を取らなかったら、凛の懸念を知るタイミングも少し遅れていたわけで、先手を取って動けるようになったのは未央の功労と言えるだろう。
 その後も意識を合わせた上でのレッスンが続くが、どうしても3人の中では卯月のダンスにミスが生じてしまっており、宣伝のために出演するラジオ番組の放送局で待機している時も、卯月は1人ダンスの方に意識が向かっていた。
 3人が出演するラジオとは、デレマスアイドルの1人である高森藍子がパーソナリティを務める「高森藍子のゆるふわタイム」だった。穏やかな性格から独特の「ゆるふわ空間」を作り出すことに定評のある藍子らしいタイトルのラジオで、写真を撮るのが趣味になっている彼女の個性を反映して、ブース内の彼女の机にもトイカメラが置いてあるのが細かいところだ。

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 ラジオ収録後、事務所に戻ってきてからも卯月は1人自主練習を続けていた。決してあきらめずにがんばり続ける卯月の姿勢は1話の頃からずっと描かれてきたものであるが、今はあの時と違い凛や未央という仲間もいるにもかかわらず、彼女は1人だけで練習を行う。
 それはレッスンの時に1人だけ失敗しており、2人に迷惑をかけないようにという配慮からだった。2人の足を引っ張っているかもしれないという負い目もそこにはあったかもしれないが、姿を見せた2人へそう答える卯月に対し、未央は3人でやった方が早いと明るく呼びかける。

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 今の卯月は1人で練習を行うしかなかった1話の頃とは違い、彼女の隣で一緒に歌い踊る仲間がいるのだ。そのことを改めて自覚させてくれた未央や凛に感謝しつつ、卯月は3人で一緒に自主練を継続する。それは仲間の心情を理解した上で力強く引っ張っていける、未央のリーダーシップが遺憾なく発揮された結果でもあった。
 その様子を1人遠くから見つめていたプロデューサーは何を想うのであろうか。

 藍子のラジオ番組でのやり取りをバックに、それぞれのアイドル活動が映し出される。3人のダンスレッスンやサインの練習、5人の宣伝用写真撮影、美波やアナスタシアのボイスレッスンにみくたちのレッスン、仕事の最中にも貼り出された5人のポスターを見やるプロジェクトメンバー、そしてプロデュース活動に余念のないプロデューサー…。
 ラジオの方でもテンションの高い未央が終始他の2人を引っ張っていくスタンスが貫かれている。未央のテンションに2人が感化されたのか、冒頭の善澤記者のインタビューの頃よりは幾分自然な受け答えができるようになっているのは、良い傾向だろう。
 未央の明るさが卯月と凛に影響を与え、そんな3人のがんばりが他のプロジェクトメンバーにも波及していく、そういった正の相乗効果もこのシーンでは描かれていた。
 ちなみにこの一連のシーンの中で李衣菜や蘭子たちが参加している撮影所のシーン(恐らくCMの撮影と思われる)では、小梅を始め数人のデレマスアイドルが登場しているようなのだが、1人もアップで映らないので誰が誰なのか判別するのが難しくなってしまっている。
 一応背中側しか映っていない褐色肌に金髪の少女がライラで、ガールズバンドのうちボーカルが梅木音葉、アコースティックギターを持っているのが有浦柑奈、ドラムが早坂美玲と思われるが、それ以外が誰なのか筆者の方では判断がつかなかったので、興味のある人は調べてみてもいいかもしれない。
 そしてこのシーンを締めくくるのは、ようやくベテラントレーナーからお墨付きをもらい喜びに沸く3人と、そんな3人を祝福する11人というプロジェクトメンバーの姿だった。あの杏でさえも一応は3人を褒めているのだから大したものである。
 仲間たちからの祝福に少々照れながらも、皆の代表として明日のミニライブを必ず成功させると、決意を新たにする3人であった。
 そんな彼女たちデビュー組の衣装の発送準備をしていたプロデューサー。机の引き出しから取り出したペンライトの状態を確認しているところに姿を見せたのはちひろさんだ。
 スタミナドリンクを差し入れつつ、いよいよ明日に迫ったミニライブに想いを馳せる彼女の「お城へ続く階段はまだまだ長い」という言葉に、プロデューサーも言葉少なに同意する。
 今回のミニライブはあくまで最初の一歩。5人がこれから歩んでいくであろうアイドルとしての道のりの一番初めに過ぎないのだ。それがわかっているからこそ、その最初の一歩でつまづくことのないようプロデューサーもがんばってきたに違いない。

 そして今までのところ、プロデューサーのやってきたことも卯月たちのやってきたことにも、まったく問題は生じていない。彼女たちが信じてやってきたことは確実に皆の中に息づき、一定の成果として結実している。このままのペース、このままの意識を維持して臨めば、ミニライブも問題なく成功を収められるというのは疑いようもないことだった。
 その、はずだった。

 ミニライブの本番当日、会場での設営準備は着々と進行していく。
 この会場のモデルとなった場所は池袋サンシャインシティの噴水広場。アイマス関連ではアニマス主題歌「READY!!」及び「CHANGE!!!!」のシングルCD発売記念イベントとしてハイタッチ会が開かれた場所であり、劇場版「輝きの向こう側へ!」の劇中におけるミニライブ会場のモデルとなった場所でもある。
 舞台裏で本番の段取りについてスタッフから説明を受ける5人を見つめるプロデューサー。順番としてはラブライカが先行し、それが終わった後に続けてニュージェネレーションズが出演するという流れになるようだ。
 スタッフとの打ち合わせを終えたプロデューサーは、舞台袖から会場の方を見つめている未央に気を留める。

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 未央はどうやら会場の広さを気にしているようだった。モデルとなった噴水広場からして、周囲の店舗や通路とそれほど距離がないので、あまり人が集まると通行人の邪魔になりかねないという側面があるが、未央はそのことともう1つ、今日のために呼んでおいた友達も邪魔になってしまうのではという懸念を抱いていたのである。
 大丈夫だろうというプロデューサーの言葉を聞いて、とりあえず楽屋へ未央は戻るが、プロデューサーには未央の懸念がそれほど重要なこととは思えなかったようで、少々不思議そうな表情を浮かべていた。
 この時点ですべてに気付けというのは、神ならぬ身であるプロデューサーにとってあまりに酷な指摘であることは言うまでもない。だが逆を言えば、本来なら彼はここに来るまでに「そのこと」に気付いていなければならなかったし、今ここで生じたであろうわずかな違和感を無視してはならなかった。そういう意味で今という時は最後のチャンスでもあったのだが、もはやその機会も失われ、有り体に言えば迎える結末もこの時点で確定してしまったのである。
 未央は楽屋でも友達と連絡を取っていた。クラスの友達全員に声をかけたと言うのだから、卯月が驚くのも無理はない。遅い時間に来て観客の後ろの方になってしまったら見づらくなってしまうというのを未央は気にしていたが、上の階もあるから問題ないだろうととりなす凛。
 3話での経験を踏まえた3人はリラックスしたものだが、今回が初舞台の美波とアナスタシアは当然そんな余裕ある態度を取ることなど出来るはずもない。緊張して表情も硬くなってしまっているところへ、楽屋のドアをノックする音が響く。
 しかしやってきたのは開始の報せを告げるスタッフではなく、陣中見舞いにやってきたシンデレラプロジェクトの仲間たちだった。
 早速差し入れにとお気に入りの店で買ったという大量のマカロンを差し出すかな子。しかしさすがに本番直前にたくさん食べるわけにもいかず、美波と未央は思わず苦笑してしまう。
 ちなみにかな子が持ってきたこのマカロン、ちゃんとモデルとされる商品が存在しており、結構な値段のするものとのこと。モデルの方の値段設定までこちらに反映されていると考えてみると、晴れの日を迎えた5人へのお祝いの品として持ってきたということにもなり、かな子が5人の活躍を我が事のように喜んでいるのがよくわかるシチュエーションになっていた。
 さらに言うとこの時にかな子が発した「美味しいから大丈夫だよ」というセリフは、担当声優・大坪由佳さんのアドリブとのことで、美味しいと何が大丈夫なのかさっぱり不明であるが、いかにもかな子が言いそうな迷言として、声優間でも一時期この言い回しが流行ったそうである。
 続いて智絵里が見せてくれたのは、仕事の都合で会場に来られなかったみく・莉嘉・みりあの3人から送られたムービーメールだった。
 いちいちポージングを取ってくるあたりに何とも言えない可笑しさがあるが、ライバル心を持ちながらも純粋に5人を応援しようという気持ちが素直に伝わってくる内容に、卯月たちも喜びの笑顔を作る。
 さらにきらりが見せるのはなんと杏からの動画メッセージ。そこには自室で布団の中にこもりながら申し訳程度の応援の後に「おみやげ」を期待するメッセージを入れるという、相変わらずだらだらしまくりの姿が映されていた。
 自録りしたのかきらりが撮影したのかは不明だが、ここは昨日のレッスン室でのことを踏まえ、少しは自発的に応援メッセージを送ろうと考えたものと解釈したいところである。
 蘭子や李衣菜も凛に応援の言葉を送る中、今度は美嘉が楽屋に姿を見せる。シンデレラプロジェクトの14人よりは確実に忙しい身であろうに、5人を気遣ってわざわざ駆けつけてくれた美嘉の激励を受け、力強く応じる5人。皆の応援や激励のおかげで、表情の硬さも幾分は和らいだようだ。

 いよいよ開演時間が迫ってきた。プロデューサーの指示のままに、ステージ裏にスタンバイする5人。
 暗い空間の中で5人を前にしたプロデューサーは改まって口を開くが、しかしそこから出てきた言葉は「第一歩です、がんばって下さい」のみ。それは5人が驚きの表情を作り、思わず「それだけ?」と未央が返してしまうのも止むを得ないほどに短い、簡潔すぎる言葉だった。
 結果論ではあるが、やはりこの時プロデューサーはもっと語りかけるべきであった。一言二言で5人の緊張を解きほぐすような魔法の言葉は言えなくとも、内容云々以前にもっと言葉を尽くすべきであったろう。
 ペンライトを携えたプロデューサーに先導され、舞台袖へと移動する5人。ステージ上では既にイベントが開始している中、先陣を切るラブライカの2人はステージのすぐ脇で待機する。
 本番を目の前に未だ緊張を拭えない美波に、傍らのアナスタシアは静かに微笑みながら握手を求めてきた。
 それは緊張している美波を支えるため、というような高尚な考えからの発露ではないだろう。アイドルとして初のステージに臨むのは美波もアナスタシアも同じなのだから、とてもそんな精神的な余裕はないはずだ。
 彼女が手を差し出したのは、自分が常に美波の隣にいることの証、パートナーとして目の前のステージ、そしてその先に向かって、美波と共に歩んでいこうという意思の表れではなかったか。
 うまくやれるかわからない、その先もうまく行けるのかなんてわからない。確かなことはただ1つ、お互いにもう1人ではないということ。これからはどんな時でもずっと2人一緒に歩んでいく、歩んでいける。それを今、この瞬間に確かめ合うための握手であったに違いない。
 強く握りあった2人の手をかすかに照らす光は、彼女たち「ラブライカ」をきらめくステージへと誘う一筋の道標のようにも見えた。

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 一方、ニュージェネレーションズの3人も自分たちの番が来るのを待っていた。自分の中に次々湧いてくる不安を抑え込むかのように、言葉で心を奮い立たせようとする卯月。
 そんな卯月の肩に優しく手を乗せた未央は、いつもの明るい調子で卯月を励ます。ステージに行けば楽しいことが待っていると話す未央、そして凛の暖かい励ましを受け、卯月は2人の心遣いに目を潤ませながら、やっといつもの笑顔を取り戻した。

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 そしてついにラブライカがステージに立つ瞬間が訪れた。司会の女性に促されてステージに飛び出した2人はまばゆい光に包まれる中、彼女たちのデビュー曲「Memories」を熱唱する。

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 まだ内心に緊張は残っているはずであるがしっかりとしたパフォーマンスを披露する2人に、ステージの脇から覗きこむシンデレラプロジェクトのメンバーたちも一様に笑顔を浮かべる。そんな中でも記録のためか後の宣材写真として使うためか、黙々とステージ上の2人を撮影しているプロデューサーの姿が印象的だ。
 さてこのライブ、途中から話の演出としてこのラブライカのステージと、その次に行われたニュージェネレーションズのステージとが交互にインサートされる構成となる。純粋にラブライカのステージを最初から最後までしっかり見たかった人にとっては、残念と言わざるを得ない構成であるが、こればかりは次回以降の話の中で、いつかきちんとライブシーンが描かれることに期待するしかないだろう。
 だがもちろん無意味にこのような構成にしたわけではない。
 ラブライカのステージもニュージェネのステージも、色調こそ違うものの眩しいライトに照らされているのは同じだし、パフォーマンスも新人としては十分及第点だろう。それぞれのユニットを見つめるプロジェクトメンバーや美嘉の表情も終始笑顔のままだ。
 しかし写真を撮り続けていたプロデューサーだけが、ある違和感に気づく。ラブライカの2人に比して、ニュージェネの3人の表情から明らかに覇気が失われていたのである。

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 その理由は後ほど記すとして、先ほど書いたとおりラブライカとニュージェネのステージで特に大きな差異は存在していない。照明の明るさも各人のパフォーマンスのレベルも、そして彼女らを見やる観客の数も。
 にもかかわらずラブライカとニュージェネとで明らかな差異が発生してしまったのは、外的な要因によるものではなくニュージェネ3人の内心の問題に起因しているということを、この演出で浮き彫りにしているのである。

 歌い終えたラブライカの2人は観客からの拍手に手を振って答える。その表情は初めてのライブをやり遂げた達成感や満足感といったものに溢れたような笑顔だった。
 しかし対するニュージェネレーションズの3人は、同じように観客からの拍手を受けているのにもかかわらず笑顔を浮かべていない。未央に至っては明らかに茫然とした状態になってしまっており、観客への挨拶さえもろくに行えない有様だ。

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 未央に代わって凛が率先して観客に挨拶をしたところへ、未央を呼ぶ声が聞こえてくる。ハッとした未央がわずかに視線をさまよわせながら捉えたその先には、未央を応援するクラスメートたちの姿があった。5話の冒頭で話していた通り、彼女のための横断幕を持って。
 その様子を見た未央は何かに耐え切れなくなったのか、そのまま足早にステージを降りてしまった。卯月は慌てて未央を追いかけ、凛もわずかに観客側に視線を向けながら、意を決したようにステージを降りる。
 ステージ裏ではライブの成功を祝うスタッフからの拍手を受け、美波とアナスタシアが喜びをかみしめていた。そう、端的に見て今回のライブは十分に成功と言える内容であり、それはニュージェネレーションズの方も同様だった。正確に言えばライブ中の時点で様子がおかしかった未央に気を取られたと思われる卯月が若干ダンスをミスしていたが、先述のとおり新人としては許容範囲の出来であろう。
 しかし未央は件の状態に陥ってしまっており、仲間たちの呼びかけにも応じようとせずに歩き去ってしまう。ただならぬ様子にプロデューサーは未央の後を追い、何があったのか問いかける。
 未央は語気を荒げてプロデューサーに問いただしてきた。なぜお客があんなに少ないのかと。しかし新人アイドルのプロモートであるミニライブとしては十分な客の入りと認識しているプロデューサーには、未央の問いかけの意味するところがわからない。
 未央は自分が参加した「前のライブ」、すなわち美嘉のバックダンサーとして参加した時のライブにおける客の入りと比較していたのである。ここに至ってようやくステージ入りした時の、つまりBパート冒頭で観客側を見ていた未央の言葉の真意を理解するプロデューサー。
 あの時のライブと比較してお客が全然入っておらず盛り上がってもいないことに、未央は強いショックを受けていたのだ。
 客観的に考えてみればそれは当然の話である。よっぽどデビュー前から注目されているような逸材でもない限り、無名の新人アイドルに一般人がそれほど目を留めることはないはずであり、その意味では確かにプロデューサーの言ったとおり、今回のライブは新人アイドルのデビューイベントとしては十分すぎるくらいの人に見てもらえたと考えるべきところであろう。
 しかし残念ながら未央には「新人アイドルのデビューライブ」がどのようなものかが全くわかっていなかった。それもまた無理もない話ではある。彼女が出演する側として体験したライブは先述のとおり、美嘉のバックダンサーとして出演したライブだけであるし、そのことを彼女に教えてくれる者もいなかったのであろうから。
 何も殊更に「自分の力ならあれだけの客を集められる」という自惚れがあったわけではないだろう。自分の能力や周囲の援護と言った要因とは無関係に、観客はどんな時でもあれだけ集まって盛り上がるものなのだと思い込んでしまっていたことは想像に難くないし、その考えを是正できるだけの知識も経験も彼女は持っていなかったのだ。
 そしてこれは未央1人の問題ではない。ライブ中は未央だけでなく、卯月も凛も一様にその表情からは覇気が失せてしまっていた。つまりは彼女ら2人も程度の差こそあれ未央と同様の思い込みを抱いてしまっていたのである。
 それは3人の思い浮かべる観客像が等しくあのライブの時のものであったり、やってきた友達が後ろの方になってしまったらどうしようという未央の心配に、上の階もあるからと「一階の観客側が満杯になる」ことを前提で話していた凛の描写などからも明白だ。
 その思い込みを今というタイミングになるまで抱き続けたのは確かに誤りであった。だがここで考えなければいけないのは、その思い込みそのものが誤りであるか、悪いことであるのかという点である。
 確かに安易であるし、自分たちに都合のいい思い込みである点は否定できない。しかし思い込みであっても、それを自分たちの拠り所として夢や目標にすること自体は決して悪いことではないのも確かである。現に彼女たちはその光景を再び見ることを目標の1つに据えて日々努力してきたのだし、本番は残念なことになってしまったが、パフォーマンス自体はレッスンの段階で一定の水準にまで到達していたのも事実なのだから。
 もちろんその意識が最終的に今回のような事態を引き起こすことになってしまうのだから、中途で3人のその思い込みを修正しなければいけなかったのだが、それさえも本来であればさほど苦もなく自分たちで思い込みの誤りに気づき、修正することもできたのかもしれない。3話のアバンで見せた凛の独白は、自分の置かれている環境や状況が本当に間違いのない、自分たちにとって適当なものであるのかを省みていたことに他ならないわけで、それを3話の時点で実践出来ていた事実は、この仮定を補強するのに必要十分な理由と言える。
 しかし今回に限ってはそれは無理なことだった。彼女ら3人は「デビュー」という大きな目標に向かってひたすら走り続け、立ち止まって自分自身を省みる余裕などなかったのだから。もう少しアイドルとしての経験を積んでいれば、それなりに器用に立ち回れたのかもしれないが、デビューすらしていなかった3人にそれを期待するのは酷な話であろう。
 彼女たちはずっと本番まで一直線に走り続け、本番の最中に「現実」を思い知ることでようやく自らを省みる機会を得られたというわけだ。まさに皮肉と言う他ない、辛い現実である。
 まして未央はリーダーとして他の2人を引っ張り、デビューできていない他のプロジェクトメンバーの期待も背負い、まさに中心となってがんばってきた。だからこそ常に中心にいて皆を引っ張ってきた自分を突き動かしてきたものの一つが、自分自身の浅慮な思い込みであったことを知った時のショックは、計り知れないものがあったのだろう。実現性に乏しい思い込みを元に皆を引っ張ってきたことにもなるのだから。
 もちろん未央1人の責任に帰されるような問題ではないのだが、少なくともあの時、ステージ上で歌い踊っている自分自身の姿に、これ以上ないほどのみじめさを覚えていたのは間違いないだろう。その意味で今回のステージは未央にとって完全な「失敗」だった。
 そんな滑稽な自分が演じてしまった「失敗」のステージを友達が応援してくれていたという事実は、余計に未央を苦しませる結果となってしまったのである。
 誤った思い込みをしていたという点では凛も卯月も同じだが、未央は2人とは微妙に異なる立場で走り続け、この本番に臨んでいた。それが2人よりもずっと強い衝撃を未央に与え、プロデューサに対し声を荒げてしまうような結果を生じさせてしまったのだ。
 だが未央は単純に責任転嫁をしたくでこのような行動に出たわけではない。むしろ自身を「バカみたい」と自嘲気味に形容したり、プロデューサーからの指摘に図星を突かれたかのように視線をそらす仕草から見ても、ただ誤った思い込みをしていたというだけでなく、それを根拠にして凛や卯月を引っ張ってきてしまったこと、ショックを受けていたためとはいえステージを「失敗」させてしまったことも含めて、この件は自分に非や責任があると明確に自覚していることがわかるだろう。
 今話における未央の立ち回りや言動を追っていくと、ただ単純に明るく元気にふるまっているように見えて、仲間を気にかけたり周囲に気を配ったりと、彼女のクレバーな面がかなり強調して描写されている。
 今話はニュージェネ3人のデビューの準備が順調に進んでいく中に、3人が誤った思い込みを抱いているという点を指し示す伏線がいくつか張られているが、それと同時に未央はステージを「失敗」に終わらせてしまったのは他の誰でもない、自分の責任であるということを自分自身で悟り自省する賢さを持ちあわせているという点についても伏線、というより細かい描写を積み上げて明示していたのだ。
 だが頭ではそうとわかっていても、内からこみあげてくる激情を抑えることは、未央には出来ようもなかった。
 それもまた無理からぬことであったろう。彼女はまだ15歳の女の子、自分の感情を制御できなくても仕方のない、年端もいかぬ子供なのだ。理屈でわかっていてもそれでも感情的になってしまうのは、年齢を考えればむしろそれが当然と考えるべきところである。
 やり場のない激情を未央は誰かにぶつけることでしか解消できなかったのだろう。だからと言ってニュージェネの2人やプロジェクトの仲間にそれをぶつけることなど、未央の性格から言っても出来るはずはなく、そうなるとぶつけられる相手はプロデューサーだけだったのだ。
 彼女はプロデューサーが優しく説得してくれることを望んでいたのか、または厳しく叱咤されることを覚悟していたのか、それはわからないが、少なくとも自分自身が持て余してしまっている激情を彼に受け止めてほしかったというのは間違いない。
 ここでプロデューサーが未央に適切な対応を取れていれば、反省すべき点は多々あるものの未央も現状に納得し、次に向けてすぐ走り出すこともできたろう。
 しかし未央に向けたプロデューサーの言葉は説得でも叱咤でもなかった。「今日の結果は当然のもの」という説明だけだったのである。
 今日の結果。それは先ほどから何度か書いている通り、未央に取っては文字通りの「失敗」であったし、そんなことは今更教えられるまでもない既知の事実、誰に言われるまでもなく未央自身が痛切に自覚していることだった。
 それを単に繰り返したにすぎない、ただ「それだけ」の言葉は、未央にしてみれば今の自分をはっきり突き放された、否定されたのと同義であったろうことは想像に難くない。
 未央にとっては誤った思い込みをしていたこと以上に、それにより「失敗」してしまったこと以上に、プロデューサーに否定されたという事実が衝撃的だったのだ。だからその言葉を聞いた刹那、抑え込んでいた最後の感情を涙という形で溢れさせたのである。
 それは何をやっても変われない、もう自分は何をしてもやり直せないという気持ち。溢れ出た「諦念」の感情は、後に続くと思しきプロデューサーの言葉を遮り、未央に言ってはならない一言を言わせてしまう。

