2015年01月21日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第2話「I never seen such a beautiful castle」感想

 前話にて紆余曲折ありながらもようやくアイドルへの第一歩を歩み出した卯月と凛。そして2人の知らないところで同じくアイドルとしての時を刻み始めた最後のメンバー・本田未央。
 しかし前話の感想の中にも書いた「第一歩を歩み出した」という旨の言い回しは、正確には不適当なものである。彼女ら3人はまだプロジェクトメンバーの一員として選ばれただけであり、まだアイドルとしての活動はおろか準備さえしていないのだから。
 それを考慮すると今の3人の立場はさしずめ「スタートラインに立つ用意ができた」状態、とでも表現した方が的確であろう。
 それでも3人にとってのとりあえずの道筋、方向性が定まったことは事実である。スタートラインに向かう彼女たちの前には一体何が待っているのだろうか。

 いよいよ初出勤の日を迎えた卯月と凛は、346プロダクションの社屋を訪れる。アイドルマスターに登場する芸能プロダクションの社屋と言うと765プロや876プロの事務所が入っているような小さなビルが連想されるが、この346プロの社屋はその比ではない。立派なその社屋はそれこそ「お城」という形容がしっくりくるほどに大きくそびえ立っており、いささか古めかしいながらも古風な美しさや重厚さを感じさせる佇まいだ。
 設定では346(「美城」)プロダクションはアイドル部門こそ2年ほど前から新規参入したものであるが、プロダクション自体は老舗の芸能事務所であり、多数の俳優や歌手を抱えコンテンツ企画なども行っているという、業界でも屈指の大手プロダクションということなので、この社屋の外観にも得心がいくというものであろう。
 その威容を前に驚く卯月と意に介さない凛の姿は2人の個性の違いを明確にしていて面白い。そして入口に向かう2人の後ろでは、不敵な笑顔を浮かべた未央が社屋を見上げているのだった。

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 その次に流れるのは今話で正式に組み込まれたオープニングテーマ「Star!!」。新規に作成された映像も合わせ、夢に向かって歩き出した少女たちのドラマにふさわしい疾走感あふれるオープニングになっている。

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 映像自体はステージに向けて楽屋で準備するアイドルの姿が前半、そして曲のサビからはシンデレラプロジェクト14人のライブステージ描写という形で構成されている。それだけではなく一部カットではまゆや美嘉など、プロジェクト外のアイドルも顔を見せているのが嬉しいところだし(美波が単独で映っているカットの手前にいるのは愛梨だろうか)、スタッフが着ているジャケットの背中側に付いている意匠が星=Starになっているのも細かい良演出だ。
 ゲーム版からのファンとしては、アイドル活動への邁進を文字通り「走る」と表現することの多い凛が、ステージへ上がる際に先頭を切って走っていくのが印象深いが、それ以外にも特にアニマスに触れた経験のある人にとっては別の想いを抱いたのではないだろうか。
 メインタイトルが出る直前の矢印に見立てた時計の長針、壁に貼られた14人の寄せ書き、ライブ前の準備風景、そして後半のライブシーンにそれを陰から見つめるプロデューサーたちと、基本的な構成がほとんどアニマスの前期オープニング映像と同じになっているのだ。
 意図的にアニマスと同じような構成にするのは避けていると制作陣が証言している以上、この構成自体に何らかの意味があるのではと見る側が愚考してしまうのは仕方のないところではあるが、これが「アイマスシリーズのアニメ」に取って中興の祖と言うべきアニマスに敬意を払ってのリスペクトか、あるいはこの構成自体がある種のブラフなのか、それは今後の本編の展開次第で明らかになるのだろう。

 受付ホールに入った卯月と凛は、外観に違わぬ内装の豪華さにまた驚かされる。緊張の色を隠せない卯月に後ろから現われていきなり親しげに話しかけてきたのは未央であったが、その時こそ未央のペースのままに返答するも、もちろん卯月も凛も彼女のことはこの時点では知らないので、当惑の表情を浮かべるだけだった。
 そんな2人をよそに近くを歩いていた社員にも屈託なく挨拶する未央の姿からは、彼女の元気でフランクな性格が垣間見える。
 受付で入館証を受け取った2人は、シンデレラプロジェクトの専用ルームがあるという新館の30階へ向かう。2人が入ったお城のような外観の社屋は旧館だったわけだ。
 旧館と新館を繋ぐ渡り廊下を歩く中、敷地のあまりの広さに改めて驚嘆する2人。旧館や新館以外にも様々な建物が建っていることがわかり、イメージとしては日本映画のいわゆる黄金時代に大きな映画会社が構えていた、敷地内に10以上の撮影スタジオや新人の養成所、各種施設を揃えていたという自前の撮影所のようなものだろうか。前述の通り、765プロや876プロ、そして今まで大手事務所として挙げられることの多かった961プロダクションさえも優に凌ぐ巨大な芸能事務所が346プロだということがよくわかるシーンである。
 居合わせた初老の男性と一緒にエレベーターに乗る2人だが、そこに勢いよく駆け込んできたのは先ほどの少女・未央だった。ギリギリの駆け込みだったために扉に挟まれてしまったその様子は本来笑い事ではないのだが、傍から見るとかなり滑稽なのも事実であり、思わず吹き出しそうになったところを卯月は手にしていたパンフレットを、凛は自分の手をそれぞれ口に当ててごまかしているところが、各々の個性露出も含めて面白いが、同時に未央とはまだ実質的には面識がないので、素直に笑い合えるような関係が3人の間にまだ生まれていないという点も示している。
 未央は途中の22階で降り、30階に到着した2人はプロジェクトルームに向かう。もしかしたら既に他のメンバーがいるかもと少し構えながら部屋に入る卯月だったが、反して中には誰もいない。不思議がる2人の後ろからまたまた未央が、そして少し遅れてプロデューサーともう1人、連れの女性が入ってくる。
 先ほどは入館証をつけていなかった未央が今はつけていることから考えて、22階の方で何らかの手続きを行い、その場でプロデューサーたちと合流して一緒に30階のこの部屋にまで来たと考えるのが妥当なところだろうか。卯月や凛と違い未央は正式なオーディションを受けた上での参画だから、その辺で2人と手続き上の差異が発生していたのかもしれない。
 (と思っていたら今話の脚本担当・橋龍也氏がツイッターで補足されていた。)
 プロデューサーからの紹介を受け、ようやく未央は2人が、2人は未央が同じプロジェクトのメンバーだと知る。入口ホールの時と同じくハキハキと自己紹介する未央だったが、自分で自分を「スポーツ万能の学園のアイドル」と言ってしまうあたり、少しお調子者の面もあるようだ。

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 そんな調子のままに未央は自分が二次オーディションに受かった理由をプロデューサーに質問するが、返ってきたのは「笑顔」の一言だけ。1話でのことを踏まえると、横で聞いていた卯月と凛が苦笑せざるを得ないのも理解できよう。
 卯月は先ほど未央が当選した経緯を説明してくれた、プロデューサーの傍らにいる女性について尋ねる。彼女の名前は千川ちひろ。シンデレラプロジェクトを色々な面でサポートするのが仕事だという。

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 ゲームの方をプレイしている方になら、今更説明の必要はないだろう。チュートリアルからアシスタントとして登場してデレマスの世界にプレーヤーを誘い、ゲーム開始後は様々な、そう本当に様々な面でプレーヤーをアシストしてくれる、デレマス世界になくてはならない存在である。ゲーム中で基本的に様々なコンテンツの案内やヘルプの解説をする立場なので、実はパーソナリティについては不明なところが多いだけに、本作でどのような活躍をするのか大いに期待したい。
 そんなちひろさんがささやかながらと3人に差し出したのはエナジードリンク。ゲームを始めたばかりの初心者に対するスターターキット提供的な意味合いも感じられるシーンである。
 …のだが、ゲームに馴れ親しんだ大部分の層にとってはちひろさんからエナジードリンクをもらう≠買う行為が何を意味しているか、このシーンとはまったく関係ない部分で色々な考え、様々な思い出、そして彼岸の彼方に消えていった「諭吉」の数が頭をよぎったのではないだろうか。

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 荷物を置いた3人は部屋の中でしばし歓談する。お互いの年齢や学年と言った本当に基本的な部分の自己紹介から始まるのは、3人がまさに今これから仲間になろうとしている初々しさが感じられて微笑ましい。一応最年長にもかかわらず年下や同級生に見られていたと知って落ち込む卯月や、そんな彼女をやんわりフォローする凛と言った1話に通じるやり取りがある一方、そんな2人にもう違和感なく溶け込んでいる未央のコミュ力の高さはさすがというところだ。
 凛は他のメンバーはどうしているのかプロデューサーに問いただす。さながら765プロ事務所における社長室の如く、プロジェクトルーム内にプロデューサーの個室が用意されているという施設の充実ぶりにはまたも驚かされるが、ドアを閉め切ってはいなかったようで、このあたりにはプロデューサーの意思が反映されているのかもしれない。
 他メンバーとは後ほど顔合わせをするということで、まずはレッスンの実施を仰せつかる3人。プロになってもレッスンは大事との卯月の言葉に未央も気合を入れるが、次の瞬間大声を上げる未央。
 それは向かいから歩いてきた人物が、アイドルユニット「ブルーナポレオン」の面々、すなわち上条春菜、佐々木千枝、松本沙理奈、荒木比奈の4人だったからである。

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 1話でも卯月が読んでいる雑誌に登場していたが、元々はここに川島瑞樹を加えた5人が、ゲーム中で同系統の衣装を着用しており、イベントでのライバルユニットとして登場する際の名称がこのユニット名の発祥である。
 フライデーナイトフィーバー内で配信されている今話の「マジックアワー」では、瑞樹だけ今は別のプロジェクトの方で活動しているため、こちらとは離れている旨の説明が成されていたが、それよりも何よりも視聴者、とりわけゲーム版をプレイしてきたファンを驚かせたのはその「声」だ。
 春菜と千枝が会話しているだけというまったくもって普通の場面、ゲームをプレイしていない人からすればなんてことのないシーンであったろうが、プレイ済の人間に取ってこれはある意味アイマスのアニメを見てきた中で味わった最大級の驚きであったかもしれない。
 この2人には今まで担当声優がおらず、そのためゲーム中でも声は付いていなかった。それが今話のこの短いシーンでいきなりしゃべったのである。
 今までデレマスのアイドルに声がつく場合はシンデレラマスターを始めとするCD発売に合わせて、あるいは総選挙イベントで上位入賞を果たし、CD参加が確約された時点でというのが常であった。今回はそんなこれまでの常識を軽々と打ち破って、アニメでの初お披露目と相成ったわけだ。例によって前情報は全くなかっただけに、特に各々のファンがセリフを聞いた時の胸中が如何様なものであったか、こればかりは容易に想像できることではないだろう。
 しかもこれはアニメオリジナルのキャスティングというわけでもない。本放送直後にはゲームの方にも一部カードのセリフに音声が実装され、わずか数秒の短いシーンは、名実ともにこの2アイドルの担当声優が決定した瞬間でもあったのだ。
 そんな見る側の都合はさておくとしても、現役のアイドルに間近で出会えたという事実に、卯月も未央もにわかに色めき立つ。2人が普段からたくさんのアイドルを見てきたことがよくわかるシーンだが、アイドルにさして興味を持っていなかった凛は当然彼女らを知らず、関心なさげに視線を逸らす。
 と、その視線の先には1人の少女がなぜか桜の木の上にいた。なんとも不思議な光景ではあるが、ごくごく自然に座り込んでいた少女がこちらに向けて手を振ってくるので、思わず凛も応えてしまう。しかし一度視線を逸らした後、再度見上げた木の上にもう少女はいなくなっていた。
 木の上の少女がこれから自分とどのような関係を結ぶことになるのか、今の凛には知る由もない。

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 更衣室でトレーニング用のウェアに着替える3人。話を聞くと凛はダンスの経験はなく、未央も本格的に教えを受けるのは今回が初めてということで、この中で唯一レッスン経験済の卯月は経験者としての余裕を見せ、何かあれば自分に聞いてと呼びかける。
 凛や未央と言った残りのメンバーが決まるまで1人黙々とレッスンをこなしていただけに、この言葉には彼女なりの自負も感じられるが、2人から実年齢より下に見られていたことも響いているのかもしれない。
 3人のダンスを指導するのはベテラントレーナー。ゲームの方を知らない視聴者であれば変な役名と思われるかもしれないが、実際ゲームの方でもこの名称で登場しているので、むしろ原作に即した扱いとなっている(一応「青木聖」という本名も設定されてはいるが、今のところコミカライズ等で使用される場合があるのみで、基本は「ベテラントレーナー」という名称が用いられている)。

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 そして彼女もまた今話にて初めて担当声優が割り振られたキャラクターの1人だ。今話だけで3人のキャラに新規に声が付与されたことになる。先述したがこれまでキャラに声がつく場合はCD発売に合わせてというのが常態化していたので、その前提を変容させた今話はデレマスにとってまさにコペルニクス的転回と言うべき大きな転換点であろう。
 しかしベテラントレーナー指導の下で開始されたレッスンで、卯月は見事に転んでしまう。レッスン後の休憩時に先輩風を吹かしたことをわざわざ謝るのは素直な卯月らしいところだが、他の2人も転びこそしなかったものの、あまり褒められた出来ではなかった。
 指導を受けているシーンをコマ送りで見れば一目瞭然だが、卯月も凛もベテラントレーナーからは振りが完全にワンテンポ遅れてしまっており、それでも一応きちんとした型にはなっている卯月と違い、凛は振付自体が甘くなってしまっている。未央だけはトレーナーと同じテンポで踊れてはいたが、逆に段々トレーナーよりテンポが早くなって結果的にずれてしまっている。
 トレーナーに挨拶する時の3人のお辞儀の仕方もそうだが、ダンスにおけるそれぞれのダメな点にも各人の個性が反映されており、アニマスの頃から続くこのあたりの演出の細かさには、毎度のことながら舌を巻く。
 2人もそんな自分のダメな部分はきちんと理解していたようで、別段卯月を責めるような真似はせず、ダンスの難しさを痛感する。ただ凛は同時にダンスを踊って体を動かすことに、ほんの少し楽しさを見出した様子だった。
 エナジードリンクを飲んで元気を回復した未央は、近くに置かれていたエステルームの案内に目を留める。ゲーム中でもプレーヤーが所属するプロダクションの設備としてエステルームを増築できることからのネタ引用なのかは不明だが、会社の施設内にこのようなものまで完備されていることに驚く凛を尻目に、未央は面白がって中に入っていってしまう。
 部屋の中でエステを受けていたのは川島瑞樹だった。以前担当したらしい秘湯めぐりの仕事について愚痴をこぼしつつエステを受けているが、ゲームの方では単独で温泉に行くようなイベント(カード)は用意されていないので、特にオマージュや引用というわけではないようだ。

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 ゆっくりリラックスタイムを楽しんでいる瑞樹だったが、彼女がいるとは露知らず、そもそも人がいると思っていなかったのか、入りこんだ未央は仕切りのカーテンを無遠慮に開けてしまった。未央と後を追ってきた卯月は瑞樹に視線を向けられ、慌てて部屋を飛び出していく。
 飛び出してきた2人のうち卯月は勢いあまって壁に顔をぶつけてしまうが、当の2人にしてみればそれどころではない。アイドルの瑞樹に遭遇して興奮しまくるその様子は、すっかりミーハーないちファンになってしまった感じだ。
 エステルームの瑞樹からは28歳という大人の女性らしい落ち着きと色気が十分すぎるほど感じられたため、ついこの間まで一般人だった2人が興奮するのも当然と言えば当然だが、単なるファン目線では知る機会がなかったかもしれない、瑞樹の持つかなりお茶目な一面を知る機会が今後来るのか、それも楽しみなところである。
 すっかりテンションの上がった未央は、卯月と凛を連れ「探検」と称して施設の中を見て回ることにする。
 楽曲「輝く世界の魔法」をバックに社屋内、敷地内の様々な場所を覗き見る3人。事務所然とした場所もあれば各種トレーニングルームにサウナや風呂、活動しているアイドルのピンナップ展示など、どれもこれも3人にとっては目新しいもの、驚かされるものばかりだ。
 このシーンは346プロという芸能事務所がどの程度の規模で、彼女たち3人がこれからどういう場所を基点として活動していくのか、その紹介を第一の目的にしているというのは自明だろう。城のような外観の旧館や大きなビルの新館に序盤の卯月のセリフなどからその規模の大きさは伝わるが、具体的にその中に何があるかというのを、この一連のシーンの中で見せているわけである。
 そしてそれは施設の紹介だけにとどまらない。すなわち同じ346プロで活動あるいは所属しているアイドルたちがどれほどいるのか、その紹介をもこのシークエンスは兼ねていたのである。
 列挙するとトレーニングルームにいた村松さくら、大石泉、土屋亜子の「ニューウェーブ」組、喜多見柚、綾瀬穂乃香、工藤忍、桃井あずきの「フリルドスクエア」組、堀裕子と及川雫の「セクシーギルティ」組、輿水幸子、木村夏樹(なお3人が屋外にいる時、奥の方にもう1人別のアイドルがいるが、その娘とは後ほど出会うことになるのでここでは割愛する)。
 これだけの面子が一斉に登場したのだから、見ている側としても驚かされる他ないだろう。ちなみに彼女らはすべてゲーム内に登場する、れっきとしたデレマス発祥のアイドルである。
 今のところ彼女らの登場はファンサービスの割合が多分に大きく、有り体に言えば346プロという芸能事務所の規模の大きさを明示するための雰囲気作りとして描写されているに過ぎない。名前も劇中描写の中で判明するのは夏樹だけなので、このシーンに登場したすべてのアイドルを一気に覚える必要は今のところないのだが、ここに登場したアイドルのうち今後誰が物語に直接絡んでくるか不明であるのも確か(特に裕子や幸子はいわゆる「声つきアイドル」なので、その可能性が非常に高い)なので、出来るなら記憶の片隅にでも留めておきたいところだ。

 色々見て回った3人はカフェに入って一休みする。卯月をいつの間にか「しまむー」とあだ名で呼んだり、自分は全然弾けないのに夏樹のようにギターをうまく引いてみたいと呟いたりと、未央の人懐っこさやお調子者の面が一際目立つが、その時卯月は同じカフェの中でインタビューが行われているのを目に留める。
 インタビューを受けているのは小日向美穂と小早川紗枝の2人。このカフェもプロダクション内にあることを考えればそれほど不思議な光景ではないが、この2人が揃ってやり取りをしている様子はそれだけで、オールドファンにとって重大な価値が含まれていることは覚えておいて損はないだろう。
 デレマスのサービスが始まった当初、各アイドルごとにかなりの数のセリフが用意されていたものの、他のアイドルについて触れるようなセリフは一切存在しなかった。アイドル同士の横の繋がりがゲーム中では全く見えなかったわけなのだが、それが初めて示唆されたのが2012年2月に登場した「[戦国姫]小日向美穂+」でのセリフであり、その相手が紗枝だったのである。
 今ではアイドル同士の関係性が窺えるようなセリフが頻出するのは当然になっているが、その一番手を担った2人が同席してインタビューに応えているというシチュエーションに、往時を懐かしく振り返った古参のファンもいたのではないだろうか。

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 さてそれを見てまたも騒ぎ出す卯月と未央を前に、アイドルが多すぎじゃないかと若干呆れたような声で感想を漏らす凛。今までアイドルというものに全く触れてこなかったと思われる凛らしい感想だが、これは同時に原典たるゲーム版に明るくなく、本作で初めてデレマスに触れるような視聴者の感情を代弁しているとも取れるし、考えようによっては200人近い数のアイドルを何らかの形で露出させなければならない制作側の本音にも見えて面白い。
 そこに現れたのはメイド服を着たポニーテールの可愛らしい少女。このカフェの店員らしいが、見てすぐそれとわかるメイド服姿にここはメイド喫茶なのかと未央も疑問を抱く。
 臨時でバイトしているというその少女は自らを「ウサミン星からやってきた歌って踊れる声優アイドル、ウサミンこと安部菜々でーす!」と、振りつきで紹介する。
 …が、当然と言うか何と言うか、突如目の前で展開された妙なパフォーマンスに、さすがの卯月や未央も感想を漏らすことさえできず、凛に至っては無表情のままという何とも痛々しい描写になってしまった。

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 この「痛々しい」という感想を視聴者に持たせる意図があったのは演出の面から見ても明白で、本当に菜々を可愛らしく見せるなら何らかのイメージ映像やエフェクトを重ねて、構図的にデコレートする見せ方が容易に発想できるが、今回はそれをやらずにカフェ店内という現実世界の中で最後まで描写している。これを「敢えて」そうしたというのは間違いないところだろう。

 一方のプロデューサーは別の場所で3人を待っていた。どうやら最初から待ち合わせをしていたようで、時間を確認する仕草も見られるが、そこに高垣楓が通りがかる。言うまでもなく1話冒頭のライブではセンターを務め、ゲーム内で現在配信中の「マジックアワー」ではパーソナリティも務めている彼女、ゲームの方を知らない視聴者にとってもメインの3人を除けば比較的記憶に残っているアイドルではないだろうか。

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 マジックアワーの方ではダジャレを言うのが好きという一面も見ることができるが、今話の中ではさほど会話もないためそのような面が描かれることもなく、プロデューサーに挨拶だけして立ち去っていく。
 プロデューサーの方も、そこに駆けつけた未央たちの楓についての質問に「同じ事務所だから知っている」と返すだけだったが、逆を言えば知り合いであることは間違いないわけで、プロデューサーと346プロに所属する他のアイドルたちの関係性が垣間見えたと言える。同時に今後様々なアイドルがプロデューサーを仲介役として卯月たち3人にかかわる可能性も提示されたことになり、今後の伏線、というよりはこのシーン自体もある意味「346プロの紹介」として成立していると言えるだろう。
 プロデューサーは集合時間に遅れて来た3人を注意する。それほど厳しいものではなかったが、アイドルに限らずプロとして仕事をする以上は時間を守って行動するのは当然であり、その意味でたくさんのアイドルを見て舞い上がってしまった卯月たちは、その時に限って言えば「アイドル」ではなくなってしまっていた。
 まだまだアイドルとしての自覚に乏しいと言うところだろうが、今日がアイドル活動の初日なのだから仕方ないと言えば仕方ない部分もある。他のメンバーとの顔合わせだけでなく最初の「仕事」を同時にセッティングしていたのは、プロデューサーも3人のそんな状態を予想していたからかもしれない。
 3人が通されたのは撮影スタジオ。今日は他メンバーとの顔合わせがてら、全員の宣材写真を撮影しようと言うのである(なおその時未央が口にした「アー写」というのは「アーティスト写真」のことで、宣材写真と意味は同じ)。
 他のメンバーはもう既に撮影を開始していた。最初に入ったのとは別のスタジオに通された3人に、注目の視線を向ける残り11人の新人アイドルたち。
 最初に駆け寄って話しかけてきたのは赤城みりあと城ヶ崎莉嘉の2人だ。11歳とメンバーの中では最年少ながらも明るく元気で社交的な少女であるみりあと、髪型や服の着こなし、アクセなどにギャルっぽさを匂わせながらも、中学生になったばかりの12歳で年相応に子供らしい部分がある莉嘉は、年齢が近いのもあって仲がいいのだろう、3人の参加に喜びの声を上げる。

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 ただ凛は莉嘉の顔に見覚えがあった。ダンスレッスン前に偶然見かけた「木の上にいた少女」が莉嘉だったのである。莉嘉も凛の顔を思い出したようだったが、別の少女は木登りをしていたことで莉嘉をたしなめる。
 語尾に「にゃ」をつけて話すその少女の名前は前川みく。いわゆる「ネコキャラ」で通している少女だが、天然なのかある程度の計算が働いているのか、この時点では窺い知れない。キャラの話を出されて真剣に考える素振りを見せる未央もいい味を出していた。

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 そこに独特の言葉遣いとテンションの高さを伴って現れたのは、フリフリの可愛らしい服と3人が見上げてしまうほどの身長の高さを持つ女の子・諸星きらりだった。彼女の身長はなんと182cm、さらにまだまだ成長中というのだから、3人が物理的に見上げてしまうのも無理はない。

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 大柄であるプロデューサーとどちらが背が高いかは1話の頃からファンの間で話題になっていたが、今話でも2人が近い位置で並んで映ることはなく、同一画面に収まっている時も立っている位置が微妙にずれていていまいち判然としないため、事実が判明するのは次回以降になりそうだ。
 個性的な2人の後に続き、穏やかな雰囲気を漂わせながら自己紹介してきた少女は新田美波。みりあとは逆にメンバー最年長となる19歳の彼女は現役の大学生。文武両道であると同時にチャレンジ精神も旺盛で、そのルックスは学内のミスコンで優勝するほどの折り紙つきである。

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 彼女に続いて挨拶してきたのは銀色の髪の毛に青い目を湛えた美少女だったが、彼女の発した言葉が日本語ではなかったため、3人は困惑してしまう。彼女の名はアナスタシア。ロシア人の父と日本人の母を持つハーフで、本人も幼少時はロシアに住んでいたため、話す際にもロシア語と日本語がよく混ざってしまうのだ。彼女は日本語で、自分を「アーニャ」という愛称で呼んでほしいと挨拶する。

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 お菓子を手に持って現れた、少々ふくよかな体型の女の子は三村かな子。柔和な笑顔が印象的なかな子はお菓子を作るのも食べるのも好きという性格で、持参したお菓子も手作りとのこと。

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 お菓子をいただく3人に、椅子に座ったまま話しかけるのは多田李衣菜。自己紹介の通りクールでロックなアイドルを目指している少女だが、その態度を見た卯月の「かっこいい」という感想に頬を染めている様子が確認できるあたり、今はまだ見られない一面が隠れているようである。

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 その隣に座っていた緒方智絵里は立ち上がって少し戸惑いながら挨拶する。見てわかるとおりかなり気弱な性格だが、四つ葉のクローバーを大切にし、他人の幸福を願うことのできる心優しい少女でもある。

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 ちなみにAパートで3人が346プロ内を探検している際、屋外で走っているシーンの後方に小さく映っている少女は、服装や髪形から見て智絵里本人と思われる。恐らくこのスタジオでも手にしているのが確認できた四つ葉のクローバーを探していたのだろう。

