2015年05月25日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第6話「Finally,our day has come!」感想

 卯月、凛、未央の「ニュージェネレーションズ」に、美波、アナスタシアの「ラブライカ」。5人のCDデビュー決定に伴って発生した騒動もとりあえず一段落し、ユニット名もそれぞれ決定した5人は、いよいよデビューに向けて全力を傾注していくこととなった。
 デビューと一口に言ってもただCDを出すだけではなく、関連するプロモーションも並行してこなすわけだが、その最たるものはCDデビューを記念してのミニライブである。小規模とは言えラブライカの2人にとっては初めて、ニュージェネの3人にしても自分たちがメインとしてステージに立つのは初の体験となるだけに、このミニライブが5人のこれからのアイドル活動を左右する重要なターニングポイントとなっているのは間違いないだろう。
 5話での5人の様子を見る限り、一部に不安を覚えている者はいても具体的に失敗を誘引する要素はほとんど存在していないように見えるが、さて…?

 上述の通り、ニュージェネ3人のレコーディング風景を見ても、特に不安な要因は見当たらない。初めてのレコーディングに卯月あたりは若干緊張しているようだが、未央ともなるとむしろ心底から楽しんで臨んでいる様が容易に見て取れ、3人共に好調なようだ。
 レコーディングした3人のデビュー曲「できたてEvo!Revo!Generation!」も上々の仕上がりのようで、プロジェクトルームでサンプルを聞く3人も、初めての「自分たちの歌」に目を輝かす。

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 後ろで聞いていたプロデューサーも例によって露骨な態度にこそ示さないものの、静かに指でリズムを取っているところからは、彼自身もその出来に十分満足していることが窺える。
 続いて行われるのは雑誌の取材。3人への取材を行うのは、かのアニメ版アイドルマスターを見続けたファンにとってはお馴染みの人物、即ち善澤記者であった。765プロダクションの高木社長や961プロダクションの黒井社長とは若い頃からの馴染みで、いつもアイドルに関する良質の記事を執筆している敏腕記者である。

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 これまでアニメ版アイドルマスターと本作「アニメ版シンデレラガールズ」の世界観が同一のものであるという明確な説明はなかった(と筆者は記憶しているのだが、実際にはどこかの記事のインタビューで軽く触れているものがあるらしい)のだが、2月16日配信分のネットラジオ「デレラジA」における美嘉役・佳村はるかさんによると、善澤記者役の星野充昭氏とアフレコ時に話をしたのをきっかけに世界観の繋がりについて確認を取ったところ、アニマスと本作(デレアニ)は同一の世界観だと説明を受けたらしい。
 今のところはだから何だ程度の話でしかないのだが、後々共通の世界観であることを生かしたエピソードが作られないとも限らないので、覚えておいて損はないだろう。
 そのインタビューも卯月が一番緊張して未央が一番元気がいいのはレコーディングと同様だったが、未央がいつにもまして元気なように見えるのは、この場面で初めて判明したことだが、彼女がニュージェネレーションズのリーダーを務めているからかもしれない。
 劇中で選ばれるシーンが描かれてはいないのでいささか唐突気味ではあるが、確かに3人の中では一番緊張する場面の多い卯月や、性格上どうしても言葉少なになりがちな凛と比して、明るく社交的な性格の未央は最もリーダー的な気質を備えていると言えるだろう。
 件のインタビューも「がんばります」程度のことしか言えなかった2人と違い、ライブやイベントなどこれからの目標を身振り手振りを交えてまくしたて、新人ユニットとしては十分すぎるほどのインパクトを残している。
 インタビューを終えた後もまだしゃべりたかったと呟く未央に、凛はもう十分話したのではと苦笑するが、卯月はそんな未央の姿にリーダーとしての頼もしさを覚えていたことを素直に話す。未央もリーダーとしての責任を自覚した上でインタビューを受けていたようだが、それでもまだ物足りなく感じている様子。それはインタビューの内容だけでなく、インタビュー自体がプロジェクトルームの一角で行われた小ぢんまりとしたものであることも影響しているようだ。
 未央としてはもっと派手な記者会見のようなものを開くかと思っていたようだが、新人アイドルがデビューする時の様子というものを知らない3人は、実際の状況が自分たちの実態に即したものになっているか、今一つ自分たち自身で判断しかねているらしい。
 ふと、自分たちと入れ違いにインタビューを受けているラブライカの2人が気になった3人は、インタビューが行われている部屋をこっそり覗いてみる。
 2人は落ち着いた様子で淀みなくインタビューに答えていた。自分たちのことだけでなく、歌を聴いてくれるファンのことも考えた模範的な回答内容に3人も、そしていつの間にか一緒に覗いていたみりあに莉嘉、みくも感じ入る。

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 だが人数がいきなり増えた上、めいめい勝手に呟き始めたため次第に騒がしくなってきて、最終的には覗き見しているのが見つかってしまった。あまり品のいい行為ではなかったが、以前よりは確実に打ち解けてきたプロジェクトメンバー同士の仲の良いやり取りは見ていて微笑ましいものがあるし、その様子を善澤記者が以前から懇意にしている事務所のアイドルたちと重ねていたら、などというifを考えてみるのも面白いだろう。
 インタビューが終わった後、美波たちのしっかりした受け答えを褒める卯月だったが、2人は実際のところかなり緊張していたと言う。そんな風には見えなかったと感想を述べる凛だったが、2人は実はあらかじめインタビュー内容を想定した練習を行っており、そのために自分たちの伝えたい気持ちをスムーズに話すことができたのだった。
 周到な準備ぶりに自分たちもそうすれば良かったかと若干後悔する3人だったが、インタビューで伝えられなかった分、ミニライブでがんばろうという未央の言葉に、凛も卯月も同意する。
 そこへ現れたのは、3話以来の登場となる美嘉だった。CDデビューが決まったことを聞きつけて、様子を見に来てくれたのである。デビュー決定と発売イベントの実施に、まずは祝福の言葉を送る美嘉。美波やアナスタシアとのやり取りを見るに、美嘉はニュージェネ3人以外のプロジェクトメンバーとも、恐らく第2話の初登場以前からそれなりの親交はあったようだ。美嘉もまた社交的で面倒見の良い性格であるし、身内である莉嘉が所属していることもあって、メンバーと打ち解けるのも比較的早かったであろうと思われる。
 美嘉はイベント中に行うミニライブに向けた練習について尋ねるが、物怖じせず自信満々に答える未央に、少々驚いた表情を見せる。美嘉にしてみれば初のメインイベントだけあって、当然緊張しているものと思っていたのだろう。と言っても緊張していないと言い切れるのは未央だけで、卯月のように普通に緊張している者もいるわけだが。
 そんな卯月をフォローする未央や凛に、美嘉も3人が本番に強いのは自分が一番知っているからと激励するのだった。