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 「アイドルを止める」。そう叫んで未央は走り去ってしまった。後を追う卯月に続こうとする凛は一瞬プロデューサーを見やるが、すぐに厳しい表情を向けて未央を追っていく。
 凛の表情がプロデューサーの未央を追おうとしない態度に向けられたものであるのは明白だが、彼は彼で未央の言葉にショックを受けていたようで、彼もまたある意味茫然としてしまっていたのかもしれない。しかしそんなことに凛がいちいち注視していられるような状況でないのも確かだった。
 プロデューサーにしてもその最後に未央に何かを言おうとしていたことを考えるまでもなく、未央を追い詰めたりましてや叱責するために件の言葉を告げたわけではないだろう。しかしあのタイミングであの言い回しは完全な悪手だったと言わざるを得ない。いつも言葉少なな彼なりに、未央のためを思って話をしたのだろうが、それが完全に裏目に出てしまったのである。
 5話では失われつつあったみくとの信頼関係を、彼が話をすることで取り戻していたが、今話ではその彼の話のせいで未央との信頼関係を失うこととなってしまった。行為は同じながらもそれによって生じる結果は正反対になってしまう、5話と6話のこの構造はあまりにも痛烈な対比だ。
 そして未央が最終的にアイドルを止めるとまで口走った直接の要因も、結局のところはプロデューサーへの信頼感を失ったためである。今話中には未央を追いつめる様々な要素が存在していたが、越えてはならない最後の一線を未央に越えさせてしまったのは、プロデューサーを信じられなくなったからだった。
 誤った思い込みもステージの失敗ももちろん深刻な問題であるのには違いないが、それはあくまで今の未央を取り巻く現状に対する問題であり、やり方次第でいくらでも回復できる、やり直せるものでもあった。そういう意味では大きな問題ではあれど、それほど尾を引くような問題ではなかったとも言える。
 未央にとって一番大きな問題、そして今話、引いては本作が定義した最も重要な問題が、「プロデューサーへの信頼感を無くす」というものだったのだ。
 それは言うまでもなく、今まで何度となく述べてきたアイドルマスターという作品の根幹を成す「アイドルとプロデューサー」の関係性が喪失してしまったことに他ならない。拠って立つべき最も原初の、そして大切な関係が失われてしまった事実が、未央にあったアイドルに対する想いをも打ち砕いてしまうのは、必然的な流れであったと言わざるを得ない。
 今話の展開は、最終的に未央とプロデューサーの「アイドルとプロデューサー」という関係性を喪失させる、そのためだけのものであったと言える。今話で一番描きたかったものとはライブを開始するまでの過程ではなく、その過程の中での各人の心の変遷でもなく、誤った思い込みに端を発する微妙なズレや、それが拡大した末に迎えてしまう「失敗」でもなく、最後の「喪失」であった。
 極論すればそれ以外のすべての要素がラストの喪失のために用意された伏線、ファクターであったと言える。ライブシーンの演出や未央の激昂と言ったインパクトのあるシーンに隠され、パッと見ただけではその意図がわかりにくく仕上げられているのは、信頼という繋がりの儚く脆い一面を強調するためであったように見える。

 誰もいなくなったステージに浮かび上がるのは、かかとがひび割れ折れたガラスの靴。
 一度壊れたら二度とは元に戻らないガラスの靴のように、一たび失われた「アイドルとプロデューサー」の関係性は、二度と再び蘇ることはないのであろうか。

2015年05月18日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第5話「I don't want to become a wallflower」感想

 今話のサブタイトルに使用されている「wallflower」という言葉、辞書を引いてみると植物の名称としての意味以外に、口語として「ダンスパーティーなどで社交的に相手にされない人」という意味もあり、主に若い女性に対して使用される、とある。転じて「仲間に入れてもらえない人」という意味も存在するようだ。
 本来なら多くの人に注目してもらえるはずの美しい綺麗な存在=花であるにもかかわらず、ただそこに飾られているだけの存在に堕してしまった壁の花は、誰にも目を向けてもらえないし誰からも相手にしてもらえない。その意味では「花」と形容されるほどの魅力を湛えている人物が存在を無視されるという状態を的確に表した言葉と言えるが、それはあまりに酷な現実でもあろう。
 まして同様の魅力を持った、しかし「壁の花」ではない花が近くにいれば尚更だ。
 前話のラストでシンデレラプロジェクト所属メンバーのCDデビューを発表したプロデューサー。しかしその口から出た対象の名前は卯月、凛、未央、美波、アナスタシアの5人だけだった。2話でのバックダンサー起用の時よりもはっきりと、より大きな差を見せつけられてしまった残りの9人が複雑な想いを抱くのは、むしろ当然のことであった。
 サブタイトルが示すとおり、彼女たちがそのまま「wallflower」となってしまうことを望むはずもない。5人と9人が何を考えどう振る舞うか、そしてそんな彼女らを支える立場のプロデューサーはどう接していくのか。それが今話の中で描かれることとなる。

 突然のCDデビューの報に、全員言葉もなくしばし固まってしまうが、次の瞬間未央が喜びと驚きの入り混じった声を上げて卯月に飛び付き、卯月も嬉しさを爆発させて、ユニットメンバーとなる凛と未央に抱きつく。CDを出すということはすなわちアイドルとしての本格的なデビューを意味しているのだから、嬉しくないはずはない。そんな3人をかな子やみりあたちが祝福する一方で、美波とアナスタシアはまだ戸惑いを隠せない様子。
 しかしそれは冒頭にも書いたとおり、卯月たち5人と残りの9人との間に明確な差が開いてしまったことでもあり、素直に5人を祝福できない者が出てくるのは止むを得ないところだろう。
 真っ先に不満を訴えたのは莉嘉だった。5人のデビューを羨み、自分もCDを出したいとストレートに訴えるのは、大人よりも自分の気持ちに忠実に動く存在である子供だからこその発言と言えるが、歳の近いみりあと態度が完全に異なっているのは、莉嘉の方には「姉である美嘉のようなアイドルになりたい」と、みりあより具体的な憧れの対象が存在しているからなのだろうか。
 このあたりは4話でのPR動画撮影中に2人がそれぞれ話した目標の中で触れられていることでもあり、その時に垣間見えた2人の差異が、そのままアイドルというものに対する2人のスタンスの違いとなって反映されている。

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 そしてそんな莉嘉と同様の気持ちを、程度の差こそあれ他のメンバーが抱いていたというのは、彼女の言葉を受けて皆一様に顔を曇らせた点からも明らかだ。
 特に「皆」と書いたとおり、卯月たちCDデビュー組も莉嘉の言葉に表情を曇らせているという事実は重要だ。同じプロジェクトに所属しているのにもかかわらずアイドルとしてのデビュー時期に差が生じたのであれば、選ばれなかった方が自分はいつになるのかと考えるのは、一般的な人間の思考として当然のことであるし、一つボタンが掛け違っていたら卯月たちが今の莉嘉の立場になっていたかもしれないのだから、卯月たちにしても決して他人事ではない。

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 卯月、凛、未央の3人に絞ってみても、卯月と未央はアイドルオーディションの落選経験があるし、アイドルになりたいという想いを今まで持ってこなかった凛にしてみれば、莉嘉は自分よりもずっと以前からアイドルに強い憧れを抱いてきたのはわかりきったことなのだから、「憧れ続けてずっとがんばってきたのに選ばれなかった」莉嘉の気持ちがわからないはずはないのだ。
 莉嘉に続けてみくもプロデューサーに自分たちの今後について尋ねるが、プロデューサーは「企画検討中」と答えるのみだった。

 OP後に映されるのは、デビューが決まった卯月たち3人のプライベート風景だ。
 登校前の朝食中だった卯月は、母親から残り物のケーキを出される。「昨日の残り」という母親の言葉から察するに、昨日夜にでも家族揃ってCDデビューが決まったお祝いでもしたのだろうか。卯月の家庭がごく普通の、幸せな家族生活を営んでいることがここから窺えて非常に微笑ましい。
 しかしそのケーキに残っていた「CDデビューおめでとう」と書かれたチョコプレートを見やった卯月は、ふと真顔になる。アイドルとして本格的にデビューする以上、ただ嬉しいという気持ちだけでは務まらないことを、卯月は3話のライブで十分に学んでいた。だからこそ今ならある程度は理解できる、「CDデビュー」という言葉が背負う重さを一瞬、卯月は深く噛みしめたのであろう。
 対する凛の家では彼女がまだ親にデビューの件を報告していなかったようで、凛が登校しようと家を出る直前になって、ようやくデビューの件を切り出していた。これからは花屋の仕事をあまり手伝えなくなるかも、という回りくどい前置きの後にデビューのことを説明するのは、多少の気恥ずかしさを隠すためというのもあったのかもしれないが、基本冷静な凛らしい報告の仕方であった。
 そんな凛に反して、未央は学校の教室で多くの友達にデビューの件を知らせていた。たくさんの友人に囲まれながら笑顔で報告する未央の図は、彼女の交友関係の広さとクラス内での「人気者」という立ち位置を的確に描出しており、2話で彼女がプロデューサーにおう向けて放った「学園のアイドル」発言も、あながちいい加減なものではなかったと考えられよう。友人たちもライブをやるなら横断幕を作って応援に行くと発言しており、未央との仲の良さが十分伝わってくる。
 そんな3人の登用について、若干懐疑的な意見を述べたのはちひろさんだった。美波やアナスタシアに比べてプロジェクトへの参加時期が遅く、レッスン等もまだまだ不足気味な3人に対して不安を抱くのはむしろ当然だとも言えるが、プロデューサーもそれは念頭に置いた上で決断を下していた。
 もちろんその決断には理由がある。1つは3人のイメージに合った曲を作れる、部長の言葉から察するにかなり多忙なベテラン且つ売れっ子の作曲家に仕事を依頼出来たこと、そしてもう1つは3話におけるライブで3人がそれなりの実績を上げ、わずかではあるがその存在が衆目に知られるようになったことだった。言わば偶発的な幸運と3人が自分たちの力で得た成果が融合して相乗効果が生まれる今というタイミングこそ好機と、プロデューサーも部長も考えたのである。
 これがシンデレラプロジェクトとしての初の本格的な対外活動なだけに、部長も会社人の立場から期待の言葉を送り、プロデューサーも神妙な面持ちで頷く。

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 デビューとなればただCDを出すだけで終わるはずもなく、関連イベントやキャンペーンを実施することになる。そしてその中には当然、「ライブ」も含まれていた。
 発売イベント内のミニライブではあるものの、ライブを実施する予定があると聞かされ、3人はにわかに色めき立つ。3話でも若干触れたがやはりライブはアイドルの仕事としては花形であるから、3人が興奮するのも無理もないところである。
 ところがそんな3人の前に、またもやみくが立ちはだかった。3話での出来事を再現するが如く、今度は莉嘉とみりあも引き連れてデビューを賭けた勝負を挑んできたのである。

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 さしずめみくと同様に早くデビューしたい莉嘉がみくに共感し、みりあがそれに乗っかってきたというところだろうが、みくに合わせて2人ともネコ耳をつけているのが、当人たちの真剣さとの何とも言えぬミスマッチ感覚を醸し出していて面白く、何より単純に可愛く描かれている。
 と言ってもその勝負の内容は3話でのジェンガやルービックキューブと同じで殺伐としたものではなく、今回はいわゆる「黒ひげ危機一発」のネコバージョンを使っての勝負だった。
 未央1人ではなく卯月や凛も巻き込んでの勝負になったようだが、ついにみくが初勝利を果たす。喜んで自分たちをデビューさせるようプロデューサーに進言するみくだったが、当然このようなやり方での要求を素直に受けられるわけもなく、プロデューサーも困惑するばかり。そこへ現れたベテラントレーナーが、実はレッスンの途中休憩中であった3人を連れていったため、勝負も賭けも結局お流れになってしまう。
 傍から見るとあまり真剣にやっているようには見えないが、未央も含めて当人たちはあくまで真面目にこの勝負に臨んでいるのは画面から容易に見て取れ、その結果が実際に自分たちの今後に影響を与えるかどうかはともかく、少なくとも今のみくたちに取っては何かをしないではいられない、という心境なのだろう。一番最後に加入しながら一足飛びにデビューまでこぎつけた面々が目の前にいるわけだから、心中穏やかでなくなるのも無理からぬところであった。

 3人とプロデューサーが向かった別のレッスンルームでは、先に美波とアナスタシアがボイスレッスンを受けていた。入っていた3人に向かって挨拶するボイスレッスン担当のトレーナーの顔を見て、ベテラントレーナーやルーキートレーナーとの相似ぶりに、未央も卯月も驚きの声を上げる。

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 原作ゲームにおけるトレーナー四姉妹の三女である「トレーナー」さんの登場と相成ったわけだ。本名は「青木明(めい)」と設定されている彼女は、ゲーム中では他の3人に比べてプロデューサー(プレーヤー)と親密な関係が強調されている節があるが、本作中では単なる指導者以上の役割を与えられるのか、興味をそそられるところである。
 ちなみに担当声優は姉のベテラントレーナーや妹のルーキートレーナーと同じく藤村歩さんで、音域はベテトレさんに近いものの姉より大人しめのトーンにして差別化させている演技はさすがである。
 卯月たちがボイスレッスンに臨む一方で、みくたちはようやくレッスンを終えていた。また3人と勝負しようと簡単に持ちかける2人を、遊びではなくアイドル生命を賭けた真剣勝負と諭すみくからは、前述の通りその内容は子供じみていながらも、当人にとっては極めて真剣な考えの下に勝負を挑んでいたことがわかると同時に、4話でのPR動画撮影の流れから、年少コンビである莉嘉とみりあのお姉さん役を担っていることも窺える。
 そんなみくの言葉に疑義を挟んだのは、かな子や智絵里と共に姿を見せた李衣菜だった。アイドル生命云々以前にアイドルらしいことをまだ何もやっていない、勝負に勝ってもCDデビューはできないという意味で「でも負けたんだ」と返す李衣菜の言葉はなかなかに辛辣だが、それは取りも直さず自分自身のことでもあり、それを臆面もなく口に出来るのは、現実的と言うよりみくたちの現状がイコール自分のことでもあるという認識に乏しいからかもしれない。
 だから莉嘉の「CD出したくないの!?」という言葉には、簡単に二の句が告げなくなってしまう。それはかな子や智絵里も同様だった。

 卯月たちは美波とアナスタシアのデビュー曲のオケを聞かせてもらい、それぞれに感想を伝えていた。今の段階ではその全容は明らかにされないものの、わずかに聞こえるその曲は美波の言うとおり、かなりカッコいい部類に入る曲のようだ。曲の雰囲気を流星に例えるアナスタシアも、星を見るのが好きな彼女らしい表現と言える。
 そこへまたもやって来るみく、莉嘉、みりあの3人。先ほどの李衣菜たちとのやり取りを記憶していれば、その内に極めて真摯な想いがあるということは十分理解できるのであるが、変にポーズを取って姿を見せるその様子は、相変わらず傍目には真面目なのか何なのか分かりづらい。
 そして今回は3人だけでなく、先ほどのやり取りで感化されたのか、李衣菜やかな子、智絵里まで一緒に姿を見せたため、未央はその人数の多さに思わず焦ってしまう。と言っても今回は今までのように勝負を挑みに来たわけではないようで、みくは美波とアナスタシアにある交渉を持ちかけてきた。

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 その内容とは、現状2人で組んでいる美波とアナスタシアのユニットに3人目として加わりたいというものだった。対する卯月たちのユニットが3人構成なのをヒントにして、みくなりに攻め方を変えてみたというところか。子供じみた勝負の結果にデビューを委ねるよりは、いくらか現実的な案と言えなくもない。
 で、その3人目を誰にするかということで、早速美波たち2人にもネコ耳をつけさせ、部屋を訪れたプロデューサーに3人でアピールするみく。恥ずかしがりながらも一緒にネコっぽいアピールをさせられる美波の姿からは、4話でのPR動画撮影同様に強引な説得を真に受けて一緒にやる羽目になったのであろうことが想起され、それでも断らないところに彼女の前向きな姿勢や押しに弱い一面といった多面的な個性が垣間見える。
 対するアナスタシアの方はアピール自体がどういうものかを理解していないようで、みくに言われるがままにネコアピールを行うが、逆にそれが却って彼女の無垢な可愛らしさを発揮させていて非常に素晴らしい。
 ちなみに原作ゲームでみくとアナスタシアは「にゃん・にゃん・にゃん」というネコ耳コスプレユニットを幾度か結成しており、そちらでの設定に準じてみくがアナスタシアを「あーにゃん」と呼んでいたりと、多分にこのゲーム版ユニットを意識した要素が含まれている。いつかこの2人に3人目である「のあにゃん」こと高峯のあが加わる日は来るのだろうか。
 しかし突然見せつけられた方のプロデューサーは困惑するばかりだし、李衣菜からはあざとすぎるとダメ出しを受けてしまい、どうにも成果は芳しくない。
 だが当の李衣菜の出したロックな案、と言うか想像図はいわゆるガールズバンドだし、莉嘉の方はロシア語が分からないからとアナスタシアに「なんちゃらなんちゃら」と言わせているあたりに子供らしさを残っているものの、3人揃って丈の短いセーラー服姿のかなり妖しい取り合わせと、それぞれとてもアイドルユニットと呼べるものではなかった。
 ついにはみくと李衣菜が言い合いを始めてしまうその横で、かな子たちに事情を問いただしたプロデューサーは、ようやくみくの考えを知る。しかしそれは当初から2人ユニットという前提で準備を進めてきた以上、受け入れられるものではない。プロデューサーのその言葉を聞いて落胆するみくたち。

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 謝るアナスタシアや美波に対し寂しそうにしながらも健気に笑顔を作るみりあのいじらしさが印象に残るが、他のみんなも大なり小なり不満や残念さを覚えているようであり、卯月たち3人もそのような感情と決して無縁ではないことが、その表情から察せられる。
 なお物語の本筋とは直接関係しないが触れておくべき事項として、みくが李衣菜に向けた「1人でエアギターでもやってにゃ」という言葉から始まる一連のみくと李衣菜とのやり取りが、プロデューサーとかな子たちが会話をしているその後ろで、ずっと続いている(音声だけ聞こえてくる)という点が挙げられる。
 2話での宣材写真撮影時の休憩中に流れていた莉嘉とみりあのしりとりなどもそうだが、本作ではこのように映し出されている画の背後で、音声だけによるキャラクターの小芝居が、結構な長さで続けられることがよくある。大体は台本にも記載されておらず、担当声優のアドリブで進行する芝居のようだが、これには単にその場のにぎやかさを表現する以上の効果を発揮している。
 画面に映っているその空間には、映っていない部分にもキャラがいて、しゃべったり動いたりしているはずなのだ。実写であればそのあたりも簡単に描写できるがアニメではどんな場面にもいちいち作画を行う必要があるため、おいそれと物語に直接関係のない部分にまでリソースを割けない。そこで音声のみによる小芝居が導入されるわけだ。
 それを加えることで、画面に映っていないキャラもそこに存在している、大げさに言えばキャラクターの「生」とか「体温」のようなものを感じることができるようになる。それは場面ごとのにぎやかしのみならず、作品世界そのものの拡充という点において、地味ながらも大きな効果を発揮してくれる効果的な演出なのである。
 2つの芝居が同時に進行している妙味を味わえるというのも、視聴者の立場からは楽しい点として挙げられるだろう。

 プロジェクトルームでミーティングを行う卯月たちは、最後にプロデューサーからある「宿題」を出される。宿題と言う言葉に思わず拒否反応を起こしてしまう未央だったが、それは3人のユニット名を考えてほしいというとても重要な宿題だった。覚えやすいもので、且つ3人らしい名前をというプロデューサーのアドバイスに、卯月と未央は視線を合わせて考え込む。
 そんな時、凛はプロデューサーに「何故自分たち3人なのか」と問う。みくたち他のメンバーではなく、自分たち3人が選ばれた理由を知りたいというのが彼女の真意だった。
 その言葉の意味するところを最初は未央もプロデューサーも読み取れなかったようだが、そんな中で1人、凛の真意を察して俯く卯月の描写も印象に残る。
 しかしプロデューサーはいつもの如く言葉少なに「総合的に判断して」とだけ答えるだけだった。未央が「歌とか踊りとか度胸とか」といくつか例を挙げたのに続く形でタイミングやバランスと言った多少は具体的な理由を述べたものの、やはり多くは語らない。
 秘密主義というわけではないのだろうが、このあまりの語らなさは大きな危険性を孕んでいると言える。「プロデューサーとアイドル」の関係性が濃密なものであれば、多くを語らずともある程度の意思疎通は可能であろうが、今現在そこまでの関係を築いている者は劇中には存在しないわけで、そのような状態ではやはり言葉での具体的なコミュニケーションが必要になるのだ。
 このシーンで言えば総合的な判断というその「総合的」の内幕、それこそ部長やちひろさんとのやり取りの中で出てきた様々な事情や思惑をある程度はきちんと、凛たち3人だけでなくプロジェクトメンバー全員にあらかじめ話すべきだった。明確にメンバー間の「格差」とそれに伴う不公平感が生じてしまっている以上、感情面で納得できなくともせめて理屈の上でだけは納得してもらうことは必須であり、現にどちらの面からも納得できていないからこそ、みくが3話の時以上に躍起になって対抗心を燃やしてしまっているのである。
 そしてそれはプロジェクトの仲間同士ではなく、彼女らに道を示す立場のプロデューサーでなければできないことなのだが、その点において彼はあまり器用に立ち回れてはいない。
 「バランス」という表現を受けて会話を弾ませる卯月や未央の横で、無表情に視線を下げる凛の描写は、プロデューサーと彼女らプロジェクトメンバーとの関係性の危うさを暗示したものかもしれなかった。

 デスクのプロデューサーに書類を渡すちひろさんは、順調に進んでいるかを尋ねてきた。プロデューサーは当たり障りなく問題ないと答えるが、さり気ないながらもこの場面ではちひろさんとプロデューサー、2人の認識の違いが見え隠れしている。
 すなわちちひろさんが尋ねた「順調か」とは何についてか、CDデビューについてかプロジェクト全体についてなのか。「あの子たちは?」とは誰を指しているのか、CDデビューを控えた5人なのかプロジェクトメンバー全員なのか、ということである。
 直後の「プロデューサーにかかっている」発言から考えると、ちひろさんは恐らくプロジェクト全体、メンバー全員について問いただしていたのだと思われる。そう考えるとAパートで卯月たち3人の登用について懐疑的な言葉を口にした時、卯月たちの名前を直接出していなかったのは、このシーンに繋がる意図的な演出であったのかもしれない。
 Aパートの時のように直接名前を口にせずともニュアンスで相手の言わんとしている内容を理解することは常に出来るわけではないし、少なくともプロデューサーはそれを常に実践できるようなパーフェクトな存在ではない。何気ないやり取りだったためにわかりにくいが、これら2つの場面でその事実を浮き彫りにしているのである。そしてその事実は後々の展開に重大な影響を及ぼすことにもなるわけだ。
 それらを踏まえて、というわけでは無論ないだろうが、ちひろさんが差し出したスタドリハーフには、これからの展開に直面していくプロデューサーに対しての、制作側からの激励の意図が込められているようにも取れる。

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 卯月たち3人はプロジェクトルームで自分たちのユニット名を決めるべく、色々な案を提出しつつ話し合っていた。
 ミーティングのような仰々しいものではなく、お菓子を食べながら和気あいあいと、というのはいかにも年頃の女の子の集まりらしいと言えるが、出てくる案も食べ物の名前のようなゆるいネタばかりのものになってしまっており、どうにもまとまらない。