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 ゴシック調の衣服に身を包み、何やら難解な言葉で挨拶をしてきた少女の名前は神崎蘭子。彼女はいわゆる「厨二病」キャラであり、その服装や言葉遣いからかなり異質な存在に見えてしまうが、内面は少し照れ屋だが努力を惜しまない良い子である。ゲーム中では彼女の厨二セリフの後に翻訳という形で本来の意味が付与されているのだが、それを読めば彼女がごく普通で常識的な性格ということはすぐわかるだろう。

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 ちなみにこの場で言っているセリフは「血の盟約に従い、我と共に魂の共鳴を奏でん。宴の始まりぞ」→「皆さんに出会えて私、嬉しいです。一緒にがんばりましょうね」というところだろうか。戸惑う3人の一方で満面の笑みを浮かべているみりあが印象的でもある。
 一通り自己紹介が終わったかと思いきや、プロデューサーはメンバーが1人足りないことに気づく。最後の1人はきらりがパーテーションを動かしたその向こうで、並べたイスに横たわって眠りこけていた。
 「働いたら負け」と書かれたTシャツと左手に持ったくたびれたウサギのぬいぐるみが印象的なこの少女の名前は双葉杏。この場面だけでは単なる怠け癖のある女の子に見えるが、実際には働くことが大嫌いで一生寝て暮らしたいとまで豪語するほどのニートである。色々あってアイドルになったもののその考えは全く変わらず、むしろCD出したらその印税で一生遊んで暮らすことを目論んでいる、何とも独創的な考え方の持ち主だ。

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 彼女ら11人に卯月、凛、未央の3人を加えた総勢14人が揃い、シンデレラプロジェクトの本格的始動を宣言するプロデューサー。14人の少女たちは思い思いの形で自分たちのアイドルとしての物語がスタートを切ったことを喜ぶ。
 そんな皆の声を聞きつけてこちらのスタジオを覗きに来たのは、カリスマJKアイドルとして人気を博している城ヶ崎美嘉だった。ライブのパンフレットに使う写真の撮影中ということで大胆なギャル風衣装に身を包んでいるが、未央の挨拶にも素直に応える人あたりの良い性格の持ち主らしい。妹である莉嘉との仲も良好の様子。

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 美嘉の撮影風景を少し見学し、感嘆する卯月たち。凛も彼女に関しては以前(1話)に雑誌を読んで見知っていたこともあってか、先輩アイドルとしてのすごさを素直に感じているようだ。ちなみに美嘉が撮影に使っているハート型の台座は、先頃ファット・カンパニーから発売された1/8スケールフィギュアで使用されているものをモデルとしている。
 そしてついに卯月たち3人も撮影の準備に入る。しかし他のメンバーがそつなく撮影をこなしていく中、メイクを施してもらう時点で緊張の色が顔に浮かび上がってしまっていた3人は、撮影の際もやはりガチガチに固くなってうまくいかない。勝手がわからず戸惑っている風の凛に、かえって空回りしてしまっている未央など、緊張の仕方も三者三様なのは細かいところだが、いずれにしても満足のいく内容にはなっていないため、プロデューサーは撮り直すようカメラマンに依頼する。
 さすがに意気消沈してしまった3人は、休憩中も言葉少なにアイドルとしての仕事の難しさを実感する。実際にはこの程度のことはまだまだ序の口なのであるが、今日が初仕事の3人にとっては十分すぎるほどに大きな「壁」となるものであった。
 またそんな3人にああいう態度のプロデューサーはともかく、他の11人が一切話しかけてこなかったのも、まだ出会ったばかり故の関係性の薄さを示していたと言える。

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 再び開始された撮影では、プロデューサーの提案で3人一緒に撮影することになった。普段通りにと言われてもどう動いていいか分からず固まる3人に差し出されたのは1つのボール。ごくありきたりの遊び道具も使って、素のままに動いて欲しいという案のようだ。
 とりあえずボールの投げ合いを始める3人。未央から突然振られた卯月はボールを頭にぶつけてしまったり、バレーボールのようにトスをしあって最後に凛が見事なスパイクを決めるなど、本当に何の決まり事もなく自由に動いているうちに緊張の糸がほぐれてきたのか、3人の顔にも自然と笑顔が浮かんでくるようになる。
 プロデューサーの提案が功を奏したというところだが、もしかすると3人が集合時間に遅れてきた時の楽しげな様子を覚えていた故の提案だったのかと考えてみると、あの場面で遅刻した3人を単に叱るだけでなく、3人の良い部分もしっかり記憶していたことになるわけで、アイドルの魅力をより引き出す役目を担うプロデューサーとしては及第点の「仕事」ができていたと言えるだろう。流れの中で3人が3人とも笑顔を理由として選ばれたことを知り、笑い合う様子を見て例の首筋に手を当てる仕草を見せるのはご愛嬌というところか。
 ちなみに彼女ら3人だけでなく他の11人の撮った写真もすべて、構図やポージングはゲームに登場する各々の初登場時、肩書なし・名前のみカードのそれと同一になっている。最初のカードはそれこそアイドルで言うところの宣材写真としての役割もあるので、単なるファンサービスに留まらない、原作ゲームの世界を上手にアニメに落とし込んだ演出と言えるだろう。
 すっかりリラックスして撮影に臨む3人の様子をイイ感じと評した美嘉は、同時に何かを思いついたようだ。
 宣材の撮影は無事に終了し、最後にと全員で集合写真を取ることにする。一緒にと誘われながらいつもの調子で断るプロデューサーを残念がりながらも、写真を撮ってもらう卯月たち。皆笑顔を浮かべたその写真は、14人の少女たちがシンデレラプロジェクトの仲間として共に最初の一歩を踏み出した証でもあった。

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 初仕事を終えた卯月たち3人を待っていたのは、美嘉が今度行うライブのバックダンサーとしてライブに出演してほしいという突然の依頼だった。先ほど美嘉が思いついたこととはこれだったのである。
 美嘉の担当からも了承は得たとのことだったが、プロデューサーの方は少々逡巡している態度を見せる。3人のダンスレッスンを見ていた彼からすれば、今日から活動開始という3人の経験の浅さもあってすぐさま二つ返事といかないのは当然であろう。
 そんな彼の発した言葉を遮るように3人の出演を薦めてきたのは、卯月たち3人がプロジェクトルームに向かうために乗ったエレベーターに同乗していた、あの初老の男性だった。
 さすがに3人ともはっきりとは覚えていなかったが、美嘉の口からこの男性こそプロジェクトの担当部長であることを聞かされ、3人も一様に驚く。
 その後押しもあってプロデューサーもとりあえず了承し、ちひろさんにライブの資料手配を依頼する。一緒に楽しもうという美嘉の言葉に喜びの笑顔を見せる卯月と未央であったが、凛だけは1人不安げな表情を浮かべていた。
 今日アイドル活動を始めたばかりでさしたる実績も上げていない現状を考えれば、不安を抱くのも当然というところだが、未央は全く意に介さず、卯月は初めてのライブに胸をときめかせるばかり。
 卯月たち3人の、そしてシンデレラプロジェクト14人のアイドル活動はこのまま順風満帆と行くのであろうか。

 今話は世界観設定の説明回と今後の話に絡んでくるキャラクターの紹介回とを兼ねた作りになっている。とりわけ新規登場キャラはメインとなるシンデレラプロジェクトのメンバーだけでも11人と大量であるため、前話における卯月と凛のキャラクター描写と比較するとどうしても薄味な感を抱いてしまいがちである。
 しかしここで間違えてはいけないのは、今話における11人はあくまで顔見せでしかなく、実際に今話はそれと割り切った作りになっていると言うことだ。メインキャラの登場シーンで名前の字幕が表示される演出もあって、同様の構成が成されていたアニマス1話と比較して批判する向きもあるようだが、今話は元から他の11人+美嘉の掘り下げた描写を行おうとはしていない。それはアニマス1話丸々使って行われていたキャラ紹介が、今話ではBパートのみで実施されている構成から見ても明らかであろう。
 今話で描こうとしていたものは1話と同様にむしろシンプルなものである。すなわち今話で本格登場を果たした未央というキャラクターの描写、そして未央と卯月、凛の関係性強化である。
 今話で初めて出会った3人が次回の3話に向けて、そしてさらにそれ以降の展開に向けて行動していく以上、今話の段階で3人の関係性をある程度深化させておかなければならないのは自明であり、そのためには1話で描写されていなかった未央の個性をきちんと見る側に提示する必要があったのだ。
 今話中における様々な出来事の大半が、未央の言葉や行動を発端として始まっている流れになっているのには、制作側のそういう意図があったことは間違いないであろう。
 また1話では卯月と凛の2人、2話ではそこに未央が加わっての3人と、中心となるキャラの数を段階的に増やすことで、見る側の物語世界に対する視界と言うべきものも各話ごとに広げていこうとする意図が感じられる。その意味で中心人物を徐々に増やしていくというやり方は、オーソドックスながら非常に効果的なものと言える。
 尤もその見方も次回の展開次第でまったくの的外れになる可能性もあるのだが。
 未央個人の描写と3人の関係性に注力したため、新人アイドルとしての3人の奮闘ぶりも今話ではあまり描かれていない。宣材撮影に苦慮する姿は描かれたが、それは今までとは異なる環境に自分たちがいかに慣れるかまでを追っただけで、「アイドル」としての苦悩とは程遠いものと言わざるを得ない。
 そしてそれはAパートでの3人のはしゃぎぶりの中で描かれた「アイドルとしての自覚のなさ」にも繋がっている。3人が仲良くなっていく過程とまだまだアイドルになり切れていない3人の未熟さとを同時に描出した巧みさはまったくもって秀逸であったが、翻ってその秀逸な演出が、彼女らの普通であってはいけない部分が未だ普通のままであるという点を浮き彫りにしていた。
 そういう意味では冒頭に記した通り、彼女ら3人も恐らくは他の11人もまだまだスタートラインに立つ準備ができた段階にすぎないのだろう。

 エンディングは新曲「夕映えプレゼント」に乗せて、各々が事務所から帰路に就いた後の風景が描写される。アニマスでは各話ごとに異なる歌をエンディングテーマとして使用していたが、本作ではどのような扱いになるのだろうか。
 カットの方は今後のそれぞれの関係性を示唆するような組み合わせになっているが、ここで特に注目すべきなのは未央と李衣菜の2人であろうか。いわゆる中の人繋がり(担当声優の原紗友里と青木瑠璃子はニコニコチャンネルでネットラジオ「CINDERELLA PARTY!」の「主宰」を務めている)という点が大きいのだろうが、まだ出会ったばかりでそれほど関係性を築けていなかった11人のうちの1人と、既に帰宅途中にゲーセンに立ち寄って遊ぶ程度の関係性をもう作ってしまっているという事実は、今後の展開を考える上でかなり大きいように思われる。出会ってまだそれほど時間の経っていない卯月や凛をすぐ「しまむー」「しぶりん」とあだ名で呼んでしまう未央の人懐っこさが最大限に発揮されたキャラシフトと言えるだろう。

 さて次回。



 ベテラントレーナーに続き妹のルーキートレーナーにも声がつくようだが、いったいどんな声になるのか。
 そして初のライブに臨む卯月たち3人は無事にライブをこなすことができるのであろうか。
 予告ナレには美穂と一緒に登場しているのにもかかわらず映像には一切映っていない幸子の出番があるのかどうかも含めて楽しみである。


2015年01月16日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第1話「Who is in the pumpkin carriage?」感想

 アイドルマスターシリーズの諸作品は、芸能事務所「765プロダクション」に所属するアイドルたちを主役格に据えて展開されてきた。
 長年のファンにしてみれば何を今更という話であろうが、主軸たるゲームにしても最初のアーケード版及びXBOX360への移植版(通称「無印」)、ライブフォーユー、SP、そして2と、当初から番外編的位置づけの作品として制作されたアイドルマスターDearlyStarsを除いたすべての作品、またスピンオフ作品の「ぷちます!」や大部分の設定をがらりと変更した「アイドルマスターXENOGLOSSIA」、さらには各種コミカライズやカードゲームと、ほぼすべての展開においてその中心に存在するのは765プロアイドルであった。星井美希や我那覇響、四条貴音という途中参加のアイドルも存在するものの、アイマスシリーズないしPROJECT IM@Sを長年にわたって牽引してきたアイドルたちは765プロアイドル13人だけだったのである。
 我々受け手側としては、それは当然のことであり未来永劫変化し得ないものと捉えていた節もあったのではないだろうか。2011年の秋までは。
 2011年11月28日、そんな受け手側の意識を根底から覆すような作品が新たにリリース、ではなくサービス開始された。それが「アイドルマスター シンデレラガールズ」(通称「デレマス」)である。今までのアイマス各作品の世界観をモチーフにした携帯端末専用ゲーム、いわゆる「ソーシャルゲーム」としては初めてのアイマス作品であり、システムやUIなどはもちろん歴代作品と異なるものの、「プレーヤーがプロデューサーとなってアイドルをプロデュースしていく」というアイマス作品の根幹を成す基本方針はしっかり守られ、レッスンや特訓に好感度上昇と言った諸々のゲーム内容にもそれは反映されている。
 そんな本作品が受け手側に与えた最大の衝撃は、やはり登場するアイドルにあっただろう。765プロ所属のアイドル13人が登場するのは当然としても、本作にはそれ以外、本作オリジナルのアイドルがサービス開始時点で総計100人近く存在していたのである。前述の通り当時のファンは765プロアイドルだけを「アイドルマスターのアイドル」として認識していたわけであり、そんな中に突然100名もの新しいアイドルが、あまり馴染みのなかったソーシャルゲームという媒体の作品に登場したのだから、当時の混乱や衝撃が決して小さいものではなかったということは、容易にご理解いただけるだろう。
 当初はいわゆる「コンプガチャ問題」を始めとしたソーシャルゲームそのものの諸問題から生じるマイナスイメージもあり、765アイドル以外のアイドルを「アイマスのアイドル」として認識すること(しかもDSと違い制作上は番外編と言う位置づけにもなっていない)に抵抗する向きも少なくなかった。
 しかしそのソーシャルゲームの特徴である美麗に仕上がった多種多様のカードや次々に実施される各種イベントに、それらを積極的に楽しもうとするファンサイド側の接し方、そして何より100名近いアイドル1人1人を決しておざなりにせず大事に扱う制作側の真面目な姿勢などにより、徐々にファン内における市民権を獲得していくこととなる。
 人気上昇に合わせるかのように続々とさらなる新規アイドルが追加され、開始三カ月で登録者数が100万人を突破、それを記念する形で旧来作におけるMASTER ARTISTシリーズに相当するCDシリーズ「CINDERELLA MASTER」の発売、それに伴いアイドルたちにも順次担当声優がつくことになり、ネットラジオやファンイベントも実施され、良い意味でソーシャルゲームの枠を超えた、そしてアイマスらしい展開を歩むようになり、それは2014年の4月5、6日に開催されたファーストライブ「WONDERFUL M@GIC!!」にて一つの頂点に達した。
 そのファーストライブの中で発表された新情報、それが本作のテレビアニメ化決定の報である。
 以前にもサービス開始2周年記念としてアニメPVが作成されたり、アニマス劇場版「輝きの向こう側へ!」のエンディング映像に本作のアイドル・渋谷凛がワンカットのみ登場していたことから、本作自体の本格的なアニメ化も以前より期待されていたわけだが、その念願がようやく叶ったということになる。
 記録にも記憶にも残る良作・秀作として完成したアニメ版アイドルマスターを手掛けたA-1 Picturesが制作を手掛け、キャラクターデザインに松尾祐輔、シリーズ構成に橋龍也、そしてシリーズ構成も兼任する監督には高雄統子と、アニマスにそれぞれ重要な立場でかかわった経験のあるスタッフが、言ってみればほぼそのままスライドする形で制作に携わるという報せは、多くのファンを期待させるには十分すぎる内容だったと言える。
 シンデレラガールズ自体も11月30日に行われたセカンドライブ「PARTY M@GIC!!」を筆頭に2014年は更なる盛り上がりを見せ、もう1つのソーシャルゲーム「アイドルマスター ミリオンライブ!」とお馴染みの765アイドル(765PRO ALLSTARS)とによる、現在のアイマスシリーズを牽引する三本柱の一角を担う立場にまで飛躍するに至った。
 そして年も明けた2015年、満を持して1月9日より新作アニメの放送が開始される。以前のアニマスの時と同様、キービジュアルやPV映像のみが紹介され、肝心のストーリーについてはほとんど明かされることなく放送日を迎えたわけだが、さてどのような内容になっていたのであろうか。

 ファーストカットは大きく映し出された時計の文字盤。静かに時を刻むその長針が12の位置の1つ手前、1分前にに到達したその瞬間に本作の物語は幕を開ける。
 2周年記念のPVやライブイベントの開始時などにも表示されるこの時計の描写は、光り輝くアイドルという存在に自分たちを変えてくれたものを「魔法」と形容する本作がよく用いるガジェットである。魔法にかけられてアイドルとなった本作の少女たちのイメージモチーフを、童話の主人公である「シンデレラ」になぞらえている本作らしい表現だ。
 彼女たちもほんの少し前までは、お姫様に憧れるだけだった普通の女の子。眩しいお城も素敵なドレスも、そして優しい王子様も自分には遠い夢と思っていた彼女たちに魔法をかけてくれたもの、それは運命の出会い。その出会いから始まったものが、彼女たちに素敵な魔法をかけてくれた。
 そのモノローグの中で主として描かれるのは、冒頭の舞台「CINDERELLA GIRLS WINTER FESTIVAL」に出演する彼女らアイドルではなく、今まさに運命の出会いを果たしていた3人の少女と1人の男性である。荷物を抱えたスタッフジャンパーを羽織る少女と会場内のフラワースタンドを整備している少女、そしてイベントを見に来たと思われる少女が偶然ぶつかった時、少女の持っていた荷物が階段の下に転がり落ちる。そこから飛び出したのはこれもまたシンデレラを象徴するガラスの靴。そしてそれを拾い上げる男性…。

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 童話の展開をそのまま元にしたとも取れるこのシークエンス、見方次第でイメージ映像とも解釈できるのは、冒頭に映った長針が12の位置の1分前を示していただけの時計と違い、短針も含めて12時を指す瞬間をはっきり映し出している、つまり純然たるイメージともライブイベントのVJ映像とも思われる時計の画がこのすぐ後に映し出されるからだろう。
 それはこれから始まるライブも同様だ。デレマスを代表する名曲「お願い!シンデレラ」をステージで歌い踊るのは高垣楓、川島瑞樹、白坂小梅、小日向美穂、佐久間まゆ、輿水幸子、日野茜、十時愛梨、城ヶ崎美嘉の9人。この魔法は私たちだけのものじゃない、会場のみんなも王子様やシンデレラになれるから、との楓と美嘉の言葉に続いて歌い出すその歌に乗って、これからその「魔法」にかかるであろう少女たちが次々と画面に登場していく。

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 自室のテレビでライブを見ている双葉杏、窓の向こうの電光掲示板に歌詞が表示される中で喫茶店にいるのは前川みくと三村かな子、緒方智絵里はまゆ、幸子、美穂とゲームで言うところのキュート属性アイドルがデジタルサイネージに表示される前を駆け抜けていく。
 同じく映し出される小梅を見つめる多田李衣菜、新田美波とアナスタシアはそれぞれ他のことをして楓や瑞樹が映し出されている画面には視線を向けず、その一方で神崎蘭子は街頭ビジョンに映る楓、瑞樹、小梅のクール属性アイドルを見上げている。
 別の場所で映し出される愛梨や茜を眺める諸星きらり、その後ろを元気に走り抜けるのは赤城みりあ、そして美嘉も含めたパッション属性アイドル3人の写真?を持ってプリクラにいるのは城ヶ崎莉嘉だ。
 その後に続く彼女たち11人がそれぞれの属性ごとに集まって町の一角である公園や交差点に佇んでいるシーンや、全員でライブを見やる場面は明確にイメージ映像とわかるが、先の少女たちの様子などはイメージなのか現実の描写なのか、少々判然としない。これを考えるに、この一連のシークエンスは単純にライブのシーンとそれと並行した各人の様子を描写した現実映像ではなく、ライブの部分を含めてこのシークエンス全体がいわゆるPV映像、ないし今話限りのOP映像として成立しているのではないだろうか。

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 先ほど書いたガラスの靴云々の場面をイメージ映像とも解釈可能と書いた理由はここにある。そう考えることでガラスの靴関連のシークエンス自体があの3人だけでなく、かつては今ステージに立っているアイドルたちも経験したこと、そしてこれからもどこかでまた別の少女が経験するかもしれない「運命の出会い」というものの普遍性を強調していると捉えることもできるのだ。
 尤もここをPVと解釈するなら、ファーストカットとライブ開始直前の時計の違いからして、後者の時計が表示されたタイミングがPV映像の開始と考えるのが自然な発想であるし、実際にそこまで考えてあの出会いの場面を用意したわけではないのだろうが、現実の描写とイメージ映像との境界を意図して曖昧に描いているのは間違いないところだろう。
 その辺の屁理屈はさて置くとしても、華やかなライブシーンは短いながら鮮烈だ。曲自体もアップテンポの盛り上がるナンバーであるし、9人のアイドルがお姫様を思わせるような白を基調としたドレスに身を包んで歌い踊る姿は、それぞれの振りのタイミングの微妙な差異や髪の毛の細かい動きまで、アニマスの方でも見られたクオリティの高い作画で表現されており、正味1分程度ではあるが濃密な、見ている側の心をひきつけるのには十分すぎるほどのライブシーンが描かれていたと言える。9人の内ほとんどが本曲の歌唱を初めて披露している(実際のライブイベントで歌った者もいるがCD収録バージョンの歌としては歌唱経験なし)のも注目すべきトピックスだろう。

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 そして「みつけよう 私だけの光(MyOnlyStar) さがしつづけていきたい」など、特に強調されていた歌詞の数フレーズは、これからの本作の物語を象徴する言葉となるのであろうか。

 季節は巡って桜咲き乱れる春。都心の一角にある養成所では1人の少女が講師の指導の下、レッスンに励んでいた。彼女の名は島村卯月。冬のあの時のライブに撮影したと思われるアイドルたちの画像を見やりながら、自分もいつかアイドルになる日を夢見てがんばっている少女である。
 とは言っても最近受けたというシンデレラオーディションを始め色々なオーディションを受けてもその成果ははかばかしくなく、同期のメンバーも辞めていって今は卯月1人だけというかなりお寒い状況だ。「調整中」と書かれた紙が貼られ、12時手前で止まったままの時計は彼女の今の状態を如実に示していると言える。
 しかし卯月はこの状況にもめげることなく、今日も笑顔でレッスンに勤しんでいた。そんな健気さを発揮する一方で、ストレッチに力を入れすぎて痛がってしまうちょっとドジな面も見せており、短い時間で彼女の可愛らしさの根幹となる部分がきちんと描出された丁寧な作りとなっている。
 それだけではなく今話中でのやり取りこそ少ないものの、養成所の講師との関係性も忘れてはいけないだろう。今話だけでは分かりにくいが、原作ゲームの方で用意されている特設コンテンツ「フライデーナイトフィーバーキャンペーン」では、アニマスの本放送時と同様に本編の内容を補完するボイスドラマ「NO MAKE」が配信されており、そちらで視聴できる今話終了後の卯月と講師とのやり取りを踏まえると、結構世話になっていた期間が長く、気心の知れた関係となっていることが窺え、今話本編でのやり取りをより微笑ましく見ることができると思われる。
 また細かい点だが、最初に卯月が見ていた画像にも注目すべきだろう。冒頭のライブ会場でぶつかりあってしまった3人の少女のうち、スタッフジャンパーを着て荷物を運んでいた少女は卯月だったわけなのだが、その際に画像を撮影したであろうことを考えると、アイドルデビューを果たしている9人のうち少なくとも、その画像に映っている美嘉、美穂、愛梨、瑞樹の4人とは面識があり、もしかしたら何らかの交友関係を築いているのかもしれない。
 まだ今話の段階ではその辺の関係性は不明だが、次回以降に何かしらの影響を及ぼすのか、期待したいところである。
 さてそんなレッスンの最中、レッスン場に突然入ってきた者がいた。のっそりと現れたスーツ姿で目つきの悪いその男性は、表情を崩さず卯月たち2人を見つめてくる。

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 講師の言葉に従って男性は受付に行ったようで、しばらく1人でレッスンをする卯月だったが、そこへまた同じように件の男性がのっそりと入ってきた。例によって表情は変えず、上背もある正体不明の男性を前に卯月はすっかり怖がってしまう。近づいてくる男性に怯えながらグルグル目になって「ママー!」と叫ぶ卯月の姿は、不謹慎ながら可愛いの一語に尽きるくらいの魅力に溢れていたと言える。
 が、次に目を開いた卯月の視界に飛び込んできたのは、名刺を差し出す男性の姿だった。彼は芸能事務所「346(みしろ)プロダクション」のシンデレラプロジェクトという企画を担当するプロデューサーだったのだ。
 リアルタイムで見ていた視聴者にとっては驚きの展開と言わざるを得ない、本作オリジナルのプロデューサーが登場したわけである。アニマスのプロデューサー(通称「赤羽根P」)と同様にまったく前情報で公表されなかったサプライズ登場と相成ったわけだが、三白眼でぶっきらぼうな印象を与える本作のプロデューサーは、初登場時から爽やかな好青年のイメージを打ち出していたアニマスのプロデューサーとはかなり対照的だ。1話におけるライブのシーンを冒頭に持ってきた構成もそうだが、今話は先駆者たるアニマスの1話と良い意味で対照的になるよう、ある程度意図した作りにしたとのスタッフの言があり、その「対照的な作り」の最たるものがこのプロデューサーというキャラクターの造形なのであろう。
 彼が担当しているシンデレラプロジェクトとは先に話のあった、卯月が落選したというシンデレラオーディションに関係するプロジェクトであり、そこに3名欠員が発生してしまったため、彼は新たに参画させる3人のうち1人として卯月をスカウトに来たのだった。
 突然のことではあったが、ついにアイドルとしてデビューできる千載一遇の機会を前に、二つ返事で了承する卯月。時計から「調整中」の紙がはがれ落ちる演出を引き合いに出すまでもなく、止まっていた彼女のアイドルとしての時間、アイドルとしての物語が今動き出したのである。