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 当たり前だがレッスンに妥協は許されない。今日もベテラントレーナーの厳しいレッスンが行われるが、ニュージェネ3人は個々人のパフォーマンスにまだ結構な差があるようで、特に卯月にはベテラントレーナーからの𠮟咤が飛ぶ。
 それでも決してめげることなくさらにがんばろうと前向きな姿勢を崩さないのは、卯月という少女の強みだろう。
 レッスン終了後に姿を見せたプロデューサーからの指示を受け、3人は衣装室へ向かう。そこにはイベントのために用意された3人の新しい衣装があった。共通のデザインに要所要所のアクセントにはそれぞれのイメージカラー(原作ゲームで言うところの「属性色」)が用いられており、その仕上がりには3人も満足の様子。

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 動きやすさやヒールを履いた状態でのダンスに考えが及んでいるのは、バックダンサーとして一度ステージを体験した故の精神的な余裕があればこそのものだと言える。
 衣装を身にまとった未央は、本番で自分たちが体験するであろうステージに想いを馳せる。3話でのステージで見たあの輝くばかりの光に包まれる光景をもう一度、しかも今度は自分たちがメインのステージで見ることができる。いやがうえにも高まっていくその気持ちは、卯月も凛も同様だった。
 遅れてやってきたラブライカの2人やプロデューサーも3人の衣装姿に目を奪われ、感想を求められたプロデューサーも、相変わらず言葉は少ないものの似合っていると褒める。
 そして美波たちも用意された衣装を着用する。2人に取って初めての自分たち専用の衣装は、ガーリーなデザインのニュージェネ衣装と違い、大人の女性らしさを強調したアダルティなものだった。

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 大胆なデザインの衣装に少し恥ずかしがる美波だが、そんな衣装をきちんと着こなしているあたりはさすがである。凛から似合っているとの言葉をもらい、嬉しそうに微笑むアナスタシア。
 5人の様子を見にやってきたかな子や智絵里、きらりも皆の晴れ姿を喜び、当日も応援に行くと約束する。自分たちを応援してくれるプロジェクトの仲間のためにも、先陣を切る立場として必ず成功させるという未央の言葉に、他の4人も力強く頷くのだった。
 プロデューサーもその日に向けて準備を着々と進めていた。と、その様子を見に部長が彼の居室を訪れる。
 だが単にプロデューサーの仕事を労うだけではないその口ぶりは、アイドルたちも我々視聴者も知らないプロデューサーの何かを知っているようであり、その言葉にプロデューサー自身も何かしら思うところがあるようだった。

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 夜、自分の部屋で未央は学校の友達と忙しく連絡を取り合っていた。5話での友達との会話の中で言っていたように、ミニライブ当日に会場へ来てもらうため、友達を誘っていたのである。
 友達に一通り連絡するだけでもかなり大変な様子で、5話でも見られたとおり、未央の友達の多さや交友関係の広さがよくわかる一幕だ。
 連絡先のアドレスを見ていた未央はふと凛のアドレスに目を留め、特にこれといった用事があるわけではなかったが、凛に電話をかけてみる。
 凛の方は自室でデビュー曲の歌詞を見返しているところだった。見ているうちに気になる箇所が出てきたという話を聞いた未央は、ちょうどそこが3人でのユニゾンのパートであったため、一度3人で意識を合わせておこうと卯月にも連絡を入れる。
 それについては翌日意識合わせをすることになったが、何気ないきっかけとは言え未央が率先して連絡を取らなかったら、凛の懸念を知るタイミングも少し遅れていたわけで、先手を取って動けるようになったのは未央の功労と言えるだろう。
 その後も意識を合わせた上でのレッスンが続くが、どうしても3人の中では卯月のダンスにミスが生じてしまっており、宣伝のために出演するラジオ番組の放送局で待機している時も、卯月は1人ダンスの方に意識が向かっていた。
 3人が出演するラジオとは、デレマスアイドルの1人である高森藍子がパーソナリティを務める「高森藍子のゆるふわタイム」だった。穏やかな性格から独特の「ゆるふわ空間」を作り出すことに定評のある藍子らしいタイトルのラジオで、写真を撮るのが趣味になっている彼女の個性を反映して、ブース内の彼女の机にもトイカメラが置いてあるのが細かいところだ。

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 ラジオ収録後、事務所に戻ってきてからも卯月は1人自主練習を続けていた。決してあきらめずにがんばり続ける卯月の姿勢は1話の頃からずっと描かれてきたものであるが、今はあの時と違い凛や未央という仲間もいるにもかかわらず、彼女は1人だけで練習を行う。
 それはレッスンの時に1人だけ失敗しており、2人に迷惑をかけないようにという配慮からだった。2人の足を引っ張っているかもしれないという負い目もそこにはあったかもしれないが、姿を見せた2人へそう答える卯月に対し、未央は3人でやった方が早いと明るく呼びかける。

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 今の卯月は1人で練習を行うしかなかった1話の頃とは違い、彼女の隣で一緒に歌い踊る仲間がいるのだ。そのことを改めて自覚させてくれた未央や凛に感謝しつつ、卯月は3人で一緒に自主練を継続する。それは仲間の心情を理解した上で力強く引っ張っていける、未央のリーダーシップが遺憾なく発揮された結果でもあった。
 その様子を1人遠くから見つめていたプロデューサーは何を想うのであろうか。

 藍子のラジオ番組でのやり取りをバックに、それぞれのアイドル活動が映し出される。3人のダンスレッスンやサインの練習、5人の宣伝用写真撮影、美波やアナスタシアのボイスレッスンにみくたちのレッスン、仕事の最中にも貼り出された5人のポスターを見やるプロジェクトメンバー、そしてプロデュース活動に余念のないプロデューサー…。
 ラジオの方でもテンションの高い未央が終始他の2人を引っ張っていくスタンスが貫かれている。未央のテンションに2人が感化されたのか、冒頭の善澤記者のインタビューの頃よりは幾分自然な受け答えができるようになっているのは、良い傾向だろう。
 未央の明るさが卯月と凛に影響を与え、そんな3人のがんばりが他のプロジェクトメンバーにも波及していく、そういった正の相乗効果もこのシーンでは描かれていた。
 ちなみにこの一連のシーンの中で李衣菜や蘭子たちが参加している撮影所のシーン(恐らくCMの撮影と思われる)では、小梅を始め数人のデレマスアイドルが登場しているようなのだが、1人もアップで映らないので誰が誰なのか判別するのが難しくなってしまっている。
 一応背中側しか映っていない褐色肌に金髪の少女がライラで、ガールズバンドのうちボーカルが梅木音葉、アコースティックギターを持っているのが有浦柑奈、ドラムが早坂美玲と思われるが、それ以外が誰なのか筆者の方では判断がつかなかったので、興味のある人は調べてみてもいいかもしれない。
 そしてこのシーンを締めくくるのは、ようやくベテラントレーナーからお墨付きをもらい喜びに沸く3人と、そんな3人を祝福する11人というプロジェクトメンバーの姿だった。あの杏でさえも一応は3人を褒めているのだから大したものである。
 仲間たちからの祝福に少々照れながらも、皆の代表として明日のミニライブを必ず成功させると、決意を新たにする3人であった。
 そんな彼女たちデビュー組の衣装の発送準備をしていたプロデューサー。机の引き出しから取り出したペンライトの状態を確認しているところに姿を見せたのはちひろさんだ。
 スタミナドリンクを差し入れつつ、いよいよ明日に迫ったミニライブに想いを馳せる彼女の「お城へ続く階段はまだまだ長い」という言葉に、プロデューサーも言葉少なに同意する。
 今回のミニライブはあくまで最初の一歩。5人がこれから歩んでいくであろうアイドルとしての道のりの一番初めに過ぎないのだ。それがわかっているからこそ、その最初の一歩でつまづくことのないようプロデューサーもがんばってきたに違いない。