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 そんな中でも未央の考えたいくつもの案の中に「トリプルスター」という名称が含まれているのは、原作ゲームや関連CDに触れたことのある人ならばニヤリとするところであろう。
 尤も当人はこれよりも、3話で精神的に追い込まれた自分たちを救うきっかけの一つとなった言葉である「フライドチキン」を推していたわけだが、あちらの方はややもすると今後の展開にかかわってこないとも言い切れない重要な名前であるだけに、ここでユニット名として推挙されなかったのはある意味当然だったと言える。
 未央の「フライドチキン」案を即答で却下した凛も案を求められるが、その案を口にするのが恥ずかしいのか、凛は小声になってしまう。その仕草がいつもの凛らしからぬ可愛らしい仕草になっているのも楽しいが、その凛の案である「プリンセスブルー」という名称を聞いて思わず笑い出してしまう未央や卯月の描写も、すっかり打ち解けて無用な遠慮をする必要もなくなった3人の現在の関係性を端的に表現していて微笑ましい。
 ちなみに元々凛の父親が提案したというこの「プリンセスブルー」、遺伝子組み換え技術によって作られた青紫色のカーネーション「ムーンダスト」の品種の1つ、またはロベリアという花の品種の1つとして実在する名称であり、花言葉はそれぞれ「永遠の幸福」「いつも愛らしい」などがあるとのこと。
 花屋を営む凛の父親ならそこまで考えていたとしても何ら不思議はなく、その辺りの経緯を色々想像してみるのも一興であろう。
 しかしユニット名自体は大量の案が出たものの、夜までかかっても結局決まらなかった。最後の方の案はかなり投げやりな印象のものになっているあたりに、3人の疲弊ぶりがうかがえるが、とりあえず今回はこれでお開きとし、凛と卯月はプロデューサーにも名称案を考えてもらうよう頼みこむ。

 その頃346プロの別のスタジオでは美穂の写真撮影が行われていた。本来は恥ずかしがり屋の美穂も、こと仕事となればアイドルとして立派に仕事をこなすのは2話や3話で既に描かれた通りであるが、それは美穂を彩るための着ぐるみの中の人として働くみくや莉嘉、みりあには眩しすぎる光景でもあった。

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 照明に照らされスタッフに汗を拭いてもらう美穂と、照明の届かないスタジオの一角で汗も拭けずにただ座り込む3人の姿が、如実にその落差を突き付けている。それでもみくがちゃんとネコの着ぐるみを選んで着用しているあたりはさすがであるが。
 みりあから美波たちのレコーディングが今日行われることを聞いた莉嘉は、自分の曲が欲しいとまたプロデューサーに頼みに行こうとするが、みくにすげなく否定される。
 「検討中と言われるのがオチ」と力なく呟くみくの姿からは先述の「危うさ」が想起させられてしまうがしかし、どうするのと聞かれるとすぐに莉嘉とは別の案を思いついたらしく、1人自信ありげにニヤリと笑う。

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 一方プロジェクトの他メンバー、かな子や智絵里たちは先輩アイドルが参加している交通安全のイベントに、チラシ配布担当として参加していた。交通安全ということでかな子たちも全員警察官の制服に身を包んでいるのだが、かな子に智絵里、李衣菜はともかくきらりや蘭子は普段着ている服とのギャップが大きく、可愛らしさと共に何とも言えない可笑しさを醸し出している。
 壇上に立っている先輩アイドルは3人。その内2人は2話で画面の奥の方に小さく登場していた堀裕子と及川雫、そしてもう1人は今回初登場となる片桐早苗だ。2話の感想でも少し触れたが、この3人は原作ゲームでは時々「セクシーギルティ」というユニット名でイベントライバルとして参加することがあり、今回の組み合わせはそれを反映したものとなっている。

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 そしてここでは2話と同様、声優面におけるサプライズが用意されていた。2話での千枝や春菜と同様に、原作ゲームではそれまで声のついていなかった雫と早苗のCVが、ここで初お披露目となったのである。もちろん本放送のタイミングでゲームの方でも声が実装されており、これは本作に用意されている一種の恒例イベントと言っていいのかもしれない。
 さてこのセクシーギルティ、「サイキックアイドル」とか「エスパーユッコ」を自称し、事あるごとに何でもかんでも「サイキック○○」と名付けてスプーン曲げなどの超能力を披露しようとし、うまくいかない時は強引な理屈でごまかすアホの子的な面を持つ裕子に、元本職の警察官という異色の経歴と、瑞樹と同じ28歳というアイドルとしてはトウが立った年齢ながら、十代と見まごうルックスと年相応のサバサバした性格、そして元警官故の各種格闘技有段者という資格を併せ持つ早苗と、かなり個性的なメンツが揃っている。
 そして3人目の及川雫。数いるデレマスアイドルの中で筆者一番のお気に入りのアイドルに声までついたとあっては、フィーチャーしないわけにはいくまい。
 彼女の最大の特徴はやはり、裕子の「サイキック逮捕」でその一部が露わになってしまった豊満なバストにあるだろう。そのサイズは105センチと、デレマスのみならずアイドルマスター歴代作に登場する全アイドル中最大を誇り、未だその記録は破られていない。
 (ちなみに早苗も雫ほどではないものの92センチとかなりなものを持っている。裕子だけは平均的なプロポーションなのだが、着用する衣装が基本ヘソ出しの露出が高いものであることが、ユニットを組んだ理由であろうか。)

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 「女性の胸は母性の象徴」などという言葉もあったりするが、原作ゲーム中で昨年末に行われた「アニバーサリーボイスアイドルオーディション」のCMで「豊かさの化身」というキャッチフレーズをつけられていたのも、そこに起因している部分が大きいだろう。
 だが雫の持つ「豊かさ」は決して胸だけの話ではない。岩手出身の彼女の実家は牧場を経営しており、彼女も以前から牧場の手伝いをしていたという。そのせいもあって牛が好きになっているのだが(彼女の初登場となったN+の衣装はホルスタイン牛をモチーフにした(露出の高い)衣装になっている)、同時に広く大らかな牧場で育ってきたからか、のんびりしている牛たちとずっと一緒にいたからか、雫自身もかなりのんびりした性格である。
 そして酪農はかなりの体力を必要とする仕事という点からわかるとおり、雫も結構な体力を備えている。実際にゲーム中のシンデレラガールズ劇場では実家の雪かきをして汗をかいたもののさほどくたびれた様子は見せず、さらには実家の牛乳2リットルパックをのんびりではあるが一気に飲んで全く動じないなど、様々な面でタフネスぶりや体育会系的な面を披露。
 さらには恐らく実家の手伝いをより円滑に行うために16歳という若さでトラクターの免許を取得したり、自分より背の低い相手(バストサイズのインパクトに薄れがちだが、雫の身長は170センチと女性としてはかなり高く、アイマスの全アイドルの中でも彼女より背の大きいアイドルは5、6人しかいない)と目線を合わせて会話をするために姿勢を低くするなど、他者に気を遣う優しさがきちんと備わっている少女でもある。
 のんびりとした性格とそのタフネスぶりから来る体育会系的な思考から生じる優しさと力強さ、それが雫という少女の持つ「豊かさ」の源であると断言できるだろう。
 ちなみに雫の体育会系的思考というのは、彼女が露出の高い衣装を着たり、汗で濡れたシャツを男性であるプロデューサーの視線を気にせず絞ってしまう(脱いではいない)という面にも表れている。
 つまり決意という言葉で表現するほど重いものではないにせよ、自分であらかじめ決めたり判断したことについては、それを実行する一連の流れの中で自分の性的な部分が強調されることになったとしても動じない、そういう精神状態が無自覚の内に彼女の心の大元の部分に形成されているのだろう。その意味では彼女の持つ「体育会系思考」とは、己にのみ責任を課すいささか古風な考え方と言える。
 逆を言えば自分の意図していない状態、すなわち今話のこのシーンで発生したいわゆるお色気ハプニングに対しては、さほど耐性がないのだろう。だから慌ててしまったのだろうし、同時に公衆の面前でこんなことになれば普通に恥ずかしがる、ごく当たり前の羞恥心を持ちあわせていて、のんびりした性格と混同されがちな「天然系」な性格ではないという点も、この場面からは見て取れるのだ。
 原作ゲームではこのようなお色気ハプニングは今まで描かれてこなかったため、雫を単なるお色気要員として消費したと非難する者も一部には見受けられたし、実際そのような役割を背負っていたということを否定はしないが、画面の向こうの存在とは言え自分が好きになった相手なのだから、どうせなら最後まで肯定的に、好意的に解釈して評価し、愛したいものではないか。それが創作物を愛好する人間のあるべき一つの姿だと筆者は思う次第である。
 (ちなみに原作ゲームの方では雫のお色気が過剰にならないよう色々と配慮している節が散見されるのだが、さすがにこれ以上は脱線もいいところなので割愛する。)

 閑話休題。
 仕事を終えてかな子たちが戻ってきたプロジェクトルームでは、みくたち3人が紙に何やら絵を描いていた。自分たちのCDデビューの時にどんなことをやりたいか、プロデューサーの代わりに考えているというのである。
 つまりCDデビューの折にどのようにプロモートするか、それをこちらから用意することで、自分たちのデビューへ向けた具体的なアプローチとしようとしているわけだ。
 プロデューサー側が動かないからと言っていつまでも受け身で待つのではなく、自分たちから積極的にデビューを推し進めようという姿勢自体は好感の持てるものだし、その手段として具体的な企画案をこちらから提示するというのも、なかなか理に叶った方法と言える。
 冒頭で黒ひげ危機一発を使った勝負を挑んできた人物と同じとは思えないくらい理知的な手段であるが、これがいつデビューできるかわからない逆境の中で生真面目に自分の今後を思案した結果であることは論を持たず、みくの内包する多面的な個性が4話でのPR動画撮影に続いてまたもや発揮されたというところだろう。
 惜しむらくはその思考に現実感覚が追い付いていないことだった。みくは可愛い衣装にたくさんのネコを集めてのライブ、みりあは屋外でみんなで楽しく歌う、莉嘉は渋谷でゲリラライブと、案自体はそれぞれの個性が程良く打ち出されたものばかりだが、とても無名の新人アイドルに適用できるような案でないのも事実である。

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 だがかな子たちもそんな現実には気づかないまま、3人の姿に感化されてそれぞれのデビュー案を語り出し始めた。
 一方のデビュー決定組はレコーディングルームに集まっており、ちょうど美波が楽曲収録を行っていた。そこで初めて判明する美波とアナスタシアのユニット名は「LOVE LAIKA(ラブライカ)」。
 ライカとは一般的に2つの意味があり、1つは犬種としての名称で正式には「ロシアン・ライカ」、もう1つは1957年に旧ソ連が打ち上げた宇宙船・スプートニク2号に乗せられ、動物としては初めて軌道周回を体験した犬の名前である。ユニット名としては後者の意味合い、すなわち犬としての可愛らしさを持ちつつ宇宙、つまり遥か高みに向かって飛び続ける、そんな意味が込められているのだろう。
 更衣室でレッスン着に着替えながら、デビュー時のミニライブを卯月たち3人と一緒にやることが決まって良かったと話す美波。彼女もアナスタシアも内心の不安を拭いきってはいなかったのだ。
 大丈夫と明るく励ます未央だったが、それでも美波の表情は晴れない。彼女は今の自分にはプロデューサーが用意した衣装と曲、つまり外から得たものしかなく、今の自分が拠って立つ内面的な要素が自分自身の中に存在していないことを懸念していた。自分の中に自分を信じられる要因がないのに、本番まで自分を支えていられるのか、それが美波の中の大きな不安だったのである。
 それはある意味では仕方のないことでもあった。誰でも最初の一歩があるわけだし、その際は皆等しく自身の内面に自信となる根拠など持っていない、もしくは極めて薄弱なものであるに違いないのだから。
 そんな美波を励ますかのように、アナスタシアは彼女の手を取り呼びかける。4話でも見られた、いざという時はアナスタシアが美波を支える側に回るという構図はこのシーンでも十分生かされており、それ以上に「自分には何もない」と言っていた美波への1つの回答、その片鱗と捉えることもできるだろう。2人の繋がりがどのような形で結実するかは、ライブの当日まで判明しないのであろうが。

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 2人に卯月たちが安易な言葉をそれ以上抱えなかったのは、美波の苦悩がついこの間自分たちが味わったものと同義であることをよく承知していたからだろう。今この場で声をかけて元気になったとしても、それは本番の空気に飲まれれば容易く霧散してしまう程度のものでしかないと、彼女たちもわかっているのだ。
 さて本文中では構成の都合上わかりにくく書いてしまったが、実際の作中では美波が自身の不安を告白するシーンと交互する形で、先ほどのみくたち非デビュー組それぞれがデビュー案を語らう描写がインサートされている。
 武道館でゲリラライブという李衣菜、ファンの皆と一緒に楽しみたいという蘭子、お客に手作りお菓子を配りたがるかな子、自分のライブで誰か1人でも幸せな気持ちに出来ればと願う智絵里…。どれも残念ながら現状では実現できないであろうものばかりだが、無論この演出は実際にデビューの時期を迎えつつあり、厳しい現実に直面している5人(と言うか美波とアナスタシア)と未だ夢想めいたことしか見えない他メンバーとの対比を描いているのであるが、個人的にはそれ以外にもある事項について描写されているように思える。
 先ほど文中で「現実感覚が追い付いていない」と書いたが、これは何もみくたちだけの話ではない。美波もまたもうすぐアイドルとしてデビューするという「現実」に、自分の感覚が追い付いていないのである。初めて体験するであろう未知なる世界を前にどう向き合えばいいのかわからないから、自分が何を拠って立つ根拠と見定めればいいのかもわからない。
 もちろんみくたちと美波たちの目の前にある「現実」は明確に異なっており、それが皮肉にもそれぞれの現状の差を浮き彫りにしてしまっているが、例え差があったとしても「現実感覚が追い付いていないことにより生まれる不安やすれ違い」そのものは、全員同質であるはずなのだ。そしてそれは思春期の少女であれば誰でも持ちうる感情であることは疑いない。
 つまりこのシーンは5人と9人の対比を描くと同時に、皆等しく十代の少女であり根本的には大差ないと明示しているとも考えられるのだ。
 「アイドルを目指す少女」の物語を描くというかつてのアニマスのテーゼについては既に以前触れているが、ここでもまた本作を「アイドルマスターのアニメ」足らしめている一要素が顕現したと言えるだろう。

 一通りそれぞれのデビュー案をまとめたみくたちは、部屋に入ってきたプロデューサーに案を書いた紙を手渡すが、プロデューサーは一応受け取るものの「実現しないと思ってほしい」と、いつもの通りつれない返事を返すのみだった。
 今回はこれ以外に返答のしようもなかったろうから仕方のないところではあるが、全員かなりテンションが上がっていただけにすっかり意気消沈してしまい、かな子のとりなしの言葉も力なく響くだけだ。
 だがただ1人、みくだけはそれでもあきらめないと、最後の手段としてストライキの決行を宣言する。そしてその時、今までずっとだらだら寝こけていただけだった最後の1人が嬉々として起き上がる。

 休憩していた様子の卯月たち5人の許へ駆けてくるかな子。かな子は宣言通りにストライキを始めてしまったみくたちを何とかしてもらおうと、プロデューサーを探していたのだった。
 そのみくたちは346カフェの一角を占拠、テーブルを使ってのバリケードまで用意してしまった。参加者はみくに莉嘉、そして杏。場所の占拠という行為が4話の終盤で杏が行ったプロジェクトルームの占拠を受けての発想だとすると、このような大仰なやり方そのものも杏が提唱したように思われる。
 と言っても杏は別にデビュー云々が目的ではないようで、やっていることは週休八日の要求と、いつもと全く変わっていない様子だ。

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 心配そうに3人に呼びかけるきらりたちの所に卯月たちも到着するが、肝心のプロデューサーは打ち合わせの最中のようで捕まらなかったらしい。
 と、ここで当人たち以外の第三者を代表して登場するのは楓、そして本作では今話が初登場の大和亜季だ。彼女もまた本作で初めてCVが割り振られた1人である。

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 その言葉の内容もサバイバルゲームが好きな軍事マニアという面を持つ彼女らしいと言えるが、原作ゲームにあまり触れずアニメで初めて「シンデレラガールズ」に触れた人であれば、亜季よりはむしろ楓の唐突に発したダジャレの方に違和感を覚えたかもしれない。
 1話で「お願い!シンデレラ」を歌う面々のセンターを務め、2話でも登場シーンこそ少ないものの妙齢の美女といった雰囲気を全身に漂わせていた彼女がいきなりあまり面白くないダジャレを口にしたのだから、驚くなという方が無理な話かもしれないが、これもまた楓のれっきとした個性・特色の一つである。
 話が進むにつれてこのような未だアニメでは一面的な要素しか描かれていない他のアイドルたちも、様々な側面が描かれる可能性をもここで示唆されたわけで、これは各アイドルのファンも本作そのもののファンも期待しないではいられないところだ。
 だがこの2人の描写は単なるファンサービスに留まらない。「カフェの一角を占拠してストライキを起こす」という行為は、字面だけで考えるとかなり危険な行為なのだが、2人の描写に代表されるように、周囲の人間は注目こそしてはいるが、行為そのものをあまり脅威と捉えていない節がある。
 それは占拠された一角以外のカフェの敷地では普通にお客が食事を摂り(ある人は騒動を一切意に介さずスマホをいじっていたりする)、また店員のバイトをしていたらしい菜々が注文を受けた際には普通にみくがその品を用意している点からも窺え、当事者たるシンデレラプロジェクトの関係者以外は文字通りのストライキではなく、それこそ子供のごっこ遊び、レクリエーション程度にしか考えていないように見受けられるのだ。
 尤も346プロの敷地内とは言え一施設の一角を占拠するなどという行為を真面目に考えていくと、話の筋としてもリアリティという側面から見ても色々面倒なことになりそうなので、そのあたりは良くも悪くも「話の都合」としてごまかしている感は否めない。
 しかしその描写は同時に今まで以上にみくたちの内面と周囲とのギャップを明確に浮かび上がらせるという機能も果たしている。みくにしてみれば自分の要求を少しでも本気で聞いて欲しいからという極めて真剣な気持ちでこのようなことをしているわけだが、どれほど真剣であっても、その想いを表現する手段がどうしても稚拙なものになっているため、気持ちがいまいち周囲に伝わっていないのである。
 スマートな方法ではないにせよ、みくはみくなりに目標に向かって懸命にあがいているのに、周囲の大多数の人間にはその気持ちが届かない。話の都合上止むを得ない処置である周囲の人間の無反応ぶりを、怪我の功名的にみくの現状を強調するガジェットとして利用する演出の冴は見事であった。
 しかし当事者のシンデレラプロジェクトメンバーは無関係ではいられない。未央の呼びかけに対しても3人は徹底抗戦の構えを見せるが、続けて未央から美嘉の名前が出てきたとたん、意気消沈して止めてしまう莉嘉が、本当に美嘉のことが大好きなのだということが強く伝わってきて非常に微笑ましい。
 みくは残った杏と一緒にがんばろうと持ちかけるが、みくの要求が自分たちのデビューを確約することと知るや否や、杏は完全にやる気をなくしてしまった。ある意味一番ぶれないメンタルの強さを持っていると言えないこともない杏らしい一幕である。
 他方、卯月たちもみくの真意を聞いて何も言えずに押し黙ってしまう。デビューが既に決まっている立場の彼女らでは、どうしようもないのは確かだった。それでもなおきらりやかな子が呼びかける中、ようやく駆けつけたプロデューサーは、みくが語り出した想いを聞く。

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 シンデレラプロジェクトに選ばれ、いつかデビューできる日を夢見てレッスンや小さな仕事をこなしてきたが、自分はどんどん置いて行かれる。デビューしたいとプロデューサーに訴えてもダメで放っておかれるばかりの状況で、どれだけがんばればいいのかさえもわからない。
 このままは嫌、デビューしたいと叫ぶまでに至ったみくの胸中を、プロデューサーが今初めて知ったというのは明白だろう。逆を言えば彼は今までみくのこのような気持ちが伝わる程度のコミュニケーションさえろくに取っていなかったことになる。
 文中で触れた「プロデューサーのあまりの語らなさによって生じる危険性」とはすなわちこれであった。担当の娘に「放っておかれる」とまで言われてしまうほどに長らくコミュニケーション不足であった事実は、みくの心にプロデューサーへの不信感、疑心暗鬼といった感情を根付かせてしまっていたのである。
 互いに支え合う信頼関係を築くことが大前提の「アイドルとプロデューサー」という関係性において、この疑念は致命的だった。アイドル活動を行う上で最も自分に近い、自分のそばにいることになるであろう人物を信用することができないのだから、いくらレッスンをしても細かい仕事をこなしても、この猜疑心が払拭できない限りは楽観的に未来を信じてなんばるなどということは絶対に出来ないであろう。
 それはちひろさんとの会話の中で浮き彫りになった、彼自身の明確な落ち度だった。彼はシンデレラプロジェクトのプロデューサーである以上、卯月たち5人のデビューが間近に迫っている時であっても、プロジェクトメンバー全員を常に気にかけていなければならなかったのである。
 みくの痛切な告白を目の当たりにしたプロデューサーは意を決して歩み寄り、はっきりとした口調で自分の非を詫びる。その言葉に一瞬態度を軟化させるものの、すぐにまた表情を強張らせたのは、まだプロデューサーへの信頼感が回復していないからであろう。
 続けてプロデューサーは大切なことをみくに伝える。デビューについてはプロジェクトメンバー全員について考えていること、まだ完全に決定したわけではないので話せなかったが、第一弾を卯月たち3人と美波たち2人とし、残りのメンバーも第二弾、第三弾とそれぞれユニットを組んでデビューさせる予定であることを。

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 プロデューサーは決してみくたちを忘れていたわけではなかった。ただそれを守秘義務等のややこしい面は抜きにしても、みくたちに伝えて明日を信じさせる努力を怠ってしまっていたのである。しかしこのような事態に至って、まだ口外するのはあまりよろしくないであろう情報をみくたちに伝えたのは、アイドルをプロデュースする「プロデューサー」としては誠に正しい行為であったと言えるだろう。
 その言葉にようやく安堵したのかみくは一気に力が抜けたように座り込み、一言「早く言ってにゃ」と口にする。それはプロデューサーへの信頼感が回復した証でもあった。
 他のメンバーもみくに感情移入し、プロデューサーの言葉に皆一様に安堵したというのは、みくの最後の独白を受けて思わず「ほんとだよ」を呟く凛と、みくとプロデューサーのやり取りを、目に涙を浮かべながら聞いて最後に笑顔を見せた卯月の姿が象徴していたと言えるだろう。
 殊に卯月自身もかつてデビューする日を夢見ながらオーディションを受け続け、シンデレラプロジェクトに選ばれてからも他のメンバーが確定するまでレッスンに1人勤しんでいた経験があるわけで、みくの言葉には大いに共感できる部分があったろうし、だからこそプロデューサーの言葉を受けて我が事のように喜んだに違いない。
 ただ1人、全員デビュー決定の報を受け拒否しようとしながらも、いつものようにきらりに抱き抱えられてしまう杏は、どこまでもいつもの杏であった。
 今回の一件はみくたちが年端も行かぬ少女であった故に起きた騒動と言えるが、ある意味では誤ったり間違ったりするのも若者の特権であるのかもしれない。無論そのような理屈で許していいことばかりではないが、少なくとも今回のみくたちの騒動はその考え方を念頭にした形でひと段落したようだ。
 それはみくたち首謀者とプロデューサーがカフェの店主や部長にきちんと謝罪しているカットが挿入されていることからもわかるが、画的な解説はともかく言葉での説明担当に「永遠の17歳」である菜々を選び、その聞き役に楓を配しているのはうまい人物配置であった。
 改めて迷惑を変えたプロジェクトメンバーにも謝罪するみくだったが、勿論彼女を責める者など1人もいない。みんな内心ではみくのような苦悩を大なり小なり抱えていたのだから。
 そしてみくはデビューの決まっている卯月たち5人に向け、少々ばつの悪そうな、それでも満面の笑みで激励の言葉を送る。みくなりに心の中で自分の苦悩に区切りをつけた証であろうその笑顔に、5人もそれぞれ改めてデビューに向けて気合を入れる。