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 養成所からの帰り道、デビューが決まったことを嬉しそうに母親に報告する卯月。その声も表情も走る姿も喜びに溢れていると言った風の彼女は、偶然通りがかった花屋に目を留めた。自分自身へのお祝いとして花を買うことにした彼女は店の中に入っていく。
 店の中を見て回る卯月だったが、値段が高かったり色々な花に目移りしてしまったりとなかなか決められない様子。そんな彼女に話しかけてきた店員は、卯月と同じくらいの年頃の女の子だった。
 事情を聞いた少女は卯月にアネモネの花を薦める。その表情は周到なカメラアングルのためになかなか映されないが、「期待・希望」というアネモネの花言葉を語った際、少々照れくさそうにはにかんでいる様が、ほんの少し映し出された口元から窺え、少女の落ち着いた口調の裏にある心優しさを感じさせる。
 (なお余談であるが、アネモネという花もその色によって花言葉が変わるようで、赤だと「あなたを愛する」、紫だと「あなたを信じて待つ」となるらしい。)

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 少女の薦め通りにアネモネを購入した卯月は、少女へのお礼と「私、がんばります!」との言葉を残して去って行った。さほど事情も知らない初対面の人間に対して後者の言葉をかけるのはおかしいと言えばおかしいのだが、まだまだ興奮冷めやらぬ卯月の喜びがここでも溢れ出てしまったと言うところだろうか。
 満面の笑顔と「がんばる」という言葉。この二つを少女はどのように受け止めたのか、ようやく映し出されたその表情から推し量ることができなかった。

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 幾日か経ち、卯月はプロデューサーから自分が参加するシンデレラプロジェクトについての説明を受ける。彼の話によると今はまだ卯月以外のメンバーも配属はされておらず、残り2人の選考が終わってから全員一緒に配属されるとのこと。それまでは今まで通り養成所でのレッスンをこなすようにとの指示を受け、卯月は少し残念がりながらもすぐいつもの調子に戻り、がんばると宣言する。
 冒頭から見ていればわかるとおり、何度も彼女が口にしている「がんばる」という言葉は、常に前向きにアイドル活動に励んでいる卯月という女の子を象徴するキーワードともなっており、そう考えると彼女の象徴的な言葉を花屋の少女が聞いた(物語の構成的には『聞かせた』)のも必然であったと言えるのかもしれない。
 プロデューサーから質問を求められた卯月が今後のCD発売やテレビ出演、ライブ実施について質問し、対するプロデューサーがすべて「企画中です」とだけ返答するやり取りはコメディのようで楽しいが、同時にここではどんな内容の会話でも正直に返答してはいるものの、基本的に余計なことを言わない(言えない?)プロデューサーのパーソナリティを明示している場面ともなっている。
 同じようなやり取りが続いた後、卯月は改まった口調でなぜ自分を選んだのかをプロデューサーに問いかける。先述の通り彼女は同じオーディションを受けて一度落選しており、そんな自分が欠員補充という面はあるものの同じプロジェクトの要員として選ばれたことに対しては、まったく疑問を抱かないというわけにもいかなかったのだろう。
 その疑問を口にしている時の彼女の表情を全く映さないアングルにしているのも巧妙であるし、話終えた直後のカットの卯月が画面の右下に小さく映るだけで、背景の方が前面に押し出されたカットになっているのも、彼女の内面の不安や心細さを強調している。
 そんな卯月の質問にプロデューサーが返した答えは「笑顔です」の一言だけだった。ここで先ほどのコメディタッチのやり取りが生きてくる。プロデューサーはどんな場合でも余計なことは言わないが、伝えるべきことは必ず正直に伝えていた。あの短いやり取りの中で彼の持つ正直さ、誠実さが明確に示されていたからこそ、今のこの発言も嘘偽りのない真実のものであると理解することができるのだ。
 確かに客観的には言葉足らずの回答である点も否めない。しかし笑顔にだけは自信があると嬉しそうな笑顔でピースサインを取る卯月にとって、それは十分すぎるほど納得できる回答だったに違いない。

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 プロデューサーが退席した後、まだ見ぬ残り2人のメンバーに想いを馳せる卯月。その2人の少女と実は既に邂逅を果たしていることなど、神ならぬ身の卯月には知りようもなかった。

 そしてその2人目となる少女の物語も少々変わった形で動き出す。
 壊れたおもちゃの前で泣いている子供に駆け寄る警官。警官の目に留まったのは子供の傍らに立っていた1人の少女――あの花屋の少女であり、ライブ会場で気づかぬうちに卯月と邂逅を果たしていた少女・渋谷凛だった。

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 警官は凛が子供に何かしたと思いこみ、厳しい口調で凛を問い詰める。凛はすぐ否定するものの説明不足な上に警官が端から疑ってかかっているため、どうにも事態は好転しない。
 ちょうどそこに通りがかったプロデューサーは見かけた凛の姿に何かを感じたのか、2人の間に割って入り、警官を説得する。
 今「何かを感じた」と書いたものの、実際どのような理由によるものかは判然としない。変化に乏しいプロデューサーの表情が少しだけ変わっていたことから凛個人に注目したのは間違いないと思われるし、単純に困っている人を放っておけないという気持ちが働いた面も多分にあるのだろうが、この時初めて凛に何かを感じ取ったのか、あるいは以前から凛を探していたのか、その辺は不明なままである。これからの展開の中で明らかになるのを期待したいところだ。
 結局子供は落し物を踏まないよう凛に止まってもらっていただけだったということが判明し、警官の謝罪を受けて2人は解放される。自分の介入で却って面倒をかけたと謝るプロデューサーに、自分も巻き込んでしまったからと返す凛。はっきりとは口にしていないものの、照れくさそうに髪の毛をいじる仕草や呟きから、彼に対する感謝の念があったのは確かだろう。凛という少女の内にある優しさや素直さの一端が垣間見える場面だったが、プロデューサーがスカウトの話を口にした途端、表情をこわばらせる。

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 その際の言葉から察するに、スカウトという行為そのものよりは、自分を助けに入った行為が純粋な正義感や善意からのものではなく、スカウトという下心があったからということに嫌悪感を覚えたように思われる。
 無論プロデューサーとしてはそのような打算だけで動いたわけではないのだろうが、先ほども書いたとおりプロデューサーが凛をアイドルにスカウトすると決めたタイミングがいつなのか見ている側としてはわからない以上、打算が全くなかったと否定することも出来ない。果たしてプロデューサーも多くを語らないため、「アイドルに興味ない」とだけ言い残し、凛は足早に立ち去ってしまった。

 養成所の卯月には引き続きレッスンをするようお願いする一方で、プロデューサーは凛のスカウトを継続する。凛の通う学校の近くにまで出向き、せめて名刺だけでもと差し出すものの、凛の態度は素っ気ないままだ。

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 画面を見る限り積極的に追いかけまわすような真似はせず、通学路付近で凛が現れるのを待って名刺を渡そうとしているようだが、本人としてはいたって真剣なその様子も傍から見ればかなり怪しい、不審者にしか見えないのも確かであり、他の生徒たちからも怪しまれてしまっていた。
 凛の頑なな態度も全く変わらずプロデューサーを拒絶し続ける。彼を無視して青信号の横断歩道を進む凛と、彼女の後ろ姿を見つめるだけで追いかけようとしないプロデューサーの姿からは、本来は追えるはずなのに負うことを許さない・許されていない2人の間の断絶を示しているようにも見える。
 そんな中、卯月は1人で黙々とレッスンに励んでいた。養成所を訪ねた自分にいつものような笑顔を向け、レッスンするだけという指示も楽しそうに受ける卯月の姿に、プロデューサーは首筋に左手を当てるような仕草をする。それが彼のどんな感情からの発露なのか、今の段階ではようとして知れない。

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 一方の凛は高校でどの部活に入部しようかを悩んでいた。入部希望の用紙に何も記入できていないところから、入りたい部活も特に定まってはいないようで、友達から吹奏楽部に誘われてもいまいち煮え切らない。ここで非常にさりげなく「凛は音感がいい」という、後々必要となるであろう素養の一端を打ち出しているところを見逃してはいけないだろう。
 そこへ現れた別の友人が持ってきた不審者の情報にいぶかしむ凛。それは目つきが悪いと評されるその不審者に心当たりがあったからに他ならない。またスカウトに現れた不審者、ではなくプロデューサーに噂のことを伝える凛だったが、例によってプロデューサーは資料や名刺を渡そうとし続け、とうとう本物の警察がやってきてしまった。
 元々口下手なところがあるのかはっきりと話をせず、警官に詰問される彼を見兼ね、凛は思わず名刺を手に取り彼の擁護に回る。

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 アクシデントではあったものの名刺を受け取ってしまった凛は、仕方なく近くのカフェでプロデューサーの話を聞くことにする。
 自分の何を見てアイドルにスカウトしようと思ったのか問いただす凛。それを受けたプロデューサーの口から出た言葉はただ一言、「笑顔」だった。しかし凛には彼の前で笑った覚えがない。
 「今はまだ」と呟く彼の言葉が本当に字面そのままに、凛が作るであろう笑顔を想像した上での発言だったのか、あるいは「今はまだ(自分の前では笑顔を作っていない)」という意味で以前にどこか、それこそ冒頭のライブ会場で見かけた時や交番を出る時にかすかな笑顔を子供に向けていた時のことを指しているのか、今の段階では判然としない。だがいずれにしてもこれまでの彼の言動を思い返せばわかるとおり、今回の彼の言葉もまた偽らざる彼の本心なのだろう。
 しかしそれはあくまでプロデューサーにとっての話であって、凛にしてみれば適当なことを言っているように見えるのも仕方のないところ。またもはっきり語らないプロデューサーを前に苛立ちを覚えたのか、凛は席を立ってしまう。
 慌てて引き留めようと立ち上がったプロデューサーがテーブルにぶつかってしまうあたりは彼の不器用な面の発露と言うだけでなく、やっと話ができた凛を彼なりに説得しなければという焦燥感が窺え、表情の変化に乏しい彼の感情が前面に押し出されている場面とも言える。
 凛を引き留めたプロデューサーは、「今、あなたは楽しいですか?」と凛に問いかける。今の凛が夢中になれるもの、心を動かされる何かを持っているのかと。

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 直後に凛が返した通り、この問いもこれに対する答えもプロデューサーには全く関係ないことであるし、もちろん凛が答える義理もない。プロデューサーはあくまでアイドルのスカウトに来ているだけの立場でしかないのだから、本来このような相手の考え方や人生観にまで口を挟むのは勇み足に過ぎる行為である。
 彼にしてみればライブ会場で初めて見かけた時か、町で子供相手に騒動が起きた際に見かけた時かはわからないが、どこかで彼女の姿を目に留めた際の正直な所懐であることは間違いないだろうし、彼なりに凛を気にかけた上での真面目な発言であったのだろうが、それまで見も知らぬ人間がいきなり利いた風なことを言い出せば、訝しむのは当然であろう。それは凛も例外ではなかった。
 そういう意味ではプロデューサーのこの発言は、今の段階では悪手であり、プロデューサーとしてはまだ未熟な面が露呈されたとも言えるだろう。尤も彼の言葉がある程度図星をついていたという点も、直後にインサートされる学校での部活動風景を1人遠くから見やったり、雑誌や広告など巷に溢れるアイドルの姿に目を向けてしまう凛の姿から浮かび上がってくる。
 言葉だけでは解くことのできなかった凛の頑なな心を解放するもの、それは…。

 そんなことなど露知らずレッスンに励む卯月。その日もやってきたプロデューサーを前にレッスンの成果を披露し、プロデューサーも感嘆の言葉を漏らす。
 しかしそんな彼からの指示はいつものようにレッスンのみで、さすがに卯月もガッカリしてしまうが、次の瞬間にはすぐ思い直し改めてレッスンに臨もうとする。そんな彼女のひたすらがんばる姿、そしてその傍らに置かれた開かれたままの芸能雑誌に、プロデューサーも思うところがあったようで、首筋に手を当てた後、レッスンするだけの状況になってしまっていることを謝罪する。
 どうやらこの「首筋に左手を当てる」という癖は、自分だけの力ではどうにもならない事態を前に困ってしまった時に取る仕草のようだ。そう考えると以前に卯月の前で同じ仕草をしたのも、現状を打開できず卯月にレッスンだけをやらせている状態を憂いたからなのだろう。
 そして彼はまた前述の通り、基本的には正直に物を話す人間である。だからこの謝罪もまた彼の誠実さ、潔さからの発露によるものだと素直に受け止めることができるし、もちろん卯月にもそれは十分わかっていた。
 プロデューサーは残り2人のうち1人とは交渉中である旨を卯月に伝える。今からまたその相手に会いに行くという彼の話を聞いた卯月は、自分も一緒に行っていいかと願い出る。

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 2人で一緒に向かった先は、卯月には覚えのある花屋だった。あの時の花屋の少女が交渉の相手であることを知り、驚く卯月。
 ちょうど飼い犬の散歩に行こうとしていた凛を加え、3人は近くの公園へと向かう。プロデューサーは1人離れたベンチに座り、2人きりで話をする卯月と凛だが、名前を尋ねた卯月に答えた「ハナコ」という飼い犬の名前を凛の名前と勘違いしてしまうあたり、まだまだお互いのやり取りはぎこちない。しかし卯月のその悪意のない勘違いは逆に凛の警戒心を解いてくれたようで、凛も初めて和らいだ笑顔を見せる。

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 互いに名前を教え合う2人だったが、アイドルを一緒にがんばろうと呼びかける卯月の言葉に、不思議そうな表情を浮かべる凛。卯月は凛がアイドルになる気はないということを知らず、またも勘違いしてしまっていたのだった。無論プロデューサーの「交渉中」という言葉を聞いただけでそこまで理解するのは難しいわけで、この場合の勘違いもまたやむを得ないところではあるのだが、これは同時にプロデューサーと卯月の間で十分な意思の疎通が図れていなかった証でもあり、2人の「アイドルとプロデューサー」としての関係もまだ始まったばかりということなのだろう。
 同じベンチに腰掛けるものの会話の糸口も見つからず、しばし無言の時間が続く2人。ややあって凛が卯月にプロデューサーのことを尋ねる。断っているにもかかわらず毎日やってきてはスカウトを続け、挙句に不審者に間違われてしまうような人間を凛が奇異の目で見るのは仕方のないことであるが、卯月もまだ彼とは出会って日も浅いだけに何も言えない。そんな話をしている最中にも犬に吠えられ子供には怪しまれたりと散々な扱われ方をされているプロデューサーの姿には、可笑しくも悲しいものがあった。
 さらに続く凛の「スカウトの理由が『笑顔』」という話に、自分も同じことを言われたと少なからずショックを受けてしまう卯月。慌ててフォローに入る凛の優しい心根がよくわかる場面であるが、その中でごく自然に卯月の笑顔を褒めている点が興味深い。
 先ほど出会ってからも基本的には笑顔の卯月だけに言葉自体の違和感はないが、果たして今日初めて「島村卯月」と認識したばかりの少女の笑顔にそこまでの印象を抱くことができるものだろうか。もしかしたら単なる客として出会ったあの時から笑顔だけは印象に残っていたのではないか、それを今日「卯月の笑顔」という形で重ねあわせることでより強い印象を抱くに至ったのではないか。2人の最初の出会いにはそういう意味があったようにも思えるのである。
 凛のフォローもあってかすぐいつもの笑顔に戻り、選んだ理由はどうあれプロデューサーは自分の夢を叶えてくれる人かもしれないからと語る卯月。そんな彼女の「夢」という言葉に引っかかりを覚えた凛は、卯月にアイドルを目指す理由を聞いてきた。
 改まって聞かれたその問いに卯月は少し戸惑いながら、きれいな衣装を着られてステージに立てて…とたどたどしく答えるものの、結局のところ彼女もどんなことがアイドルのやる仕事なのか分かってはいなかった。それでもアイドルになることは夢だったと話す卯月。
 スクールに入ってレッスンを受けながら、キラキラした何かになれる日がきっと自分にも来るとずっと思い続けてきた中で、プロデューサーが声をかけてくれた、自分を見つけてくれたから、きっとこれから夢を叶えることができる、それがとても嬉しいと卯月は破顔一笑する。
 自分が憧れて胸に抱いてきたその夢を叶えるためにずっとがんばってきたし、これからもがんばっていける。今の彼女にとってはそれで十分であり、それが何より嬉しいことだったのだ。
 一見すれば理屈も何もない極めて曖昧なものに感じられてしまうが、少なくとも卯月の心の中でそれははっきりしたものとして確立されている。彼女が話をしている時に挿入される公園内の花々のカットは、そんな彼女の内面を示すメタファーでもあるのだろう。様々な花が湛える鮮やかな色は夢に対する彼女の確固たる想い、桜の花びらが舞い散る様は夢に向かって歩んでいける彼女の喜びそのものと言える。
 そしてそのメタファーは視聴者である我々以上に、凛に対して向けられたものでもあった。花屋の娘である凛は元々花の良さや魅力を理解している少女である。そうでなければ花言葉を引き合いに出して卯月にアネモネを薦めることなどできるはずもないのだから。
 そんな凛が咲き誇る花々と卯月の内面とを次第に重ね合わせていき、最後に桜の花びらを手に取った卯月が笑顔を見せた時、凛の中で花々の持つ魅力と卯月の内面とが合致したに違いない。その瞬間、凛の心が大きく揺さぶられたであろうことは彼女の表情、そしてそこに差し込んだ陽光が雄弁に物語っていた。

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 思わず凛がリードを手放したと同時にハナコが走り出してしまう。ハナコが走り寄ったのはいつの間にか近くにきていたプロデューサーだった。少しためらいながらも、夢中になれる何かを探しているなら踏み込んでみないかと問いかけるプロデューサー。そこにはきっと今までとは別の世界が広がっているという彼の言葉を、凛は初めて素直に受け止める。
 その夜、自室のベッドに寝転がりながら考えにふける凛。エンディング曲「メッセージ」がバックに流れる中、彼女の視界に入ったのは机の上に置かれた一輪挿しのアネモネだった。その「花」が彼女に取って如何様な存在か、「Living in a dream I'm feeling the light of fantasy」のフレーズも踏まえれば、改めて語る必要はないだろう。彼女の心の中に芽生えた「もの」に触れるかのように、胸に手を当てる凛。
 凛はカフェで待つ卯月とプロデューサーの前にやってきた。決意を固めた凛の姿に喜ぶ卯月。そんな彼女に穏やかに微笑む一方で、まだプロデューサーに対しては冷ややかな目線を送りながら、「アンタが私のプロデューサー?」とぶっきらぼうに問いただす凛。
 ゲームをプレイしていればわかるとおり、このセリフは凛のNカードで使用されているセリフであると同時に、ライブイベント等で引用される機会も多々あるため、長年のファンにとっては感慨深いセリフだったのではないだろうか。Nカードでのセリフも状況的にはスカウト直後の時期に相当していることを考えると、このセリフの本作中での使用タイミングも実に絶妙であったと言えるだろう。

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 2人の時間が動き出した一方で3人目となるべきアイドルの時間もまた、卯月や凛が知らないところで動き出す。
 再選考オーディションに参加していたその少女――本田未央は、冒頭のライブに観客として参加し、他の2人と運命的な出会いを果たしていた最後の1人でもあった。

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 今話を振り返る上で改めて思い出さなければならないのは、今話というかこの「アニメ版アイドルマスター シンデレラガールズ」それ自体は、「アニメ版アイドルマスター」の正当な続編として作られているとの明言はされていないという点である。
 後で少し触れるが本作の劇中世界には765アイドルも876アイドルも存在し、さらにはアニメオリジナルのアイドルである新幹少女まで存在している世界なのだから、実質的な続編と捉えてもいいのかもしれないが、今のところはっきりと続編という形で制作している旨の言質は取られていない、はずである(あるいは筆者が知らないだけかもしれないのだが)。
 なぜそのようなことを書いたかと言うと、少なくとも制作陣が今話で描こうとしているものは、かつてのアニマスで描いてきたことと共通しているからなのだ。
 アニマスの1話とは真逆の構成や圧倒的な個性を放つ本作のプロデューサーの存在に惑わされがちだが、今話の流れ自体は2人の少女がアイドルになるための第一歩を踏み出すまでを描くという極めてオーソドックスなものであり、ドラマとしては以前からアイドルを目指していた卯月ではなく、アイドルに興味を持っていなかった凛の方に焦点を置いた構成となっている。
 そしてこれが重要な点であるが、凛は終盤に卯月と会話するまで、プロデューサーの言葉をほとんど真に受けていない。今楽しいかという問いにまったく思うところがなかったわけではないだろうが、それでも心を動かされるには至っていないのである。
 ではそんな彼女の心を動かしたのは何かと言えば、上述したとおり卯月の存在である。純粋に夢や憧れ、未来への希望を語る卯月は、殊更に凛を説得しようとしていたわけではないし、凛も何らかの理屈に「納得」したわけではない。正直に語った卯月の想い、そこに凛が「共感」したから彼女の心は動き出したのだし、そこに至ってようやくプロデューサーの言葉を正面から受け止める気になったのだ。
 卯月とプロデューサーのやりとりからもわかるとおり、すべてのアイマス作品の根底にある「アイドルとプロデューサー」の関係性を描くことももちろん念頭にあるのは疑いないが、今話に限って言えば、今話の中で最も強く打ち出している関係性は卯月と凛という2人の少女のものである。すなわち今話で描こうとしていたものは「アイドルを目指す少女たちの物語」だった。
 それがかつてのアニマス本編でも劇場版においても一貫して貫かれてきた大きなテーゼであったことは、アニマスを見てきた方であれば容易に理解できると思われる。と同時に同じテーゼを扱っているからと言って、今話がアニマスの単なる模倣やマンネリに堕しているわけでは断じてないというのも無論のことであろう。
 ただこの所感はあくまでこの第1話だけを見た上でのものである。次回以降、少女たちの姿を通してどのようなものが描かれていくのか、非常に楽しみなところである。

 そしてそう言った小難しい理屈をさておくとしても、本作には楽しい要素が満載である。先ほど少しふれた765アイドルや876アイドルなどを始め、様々なアイドルの姿を近作では画面の端々で見ることができるのだ。
 卯月と凛が講演で話をしている時、ビルの広告に映し出された上田鈴帆の姿に思わず吹き出してしまった人も多いのではなかろうか。
 それ以外にも男性ユニットのジュピターにデレマスオリジナルアイドルの大槻唯、二宮飛鳥に上条春菜などなど、様々なアイドルが色々な場面で登場している。それらについては既に他のブログなどで詳しく紹介されているので、そちらの方をご一読していただきたい。
 デレマスのアイドルはまだ全体の5分の1程度にしか担当声優がついていないため、本作中でセリフまでもらえるかどうかはわからないが、こちらの方も今後の展開が楽しみな要素と言えるだろう。

 さて次回。

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 アイドルへの道を歩み出した3人の前には何が待ち構えているのか。セリフがあると目されるベテラントレーナーの扱いも含め、次の展開にも大いに期待したい。

2015年01月12日

劇場アニメ版アイドルマスター 輝きの向こう側へ! 感想(後半)

(こちらは感想の後半部分です。感想前半は→こちらから

 その不安は程なく現実のものとなる。765アイドルのミニライブ(会場のモデルはアニメ本放送時に声優陣のハイタッチ会を行った池袋サンシャインシティの噴水広場と思われる)に参加したダンサー組はことごとく精彩を欠き、更には可奈が転倒という大失態を演じてしまう。

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 早速あることないこと書き立てるゴシップ雑誌を読みつつ嘆息するプロデューサー。勿論アイドルたちが今更このような記事に惑わされるはずもなく、合宿後は以前と同じようにそれぞれ仕事をこなしている。その現状に安心するプロデューサーだが、小鳥さんはふと視線を落とす。事務所の窓から雨の降りしきる外を眺めつつ、プロデューサーがいなくなる寂しさを紛らすため、彼に心配をかけないために自分たちだけでがんばっているのだろうと語る小鳥さん。プロデューサーや律子よりもさらに一歩引いた位置からずっとアイドルたちを見守っている立場の小鳥さんらしいフォローと言えるが、それに対し自分は幸せ者と返すプロデューサーもまた、アイドルたちのそのような気持ちに気づいていたのだろう。
 あくまで彼女たちのやり方や考え方を尊重するという彼のプロデュース方針は本作でも特に変わっていないが、その上でアイドルたちがプロデューサーのことを想って自発的に行動してくれている、それが嬉しかった故の発言であるのは間違いない。互いを想い互いのために行動する、本編から受け継がれてきたアイドルとプロデューサーの関係性は、こんなところでも確かに息づいているのである。
 本編と言えば素直に寂しいという本音を告げたそのすぐ後に笑顔でプロデューサーを応援する小鳥さんからは、本編の12話や18話、21話で見せた大人の女性らしい余裕と心配りが見られて非常に素晴らしい。つい先日腐った妄想をしていた人と同一人物とは思えないくらいの大人ぶりだが、そういう色んな面を内包していることが小鳥さんの魅力であるという事実に反論する向きはいないだろう。

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 夜、駅前を通りがかった春香が見上げるのは、アリーナライブの巨大な宣伝ポスター。照明で明るく照らされたそのポスターは、ライブの名称「輝きの向こう側へ!」を象徴しているかのように光り輝いていた。
 春香はそのままいつも利用しているレッスンスタジオに入る。先に来ていた皆の姿を見て思わず微笑む春香。この光景そのものが彼女らがアイドルとしても765プロの仲間としても成長した何よりの証であるということは、本編を視聴した人に取っては周知の事実であろう。

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 ダンスコーチも本編と変わらず皆を指導していたり、11話で春香の歌唱について厳しく指導していたボイストレーナーが今回リーダーとなった春香の成長ぶりを喜んでいるのも、本編視聴済みの人に取っては嬉しいシーンであったと思われる。彼女ら2人も間違いなく本編の物語構築に貢献した存在なのだ。
 765アイドルに取っては当たり前の、そして幸せな時間が流れる中、そこに影を落とすかのようなメールが真の元に届く。美奈子からのそのメールには、ダンサー組で問題が発生しており、レッスンもあまり進んでいない旨が記されていた。詳細は不明であるものの事態の深刻さを憂慮したプロデューサーは、ダンサー組を事務所に呼んで話を聞くことにする。