 そして今までのところ、プロデューサーのやってきたことも卯月たちのやってきたことにも、まったく問題は生じていない。彼女たちが信じてやってきたことは確実に皆の中に息づき、一定の成果として結実している。このままのペース、このままの意識を維持して臨めば、ミニライブも問題なく成功を収められるというのは疑いようもないことだった。
 その、はずだった。

 ミニライブの本番当日、会場での設営準備は着々と進行していく。
 この会場のモデルとなった場所は池袋サンシャインシティの噴水広場。アイマス関連ではアニマス主題歌「READY!!」及び「CHANGE!!!!」のシングルCD発売記念イベントとしてハイタッチ会が開かれた場所であり、劇場版「輝きの向こう側へ!」の劇中におけるミニライブ会場のモデルとなった場所でもある。
 舞台裏で本番の段取りについてスタッフから説明を受ける5人を見つめるプロデューサー。順番としてはラブライカが先行し、それが終わった後に続けてニュージェネレーションズが出演するという流れになるようだ。
 スタッフとの打ち合わせを終えたプロデューサーは、舞台袖から会場の方を見つめている未央に気を留める。

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 未央はどうやら会場の広さを気にしているようだった。モデルとなった噴水広場からして、周囲の店舗や通路とそれほど距離がないので、あまり人が集まると通行人の邪魔になりかねないという側面があるが、未央はそのことともう1つ、今日のために呼んでおいた友達も邪魔になってしまうのではという懸念を抱いていたのである。
 大丈夫だろうというプロデューサーの言葉を聞いて、とりあえず楽屋へ未央は戻るが、プロデューサーには未央の懸念がそれほど重要なこととは思えなかったようで、少々不思議そうな表情を浮かべていた。
 この時点ですべてに気付けというのは、神ならぬ身であるプロデューサーにとってあまりに酷な指摘であることは言うまでもない。だが逆を言えば、本来なら彼はここに来るまでに「そのこと」に気付いていなければならなかったし、今ここで生じたであろうわずかな違和感を無視してはならなかった。そういう意味で今という時は最後のチャンスでもあったのだが、もはやその機会も失われ、有り体に言えば迎える結末もこの時点で確定してしまったのである。
 未央は楽屋でも友達と連絡を取っていた。クラスの友達全員に声をかけたと言うのだから、卯月が驚くのも無理はない。遅い時間に来て観客の後ろの方になってしまったら見づらくなってしまうというのを未央は気にしていたが、上の階もあるから問題ないだろうととりなす凛。
 3話での経験を踏まえた3人はリラックスしたものだが、今回が初舞台の美波とアナスタシアは当然そんな余裕ある態度を取ることなど出来るはずもない。緊張して表情も硬くなってしまっているところへ、楽屋のドアをノックする音が響く。
 しかしやってきたのは開始の報せを告げるスタッフではなく、陣中見舞いにやってきたシンデレラプロジェクトの仲間たちだった。
 早速差し入れにとお気に入りの店で買ったという大量のマカロンを差し出すかな子。しかしさすがに本番直前にたくさん食べるわけにもいかず、美波と未央は思わず苦笑してしまう。
 ちなみにかな子が持ってきたこのマカロン、ちゃんとモデルとされる商品が存在しており、結構な値段のするものとのこと。モデルの方の値段設定までこちらに反映されていると考えてみると、晴れの日を迎えた5人へのお祝いの品として持ってきたということにもなり、かな子が5人の活躍を我が事のように喜んでいるのがよくわかるシチュエーションになっていた。
 さらに言うとこの時にかな子が発した「美味しいから大丈夫だよ」というセリフは、担当声優・大坪由佳さんのアドリブとのことで、美味しいと何が大丈夫なのかさっぱり不明であるが、いかにもかな子が言いそうな迷言として、声優間でも一時期この言い回しが流行ったそうである。
 続いて智絵里が見せてくれたのは、仕事の都合で会場に来られなかったみく・莉嘉・みりあの3人から送られたムービーメールだった。
 いちいちポージングを取ってくるあたりに何とも言えない可笑しさがあるが、ライバル心を持ちながらも純粋に5人を応援しようという気持ちが素直に伝わってくる内容に、卯月たちも喜びの笑顔を作る。
 さらにきらりが見せるのはなんと杏からの動画メッセージ。そこには自室で布団の中にこもりながら申し訳程度の応援の後に「おみやげ」を期待するメッセージを入れるという、相変わらずだらだらしまくりの姿が映されていた。
 自録りしたのかきらりが撮影したのかは不明だが、ここは昨日のレッスン室でのことを踏まえ、少しは自発的に応援メッセージを送ろうと考えたものと解釈したいところである。
 蘭子や李衣菜も凛に応援の言葉を送る中、今度は美嘉が楽屋に姿を見せる。シンデレラプロジェクトの14人よりは確実に忙しい身であろうに、5人を気遣ってわざわざ駆けつけてくれた美嘉の激励を受け、力強く応じる5人。皆の応援や激励のおかげで、表情の硬さも幾分は和らいだようだ。