 後日、卯月たちは自分たちのために用意された新曲を確認する。その出来栄えに感動する3人だったが、卯月は資料に書かれていたユニット名に目を向けた。
 「ニュージェネレーションズ」と書かれたそのユニット名はプロデューサーのつけた仮の名称であり、「新しい時代が始まる」という意味があると言う。
 名称に込められたその意味に感銘した3人は、この名前をそのまま自分たちのユニット名として使用することを提案し、プロデューサーも了承。3人のユニット名は「ニュージェネレーションズ」に決定する運びとなった。
 卯月、凛、未央の3人がその名の通り新たな時代を築く旗手となれるのか、それはひとえにこれからの3人のがんばりにかかっている。とりあえずの目標はCDデビューと関連するイベントやライブを成功させること。
 これから歩んでいく先に待っているであろう輝く舞台を前に、3人も束の間、心を躍らせるのであった。

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 今話は単純に見るとデビューする側になれなかったみくの視点のみで描かれているように思われがちだが、実際にはまだデビューできない側のみくたち9人に、デビューが決定していて且つ本番のステージに立った経験もある卯月、凛、未央の3人、そしてデビューは決定したものの本番のステージに立ったことはない美波とアナスタシアの2人という、3つの集団による物語が展開されている。
 描写が注力されていたのがみくたちの方であるのは論を持たないが、同時に他の5人についても、特に未来を不安視する美波の視点を取り入れ、デビュー決定が必ずしも手放しで喜べることばかりではないという点を描くことで、内面的にはみくたちも美波たちもあまり変わらない同年代の少女であるという、等身大の人間像を強調しており、それにより一歩先んじた者と後塵を拝している者との「格差」が必要以上に大きなものとならないよう、配慮している意図が窺える。
 同時に1話以降は比較的大人しい描写に終始していたプロデューサーに再びスポットを当て、みくとのすれ違いによる関係性の悪化と修復を今話後半のメインに据えることで、本作の中軸には「アイドルとプロデューサー」という関係性が存在し、それこそが本作をアイマスたらしめる原初の人間関係なのだということを改めて視聴者に顕示していた。
 ただそれを考えるとやはりまだまだプロデューサーと各アイドルとの繋がりは薄いように思われる。特にデビューが決まったニュージェネレーションズの3人やラブライカの2人に対しても、劇中描写を見る限りは事務的な内容のやり取りに終始しており、互いに打ち解けているとは言い難い部分が散見される。
 みくとの信頼関係は修復したとは言え、まだ彼女たちが実際にデビューしたわけでもないのだから、これからもプロデューサーは彼女たち14人を真摯にプロデュースしていかなければ、また元の木阿弥になってしまう可能性は十分あるわけで、そういう意味ではまだまだ前途多難、艱難辛苦もまた彼女たちの前には広がっているのかもしれない。
 ニュージェネレーションズとラブライカのデビューは、そんな現状を打破する起爆剤となるのであろうか。次回を楽しみにしたいところだ。

2015年02月12日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第4話「Everyday life, really full of joy!」感想

 1話から連続して描かれてきた卯月、凛、未央を中心としたアイドルを目指す少女の物語は、3話でのライブ成功という形で一旦の区切りを迎えた。まだ正式にアイドルとしてデビューできたわけではないものの、最初の山場は越えて次なるステージへと歩みを進める段階には達したと言える。
 しかし卯月たちの所属するシンデレラプロジェクトには、まだそこまでの段階に到達していない者も当然存在する。
 きちんと段階を踏ませて発展させていく物語構成は、アニマス時代から引き継がれる制作陣の得意な手法であるが、本作においても人物描写に関して1話からその手法が用いられてきた。
 すなわち物語上の焦点が合わさっている人物を1話の卯月と凛から、2話の未央を迎えた3人、そして3話のシンデレラプロジェクトの面々や先輩アイドルと言った具合に拡大させていったわけである。
 シンデレラプロジェクトの11人は既に2話の時点で登場してはいたものの、2話はあくまで卯月たち3人主体の物語であり、彼女らはその存在をアピールする程度でしかなかったが、3話においてそれぞれ程度の差はあるものの、各々の個性を打ち出した描写が織り込まれ、後塵を拝してはいるものの彼女らもまた卯月たちと居場所と目標を同じくする仲間であることが明確に示された。
 とは言えまだ彼女ら11人の人となりを細かく描出したわけではない。であれば11人の少女たちがどんな人物なのかをよりはっきりと視聴者に提示することが、当然必要になってくる。
 そのために用意されたのがこの4話だった。今話ではプロデューサーからシンデレラプロジェクトメンバーのPR動画撮影を仰せつかった卯月、凛、未央の3人による撮影風景という体で、11人の個性がクローズアップされることとなる。

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 ちなみに最初に書いておくと、この「撮影を通してキャラクターを紹介する」という構成からアニマスの1話と比較する向きも多いように思われるが、アニマスの方が視点を完全にカメラマンに固定し映像のみの描写に徹した、文字通りのモキュメンタリーとして仕上げていたのに対し、こちらはPR動画撮影という状況を通して被写体側の11人だけでなく撮影側の3人も描写しており、カメラからの視点と通常の第三者的視点とを交互に使い分けているという、言ってみればごく一般的な構成になっている。
 文章で書くと大差ないように見えるが、映像上の差異はかなり大きい(視点が切り替わるだけで印象はだいぶ変わる)ので、安易に両者を比較する行為には注意するべきだろう。

 被写体として最初の対象になったのは、プロジェクトルームに入ってきたみくだった。眠たそうに眼をこすり、あくびまでしてしまうみくであったが、PR動画の撮影中と知るや否や荷物の中からネコミミを取り出して、あっという間にいつものネコ少女に早変わり。その早さと用意周到ぶりには、卯月も凛も素直に驚く。
 「意外と」という凛の感想にもあるとおり、これまでの描写ではネコキャラぶりが前面に押し出されていたためにあまり伝わっては来なかったが、みくは本来真面目な性格の持ち主であり、自身のキャラ性を一番の売りにしていても決してそれだけでやっていこうとは考えていない。それは2話での3人に向けた自己紹介からわかるとおり、「ネコキャラ」という彼女の最大の個性自体にある程度の計算を含んでいるのも、アイドルとしてどのように立ち回っていくべきか、生真面目に思案した結果とも言える(尤もみくの場合、それが「素」でもあり、割合としてはそちらの方が大きいという点がまたわかりにくくしているのであるが)。
 良くも悪くも見ている側に媚びることを忘れないという点では、彼女がアイドルというものに対して極めてストイックに向き合っている証なのかもしれない。それは彼女自身のポージングや猫なで声だけでなく、彼女のお尻だけを映してしかもフリフリさせるという媚び媚びな「画」を演出面で用意したところからも窺い知れる。

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 こういうやたら媚びるキャラは得てして性格面に難ありという設定にされがちだが、みくに関しては前述の生真面目さと、いわゆる「ライバルキャラ」になり切れないちょっと抜けた面がクローズアップされている。未央が普通に彼女を「みくにゃん」とあだ名で呼んでいるあたりに、3人との交友関係が良好であることも匂わせ、それら諸要素が彼女の持つ元来の人の好さを必要以上にくどくなることなく発露させており、人格的にはごく普通の真っ当な人物であることがここで明示されたと言っていい。

 そんなみくの生真面目な部分はこのすぐ後、3人と一緒にレッスン場へ向かった際にも発揮される。
 レッスン場には莉嘉とみりあが先に来ていたが、2人はレッスンを行っていたわけではなく、莉嘉がみりあにいわゆるセクシーポーズの類を教えていた様子。同じようなことをしているのに、そのポーズの意味するところをある程度わかっている莉嘉と、恐らくはまったくわかっていないと思われるみりあの描写は、わずか1歳違うだけの年少組2人の個性がはっきり打ち出されていて面白いが、みくは慌てて2人の間に割って入り、撮影もストップさせた。
 相手がついこの間まで小学生だった莉嘉と現役の小学生であるみりあである以上、まだ早いと2人を止めるのは年長者としては当然の行動であるが、その行動も直前の卯月たちも含めた4人の中で一番狼狽していた様も含めて、みくが極めて常識的な羞恥心や価値観を持っていることが、この場面でも示されている。
 しかしそんなみくの注意にもさほど耳を貸さず、2人は卯月の持っていたカメラに注目してしまう。興味津々の2人はPR動画の撮影と聞いて早速また別のセクシーポーズを披露するが、今度はさすがに凛に止められてしまった。この短い描写からもわかるとおり、基本的にこの2人が一緒にいる時は一つ年上の莉嘉がお姉さんとしてイニシアチブを取ろうとしているようだ。

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 改めて撮影を再開したが、ライオンキャラでアピールしようとした莉嘉に、ネコ科は被るからとみくがダメ出しをしてきたため、莉嘉は姉である美嘉の持ち歌「TOKIMEKIエスカレート」の歌とダンスを、カメラの前で披露する。だが喜んで撮影する卯月たちの後ろで、みくが静かな決意を示しているのには誰も気づかなかった。
 次は自分がステージに上がって見せるという強い意志は、3話で卯月たち3人に見せた態度が個人への対抗心だけではなく、根底にあるみく自身の上昇志向ないし目的意識の高さから生じたものであることを明らかにしており、ここでも彼女の生真面目さが端的に示されている。段階を経て強調されてきた彼女のアイドルに対するストイックな姿勢が今後どのような物語を形作るのか、これからも注視していくべきところであろう。

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 肝心の撮影は莉嘉個人の撮影中にも落ち着いていられないみりあがどんどん乱入してくるため、3人もそのパワーにすっかり押され気味になってしまった。莉嘉もすぐに一緒になって騒ぎ立てるあたりは、1歳違いではあってもまだまだ同じ年頃の子供というところか。
 この動画撮影という面白そうなものを目の前にして落ち着いていられずに騒いでしまうという2人のノリは、リアルな子供らしさが垣間見えて非常に楽しい。我々視聴側も子供時代を思い返してみると、学校で何か楽しいことがあった時は友達同士のおしゃべりに夢中になって、クラス委員が「静かにしてください!」と注意しても全く意に介さず、先生に叱られるまで続けたという経験が幾度となくあったと思う。2人の描写はまさにそれで、ただ自分の言いたいことを言っているだけで、台本的なかっちりとした言葉のやりとりにはなっていないのだが、2人にしてみれば一応会話としても成立しているというそのセリフ回しも、リアリティに拍車をかけている。
 そんな中でも2人にアイドルとしての目標ややりたいことを語らせているのは巧みなところだし、何より2人ともよく動く。表情だけでなく仕草や髪の毛の動きに至るまで、まさに全身であふれる感情を表現している様は、これぞアニメという動き具合であった。

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 子供パワーに圧倒されながらもどうにか撮影を終えた3人は次の撮影相手を探し求めるが、そんな彼女らの背後から杏の苦しそうな声が聞こえてくる。ところが3人の振り向いたその先にいたのは、3人より一回り大きな「怪獣」だった。
 思わず凛の背後に逃げる未央や、驚いて一瞬気を失い凛に支えてもらう卯月と言った3人のリアクションも楽しいが、何よりも怪獣の喉のあたりから顔を覗かせるきらりの絵面が、怪獣の凶悪な面構えとのギャップもあって一番面白い。声の主である杏が怪獣の着ぐるみを着たきらりの小脇に抱えられている様子も、また一層のおかしみを醸し出している。

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 きらりは撮影の手伝いをするために、仕事を嫌がる杏を連れて移動中なのだと言う。どのような手伝いをするのかは定かではないが、卯月たち3人以外の中にも既に対外的な活動を一応始めている者がいるという点は覚えておくべきところだろう。
 ちなみにきらりの着ている着ぐるみはその見た目から、言わずと知れた世界の怪獣王であるゴジラをモデルにしていることは明白であるが、最新作である2014年のハリウッド版ゴジラ、いわゆる「ギャレゴジ」だけを単にモデルにしたと言うわけではないと思われる。
 全体のフォルムは昔のティラノサウルスの想像図をモチーフにしたオーソドックスな二足歩行型怪獣、つまり昭和ゴジラまたはVSシリーズ時代のゴジラと似通っているし、目がつりあがっている凶悪な面構えややたら尖らせた背びれなどは、21世紀になってからのいわゆる「ミレゴジ」と類似点を見出せるので、これは様々な時代のゴジラのデザインを折衷したデザインと考えるのが妥当であろう。
 さらに言うなら一部には「ゴジラの着ぐるみは100kgくらいある→それを着て動くきらりはすごい」という意見があるが、これには若干の誤りが含まれている。ゴジラの着ぐるみが明確に100kgを超えたとわかっているのは初代、つまり第1作の時に初めて作成した着ぐるみと、1995年の「ゴジラVSデストロイア」時に作成された通称「バーニングゴジラ」のみである。
 前者は着ぐるみ製作自体が初めてだったため、試行錯誤の中の産物として作られたもので、実際に初代スーツアクターである中島春雄氏も全く動けず、より軽量化した2つ目の着ぐるみを新たに作成した(しかしその2つ目も重量100kg越えだった)という逸話も残る。VSデストロイアの場合は体の赤色部分を発光させるための電飾や、蒸気を再現した炭酸ガスの噴射機構を備え付けたために重くなったという、この映画特有の事情が背景にあるので、一概に断じることはできない。
 それに着ぐるみの喉元から完全にきらりの顔が見えていることから考えても、この着ぐるみは映画撮影用ではなく宣伝用かアトラクション用と考えられ、そうであれば撮影用よりずっと軽くなっているはずなので、少なくとも100kgということはないだろう。
 それでも女の子が容易く着られる類のものでないのも確かなので、結局のところは「きらりすごい」になってしまうのだが、この辺は個人的なこだわりということでご容赦いただきたい。
 ものすごく私的な意見を述べるなら、既存のデザインをただ尖らせただけの品のない背びれはチョイスしてほしくなかったが。
 またこのシーンは、前述の通りきらりの着ぐるみが歴代ゴジラの折衷と思しき点から見ても、かなりスタッフの遊び心が反映された場面にもなっているようで、それは「凛が着ぐるみを着たら」という卯月や未央の想像で、同じ二足歩行型怪獣の着ぐるみでなく、わざわざモスラっぽい蝶の着ぐるみを着た凛の姿を描くあたりからも窺えるだろう。

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 閑話休題。あまりアイドルらしいとは言えないその出で立ちも、きらりにとっては十分可愛く映るようだが、傍らの杏はそれよりも印税をもらえる仕事がいいとつれない態度。同じ17歳にもかかわらず、体型の面も含め様々な点が正反対のきらりと杏だが、そんな杏にきらりが構うのはただ杏を可愛いと思っているだけでなく、PR動画撮影の際に口にした「みんなではぴはぴしたい」という気持ちを常に持っているからなのだろう。「自分が」でも「相手を」でもなく「みんなで」というところが、きらりという少女のアイデンティティであり、同時に彼女をアイドルたらしめる重要な資質であるとも言える。
 しかしきらりが動画撮影をしている隙に、杏は仕事を休みたい一心でその場から逃げ出してしまった。逃げる姿が本編中初めて積極的に杏が動いた描写になっているというのがいかにも杏らしい。きらりも着ぐるみを着たまま追いかけていってしまったため、杏の動画は結局撮れずじまいとなってしまう。
 ちなみにその場面で映された映画「怪獣大決戦 GIRARIDON」のポスターに描かれている怪獣が、きらりの着ていた着ぐるみの怪獣なのだと思われる。茜と紗枝がメインで出演しているようだが、原作ゲームに馴れ親しんだ層ならこの種の映画の主演に一番向いているであろう別の特撮ヒーロー系アイドルを想起したかもしれない。
 なお隣の宣伝ポスターにはこれまたデレマスアイドルの1人である向井拓海が登場している。ゲーム中ではヤンキーっぽい特攻隊長アイドルとして登場するだけに、映画の舞台と思しき「山」と絡んでの登場はかなり意外であった。

 中庭に出た3人は小腹も空いたのでカフェに行こうとするが、その時芝生に座って楽しそうに歓談しているかな子と智絵里を目に留める。
 これ幸いとばかりに2人の撮影も開始されるが、両者とも比較的大人しめの性格であるにもかかわらず、特に緊張するでもなくいつも通りの調子でカメラに向かって挨拶するかな子と、恥ずかしがって赤面している隣の智絵里とは良い対比になっている。少なくとも一番最後にプロジェクトに参加した卯月たちよりはカメラ慣れしているはずなのに、「撮影」という状況への反応にここまでの差異が生じている、その描写自体が百の言葉を費やすよりも遙かに2人の個性を物語っていると言えるだろう。

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 智絵里とお茶会を楽しんでいたということで、今回も手作りのお菓子を披露するかな子。いい匂いにつられて撮影する側の3人もついついお菓子を食べてしまい、ひと時撮影のことも忘れてガールズトークに花を咲かせる。
 ここで注目すべきなのはやはりかな子のお菓子に対する独特な拘りだろう。と言ってもお菓子の作り方云々の話ではなく、「みんなと一緒にお菓子を食べる」ことへの拘りだ。もちろん単純に甘いお菓子が大好きという点もあるが、彼女の中でそれと同等の価値を有しているのが、みんなと一緒にお菓子を食べて楽しく過ごしたいという想いなのだろう。
 この「みんなでいっしょに」という考え方が、「アイドルマスター」の名を冠するほとんどの作品に通底しているものであることを考えると、かな子のこの想いもまた彼女が知らず知らずのうちに発揮していた、あるいは以前から備わっていたアイドルとしての資質と考えられる。
 すっかり和やかな雰囲気に取り込まれた卯月と未央だったが、そんな2人に改めて撮影の話を切り出す凛。慌ててカメラを手にした未央が次の被写体に選んだのは、当然かな子と一緒にいた智絵里だ。
 智絵里は撮影のために話す内容を書き留めたメモを持参していたが、それでも生来の恥ずかしがり屋な面が災いして、うまく話せずついつい視線をメモに落としてしまう。さらに運悪く吹いてきた突風にメモが飛ばされてしまった。
 落ち込む智絵里を励ますためにかな子はお菓子を差し出すが、それがちょうど智絵里の好きな四つ葉のクローバーと同じ形をしていたため、智絵里も救われたように微笑む。智絵里がクローバーを大切に思っている理由は劇中ではまだ明らかにされないが、そこから生まれる笑顔は、彼女もまたそれを理由にしてスカウトされたのかと思わされるほどの魅力を湛えているのは間違いなく、映像に収めるべき智絵里の一番の個性であったと言えるだろう。

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 2人の撮影を終えた未央たちにかな子は、蘭子から預かったというメッセージカードを渡す。どうやらPR動画撮影のための諸々を指定しているようだが、例によって中二病的言葉遣いで書かれているその文面が3人にとっては難解すぎて、いつどこへ行けば蘭子に会えるのか見当もつかない。

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 答えの出ないまま当てもなく旧館の玄関ホールにまでやってきた3人だったが、ちょうどそこに美波とアナスタシアが入ってきたのを見かけた未央は、蘭子のメッセージは後回しにして、先に美波たちを撮影することに決める。
 未央は早速カメラを2人に向けるが、向けられた美波は動画撮影の件は事前に知っていたのか、動じることなく落ち着いて挨拶を返し、美波に促されたアナスタシアも滞りなく自己紹介をする。

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 如才ない挨拶であったがしかし、2人がカメラを突然向けられて驚くことを期待していた未央にとっては、あまり面白くない画でもあった。それはもちろんその驚いた様を撮影したかったからであって、2話の頃から場を盛り上げるための行動を率先して取ってきた未央らしい発想というところだ。
 悩む未央はふと、美波の持っていた大きな荷物に目を留める。それが美波が大学でやっているラクロスのラケット(実際はスティックとかクロスというらしい)だと聞いた未央は、何やら名案を閃いた様子。
 未央はホールを出、正門近くでラクロスのユニフォームに着替えた美波とチアガールの姿になったアナスタシアを撮影し始める。ユニフォーム姿でラケットを素振りしながら自己アピールをするやり方が果たしてPRになっているのか疑問を持つ美波だったが、未央のかなり強引な説得を真に受けて続けてしまうのは、自己アピールでも触れている生来のチャレンジ精神故だろうか。その隣で卯月に促されたアナスタシアは、ロシア語を交えながら傍らの美波を応援する。
 素振りや応援をしつつの自己アピールを続ける2人を不思議に思ったのか、いつの間にか門の外に人が集まり出し、撮影が終わった時には拍手までされてしまい、さすがに美波も恥ずかしがってしまう。さすがに今回は突然のことでもあるので恥ずかしがるのは止むを得ないところだが、そんな美波を気にかけるアナスタシアの方は特に緊張もしていない様子。

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 今のアナスタシアにとっては、色々なことに取り組めるアイドルという仕事に対する喜びや楽しみが、他の何よりも勝っていた。そして自分がそのような気持ちを抱けるようになったのは、3人ががんばって成功させたライブを見たからという言葉に、卯月たちも嬉しそうに笑顔を作る。
 そういう意味ではアナスタシアも美波に共通するチャレンジ精神を持ち始めたと取れるが、イレギュラーな展開とはいえ観衆の前に立った時の2人の態度が正反対なのは、美波がアナスタシアを気にかけることの多い普段の関係性と逆転したものになっており、その点を踏まえても2人はなかなか面白い組み合わせなのかもしれない。
 撮影を終えた3人は蘭子からもらったメッセージカードのことを思い出し、美波に文面の内容について尋ねてみる。美波のアドバイスに従って3人はメッセージで指定されていた「聖なる泉」=敷地内の噴水へと向かう。
 果たしてそこに蘭子は待っていた。ちょうど「天使の声」=子供に帰宅を促す防災無線の放送が流れる午後5時ちょうどということで、一応指定通りの時間と場所に3人は到着できたわけである。
 しかしながら美波にも「魂を封じ込める器」の意味はわからなかったようで、3人はとりあえず美波の持っていたラクロスのラケットに、手近にあったと思われる花瓶を持参するが、蘭子はきょとんとしたような表情で、未央の持っているある物を指し示す。魂を封じる器とはすなわちビデオカメラであり、つまりあのメッセージカードに書かれていた内容は簡単に言えば「午後5時に噴水前でPR動画の撮影をしてください」という頼みごとだったのだ。

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 ようやく納得した3人もとりあえず撮影を開始するが、相も変わらぬ蘭子の中二病的言葉遣いは3人にとってやはり理解しづらい様子。要は「アイドルとしてやっていけるのか不安だけど、機会を得られたのだから一緒にがんばりましょう」というようなことを言っているのだが、それを3人が把握するにはまだまだ慣れが必要なようで、未央は後で解説してもらうよう頼む。
 その際未央が放った「らんらん」という呼び名に驚く蘭子。特徴的なあだ名をつけるのは未央の癖であるが、自分がそのようなあだ名で呼ばれるとは思ってもいなかったのか、顔には出さないもののその言葉には結構な照れが含まれているように見受けられる。
 このようなやり取りや撮影を終えて立ち去ろうとした際に、置いておいた傘を慌てて取りに戻る仕草など、彼女の素と思われる部分も徐々に露出してきており、その言動でわかりづらくなっている彼女の内面を、そう遠くない将来に仲間たちが知る時、どんな展開が待っているのか大いに期待したいところだ。
 ちなみに「お疲れ様です」という意味の「闇に飲まれよ!」は、彼女の中二病的言葉遣いを象徴するワードなので、覚えておいて損はないだろう。