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 事務所へやってきた奈緒と美奈子が話すには、先日のミニライブの件でダンサー組の中が気まずくなり、もう一度改めてやり直すことにはしたものの、今度はレッスンの方までうまく行かなくなってしまった上、例のゴシップ雑誌に自分たちも掲載され、今までは考えられなかったその事態に怖くなってしまったのだと言うことだった。今もダンスが上手くいかないのは自分のせいという杏奈に出来るまでやればいいときつく返す志保、その言い方に思わず百合子が気色ばむといった感じで、内部のギスギス状態は続いたままのようである。
 雪歩や伊織たちがとりなす中、春香は可奈が事務所に来ていないことに気づく。奈緒や星梨花から可奈が最近姿を見せず、メールでも連絡がつかないことを聞かされ、さすがに春香始め765アイドルも不安の色を隠せない。
 暗い雰囲気を吹き飛ばすように努めて明るく声を出したプロデューサーは、ライブが終わるまでダンサー組を765プロで預かることを提案する。突然の提案にダンサー組も765アイドルも驚くが、全員揃って意思疎通が出来た方がいいとさらに進言するプロデューサー。それはどんな場合でも協力し合って1つの目標に向かっていく765プロのいつものやり方をそのまま当てはめたわけであり、ライブは全員で作り上げるものと考えるプロデューサーが出来うる最良の判断であったと言えるだろう。だから最終的には律子も765アイドルもその考えに賛同したわけだが、その「765プロのやり方」を知らないダンサー組は拒絶こそしないものの戸惑いの表情を浮かべたままだ。
 そして不安げな表情を作っていた者は765アイドルにも1人いた。春香である。彼女はミニライブの直後、楽屋でダンサー組が揉めていたこと、とりわけ大きな失敗をしてしまった可奈が志保から名指しで批判されていたこと、間が悪かったためにその場に入って仲裁できなかったこと、可奈が自分の失敗をかなり重く受け止めていたこと、これらに気づいていたのだった。
 気づいていながら何も出来なかった自分を悔いる春香。プロデューサーはそんな春香を明るくとりなすがそれでも表情は晴れない。普段の春香なら何か問題が起きているであろう仲間を放っておくはずはない…、と書きたいところだが、今回は春香自身に特段の変化は起きていない。にもかかわらず春香がダンサー組の問題に介入してこなかった、その理由が今後の展開における重要な肝となっていく。

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 ここで一つ確認しておくと、楽屋でのダンサー組の間に春香が入れなかったのは、そうしようとした矢先にあずささんが楽屋に現れたためにタイミングを逸してしまったからであるのだが、ここでのあずささんがダンサー組のやり取りに気がついていたのか、あるいは聞こえていたのかについては、聞こえておらず気づいてもいなかったと考える。
 楽屋内のダンサー組にあずささんが声をかけた時に彼女は移動しつつ姿を見せていた。つまり普通に歩いてきて春香が口を挟もうとした寸前にようやく楽屋の入り口に現れたわけで、その時点ではダンサー組は会話をしていなかったのだから、その直前のダンサー組のやり取りなど聞こえるはずはなく、現れた時の楽屋内の雰囲気にしたところで、暗い雰囲気は感じたかもしれないがそれを以ってすぐさまメンバー間の問題に思い至ることなど、神ならぬ身で出来るわけはないのだ。
 この時点であずささんまでがダンサー組の問題に気づくのは不可能であったというのが、最も腑に落ちる解釈であろう。

 かくしてダンサー組は765アイドルと合同でレッスンを行うこととなった。ダンスの得意な響が奈緒や美奈子に指導を行い、振付を覚えるのが苦手だったというあずささんが同じく振付を覚えられない百合子に丁寧にアドバイスをするというのはまさに適材適所と言ったところだが、あずささんと百合子という組み合わせは前述したが合宿2日目、美希のダンスを見て実力の違いに落ち込んでしまった百合子に良いタイミングであずささんが水を差し入れたという事実を踏まえると、その時から多少なりとも百合子を気にかけていたという解釈も成り立つだろう。  指導する765アイドルがいる一方で、真と伊織は話し合いが白熱しすぎて口論を起こしてしまった。仲裁に入ろうとした雪歩を名言(迷言?)の「雪歩は黙ってて!」で封じてしまうのは本編でも見られたお約束のシーンであるが、その様子を見ていた星梨花と杏奈は、激しいやり取りではあるもののこれはケンカとは違うとの想いを抱く。確かに端から見ると伊織からは「真は日和ってるだけ」などという言葉も飛び出しており、単なる悪口の応酬に思えなくもないが、これは真の出した意見の根っこにある考え方についての非難であって、決して真の性格や人格を否定しているわけではないという点は注視しなければならない。
 意見をぶつけ合うのは決して悪いことではなく、むしろ今後の発展・進化のためには必要不可欠なものである。単なる言葉のぶつけ合いと意見の衝突とは異なるものだということを星梨花たちに感覚的ではあるが諭しているという点で、2人のやり取りもダンサー組への「指導」になっているところは構成上の妙と言うべきであろう。
 そんな中、春香は可奈との連絡が未だつかないことを案じていた。ダンサー組も可奈の現状はわからずこのまま止めてしまうのではと不安がり、志保は止めるのならそれも仕方がないと冷たく突き放す。そんな彼女たちを取り成す春香の言葉にも説得力は乏しく誰も同意はしない。しかしそれは誰より春香自身がわかっていることだった。
 解決しない悩みを胸に考え込みながらテレビ局の廊下を歩く春香は、向こうから歩いてきた人物と廊下の角でぶつかってしまう。平謝りする春香に声をかけたその主は、ジュピターの天ヶ瀬冬馬だった。仕事なのかメンバーの伊集院北斗に御手洗翔太も一緒である。

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 24話と同様、ぶつかった相手に一方的に文句を言ってこないところに冬馬の成長が窺えるが、春香もその24話でジュピターのライブに誘われた件についてのお礼を述べる。本編では春香が行ったのかどうかは結局最後まで不明なままだったが、春香のこの言葉を聞く限り、一応ライブは見に行ったようだ。
 3人は765アイドルのアリーナライブの件に触れ、翔太や北斗はライバルに先を越されたことを残念がるも、冬馬はすぐに追い抜いてやると負けず嫌いの性格を発揮する。その後の回りくどいチケット譲渡のお願いも含めて、メインのストーリーそのものには影響していないものの、すっかり和解した765側とジュピター、そしてジュピター3人のやり取りは見ていて微笑ましい。
 この一連のシークエンスは製作側としてはファンサービスの一環に過ぎないのであろうが、少々深読みしてみるとここはここでそれなりの意味を持っているように思われる。すなわちジュピターの面々、特に冬馬が影響を受けた765アイドルの仲間同士で協力し合って前に進んでいくというやり方が、それを最も強く体現している存在である春香と実際に影響を受けた3人とを邂逅させ会話させることで、決して間違ってはいなかったと作品の世界観的に証明していると取ることが出来るのだ。春香は今までどおりのやり方で行けばいい、その成果とも実績とも言える結果は目の前の3人とのやり取り、それ自体が何より雄弁に物語っているのだからと、作品世界そのものが春香を後押ししているように考えられるのである。
 さすがに捻り過ぎた見方であるとは筆者自身も思うし、とても一般的な解釈と言える代物ではないが、前述のジュピターと春香のやり取り、そして同じ場面で廊下に貼られた876プロアイドルや本編オリジナルアイドルである新幹少女のポスターが映される描写を考えると、ある程度の妥当性は担保出来るようにも思える。765アイドルは言うに及ばず、876アイドルにも新幹少女にも、そしてジュピターにも出来ていることが出来ていない娘たちがいる。それが彼女らと765アイドルたちとの決定的な差であることをこの場で暗に示してもいるのではないだろうか。

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 悪天候が続く中、スタジオでレッスンに励むアイドルたち。努力の甲斐あってダンサー組も以前より技量は向上してきたものの、まだ全体としてのバランスには欠けているという状態だった。春香たちは別室に集まって善後策を協議する。
 この中に最年少の亜美も参加して「先輩」としての役割を果たしているのは、かつて春香たち9人に先んじて竜宮小町として活動していたという実績が考慮された人選となっていて個人的に嬉しいところであるが、少なくともこの協議の中では全員が対等に意見を述べているのも、ダンサー組とのわかりやすい対比として成立している。
 今のままの振付では厳しいと話す響に対し、後は気持ちの問題と返す真。しかしダンサー組に取ってはその「気持ち」、メンタル面こそが何より大きな問題であることは、春香たちも理解しているところであった。伊織や貴音の進言もあり、春香は今後の方針についてダンサー組と話し合いの場を設けることにする。

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 今の振付のままで進めることを希望するかどうかをダンサー組に問う春香。志保と奈緒に美奈子、そして杏奈や星梨花の様子に躊躇いながらも百合子が挙手をする。春香はそれを踏まえた上で、全員で振りを揃えるのが難しい今の状況を考えると、振付を変えた方がいいのではないかと提案した。最初こそ残念がるもののすぐに気持ちを切り替えた765アイドルだったが、奈緒は美奈子の制止を抑えて立ち上がり、今のままで行きたいと訴える。
 奈緒からすればただでさえ自分たちのせいで先輩である765アイドルに迷惑をかけているのに、これ以上の迷惑をかけるわけにはいかないという想いと、不十分ではあるものの自分たちがこれまで積み上げてきたものをリセットすることを忌避する想いとが交錯した末の発言であったことは想像に難くない。しかしそれは同時に先述の多数決の結果があるとはいえダンサー組の実情を考慮していない、とりわけダンサー組内での年長者としてはいささか無思慮な発言でもあった。
 未だレッスンに姿を見せない可奈の名を口にする春香に杏奈が視線を落とす中、奈緒だけでなく美奈子も加わって食い下がる。それでも可奈も含めた上でこれからのことを取り決めたいと伝える春香に、口を挟んだのは志保だった。今はそんなことを言っている場合ではない、今の自分たちにできるだけのことをステージで出し切りたいと。
 つまりは可奈のことを考慮する必要はないと言っているわけだが、可奈が姿を見せず連絡もつかない、さらに他の6人が徐々に力をつけてきている現状を考えれば、志保がそう考えるのは無理からぬところであろうし、間違った考えでもない。春香もそれを理解したためか二の句が告げなくなってしまう。他の765アイドルも押し黙る中、美希だけが春香に横目で視線を向けるのは、彼女が次にどう動くかを見定めようとしたためだろうか。
 気まずい沈黙にあっておずおずと声を挙げたのは杏奈だった。実は杏奈は可奈からのメールを受け取っていたのである。あまりに突然のことだったため、レッスン終了後に春香に相談するつもりだったというそのメールには、アイドルをあきらめるという旨の内容が書かれていた。さらに杏奈はもういらないからとスクールのロッカーに置かれていたというあるものを差し出す。それは合宿の時、春香が自分のサインを書いてあげた可奈のマスコット人形だった。

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 憧れのアイドルである春香に直接サインを書いてもらったマスコットは、可奈に取っては春香への憧れ、自分自身がアイドルになりたいという願いと言った様々な想いを象徴するものであったはずであり、それを無造作に手放すという行為に765アイドルたちも複雑な感情を抱く。直後の響の「あんまりだぞ」という言葉が、皆の感情をそのまま代弁していたと言ってもいいだろう。
 しかし春香だけはそんな可奈の態度になお疑念を持つ。メールの内容にしろマスコットを手放すことにしろ、わずかな時間ではあるが自分の見てきた可奈が取るような行為にはとても思えなかったのだ。メール本文に書かれていた言葉が「止める」ではなく「あきらめる」と、若干異なるニュアンスの言葉が使われていたことにも違和感を覚えたのかもしれない。
 だがそれは所詮春香の直感のようなものでしかなかった。現状可奈が勝手な理由で身を引いたことは事実であり、彼女を待つ必要はない、気にかける理由はないと志保が言うのも当然のことで、むしろさしたる根拠を挙げられぬまま、もう少し待って欲しいと懇願する春香の方が、理屈の上での正当性を持ち得ていなかったと言わざるを得ないだろう。春香の煮え切らない態度に志保も「今進める人だけでも前に進まないとみんなダメになる」と声を荒げるも、可奈の気持ちを確かめてから結論を出すべきと、それだけは春香も譲らない。
 ある意味ではこのやり取りは以前の真と伊織のやり取りにも通じる、異なる意見の衝突と言えるだろう。先程の奈緒や美奈子の反論も含め、ダンサー組もようやく意見のやり取りが出来るほどには変わってきたという点で、間違いなく彼女らの「成長」と位置づけていい面ではある。だがそれが先輩的立場の765アイドルにのみ向けられ、自分たちダンサー組の中で未だ行われてきていないのは未熟の証左であるし、結果として志保の口から何故春香がリーダーなのかと、意見の衝突を越えた相手の人格そのものの誹謗とも取れる言葉が出てしまう。

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 明後日の方向に向き始めた議論を制止したのは伊織だった。気持ちはわかると志保の意見を尊重する一方で行き過ぎた言を諌める伊織の態度は、竜宮小町のリーダー的立場として他の2人を引っ張ってきたという実績を抜きにしても、過分に大人びて見える。本編の7話や10話で長介ややよいを諭したり叱咤激励した時の態度を考えると、そこまで不自然なキャラシフトではないのだが、ここは合宿の頃から志保に対して抱いていた、かつての自分と同じような危うさを気にかけていたからこそ率先して出た言葉と解釈したい。
 そして次に出た言葉、春香に向けられた「リーダーとして覚悟を決めろ」という𠮟咤こそ、間違いなく過去の経験・実績を踏まえた上で伊織に託された役割であったろう。チームの中心として皆を引っ張っていく、引っ張っていかなければならない役目の重さは13話、その役割を担いながらもライブ会場に自力で辿り着くことが叶わず悔し涙を流した伊織なら当然理解していることであるし、だから春香にこのような厳しい言葉を投げかけられるのも伊織以外には存在しなかったのだ。

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 そして伊織の言っていることは春香にとっても百も承知であったのは、彼女の言葉に反論せずむしろ同意の返事をしていたことからも明白だろう。
 その場は次の仕事が控えていることもあり、律子やあずささんのとりなしでお開きになるものの、三々五々仕事へ向かうそれぞれの表情は未だ晴れず、春香の心には伊織の言葉が重くのしかかる。
 今回のライブは765アイドルにとって、そしてプロデューサーにとっても特別なライブ。だからこそ成功させるためにもリーダーである春香がはっきり方針を決めなければならない。それを理解していてもなお自分の取るべき行動を決められず、苦悩する春香。
 …と書くと誤解してしまいそうになるが、実は春香の取るべき行動そのものは既に彼女の中では決まっている。言うまでもなくそれは志保たちとのやりとりの中で幾度か口にした「可奈の気持ちを確かめる」ことだ。やるべきこと、やりたいことは明確になっているにもかかわらず、春香は行動に移すことを躊躇っている。それはリーダーという重責を担っている以上、軽挙に出ることはできないという意志も無論働いているのだろうが、それ以上に大きな理由が存在していた。この理由が本作で彼女たち765アイドルに課せられた最も大きなテーマに直結しているのである。
 着替えてトイレに入った春香は美希と鉢合わせする。春香の様子を見て「元気ないね」とだけ声をかける美希に、春香はどうすればいいか尋ねるが、返ってきたのは自分は春香じゃないからわからないとのつれない返事だ。
 この2人だけのやり取りは13話に23話、及び25話で見られた、その時々のお互いの心情を伝え合うというシーンに近しいものを想起させる。それぞれの場合において当該話やその後の展開に影響する重要なやり取りが行われていたわけだが、それは今回も例外ではない。
 春香にしっかりするよう軽く諭した後、美希は自分の内にある悔しさを吐露する。それは春香がプロデューサーに選ばれたリーダーであるという事実に対してだった。

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 彼女にとってはハリウッドデビューが決まり皆が喜んだり褒めてくれることよりも、自分が恋い慕う「ハニー」に選ばれる方が大事であり嬉しいことだったのだ。しかしプロデューサーが現実に選んだのは春香だった。その事実に対する悔しさを打ち明けつつ、自分の頭を少しなでるような仕草を取る美希。彼女がその仕草を取るのには理由があった。
 これまでの本文中では敢えて記述しなかったことだが、合宿にてプロデューサーがハリウッド行きを皆に告げた後、春香と縁側で話している際、ミーティングが始まるからと美希に亜美真美が2人を呼びに来ていた。画面上ではそれだけですぐに3人とも立ち去ったように見えるが、その後若干不自然なタイミングで足音が聞こえる。これはプロデューサーの足音ではなく、その場に残って(立ち去ろうとしたのを少し戻って?)その後の春香とプロデューサーのやり取りを見ていた美希の足音だったと考えることが可能なのである。
 そう解釈した上で見返すと、ハリウッド行きを知った後に部屋で響に話しかけられた美希が少し頭をいじる仕草を見せていた理由も自ずと見えてくるだろう。美希は春香の頭に軽く手を当て、優しく励ますプロデューサーの姿を見ていたのだ。もちろんプロデューサーは恋愛感情的な面で春香を選んだり特別扱いをしたというわけでは決してない。しかし恐らく765アイドルの中では一番プロデューサー個人のためにがんばりたい、喜んでもらいたいという気持ちを強く抱いているはずの美希にとって、その彼が自分以外の娘をリーダーに選んだこと、自分以外の娘に迷いを断ち切るような励ましをしていたことは、彼女にとって悔しさを覚えるような事実だった。響に話しかけられた時の寂しげな表情はプロデューサーがいなくなることに対してだけではなく、その彼がこの局面に至っても自分を選んでくれなかったことへの悔しさも含まれていたのであろう。
 だが彼女はそれに対する所懐を口にはしなかった。それは悔しさを覚えると同時に彼の取った行為が間違っていない=春香をリーダーに選んだという事実に、彼女自身も心から納得していたからだ。その素直な気持ちを春香に告げた美希は、自分がやれることをやると話して立ち去る。
 美希の言葉に一瞬顔をほころばせた春香だったが、鏡に映った彼女の顔はすぐに曇る。春香は春香でこのような事態に陥っても迷うことなく「自分のやれることをやる」と言い切れる美希の強さ、ぶれなさと、ずっと迷い続ける自分との落差を意識していたのかもしれない。まして美希のその考え方は、件のプロデューサーとのやり取りの中で彼が口にした考えにも通じているのだ。23話の時とは似て非なる無力感を春香が覚えたであろうことは想像に難くない。

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 だが思い悩んでいるのは春香だけではなかった。プロデューサーは律子にハリウッド行きを延期したいと申し出る。それは強引にダンサー組を受け入れたためにかえって混乱させてしまった、その収拾がつくまではという想いからだった。
 元より彼も完璧な人間ではないが、プロデューサーがアイドルを支える立場であることをよく理解しているからこそ、彼はアイドルの前では努めて明るくふるまってきた。もちろん嘘をついているわけではなく、そちらはそちらで彼の本心であることは言うまでもないが、同時に彼もまた1人の人間である以上、まったく不安を抱かないわけにはいかず、そういう意味では彼の人間臭さがここで描写されていると言えなくもない。
 そして己の弱い部分を自分が支えるべきアイドルに見せることはできない以上、彼の悩みを聞くのは彼の同僚たる律子が適任ということになるわけである。
 その律子はプロデューサーの提案を否定する。プロデューサーであるが同時にアイドルでもある律子は、765アイドルに「ライブを成功させてプロデューサーに安心してハリウッドへ行ってもらいたい」という想いがあることをもちろん理解していた。だからこそ皆はプロデューサーに頼らず自分たちだけで問題を解決しようとがんばっている。そこにプロデューサーが介入しては彼女らががんばる意味の一つが失われてしまうこともわかっているから、だから律子は否定するのだ。
 しかしそんな律子の胸中にも不安がないわけではない。その律子の不安定な気持ちは言葉ではなく律子の表情を含めたワンショットで描写される。キャラクターの位置を中央から少しずらした上でキャラよりも周囲の背景の情報を一画面の中に押し出すことで、その画面内におけるキャラの立ち位置の不安定さが際立ち、そこから派生する形でそのキャラの持つ不安感も強調する効果が生まれるのである(これはこの一連のシークエンスの最後に映し出されるプロデューサーのカットも同様だ)。

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 話の流れから言っても、ここでプロデューサーの弱音を聞く立場の律子が自分自身の弱音を打ち明けるわけにはいかず、実際に口ではプロデューサーとしてがんばるという決意を語るだけだが、彼女も内心ではやはり不安を抱いているということを鑑賞者に理解させるという意味で、絶妙なカットであったと言える。
 そんな律子の不安感に彼女自身がとりあえずの踏ん切りをつける意味で行ったのが、所謂「てい!」であったのだろう。その直後に合宿で他のアイドルたちと一緒に踊らせてくれたことへの感謝を告げたことからもそれは窺える。プロデューサーがアイドルたちに行ってきたのと同じことを、律子はプロデューサーに対して行ったわけだ。本編18話でも見られた同僚プロデューサーとして近しい立場の2人ならではの好シーンであった。

 夜、春香と千早は喫茶店でひと時休息を取っていたが、その間にも春香は可奈からの返事が来ていないか携帯電話をチェックする。
 春香は可奈が杏奈に送ったメールの内容がずっと引っかかっていた。アイドルに強く憧れていた可奈が、アイドルへの夢をそんな簡単にあきらめられるものなのかと。先述したが可奈のメールは今回のライブが無理だからライブ参加を「止める」という旨の内容ではなく、アイドルそのものを「あきらめる」と書かれており、この二種の言葉は似ているようで全く違う意味合いを持っている。アイドルに憧れる可奈の気持ちを本人から直接、そして恐らく唯一聞いた人間である春香だからこそ、その違いに疑念を持ったのであろう。
 だがそんな見方が危険であることも春香は承知していた。春香は自分自身のアイドルに対する思い入れを、良くないことと理解しながらも可奈のそれと混同させてしまっていたのである。それもまた春香が自分の行動に極端なまでの自制を強いていた一因なのだろう。
 そして彼女は初めて、本編を含め本当に初めてストレートに弱音を口にする。それを聞く相手が千早というのは23話単体でのやり取りを想起するまでもなく、本編中での2人の強い繋がりを考えれば十分得心の行くところであるが、23話と若干状況が異なるのは、春香の中におけるプロデューサーの立ち位置にある。23話で春香がほんのわずか千早に甘えながらも本心を吐露しなかったのは、本当にどうしようもなくなった時にはプロデューサーに相談すればいいという考えがその時点ではあったからであろうことは想像に難くない。しかし今回はそのプロデューサーには相談できない、無理をすればできないことはないのだろうが、春香の性格を考えれば今回の件はプロデューサーには絶対に相談してはならないことなのだ。それは弱音を吐いたその一番最後に、ハリウッドへ行ってしまうプロデューサーへの思いを吐露した点からも容易に理解できよう。
 その意味では今回も春香はここまで直接的に弱音を吐くつもりはなかったのかもしれない。最初こそどうすればいいのかと抽象的にぼんやりと語っていたにすぎなかったわけだが、それが話しているうちに次第に志保やプロデューサーといった個人名まで出すほど具体的に不安を述べるようになっていったのは、話を聞いている相手が気心の知れたちはや相手だったからと考えると、色々考えることができそうな気もする。
 正面の窓ガラスに映る自分の不安げな顔を見たからか、すぐにその弱った心を無理やり奮い立たせ、リーダーとして皆をまとめなければと話すのも春香らしいと言えばらしいが、春香がそう望むならと賛同する千早はどこか消極的だ。それは春香がリーダーという枷に縛られることなく、彼女の正しいと思うことを実行してほしいと願っていたからである。
 自分1人の考えのまま行動することが皆の迷惑にならないか不安がる春香に、自分たちはまだ春香の答えを聞いていないのだから、周囲のことは今は考えなくてよいのではとアドバイスする千早。

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 確かに春香は自分の中でしたいこと、やるべきことを見定めてはいるが、それを明確に口にしてはいない。本編終盤の場合は春香の抱えた本心が結果的に他のみんなの求めるものと同一であったから想いは通じあえたものの、そちらにおいてさえも春香は全員に対して本音を打ち明けてはいなかった。
 そう考えると本編の終盤で本心を直接伝えられなかった頃から春香はあまり変わっていないのではと思われる向きもあろうが、直前に千早に本音を吐露していることを見るだけでも、その考えは誤りと断言できるだろう。それでも春香は躊躇ったし、今の千早の言葉も十分な励ましにはなったが、それで本来の春香らしい行動を取れるかどうかは未だ判然とはしない。
 しかしそうなるであろうと予感させる演出として盛り込まれたのが、その後千早が口にする彼女の母親の件だ。千早は今回のライブに別居状態の母親を呼ぼうとしていたのである。それですぐに事態が変わるわけではないが、このままではいけないと思えるようになったからと話す千早の横顔を見つめる春香の表情からは、それを我が事のように喜んでいる様がありありと見て取れる。
 千早は春香やみんなのおかげ、春香は千早が前に進んでいるからと互いに話すが、20、21話を視聴した鑑賞者であればそのどちらもが真実であることは論を持たないであろうし、その際春香の取った行動が良好な結果として今の千早に結びついている=今回も春香が同じように行動すればいいと暗に示されてもいる、それが「予感」であるわけだ。

 場面変わって映し出されるのは可奈の部屋。壁のいたるところに765アイドルや876アイドルのポスターが貼られ、春香単体のポスターも幾枚か貼られている。テーブルに散らばるお菓子、飾られたぬいぐるみなどはいかにも女の子らしいと言いたいところだが、部屋は明かりもつけておらず、可奈自身もベッドに横たわったまま、春香から届いたメールに対しても力なく見つめるだけだ。小さく「春香ちゃん」とだけ呟くその裏にはどのような想いが渦巻いているのだろうか。
 その頃、時間の関係で765アイドルもダンサー組も帰宅するのが困難になってしまったようで、二組に分かれてそれぞれ雪歩と伊織の家に泊まっていた。雪歩の家に泊まるのはやよいと真美に真と貴音、そして百合子、星梨花、杏奈。