 いよいよ開演時間が迫ってきた。プロデューサーの指示のままに、ステージ裏にスタンバイする5人。
 暗い空間の中で5人を前にしたプロデューサーは改まって口を開くが、しかしそこから出てきた言葉は「第一歩です、がんばって下さい」のみ。それは5人が驚きの表情を作り、思わず「それだけ?」と未央が返してしまうのも止むを得ないほどに短い、簡潔すぎる言葉だった。
 結果論ではあるが、やはりこの時プロデューサーはもっと語りかけるべきであった。一言二言で5人の緊張を解きほぐすような魔法の言葉は言えなくとも、内容云々以前にもっと言葉を尽くすべきであったろう。
 ペンライトを携えたプロデューサーに先導され、舞台袖へと移動する5人。ステージ上では既にイベントが開始している中、先陣を切るラブライカの2人はステージのすぐ脇で待機する。
 本番を目の前に未だ緊張を拭えない美波に、傍らのアナスタシアは静かに微笑みながら握手を求めてきた。
 それは緊張している美波を支えるため、というような高尚な考えからの発露ではないだろう。アイドルとして初のステージに臨むのは美波もアナスタシアも同じなのだから、とてもそんな精神的な余裕はないはずだ。
 彼女が手を差し出したのは、自分が常に美波の隣にいることの証、パートナーとして目の前のステージ、そしてその先に向かって、美波と共に歩んでいこうという意思の表れではなかったか。
 うまくやれるかわからない、その先もうまく行けるのかなんてわからない。確かなことはただ1つ、お互いにもう1人ではないということ。これからはどんな時でもずっと2人一緒に歩んでいく、歩んでいける。それを今、この瞬間に確かめ合うための握手であったに違いない。
 強く握りあった2人の手をかすかに照らす光は、彼女たち「ラブライカ」をきらめくステージへと誘う一筋の道標のようにも見えた。

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 一方、ニュージェネレーションズの3人も自分たちの番が来るのを待っていた。自分の中に次々湧いてくる不安を抑え込むかのように、言葉で心を奮い立たせようとする卯月。
 そんな卯月の肩に優しく手を乗せた未央は、いつもの明るい調子で卯月を励ます。ステージに行けば楽しいことが待っていると話す未央、そして凛の暖かい励ましを受け、卯月は2人の心遣いに目を潤ませながら、やっといつもの笑顔を取り戻した。

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 そしてついにラブライカがステージに立つ瞬間が訪れた。司会の女性に促されてステージに飛び出した2人はまばゆい光に包まれる中、彼女たちのデビュー曲「Memories」を熱唱する。

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 まだ内心に緊張は残っているはずであるがしっかりとしたパフォーマンスを披露する2人に、ステージの脇から覗きこむシンデレラプロジェクトのメンバーたちも一様に笑顔を浮かべる。そんな中でも記録のためか後の宣材写真として使うためか、黙々とステージ上の2人を撮影しているプロデューサーの姿が印象的だ。
 さてこのライブ、途中から話の演出としてこのラブライカのステージと、その次に行われたニュージェネレーションズのステージとが交互にインサートされる構成となる。純粋にラブライカのステージを最初から最後までしっかり見たかった人にとっては、残念と言わざるを得ない構成であるが、こればかりは次回以降の話の中で、いつかきちんとライブシーンが描かれることに期待するしかないだろう。
 だがもちろん無意味にこのような構成にしたわけではない。
 ラブライカのステージもニュージェネのステージも、色調こそ違うものの眩しいライトに照らされているのは同じだし、パフォーマンスも新人としては十分及第点だろう。それぞれのユニットを見つめるプロジェクトメンバーや美嘉の表情も終始笑顔のままだ。
 しかし写真を撮り続けていたプロデューサーだけが、ある違和感に気づく。ラブライカの2人に比して、ニュージェネの3人の表情から明らかに覇気が失われていたのである。

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 その理由は後ほど記すとして、先ほど書いたとおりラブライカとニュージェネのステージで特に大きな差異は存在していない。照明の明るさも各人のパフォーマンスのレベルも、そして彼女らを見やる観客の数も。
 にもかかわらずラブライカとニュージェネとで明らかな差異が発生してしまったのは、外的な要因によるものではなくニュージェネ3人の内心の問題に起因しているということを、この演出で浮き彫りにしているのである。

 歌い終えたラブライカの2人は観客からの拍手に手を振って答える。その表情は初めてのライブをやり遂げた達成感や満足感といったものに溢れたような笑顔だった。
 しかし対するニュージェネレーションズの3人は、同じように観客からの拍手を受けているのにもかかわらず笑顔を浮かべていない。未央に至っては明らかに茫然とした状態になってしまっており、観客への挨拶さえもろくに行えない有様だ。