 ほとんどのメンバーの撮影を終えてプロジェクトルームに戻ってきた3人。少し休みつつまだ撮影していない残りのメンバーは誰かと話す3人は、イスの下からチラリと覗いているウサギのぬいぐるみの耳に気づいていない。
 残る2人のうちの1人である李衣菜の姿を見つけた卯月だったが、李衣菜はヘッドホンで音楽を聴いている最中だったため、撮影を今行うかどうか躊躇する。しかし李衣菜の方はチラッと3人の方に視線を向けており、完全に音楽に集中しているわけではなかったらしい。
 音楽を聴き終えたのか、やたらとロックの良さを連呼しつつ立ち上がる李衣菜。そのタイミングを見計らって卯月は李衣菜の撮影を開始する。
 「ロックに身を任せてた」とか「ロックなアイドルの性」などという、いかにもクールな感じの言葉に卯月も凛も感心するが、話しているうちにだんだんと言葉に熱が入るようになり、自分でそれに気づくと慌ててクールな態度に戻す様が、可笑しくも可愛らしい。
 直後に凛からお薦めの曲を聞かれて狼狽するところや、部屋のドアが突然開いた際の慌てぶりからも何となく察せられると思うが、李衣菜はあくまでクールでロックなアイドルを「目指している」のであって、彼女自身のパーソナリティがそうだというわけではない。彼女の個性については今話においても未だ全貌は明らかになっていないので、今後彼女がどのように扱われるのか、そちらにも期待しておきたい。

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 そんな李衣菜のみならず卯月たち3人も驚くほどに勢いよくドアを開けて入ってきたのはきらりだった。一見すると何でもない場面だが、このドアの描写にきらりの持つ別個の個性、いわゆる「物理的なきらりんぱわー」を想起させられる。
 結局あの後も杏は捕まらなかったようで、仕事の方は傍らのみりあに代わりにやってもらったのだという。杏が見つからなければ撮影の方も今日中に完了できないため、3人もさすがにどうすべきか考えあぐねてしまう。
 そこできらりは最終兵器と称して、カバンの中に入れていた大量のアメを周囲にばらまく。一見すると役に立つのかどうかもわからない変な手段だが、きらりを中心とした二連続の回りトラックを使用して、四方に散らばるたくさんのアメと、それをばらまくきらりの大きさを強調し、有無を言わさぬ説得力をこのシーンに付与している。このような面倒なシーンをすべて手書きの作画で実現させているのも驚きだ。

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 するとそのアメに釣られた杏が、なんと先ほどまで卯月たちの座っていたイスの下から飛び出してきた。前述のウサギのぬいぐるみからもわかるとおり、3人が部屋に戻ってきた段階で既にイスの下に隠れていたのである。そんなところに隠れるという発想もなかなかにすさまじいが、好物のアメに釣られて飛び出してしまうところも何とも可笑しい。
 どうにか杏の撮影を開始するものの、それでも杏はまだやる気を見せない。仕事が欲しくないとか週休8日希望だとか、およそアイドルとは縁のない言葉を連呼する杏に、さすがにPRにならないと3人も困惑してしまう。もちろんこれは嘘偽りのない杏の本音なのであるが、にもかかわらずなぜプロジェクトの一員になっているのか、先ほどから何度も繰り返し書いていることだが、そのあたりの事情については今後描かれることに期待するしかあるまい(原作ゲームをプレイしている層からすれば大体見当はつくことと思うが)。

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 きらりの忠言もあってようやくやる気になった様子を見せる杏は、撮影のために着替えるからと皆を部屋の外に追い出す。しかし一瞬不敵な表情を見せた杏は皆を部屋から出した後、ドアに鍵をかけて立てこもってしまった。要はこれが最初からの杏の狙いだったわけだが、ここまで必死に仕事を忌避するのも「働いたら負け」、いわゆるニートの名に恥じない姿勢であると言えるのかもしれない。
 しかし当然だが卯月たちにとっては大問題なのでどうにかドアを開けさせようとし、帰宅しようと戻ってきたみくたちも含めて大騒動になってしまった。深刻に捉えず楽しそうにしているみりあや意外に落ち着いた対応を取る李衣菜など、各人の対応は面白いところだが、PR動画1つ完成させるだけでもこのまとまらなさ、まだまだ前途は多難であることを思い知らせてくれる一幕でもあった。

 PR動画撮影に従事したこの1日は最後までてんやわんやであったが、これを通して卯月たち3人以外ののプロジェクトメンバーの人となりを描くのが今話の目的、と言うのは冒頭に記した通りである。しかし実際に話の中身を見てみると、今話で目指されたものというのはそれだけではなかったことがわかる。
 今回の話の中では3人が動画を撮影しているその1日の間ずっと、全員同じプロジェクトに所属して専用の部屋まで用意されているのにもかかわらず、プロジェクトルームに全員が集まる描写がなく、さらに各人がやっていたこともせいぜい撮影時にカメラに向かって挨拶や自己アピールをする程度で、実際にアイドルを目指すものとして当然やるべきことや描かれるべきもの、すなわち正当なレッスン風景や各々がアイドルを志した理由を語るようなシークエンスも一切挿入されていない。
 ここから見えてくるのは、プロジェクトメンバー個々人の描写と同時に、彼女らの属するシンデレラプロジェクト自体の現状、そしてプロジェクト内における彼女らそれぞれの立ち位置をも、同時に描出しようという意図だ。
 プロジェクト内で彼女らがそれぞれどのような立場に立つのか、ボケ役かツッコミ役か、はたまたトラブルメーカーかトリックスターか。集団内における彼女らのキャラシフトを、今話ではっきりと定義した上で見る側に示しているのだ。言ってみれば彼女らの「個人」としての立ち位置と「集団」内での立ち位置とを一気に描出してみせたわけである。
 そしてそれらを踏まえた上で描かれる現在のプロジェクトの状況。アイドルとして正式にデビューした者が誰もいないというお寒い現状ももちろんあるが、それ以上に今話では「プロジェクトとして各人がまとまっている様子が一切ない」点を強調している。
 たくさんの施設を構えた敷地の中にいるわけだから、仕事以外のちょっとした用事でもすぐ部屋を離れなければならないという実情はあるものの、かつてのアニマスでたびたび描かれた「アイドル全員が事務所に集合している」描写が、今話のような内容であっても最後の最後まで出てこないというのが、それをはっきり象徴していると言えるだろう。
 どうにか完成したPR動画を見たプロデューサーが、その内容に明らかに困惑したような素振りを見せているのは、その辺りの少々マイナスとも取れる要素が、動画に顕著であったからではなかろうか。
 しかし仕事の内容として疑問符がつくとしても、各人の魅力が映像の中に込められていることは間違いなく、それをプロデューサーがきちんと理解しているというのも、映像の中の卯月たち3人が最後にやらかした大きなポカに、クスリと笑みをこぼしているところから十分察せられるだろう。

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 翌日、プロジェクトルームに集まった14人への労いの言葉と、その後に続けられた「今後…活用させていただきます」には、彼のそんな想いが見て取れる。
 彼が笑った瞬間のカットを後方からのアングルとし、表情を一切見せずわずかな動作と声だけで彼の胸中を見せるというのも心憎い演出であった。

 PR動画の話がひと段落したところで、プロデューサーは改まった口調で全員にある連絡事項を伝える。それは美波とアナスタシアの2人、そして卯月、凛、未央の3人がそれぞれユニットを組み、CDデビューしてもらうというものだった。
 プロデューサーからの突然の発表は、14人の少女たちにどのような物語をもたらすのであろうか。

2015年02月01日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第3話「A ball resplendent, enjoyable, and...」感想

 「アイドルの仕事」と言って思い浮かぶものにはどのようなものがあるだろう。
 グラビア写真の撮影、CD発売やテレビ番組への出演、各種イベント参加など色々なものが考えられるが、多くの人が真っ先に思い浮かべる代表的なアイドルの仕事とは、大きくきらびやかな舞台に立って歌い踊る、ライブやコンサートの類になるのではなかろうか。
 輝くスポットライトを浴びながら華々しく歌とダンスを披露する。これはアイドルだからこそ行えることであり、その意味でライブとはアイドルをアイドルたらしめる最も重要な「アイドルの仕事」と言えるだろう。
 2話にてついにアイドルの肩書を得た卯月、凛、未央の3人であったがしかし、初日に行った内容はレッスンに宣材撮影という、アイドルとしての華やかさとは程遠いものだった。
 もちろん両方ともアイドル活動を行う上でなくてはならない大切なものであるし、単純に実力不足、経験不足なのは事実なのだから仕様がない。3人がさしたる不満を口にしないのも、それについてきちんと理解しているからに他ならない。
 しかしそんな彼女たちに美嘉のバックダンサーとしてライブに出演するという千載一遇の機会が訪れた。美嘉直々の推挙とは言えアイドル活動初日からの大抜擢に、手放しに喜ぶ者もいれば賛同しかねている者もいる。また別の感情を持つ者も…。
 彼女ら3人がメインでないとは言え、彼女たちが初めて迎えた本格的な「アイドルの仕事」。それは彼女たちにどのような経験と結果をもたらすことになるのであろうか。

 美嘉たち先輩アイドルが行う「Happy Princess Live!」にバックダンサーとは言え参加できることを卯月と未央が喜ぶのは2話の時と変わらないが、その2話での態度同様に凛は今一つ自分の心の整理がついていない様子だ。
 凛にしてみればこれは当然の態度であろう。以前からアイドルに憧れ、今回の件も素直に楽しいと思える卯月や未央と違い、凛にはアイドルというものに思い入れがあるわけではないし、人生の目標としてきたわけでもないのだから。直接心動かされて自ら決意した道ではあるものの、その道と自分がどう向き合っていけばよいのか、自分が具体的に何を望むのか、彼女にはまだそれがわかっていないのだろう。
 まして今回は突然の決定である。彼女にとっては自分の意思決定権の範疇を超えた場所で「勝手に」決まったことと言っても過言ではない。アイドルになると決めたのは自分、しかしそれ以降のことはすべて言われるがままに決まっていく。よくよく考えれば上にドがつくほどの新人なのだからそれは当たり前の話なのだが、その理屈で納得できるほど凛も大人ではなかったと言うことか。
 そんな複雑な胸中は未だ凛に「ステージに立つ」実感を与えず、やってみればわかると明るくハッパをかける未央にも同意させてはくれなかった。

 しかしこの事務所、シンデレラプロジェクトは卯月たち3人だけではない。残りの11人が冒頭に記した通り、当事者たる3人とは別の感情を抱くのは道理と言うものだろう。
 その内の1人であるみくが、3人への「ライバル心」をむき出しにして立ちはだかってきた。彼女にしてみればプロジェクトの最後の参加者、つまり既に活動していた自分たちより遅れてきた3人の方が先にステージデビューすると言うのだから、納得できないというのもまあ理解はできる。

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 自分とどっちが先にデビューするのがふさわしいか、勝負を持ちかけてくるみく。シチュエーションだけで考えると小物がギャーギャー吠えているだけで鬱陶しく思えるかもしれないが、実際はみくの「〜にゃ」言葉を始め、本人が元から持っている可愛らしさがそのようなマイナスイメージを絶妙に緩和してくれている。
 そしてこのような感覚は原作ゲームを遊んだことのある人なら以前にも一度は抱いた感覚ではないだろうか。ゲーム開始時のチュートリアルにて最初にプロデュースするアイドル(卯月・凛・未央のいずれか)を決めた後、最初に勝負を挑んでくるライバルアイドルとして設定されているのが、誰あろうこの前川みくなのだ。
 その対決でみくが負けるとみくはこちらのプロダクションに参加して担当アイドルとして育てることが可能になる。つまりゲームを遊んだことのある人ならば必ず知っているであろうアイドルが、絶対見ているはずのシチュエーションをほぼそのままアニメで再現してくれたわけだ。去年10月に徳島で行われたイベント「マチアソビ」内にて、みく役の高森奈津美さんが「アニメは原作ゲームの再現がものすごい」というようなことを言っていたが、それがここだったのかと思わされる一幕だった。
 で、みくと未央の対決と相成ったわけだが、その内容はジェンガで勝敗を決めるという極めてソフトなもの。しかしそのソフトな勝負にみくは負けてしまい、さらにこれはアイドルに関係あるのかとの卯月の一言が最後のダメ押しとなってその場に倒れ伏してしまう。
 シリアス展開かと思いきやコメディタッチに振り切った一連のシークエンスであるが、これもまた前述と同様にみくの人の好さ、可愛らしさといったものの表現の一つと解釈できるだろう。ライバル心はあっても彼女も同じプロジェクトの仲間なのだから、視聴者に悪印象を抱かせるような愚策を講じたりはしないということだ。
 そんなみくたちの様子を隣で智絵里と共に見ていたかな子は、こじれた場の雰囲気をとりなすように、3人へのお祝いにと自作のシュークリームを差し出す。基本穏やかな性格のかな子はライバル心を持つことなく、純粋に3人が抜擢されたことを喜んでくれていた。

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 その美味しさに卯月や未央だけでなく露骨に感情表現することの少ない凛さえも感嘆の声を上げる。2話でも披露されたお菓子作りの腕前がここでも遺憾なく発揮されたわけだが、甘いお菓子を食べることの弊害に思い至らせていたのは、この場では凛だけだった。
 程無くして凛の危惧は、一緒にシュークリームを食べようとしたかな子を注意してきたベテラントレーナーの言葉として皆にも知れ渡る。つまりは甘いお菓子を食べすぎると太ってしまうと言うことだ。
 かな子は元々ふくよかな体型で本人もそれを少し気にしている設定があるから(コンプレックスにしているわけではない)、一般論としてもその注意は妥当なのであるが、それ以上に彼女たちはアイドルなのだから、一般人よりも体型維持に気を使わなければならないというのは必定である。その意味ではかな子だけでなく卯月や未央にも同様の問題があった。2話でのはしゃぎぶりや今話の冒頭と同じく、彼女ら2人のアイドルになり切れていない部分が露わになったと言うところだが、この場面では注意を受ける立場としてかな子を配置することで、アイドルとしての自覚が足りない者が卯月たちだけではないことを明示している。この問題は彼女たち特有の欠点ではないのである。
 少し遅れて美嘉がレッスンルームに入ってくる。メインの美嘉とバックダンサーの3人は今日から一緒にレッスンを受けるわけだが、その状況ににわかにテンションを上げる未央。憧れていたアイドルと一緒にレッスンなど少し前には考えられなかったことなのだから舞い上がるのは当然と言えるが、同時にやはりプロのアイドルとしての意識は欠如していると言わざるを得ないのも確かだ。
 対する美嘉はゲームの方では3人と完全に対等な立場なので、本作のような卯月たちの先輩としての立場で描かれるのは初めてとなる。とは言っても見た目に反してアイドル活動はごくごく真面目に取り組んでいたり、未央と同様に誰に対してもフランクに会話をしたりする個性は、原典からさほど変わってはいない。未央から尊敬の念を込めて「美嘉ねぇ」と呼ばれた際に思わず照れてしまうような、まだ3人の知らない彼女の一面は今後の話で明らかになっていくのだろう(ちなみに原作ゲームでは単に莉嘉の姉だから「美嘉ねぇ」と呼ばれている設定だが、本作ではいわゆる「姐さん」の意味合いで呼ばれている)。
 まずは美嘉が一緒に3人を指導することになり、4人で美嘉の持ち歌「TOKIMEKIエスカレート」のレッスンを開始する。しかし一通り振付は覚えてきたとは言え、まともに踊ればその力の差は歴然で、呼吸一つ乱していない美嘉に対して3人は早くも息が上がってしまう。養成所での専門的なレッスン経験がある卯月だけ若干落ち着いた顔を見せているが、それでも3人の様子に大差はない。未央が思わず漏らした「きつい」という言葉がそれをはっきりと証明していた。

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 レッスンを見ていたプロデューサーとベテラントレーナーが何事か相談していた時、凛はわからない部分について美嘉に質問する。
 その場所を伝えるため、凛はごく自然に歌のワンフレーズを口ずさんだ。初めて聞く凛の歌声に、わかりづらいながらもはっきりと目を見張り、凛を見つめるプロデューサー。今もって凛のダンスや歌の技量を直接確認していなかったのは減点対象と言えなくもないが、「笑顔」のみを理由としてスカウトした凛に、アイドルとしての素養が十分備わっていることを彼が確信した瞬間でもあった。

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 それは卯月たちも同様で、先輩アイドルたる美嘉も凛の歌を褒め、激しいダンスに参っていた卯月や未央の顔にもひと時明るい笑顔が戻る。この「アイドルから一番遠いところにいた凛がアイドルとしての素養を開花させる時、状況好転のきっかけになる」下りは、後半の展開にそのまま生かされることとなる。
 そんな4人を見て思い思いの感想を述べるかな子と智絵里。純粋に3人を応援しているかな子に対し、智絵里が本番の時を想起して我が事のように緊張するのは、彼女の気弱な性格を考えると仕方のないところか。諦めずにまた勝負を持ちかけてベテラントレーナーに怒られるみくも併せて、シンデレラプロジェクトの他メンバーの描写を細かく挿入しているのも、個々人の考えと卯月たち3人との繋がりの深化を見せるという点で効果を発揮していると言えるだろう。
 今日の分のレッスンは終了し、美嘉は次のスケジュールがあるのか駆け足でレッスンルームを後にする。美嘉がいなくなるやいなやへたり込んでしまった3人を見つめるプロデューサーは、プロジェクトルームのデスクに戻った後も3人のことに思いを巡らせる。
 2話で美嘉からバックダンサーの提案が出された際に逡巡していた通り、彼は3人のバックダンサーへの起用は時期尚早と考えていた。それぞれの資質は認めているが、実力もそれを培う練習量も、そして経験も絶対的に不足している今の段階でバックダンサーとは言え3人をステージへ上げることに不安を覚えるのは、プロデューサーとしては当然の考えだろう。
 だが前者の2つはともかく「経験」に関しては、ただの練習だけでは絶対に習得できず、実際にステージに出て回数をこなさなければ己の糧とすることは出来ない。結果はどうあれステージに上がり実際の現場に触れることは彼女たちに取って間違いなくプラスになる。そうプロデューサーを諭すのはちひろさんだった。彼女の言葉にプロデューサーも心を動かされるものがあったようだ。

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 後日、衣装室に集まる卯月たち。ここで本番時の衣装合わせをするようだが、美嘉たちの着る新しい衣装を始め、大量のステージ衣装に3人も目を奪われる。未央や卯月がはしゃいでしまうのはいつものことだが、凛さえも少し興味ありげに新作衣装を見つめているのは、本番に向けて次第に意識が高まってきたことの表れであろうか。
 そこへ1人の女性が3人の新作衣装を持って入ってくる。女性の顔がベテラントレーナーと似ていることを不思議がる3人に、ベテラントレーナーの妹と自己紹介する女性。

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 役名でいうところのルーキートレーナーの初登場である。トレーナー四姉妹の末っ子である彼女には「青木慶(けい)」という名前も設定されてはいるが、ゲーム中でも本作でも基本的に「ルーキートレーナー」という名前で呼ばれている(ちなみに未央からは友達感覚で「ルキちゃん」というあだ名をつけられていたが、設定年齢19歳と3人より年上である。
 今話のEDではキャスト表記されていなかったが、ゲームコンテンツのフライデーナイトフィーバーによれば、担当声優はベテラントレーナーと同じ藤村歩さんということだが、姉の方とは完全に声色も口調も変えてゲーム中よりのんびりした性格を感じさせる演技をしており、その巧みな演じ分けは経験豊富なベテラン声優ならではであった。残る長女のマスタートレーナーや三女のトレーナーはどのような演技になるのか、こちらも今から楽しみである。
 ルーキートレーナーの運んできた衣装を身にまとう3人。3人とも基本は同じだが、それぞれの個性に合わせて細部に修正を入れて独自性を打ち出しているのが特徴の衣装だ。

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 この衣装の元ネタは「ロッキングスクール」。原作ゲームを進めていく中で初めて入手できるようになる衣装であり、それをアニメの方ではアイドルデビューを果たした3人が初めて着用するステージ衣装として、ゲーム版の流れとシンクロさせつつ引用しているわけである。
 3人の衣装を見に来たみりあや莉嘉、またまた勝負を挑んできたみくも混ざって衣装室は一気に騒がしくなった。トランプを持っていたみくがどのような勝負をするつもりだったのかは不明だが、未央に強引にジャンケン→あっちむいてホイの流れに持っていかれて負けてしまうのは何ともはやというところだ。
 引き続き3人は美嘉指導の下でレッスンを続ける。同じレッスンルームで未だむくれているみくをベテラントレーナーが注意する中、同じくレッスンを受けていたアナスタシアは、激しいレッスンをこなしている3人を不安げな表情で見つめていた。

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 ロッカールームで一緒になった美波に、その胸中を打ち明けるアナスタシア。彼女はオーバーワーク気味になってきている3人が純粋に心配だったのだ。
 自らもレッスンをこなす一方で3人を気にかけるのは無論彼女自身の優しさもあるが、みくとは逆に一番最後にプロジェクトに参入してきた、メンバーの中では一番の新米と言える3人がいきなりバックダンサーに選ばれステージに上がるということを案じていたからかもしれない。劇中でそれとわかる明確な描写はないが、原作ゲーム中でのみくとの関連性を考えると、みくとある種の対比としてのキャラシフトが設定されていると言うのは、それほど飛躍した発想ではないように思われる。
 ついでに言えばここで「オーバーワーク」という単語を使わせることで、一応英語も話せるらしいアナスタシアの設定もフォローしている。
 本番が近いからがんばっているのだと美波は説明するが、彼女も彼女なりに思うところがあるようで、壁に貼られたライブのポスターを共に見上げる2人。今3人が取り組んでいることは他人事ではない。多少早いか遅いかの違いはあれどいずれは、そしていつかは必ず自分たちも例外なく同じ経験をすることになるのだし、皆その時を待ち望んでいるはずなのだ。
 他の11人に先んじてステージデビューを果たす卯月たち3人は、言ってみればプロジェクトメンバーの代表。そんな重責をも担った3人を応援したいと思うのはごくごく自然な感情であったろう。
 3人の練習はそれからも続く。346プロでのレッスンだけでなく、卯月は近所?の小さな広場で、未央は川の土手で、そして凛は自分にとっての大きな転換点となったあの公園で、それぞれに自主練習も行いながら。懸命に練習するその姿を見つめるプロデューサーは一体何を思っているのか、例によって変化の乏しいその表情から窺い知ることは出来ない。
 そんな3人の様子をきらりは楽しそうに見つめていた。彼女も3人を応援する気持ちは同じだが、アナスタシアとは違い3人がステージに上がれることを純粋に喜んでいるようだ。
 きらりは休憩所で1人ヘッドホンで音楽を聴いていた李衣菜に話しかけるが、その音楽のためかきらりの言葉は聞きとれていなかったようで、一緒にステージに立ちたかったかというきらりの問いにも、バックダンサーなんてロックじゃないとつれない返事しか返さない。