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 大勢でのお泊りに先日の合宿を思い出し、あの頃と比べるとダンサー組も見違えるほど上達したと話す5人だが、百合子たち3人の表情は暗い。彼女らも今回皆が揉めている原因は自分たちにあると責任を感じていたのである。
 これまでの描写を見ればわかるとおり、こちらの3人はダンスが苦手であったり体力面で不安があったりと、どちらかと言えば振付の習得により苦戦していた方であり、それを思えば先輩である765アイドルに迷惑をかけてしまっていると自責の念に囚われてしまうのも仕方のないところではあるが、765アイドルの皆は一様にその考えを否定する。自分たちは決して無理などしていないと。
 そして少しおどおどしながら、それでも強い意志をもって「自分たちにいっぱい頼ってほしい」と訴えるのは雪歩だった。

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 かつての雪歩も他のみんなより覚えが悪く思い悩んだ時期があった。それでも自分を見て自分と共に歩んでくれる仲間たちがいたから、自分も皆の想いに応えたい、強くなりたいと思えるようになったから、あきらめずに努力して変わることができた。仲間同士の絆によって育まれるものが確かに存在するとわかっているからこそ彼女たちにもそうなってほしい、どうしたいかだけを考えてほしいと願う雪歩の優しい言葉を、百合子たちは静かに噛みしめる。
 言うまでもなく本編11話での経験を踏まえてのことであるが、合宿の際に話した内容が技術や技量のことに終始していたのに対し、こちらではより精神的、メンタル面における変遷について語っているのが興味深い。それだけ今が事の本質をより深く語らなければならない状態であると共に、雪歩や765アイドルの百合子たちダンサー組に向けた気持ちも、仲間としてより強いものになっているという証左であろう。
 雪歩の言に同じ11話で雪歩と同様に苦戦し、同話だけでなく10話でも伊織や真たち仲間に支えられ、仲間に頼ることの大切さを学んだやよいが笑顔を作るのも印象的だ(真美もだけど)。
 そんな雪歩の想いを「シンプルなこと」と形容するのは、水瀬家にいる伊織だ。同じく家に泊っている美希に響、亜美にあずささん、そして奈緒、美奈子、志保を前に、重要なのは春香がどうしたいか、それだけだと語る伊織。

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 と言われても765の仲間ならいざ知らず、奈緒たちダンサー組には肝心の春香がしたいことが不明瞭なままなので、どう解釈すべきか迷っているようにも見受けられる。奈緒と美奈子が振付を修正するか否かの話題をこのタイミングで口にしたのも、春香が気にかけていることが何なのか掴めていなかったからであろう。
 対する765の5人は伊織を始め決して多くを語らない。今の状況の原因の一端が春香の迷いにあり、それはあずささんの言うように春香が皆の気持ちを理解できるからこそかえって苦悩してしまっている故のものだということもわかっているから、彼女たちもまた今の段階においてなおはっきりとは口にできないのだ。その役割を担うのは彼女たちではなくリーダーたる人物でなければならないのだから。
 そんな中、美希はふと志保の様子を見やり、何故そんなに不安そうなのかと問う。奈緒や美奈子とも未だ打ち解けていないのか、例によって1人きりで座っていた志保だが、そんな彼女の胸中を言い当てる美希の勘の良さはさすがと言うところだろう。
 志保にとってもこれから挑むのは未知の大舞台なのだから不安にならないはずはない。春香に詰め寄ったあの態度も裏を返せばその不安を打ち消したいという意識が多分に影響していたと解釈することも可能だろう。
 そんな志保に春香は必ず答えを持ってくるから大丈夫と落ち着いた様子で話す美希。だがそれだけでは到底安心できるものでもなく、志保にとっては春香の考えは理解し難いままだ。そのような春香の考えを甘々と表現しながらも、美希は「だから春香は美希のライバル」と静かに呟く。

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 これは逆に考えれば美希は春香が今考えていること、やりたいことをきちんと理解しているということになる。理解した上でそれを甘いと断じながらも彼女は否定しない。それは美希の見定めた春香の考えが、24話で自分が気づけた大切なもの――ただ前に進むだけではない、時に歩みを止め後ろを振り返ったとしても、その際にいつでも自分が帰れる場所、自分の心を支えてくれる拠り所が必要なのだという価値観に準じていることを認識していたからではないか。最初からそれを知り、ずっと胸に抱いて歩き続けてきた春香に対し、自分は春香が憔悴するまでそれに気付けなかった。そして今なお春香は苦悩しながらもその価値観を捨て去ろうとはしない。それは少なくとも美希にはできないことだろう。そう考えた故の言葉ではなかったか。
 さらに言えば、だから自分ではなく春香がリーダーに選ばれたと彼女は感じているのだろうし、それについてもプロデューサーが自分を選んでくれなかったことに対しても、悔しさを覚えながらも納得しているのだろう。
 春香のそんな考え方を大甘としながらも、春香なりに筋を通した答えを見つけてくると話す伊織もまた、美希と同じ想いであったに違いない。

 春香は自室で再び可奈にメールを送っていた。可奈の残したマスコットを手に持ち、返ってくるかどうかもわからない返事を待ちながらもどかしさを覚える春香。
 続く「ちょっとだけなら自惚れてもいいよね」の言葉と共にこの要素もまた本作の大きなテーマに直結するものとなっている。ここまで本作を見ればそれが何であるかは大体わかると思われるが、それについての解説は後ほど行うこととしよう。
 外界の雨音だけが室内に響く中、それを遮るように携帯電話の着信音が鳴り出す。ゆっくりと電話に出る春香。しばらくは無音であったが春香の呼びかけに応えてようやく返ってきたその声は、やはり可奈のものだった。

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 まず長いこと連絡を取らず、皆に迷惑をかけたことを謝る可奈。気にしないでと優しくフォローした春香はアイドルをあきらめる話について問う。可奈はその件を認め、自分のせいで皆の足並みが揃わないのは嫌だからと春香の説得にも応じない。しかし気にしないでと話す可奈のその声は、春香にはどうしても本心からのものには思えなかった。合宿の時に皆で撮った集合写真を見つめながら、春香は更にそれでいいのか、アイドルをあきらめられるのかと問いただす。
 すっぱりあきらめたと返す可奈だったが、どう聞いてもその声には覇気がない。春香もそれを察したか、身勝手なことと前置きした上で可奈が無理をしているのではないかと問いかける。否定しようとした可奈の声にも力はなく、強引に会話を中断して電話を切ろうとする。
 春香の必死の懇願で電話を切ることは思いとどまるも、次に聞こえてきた可奈の声はかすかに震えていた。涙ぐんでいることは間違いないであろうその声で、今後は可奈が春香に疑問を投げかける。何故自分なんかに構うのか、トップアイドルの春香は自分とは違う存在なのにと。
 春香が可奈にとって特別な存在であったことについて、今更説明の必要はないだろう。憧れの春香のようになりたくてアイドルを目指し、憧れの春香といられたから、励ましてもらったから厳しい合宿も乗り切れた。では可奈はそんな春香に対して何をすることができたのか。ミニライブでの失敗を筆頭として、客観的に見れば可奈は春香に迷惑しかかけていない。無論春香自身は決して迷惑などと考えてもいないが、可奈にしてみれば合宿でフォローしてもらった、そしてそれよりずっと前から憧れの存在として様々なものを送ってもらった春香に、お礼や恩返しと言うべきことが何一つできていないのである。
 そして今また自分がずっと連絡を取らなかったことで春香に迷惑をかけている、と可奈は思っている。失敗ばかりの自分のせいで皆に迷惑をかけてしまうからというのは、確かに彼女がアイドルをあきらめる要因であることに間違いはないだろう。しかしそれとは似て非なる要因として、自分がずっと憧れてきた春香個人に迷惑をかけてしまっている、その事実が何より許せなかったのではないか。もしかしたらそちらの方が可奈の内心としてはずっと比重の大きい、重大な問題であったのかもしれない。
 そう考えてみると可奈が頑なに拒絶する理由もわかる。春香が可奈のために連絡を取っていること、可奈を説得しようとしていること、それ自体が可奈にとっては「春香に迷惑をかけている」行為そのものになってしまうのだから。何度も言うが決して春香は迷惑などとは考えていない。しかしそんな春香の胸中にまで想いを巡らすことなど今の可奈には出来ようもなかった。
 このような状態の可奈にもはや春香の言葉は届かない。いや、春香が説得をすればするほど自分との違い、差を痛感させられるばかりであったろう。絞り出すように発した「キラキラしてない、『春香ちゃん』みたいに、なれない…!」という言葉は、そんな彼女の心情を痛切に訴えていた。
 その言葉を春香が聞いた時、ちょうど部屋の窓に映った春香の表情の、目の部分にあった滴が流れ落ちる。それが涙を意図した演出であることは恐らくすぐに理解できると思われるが、果たしてこれは誰の涙を意味していたのか。これについてもさほど難しいことではないだろう。電話に応対している可奈の様子は暗い部屋の中で後ろ姿のみ映し出され、その表情は全くわからない。春香もまたこの窓ガラスに映っているシーン以降ははっきりと映し出されず、どのような表情を浮かべているのか窺い知ることは出来ない。この滴はそんな2人それぞれの感情の発露であったのだ。

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 可奈の悲しみは説明するまでもないが、春香もまた内に悲しみを抱えていた。明らかに無理をしているとわかるのにもかかわらずアイドルをあきらめようとしている可奈、そんな彼女に自分の想いを届けられず、逆に拒絶されてしまう自分の無力さ。かつて20話で千早がすべてを拒絶した際に味わった苦さを、春香はまたも味わうことになってしまったのである。
 可奈は一方的に電話を切り、春香は力なくベッドに座りこんで手に握ったままの可奈のマスコットを見つめる。その表情は先ほども書いたようによく見えない。そんな中で彼女は何を考えたのだろう。
 外の雨は未だ止むことなく、街頭ビジョンに映し出されるワイドショーでは、アリーナライブの宣伝が行われ、ポスターや街頭インタビューが映し出される。その一方で例のゴシップ誌の下卑た車内広告に気色ばむジュピターの3人、自室の善澤記者、事務所の社長と小鳥さん、主のいないデスクを向かいから見つめる律子、止まない雨をそれぞれの場所で見つめるアイドルたち、そしてそんな中を仕事に勤しむプロデューサー…。
 2人の少女の苦悩など全く意に介すことなく、外の世界は動き続ける。声も想いさえもかき消すかのように激しく雨が降りしきる中、短い時間の中で様々なことを考えたであろう春香の心の中には、拠って立つべき最後の言葉が浮かび上がっていた。
 自分のアイドルとしての成長をずっと隣で見守り、支え、共に歩み続けてくれた大切な人から送られたそのメッセージを、自らの意志を確かめるようにはっきりと口にする。
――「今を大切に。」

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 翌日、止まない雨の中をアイドルたちは水しぶきを上げて走りぬける。だが未だ不安げな表情を浮かべるダンサー組に比して765アイドルの顔に不安の色は窺えない。むしろ真や響、亜美真美は笑顔さえ浮かべている。
 その理由は千早とプロデューサーの前に姿を見せた春香の、意を決した表情を見れば一目瞭然だった。
 事務所に集合した一同を前に、可奈を迎えに行くと告げる春香。春香は昨晩の可奈と電話で話をしたこと、きっぱりと断られたこと、それでもその時の可奈の声は震え、とても無理をしているように聞こえたこと、だから可奈を迎えに行って確かめると。
 そんな春香に志保が反論する。自分がそう思えなかったというそれだけの理由で、そうであるかどうかもわからないことを確かめる方が他の何よりも大事なのかと問い詰める志保に、春香は言葉少なに、しかし力強く頷く。その言葉にも表情にも迷いのない強い意志を示す春香を前に、志保も何も言えなくなってしまう。

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 そんな春香の決意を後押しする伊織。それがリーダーを担う春香の想いであれば、皆も迷う必要はない。彼女が本当の意味での答えを見つけることを待ち望んでいたのは他ならぬ自分たちなのだから。
 単に可奈を迎えに行くというだけの話ではない。それは春香でなくとも誰かがいずれしなければならなかったことだ。本当に必要な答えとは、それを他のしがらみを抜きにしても、たとえ結果が望ましいものにならなかったとしても、そのやり方が第三者に理解してもらえなかったとしても、自分の信じる想いを最後まで貫きまっすぐに走り続ける、春香の覚悟だったのである。
 恐らくいつも通りであれば春香もここまで時間をかけることはなかったろう。リーダーとしての立ち回り方に拘って自分らしいやり方を見誤った面もあったはずである。しかしもっと大きな問題が春香の前に存在し、そのために春香は最後まで迷い続けた。その最後の迷いを春香は振りきって、ただ可奈1人のために行動することを決意した。それが伊織たち他の765アイドルが待っていた彼女の「答え」だったのだ。
 みんなは小鳥さんにもフォローしてもらいつつ、プロデューサーと共にアリーナへ下見に行った律子からの激励も受けながら、可奈を探して雨の中を奔走する。こちらから可奈に連絡を取っても応答がなく、千早と星梨花が訪ねた自宅にも誰もいない様子。千早から手掛かりを求められた春香も何かないかと思案するが、その時不意に閃くものがあった。合宿のあの日、2人きりで話をしたあの時に可奈から聞いた言葉を、春香ははっきりと思い出す。

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 あの時の言葉通り、可奈は近所の土手にいた。だがその口から漏れ聞こえる歌にはまったく覇気がなく、大好きだった歌も歌えないと力なく独りごちる。大好きな歌を元気よく思いっきり歌ってストレスを解消すると明るく言っていた少女と同じとは思えないその様子は何とも痛々しい。
 そこにようやく春香たちが駆けつける。もう一度ちゃんと、直接会って話をしたかったと伝える春香に驚く可奈はしかし、一言謝ると差していた傘も放り出して遁走してしまう。自らも傘を放って必死にその後を追いかける春香。
 さらに奈緒や真たちも駆けつけ、逃げられなくなった可奈はそれでもフードをかぶり、誰とも視線を合わせようとしない。この時可奈がこのような態度を取った理由は程なく判明するが、それ以外にも可奈のこの姿が文字通りの「ほっかむり」になっているのも、このような局面にあってなお本心を見せたがらない可奈の最後の抵抗を暗示しているように見える。
 辿り着いた春香は自分が可奈の元に来た理由を話す。電話で可奈の言葉を聞いてもそれでも信じられなかったから、アイドルとはそんな簡単にあきらめられるものじゃない、そういうものだと思いたいから、と。ここで可奈との電話の直前に春香が呟いた「自惚れ」という言葉が意味するものの一端が見えてくるのだが、これについては少し後で本格的に触れることになる。
 春香の言葉を聞いてもなお自分はもうダメだと言いながら、かぶっていたフードを下ろす可奈。春香も集まってきた他の皆も、現れた可奈の顔を見て幾分驚きの表情を作る。

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 顔だけでなくよく見れば体型そのものが以前より、真美曰く「ちょっとふっくらした」、はっきり言えば太っていたのである。足手まといになってしまっている現状を何とかしたいと思いながらも、1人だけで改善することは叶わずストレスだけが溜まっていき、その解消のためにお菓子を食べすぎた結果太ってしまったのだった。
 たかがこれだけのことでと思う向きもあるかもしれないが、太ったという事実だけが単純に可奈を追い込んだわけではない。ダンスが満足に踊れない自分、他の皆に迷惑をかけている自分、誰にも相談できず1人でがんばりながら苦しんでいた自分、そして憧れの存在である春香に応援してもらいながらもそれに応えられない自分。可奈は体型が変わる前から既に精神的に追い込まれてしまっていたのである。
 逃げ場もなく救いを求めることもできない状態で、お菓子を食べて気を紛らすという行為は無理からぬことではあったが、それもまたアイドルとして本来やってはならないことでもあった。がんばろうとすればするほど自分がどんどんダメになっていってしまう悪循環を続けた結果、体型の変化というアイドルとしては致命的になりかねない事態をむかえてしまったのだ。
 それは可奈にしてみれば彼女なりにがんばって努力してきたにもかかわらず、変わることができなかったダメな自分が、最も自分の望まない形で露呈してしまった状態と言える。今までの自分自身の努力だけではない、自分を応援してくれた春香の気持ちさえも無にしてしまったと可奈が考えたであろうことは想像に難くない。そんなみじめな姿を皆に、まして春香にさらけ出すようなことなど彼女に出来ようはずもなかったのである。
 そして前述の悪循環は可奈1人に当てはまるものではない。ミニライブで失敗した時、最も近しい存在であるはずのダンサー組は誰も彼女をフォローしなかったし、可奈が姿を見せなくなっても「待つ」か「放っておく」以外の選択肢を選ぼうとはしなかった。志保だけではない、残りのダンサー組全員が、だ。
 無論彼女たちも総じて未熟なアイドル見習いであるわけだから自分のことで精一杯、他人にまで気を配る余裕はなかったと言えるだろうが、だからこそ誰であっても1人にしてはいけなかった。未熟だからこそ一層全員で支えあわなければいけないことに、未熟ゆえに気づくことができなかった、この悪循環が可奈個人の悪循環と重なり、負の連鎖となって可奈をさらに追い込んでしまったのである。可奈の告白でそれにダンサー組がようやく気づけたということは、彼女たちの表情からも察せられよう。
 真実を告白し泣きじゃくる可奈に、春香は優しく傘を差し出して「あきらめたくないんだよね?」と問いかける。事情も周囲のしがらみも関係なく、彼女が今、純粋に何を願うのかを問う春香のその言葉に、小さく頷く可奈。ずっと知りたかった可奈の本心を聞き、心から安堵した春香は一緒にステージに立とうと明るく呼びかける。また迷惑をかけるからと拒否しようとする可奈の手を取り、春香はさらに優しい笑顔で伝える。「どうしたいか、だけでいいんだよ」と。

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 それは今の春香を突き動かす想いであり、春香という少女がずっと以前から内包していた強い意志の源泉たる理念だった。それがわかっているから765アイドルの皆は春香の想いに共感し、可奈のそれを確かめるために皆が目指してきた場所であるアリーナへ向かうことを提案する。

 準備中のアリーナ会場に到着した765アイドルたちは、今まで体感したことのない広く大きな会場に驚嘆や興奮の声を上げる。このアリーナのモデルになっているのは横浜アリーナ。アニメ本編終了直後の7thアニバーサリーライブの会場となった、その時点で文字通りアイマス史上最大級の大きな会場でのライブであった。
 その一方でダンサー組はこの広い会場いっぱいに観客が入った様子を想像し、ミニライブの時とはまったく違うスケールの大きさに圧倒されてしまう。
 春香も同じ想像をしたのか、今は誰もいない観客席に向かって「後ろの席までちゃんと見えてるからねー!」と叫ぶ。それは25話での2ndライブにおける春香の呼びかけと同じ、もっと言えば13話で触れた幼き日の体験に基づく彼女のライブに臨む上での信条であり、同時に可奈がずっと憧れてきたアイドルの「天海春香」そのものの姿だった。
 会場にプロデューサーと律子も姿を見せる中、春香はゆっくりと語り出す。春香はライブに臨むたびにステージの広さを実感し、同時に自分は1人ではないと感じてきた。それは自分が今いるこの場所は、今までの自分のすべてで出来ているからだと。
 765プロの仲間たちだけではない、今まで出会ったたくさんの人たちの存在があったから自分はアイドルとしてステージに立つことができて、誰か1人欠けても自分はここに来られなかった。だからこそ出会った人たちと今一緒にいるということは、それだけで春香にとってはとても大切なことだった。

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「私たちは今ここにいて、それぞれ目標も考え方も違ってて、それでもこのライブのためにみんな集まったの。それが、『今』なんだよ。誰か1人でも欠けちゃったら、次のステージには行けない。もしかしたらもっといい方法があるのかもだけど、でも…。私は、天海春香だから。私は今、このメンバーのリーダーだけど、その前にやっぱり私だから。全員で走り抜きたい、今の全部でこのライブを成功させたいの!」

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 時折たどたどしくなりながら、それでも春香は皆を前に今の自分の正直な想いを打ち明ける。ここまで彼女が本心をさらけ出すのは、本編の時にさえなかったことだ。
 今まで本文中でも何度か本作のテーマについて触れてきたが、それはすべてこの春香の言葉、春香のこの行為に集約されていると言える。
 元来本作は「輝きの向こう側へ」というサブタイトルが示すとおり、テレビ本編で成長した765アイドルの、さらにその先を描くことを主眼としている。と言っても断定的に「その先」そのものを見せるというわけではなく、具体的にはさらにその先を目指そうとしているアイドルの第一歩目の物語を描くことがメインであったと言えようか。
 それを見せる上でどうしても描かないわけにいかなかったもの、それが「春香たち765プロのやり方でこれからも進んでいけるのか」ということだった。さらなる未来を目指す上で765アイドルはこれからも迷うことなく自分たちの信じる道を歩んでいけるのか、その決断を行うことが本編を踏まえた上での彼女たちのさらなる成長の証であり、その決断を行うために、さらに一つ上のステップに進むために彼女たちがどう考えどう行動するのか、それを描くことが本作に課せられた命題だったのである。
 そのために用意された物語とは、「自分たちの価値観をまったく知らない相手との邂逅」だった。765アイドルは付き合いが長く互いに気心も知れていて、さらに本編では様々な経験を経て困難を乗り越えてきたために、改めて口に出さずとも互いの気持ちはある程度通じあわせることができる。24話で春香以外のアイドルが春香と直接会話を交わしていないのに春香と想いを共有できたのは、それぞれが抱く大本の価値観に差異がなかったからというところも大きかったのは間違いない。
 ではその価値観をまったく知らない、共有していない相手と一緒になった時、彼女たちはどうふるまうのか。乱暴に言ってしまえば、120分近くかけて本作が描きたかったことはこれなのだ。制作陣に与えられたこの新たな命題を彼女らが自分たちの力で乗り越えること、それ自体が彼女たちの目指すその先への第一歩と同義だったのである。
 そう考えれば劇中事実としても作劇上でも、春香がリーダーに任命された理由に得心がいく。20話や24話で描かれた通り、その765プロの価値観を一番強く体現している存在は春香なのだから。そしてだからこそ彼女は迷った。可奈も志保もダンサー組全員が765アイドルの共有する「どんな時でも仲間同士の繋がりを育み、その絆を力として前に進んでいく」という価値観をまったく知らない。そんな相手にそれを共有させようとする行為はともすれば無理強いになりかねず、そのようなことは春香自身が望まないだけでなく、今後の765アイドルの可能性さえも狭めてしまいかねない危険性を孕んでいる。今後何度でも起きるだろうこのような問題に対し、そのたびに強引に推し進めるような真似が続けられるはずはないのだから。
 本作後半での春香の行動に迷いが見られた根本の原因もここにあった。20話を思い出すまでもなく、もし可奈が以前からの765プロの仲間であれば、春香は迷うことなく可奈の家に直接出向いたはずだし、志保が765プロに以前から所属していれば、相違する意見ももっとスムーズに解決策を見出すことができただろう。それが出来なかったのはひとえに互いが互いのことをよく知らなかったからなのだ。やるべきことは分かっている、だがそれをどう行使すればよいか、いや、行使していいのかどうかがわからなかった。だから春香は迷い、及び腰になってしまったのである。
 そんな春香でもきっとどうすべきか答えを見つけると仲間たちは信じ、同じ価値観を共有しずっと隣で支えてきてくれたプロデューサーの言葉を胸に決断した春香の取った方法、それが自分の今の正直な想いをすべて打ち明けて皆にぶつけるという行為だった。
 「本心を打ち明ける」。言葉にすればたったこの程度の長さで済んでしまう程度のものだが、実際にはそれはとてつもなく重い行為である。自分の想いをむき出しにするのはそれだけで勇気のいることであるし、それだけのことをしても相手に届かない、理解してもらえなければそれだけ自分の受ける精神的なダメージも大きくなる。まして素の感情をさらけ出すこと、それ自体が通常はあまり好まれない行為であることを考えれば、春香が迷うのも当然と言えるだろう。
 それでも春香は目の前の可奈たちを信じて本心を打ち明けた。それは取りも直さず彼女たちもまたアイドルを目指しているからに他ならない。アイドルに憧れアイドルを目指す少女であるなら、それを簡単にあきらめない、困難があっても仲間と共に乗り越えて前に進む、実際に進んでこられた自分たちの価値観が届くと思いたい。それが春香のささやかな「自惚れ」であったのだ。
 仲間たちに支えられ、プロデューサーの後押しを受けて自分の正直な、そして仲間たちとずっと共有してきた大切な想いを語った春香。765プロ全員の想いが仮託された存在となった春香がその本心を語ったことで、ようやく765アイドルは揃ってさらなる未来への第一歩を踏み出すことができたのである。
 春香の心からの想いが可奈たちに届いたのか。それについて多言を費やす必要はないだろう。モニターに各人が映し出された後、一番最後に映し出された「もの」がそれを何より雄弁に物語っていると言える。彼女たちは皆その「もの」の下に集ったアイドルなのだから。
 一緒にステージに立ちたいと偽らざる本心を打ち明ける可奈。それに呼応して星梨花と杏奈も最後まであきらめず一緒にがんばると可奈に伝え、元のフォーメーションのままでやってみると訴える百合子の言葉に、奈緒も美奈子ももっと協力しなければいけなかったと悔やむ。
 そして伊織に促された志保はしかし、何も言えないと返す。それはこの大きな会場と多くの仲間たちを前にし、今にも押しつぶされそうな状況の中ではっきりと自らの想いを伝えた春香の姿を目の当たりにし、自分の想いに対する信念や覚悟の差を痛感したからこその志保らしい自省の言葉だった。

 7人で話し合うダンサー組を見やりながら、今後に想いを馳せる765アイドル。これからが大変であることは十分承知しているが、765アイドルの誰もが失敗などあり得ないと、大丈夫だと信じて疑わなかった。
 ほとんどのアイドルたちの目にうっすらと涙が浮かんでいるのは、感極まって嬉し泣きをしたわけではなく、張りつめていた緊張の糸がほぐれ、緩んだと共に涙がこぼれたというところだろうか。それは誰より気を張っていたであろう春香が1人泣いていることからも明白だ。
 そんな春香を怖がりという美希の言葉を受け、答えを出すのは誰だって怖いものだと呟くあずささん。例え出した答えが間違っていたとしても何とかする、それが私たちでしょうと、涙を溜めながら力強く話す伊織の言葉は、765アイドルたちが大切にしてきた価値観をこれからもずっと胸に抱いて歩み続けるという全員の想いの表れでもあった。