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 未央に代わって凛が率先して観客に挨拶をしたところへ、未央を呼ぶ声が聞こえてくる。ハッとした未央がわずかに視線をさまよわせながら捉えたその先には、未央を応援するクラスメートたちの姿があった。5話の冒頭で話していた通り、彼女のための横断幕を持って。
 その様子を見た未央は何かに耐え切れなくなったのか、そのまま足早にステージを降りてしまった。卯月は慌てて未央を追いかけ、凛もわずかに観客側に視線を向けながら、意を決したようにステージを降りる。
 ステージ裏ではライブの成功を祝うスタッフからの拍手を受け、美波とアナスタシアが喜びをかみしめていた。そう、端的に見て今回のライブは十分に成功と言える内容であり、それはニュージェネレーションズの方も同様だった。正確に言えばライブ中の時点で様子がおかしかった未央に気を取られたと思われる卯月が若干ダンスをミスしていたが、先述のとおり新人としては許容範囲の出来であろう。
 しかし未央は件の状態に陥ってしまっており、仲間たちの呼びかけにも応じようとせずに歩き去ってしまう。ただならぬ様子にプロデューサーは未央の後を追い、何があったのか問いかける。
 未央は語気を荒げてプロデューサーに問いただしてきた。なぜお客があんなに少ないのかと。しかし新人アイドルのプロモートであるミニライブとしては十分な客の入りと認識しているプロデューサーには、未央の問いかけの意味するところがわからない。
 未央は自分が参加した「前のライブ」、すなわち美嘉のバックダンサーとして参加した時のライブにおける客の入りと比較していたのである。ここに至ってようやくステージ入りした時の、つまりBパート冒頭で観客側を見ていた未央の言葉の真意を理解するプロデューサー。
 あの時のライブと比較してお客が全然入っておらず盛り上がってもいないことに、未央は強いショックを受けていたのだ。
 客観的に考えてみればそれは当然の話である。よっぽどデビュー前から注目されているような逸材でもない限り、無名の新人アイドルに一般人がそれほど目を留めることはないはずであり、その意味では確かにプロデューサーの言ったとおり、今回のライブは新人アイドルのデビューイベントとしては十分すぎるくらいの人に見てもらえたと考えるべきところであろう。
 しかし残念ながら未央には「新人アイドルのデビューライブ」がどのようなものかが全くわかっていなかった。それもまた無理もない話ではある。彼女が出演する側として体験したライブは先述のとおり、美嘉のバックダンサーとして出演したライブだけであるし、そのことを彼女に教えてくれる者もいなかったのであろうから。
 何も殊更に「自分の力ならあれだけの客を集められる」という自惚れがあったわけではないだろう。自分の能力や周囲の援護と言った要因とは無関係に、観客はどんな時でもあれだけ集まって盛り上がるものなのだと思い込んでしまっていたことは想像に難くないし、その考えを是正できるだけの知識も経験も彼女は持っていなかったのだ。
 そしてこれは未央1人の問題ではない。ライブ中は未央だけでなく、卯月も凛も一様にその表情からは覇気が失せてしまっていた。つまりは彼女ら2人も程度の差こそあれ未央と同様の思い込みを抱いてしまっていたのである。
 それは3人の思い浮かべる観客像が等しくあのライブの時のものであったり、やってきた友達が後ろの方になってしまったらどうしようという未央の心配に、上の階もあるからと「一階の観客側が満杯になる」ことを前提で話していた凛の描写などからも明白だ。
 その思い込みを今というタイミングになるまで抱き続けたのは確かに誤りであった。だがここで考えなければいけないのは、その思い込みそのものが誤りであるか、悪いことであるのかという点である。
 確かに安易であるし、自分たちに都合のいい思い込みである点は否定できない。しかし思い込みであっても、それを自分たちの拠り所として夢や目標にすること自体は決して悪いことではないのも確かである。現に彼女たちはその光景を再び見ることを目標の1つに据えて日々努力してきたのだし、本番は残念なことになってしまったが、パフォーマンス自体はレッスンの段階で一定の水準にまで到達していたのも事実なのだから。
 もちろんその意識が最終的に今回のような事態を引き起こすことになってしまうのだから、中途で3人のその思い込みを修正しなければいけなかったのだが、それさえも本来であればさほど苦もなく自分たちで思い込みの誤りに気づき、修正することもできたのかもしれない。3話のアバンで見せた凛の独白は、自分の置かれている環境や状況が本当に間違いのない、自分たちにとって適当なものであるのかを省みていたことに他ならないわけで、それを3話の時点で実践出来ていた事実は、この仮定を補強するのに必要十分な理由と言える。
 しかし今回に限ってはそれは無理なことだった。彼女ら3人は「デビュー」という大きな目標に向かってひたすら走り続け、立ち止まって自分自身を省みる余裕などなかったのだから。もう少しアイドルとしての経験を積んでいれば、それなりに器用に立ち回れたのかもしれないが、デビューすらしていなかった3人にそれを期待するのは酷な話であろう。
 彼女たちはずっと本番まで一直線に走り続け、本番の最中に「現実」を思い知ることでようやく自らを省みる機会を得られたというわけだ。まさに皮肉と言う他ない、辛い現実である。
 まして未央はリーダーとして他の2人を引っ張り、デビューできていない他のプロジェクトメンバーの期待も背負い、まさに中心となってがんばってきた。だからこそ常に中心にいて皆を引っ張ってきた自分を突き動かしてきたものの一つが、自分自身の浅慮な思い込みであったことを知った時のショックは、計り知れないものがあったのだろう。実現性に乏しい思い込みを元に皆を引っ張ってきたことにもなるのだから。
 もちろん未央1人の責任に帰されるような問題ではないのだが、少なくともあの時、ステージ上で歌い踊っている自分自身の姿に、これ以上ないほどのみじめさを覚えていたのは間違いないだろう。その意味で今回のステージは未央にとって完全な「失敗」だった。
 そんな滑稽な自分が演じてしまった「失敗」のステージを友達が応援してくれていたという事実は、余計に未央を苦しませる結果となってしまったのである。
 誤った思い込みをしていたという点では凛も卯月も同じだが、未央は2人とは微妙に異なる立場で走り続け、この本番に臨んでいた。それが2人よりもずっと強い衝撃を未央に与え、プロデューサに対し声を荒げてしまうような結果を生じさせてしまったのだ。
 だが未央は単純に責任転嫁をしたくでこのような行動に出たわけではない。むしろ自身を「バカみたい」と自嘲気味に形容したり、プロデューサーからの指摘に図星を突かれたかのように視線をそらす仕草から見ても、ただ誤った思い込みをしていたというだけでなく、それを根拠にして凛や卯月を引っ張ってきてしまったこと、ショックを受けていたためとはいえステージを「失敗」させてしまったことも含めて、この件は自分に非や責任があると明確に自覚していることがわかるだろう。
 今話における未央の立ち回りや言動を追っていくと、ただ単純に明るく元気にふるまっているように見えて、仲間を気にかけたり周囲に気を配ったりと、彼女のクレバーな面がかなり強調して描写されている。
 今話はニュージェネ3人のデビューの準備が順調に進んでいく中に、3人が誤った思い込みを抱いているという点を指し示す伏線がいくつか張られているが、それと同時に未央はステージを「失敗」に終わらせてしまったのは他の誰でもない、自分の責任であるということを自分自身で悟り自省する賢さを持ちあわせているという点についても伏線、というより細かい描写を積み上げて明示していたのだ。
 だが頭ではそうとわかっていても、内からこみあげてくる激情を抑えることは、未央には出来ようもなかった。
 それもまた無理からぬことであったろう。彼女はまだ15歳の女の子、自分の感情を制御できなくても仕方のない、年端もいかぬ子供なのだ。理屈でわかっていてもそれでも感情的になってしまうのは、年齢を考えればむしろそれが当然と考えるべきところである。
 やり場のない激情を未央は誰かにぶつけることでしか解消できなかったのだろう。だからと言ってニュージェネの2人やプロジェクトの仲間にそれをぶつけることなど、未央の性格から言っても出来るはずはなく、そうなるとぶつけられる相手はプロデューサーだけだったのだ。
 彼女はプロデューサーが優しく説得してくれることを望んでいたのか、または厳しく叱咤されることを覚悟していたのか、それはわからないが、少なくとも自分自身が持て余してしまっている激情を彼に受け止めてほしかったというのは間違いない。
 ここでプロデューサーが未央に適切な対応を取れていれば、反省すべき点は多々あるものの未央も現状に納得し、次に向けてすぐ走り出すこともできたろう。
 しかし未央に向けたプロデューサーの言葉は説得でも叱咤でもなかった。「今日の結果は当然のもの」という説明だけだったのである。
 今日の結果。それは先ほどから何度か書いている通り、未央に取っては文字通りの「失敗」であったし、そんなことは今更教えられるまでもない既知の事実、誰に言われるまでもなく未央自身が痛切に自覚していることだった。
 それを単に繰り返したにすぎない、ただ「それだけ」の言葉は、未央にしてみれば今の自分をはっきり突き放された、否定されたのと同義であったろうことは想像に難くない。
 未央にとっては誤った思い込みをしていたこと以上に、それにより「失敗」してしまったこと以上に、プロデューサーに否定されたという事実が衝撃的だったのだ。だからその言葉を聞いた刹那、抑え込んでいた最後の感情を涙という形で溢れさせたのである。
 それは何をやっても変われない、もう自分は何をしてもやり直せないという気持ち。溢れ出た「諦念」の感情は、後に続くと思しきプロデューサーの言葉を遮り、未央に言ってはならない一言を言わせてしまう。