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 そのきらりの問いを受けてのことか、同じく休憩所にいた蘭子はいつもの言い回しで3人を応援する言葉を残す。言葉自体は難解だが、ここでのセリフの内容は「3人ともがんばってください!私もいつかステージに立ちたいな!」くらいの意味と解釈しておけば問題ないだろう。
 ここで注目したいのは、きらりからの問いを受けたすぐ後にヘッドホンをつけ直した李衣菜が、きらりに杏の居場所を聞かれた際、ヘッドホンをつけた状態のままで答えているという点だ。
 李衣菜の動きを追う限り、きらりに話しかけられた後も「ヘッドホンが接続されている音楽再生機器を停止させる」動作を行ったようには見えない。このことから最初にきらりが声をかけた時点で実は音楽は再生されていなかったのではないかという見方も出来、それを前提にすると、きらりが3人のがんばっている様子を報告した際に聞いていないふりをしたことになる。
 それは何故かと、その後の一緒にステージに立ちたかったかどうかのやり取りも加味した上で考えると、やはり3人に対する羨望の想いがあったのではないか。羨ましいけどその気持ちを素直に吐露することはできない。何故ならそれは「クール」じゃないから。そんな葛藤が李衣菜の中にあったのかもしれないし、そう解釈すればレッスン中の3人から距離を取るような形で休憩室にいたのも納得できよう。
 これはさすがに拡大解釈の域に入ってしまっているが、原作ゲームをプレイすればわかる李衣菜の素の部分を勘案すると、こういう見方もありなのではないかと愚考する。
 プロジェクトのメンバーはそれぞれ、一足先にステージに立つ3人に対して様々な想いを抱いていた。だがそれは人並みの女の子なら持って当たり前の、自然な感情の発露であったとも言えるだろう。
 「さして関心を示していない」杏の様子を各人の描写の一番最後に持ってきたのは、杏の姿がある意味そういう自然で自由な感情の最たるものであったからかもしれない。

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 そして本番前日、ベテラントレーナーやプロデューサーが見守る中、4人はこれまでの仕上げとしてのダンスを披露する。評価を待つ3人に向けられたベテラントレーナーからの「ギリギリ及第点」という言葉に、喜びの気持ちをぶつけ合う卯月と未央。まだ若干怪しいところはあるものの、とりあえずのお墨付きはいただいたわけだ。
 そんな3人に労いの言葉をかける美波。美波に促されたアナスタシアは3人にスポーツドリンクを差し出すが、その時の呼びかけがロシア語だったために、3人も感謝はするもののぎこちない対応を返してしまう。
 3人のそんな様子を見てアナスタシアは何かに逡巡していたようだったが、笑顔の美波にまた促されて、少し視線を落として考え込むも、決心したように口を開く。
 それはレッスンをやり終えた3人への称賛と明日の本番に向けた応援の言葉だった。日本語は片言になってしまうことの多いアナスタシアにとってみれば、自分の気持ちを相手に伝える程度のことでも大変だろうし、まして3人とはまだ会ってそれほど日も経っておらず、親しい関係というわけでもないのだから、自分の素直な想いを3人に伝えられるのか、彼女が逡巡するのも当然だったと言えるだろう。
 それでも内心の不安を振り払い、少し拙いながらも気持ちを込めて送られた彼女の精一杯の言葉に、3人も心からの笑顔を返す。それはプロジェクトに参加した時期もバラバラで、まだ互いのこともよく知らない彼女たちがようやく紡いだ「仲間」としての繋がりであったのかもしれない。

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 ついにライブ開催の日がやってきた。会場のモデルとなっているのは大阪のオリックス劇場。アイマス関連では8周年記念ライブの大阪会場として使用されており、未央を演じる原紗友里がアイマスガールズとして初めて観衆の前で持ち歌「ミツボシ☆☆★」を披露した場所でもある。
 この会場モデル選定は、これからの流れの中で未央が大きくフィーチャーされる展開になることと無関係ではないだろう。
 会場入りした卯月たち3人に、今日のすべてを貴重な体験とし、先輩たちから色々学ぶよう伝えるプロデューサー。Aパートで彼に向けられたちひろさんの言葉と同様のことを彼が発言しているのは、彼も彼で腹を括ったというところだろうか。
 そこに入ってきたのはかな子に智絵里、そしてみくの3人だった。未だ納得していない雰囲気のみくだったが、今日のところは3人に託すという言葉には、彼女なりの激励の気持ちが込められていたことは間違いない。かな子や智絵里からも応援の言葉をもらい、卯月たちも笑顔を返す。
 3人はバックダンサーの楽屋に移動するが、ライブ開始前の楽屋裏の様子を初めて目の当たりにし、さすがに凛も未央も緊張の色を隠せない。卯月だけ若干余裕があるように見えるその理由を彼女が口にし始めた時、プロデューサーが3人に声をかけてくる。
 プロデューサーの言葉に遮られてしまったが、卯月の話そうとしていた内容は「以前同様のイベントで物販の手伝いをしていた」というものらしい。これは1話冒頭で描かれたライブのことを指しているのだろうから、やはりあの場面はイメージ的なものではなく現実描写の一環であり、あの時点で3人+1人は運命的な出会いを、互いに自覚することなく果たしていたということになるのであろうか。
 プロデューサーに連れられて3人が向かった先は、今日の主役である美嘉を含むライブ出演者5人の楽屋だった。バックダンサーとは言え3人は彼女ら5人と同じ事務所に所属しているわけだから、礼儀として挨拶はしておくのは必要なことだろう。同時に今日1日しかないライブ本番当日に直接先輩アイドルとの顔合わせを行い、3人に出来うる限りの体験をさせようというプロデューサーの配慮も窺える。
 美嘉はまだ姿を見せていなかったがその場の4人を見て、以前からアイドルとして知っていたであろう卯月と未央が歓声を上げ、反して凛は淡白な反応を見せるというのも2話から続く定番の描写と言ったところだ。
 挨拶をする3人に最初に話しかけてきたのは、2話にも少し登場した小日向美穂。初ステージに緊張している3人を気遣う思いやりを見せてくれたのは、本来恥ずかしがり屋な性格で今も緊張しているという美穂にとって決して他人事ではなかったからだろう。

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 そんな美穂とは正反対に明るい声で一緒にがんばろうと呼びかけたのは、1話冒頭のライブ以来の登場となる日野茜。メイン出演者の5人はおろか卯月たち3人を含めても一番小柄な体格だが、その小さな体から溢れ出る元気と情熱は誰にも引けを取らない「熱血乙女」である。

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 わからないことがあれば何でも聞いてと優しく微笑んでくれるのは、こちらも1話以来の登場となる佐久間まゆ。原作ゲームの設定でも他人に気を遣える優しい性格ではあるのだが、ある理由から「プロデューサーが絡まなければいい子」とも言われているまゆ、本作では登場しているプロデューサーが彼女の専属というわけではないため、まゆがプロデューサーにどのような感情を抱いているのかは不明だが、もしまゆの思慕の対象がプロデューサーであるのなら、そう遠くないうちに彼女の内面の奥底を垣間見ることができるだろう。

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 そして4人目は2話で卯月や未央とニアミスを果たしていた川島瑞樹。自分の席の前に恐らく私物のメイク道具がずらりと並んでいるあたりは、最年長らしくアンチエイジングにも余念がないというところか。当人も2話での出会いを覚えていてくれたようで、そのことに触れられて未央も感激する。

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 この4人に遅れて姿を見せた美嘉を加えた5人が今日のメインを務める「Happy Princess」となる。美嘉と茜の気合の入れ方はいかにもパッション属性の2人らしいやり取りで、片やカリスマJKギャル、片やラグビー大好き熱血少女とだいぶかけ離れた個性を持つ2人だが、根っこの部分はお互い似通っているのだ。
 そこへ今度はシンデレラプロジェクトの部長が1人の連れを伴って楽屋に入ってきた。連れがどのような人物なのかは明らかにされないが、その風貌や部長と行動を共にしていることから見ても、かなりの大物であるのは間違いないだろう。
 瑞樹たちもその人物のことは知っているようで、全員立ち上がっての挨拶を行う。和やかな雰囲気だった楽屋が一瞬でプロの現場らしい緊張感に満ちる、その瞬間を目の当たりにし表情を険しくする未央は、その空気に圧倒されているようにも見えた。
 準備が進むステージの袖で台本の確認を行う卯月たちだが、初めての現場にすっかり余裕をなくしてしまい、舞台の「上手」「下手」という基本的な用語さえも把握できない状態になってしまっていた。
 よくよく考えればレッスン中にこのような言葉が全く出てこないわけはなく、ステージ進行の段取りも当日までに一通り把握はしているはずなのだから、3人が元から上手・下手という言葉を知らなかったとは考えにくい。つまり知ってはいたがその知識が己の中で曖昧になってしまうくらいに、精神的な余裕がなくなっていたと解釈するのが最も妥当と思われる。その言葉がアイドルになったばかりの3人にとってまだ使い慣れていない単語であるという事実も、混乱に拍車をかけていたのかもしれない。
 そんな3人に美嘉は何もしない。別に深い意味や他意があるわけではなく、彼女は彼女で自分のやらなければならないことに集中していただけなのだろう。1人アップのカットが挿入されるのみの美嘉がどこに視線を向けているのか、そもそも彼女が3人に対してどこに位置しているのか、すなわちそばで見ていたのか離れた場所で別のところを見つめていたのか、こちらにはそれすら判然としないのだから。
 音響確認のためのハウリングに、今まで見たことのない美嘉の「プロのアイドル」としての姿。すべてが自分たちにとって全く未知の世界の中で、3人の混乱は深まっていくばかりなのは、衣装用のブーツ一つ着用した時にも過剰に不安視しているような様からもはっきり見て取れる。とりわけ未央の表情が目に見えて固くなり、言葉も少なくなっていくのは、普段の彼女からは予想だにし得ない姿だった。

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 3人の胸中の混乱は収まることなく、結果としてリハーサルも成功させられないまま終わってしまう。せりからの登場に卯月は尻もちをつき、凛は戸惑って立ちつくし、未央は踊れずにふらつく、その姿は3人の内面がそのまま形となって表れたと言っていいだろう。3人のそんな様子にプロデューサーも不安を抱く。
 リハーサルのやり直しを頼む卯月だったが、時間的にも作業的にも当然受け入れられるはずはなく、それでもせめてと3人は舞台袖でリハーサルの音声にダンスを合わせる。しかしそれをやっても3人の心が平静を取り戻すことはなく、楽屋で食事を摂ろうとしても、食欲すらわいてこない。
 これら一連の3人を追い込んでいく流れは実に巧妙だ。元々初めてのステージということで3人は最初から緊張していたわけだが、実際に3人を苦しめる感情は、緊張という単語一つだけで括れるほど単純なものではなかった。
 知らない場所で知らない人だらけの場所に放り込まれ、ようやく知っている人、それも憧れのアイドルと出会い、直接やりとりをして幾らか落ち着きを取り戻すものの、その直後、自分たちの知らないプロのアイドルが持つ厳しさを目の当たりにする。
 そして開場前、準備中のステージというすべてが未体験の場所で、戸惑い緊張する自分たちをよそに、周りは刻一刻と「ライブの成功」という目的に向けて動き続ける。自分たちも目的は同じなのにまったくついていけず、リハーサルとは言え失敗までしてしまう。
 プロとして現場に立つ責任感、周囲から取り残されてしまったような疎外感や孤独感、本番が目の前に迫っていることへの焦燥感…。初ステージに臨む上での緊張だけではない複雑な感情が彼女たちの中に生まれ、それがさらに3人を追い込んでしまっていく様を、各要素を段階的に積み上げていくことで浮き彫りにしているのである。
 知らない場所で知らない人だらけの場所に放り込まれる、そのこと自体はそれこそ2話で初めて3人が346プロを訪れたシークエンスからも察せられる通り、それほど重い状況設定ではない。その軽めの状況設定を一としてより重い段階を積み重ねていくことで、3人の心の流れを丹念に描くことができるというわけだ。
 キャラクターの心情的な追い込みを段階を踏んで描くというのはアニマスでも何度か行われた効果的な手法だが、同時にこの手法は一気にキャラの心情を変化させるものではないため、見ている側にキャラの心情変化の流れを伝えにくいという側面もある。そこで心の変遷を見る側に端的に伝えられる象徴的なキャラクターが必要になってくる。
 この場合の適役としては、正負に拠らず感情表現の豊かなキャラが第一に挙げられるが、その点で考えれば3人の中で未央がキーパーソン的な立ち位置に選ばれるのは自明だったと言えるだろう。2話で彼女の持つ明るさや人懐っこさを徹頭徹尾押し出して描いていたからこそ、正から負へと感情が反転してしまった場合に、より一層の落差となって顕現することになるのだ。
 改めて見返すと3人がバックダンサー用の楽屋に入った時点で、未央が既に緊張した表情を作っていることがわかるし、それ以降の各「段階」シーンでも、段階ごとに未央が精神的に追い込まれていく描写が挿入されていく。2話ではあれだけ騒がしかった未央がついに口を利かなくなるのもそれだし、卯月たちが再度のリハーサルを懇願するシーンで完全に2人から一歩引いてしまっている構図も該当するだろう。
 それは楽屋での食事シーンから未央の目の部分がまったく映らない構図を取るようになることで最高潮に達する。

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 目を映さない構図はキャラクターの心情面に関する曖昧な点を強調している場合が多いが、具体的に何を曖昧とするのかは2つのパターンに分けられる。すなわちキャラの心情に対する視聴側の認識を曖昧にさせることと、逆にキャラの心情が曖昧な状態になっていることだ。
 前者の場合はキャラの心情自体はかっちりと定まっていてぶれることはないが、後者だとキャラの胸中は絶えず揺れ動いて定まっていないことになる。未央は当然後者だった。
 本作ではまだはっきりと描かれていないが、原作ゲームにおける未央本人の申告によると、彼女には小心者の一面もあるという。未央のそういう性格も加味して考えると、彼女の今の精神状態が見えてくるのではないだろうか。
 アイドルとしてステージに立ちたい希望を持ちながら、目の前に次々押し寄せる今まで味わうことのなかった、アイドルだからこそ本来味わう様々な感情。初ステージに向けての幾ばくかの不安に加えて前述の責任感や孤独感、焦燥感と言ったものが、彼女の頭の中で渦を巻くかのようにせめぎ合っていたであろうことは想像に難くない。
 その混乱した精神状態は程度の差こそあれ卯月や凛も同様であったはずだが、未央の場合は生来の小心者故にその渦巻く感情が実態以上に巨大なものに感じられ、それこそ音なきノイズのように彼女の胸中に広がり、彼女が本来望んでいたもの、目指していたものまで曖昧にしてしまったのだ。
 単に不安を覚えていただけではないし、あまりの緊張に放心状態になっていたというわけでもない。むしろ様々なことを自分の中できちんと受け止めようとしつつも叶わず、それでもその行為を続けたためにこのような、言わば自縄自縛のような状態に陥ってしまったのである。
 「小心者」という設定で勘違いされる可能性もあるので言及しておくと、未央が持つ明るさや人懐っこさも彼女が生来持っている性格である。明るくて元気で人懐っこい、だが小心者でもある、これらの性格をすべて個性として内包しているのが未央という少女なのだ。
 その意味では今の未央の状態は、彼女の性格的にはさほど不思議なものではないのかもしれない。今までと同様に感情をストレートに表現しているだけ、ただそれが正の方向と負の方向、どちらに振り切れているかの違いでしかないのだろう。
 そして今、負の方向に感情が振り切れてしまった未央の心情は混乱の極みに達していたと言える。余計な説明セリフをキャラに言わせず、件の目を見せないカット割りに焦燥感を煽るBGM、どことなくセピア調を思わせる薄い色彩の美術設定など、数々の技巧を絶妙に絡ませて、彼女の痛切なまでの混迷ぶりを際立たせる演出は見事と言う他ない。
 その巧みな演出はカットが切り替わってからも続く。開場し観客がどんどん入場してくる中、シンデレラプロジェクトのメンバーも3人を応援するために観客席までやってくるのだが、その11人が登場するシークエンスにも同じBGMが継続してかかっているのである。

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 楽屋の3人の状況など知る由もない11人に、同じく焦燥感を煽るような雰囲気のBGMをアテるのにはどのような意味があるのか。無論バックダンサーとして参加する3人が無事に成功させられるのか、観客目線の11人の懸念や不安を煽って、3人の置かれている苦しい状況を強調するというのが構成上第一の目的であろうが、それは同時に彼女たち11人のうち何人かが自覚なく抱いていた、自身に対する不安を重ねているようにも見える。
 卯月たち3人が今日まで必死にやってきたことも、今日これから大勢を前にステージに立つことも、すべて明日の自分が味わうことかもしれない。彼女たちもまた目の前のステージにいつか立つのだし、それを目標に今も活動を続けているのだから。観客の多さに圧倒されたかのような美波の言葉から、ふとそんなことまで考えさせられるのである。
 尤もこれはあくまで独自解釈であり、厳密には3人のステージが成功するか否か不安を抱いている者も美波やアナスタシアといった一部のメンバーのみで、莉嘉やみりあ、蘭子などはステージを純粋に楽しみにしているようだし、杏に至ってはだるそうにしてるだけで、3人に対してどのような想いを抱いているかは判然としない。それぞれの想いを抱きながらもこのライブを注視しているという点は間違いないところだろう。

 落ち着かぬ気持ちを抱えたまま、楽屋裏の卯月たちも出演に備えて準備を進めていく。衣装に着替えながらも初めて衣装をまとったあの日のはしゃぎようはどこへ行ったかというほどに覇気のない3人に対し、メインの5人は円陣を組み、瑞樹の音頭を合図に一斉に声を上げてヴォルテージを高めていく。
 先輩との格の違いが見せつけられたという感じだが、ただそれだけの描写ではなく、暗さの中をペンライトで照らすスタッフに彼女たちが囲まれているという構図も、今現在の3人の様子と対比させているように見える。
 3人が今いる場所はバックダンサーの楽屋なのだから、1人くらいは別のバックダンサーがいても不思議ではないのだが、画面上では3人しか映し出されていない。大勢の人間がいるはずの舞台裏で彼女たち3人しかいないような、誰も彼女たちのことを見ていないかのような演出は、前述の疎外感や孤独感と言ったものを大なり小なり3人がその内に覚えてしまっている証左と言えるだろう。無論そんなことはまったくないのであるが。
 そしてついにライブは開始される。だが今の3人はそれを手放しで喜べる状態ではない。そこに立つことを望みながらそんな精神状態にまで追い込まれてしまっている3人の現状は、純粋に楽しみで歓声を上げる莉嘉やみりあたちの様子との対比もあって、より厳しいものに見える。無論未央の様子も変わることはなく、卯月や凛からの呼びかけにも呆けた返事を返すのみだった。
 ライブ自体は順調に進み、ついに3人も出番の時がやってきた。しかし未だ目がはっきりと映し出されない未央は内心の混乱から脱していないことが明白であるし、その混乱が彼女1人だけのものでないということも、スタンバイするよう伝えられた際の「もうですか?」という卯月の言葉が如実に示している。幼い頃からアイドルに憧れていた卯月をして「もう」と言わせてしまうほどに、3人の混迷は続いていたのである。
 だがそんな中で凛は1人、胸中の混乱を半ば強引に抑えつけて立ち上がり、未央の肩を叩いて呼びかける。元々3人の中では一番落ち着いた性格の凛であるがそれだけではなく、アイドルというものにまったく関心を持っていなかったが故に、3人の中ではアイドルであることに対するプレッシャーも小さかったのかもしれない。その意味ではこの場でこのような行動を取るのに最もふさわしい人物は凛以外考えられなかったわけだが、ここでの凛の行動は先に書いた理由以上に大きな意味を持っている。

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 初のステージに臨むという現実は3人とも変わらない。そんな中で彼女は真っ先に混乱を抑えて他の2人を引っ張っていこうとした。凛自身は深く意識したわけではないが、それは舞台度胸とか胆力という言葉で表現すべき、アイドルが持っていなければならない重要な「意志の強さ」を、気づかぬうちに彼女が発揮したことになる。
 1話でスカウトを受けたのは確かに凛自身の意思だったが、「アイドルを目指す」という根本的な考え方が彼女の中で未だ希薄なままだったのは、今話冒頭の彼女の独白が示すとおりである。その意味では3人で行動を共にしながらも、どこか卯月や未央とはアイドルに対するスタンスが異なっていた、はっきり言えばずれていたと取れるだろう。
 そんな彼女が初めてはっきりと「アイドルとしてステージに立つ」ことを自覚し、能動的に行動したのである。ここに至ってようやく凛もアイドルとして、卯月や未央と同じ位置に立てたと言える。
 未央に呼びかける時に肩を叩いたのも、そのような自分の意志から生まれた彼女自身のアイドルとしての素養が無意識に発揮された故だったと考えれば納得がいく。今の未央の胸中に渦巻いているのは先ほども表現したが激しいノイズのようなもので、ただ声をかけるだけではノイズにかき消されてしまう。そのノイズを払い、未央が本来抱いていた目標や夢を再び見定めさせるためには、よりはっきりとした身体的感覚が必要だった。それが「肩を叩く」という行為に繋がるわけである。
 凛は勿論それを狙って行動したわけではない。凛が見定めた覚悟がよりはっきりと、彼女の中にあるアイドルの素養を呼び起こし、それが未央や卯月に影響を及ぼしたのだ。
 それがどのような意味を持つか、それはAパートでのレッスンの描写を思い出せばすぐわかることだろう。初めての本格レッスンで参ってしまっていた卯月や未央を元気づけたのは、凛が何気なくその歌声を披露した時、つまり凛が持つアイドルとしての素養を彼女が発揮した時だった。
 最もアイドルから縁遠い場所にいた凛が、知らず知らずのうちに自分の秘めたるアイドルの素養を発揮した時、状況は好転する。既にAパートの時点で物語の構成的にもそれが示唆されていたのである。
 つまりこの時点で3人の成功は八割方確定していたと言えるのだ。それは肩を叩かれた未央の目がようやく画面に映し出され、本番直前の舞台裏で未だ緊張を残しつつ、それ以上の決意を秘めた表情を3人それぞれが美嘉に向けた種々の描写からも容易に理解できるだろう。
 そんな3人をより確実に成功へ導く最後の一手、それは彼女らがこの場で漠然と感じていた「疎外感」や「孤独感」の排除だった。
 舞台袖の3人に話しかけてくる茜と美穂。2人は舞台に上がる時には何か掛け声があった方がいいとアドバイスを行う。

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 茜の挙げた具体例が「好きな食べ物」というのは何とも珍妙ではあるが、過剰なまでの熱血少女である茜にかかれば、彼女の好物「ホカホカご飯」もあっという間に自らを奮い立たせる立派な掛け声になるのだろう。
 このシーンの直前にプロデューサーが茜と美穂、さらに現場のスタッフにも話しかけているシーンが存在することから考えて、2人が卯月たちに声をかけたのはプロデューサーに頼まれたからという見方が最も妥当と思われるが、具体的に何を話すかまで細かく指示を受けたわけではないだろうから、話の内容については2人が自分たちで考えたのだろう。
 そう考えると美穂が掛け声のアドバイスを送ったのは、今もなお緊張しているであろう3人を気遣ってのことであろうし、そこに茜が同調したのもひとえに皆で一緒に熱く燃えたいという想いがあったからだろう。
 きっかけはプロデューサーであったにせよ、2人は自分の意思で3人を励まし、応援してくれたのである。決して卯月たち3人だけではない、この舞台裏にもちゃんと自分たちを見て、気にかけてくれる人がいる。思い返せばこの2人だけでなくまゆも瑞樹も最初から3人を気にかけていたし、2人のアドバイス自体がその時のやりとりの流れをそのまま踏襲した内容になっていることからもそれは明白だったのであるが、混乱していた3人には見えなくなってしまっていたのだろう。
 だが今なら美穂や茜の気持ちも届く。同じステージに立つ仲間として自分たちを応援してくれる彼女たちの想いを受けた3人は、アドバイスに従いそれぞれの好物を言い出し合う。率先して口にした凛に続いて卯月と未央が発言するのも、先ほどと同じポジショニングだが、ジャンケンで誰の発言を掛け声に採用するかを、前後の会話なく決めてしまう姿からは、先ほどまでの混乱からやおぼろげに感じていた孤独感からは完全に脱したことが窺える。
 後は今なお残る不安や緊張を抑えて本番に臨むのみだが、3人はその手段をもう知っている。美穂や茜の心遣いを胸に、美嘉の呼びかけに合わせて走り出し、せりにスタンバイする3人。
 ここでさりげなく、しかし大切な描写がなされているのはプロデューサーだ。彼はスタッフが暗部で控えている演者の足元などを照らすのに使うライトを手に持って3人を照らしているのだが、当然これは現場スタッフの仕事であって、プロデューサーがやることではない。ではなぜ彼がこんなことをしているのか、先ほど茜たちに話しかけていた時、隣にいたスタッフにも何事か話をしていたという事実を思い返せば、その理由は明白だろう。
 彼は自分も3人をライトで照らせるようスタッフに頼んでいたのだ。先述したとおりこれはプロデューサーの仕事ではないし、プロデューサーならば本来はもっと別の、直接的なやり方で3人の緊張や不安を払拭してやらねばならないのだが、プロデューサーと卯月たちとはまだ一言二言会話を交わした程度でそれを叶えられるほどの強固な関係性を築いていないし、そうでなくとも彼はそんな便利な言葉を簡単に口に出来るようなタイプではない。その意味では彼のプロデューサーとしての立ち回りもまだまだと言ったところだが、そんな現状を理解した上で茜たち同僚アイドルに声をかけるよう頼み、今またせめてと初ステージに臨む3人を自ら照らしている。彼は彼で今出来る精一杯のことをして、プロデュースしているアイドルを支えようとしているのだ。
 応援してくれた仲間、そして支えてくれるプロデューサー。多くの人たちの想いを背に受けて、3人はステージへと飛び出す。負の感情を抑え込んだその掛け声は、内心の混乱から復活を果たした3人の今の姿を象徴する存在となった未央の好きな食べ物である「フライドチキン」!