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 いつの間にか外の雨もすっかり止み、空が夕焼け色に染まりつつある時間になっていた。このままスクールへ向かうというダンサー組7人の顔は今までにないくらいに晴れやかだ。

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 美奈子の本音とも冗談とも取れるボケに奈緒が突っ込んでひとしきり笑い合った後、志保が春香に話しかけ、以前の非礼を詫びる。そんな彼女に向けた考え方は人それぞれでいい、ライブを成功させようという春香の言葉と笑顔に、志保も幾分救われたのか今まで見せたことのなかった笑顔を見せて一礼する。

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 続けて可奈が、改めてライブを成功させるためにみんなとがんばることを春香に約束する。そしてやはり自分は憧れの「春香ちゃん」のようなアイドルになりたいとも。やっと笑顔を取り戻してくれた可奈に、自分もがんばると返す春香。個人の行動と集団の行動はどちらも尊重した上で両立させられることを学んだ可奈たちは、これでようやく本当にアイドルとしての第一歩を踏み出したと言えるのかもしれない。

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 夕日にきらめく川の横に続く土手を帰路に就く765アイドル。もちろんプロデューサーや律子も一緒だ。
 皆一様に笑顔を浮かべながら歓談する中、律子はふと山の向こうに沈む夕日に目を留める。足を止めしばし夕日を眺める一同。
 その輝きに春香と律子は感嘆の言葉を漏らし、見ていると光に包まれていく感じがするという雪歩の言葉に、ライブの時のサイリウムの輝きを重ねる春香。真も美希もその例えに賛同し、さらに一面のサイリウムの光を響は海のようだと形容、思わず亜美真美とやよいは観客が行うウェーブを真似る。さらに貴音はスポットライトを星に例え、あずささんも自分たちは光の海を渡っていく存在だと笑顔で話すその横で、あずさに舵は任せられないといつもの調子で返す伊織。
 765アイドルが全員揃っている時のセリフの割り振り方は本編の頃から秀逸であったが、このシーンでもこの娘ならこういうことを言うであろうというセリフを見事に言わせており、キャラシフトの巧みさは相変わらずと言うところである。
 皆が例えた光の海、その光の先に何があるのかと呟くのが千早というのも、シャイニーフェスタ付属アニメ「Music in the world」での1シーンを踏まえると興味深い。
 千早の言葉を受けた春香は、素敵なところだといいなとだけ口にする。光の先、輝きの向こう側にあるものが何であるか、それは彼女たちにはまだわからない。しかし彼女たちは今確実にそこへ到達するための第一歩を踏み出した。彼女たちが自分の想いに迷うことなく信じて共に歩んで行けば、いつかきっとそこに辿り着けるだろうし、そこで迎えるのはきっと幸せな結末であるに違いない。そう信じられるからプロデューサーも大丈夫とはっきり告げることができるのだ。
 吹き抜ける爽やかな風は合宿の時に春香たちが案じた不安なものとは違う、幸せな未来へと皆を誘う時の流れそのものだったのかもしれない。

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 季節は流れ木々の葉が落ちるようになってきた頃、アリーナライブの開催日も間近に迫ってきていた。
 春香は可奈からのメールで知ったダンサー組7人の近況を千早に話す。朝練も実施して大変ではあるが、皆と一緒に協力して少しずつできるようになってきたと。それを我が事のように喜ぶ春香は、ライブ会場で出会えるすべての人たちに早く会いたいと、自分たちを見てもらいたいと嬉しそうに語る。
 季節が変わるように皆も未来に向かって変わっていくなら自分も変わっていきたい、進むことで見える新しい景色を皆と一緒に見たいと話す春香に静かに、そして同じく嬉しそうに同意した千早は、持っていた手紙をポストに投函する。
 明示されてはいないものの、それが以前話した千早の母親へのライブ招待の手紙であることは疑いないだろう。それもまた千早自身が変わったからこそ見ることのできた新しい景色であり、傍らの春香自身も変わっていくことへの希望や期待を抱けるような幸せな景色であった。
 春香の頭に秋という季節を代表する枯葉がくっつくという描写も、頭をこつんと叩く例の仕草にかけた暗喩なのかもしれない。
 そしていよいよ迎えるアリーナライブ当日。7thライブを取材した上で書き起こされているアリーナ各所のデザインはそれだけで臨場感に溢れているが、実際に7thライブに参加した人にとっては会場を埋め尽くす観客の描写も含めて、感慨もひとしおと言ったところだろう。
 楽屋ではステージ衣装を着ることが出来た可奈をダンサー組全員で祝福していた。思わず涙ぐんでしまう可奈を落ち着かせるのが志保と言うのも嬉しいキャラシフトである。

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 そんなダンサー組を笑顔で見つめるプロデューサーと律子を呼んだのは、今回のライブに合わせて作られた新衣装「スターピースメモリーズ」に身を包んだ12人の765アイドルたちだ。

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 よく似合っていると褒める律子の胸にあずささんがつけたのは、衣装とおなじバラの飾り。それは彼女たちよりも以前からプロデューサーの研修のことを知っていて、今回はプロデュース業に徹して活動してきた律子への彼女たちなりのお礼であり、同時に律子もまた765アイドルの1人であり、「13人」全員でステージに臨みたいという皆の希望の表れだった。
 このような女性的とも言える細やかな心遣いを描出する上で、やはりあずささん以外の適任者はいないだろう。皆の真心に今度は律子が涙ぐみ、亜美たちにからかわれてしまう。

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 続けてプロデューサーは春香に、リーダーとしての最後の役目となる今日のライブのことを一任する。言葉は少ないものの春香にとってはそれで十分だった。自分たちが一番大切にすべきものを誰よりも理解していた春香を信じてリーダーに選んだプロデューサーと、紆余曲折あったものの立派にリーダーとしての役目を果たし、彼の信頼に応えた春香。この一組の「プロデューサーとアイドル」にこれ以上の言葉はいらなかったのだろう。
 しかしそれは傍らで見ている美希にとってはやはり面白くないようで、また一方的にライバル宣言をしてしまった。慌てる春香と美希のやりとりにダンサー組も破顔する。
 準備はすべて整った。会場は満席、高木社長に小鳥さんと善澤記者、そしてジュピターの3人も開演を待っている。
 いつものようにアイドルたちは円陣を組み、それぞれの想いを交わし合う。今度はダンサー組も参加したこの円陣、やはり締めの音頭を取るのは春香だった。本編でのライブと違い最後の掛け声が「目指せ、トップアイドル!」に変わったのもまた、彼女らが変わったことの証だったのだろうか。
 会場に集まった多くのファンのため、自分たちを見るもっと多くの人々のため、そして自分たちの背中をいつも力強く押し出してくれた大切な人のため、アイドルたちはステージに上がる。
 互いに手を取り合って開演を待つアイドルたちの後ろ姿を穏やかな笑顔で見つめるプロデューサー。彼にとっても忘れられないであろう大切なステージの幕が今上がる。

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 流れる曲のイントロ、光り輝くサイリウム、そして浮かび上がるアイドルたちのシルエットに呼応するように沸き立つ大歓声。いよいよ始まったアリーナライブでアイドルたちが歌うのは、新曲「M@STERPIECE」だ。
 古参のファンであれば今更説明の要を成さないであろうが、M@STERPIECEとはアイマスが初めてリリースしたアルバムCDシリーズの名称であり、アイマス楽曲の原点を象徴する名称と言える。その名前を本作における新曲のタイトルに用いたのは、M@STERPIECEというCDシリーズが原点であると同時にその後のアイマスの未来を築く礎となった存在であることを考えれば自明であろう。

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 劇場版と言うことでこのライブシーンに相当のエネルギーが注力されているのは言うまでもないが、今回はいくつか新機軸も導入されている。
 テレビ本編を含めても初めてのフルコーラスによるライブや、アイドルにマイクを持たせている(ちなみに声優陣が行うアイマスライブの方では以前からマイクを使用していた)のもそうだが、最大の試みは本編ではついぞ使用することのなかった3Dモデルの導入だろう。と言っても3Dモデルはアイドルが遠景で映っているときのみ(ゲームで言うところのロングないしスーパーロングのアングルになっている時だけ)であり、基本は本編と同様に2D作画で表現されているのだが。
 これにより従来の2D作画によるライブでは困難だった、現実的な動作にとらわれない縦横無尽に動き回るカメラワークを実現することが、比較的容易になった。具体的に言えばロングショットからカット割りをすることなく一気にアイドルに寄ってアップショットに移行できる、またその逆となるカメラワークである。また今回のステージは花道なども用意されて奥行きが設定されているため、アップに映し出されているアイドルのずっと奥で動いている別のアイドルを違和感なく描写するという部分にも貢献を果たしている。
 劇場公開時はアップからロングショットに直接移動する際の、アイドルの2D→3Dモデルへの移行にかなり違和感があったのだが、現在のVideoM@ster版ではさほど違和感なく見られるように修正されていた。
 (なお劇場公開時がどうであったか失念したが、VideoM@ster版では2コーラス目→間奏後の「新しい幕を開けよう NEVER END IDOL」の部分で春香のアップから一気に引いてロングショットになる箇所において、2Dから3Dに切り替わるタイミングでサイリウムを振っている観客の手を、鑑賞者の視線が一番集中しているであろう春香の姿に被さるように挿入することで、鑑賞者に2D→3Dへの移行に違和感を抱かせない演出上の配慮が成されている。)
 2D作画部分の美麗さは殊更言葉を費やす必要もないだろう。1人1人の振付や動きの微妙な差異、飛び散る汗や濡れた髪の毛などの細かい表現、衣装や髪の毛のなびきと言った部分にまで手が入ったそのこだわりの作画情報量は、とても一度見ただけではすべて把握できるものではない。
 また歌っている時の組み合わせも春香と貴音、千早に真と言った珍しいものから、伊織、亜美、あずささんの竜宮小町トリオに美希が加わっての4人構成のような、本編を知っているものならニヤリとさせられるものまで多様なものが存在している。
 例によってこのライブの魅力すべてを文章で伝えるのは非常に困難なので、できれば一度と言わず三度ほど見てほしいところである。

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 歌い終えたアイドルたちに向けられる万雷の拍手と歓声。感極まって涙ぐむ小鳥さんに律子。そして微笑むプロデューサー…。
 ライブシーン自体はこの一曲だけであり、ライブそのものは最後まで描写されない。しかし逆にこれだけであっても会場にいるすべての人たちに笑顔と喜びを贈れたことが明らかなこのライブに、成功の二文字以外存在しないことは、ここに至るまでのアイドルたちの想いを見守ってきた者であるなら疑う余地のないところであろう。

 ライブは終わり、とうとうプロデューサーが旅立つ日がやってきた。プロデューサーを見送るため、小鳥さんや社長だけでなく765アイドルも全員飛行場に集合する。
 周囲にばれないか慌てるプロデューサーを前に大丈夫と堂々とした態度を取る彼女たちの姿もまた、アイドルとして成長した故のものなのかもしれない。

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 二言三言別れの挨拶を交わし、一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべながらも搭乗口へ向かおうとするプロデューサーに、大きな声で話しかける春香。
 「どこにいても765プロの心は一つ。そうですよね?」と問いかけた春香のその言葉に、本当に一瞬だけ、彼は涙を抑えるかのような表情を浮かべるが、次の瞬間には力強く返事を返す。それが同意であったことは言うまでもない。彼はいつだって、いつまでも彼女たちのプロデューサーなのだから。

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 だから彼女たちも笑顔で送り出せるのである。「いってらっしゃい、プロデューサー!」と。

 飛び立つ飛行機を象徴として、本作の物語は終わりを告げる。
 アイドルたちがそれぞれ未来に向かっての第一歩を踏み出せたように、プロデューサーも海外研修という形で新たな未来への一歩を踏み出した。その彼が乗った飛行機が物語を締めるガジェットとして用いられるのは、終盤まで未来へ歩むための力となるものを模索してきた本作を締めるのにふさわしいと言えるだろう。
 エンディング「虹色ミラクル」に乗って描写されるのは、劇中以外のライブの描写だ。765アイドルだけでなくダンサー組の7人も実に楽しそうに活写されているその映像からも、アリーナライブが成功したであろうことが容易に窺える。
 劇中で描写されたのが実質一曲のみで物足りないと思う向きもあろうが、物語としてはこれで十分なのである。様々な苦悩を超えて自分の答えを見出した春香、その答えに共感した765アイドル、そしてその答えを真摯に受け止めたダンサー組、すべてのメンバーの心が通じ合ったその結果として、アイマスシリーズの過去、現在、そして未来を象徴するワード「M@STERPIECE」を冠した歌の成功があったのである。
 個々人の描写の過不足はあっただろうが、それ以上に「M@STERPIECE」という曲のライブそれ自体を完成させたことが、本作の帰着点だったのだ。
 とは言えスタッフとしてももっとライブシーンを描きたかったという思いもあったのだろう、それをED映像の一環として描写しているわけである。
 作中で幾度か会話を交わしていたものの、濃密なやり取りは描かれていなかった伊織と志保の組み合わせが描写されているところからも、それは窺えるだろう。

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 ライブのステージ上で撮った集合写真。それを最後に映像はライブも終了しプロデューサーも旅だった、さらにその「次」に引き継がれる。
 その集合写真が飾られた765プロ事務所を出ようとしているのは、伊織に亜美、あずささんの竜宮小町。彼女たちは彼女たちで今も竜宮小町として活動を続けている。他の9人に先んじて歩んできた3人の迎える未来もまた3人、いや4人で迎えてほしいものである。

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 その4人目である律子はどこかの会議室でプレゼンを行っていた。それは何と真美・やよい・響の3人で構成された新たなユニットについての計画だった。この激変が3人にどんな未来をもたらすのか、興味は尽きないところだ。

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 千早は海外レコーディング中、宿泊しているホテルで手紙を書いている。「アイマスタジオ」での錦織監督の言によれば、これも母親宛ての手紙を書いているシーンと言うことだった。これを続けることで千早と両親との仲が改善されるのかどうかはわからない。しかし今までの関係を見直そうと千早が歩み始めたのは紛れもない事実。その先にはどのような結末が待っているのだろうか。

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 そしてハリウッドデビューを果たした美希は、現地にて愛しのハニーに会えて思わず飛びついてしまう。どこにいても何をしていても変わらない美希らしさに少しホッとさせられると共に、着実にアイドルとしての実績を重ねていく彼女がどこまで進んでいくのか、この先も見てみたいところである。

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 どこかの楽屋にいた真・雪歩・貴音の3人は、次の仕事に向かうのか楽屋を退出するところだった。雪歩が恐らくお茶が入っているであろう水筒を持っている変わらなさがある一方で、貴音が可奈を探すシーンに続いて自主的にメガネをかけている姿も印象的だ。貴音の視力が低いという描写は本編では5話で少し成されたのみだが、その後心境の変化があったのか響あたりに勧められたのか、いずれにしてもこれもまた未来に向けた彼女たちの変化の一端には違いない。

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 そんな3人を見送った春香はいつもの変装用の帽子をかぶったまま、鏡に映る自分をしばし見つめ、柔らかな笑顔を作る。それはいつか美希とトイレで話をした際、鏡に映っていた自身の不安げな表情とはまったく異なっていた。件のシーンと対比させることで春香の成長を見せているのは当然として、見ようによっては別の解釈も出来るだろう。
 帽子のつばに手をやりながら、つばによって少し遮られる陰りや視界を、あの時春香の頭に手を当ててくれた際に彼女の体感した視界と重ね、その時に受け取った言葉を思い返していたのかもしれない。

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 そんな765プロのやり方や想いを認め、理解したアイドルたちも、順調にそれぞれの道を進んでいることは、街頭に貼り出されたジュピターと876アイドルのポスターがそれをはっきりと物語っている。
 そして今まさにその想いを胸に、改めてトップアイドルへの道を歩み始めようとしている者もいる。思い出のマスコットを手に緊張した面持ちの可奈がいるのはどこかのオーディション会場だ。そこには同じく「ミリオンライブ」に登場するアイドルのエミリー、豊川風花、田中琴葉、徳川まつりの姿も見える。可奈の物語はこれからどう進んでいくのか、新たな彼女の物語に期待せずにはいられない。

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 しかしこの広い世の中にはまだアイドルとしての物語が始まっていない少女が、中には自分がアイドルになる未来を想像すらしていない娘がたくさんいるのだろう。それでもそんな少女たちの前にあるはずの物語は今も待っているに違いないのである。彼女たちがアイドルという魔法にかかり、光り輝く「シンデレラ」となることを。

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 街頭ビジョンに映るライブの模様を見つめるのは、「アイドルマスター シンデレラガールズ」に登場するアイドル・渋谷凛だ。ここに登場したのはあくまでおまけ程度のものであるが、このアニメ版アイドルマスターの世界のどこかで彼女たちシンデレラガールズの物語が動き出しているかもしれないと考えると、それだけでワクワクしてくるではないか。
 そしてさらに時が立ち、アイドルたちは最良の日を迎える。
 思えば本編の最終回に彼女たちが視聴者に向けた言葉は「またね」だった。久々の再会となった本作最初の挨拶は「ただいま」であった。そして本作での物語を経て、765プロの心は一つであると彼女たちは確認し合った。であれば本作の最後の最後にプロデューサー=鑑賞者に向けられる言葉は決まり切っているのではなかろうか。
 研修を終え帰ってきたプロデューサーを迎えるアイドルたちが何と声をかけたか、静止画のみであるからもちろん正確なところはわからない。だがその言葉はきっとこれからも彼女らと共にあり続けようとする「プロデューサー」がアニメ版アイドルマスターの世界に帰ってきた時にかけてくれる言葉となるに違いない。

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 そして前述の通り、本作と異なる世界の話とは言え、アイドルを目指す女の子がどこかにいる限り、新たな物語もまたどこかで生まれ続けている。夢見る少女がガラスの靴を履いて輝くステージに立つ時を、今もずっと待ち続けているのだ。

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 ついに始まるシンデレラガールズの物語。今はただ新たに紡がれる新たなアイドルたちの物語を期待して待とうではないか。

posted by 銀河満月 at 02:01| Comment(0) | TrackBack(0) | アイドルマスター | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

劇場アニメ版アイドルマスター 輝きの向こう側へ! 感想(前半)

 2011年に放送されたアニメ版アイドルマスターが終了して、早くも丸3年が経過した。
 その間にもPROJECT IM@Sはソーシャルゲーム「シンデレラガールズ(これは放送中からだが)」「ミリオンライブ」のサービス開始、リズムゲーム「シャイニーフェスタ」の発売、PS3用ホームアプリ「アイマスチャンネル」の開始、そして完全新作の「ワンフォーオール」と言ったゲーム系コンテンツを筆頭に、関連CD群やグッズ、そしてキャラクターを演じる声優陣による各種イベントなどが途切れることなく発売・実施されており、いずれも堅調な成果を残している。
 映像媒体としてはスピンオフ作品「ぷちます!」のアニメ版、及びシャイニーフェスタに収録されたアニメ版の番外編的挿話が制作され、アニメ版自体に限定しても「ニュータイプアニメアワード2012」での7部門受賞、関連CD「生っすかSPECIAL 01」の第54回日本レコード大賞・企画賞受賞と確かな評価を積み重ね、ファンに話題を提供し続けてきた。
 放送終了後も衰えることのない本作のそのような勢いを受け継ぐ形で、2013年2月10日に行われたイベント「THE IDOLM@STER MUSIC FESTIV@L OF WINTER!!」にて、本作の劇場映画版制作・公開決定の報が発表されたのは、もはや時流の必然であったと言えるだろう。
 監督・キャラクターデザインの錦織敦史を始め、テレビ本編のスタッフがそのまま制作を担当、テレビアニメ版のその後を描く完全新規のストーリー、「ミリオンライブ」から7名のゲスト出演など、注目すべき様々な情報が段階的に公表され、2014年始めにはBS-TBSにて公開直前記念のリピート放送が編成、公開一週間前にはニコニコ動画にて連日特集放送が組まれるなど、約一年に渡ってファンの耳目を引きつけ続けてきた。
 そして2014年1月25日、ついに公開された本作は初のフルコーラスによる5分以上のライブパートや美麗な作画と丹念な演出、感動的なストーリーなどが多くのファンに好評を博した。公開直後は全国各地で声優陣による舞台挨拶が毎週のように行われていたことも忘れてはならない重要事項だろう。
 さらに上映中にコールやサイリウムの使用が許可された「チアリング上映会」や、一度公開が終了した後にも、BD・DVD発売直前には映像ソフト発売に合わせて作画等の修正を行った「VideoM@ster版」の公開が各地で行われるなど、本作独自の多様な話題をファンに提供してきた。
 結果的に本作は興行的にも初週の土日だけで1.5億、VideoM@ster版との合算による興行は10月初旬時点で「7.65億円」という異例の記録を達成、テレビ本編で様々な賞を受賞したニュータイプアニメアワードの2013-2014においても劇場作品賞、主題歌賞など4冠を達成し、それ以外でも様々な部門で上位層に食い込む大健闘を果たし、名実ともに2014年の劇場アニメを代表する作品の一つとなったと言える。
 そして今なお各所で公開が継続されている本作であるが、公開からほぼ1年も経った今になって感想を書くのはタイミング的にいかがなものかと思わないでもないものの、これから始まる「次」に向けて、アニメ版アイドルマスターの現時点での集大成である本作を一度自分の中で整理しておくべきだろうとの考えに基づき、今更ながら書いてみた次第である。
 今回の感想はBDのスタッフコメンタリーやBD付属の冊子に掲載されている錦織監督らの誌上コメンタリーに極力目を通さずに書き上げているため、制作陣の意図と異なる解釈、捉え方をしている部分も多々あると思われるが、作り手の意思はどうあれこちらがそれを受け取った結果、極めて素直な観念・思考の変遷を経て得た解釈もまた本作に対する一つの見方であろう、とご理解いただきたい。

 開始直後に映し出されるのは少し淡い古ぼけたような色調の画面。花びら舞い散る桜並木の下、敷き詰められた花びらの中で横たわり目を閉じている1人の少女。そこに被さる穏やかな口調のモノローグに合わせるかのように、少女はうっすらと目を開け…。
 と、そこで映される「眠り姫」のタイトルロゴ。

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 本編に馴れ親しんだ人ならば、この時点(開始時点?)でハッと気づいたことだろう。今映し出されている映像は「眠り姫」という名前の映像作品、つまり765プロアイドルによる15話の「無尽合体キサラギ」や特別編の「果てしなく仁義ない戦い」に続く第三の劇中劇、その予告編だったのである。
 冒頭に表示された「765Production MOVIE」というロゴもその予告編の一部だったわけだが、本作における本物の配給・制作会社のロゴが表示されたその後に間を挟ず表示されていたため、初見ではロゴが表示された時点でこれが予告編だということに気づかなかった鑑賞者もいたのではないだろうか。鑑賞者の興味を引っ張り、作品への没入度合いを高めるのには抜群の効果を発揮した構成と言えるだろう。
 今回の「眠り姫」の世界は学園ものかと思いきや、途中から超能力を駆使したバトルものへと変貌する、展開の飛躍振りがすさまじい内容になっている。巨大ロボットものを打ち出した一作目の時点でもう何でもありといった様相を呈してはいたものの、「アイドル」という言葉に本来のものとは異なる意味を持たせ、それをキーワードとして最後の激しいバトルにまで発展させていくという流れは、アイマスの最初のアニメ版である「アイドルマスターXENOGLOSSIA(ゼノグラシア)」を想起させ、ニヤリとしてしまったオールドファンもいたのではないだろうか。
 元々アニメ版アイドルマスターとは無印、SP、DS、2と、それまで展開してきた「PROJECT IM@S」の主だった作品の諸要素を盛り込むことで完成した作品でもあったわけで、それを踏まえるとこの劇場版ではさらに「XENOGLOSSIA」というある意味鬼っ子扱いされている作品の要素までも取り込んだのではないかと、考えすぎではあろうがそう言えなくもないのではないかと思わされるのである。
 ちなみに今回の劇中劇にもネタは存分に盛り込まれている。列挙するだけでも雪歩と真、あずささんと千早と言った歴史ある組み合わせでのやり取り、どこかのヘンタイプロデューサーが喜びそうな亜美真美のおしゃぶり、響の普通の女の子っぽい口調、現れた春香や美希が持っている武器の形状、美希や雪歩が攻撃を繰り出す際に形作られるエネルギー体の形状がおにぎりやスコップになっている、と言った具合だ。
 短いシーンでこれでもかと詰め込まれたネタや、拘りの作画による濃密な戦闘シーンについては、既に様々なサイトやブログで言及されているので詳述は避けるが、例によって「この要素だけで作品を一本作って欲しい」と心底思わせてくれるような魅力に溢れており、ある意味アニマススタッフの面目躍如と言うべきシーンであろう。
 併映作にハム蔵や響のペット達を持ってくる遊び心もまた楽しい。

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 場面はこの予告編を流していた番組に切り替わる。つまりこの映像もまた15話や特別編と同様に、765プロアイドルがメインを努める番組内で流した宣伝の一環だったわけだが、この番組、本編で見慣れた「生っすか!?サンデー」ではない。
 スタジオのセットを見れば一目瞭然、この番組は本編最終話で触れられていた新番組「生っすか!?Revolution」なのである。

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 作品内の時系列を考えればこの番組が既に放送開始していることは当然の流れなのだが、かつて多忙さ故に皆の想いがすれ違うようになっていった、その象徴的な出来事として「生っすか!?サンデー」の放送終了が描かれていただけに、「生っすか!?Revolution」が新たに放送開始され、番組内でアイドルたち、特に春香が楽しそうに笑顔で番組を進行しているその姿は、あの後紆余曲折経て再び想いを一つにした765プロアイドルの現在を最も端的に表した画とも言えるだろう。
 本編での数々の出来事を経てアイドルとして大きく成長した765プロアイドルであるが、それでも彼女たちはまだまだ発展途上。番組進行そっちのけで映画の話に夢中になってしまう春香の様子は、「生っすか!?サンデー」時代から大きく変わったものではない。そんな春香にADからの指示を無難に伝える役割を担うのが、以前から司会役をそつなくこなしていた美希であるという点も同様だ。
 あの頃から大きく変わったものと、それでも尚変わっていない、変わらなかったもの。一見すると背反しそうな二つの要素が各人の内面に確かに息づいていることの象徴でもあるこの番組であるが、本作はその二要素をよりはっきりと我々鑑賞側にこの後すぐ提示してくれる。