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 「アイドルを止める」。そう叫んで未央は走り去ってしまった。後を追う卯月に続こうとする凛は一瞬プロデューサーを見やるが、すぐに厳しい表情を向けて未央を追っていく。
 凛の表情がプロデューサーの未央を追おうとしない態度に向けられたものであるのは明白だが、彼は彼で未央の言葉にショックを受けていたようで、彼もまたある意味茫然としてしまっていたのかもしれない。しかしそんなことに凛がいちいち注視していられるような状況でないのも確かだった。
 プロデューサーにしてもその最後に未央に何かを言おうとしていたことを考えるまでもなく、未央を追い詰めたりましてや叱責するために件の言葉を告げたわけではないだろう。しかしあのタイミングであの言い回しは完全な悪手だったと言わざるを得ない。いつも言葉少なな彼なりに、未央のためを思って話をしたのだろうが、それが完全に裏目に出てしまったのである。
 5話では失われつつあったみくとの信頼関係を、彼が話をすることで取り戻していたが、今話ではその彼の話のせいで未央との信頼関係を失うこととなってしまった。行為は同じながらもそれによって生じる結果は正反対になってしまう、5話と6話のこの構造はあまりにも痛烈な対比だ。
 そして未央が最終的にアイドルを止めるとまで口走った直接の要因も、結局のところはプロデューサーへの信頼感を失ったためである。今話中には未央を追いつめる様々な要素が存在していたが、越えてはならない最後の一線を未央に越えさせてしまったのは、プロデューサーを信じられなくなったからだった。
 誤った思い込みもステージの失敗ももちろん深刻な問題であるのには違いないが、それはあくまで今の未央を取り巻く現状に対する問題であり、やり方次第でいくらでも回復できる、やり直せるものでもあった。そういう意味では大きな問題ではあれど、それほど尾を引くような問題ではなかったとも言える。
 未央にとって一番大きな問題、そして今話、引いては本作が定義した最も重要な問題が、「プロデューサーへの信頼感を無くす」というものだったのだ。
 それは言うまでもなく、今まで何度となく述べてきたアイドルマスターという作品の根幹を成す「アイドルとプロデューサー」の関係性が喪失してしまったことに他ならない。拠って立つべき最も原初の、そして大切な関係が失われてしまった事実が、未央にあったアイドルに対する想いをも打ち砕いてしまうのは、必然的な流れであったと言わざるを得ない。
 今話の展開は、最終的に未央とプロデューサーの「アイドルとプロデューサー」という関係性を喪失させる、そのためだけのものであったと言える。今話で一番描きたかったものとはライブを開始するまでの過程ではなく、その過程の中での各人の心の変遷でもなく、誤った思い込みに端を発する微妙なズレや、それが拡大した末に迎えてしまう「失敗」でもなく、最後の「喪失」であった。
 極論すればそれ以外のすべての要素がラストの喪失のために用意された伏線、ファクターであったと言える。ライブシーンの演出や未央の激昂と言ったインパクトのあるシーンに隠され、パッと見ただけではその意図がわかりにくく仕上げられているのは、信頼という繋がりの儚く脆い一面を強調するためであったように見える。

 誰もいなくなったステージに浮かび上がるのは、かかとがひび割れ折れたガラスの靴。
 一度壊れたら二度とは元に戻らないガラスの靴のように、一たび失われた「アイドルとプロデューサー」の関係性は、二度と再び蘇ることはないのであろうか。



2015年05月18日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第5話「I don't want to become a wallflower」感想

 今話のサブタイトルに使用されている「wallflower」という言葉、辞書を引いてみると植物の名称としての意味以外に、口語として「ダンスパーティーなどで社交的に相手にされない人」という意味もあり、主に若い女性に対して使用される、とある。転じて「仲間に入れてもらえない人」という意味も存在するようだ。
 本来なら多くの人に注目してもらえるはずの美しい綺麗な存在=花であるにもかかわらず、ただそこに飾られているだけの存在に堕してしまった壁の花は、誰にも目を向けてもらえないし誰からも相手にしてもらえない。その意味では「花」と形容されるほどの魅力を湛えている人物が存在を無視されるという状態を的確に表した言葉と言えるが、それはあまりに酷な現実でもあろう。
 まして同様の魅力を持った、しかし「壁の花」ではない花が近くにいれば尚更だ。
 前話のラストでシンデレラプロジェクト所属メンバーのCDデビューを発表したプロデューサー。しかしその口から出た対象の名前は卯月、凛、未央、美波、アナスタシアの5人だけだった。2話でのバックダンサー起用の時よりもはっきりと、より大きな差を見せつけられてしまった残りの9人が複雑な想いを抱くのは、むしろ当然のことであった。
 サブタイトルが示すとおり、彼女たちがそのまま「wallflower」となってしまうことを望むはずもない。5人と9人が何を考えどう振る舞うか、そしてそんな彼女らを支える立場のプロデューサーはどう接していくのか。それが今話の中で描かれることとなる。

 突然のCDデビューの報に、全員言葉もなくしばし固まってしまうが、次の瞬間未央が喜びと驚きの入り混じった声を上げて卯月に飛び付き、卯月も嬉しさを爆発させて、ユニットメンバーとなる凛と未央に抱きつく。CDを出すということはすなわちアイドルとしての本格的なデビューを意味しているのだから、嬉しくないはずはない。そんな3人をかな子やみりあたちが祝福する一方で、美波とアナスタシアはまだ戸惑いを隠せない様子。
 しかしそれは冒頭にも書いたとおり、卯月たち5人と残りの9人との間に明確な差が開いてしまったことでもあり、素直に5人を祝福できない者が出てくるのは止むを得ないところだろう。
 真っ先に不満を訴えたのは莉嘉だった。5人のデビューを羨み、自分もCDを出したいとストレートに訴えるのは、大人よりも自分の気持ちに忠実に動く存在である子供だからこその発言と言えるが、歳の近いみりあと態度が完全に異なっているのは、莉嘉の方には「姉である美嘉のようなアイドルになりたい」と、みりあより具体的な憧れの対象が存在しているからなのだろうか。
 このあたりは4話でのPR動画撮影中に2人がそれぞれ話した目標の中で触れられていることでもあり、その時に垣間見えた2人の差異が、そのままアイドルというものに対する2人のスタンスの違いとなって反映されている。

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 そしてそんな莉嘉と同様の気持ちを、程度の差こそあれ他のメンバーが抱いていたというのは、彼女の言葉を受けて皆一様に顔を曇らせた点からも明らかだ。
 特に「皆」と書いたとおり、卯月たちCDデビュー組も莉嘉の言葉に表情を曇らせているという事実は重要だ。同じプロジェクトに所属しているのにもかかわらずアイドルとしてのデビュー時期に差が生じたのであれば、選ばれなかった方が自分はいつになるのかと考えるのは、一般的な人間の思考として当然のことであるし、一つボタンが掛け違っていたら卯月たちが今の莉嘉の立場になっていたかもしれないのだから、卯月たちにしても決して他人事ではない。