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 ステージに飛び出した3人は刹那、その視界に飛び込んできた一面のサイリウムの輝きに時を忘れ心奪われる。アイドルでなければ一生見ることがなかったであろう光景、アイドルになったから、アイドルになると決めたからこそ巡り会えたその光景は、紆余曲折ありながらもこの日この時この瞬間のために走り続けてきた3人を待っていた最良の「結果」だった。
 無事にステージに飛び出した3人は、美嘉の「TOKIMEKIエスカレート」に合わせてダンスを披露する。堂々たるそのパフォーマンスに美穂と茜は喜びのハイタッチを交わし、プロデューサーもようやく胸をなでおろす。

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 観客席にいるシンデレラプロジェクトの仲間たちも、最初からノリノリのみりあに莉嘉、蘭子を筆頭に思い思いのスタイルで声援を送る。その中では終始顔が見切れてしまって声を出しているのか、サイリウムを持っているのかさえ分からない杏や、少々茫然とした表情でステージを見つめていたみく、最初はクールな感じで頭を振っていたものの、最後の方ではかな子たちと一緒にサイリウムを持ってコールを上げていた李衣菜などが印象的なところか。出だしの時点ではみくを始め半分以上のメンバーは着席していたが、ラストのTOKIMEKIコールでは全員とも立ってコールを送っていたところも、全員の気分の高揚ぶりを示して楽しい。
 そして3人を応援していたもう1人の人物の心遣いも、このライブパートでは窺い知ることができる仕掛けになっている。サビのところに美嘉と卯月たち3人がそれぞれ一対一で組んだ状態での振付が用意されているが、当然これらの振付は美嘉が1人だけで考えたというものではないだろう。では誰がメインとなって考案したのか、劇中描写からわかる情報で判断する限り、一番その役に適しているのはベテラントレーナーだ。
 初ステージに臨む3人を始終1人だけ、ないしバックダンサーのみで踊らせることには心細さを覚えるかもしれない。そんな気遣いからこの振付が生まれたのではないか。無論それ「だけ」の理由で振付を決められるものではないし、例によって筆者個人の拡大解釈に過ぎない部分も大きいが、かつてのアニマスと同様、本作はそう思わせてくれるような「優しさ」に満ちた世界なのだという点に異論を挟む向きはないだろう。
 パフォーマンスを終えた3人が美嘉に感想を求められた際の言葉に、すべての観客が大きな歓声を送ったのも、本作の世界観が基本的に「優しい」世界であることを如実に示していると言える。

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 ちなみにこの美嘉の持ち歌である「TOKIMEKIエスカレート」、本作ではライブというシチュエーションでは初めて使用されたソロ曲となったが、以前からのファンの中にはこの選曲やシチュエーションに格別の感慨を抱いた者も多かったのではないだろうか。美嘉を演じる佳村はるかさんのこの歌に対する想いを知っていれば、あるいは今初めて知った上でもう一度見返せば、歌い終えた後の後輩3人を気遣う美嘉の姿も含め、また異なる印象を抱けるかもしれない。

 ライブはその後も滞りなく進み、すべてのプログラムが無事に終了した。メインの5人や多くのスタッフと共に、卯月たち3人もライブ成功を拍手で祝う。
 労いの言葉をかけてきた美嘉に3人は感謝の意を伝える。「見込み通りだった」という美嘉の言葉からは、3人に対する期待感や信頼感が聊かも揺らいでいなかったことが窺え、他の4人の労いも含めてその暖かさが非常に嬉しいところだ。
 そして3人の元へやってきたプロデューサーに駆け寄る卯月。卯月は零れそうになる涙を抑えながら、それ以上の喜びと嬉しさを湛えた笑顔で、ステージに立たせてくれたことへの感謝の気持ちをプロデューサーに伝える。
 この卯月の言葉に、殊更多言を費やして説明を加える必要はないだろう。プロデューサーが自分を見つけてくれたから、だから夢を叶えられると信じた少女は、今アイドルとして1つの夢を叶え、最高の笑顔を彼に見せた。それは彼女の持つアイドルとしての一番の素養を「笑顔」と見定めたプロデューサーにとって、最高の返礼であったことは論を持たない。プロデューサーもまた彼なりの笑顔を作って卯月を労ったその瞬間、2人の「アイドルとプロデューサー」としての関係性も一つの発展を遂げたのだ。

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 先輩アイドルやプロデューサーからの労いの言葉を受け、初ステージの成功を強く実感した3人は、互いに抱き合ってその喜びを分かち合う。「アイドルってやっぱり最高!」という未央の言葉は冒頭での卯月とのやり取りでも出てきた言葉だが、そこに込められた想いは冒頭の時とは明確に異なる、一種の重みを持っている。だからこそ卯月だけでなく、凛もその言葉に同調出来たのに違いない。
 もちろん今回は美嘉のバックダンサーという立場での出演にすぎないのであって、アイドルとしてのスタートは文字通り始まったばかりではあるが、それでも3人にとって今日の体験は何よりも得難いものであったのは言うまでもない。
 この経験を踏まえて次のステージに進めるかは彼女たち3人が今後アイドル活動をどのように行うかにかかっているわけだが、それに関しては心配の必要はないだろう。彼女たちがあの時見た眼前に広がる光、それは夢のように一時、ステージを照らすだけのものに過ぎないのかもしれない。しかし彼女たちを包みこんだあの輝きは確かに存在していたし、その眩さを忘れない限り彼女たちはもう道に惑うことはないだろう。
 すべてが終わった後の会場を見つめる3人、とりわけ凛の姿がそんな風に思わせてくれる、素晴らしいクロージングであった。

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 芸能プロダクションに所属した新人アイドルが、先輩アイドルのバックダンサーとしてステージに立つ。それは「アイドルの仕事」として考えるには少々中途半端な面があるのは否めない。華やかなステージに立って歌い踊るのは紛れもなくアイドルの仕事と言えるが、彼女ら3人がメインではなくあくまで先輩アイドルのバックダンサー、失礼な言い方をすれば「おまけ」程度の扱いでしかない。
 物語の主役を担うアイドルの最初の仕事としては何とも微妙と言わざるを得ないところだが、本作では敢えて主役陣をその立場に置き、今話でその様子を丹念に描写することで2つの要素を提示している。
 1つ目は初ステージに臨む3人の不安や混乱の増大と、そこからの逆転による大団円という流れの中で描かれた、「バックダンサーもライブを完成させる上で必要な仲間の1人」という定義だ。ライブという1つの目的を完遂するにあたって、その場に不要な人間は1人もおらず、その意味では皆等しく仲間であるという考え方は、実際には卯月たち3人を気にかけていた美嘉たち先輩アイドルやプロデューサーのみならず、3人をレッスン時から応援してきたシンデレラプロジェクトの仲間との繋がりまで包含し、「仲間同士の繋がりが力になって背中を押してくれる」というテーゼに昇華されている。
 さらにもう1つは、媒体上仕方のないこととは言え原作ゲームでは全く描かれていなかったアイドルの仕事内容の詳細な提示である。一足飛びに派手な仕事はこなせない、小さな仕事から段階を踏んでいかなければならないという、現実的に考えれば当然だがシビアでもある観点が、本作の世界観の中に息づいていることを見せたかったわけだ。
 そしてこれらはそれぞれアイマスの名を冠する歴代作品の中で打ち出されてきた重要なテーマでもある。1つ目のはアニマス劇場版での春香の独白と共通項が存在するし、2つ目はいわゆる無印の頃からほぼすべてのアイマス作品の根底に存在している重要な価値観であることは言うまでもない。
 3人の成長譚の中で提示されたこの2つの要素は、本作もまた「アイドルマスターのアニメ」であることを何より雄弁に物語っている。そしてそれはこれからもまた、「アイドルである少女たち」が優しい世界の中で幸せな時を育むであろうことの証左とも言えるのだ。
 これからも時に迷い時に悩みながら、それでも彼女たちは夢に向かって歩み続ける。そんな彼女たちの姿をこれからも追い続けていきたい、今話は見る者を素直にそう思わせてくれる良質なエピソードであったと言えるだろう。

 さて直接参加した3人と彼女たちを応援していた11人、全員等しく1つの大きな経験を経たわけだが、そんな14人が次に迎える物語とはどのようなものになるのだろうか。

2015年01月21日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第2話「I never seen such a beautiful castle」感想

 前話にて紆余曲折ありながらもようやくアイドルへの第一歩を歩み出した卯月と凛。そして2人の知らないところで同じくアイドルとしての時を刻み始めた最後のメンバー・本田未央。
 しかし前話の感想の中にも書いた「第一歩を歩み出した」という旨の言い回しは、正確には不適当なものである。彼女ら3人はまだプロジェクトメンバーの一員として選ばれただけであり、まだアイドルとしての活動はおろか準備さえしていないのだから。
 それを考慮すると今の3人の立場はさしずめ「スタートラインに立つ用意ができた」状態、とでも表現した方が的確であろう。
 それでも3人にとってのとりあえずの道筋、方向性が定まったことは事実である。スタートラインに向かう彼女たちの前には一体何が待っているのだろうか。

 いよいよ初出勤の日を迎えた卯月と凛は、346プロダクションの社屋を訪れる。アイドルマスターに登場する芸能プロダクションの社屋と言うと765プロや876プロの事務所が入っているような小さなビルが連想されるが、この346プロの社屋はその比ではない。立派なその社屋はそれこそ「お城」という形容がしっくりくるほどに大きくそびえ立っており、いささか古めかしいながらも古風な美しさや重厚さを感じさせる佇まいだ。
 設定では346(「美城」)プロダクションはアイドル部門こそ2年ほど前から新規参入したものであるが、プロダクション自体は老舗の芸能事務所であり、多数の俳優や歌手を抱えコンテンツ企画なども行っているという、業界でも屈指の大手プロダクションということなので、この社屋の外観にも得心がいくというものであろう。
 その威容を前に驚く卯月と意に介さない凛の姿は2人の個性の違いを明確にしていて面白い。そして入口に向かう2人の後ろでは、不敵な笑顔を浮かべた未央が社屋を見上げているのだった。

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 その次に流れるのは今話で正式に組み込まれたオープニングテーマ「Star!!」。新規に作成された映像も合わせ、夢に向かって歩き出した少女たちのドラマにふさわしい疾走感あふれるオープニングになっている。

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 映像自体はステージに向けて楽屋で準備するアイドルの姿が前半、そして曲のサビからはシンデレラプロジェクト14人のライブステージ描写という形で構成されている。それだけではなく一部カットではまゆや美嘉など、プロジェクト外のアイドルも顔を見せているのが嬉しいところだし(美波が単独で映っているカットの手前にいるのは愛梨だろうか)、スタッフが着ているジャケットの背中側に付いている意匠が星=Starになっているのも細かい良演出だ。
 ゲーム版からのファンとしては、アイドル活動への邁進を文字通り「走る」と表現することの多い凛が、ステージへ上がる際に先頭を切って走っていくのが印象深いが、それ以外にも特にアニマスに触れた経験のある人にとっては別の想いを抱いたのではないだろうか。
 メインタイトルが出る直前の矢印に見立てた時計の長針、壁に貼られた14人の寄せ書き、ライブ前の準備風景、そして後半のライブシーンにそれを陰から見つめるプロデューサーたちと、基本的な構成がほとんどアニマスの前期オープニング映像と同じになっているのだ。
 意図的にアニマスと同じような構成にするのは避けていると制作陣が証言している以上、この構成自体に何らかの意味があるのではと見る側が愚考してしまうのは仕方のないところではあるが、これが「アイマスシリーズのアニメ」に取って中興の祖と言うべきアニマスに敬意を払ってのリスペクトか、あるいはこの構成自体がある種のブラフなのか、それは今後の本編の展開次第で明らかになるのだろう。

 受付ホールに入った卯月と凛は、外観に違わぬ内装の豪華さにまた驚かされる。緊張の色を隠せない卯月に後ろから現われていきなり親しげに話しかけてきたのは未央であったが、その時こそ未央のペースのままに返答するも、もちろん卯月も凛も彼女のことはこの時点では知らないので、当惑の表情を浮かべるだけだった。
 そんな2人をよそに近くを歩いていた社員にも屈託なく挨拶する未央の姿からは、彼女の元気でフランクな性格が垣間見える。
 受付で入館証を受け取った2人は、シンデレラプロジェクトの専用ルームがあるという新館の30階へ向かう。2人が入ったお城のような外観の社屋は旧館だったわけだ。
 旧館と新館を繋ぐ渡り廊下を歩く中、敷地のあまりの広さに改めて驚嘆する2人。旧館や新館以外にも様々な建物が建っていることがわかり、イメージとしては日本映画のいわゆる黄金時代に大きな映画会社が構えていた、敷地内に10以上の撮影スタジオや新人の養成所、各種施設を揃えていたという自前の撮影所のようなものだろうか。前述の通り、765プロや876プロ、そして今まで大手事務所として挙げられることの多かった961プロダクションさえも優に凌ぐ巨大な芸能事務所が346プロだということがよくわかるシーンである。
 居合わせた初老の男性と一緒にエレベーターに乗る2人だが、そこに勢いよく駆け込んできたのは先ほどの少女・未央だった。ギリギリの駆け込みだったために扉に挟まれてしまったその様子は本来笑い事ではないのだが、傍から見るとかなり滑稽なのも事実であり、思わず吹き出しそうになったところを卯月は手にしていたパンフレットを、凛は自分の手をそれぞれ口に当ててごまかしているところが、各々の個性露出も含めて面白いが、同時に未央とはまだ実質的には面識がないので、素直に笑い合えるような関係が3人の間にまだ生まれていないという点も示している。
 未央は途中の22階で降り、30階に到着した2人はプロジェクトルームに向かう。もしかしたら既に他のメンバーがいるかもと少し構えながら部屋に入る卯月だったが、反して中には誰もいない。不思議がる2人の後ろからまたまた未央が、そして少し遅れてプロデューサーともう1人、連れの女性が入ってくる。
 先ほどは入館証をつけていなかった未央が今はつけていることから考えて、22階の方で何らかの手続きを行い、その場でプロデューサーたちと合流して一緒に30階のこの部屋にまで来たと考えるのが妥当なところだろうか。卯月や凛と違い未央は正式なオーディションを受けた上での参画だから、その辺で2人と手続き上の差異が発生していたのかもしれない。
 (と思っていたら今話の脚本担当・橋龍也氏がツイッターで補足されていた。)
 プロデューサーからの紹介を受け、ようやく未央は2人が、2人は未央が同じプロジェクトのメンバーだと知る。入口ホールの時と同じくハキハキと自己紹介する未央だったが、自分で自分を「スポーツ万能の学園のアイドル」と言ってしまうあたり、少しお調子者の面もあるようだ。

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 そんな調子のままに未央は自分が二次オーディションに受かった理由をプロデューサーに質問するが、返ってきたのは「笑顔」の一言だけ。1話でのことを踏まえると、横で聞いていた卯月と凛が苦笑せざるを得ないのも理解できよう。
 卯月は先ほど未央が当選した経緯を説明してくれた、プロデューサーの傍らにいる女性について尋ねる。彼女の名前は千川ちひろ。シンデレラプロジェクトを色々な面でサポートするのが仕事だという。

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 ゲームの方をプレイしている方になら、今更説明の必要はないだろう。チュートリアルからアシスタントとして登場してデレマスの世界にプレーヤーを誘い、ゲーム開始後は様々な、そう本当に様々な面でプレーヤーをアシストしてくれる、デレマス世界になくてはならない存在である。ゲーム中で基本的に様々なコンテンツの案内やヘルプの解説をする立場なので、実はパーソナリティについては不明なところが多いだけに、本作でどのような活躍をするのか大いに期待したい。
 そんなちひろさんがささやかながらと3人に差し出したのはエナジードリンク。ゲームを始めたばかりの初心者に対するスターターキット提供的な意味合いも感じられるシーンである。
 …のだが、ゲームに馴れ親しんだ大部分の層にとってはちひろさんからエナジードリンクをもらう≠買う行為が何を意味しているか、このシーンとはまったく関係ない部分で色々な考え、様々な思い出、そして彼岸の彼方に消えていった「諭吉」の数が頭をよぎったのではないだろうか。

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 荷物を置いた3人は部屋の中でしばし歓談する。お互いの年齢や学年と言った本当に基本的な部分の自己紹介から始まるのは、3人がまさに今これから仲間になろうとしている初々しさが感じられて微笑ましい。一応最年長にもかかわらず年下や同級生に見られていたと知って落ち込む卯月や、そんな彼女をやんわりフォローする凛と言った1話に通じるやり取りがある一方、そんな2人にもう違和感なく溶け込んでいる未央のコミュ力の高さはさすがというところだ。
 凛は他のメンバーはどうしているのかプロデューサーに問いただす。さながら765プロ事務所における社長室の如く、プロジェクトルーム内にプロデューサーの個室が用意されているという施設の充実ぶりにはまたも驚かされるが、ドアを閉め切ってはいなかったようで、このあたりにはプロデューサーの意思が反映されているのかもしれない。
 他メンバーとは後ほど顔合わせをするということで、まずはレッスンの実施を仰せつかる3人。プロになってもレッスンは大事との卯月の言葉に未央も気合を入れるが、次の瞬間大声を上げる未央。
 それは向かいから歩いてきた人物が、アイドルユニット「ブルーナポレオン」の面々、すなわち上条春菜、佐々木千枝、松本沙理奈、荒木比奈の4人だったからである。

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 1話でも卯月が読んでいる雑誌に登場していたが、元々はここに川島瑞樹を加えた5人が、ゲーム中で同系統の衣装を着用しており、イベントでのライバルユニットとして登場する際の名称がこのユニット名の発祥である。
 フライデーナイトフィーバー内で配信されている今話の「マジックアワー」では、瑞樹だけ今は別のプロジェクトの方で活動しているため、こちらとは離れている旨の説明が成されていたが、それよりも何よりも視聴者、とりわけゲーム版をプレイしてきたファンを驚かせたのはその「声」だ。
 春菜と千枝が会話しているだけというまったくもって普通の場面、ゲームをプレイしていない人からすればなんてことのないシーンであったろうが、プレイ済の人間に取ってこれはある意味アイマスのアニメを見てきた中で味わった最大級の驚きであったかもしれない。
 この2人には今まで担当声優がおらず、そのためゲーム中でも声は付いていなかった。それが今話のこの短いシーンでいきなりしゃべったのである。
 今までデレマスのアイドルに声がつく場合はシンデレラマスターを始めとするCD発売に合わせて、あるいは総選挙イベントで上位入賞を果たし、CD参加が確約された時点でというのが常であった。今回はそんなこれまでの常識を軽々と打ち破って、アニメでの初お披露目と相成ったわけだ。例によって前情報は全くなかっただけに、特に各々のファンがセリフを聞いた時の胸中が如何様なものであったか、こればかりは容易に想像できることではないだろう。
 しかもこれはアニメオリジナルのキャスティングというわけでもない。本放送直後にはゲームの方にも一部カードのセリフに音声が実装され、わずか数秒の短いシーンは、名実ともにこの2アイドルの担当声優が決定した瞬間でもあったのだ。
 そんな見る側の都合はさておくとしても、現役のアイドルに間近で出会えたという事実に、卯月も未央もにわかに色めき立つ。2人が普段からたくさんのアイドルを見てきたことがよくわかるシーンだが、アイドルにさして興味を持っていなかった凛は当然彼女らを知らず、関心なさげに視線を逸らす。
 と、その視線の先には1人の少女がなぜか桜の木の上にいた。なんとも不思議な光景ではあるが、ごくごく自然に座り込んでいた少女がこちらに向けて手を振ってくるので、思わず凛も応えてしまう。しかし一度視線を逸らした後、再度見上げた木の上にもう少女はいなくなっていた。
 木の上の少女がこれから自分とどのような関係を結ぶことになるのか、今の凛には知る由もない。

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 更衣室でトレーニング用のウェアに着替える3人。話を聞くと凛はダンスの経験はなく、未央も本格的に教えを受けるのは今回が初めてということで、この中で唯一レッスン経験済の卯月は経験者としての余裕を見せ、何かあれば自分に聞いてと呼びかける。
 凛や未央と言った残りのメンバーが決まるまで1人黙々とレッスンをこなしていただけに、この言葉には彼女なりの自負も感じられるが、2人から実年齢より下に見られていたことも響いているのかもしれない。
 3人のダンスを指導するのはベテラントレーナー。ゲームの方を知らない視聴者であれば変な役名と思われるかもしれないが、実際ゲームの方でもこの名称で登場しているので、むしろ原作に即した扱いとなっている(一応「青木聖」という本名も設定されてはいるが、今のところコミカライズ等で使用される場合があるのみで、基本は「ベテラントレーナー」という名称が用いられている)。

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 そして彼女もまた今話にて初めて担当声優が割り振られたキャラクターの1人だ。今話だけで3人のキャラに新規に声が付与されたことになる。先述したがこれまでキャラに声がつく場合はCD発売に合わせてというのが常態化していたので、その前提を変容させた今話はデレマスにとってまさにコペルニクス的転回と言うべき大きな転換点であろう。
 しかしベテラントレーナー指導の下で開始されたレッスンで、卯月は見事に転んでしまう。レッスン後の休憩時に先輩風を吹かしたことをわざわざ謝るのは素直な卯月らしいところだが、他の2人も転びこそしなかったものの、あまり褒められた出来ではなかった。
 指導を受けているシーンをコマ送りで見れば一目瞭然だが、卯月も凛もベテラントレーナーからは振りが完全にワンテンポ遅れてしまっており、それでも一応きちんとした型にはなっている卯月と違い、凛は振付自体が甘くなってしまっている。未央だけはトレーナーと同じテンポで踊れてはいたが、逆に段々トレーナーよりテンポが早くなって結果的にずれてしまっている。
 トレーナーに挨拶する時の3人のお辞儀の仕方もそうだが、ダンスにおけるそれぞれのダメな点にも各人の個性が反映されており、アニマスの頃から続くこのあたりの演出の細かさには、毎度のことながら舌を巻く。
 2人もそんな自分のダメな部分はきちんと理解していたようで、別段卯月を責めるような真似はせず、ダンスの難しさを痛感する。ただ凛は同時にダンスを踊って体を動かすことに、ほんの少し楽しさを見出した様子だった。
 エナジードリンクを飲んで元気を回復した未央は、近くに置かれていたエステルームの案内に目を留める。ゲーム中でもプレーヤーが所属するプロダクションの設備としてエステルームを増築できることからのネタ引用なのかは不明だが、会社の施設内にこのようなものまで完備されていることに驚く凛を尻目に、未央は面白がって中に入っていってしまう。
 部屋の中でエステを受けていたのは川島瑞樹だった。以前担当したらしい秘湯めぐりの仕事について愚痴をこぼしつつエステを受けているが、ゲームの方では単独で温泉に行くようなイベント(カード)は用意されていないので、特にオマージュや引用というわけではないようだ。