 本編での前番組と同様に春香の音頭取りから始まる番組タイトルコール。それを合図としてかかる楽曲はアイマス草創期から様々な作品やイベントで使用され、アイマスの歴史と共に歩んできた正にアイマスを代表する歌と言っても過言ではない名曲「THE IDOLM@STER」。そして「原作 バンダイナムコゲームス」「キャラクター原案 窪岡俊之」のクレジット表示後に浮かび上がる、ずっとずっと走り続けてきた14人のアイドルたちのシルエット。

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 2005年から9年間、変わらずにそこにあったもの(そしてファンの前に居続けてくれたもの)が畳み掛けるように映し出されるこのオープニング導入部、聴く者の高揚感を煽る楽曲のイントロが鑑賞者の期待感をストレートに盛り上げてくれると共に、9年の歩みの中で変わらなかった部分、イコールでアイマスそのものの根幹を成す要素とも言える部分を改めて鑑賞者に提示してくれているのだ。
 そこからは各アイドルたちの近況が楽曲に乗って映し出される。ハリウッドデビューが決定したその経緯をいつもの調子でマスコミに答える美希に、野球の至急式に臨む伊織とそれを応援する亜美にあずささんの竜宮小町、そんな3人を見つめる専属プロデューサーの律子。
 真はアクション映画の撮影で女性スタッフをメロメロにし、雪歩は主演を努める舞台劇についてのインタビューをしっかりこなし、同席した貴音は雪歩の演技を絶賛する。響はもはやすっかり相棒ポジションとなったハム蔵を始めとしたペットたちとサイン会を行い、雑誌モデルの写真撮影を難なくこなすやよいと真美。新たにニューヨークでの収録が決まった千早はそのことでスタッフと穏やかに談笑し、アイドルアワードを受賞した春香は授賞式でファンと事務所の仲間たちに感謝の意を述べる。
 本編最終話の時よりもさらにそれぞれアイドルとして飛躍し成長し続けていることがビジュアルとして端的に描かれており、しかもそれらは「テレビ本編での出来事を経験した上での成長」だということもはっきりわかるようになっている。
 態度こそいつもどおりだが、アイドルとしてより輝ける高みを目指している美希の姿勢は13話以降発露したものだし、全員がメジャーアイドルとなった今も伊織、あずささん、亜美の3人は竜宮小町としての活動を並行して行っている。18話での経験を踏まえて真は王子様的ポジションをそのまま受け入れているし、インタビューにしっかりと答える雪歩の姿からは、とても1話でのインタビュー時の様子など思いもつかないし、11話でファーストライブのレッスンに苦悩していた雪歩を叱咤したこともある貴音だからこそ、雪歩を絶賛するその言葉にも重みが加わるというものだろう。響とペットたちが仲良く仕事をこなしているのも15話にて愛するペット=家族との繋がりの強さを再確認できたからであるし、やよいも真美も2話での宣材撮影のような的外れなことはしない。20話で辛い過去を乗り越えた千早は純粋に歌を歌い、それを多くの人に聞いてもらうことを願うようになっている。
 そしてそんな仲間たちと共にトップアイドルを目指して歩み続けること、それが自分の何よりの願いなのだと24話で改めて認識した春香は、その想いを抱き続けることでトップアイドルへの道を順調に邁進している。それがアイドルアワードの受賞という形で結実しているのだ。
 これら765プロアイドルの今の姿は、本編開始時の頃と比較すると別人のように見えなくもない。それほど各人が成長したことは喜ばしいことであるが、同時に彼女らが本編の頃から何ら変わっていないところももちろんあった。授賞式で思わず転びそうになってしまう春香もそうだが、それぞれの仕事が一段落した後、各々時間を確認しながら事務所へ移動しているのが正に「変わらないもの」と言える。本編1話の頃から、時間軸で言えば本編の開始する前から一緒に活動してきた仲間たちだからこそ、一緒に歩むことが自分たちにとっては正しいことなのだとわかっているからこそ、彼女たちはさらに忙しくなったであろうスケジュールの合間を縫って事務所へ急ぐのである。
 と同時にその想いは、本編中では多忙を極める中で各人が忘れかけてしまったものでもあった。ただ1人その気持ちをずっと大切に抱いてきた春香も皆との意識のずれに苦悩し、憔悴する彼女を前に皆が自分たちにとって一番大切なその想いを再認識するというのが23〜24話の流れであったが、その時の経験を踏まえて彼女たちは個人個人でスケジュールを管理し、皆で集まれる時間を作ることをずっとし続けているというのが、これより少し後のシーンで判明するのだ。
 つまりこのアイドルたちが事務所に向かうシーンは、自分たちが心の支えとする想いを本編の頃からずっと抱いてきているという「変わっていない」部分と、その想いを実現するために自分たちで能動的に行動するという「変わった」部分とがそれぞれの中で混在し両立できていることの証なのである。それを本編での出来事とリンクさせて、短時間で明確に「その後」の描写として成立しているあたり、まさしく本作は「テレビアニメ『アイドルマスター』の劇場版」であるし、本編を知ればより深く楽しむことができる、良質なオープニングと言えるだろう。特にアイマスに慣れ親しんだ古参であればあるほど、このオープニングに高揚感とはまた異なる格別の感慨を抱くのではないだろうか。無論そのような本編部分の知識を抜きにしても、活動的な曲調の歌をBGMに緩急織り交ぜながらテンポ良く映される映像は十分楽しめるものに仕上がっている。
 さてそんなアイドルたちを迎える765プロ事務所では、すっかりおなじみになったアニメ版のプロデューサーが忙しく仕事をこなし、小鳥さんはそんな彼をフォローして、社長室の高木社長は何事かを思案している様子。プロデューサーの仕事量の変遷こそあるもののこちらは大体本編の頃から変わらない事務所の光景だが、そんな事務所内も確実に時を刻み変わっていることが、本編中ではついぞ修理されることのなかったビルのエレベーターから「故障中」の張り紙が剥がされている事実から窺い知れる。
 そして事務所に戻ってきた14人のアイドルはプロデューサーに向かって、つまり構図上はスクリーンのこちら側にいる鑑賞者に向けて、「ただいま、プロデューサー!」と挨拶する。合間に特別編やシャイニーフェスタ収録の挿話を挟んではいるものの、本編最終話、ラストカットの「またね!」から2年以上の時を経て、劇場の大スクリーンで再び彼女らと出会えることを楽しみにしてきたファンにとって、これ以上ない「再会の挨拶」であったろう。
 作品の一部分だけを切り取って評するのも変な話ではあるが、このオープニングは間違いなく「傑作」と断言できる、そんな楽しさと喜びに溢れた映像であった。

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 季節は暑い盛り、セミのやかましい鳴き声が響き渡る夏。事務所に集まったアイドルたちが雑談をする様は1年前、本編5話あたりの頃とさほど変わっていないようにも見えるが、以前置かれていたダルマの位置に18話で真が手に入れたクマのぬいぐるみが置いてあったり、新たに写真撮影を始めるようになった千早がそのぬいぐるみを撮影したりと、本編での物語を経て変化した部分もきちんと描かれている。
 社長の訓示が壁に貼られているのも毎度のことだが、今回の訓示は「未来」。例によって作品の内容を端的に示した、暗示的な言葉である。
 変化した部分が最も顕著なのは事務所のホワイトボードだろう。本編開始時点ではほとんど予定が埋まっておらず、人気が出て以降は次第に書き込まれる量が増えていったホワイトボードであるが、本作ではついに手書きで書ききれなくなってしまったようで、各アイドルごとにプリントされたスケジュール表が貼られた状態になっているのだ。そんな中でも個人スケジュールの表を留めるマグネットの色にパーソナルカラーを使用しているものがあったり、以前にみんなで撮影した写真(本編最終話ラストカットの写真を含む)や、恐らく亜美真美が描いたであろう新たな落書きが残っているのは、いかにも「らしい」ところだ。

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 自分たちでスケジュール調整を上手に行えるようになったり、美希と千早の海外出張の準備の話など、アイドルたちの成長・飛躍した姿が見られる一方で、単に観光目的で海外に行きたいと駄々をこねる亜美真美の以前と変わらぬ部分が描かれているのも、本編から見続けてきた鑑賞者には嬉しいところである。
 765プロからメジャークラスの活動をするアイドルが出たことを喜ぶプロデューサーに、他の皆もがんばっていると春香が少し突っかかるのも、変わったと言えば変わったところだろう。尤もこの場合はアイドルとしてのランクの差異云々ではなく、プロデューサーが他のアイドル、と言うより女の子を褒めていることにジェラシーを抱いてしまった故とも取れる。シャイニーフェスタの「Music in the world」でも描かれた、異性であるプロデューサーに対する歳相応の女の子らしい心の機微を露にするようになったのも、彼女にとっては成長と言えるかもしれない。
 ちなみにこのシーン、プロデューサーが発言しているところで劇場公開版ではプロデューサーが一瞬だけチラリと視線を横にいる春香や小鳥に移していた。プロデューサーとしては春香も小鳥も自分と同じように765プロアイドルを「アイドル」として評価する側と思っていたから、同意を求める形でチラッと見やったが、「少女」としての我が少々勝った春香に突っかかられてしまうという、ある意味でプロデューサーの朴念仁ぶりを描いているのかと考えていたのだが、VideoM@ster版では修正されているので、そのシークエンス自体には大した意味はなかったと言うところだろうか。

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 そんな春香よりもはっきりと、特に美希に対抗心を抱いていたのは伊織だ。負けず嫌いな伊織らしい態度であるが、そんな彼女に対する美希の応えは相変わらずマイペースで、伊織の対抗心もさほど意に介していない様子。しかしそこで伊織も「私の道は私が決める」と自分のペースを崩さず、性格はかなり違うものの似た者同士な2人であることが示されている。
 さて全員揃ったアイドルたちを前に姿を見せた社長は、そろそろ彼女たちも次のステップに進む頃合いであると告げる。その後を受けたプロデューサーが高らかに宣言したのは、アリーナでのライブ開催決定の報だった。765プロにとって経験したことのない、過去最大のものになるであろうライブの開催決定に、アイドルたちもにわかに色めき立つ。

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 さらにプロデューサーはライブ準備のために合宿を実施すること、そして新規の試みとしてバックダンサー導入と、「リーダー」をメンバー内に選定することを告げる。彼がリーダーに指名したそのアイドルとは春香だった。
 突然の大役任命に戸惑う春香だったが、プロデューサーの推薦、そして皆の笑顔の後押しもあって、リーダー役の拝命を決意する。尤も春香に取ってはリーダーに選ばれたこと以上に、アリーナという大舞台でライブができることの方が嬉しいようだ。
 竜宮小町のリーダー的立場としてメンバーを引っ張ってきた経験があるからか、はたまた元々上昇志向が強いからか、伊織が若干複雑そうな表情を浮かべているところも細かいが、同時に決して反発しているわけではないその表情からは、他の皆と同様に春香への信頼感が窺えて面白い。その春香に対する伊織の個人的な想いは、物語の後半で明らかになる。
 そんな伊織たちとは対照的に、祝福される春香を笑顔ではありながら少し寂しげに見つめる美希や、「最高のステージを俺に見せてくれ」というプロデューサーの言葉に、ただ1人笑顔を見せずプロデューサーを見つめる律子の姿もまた、後半に向けた伏線となっている。

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 主題歌「M@STERPIECE」のアレンジBGM「光に向かって」をバックに、合宿先へと向かうアイドルたち。ちなみにモデルとした場所は福井県の若狭湾沿岸近辺のようで(皆が宿泊する民宿の名前は「わかさ」)、皆が利用した空港も福井県への空路の拠点となっている小松空港(小松飛行場)がモデルとされている。
 広がる海や大きい山を目の前に興奮する響や真、寝こけて起きない美希と言ったリラックスムードで始まる合宿は、さながら本編5話での慰安旅行のようだ。あまりにも田舎然とした場所に「陸の孤島」と文句をつけた伊織が、民宿の主人を前に挨拶する際にはいつもの猫を被った営業トーク?で褒めそやしているところもご愛嬌である。
 そんな765プロアイドルを2人の少女が尊敬と緊張の眼差しで見つめていた。

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 全員一緒の大部屋に海が見える光景と、アイドルたちも本編5話での旅行のことを思い出す。時間軸で考えるとちょうど1年前の出来事になるわけだが、その1年で彼女たちがいかに変わったかということは、仕事の都合で亜美真美とあずささん、それに貴音が遅れて到着する予定なのと、雪歩と真が一時離脱する予定であるという事実からも容易に理解できるだろう。
 それぞれが過密スケジュールを抱えている中で全員が参加できる合宿を組んだプロデューサーや律子の手腕に感謝する一同だが、その想いは恐らく春香が一番強かったであろうことが、その嬉しそうな表情から見て取れる。

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 23話を振り返るまでもなく、「みんなと共に歩むこと」が自分たちにとって一番大切なものであるという春香の想いを、互いに伝え合うよりも前に同じ価値観として一番明確に共有できていたのはプロデューサーだった。正確にはまだ自分の価値観に自信が持てず、大切なものだと「思いたい」という望み、ある意味曖昧になりかけていた春香の想いを最後の最後まで確たるものとして繋ぎ止めていたのは、同じ価値観をもつプロデューサーの存在があったからに他ならない。そんなプロデューサーを自分のせいで文字通りに傷つけてしまったからこそ、23話及び24話の春香は追い詰められてしまったわけだが、そんな苦悩を超えてはっきりと想いを共有しあった今だからこそ、プロデューサーの行為に対する感謝の念もひとしおであったに違いない。
 そしてそんな春香の感慨は、彼女の想いに支えられ救われた経験のある千早には、誰よりわかっていたことであったろう。

 一同は先に民宿に到着していたバックダンサー勢と顔合わせを行う。
 緊張した面持ちで自己紹介を行うバックダンサーは佐竹美奈子、横山奈緒、七尾百合子、北沢志保、箱崎星梨花、望月杏奈、そして矢吹可奈の7人。先ほど物陰から765アイドルを見つめていたのは奈緒と可奈の2人だった。

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 冒頭で記したとおり、彼女ら7人は「ミリオンライブ」からのゲスト出演である。細かい部分でゲーム本編と差異はあるものの、基本的にはゲームに準拠した設定であり、まさに夢の共演と相成ったわけだ。
 まだこの時点では個々のパーソナリティは明らかになっていないが、そんな中でも一際興奮と緊張が織り交ざった表情を作っていた可奈が、春香から直接挨拶を受けて思わず赤面してしまったり、美希が言うところの「面白くなりそう」な雰囲気が濃厚に漂っていると言える。
 間をおかずアイドルたちは揃いのレッスン着を来て、民宿のすぐ隣にある公民館に集合する。ビシバシ鍛えると宣言する律子に促される形で、リーダーを担う春香が一言挨拶をすることに。皆の前に立つ際に思わず転びそうになってしまうのはお約束であるが、あせりながらも彼女の口から出た言葉は全員集まって合宿を実施できることの喜びと、アイドルとしての成長のため、それぞれの思い出のため、そして応援してくれる人たちのために、かつてない大舞台で実施する今回のライブを必ず成功させようという強い意志だった。

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 描写としてはさらっと流されるような軽めのシーンであるが、ここで春香の述べたこの想いは後半の展開にダイレクトに繋がっていると言うことがおいおいわかってくることとなる。
 そんな春香の想いに応えるように気合を入れる765アイドルであったが、バックダンサー勢はまだその空気についていけず、いつもの円陣を組んでの掛け声に合わせた声も消極的なものだったのは仕方のないところだろう。
 しかし当然だが765アイドルの勝っているものは気合の大きさだけではない。この日は直接のレッスン描写こそなかったものの、激しいレッスンを共に行いながらそれでも体力的に余裕のある様を見せ付ける765アイドルに対し、バックダンサー勢は息も絶え絶えの状態だ。片やメジャーアイドル、片やアイドル未満の候補生である以上、そこに歴然とした差が生じるのは当然であるが、別の見方をすればこのシーンもまた後々の展開に向けられた伏線の一つと捉えることもできるだろう。つまり肉体的な面だけでなく精神的、器や度量といった面における「格の違い」において、である。
 なお蛇足であるが、このシーンでは本来この場にいないはずの亜美と真美が作画ミスで描かれてしまっているということで、公開当時からずっと話題になっていたシーンでもある(765アイドルが中庭を移動する俯瞰カットのシーン)。現在のVideoM@ster版ではさすがに修正されているし、そもそもそのミスがあったからと言って作品が質的に劣化しているなどということは断じてないのであるが、公開時にはそのようなことがあったと記憶しておいても損はないだろう。

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 場面は変わって夕食の時間。皆に合流するためと急いで駆けつけた貴音を加え、夕食を摂る一同。みんなに会いたかったのか、それとも美味い食事を早く食べたかったのか不明な貴音以下、765アイドルたちは用意された海の幸と山の幸に舌鼓を打ちながら楽しく談笑する。完全にリラックスしきった表情でもしゃもしゃ食べる響の姿は印象的だ。
 千早の言うとおり全員で食事をする機会も久々だったようで、それだけでも彼女らの現在の多忙さが理解できると言うものだが、そんな彼女らに反しバックダンサー勢は会話どころか食事を摂ろうとさえしない。いや、出来ないのだ。ハードなレッスンですっかり体力を消耗しきって食欲すらわかない状況になっていたのである。
 そんな中でも何とか食事を摂ろうと箸を出すだけ出す(でもすぐ引っ込める)のが志保というのは、後半の物語にもかかわってくる彼女の厳しい性格=今の苦しさに屈してはいられないという意地のようなものをこの時点で描写していることでもあり、本編でもよく見られたさり気ないながらも的確な描写は本作でも健在であった(食事を摂ることに強いこだわりを持っている美奈子も箸を動かしてはいるが)。
 食べようとしないダンサー組を心配して、春香と雪歩はダンサー組のテーブルに移動し、和やかに話しかける。レッスンはきつかったかという春香の問いに最初こそ言いよどんだものの、奈緒と星梨花は素直にレッスンが厳しく食欲もわかないことを打ち明け、逆に765アイドルはいつもあの練習量をこなしているのかと百合子は質問する。
 その質問に答えたのは雪歩だった。最初は自分もレッスンを全然こなせなかったこと、それでも仲間たちと共に努力し少しずつ上達させてきたことを話す雪歩の言葉には、確かな重みが含まれている。もちろんただ言葉だけではない、美奈子が絶賛した今現在の雪歩の実力あっての重みであることも言うまでもないが、本編を見てきた鑑賞者であればそれ以上の重みが言葉の中にあることはすぐにわかるだろう。11話で挫折しかかりライブ出演を辞退するとまで言った彼女が皆に支えられて努力し続け、流す涙を悲しみから喜びに変えたかつての成果があるからこその発言なのだ。

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 そんな彼女の努力をずっと近くで見続けてきた真や貴音が、立派な先輩アイドルとなった雪歩を褒めるのは当然のことであるが、雪歩は恥ずかしがって思わずいつものように穴を掘りそうになってしまう。ここにも一つの混在する「変わったもの」と「変わらないもの」があったわけだが、その様子をいつもラジオで聞いてるくだりと感心する奈緒と星梨花のセリフからも、色々想像が膨らませられて楽しい。
 そして雪歩のその言葉を受けて志保が目を伏せるのも、後々判明する彼女の考え方を理解する上で重要な仕草であろう。

 夕食を終えた765アイドルは部屋に集まり、ライブに向けたミーティングを開始する。今回は各人の意見も積極的に取り入れるということで意見を求めたプロデューサーに対し、千早を遮って最初に案を出したのは意外にもやよいだった。雪歩と同じく本編での経験を経て実績とそれによる自信を得たからこその発言だったが、そんなやよいをいつもの冗談めかした言葉で褒めたのは、ようやく姿を見せた亜美と真美だ。
 方向音痴のあずささんを無事に民宿にまで連れてくる使命?も帯びていた2人だったが、そのあずささんは空港に着くなり目的のものとは別のバスに乗ってしまったらしく、2人も苦労したらしい。話を聞いて苦笑するみんなの前に謝りながら姿を見せるあずささん。悪戯っぽく舌を出す様が何とも可愛らしい。

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 あずささんが持ってきた差し入れのまんじゅう(モデルは鳥取のお土産である「ふろしきまんじゅう」)を加えつつ、ミーティングを進める一同。春香を中心に色々な案を出しながら進めていく彼女らの姿に、プロデューサーと律子は改めてその成長振りを実感する。しかしアイドルたちのこんな様子を見ていると、自分もステージに立ちたくならないかとのプロデューサーからの問いには首を横に振る律子。今後のためにも今回はプロデューサーに徹するという彼女の言葉からは、何か重大な決意が背景にあることを思わせる。
 765アイドルが元気にミーティングを進めていくのとは裏腹に、ダンサー組はまだ疲労が回復していないようで、明らかに精細を欠いた状態だ。即興で作った歌を歌う癖のある可奈のその歌にも元気は感じられない。一見すればわかるが、皆でまとまって1つのことに取り組んでいる765アイドルと違い、ダンサー組は物の見事にそれぞれがそれぞれ別のことをしており、協調しようという姿勢がまるでない。無論集団行動において必ず全員が揃って同じことをしなければならないというわけではなく、そういう意味では少々極端にも思える描写だが、既に仲間同士強い結束がある765アイドルとの良い対比になっていることは間違いない。

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 その最たるものは、そんな765アイドルの結束に素直に憧れる可奈に対し、志保が否定的な見解を示す点にある。思い返せば夕食時に雪歩の話を聞いていた際、可奈は雪歩の言葉に感動していると取れる笑顔を作っていたが、志保は力なく視線を下に向けるだけだった。
 可奈のそばに落ちている空いたお菓子の袋(つまり可奈が食べた)、つけていたテレビの画面に映し出された春香の姿を喜色満面で見つめる可奈の様子を含め、今後の展開を示唆する重要な伏線が散りばめられているシーンと言える。
 ただそういうシーンではあるものの、杏奈が見ているテレビで流れるローソンのCMに竜宮小町ややよいが出演していたり、あずささんたち3人が到着したとの星梨花の報せを受けた奈緒のはしゃぎぶりなど、楽しい小ネタも充実している。

 一夜明けた2日目の早朝、目を覚ました春香は部屋に千早がいないことに気づく。千早はみんなよりも一足早く起床して、中庭で恐らくは日課の発声練習をこなしていた。2人はそのままランニングに出かける。2人だけの静かな時間が流れる中、一緒に走る春香の横顔を見つめながら、合宿に来てからの春香は目が輝いていると評する千早。
 民宿前の海岸に戻ってきた春香は、リーダーは何をすればいいのかと千早に問いかける。この時点ではさほど深刻に考えた末の質問ではなかったろうが、劇中で今まで春香が他者にこのような相談を持ちかけたこと自体が皆無であり、その意味では23話で千早にだけ少し見せた「甘え」にも通ずる、春香の偽らざる本音だったのだろう。
 そしてそれはいつもの春香でいいと返答した千早も同様だ。歌うことだけを考えて生きてきた自分は、目の前にあるそれ以外の様々なことを見落としてきていたのではないか、それが彼女が写真を撮るようになった理由だった。その本心がここで初めて明らかになったのかどうかは劇中描写を見る限り判然としないものの、21話や24話を見る限り千早も自身の本音を伝えるのに相応の覚悟と時間を費やすタイプの少女であることは間違いないから、恐らくはここで初めて理由を語ったのだろうと思われる。それは同時に春香と千早が遠慮しがちな部分はあっても互いに本音を言い合える間柄だという証左でもあり、後々判明する本作のテーマの一つとも繋がっていく。
 だからこそ春香もライブ以上に、みんなといっしょに一つの目標に向かってがんばれることが本当に楽しいという素直な気持ちを話すことができるのだろう。千早が撮影した春香の笑顔は、背後の海の煌きや昇る朝日の光に照らされ、彼女の気持ちを体現するかのような晴れやかなものだった。

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 2日目も律子指導の下で厳しいレッスンが続く。レッスン中とはいえ振付のタイミング等についてはほとんど差のない765アイドルに比して、ダンサー組の方は明らかにダンスに苦戦しているというシチュエーションが、セリフではなく作画の面だけではっきり描かれている細かさはさすがである。百合子や可奈、星梨花が振付に苦労している様は容易にわかるが、志保も表情から隣の美奈子よりは悪戦苦闘している様子が窺えるのが面白い(実際に志保もダンスはあまり得意でない設定である)。
 律子は美希を指名して振付のお手本を示す。美希の「律子…さん」呼びが健在なのも楽しいところだが、美希のアイドルとしてのポテンシャルの高さが垣間見えると共に、律子の美希への信頼感や期待感と言ったものの強さもわかるのが嬉しい。それを見て伊織が美希に露骨なライバル心を抱いたのは、序盤の事務所でのやり取りのようにいつものことかもしれないが、同時に竜宮小町として特別な関係性を築いてきた律子に選ばれなかったことへの嫉妬も含まれているのかもと考えるのも一興だろう。

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 しかし伊織のように奮起するものばかりではない。美希の、と言うよりメジャーアイドルの実力を目の当たりにしたダンサー組は、百合子を始めとしてむしろ実力の差に意気消沈してしまう。絶妙なタイミングであずささんとやよいがフォローに入るものの、あくまで雰囲気の面での緩和に過ぎず、根本の問題がこの時点では解決できていない点には留意しておく必要がある。とは言えあずささんが百合子を気にかけているように見える点も覚えておくべきかもしれない。

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 そんなレッスンも一旦終わって休憩の時間。真は頭から水を被って「水も滴るいい男」ぶりを披露し、伊織に響、亜美真美に美希は水鉄砲で水遊びに興じる。伊織が美希に露骨に絡む理由を「美希ばかり褒められてうらやましい」と臆面もなく言い当ててしまう亜美真美はさすがと言うところだが、そんな会話の中で出てきた、ライブが終わればまたみんなはばらばらに仕事をすることになるという響の言葉に、聞いていた春香たちの表情は一瞬曇る。当然だが春香の望むような楽しい時間はいつまでも続かない。動きの止まった春香たちを吹き抜けた風は、そんな彼女の想いをも押し流す時の流れそのもののようにも見える。