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 卯月、凛、未央の3人に絞ってみても、卯月と未央はアイドルオーディションの落選経験があるし、アイドルになりたいという想いを今まで持ってこなかった凛にしてみれば、莉嘉は自分よりもずっと以前からアイドルに強い憧れを抱いてきたのはわかりきったことなのだから、「憧れ続けてずっとがんばってきたのに選ばれなかった」莉嘉の気持ちがわからないはずはないのだ。
 莉嘉に続けてみくもプロデューサーに自分たちの今後について尋ねるが、プロデューサーは「企画検討中」と答えるのみだった。

 OP後に映されるのは、デビューが決まった卯月たち3人のプライベート風景だ。
 登校前の朝食中だった卯月は、母親から残り物のケーキを出される。「昨日の残り」という母親の言葉から察するに、昨日夜にでも家族揃ってCDデビューが決まったお祝いでもしたのだろうか。卯月の家庭がごく普通の、幸せな家族生活を営んでいることがここから窺えて非常に微笑ましい。
 しかしそのケーキに残っていた「CDデビューおめでとう」と書かれたチョコプレートを見やった卯月は、ふと真顔になる。アイドルとして本格的にデビューする以上、ただ嬉しいという気持ちだけでは務まらないことを、卯月は3話のライブで十分に学んでいた。だからこそ今ならある程度は理解できる、「CDデビュー」という言葉が背負う重さを一瞬、卯月は深く噛みしめたのであろう。
 対する凛の家では彼女がまだ親にデビューの件を報告していなかったようで、凛が登校しようと家を出る直前になって、ようやくデビューの件を切り出していた。これからは花屋の仕事をあまり手伝えなくなるかも、という回りくどい前置きの後にデビューのことを説明するのは、多少の気恥ずかしさを隠すためというのもあったのかもしれないが、基本冷静な凛らしい報告の仕方であった。
 そんな凛に反して、未央は学校の教室で多くの友達にデビューの件を知らせていた。たくさんの友人に囲まれながら笑顔で報告する未央の図は、彼女の交友関係の広さとクラス内での「人気者」という立ち位置を的確に描出しており、2話で彼女がプロデューサーにおう向けて放った「学園のアイドル」発言も、あながちいい加減なものではなかったと考えられよう。友人たちもライブをやるなら横断幕を作って応援に行くと発言しており、未央との仲の良さが十分伝わってくる。
 そんな3人の登用について、若干懐疑的な意見を述べたのはちひろさんだった。美波やアナスタシアに比べてプロジェクトへの参加時期が遅く、レッスン等もまだまだ不足気味な3人に対して不安を抱くのはむしろ当然だとも言えるが、プロデューサーもそれは念頭に置いた上で決断を下していた。
 もちろんその決断には理由がある。1つは3人のイメージに合った曲を作れる、部長の言葉から察するにかなり多忙なベテラン且つ売れっ子の作曲家に仕事を依頼出来たこと、そしてもう1つは3話におけるライブで3人がそれなりの実績を上げ、わずかではあるがその存在が衆目に知られるようになったことだった。言わば偶発的な幸運と3人が自分たちの力で得た成果が融合して相乗効果が生まれる今というタイミングこそ好機と、プロデューサーも部長も考えたのである。
 これがシンデレラプロジェクトとしての初の本格的な対外活動なだけに、部長も会社人の立場から期待の言葉を送り、プロデューサーも神妙な面持ちで頷く。

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 デビューとなればただCDを出すだけで終わるはずもなく、関連イベントやキャンペーンを実施することになる。そしてその中には当然、「ライブ」も含まれていた。
 発売イベント内のミニライブではあるものの、ライブを実施する予定があると聞かされ、3人はにわかに色めき立つ。3話でも若干触れたがやはりライブはアイドルの仕事としては花形であるから、3人が興奮するのも無理もないところである。
 ところがそんな3人の前に、またもやみくが立ちはだかった。3話での出来事を再現するが如く、今度は莉嘉とみりあも引き連れてデビューを賭けた勝負を挑んできたのである。

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 さしずめみくと同様に早くデビューしたい莉嘉がみくに共感し、みりあがそれに乗っかってきたというところだろうが、みくに合わせて2人ともネコ耳をつけているのが、当人たちの真剣さとの何とも言えぬミスマッチ感覚を醸し出していて面白く、何より単純に可愛く描かれている。
 と言ってもその勝負の内容は3話でのジェンガやルービックキューブと同じで殺伐としたものではなく、今回はいわゆる「黒ひげ危機一発」のネコバージョンを使っての勝負だった。
 未央1人ではなく卯月や凛も巻き込んでの勝負になったようだが、ついにみくが初勝利を果たす。喜んで自分たちをデビューさせるようプロデューサーに進言するみくだったが、当然このようなやり方での要求を素直に受けられるわけもなく、プロデューサーも困惑するばかり。そこへ現れたベテラントレーナーが、実はレッスンの途中休憩中であった3人を連れていったため、勝負も賭けも結局お流れになってしまう。
 傍から見るとあまり真剣にやっているようには見えないが、未央も含めて当人たちはあくまで真面目にこの勝負に臨んでいるのは画面から容易に見て取れ、その結果が実際に自分たちの今後に影響を与えるかどうかはともかく、少なくとも今のみくたちに取っては何かをしないではいられない、という心境なのだろう。一番最後に加入しながら一足飛びにデビューまでこぎつけた面々が目の前にいるわけだから、心中穏やかでなくなるのも無理からぬところであった。

 3人とプロデューサーが向かった別のレッスンルームでは、先に美波とアナスタシアがボイスレッスンを受けていた。入っていた3人に向かって挨拶するボイスレッスン担当のトレーナーの顔を見て、ベテラントレーナーやルーキートレーナーとの相似ぶりに、未央も卯月も驚きの声を上げる。

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 原作ゲームにおけるトレーナー四姉妹の三女である「トレーナー」さんの登場と相成ったわけだ。本名は「青木明(めい)」と設定されている彼女は、ゲーム中では他の3人に比べてプロデューサー(プレーヤー)と親密な関係が強調されている節があるが、本作中では単なる指導者以上の役割を与えられるのか、興味をそそられるところである。
 ちなみに担当声優は姉のベテラントレーナーや妹のルーキートレーナーと同じく藤村歩さんで、音域はベテトレさんに近いものの姉より大人しめのトーンにして差別化させている演技はさすがである。
 卯月たちがボイスレッスンに臨む一方で、みくたちはようやくレッスンを終えていた。また3人と勝負しようと簡単に持ちかける2人を、遊びではなくアイドル生命を賭けた真剣勝負と諭すみくからは、前述の通りその内容は子供じみていながらも、当人にとっては極めて真剣な考えの下に勝負を挑んでいたことがわかると同時に、4話でのPR動画撮影の流れから、年少コンビである莉嘉とみりあのお姉さん役を担っていることも窺える。
 そんなみくの言葉に疑義を挟んだのは、かな子や智絵里と共に姿を見せた李衣菜だった。アイドル生命云々以前にアイドルらしいことをまだ何もやっていない、勝負に勝ってもCDデビューはできないという意味で「でも負けたんだ」と返す李衣菜の言葉はなかなかに辛辣だが、それは取りも直さず自分自身のことでもあり、それを臆面もなく口に出来るのは、現実的と言うよりみくたちの現状がイコール自分のことでもあるという認識に乏しいからかもしれない。
 だから莉嘉の「CD出したくないの!?」という言葉には、簡単に二の句が告げなくなってしまう。それはかな子や智絵里も同様だった。