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 ゆっくりリラックスタイムを楽しんでいる瑞樹だったが、彼女がいるとは露知らず、そもそも人がいると思っていなかったのか、入りこんだ未央は仕切りのカーテンを無遠慮に開けてしまった。未央と後を追ってきた卯月は瑞樹に視線を向けられ、慌てて部屋を飛び出していく。
 飛び出してきた2人のうち卯月は勢いあまって壁に顔をぶつけてしまうが、当の2人にしてみればそれどころではない。アイドルの瑞樹に遭遇して興奮しまくるその様子は、すっかりミーハーないちファンになってしまった感じだ。
 エステルームの瑞樹からは28歳という大人の女性らしい落ち着きと色気が十分すぎるほど感じられたため、ついこの間まで一般人だった2人が興奮するのも当然と言えば当然だが、単なるファン目線では知る機会がなかったかもしれない、瑞樹の持つかなりお茶目な一面を知る機会が今後来るのか、それも楽しみなところである。
 すっかりテンションの上がった未央は、卯月と凛を連れ「探検」と称して施設の中を見て回ることにする。
 楽曲「輝く世界の魔法」をバックに社屋内、敷地内の様々な場所を覗き見る3人。事務所然とした場所もあれば各種トレーニングルームにサウナや風呂、活動しているアイドルのピンナップ展示など、どれもこれも3人にとっては目新しいもの、驚かされるものばかりだ。
 このシーンは346プロという芸能事務所がどの程度の規模で、彼女たち3人がこれからどういう場所を基点として活動していくのか、その紹介を第一の目的にしているというのは自明だろう。城のような外観の旧館や大きなビルの新館に序盤の卯月のセリフなどからその規模の大きさは伝わるが、具体的にその中に何があるかというのを、この一連のシーンの中で見せているわけである。
 そしてそれは施設の紹介だけにとどまらない。すなわち同じ346プロで活動あるいは所属しているアイドルたちがどれほどいるのか、その紹介をもこのシークエンスは兼ねていたのである。
 列挙するとトレーニングルームにいた村松さくら、大石泉、土屋亜子の「ニューウェーブ」組、喜多見柚、綾瀬穂乃香、工藤忍、桃井あずきの「フリルドスクエア」組、堀裕子と及川雫の「セクシーギルティ」組、輿水幸子、木村夏樹(なお3人が屋外にいる時、奥の方にもう1人別のアイドルがいるが、その娘とは後ほど出会うことになるのでここでは割愛する)。
 これだけの面子が一斉に登場したのだから、見ている側としても驚かされる他ないだろう。ちなみに彼女らはすべてゲーム内に登場する、れっきとしたデレマス発祥のアイドルである。
 今のところ彼女らの登場はファンサービスの割合が多分に大きく、有り体に言えば346プロという芸能事務所の規模の大きさを明示するための雰囲気作りとして描写されているに過ぎない。名前も劇中描写の中で判明するのは夏樹だけなので、このシーンに登場したすべてのアイドルを一気に覚える必要は今のところないのだが、ここに登場したアイドルのうち今後誰が物語に直接絡んでくるか不明であるのも確か(特に裕子や幸子はいわゆる「声つきアイドル」なので、その可能性が非常に高い)なので、出来るなら記憶の片隅にでも留めておきたいところだ。

 色々見て回った3人はカフェに入って一休みする。卯月をいつの間にか「しまむー」とあだ名で呼んだり、自分は全然弾けないのに夏樹のようにギターをうまく引いてみたいと呟いたりと、未央の人懐っこさやお調子者の面が一際目立つが、その時卯月は同じカフェの中でインタビューが行われているのを目に留める。
 インタビューを受けているのは小日向美穂と小早川紗枝の2人。このカフェもプロダクション内にあることを考えればそれほど不思議な光景ではないが、この2人が揃ってやり取りをしている様子はそれだけで、オールドファンにとって重大な価値が含まれていることは覚えておいて損はないだろう。
 デレマスのサービスが始まった当初、各アイドルごとにかなりの数のセリフが用意されていたものの、他のアイドルについて触れるようなセリフは一切存在しなかった。アイドル同士の横の繋がりがゲーム中では全く見えなかったわけなのだが、それが初めて示唆されたのが2012年2月に登場した「[戦国姫]小日向美穂+」でのセリフであり、その相手が紗枝だったのである。
 今ではアイドル同士の関係性が窺えるようなセリフが頻出するのは当然になっているが、その一番手を担った2人が同席してインタビューに応えているというシチュエーションに、往時を懐かしく振り返った古参のファンもいたのではないだろうか。

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 さてそれを見てまたも騒ぎ出す卯月と未央を前に、アイドルが多すぎじゃないかと若干呆れたような声で感想を漏らす凛。今までアイドルというものに全く触れてこなかったと思われる凛らしい感想だが、これは同時に原典たるゲーム版に明るくなく、本作で初めてデレマスに触れるような視聴者の感情を代弁しているとも取れるし、考えようによっては200人近い数のアイドルを何らかの形で露出させなければならない制作側の本音にも見えて面白い。
 そこに現れたのはメイド服を着たポニーテールの可愛らしい少女。このカフェの店員らしいが、見てすぐそれとわかるメイド服姿にここはメイド喫茶なのかと未央も疑問を抱く。
 臨時でバイトしているというその少女は自らを「ウサミン星からやってきた歌って踊れる声優アイドル、ウサミンこと安部菜々でーす!」と、振りつきで紹介する。
 …が、当然と言うか何と言うか、突如目の前で展開された妙なパフォーマンスに、さすがの卯月や未央も感想を漏らすことさえできず、凛に至っては無表情のままという何とも痛々しい描写になってしまった。

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 この「痛々しい」という感想を視聴者に持たせる意図があったのは演出の面から見ても明白で、本当に菜々を可愛らしく見せるなら何らかのイメージ映像やエフェクトを重ねて、構図的にデコレートする見せ方が容易に発想できるが、今回はそれをやらずにカフェ店内という現実世界の中で最後まで描写している。これを「敢えて」そうしたというのは間違いないところだろう。

 一方のプロデューサーは別の場所で3人を待っていた。どうやら最初から待ち合わせをしていたようで、時間を確認する仕草も見られるが、そこに高垣楓が通りがかる。言うまでもなく1話冒頭のライブではセンターを務め、ゲーム内で現在配信中の「マジックアワー」ではパーソナリティも務めている彼女、ゲームの方を知らない視聴者にとってもメインの3人を除けば比較的記憶に残っているアイドルではないだろうか。

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 マジックアワーの方ではダジャレを言うのが好きという一面も見ることができるが、今話の中ではさほど会話もないためそのような面が描かれることもなく、プロデューサーに挨拶だけして立ち去っていく。
 プロデューサーの方も、そこに駆けつけた未央たちの楓についての質問に「同じ事務所だから知っている」と返すだけだったが、逆を言えば知り合いであることは間違いないわけで、プロデューサーと346プロに所属する他のアイドルたちの関係性が垣間見えたと言える。同時に今後様々なアイドルがプロデューサーを仲介役として卯月たち3人にかかわる可能性も提示されたことになり、今後の伏線、というよりはこのシーン自体もある意味「346プロの紹介」として成立していると言えるだろう。
 プロデューサーは集合時間に遅れて来た3人を注意する。それほど厳しいものではなかったが、アイドルに限らずプロとして仕事をする以上は時間を守って行動するのは当然であり、その意味でたくさんのアイドルを見て舞い上がってしまった卯月たちは、その時に限って言えば「アイドル」ではなくなってしまっていた。
 まだまだアイドルとしての自覚に乏しいと言うところだろうが、今日がアイドル活動の初日なのだから仕方ないと言えば仕方ない部分もある。他のメンバーとの顔合わせだけでなく最初の「仕事」を同時にセッティングしていたのは、プロデューサーも3人のそんな状態を予想していたからかもしれない。
 3人が通されたのは撮影スタジオ。今日は他メンバーとの顔合わせがてら、全員の宣材写真を撮影しようと言うのである(なおその時未央が口にした「アー写」というのは「アーティスト写真」のことで、宣材写真と意味は同じ)。
 他のメンバーはもう既に撮影を開始していた。最初に入ったのとは別のスタジオに通された3人に、注目の視線を向ける残り11人の新人アイドルたち。
 最初に駆け寄って話しかけてきたのは赤城みりあと城ヶ崎莉嘉の2人だ。11歳とメンバーの中では最年少ながらも明るく元気で社交的な少女であるみりあと、髪型や服の着こなし、アクセなどにギャルっぽさを匂わせながらも、中学生になったばかりの12歳で年相応に子供らしい部分がある莉嘉は、年齢が近いのもあって仲がいいのだろう、3人の参加に喜びの声を上げる。

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 ただ凛は莉嘉の顔に見覚えがあった。ダンスレッスン前に偶然見かけた「木の上にいた少女」が莉嘉だったのである。莉嘉も凛の顔を思い出したようだったが、別の少女は木登りをしていたことで莉嘉をたしなめる。
 語尾に「にゃ」をつけて話すその少女の名前は前川みく。いわゆる「ネコキャラ」で通している少女だが、天然なのかある程度の計算が働いているのか、この時点では窺い知れない。キャラの話を出されて真剣に考える素振りを見せる未央もいい味を出していた。

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 そこに独特の言葉遣いとテンションの高さを伴って現れたのは、フリフリの可愛らしい服と3人が見上げてしまうほどの身長の高さを持つ女の子・諸星きらりだった。彼女の身長はなんと182cm、さらにまだまだ成長中というのだから、3人が物理的に見上げてしまうのも無理はない。

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 大柄であるプロデューサーとどちらが背が高いかは1話の頃からファンの間で話題になっていたが、今話でも2人が近い位置で並んで映ることはなく、同一画面に収まっている時も立っている位置が微妙にずれていていまいち判然としないため、事実が判明するのは次回以降になりそうだ。
 個性的な2人の後に続き、穏やかな雰囲気を漂わせながら自己紹介してきた少女は新田美波。みりあとは逆にメンバー最年長となる19歳の彼女は現役の大学生。文武両道であると同時にチャレンジ精神も旺盛で、そのルックスは学内のミスコンで優勝するほどの折り紙つきである。

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 彼女に続いて挨拶してきたのは銀色の髪の毛に青い目を湛えた美少女だったが、彼女の発した言葉が日本語ではなかったため、3人は困惑してしまう。彼女の名はアナスタシア。ロシア人の父と日本人の母を持つハーフで、本人も幼少時はロシアに住んでいたため、話す際にもロシア語と日本語がよく混ざってしまうのだ。彼女は日本語で、自分を「アーニャ」という愛称で呼んでほしいと挨拶する。

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 お菓子を手に持って現れた、少々ふくよかな体型の女の子は三村かな子。柔和な笑顔が印象的なかな子はお菓子を作るのも食べるのも好きという性格で、持参したお菓子も手作りとのこと。

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 お菓子をいただく3人に、椅子に座ったまま話しかけるのは多田李衣菜。自己紹介の通りクールでロックなアイドルを目指している少女だが、その態度を見た卯月の「かっこいい」という感想に頬を染めている様子が確認できるあたり、今はまだ見られない一面が隠れているようである。

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 その隣に座っていた緒方智絵里は立ち上がって少し戸惑いながら挨拶する。見てわかるとおりかなり気弱な性格だが、四つ葉のクローバーを大切にし、他人の幸福を願うことのできる心優しい少女でもある。

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 ちなみにAパートで3人が346プロ内を探検している際、屋外で走っているシーンの後方に小さく映っている少女は、服装や髪形から見て智絵里本人と思われる。恐らくこのスタジオでも手にしているのが確認できた四つ葉のクローバーを探していたのだろう。

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 ゴシック調の衣服に身を包み、何やら難解な言葉で挨拶をしてきた少女の名前は神崎蘭子。彼女はいわゆる「厨二病」キャラであり、その服装や言葉遣いからかなり異質な存在に見えてしまうが、内面は少し照れ屋だが努力を惜しまない良い子である。ゲーム中では彼女の厨二セリフの後に翻訳という形で本来の意味が付与されているのだが、それを読めば彼女がごく普通で常識的な性格ということはすぐわかるだろう。

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 ちなみにこの場で言っているセリフは「血の盟約に従い、我と共に魂の共鳴を奏でん。宴の始まりぞ」→「皆さんに出会えて私、嬉しいです。一緒にがんばりましょうね」というところだろうか。戸惑う3人の一方で満面の笑みを浮かべているみりあが印象的でもある。
 一通り自己紹介が終わったかと思いきや、プロデューサーはメンバーが1人足りないことに気づく。最後の1人はきらりがパーテーションを動かしたその向こうで、並べたイスに横たわって眠りこけていた。
 「働いたら負け」と書かれたTシャツと左手に持ったくたびれたウサギのぬいぐるみが印象的なこの少女の名前は双葉杏。この場面だけでは単なる怠け癖のある女の子に見えるが、実際には働くことが大嫌いで一生寝て暮らしたいとまで豪語するほどのニートである。色々あってアイドルになったもののその考えは全く変わらず、むしろCD出したらその印税で一生遊んで暮らすことを目論んでいる、何とも独創的な考え方の持ち主だ。

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 彼女ら11人に卯月、凛、未央の3人を加えた総勢14人が揃い、シンデレラプロジェクトの本格的始動を宣言するプロデューサー。14人の少女たちは思い思いの形で自分たちのアイドルとしての物語がスタートを切ったことを喜ぶ。
 そんな皆の声を聞きつけてこちらのスタジオを覗きに来たのは、カリスマJKアイドルとして人気を博している城ヶ崎美嘉だった。ライブのパンフレットに使う写真の撮影中ということで大胆なギャル風衣装に身を包んでいるが、未央の挨拶にも素直に応える人あたりの良い性格の持ち主らしい。妹である莉嘉との仲も良好の様子。

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 美嘉の撮影風景を少し見学し、感嘆する卯月たち。凛も彼女に関しては以前(1話)に雑誌を読んで見知っていたこともあってか、先輩アイドルとしてのすごさを素直に感じているようだ。ちなみに美嘉が撮影に使っているハート型の台座は、先頃ファット・カンパニーから発売された1/8スケールフィギュアで使用されているものをモデルとしている。
 そしてついに卯月たち3人も撮影の準備に入る。しかし他のメンバーがそつなく撮影をこなしていく中、メイクを施してもらう時点で緊張の色が顔に浮かび上がってしまっていた3人は、撮影の際もやはりガチガチに固くなってうまくいかない。勝手がわからず戸惑っている風の凛に、かえって空回りしてしまっている未央など、緊張の仕方も三者三様なのは細かいところだが、いずれにしても満足のいく内容にはなっていないため、プロデューサーは撮り直すようカメラマンに依頼する。
 さすがに意気消沈してしまった3人は、休憩中も言葉少なにアイドルとしての仕事の難しさを実感する。実際にはこの程度のことはまだまだ序の口なのであるが、今日が初仕事の3人にとっては十分すぎるほどに大きな「壁」となるものであった。
 またそんな3人にああいう態度のプロデューサーはともかく、他の11人が一切話しかけてこなかったのも、まだ出会ったばかり故の関係性の薄さを示していたと言える。

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 再び開始された撮影では、プロデューサーの提案で3人一緒に撮影することになった。普段通りにと言われてもどう動いていいか分からず固まる3人に差し出されたのは1つのボール。ごくありきたりの遊び道具も使って、素のままに動いて欲しいという案のようだ。
 とりあえずボールの投げ合いを始める3人。未央から突然振られた卯月はボールを頭にぶつけてしまったり、バレーボールのようにトスをしあって最後に凛が見事なスパイクを決めるなど、本当に何の決まり事もなく自由に動いているうちに緊張の糸がほぐれてきたのか、3人の顔にも自然と笑顔が浮かんでくるようになる。
 プロデューサーの提案が功を奏したというところだが、もしかすると3人が集合時間に遅れてきた時の楽しげな様子を覚えていた故の提案だったのかと考えてみると、あの場面で遅刻した3人を単に叱るだけでなく、3人の良い部分もしっかり記憶していたことになるわけで、アイドルの魅力をより引き出す役目を担うプロデューサーとしては及第点の「仕事」ができていたと言えるだろう。流れの中で3人が3人とも笑顔を理由として選ばれたことを知り、笑い合う様子を見て例の首筋に手を当てる仕草を見せるのはご愛嬌というところか。
 ちなみに彼女ら3人だけでなく他の11人の撮った写真もすべて、構図やポージングはゲームに登場する各々の初登場時、肩書なし・名前のみカードのそれと同一になっている。最初のカードはそれこそアイドルで言うところの宣材写真としての役割もあるので、単なるファンサービスに留まらない、原作ゲームの世界を上手にアニメに落とし込んだ演出と言えるだろう。
 すっかりリラックスして撮影に臨む3人の様子をイイ感じと評した美嘉は、同時に何かを思いついたようだ。
 宣材の撮影は無事に終了し、最後にと全員で集合写真を取ることにする。一緒にと誘われながらいつもの調子で断るプロデューサーを残念がりながらも、写真を撮ってもらう卯月たち。皆笑顔を浮かべたその写真は、14人の少女たちがシンデレラプロジェクトの仲間として共に最初の一歩を踏み出した証でもあった。

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 初仕事を終えた卯月たち3人を待っていたのは、美嘉が今度行うライブのバックダンサーとしてライブに出演してほしいという突然の依頼だった。先ほど美嘉が思いついたこととはこれだったのである。
 美嘉の担当からも了承は得たとのことだったが、プロデューサーの方は少々逡巡している態度を見せる。3人のダンスレッスンを見ていた彼からすれば、今日から活動開始という3人の経験の浅さもあってすぐさま二つ返事といかないのは当然であろう。
 そんな彼の発した言葉を遮るように3人の出演を薦めてきたのは、卯月たち3人がプロジェクトルームに向かうために乗ったエレベーターに同乗していた、あの初老の男性だった。
 さすがに3人ともはっきりとは覚えていなかったが、美嘉の口からこの男性こそプロジェクトの担当部長であることを聞かされ、3人も一様に驚く。
 その後押しもあってプロデューサーもとりあえず了承し、ちひろさんにライブの資料手配を依頼する。一緒に楽しもうという美嘉の言葉に喜びの笑顔を見せる卯月と未央であったが、凛だけは1人不安げな表情を浮かべていた。
 今日アイドル活動を始めたばかりでさしたる実績も上げていない現状を考えれば、不安を抱くのも当然というところだが、未央は全く意に介さず、卯月は初めてのライブに胸をときめかせるばかり。
 卯月たち3人の、そしてシンデレラプロジェクト14人のアイドル活動はこのまま順風満帆と行くのであろうか。

 今話は世界観設定の説明回と今後の話に絡んでくるキャラクターの紹介回とを兼ねた作りになっている。とりわけ新規登場キャラはメインとなるシンデレラプロジェクトのメンバーだけでも11人と大量であるため、前話における卯月と凛のキャラクター描写と比較するとどうしても薄味な感を抱いてしまいがちである。
 しかしここで間違えてはいけないのは、今話における11人はあくまで顔見せでしかなく、実際に今話はそれと割り切った作りになっていると言うことだ。メインキャラの登場シーンで名前の字幕が表示される演出もあって、同様の構成が成されていたアニマス1話と比較して批判する向きもあるようだが、今話は元から他の11人+美嘉の掘り下げた描写を行おうとはしていない。それはアニマス1話丸々使って行われていたキャラ紹介が、今話ではBパートのみで実施されている構成から見ても明らかであろう。
 今話で描こうとしていたものは1話と同様にむしろシンプルなものである。すなわち今話で本格登場を果たした未央というキャラクターの描写、そして未央と卯月、凛の関係性強化である。
 今話で初めて出会った3人が次回の3話に向けて、そしてさらにそれ以降の展開に向けて行動していく以上、今話の段階で3人の関係性をある程度深化させておかなければならないのは自明であり、そのためには1話で描写されていなかった未央の個性をきちんと見る側に提示する必要があったのだ。
 今話中における様々な出来事の大半が、未央の言葉や行動を発端として始まっている流れになっているのには、制作側のそういう意図があったことは間違いないであろう。
 また1話では卯月と凛の2人、2話ではそこに未央が加わっての3人と、中心となるキャラの数を段階的に増やすことで、見る側の物語世界に対する視界と言うべきものも各話ごとに広げていこうとする意図が感じられる。その意味で中心人物を徐々に増やしていくというやり方は、オーソドックスながら非常に効果的なものと言える。
 尤もその見方も次回の展開次第でまったくの的外れになる可能性もあるのだが。
 未央個人の描写と3人の関係性に注力したため、新人アイドルとしての3人の奮闘ぶりも今話ではあまり描かれていない。宣材撮影に苦慮する姿は描かれたが、それは今までとは異なる環境に自分たちがいかに慣れるかまでを追っただけで、「アイドル」としての苦悩とは程遠いものと言わざるを得ない。
 そしてそれはAパートでの3人のはしゃぎぶりの中で描かれた「アイドルとしての自覚のなさ」にも繋がっている。3人が仲良くなっていく過程とまだまだアイドルになり切れていない3人の未熟さとを同時に描出した巧みさはまったくもって秀逸であったが、翻ってその秀逸な演出が、彼女らの普通であってはいけない部分が未だ普通のままであるという点を浮き彫りにしていた。
 そういう意味では冒頭に記した通り、彼女ら3人も恐らくは他の11人もまだまだスタートラインに立つ準備ができた段階にすぎないのだろう。

 エンディングは新曲「夕映えプレゼント」に乗せて、各々が事務所から帰路に就いた後の風景が描写される。アニマスでは各話ごとに異なる歌をエンディングテーマとして使用していたが、本作ではどのような扱いになるのだろうか。
 カットの方は今後のそれぞれの関係性を示唆するような組み合わせになっているが、ここで特に注目すべきなのは未央と李衣菜の2人であろうか。いわゆる中の人繋がり(担当声優の原紗友里と青木瑠璃子はニコニコチャンネルでネットラジオ「CINDERELLA PARTY!」の「主宰」を務めている)という点が大きいのだろうが、まだ出会ったばかりでそれほど関係性を築けていなかった11人のうちの1人と、既に帰宅途中にゲーセンに立ち寄って遊ぶ程度の関係性をもう作ってしまっているという事実は、今後の展開を考える上でかなり大きいように思われる。出会ってまだそれほど時間の経っていない卯月や凛をすぐ「しまむー」「しぶりん」とあだ名で呼んでしまう未央の人懐っこさが最大限に発揮されたキャラシフトと言えるだろう。

 さて次回。



 ベテラントレーナーに続き妹のルーキートレーナーにも声がつくようだが、いったいどんな声になるのか。
 そして初のライブに臨む卯月たち3人は無事にライブをこなすことができるのであろうか。
 予告ナレには美穂と一緒に登場しているのにもかかわらず映像には一切映っていない幸子の出番があるのかどうかも含めて楽しみである。