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 だがそれはそれとして今はまだ合宿の最中。水遊びを続ける伊織たちは現れたプロデューサーに、水に濡れてシャツが透けてしまっている状態の姿を見られてしまう。慌ててプロデューサーは視線を逸らすものの、もう一度見返そうとする悲しい男の性を発揮したためか、伊織に日本語とドイツ語と中国語で罵られながら水をかけられてしまった。
 この罵倒語「この変態、ド変態、der変態、変態大人(たーれん)!」は無印の頃から存在している、ある意味で伊織の代名詞と言うべき罵倒の言葉であり、近作でもゲーム作品ではどこかでこの種の発言をする機会があったのだが、アニメ本編では一切登場せず、どうしたのかと一部の伊織ファンをやきもきさせていたようで、その点ではまさに満を持しての使用というわけである。チアリング上映会ではこの罵倒を受けて「ありがとうございます!」と叫ぶ人たちもいたとかいなかったとか。

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 と言うような幕間劇を経て、挿入歌「ラムネ色 青春」に載せたアイドルたちの束の間の休息が描かれる。川遊びや水着での海水浴から民宿でのダンサー組との交流と言ったシーンは、合宿と言うよりはまさに中高生の修学旅行の一コマという感じで微笑ましい。亜美真美に脅かされて怖がる雪歩や、駄菓子屋での脱力しきった表情の美希、マッサージという新たな特技?を披露する貴音に合宿中の勉強で頭を抱えるやよいなどセリフがない分、画として面白いものが目白押しなのが特徴だ。

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 惜しむらくは765アイドルとダンサー組の交流がここではあまり描かれていないことだが、この一連のシークエンスは時系列を多少省略し、ここだけで合宿2日目の昼から3日目の夕方あたりまでを一気に描写しているので、そのあたりが省かれるのは止むを得ないところだろう。
 そんな中でさり気なくプロデューサーが英会話の勉強をしている描写を盛り込み、今後の展開を暗示している。
 時間は経って3日目の夜、1日目に言っていたとおり真と雪歩は別の仕事のために、律子に送られて一旦合宿を抜ける。合宿の方は翌日4日目に行われる取材についてプロデューサーが通達するが、765アイドルはともかくただでさえ厳しいレッスンに苦労しているダンサー組に取って、さらに未経験の仕事が追加されるわけで、一同が不安げな表情を作るのも仕方のないところだった。
 自動車で送迎中の律子から合宿の感想を求められた真と雪歩は、「楽しい」と素直に感想を述べる。細部こそ異なるものの皆と一緒に一つの目標に向かって取り組めることの楽しさや大切さを理解しているのは春香だけでなく、真たち他の765アイドルも同じなのだ。しかし続く2人の「ずっと合宿していたい」という言葉に、律子は表情を曇らせる。
 それには単に合宿が終わればまた皆が別々の活動に入るからというだけではない、別のもっと重い理由があるのだが、今の段階では律子は黙して語らない。律子にとってもそれは辛い選択であることは想像に難くないが、「ライブを成功させたい」という2人の言葉に表情を緩ませたのは、その前向きな姿勢にいくらか心が救われたからかもしれない。

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 その頃765プロ事務所の入っているビルの一階にある飲み屋「たるき亭」ては、高木社長と小鳥さんが善澤記者を交えて食事中だった。善澤記者も明日の合宿風景取材に参加するとのことで、それを伝えに来ていたのである。
 善澤記者と社長との会話から、2人もまたアイドルたちに伝えていないとある大事な件を知っているようであるが、それについてはプロデューサーに任せているようで直接の関与はしていない様子。14話のラストで見せた姿勢もそうだが、本作の大人たちは基本的に若い世代を見守り、信じて託すというスタイルで一貫している。アイドルに対するプロデューサー、プロデューサーに対する社長や善澤記者と言った具合に。若干小鳥さんがイレギュラーな立ち位置と言えなくもないが、それでもアドバイス止まりで問題解決については当事者に任せるスタンスなのは変わらない。
 この姿勢も一因としてアイドルたちが成長できたのは事実であり、それを理解しているからこそ社長はこの重大な件についてもプロデューサーに一任し、アイドルたちもきっと受け止められると信じているのである。それを傍らで聞きながら小鳥さんが穏やかな笑顔を作るのも、765アイドルの少女たちがトップアイドルを目指して日々成長していく姿を、プロデューサーと同様に近い場所で、それでいて違う視点からずっと見続けてきた故の強い想いから生まれたものなのだろう。
 気心の知れた2人のやり取りを見ていつものように妄想ワールドに突入してしまう小鳥さんの描写はファンサービスと取れなくもないが、本編の後半2クール目ではどちらかというと気の利く有能なお姉さん的な個性が前面に押し出されていたので、特別編に続いてこのような遊びを入れるのは、改めて音無小鳥という人物の多面性を見せる意味でも功を奏しているのではないかと考える。

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 さて翌日、合宿の場にはたくさんのスタッフが訪れての取材が始まっていた。さすがに765アイドルは慣れたもので、別の仕事から戻ってきた真と雪歩も含め、普通にレッスンをこなす一方でインタビューにもしっかりとした内容で答えており、堂々としたその姿勢はまさにメジャーアイドルと言った風格が感じられるが、その一方でダンサー組は慣れない環境に杏奈を始めほとんどのメンバーが完全に萎縮してしまっていた。
 やってきた善澤記者に例の大事な件について聞かれたプロデューサーが、合宿の最後に告げると何かを決意した表情で答えたり、厳しくなってくるレッスンを前に足を軽く痛めてしまう百合子やダンスが遅れ気味になりつつある可奈と言った、次第に着いていくのが難しくなってきたダンサー組の様子など、不安な要素が散見されるようにもなってくる。
 その辺りのことにまだ気づいていない春香は、善澤記者から自分がリーダーに選ばれた理由について質問を受ける。と言っても詳しい理由については春香も聞いていないため、「プロデューサーの近くにいたから」と自分でもよくわかっていないような返答をしてしまう。善澤記者はそんな春香の返事を面白いと評し、「そういうところが必要なこともある」と返す。その言葉の意味は春香にはわからないままだが、理解できていないという点も含めて、春香の今後の立ち回り方を示唆しているようにも見える。
 取材も一段落しつつある頃、伊織は1人きりでいた志保に話しかける。伊織は最初の頃から志保がほとんど1人きりであることを知っていたようだが、志保はライバル同士であるメンバーが仲良くする理由はないのではないかと疑問を呈する。そんな彼女に伊織は落ち着いた態度で、そうは見えない娘もいると注釈をつけながら「みんなをライバルだと思っているし負けたくないとも思っている」と返す。
 深く考えなくても志保の発言は実績のある先輩アイドルに対するものとしてはかなり失礼であり、伊織の性格を考えれば腹を立てる局面であったかもしれないが、伊織は努めて穏やかに自分の考えを伝えていた。この態度そのものが本編を経ての伊織の成長した証であろうし、765アイドル全員がどういうスタンスで「みんなで一緒に目標に向かって歩む」という共通の願いを実現しているか、理解しているからこその発言でもあったのだろう。
 自分を含めた765アイドルが単純な仲良しこよしを求めて活動しているわけでは決してなく、個人の意思と集団での行動の双方を尊重して取り組んでいるということは、竜宮小町のリーダー的立場として他の9人より一歩先んじてトップアイドルへの道を歩いてきた伊織ならよくわかっているだろうし、それとは別にただ前だけを見据えて周りを顧みないことが、少なくとも自分たちにとって正しい選択ではないと言う点も、24話で春香の苦悩に思い至り涙まで流した彼女なら十分承知していることのはずだ。
 そんな自分たちのやり方を押し付けようとはせず、自分たちのスタンスを半ば誤解している志保を諭す程度に留めているのは、伊織が志保との距離感をきちんと理解しているのであろうし、と同時に、志保にかつての自分に近いものを感じたところがあったようにも見える。時系列で言えば本編前半第1クールの頃の伊織はトップアイドルを目指すという上昇志向が強く負けず嫌いの気も前面に出しており、そのため1人で事に臨み失敗してしまうことも幾度かあった。その頃の自分にあったある種の危うさを志保の中に感じ取っていたのかもしれない。またアイドルとして未成熟な志保たちに自分たちの考えを理解なり実践なりするのは難しいという判断もあったろう。
 志保の態度を怒るのではなく気にかけるという面が強いと言うのは、自らの答えを伝えた後の伊織の笑顔からも容易に窺い知ることができるだろう。同時に差し入れの飲み物を渡された志保は戸惑いながらもお礼を述べており、人間的には決して悪い娘ではないと言うことも描出している。

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 取材も終わり1人中庭に向かった春香は、そこで同じく1人、即興の歌を歌っている可奈の姿を目に留める。と言っても歌の内容はがんばってもダンスが踊れないという、お世辞にも明るい内容のものではなかったが、屈託なく可奈に話しかける春香。
 この際の驚いた可奈が食べていたプチシューを落とし、それを春香と共に拾うまでのシーンは、作画上の動きがやたらぬるぬるしているというので話題になった箇所でもある(用語としては2コマ打ちとか1コマ打ちというらしい。ここの場合は2コマ打ちか?)。1秒間に使うコマの数を調整することで見る人に動きの「重さ」を感じさせやすくする効果がある演出技法の1つだが、さしずめ心身ともに疲れ果てている可奈の肉体的、精神的な沈み具合を表現するために原画担当がこの方法を用いたというところだろうか。実際可奈がかなり参っているのは間違いないのだから。
 2人は近くの階段に並んで腰掛け、可奈から差し出されたプチシューを食べつつ言葉を交わす。いくぶん頬を上気させながら可奈はストレスが溜まった時には甘いものを食べ、それでもダメなら自宅の近くにある土手で大声で歌うようにしていると言う。本編を視聴済みの鑑賞者であれば、その内容に春香本人でなくとも春香によく似ていると考えるのは必定だろう。甘いものに関しては今更改めて上げるまでもないが6話や20話で取り上げられているし、春香もまた元々歌うことが好きな普通の女の子だったのだから。
 この少ないやり取りが、春香が可奈を気にかけるようになる要因でもあったのだろう。
 そんな春香に可奈は今の自分の悩みを打ち明ける。教えられたダンスを未だきちんと踊れず、気ばかりあせってまったく成果が出ないと。それは恐らく可奈にとって初めての、アイドル(候補生ではあるが)としての自分に生まれた悩みであったに違いない。そしてその悩みを今まで誰にも打ち明けられていなかったであろう事も容易に想像がつく。ダンサー組は同じスクールの出身とは言えとてもそんな個人的なことを相談できるような間柄にはなっていないし、可奈にとってはそれこそ大先輩である765アイドルに相談するなど、直前まで考えもしなかったのではないか。
 そんな彼女にしてみればその先輩、しかも後述されるが一際思い入れの深い相手である春香に自分の悩みを相談すること自体、彼女にとっては大きな決断であったはずなのだ。そんな可奈の気持ちを理解したのかどうかはわからないが、春香は上達の早さは人それぞれ、何事も一歩ずつだと自身の経験を交えつつ、努めて明るく可奈を励ます。アイドルになりたいという憧れの気持ちをなくしさえしなければいつかきっと出来るという春香の言葉に、思わず春香を見つめる可奈。
 アイドルになってみんなで楽しく歌を歌いたい。幼い頃からその夢を追いかけ、アイドルとなってからもひたむきに夢に向かって歩み続け、仲間たちとのすれ違いの果てにその原初の想いを見失いながらも、皆と想いを繋ぎあってその夢を再び自分の糧とした経験を持つ春香だからこそ言えるその言葉に、可奈も深く感じ入るものがあったようだ。

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 すぐさま上達はしないもののひたむきにレッスンに取り組む意思を取り戻した可奈。そんな可奈のがんばる姿を見つめる春香も幸せそうだ。

 また日付も変わって合宿5日目(と思われるが、実際に合宿の日程がどのくらいなのかははっきりしない。当ブログではBDのファンブックに掲載されていた錦織監督の「取材が入るのが4日目、くらいの感じで考えてます」という発言に則り、5泊6日と考える)、厳しいレッスンが実を結び、律子も納得できるほどには各人とも仕上がった様子。
 最後にきっちり決めて合宿を締めくくろうと言う律子に、プロデューサーは最後だけでも皆と一緒に歌うよう進言する。以前と同じく一度は断る律子だったが、律子の参加を期待する12人の表情、そして律子が踊っているところを見ておきたいというプロデューサーの言葉にようやく律子も納得、少しだけ彼に向けて寂しげな表情を浮かべながらもみんなの列に参加する。

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 披露する曲は「GO MY WAY!!」。歌詞の内容もさることながら、本編では竜宮小町とそれ以外という垣根を越え、765プロアイドルとしての絆を確かなものとした10話のエンディング曲として使用された全員歌唱曲(10話では876プロのアイドル3人も参加)であり、本作があくまでテレビ本編の劇場版であることを考えると、このシチュエーションに非常にマッチした選曲と言えるだろう。

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 律子を中心とした編成で皆が歌い踊るその見事なパフォーマンスは、いつの間にか集まってきた多くのギャラリーやダンサー組を惹き付けるには十分な内容だった。歌い終えた一同は笑顔で拍手するギャラリーに同じく笑顔で応える。本番のステージではないレッスン時のパフォーマンスであっても、そこに集まった人たちを幸せな気持ちにさせられる、彼女たちのアイドルとしての高い能力が改めて明示されたと共に、765アイドルが子供を含む多くの人たちに愛されている存在だということがよくわかる好シーンであった。
 その様子は最も近い場所でずっと彼女らと共に歩み成長を見届けてきたプロデューサーにとっても、感慨深いものであったに違いない。

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 すべての予定を終えたアイドルたちは、夜の夏をひと時満喫する。ダンサー組もだいぶ765アイドルと打ち解けたようで、花火に興じたり一緒にバーベキューを楽しむ姿は見ていて本当に穏やかな気持ちにさせられる。こんな時でもスマートフォンを手放さない志保もだが、食器の片づけを手伝うのがあずささんだけでなく、実家が中華料理屋で看板娘でもある美奈子というのも、各人の個性を生かしたキャラシフトと言えるだろう。
 ちなみに志保がスマホを手放さないのにもそれなりの理由はあり、その辺はCOMIC REXに連載されているコミカライズの単行本第3巻特装版に付属していた付録冊子で断片的に語られている。尤もこの時はその理由でスマホをいじっていたとも考えにくいのであるが、それはそれとしてその付録冊子の内容自体も、この合宿時のダンサー組の様子を補完するものになっているので、興味のある方は一度読んでみることをお勧めする。
 皆が楽しく遊んでいる中、春香に話があると呼びかける可奈。2人きりになったところで可奈は、自分がアイドルを目指したきっかけ、自分にとっての憧れの存在が目の前の先輩アイドルであると打ち明ける。以前の春香との会話の中で「憧れ」という言葉が出た時に、可奈が食い入るように春香を見つめていた理由はこれだったのだ。憧れる想いを失わなければいつかきっと出来るようになる、その言葉を自分が一番憧れている人が口にしたのだから当然だろう。可奈の中でその言葉は値千金、何物にも代えがたい価値のある大切な言葉になっていたのだ。
 自分で自分を指してしまっていたことを知り恥ずかしがる春香に、可奈は持っていたパンダのマスコットにサインを書いて欲しいと懇願する。それはいちファンとして憧れの「春香ちゃん」にサインをして欲しいというミーハー的な気持ちもあったと思われるが、その憧れのアイドルに直接教えを受けたこと、共に一つの目標に向けて努力してきたこと、その思い出の証が欲しかったという気持ちもあったのだろう。自分がアイドルを志した理由、アイドルに憧れたその気持ちを見失わないように、くじけそうになってもそれを支えに出来るようにするため、形となる物を残しておきたかったに違いない。

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 今は春香が憧れられる立場になったと言う千早の言葉に、嬉しがりながらも若干困惑しているような笑顔を見せる春香。人気アイドルという現在の立場を考えればそうなるのはむしろ当然のことなのだが、春香にはまだ今一つ実感がわかないようだ。このあたりは春香の一番の個性でもある「普通の女の子」らしさが窺えて微笑ましい。

 その時律子が全員を呼び集める。庭に集まった一同に対し、プロデューサーはわずかに逡巡しながらも決心したように視線を皆に向け口を開く。彼の口から出た言葉、それは彼がアリーナライブ終了後に研修のため、当分の間ハリウッドへ行くという衝撃的な内容だった。

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 突然の話にアイドルたちも何も言えず微動だにしなかったが、次の瞬間、堰を切ったように口々にプロデューサーに様々な疑問を問いかける。プロデューサーを止めてしまうのか、いつ戻ってくるのか、その間みんなはどうするのか…。
 まくし立てる皆を律子が制した後、プロデューサーは研修行きを決めた理由を静かに語り始める。初めて会った頃から比べると皆は格段に成長し、今もなお歩みを止めることなく次なるステージを登り続けていく。そんな皆の姿を一番近くで見ていたからこそ、自分も一緒に上を目指したい、プロデューサーとして皆をもっと上へ連れて行くために、自分自身もレベルアップしていかなければならない。そのために自分がやれることは何か、考えた末に出した答えがこれなのだと。
 プロデューサーの真摯な言葉にそれ以上何も言えず押し黙る一同。それでもまだ彼の決意を受け止め切れていないのも事実だった。
 ここで考えたいのは比較的年齢の低い層が騒ぎ立て、最年長のあずささんや元々落ち着いた性格の貴音や千早がさほど声を上げていないのは各々の個性に準じた描写と捉えるとして、プロデューサーと個人的なかかわりの強い美希と春香が一切声を上げていなかったということだ。勿論2人とも大きなショックを受けているのだから当然と言えば当然なのであろうが、その受けたショックに対する2人の内面における対処の仕方と言うか考え方のようなものは、2人で大きく異なっているように見受けられる。
 春香は23話を例に考えるまでもなく、自分の悩みはギリギリまで内に抱えて外に漏らそうとしない性格なので今回のこの対応にも得心が行くが、どちらかと言えば感情をストレートに表現するタイプである美希が一言も発しなかったのは、彼女の慕う「ハニー」がそれを望むのならと、この時点であるていど納得したからではないだろうか。
 23話でプロデューサーが負傷し、24話で彼が入院してからも美希は殊更に感情を激発させることはせずいつも通りに仕事をこなしていた。それがプロデューサーのためであり、プロデューサーも喜ぶであろうと考えたから、不安な本心を抑えても仕事に取り組んでいたということはミュージカルの主役の件について彼女が触れているその言葉から容易に理解できるのだが、同時にこれは「ハニーのため」という想いがあれば自分自身の本心、特に恐れや不安と言ったマイナス面の感情も抑え込んで納得してしまう、という点が彼女の中にあることを示唆してもいる。今回もそれと同様の感情の動きがあったのではないか。
 そしてこの時点では描かれないが、「ハニーのため」という彼女にとって最も重要な行動原理が必要ではあるものの、目の前の事象をある程度割り切ることができるという彼女の性格は春香と明確に異なっており、それが美希が春香を意識する理由なのではないだろうか。
 またこの話はダンサー組に取ってはまったく関係のないことなのだが、にもかかわらず765アイドルと一緒にプロデューサーの告白を聞いている。劇中の事実としてはあのタイミングで765アイドルだけを別の場所に集める手間もあるし、こそこそ説明しなければならないほど秘密めいた内容でもないから、全員がいるあの場所で説明することにはさして不思議はないのであるが、それ以外に何かしらの意味を見出すとするならば、彼女らに取っては明らかに1つ上の存在である765アイドルたちも、不測の事態が起きれば戸惑い悩む、等身大の少女でもあるのだという当たり前の事実を認識させる、という視点があったのかもしれない。無論そこまで考慮した上で製作陣がこのシチュエーションを用意したのかは不明であるが。

 部屋に戻っても一同の心は晴れない。律子だけは事前に知っていたから今回のライブはプロデュースに徹すると以前から宣言していた、逆を言えば今の段階ではもうプロデューサーの海外研修は変えられないという事実が、彼女らの心に重くのしかかる。それは12人の誰もが想像すらしなかった未来だった。

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 力なくプロデューサーに文句を言う伊織をいつもの調子で亜美と真美がからかうが、伊織は「寂しいに決まってる」とはっきり本音を口にする。普段であれば絶対にこのような本音など漏らさないはずの伊織のその態度・一言こそが、彼女たちに取ってこの件がどれほど重大なものであるかを皮肉にも改めて自覚させてしまったようで、響ややよいは耐え切れずに泣き出し、感化された亜美と真美も思わず涙ぐんでしまう。このような局面であるが、元々感情表現が豊かな響の個性をキーとして連鎖的に影響を及ぼさせるというキャラシフトは相変わらず絶妙である。
 いつかは別れが来るものと貴音が、プロデューサーの決めたことなら応援してあげたいとあずささんがそれぞれ口にするものの、その考えや想いに対してどう自分たちが立ち回れば良いのかまでは口にしない。いや、恐らく出来ないのだろう。伊織もそうだが精神的に大人の面が強い貴音やあずささんでも、今回の件に相当なショックを受けていることが窺える。尤もあずささんに限っては元々ここでビシッと決断できるような積極果断タイプの人間ではないのだが。
 響は一時的とは言え同じくハリウッドへ行く美希を羨むが、当の美希もセリフこそプロデューサーに向こうで彼女ができないか心配といつもの調子で返すものの、その様子は明らかに寂しげだ。しかし美希は単に彼がいなくなることに対して寂しいと感じているだけではなく、もう一つ別の想いがあったのであるが、この時点では彼女が頭をいじっている仕草も含めて明らかにはされない。
 そんな中で春香は先ほど縁側でプロデューサーと2人きりで話した、そのやり取りを思い返す。
 今度のライブはがんばると宣言はするものの、やはりその表情を曇らせたままの春香は、「みんなそれぞれ進んでいくんですね」と静かに呟く。それは23話でプロデューサーについぞ本心を打ち明けられなかった彼女が、オブラートに包みながらもようやく彼に直接伝えた弱音や不安という本心だった。

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 彼女の気持ちを察したのか、プロデューサーは「未来」についての想いを口にする。未来には可能性も不安もある、それでも自分たちがどこまで進んでいけるのか、その先を見届けたいと。
 それは単なる未来への漠然とした展望ではない。デビューしてからもなかなか芽が出ず悪戦苦闘していた頃から春香たちと共に歩み、彼女たちの成長を一番近くで見続けてきたから彼だからこそ確信しているのだ。彼女らがこれからどんな道を選んでどのような未来を得るのかはわからなくとも、今のこの位置からさらに先へ進めること、今も光り輝いている彼女たちがさらにその向こう、更なる輝きに到達できるに違いないことを。星空を見上げる彼のまっすぐな視線は、そんな彼の未来に対する想いそのものだったと言える。
 傍らで同じ星空を見上げる春香は「この先」という彼の言葉を反芻するも、その表情はまだ寂しげだ。そんな彼女の頭に優しく手を当てたプロデューサーはさらに、「未来は今の延長、だからこそ今を大切に、悔いのないように」と語りかける。

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 今「手を当てた」と記述したが、実際には彼の行為は春香の頭に軽く手を置くような所作だった。なのにわざわざ「当てる」と書いたのは春香に取って彼の言葉と同様、もしかするとそれ以上の価値をこの行為が有しているからに他ならない。
 本編23話を始め幾度か見られた春香のある癖を思い返してみれば、その理由は容易に理解できるだろう。失敗した時や悩んでいる時、それでも自分を奮起させるための行為として描かれていたのが、自分の頭を手でこつんと叩くという彼女の癖だった。その行為を多少無理をしても前に進むためのキーとしていたのである(それで無理をしすぎたのが23話になるわけだが)。
 今回は本来であれば自分でやるべきだったその行為をプロデューサーが行ったということになる。自分の弱りかけた心を発奮させる所作を、当初から自分と近しい価値観を持っていた、「アイドルの天海春香」に取って最も信頼できる相手であるプロデューサーがしてくれた、その事実が春香の心をどれだけ勇気付けてくれたかは想像に難くないだろう。プロデューサーはアイドルを信じてその背中を押し、アイドルはその信頼を背に受けて羽ばたいていく。この理念がアイマスの根底にある「アイドルとプロデューサー」の関係性に対してアニメ版アイドルマスターが打ち出した1つの回答であると本編最終話の感想でも書いたが、その関係性を最も理想的な形で築いてきた2人だからこそ、このやり取りだけで想いを相通じさせることが出来たのだ。
 だから未だ寂しい思いは抱えつつも、彼が安心して研修にいけるようライブを絶対成功させようと笑顔で皆に呼びかけることも出来るのである。悩む皆に明るく、そして迷いなく今の自分たちが成すべき最も大事なことを伝えるその姿はまさしくリーダーとしての正しい姿であったし、皆もそれを受けてようやく笑顔と明るさを取り戻す。

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 明るくなりすぎて何故か枕投げが始まってしまうのは、ほとんどのメンバーが10代の若い女の子なのだと改めて思わせてくれるが、最年長のあずささんが率先して中に入ったり、騒がしくなって注意に来た律子も結局参加してしまうところが楽しい。
 階下で騒がしい声を聞いていたプロデューサーは微笑み、別室の百合子や美奈子たちは夜でもまだまだ元気な765アイドルたちに驚きつつ感心する一方で、春香に書いてもらったサイン入りのマスコットを嬉しそうに見つめる可奈。こちらもこちらで楽しそうには見えるが、765アイドルと比べるとまだ互いに距離を取っているような雰囲気も感じさせる。

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 ついに迎えた合宿の最終日。ご主人と女将さんに見送られて民宿を後にした一行は、そのまま空港に向かう765アイドルと後から帰路につくダンサー組とで別れることとなった。ステージに慣れてもらうため、次に765アイドルが行うミニライブにダンサー組も参加してもらう旨をプロデューサーが伝える中、手を振る春香に笑顔で会釈する可奈。可奈以外のダンサー組もいつもの表情の志保を除いては皆笑顔で、それぞれ何かしら得る物はあったようだ。
 しかし湧き上がる入道雲が先行きの不安を暗示する。入道雲は夏真っ盛りの象徴であるが、同時に夕立=雨が降る前兆でもあるのだから。

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posted by 銀河満月 at 00:27| Comment(0) | TrackBack(0) | アイドルマスター | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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