 卯月たちは美波とアナスタシアのデビュー曲のオケを聞かせてもらい、それぞれに感想を伝えていた。今の段階ではその全容は明らかにされないものの、わずかに聞こえるその曲は美波の言うとおり、かなりカッコいい部類に入る曲のようだ。曲の雰囲気を流星に例えるアナスタシアも、星を見るのが好きな彼女らしい表現と言える。
 そこへまたもやって来るみく、莉嘉、みりあの3人。先ほどの李衣菜たちとのやり取りを記憶していれば、その内に極めて真摯な想いがあるということは十分理解できるのであるが、変にポーズを取って姿を見せるその様子は、相変わらず傍目には真面目なのか何なのか分かりづらい。
 そして今回は3人だけでなく、先ほどのやり取りで感化されたのか、李衣菜やかな子、智絵里まで一緒に姿を見せたため、未央はその人数の多さに思わず焦ってしまう。と言っても今回は今までのように勝負を挑みに来たわけではないようで、みくは美波とアナスタシアにある交渉を持ちかけてきた。

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 その内容とは、現状2人で組んでいる美波とアナスタシアのユニットに3人目として加わりたいというものだった。対する卯月たちのユニットが3人構成なのをヒントにして、みくなりに攻め方を変えてみたというところか。子供じみた勝負の結果にデビューを委ねるよりは、いくらか現実的な案と言えなくもない。
 で、その3人目を誰にするかということで、早速美波たち2人にもネコ耳をつけさせ、部屋を訪れたプロデューサーに3人でアピールするみく。恥ずかしがりながらも一緒にネコっぽいアピールをさせられる美波の姿からは、4話でのPR動画撮影同様に強引な説得を真に受けて一緒にやる羽目になったのであろうことが想起され、それでも断らないところに彼女の前向きな姿勢や押しに弱い一面といった多面的な個性が垣間見える。
 対するアナスタシアの方はアピール自体がどういうものかを理解していないようで、みくに言われるがままにネコアピールを行うが、逆にそれが却って彼女の無垢な可愛らしさを発揮させていて非常に素晴らしい。
 ちなみに原作ゲームでみくとアナスタシアは「にゃん・にゃん・にゃん」というネコ耳コスプレユニットを幾度か結成しており、そちらでの設定に準じてみくがアナスタシアを「あーにゃん」と呼んでいたりと、多分にこのゲーム版ユニットを意識した要素が含まれている。いつかこの2人に3人目である「のあにゃん」こと高峯のあが加わる日は来るのだろうか。
 しかし突然見せつけられた方のプロデューサーは困惑するばかりだし、李衣菜からはあざとすぎるとダメ出しを受けてしまい、どうにも成果は芳しくない。
 だが当の李衣菜の出したロックな案、と言うか想像図はいわゆるガールズバンドだし、莉嘉の方はロシア語が分からないからとアナスタシアに「なんちゃらなんちゃら」と言わせているあたりに子供らしさを残っているものの、3人揃って丈の短いセーラー服姿のかなり妖しい取り合わせと、それぞれとてもアイドルユニットと呼べるものではなかった。
 ついにはみくと李衣菜が言い合いを始めてしまうその横で、かな子たちに事情を問いただしたプロデューサーは、ようやくみくの考えを知る。しかしそれは当初から2人ユニットという前提で準備を進めてきた以上、受け入れられるものではない。プロデューサーのその言葉を聞いて落胆するみくたち。

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 謝るアナスタシアや美波に対し寂しそうにしながらも健気に笑顔を作るみりあのいじらしさが印象に残るが、他のみんなも大なり小なり不満や残念さを覚えているようであり、卯月たち3人もそのような感情と決して無縁ではないことが、その表情から察せられる。
 なお物語の本筋とは直接関係しないが触れておくべき事項として、みくが李衣菜に向けた「1人でエアギターでもやってにゃ」という言葉から始まる一連のみくと李衣菜とのやり取りが、プロデューサーとかな子たちが会話をしているその後ろで、ずっと続いている(音声だけ聞こえてくる)という点が挙げられる。
 2話での宣材写真撮影時の休憩中に流れていた莉嘉とみりあのしりとりなどもそうだが、本作ではこのように映し出されている画の背後で、音声だけによるキャラクターの小芝居が、結構な長さで続けられることがよくある。大体は台本にも記載されておらず、担当声優のアドリブで進行する芝居のようだが、これには単にその場のにぎやかさを表現する以上の効果を発揮している。
 画面に映っているその空間には、映っていない部分にもキャラがいて、しゃべったり動いたりしているはずなのだ。実写であればそのあたりも簡単に描写できるがアニメではどんな場面にもいちいち作画を行う必要があるため、おいそれと物語に直接関係のない部分にまでリソースを割けない。そこで音声のみによる小芝居が導入されるわけだ。
 それを加えることで、画面に映っていないキャラもそこに存在している、大げさに言えばキャラクターの「生」とか「体温」のようなものを感じることができるようになる。それは場面ごとのにぎやかしのみならず、作品世界そのものの拡充という点において、地味ながらも大きな効果を発揮してくれる効果的な演出なのである。
 2つの芝居が同時に進行している妙味を味わえるというのも、視聴者の立場からは楽しい点として挙げられるだろう。

 プロジェクトルームでミーティングを行う卯月たちは、最後にプロデューサーからある「宿題」を出される。宿題と言う言葉に思わず拒否反応を起こしてしまう未央だったが、それは3人のユニット名を考えてほしいというとても重要な宿題だった。覚えやすいもので、且つ3人らしい名前をというプロデューサーのアドバイスに、卯月と未央は視線を合わせて考え込む。
 そんな時、凛はプロデューサーに「何故自分たち3人なのか」と問う。みくたち他のメンバーではなく、自分たち3人が選ばれた理由を知りたいというのが彼女の真意だった。
 その言葉の意味するところを最初は未央もプロデューサーも読み取れなかったようだが、そんな中で1人、凛の真意を察して俯く卯月の描写も印象に残る。
 しかしプロデューサーはいつもの如く言葉少なに「総合的に判断して」とだけ答えるだけだった。未央が「歌とか踊りとか度胸とか」といくつか例を挙げたのに続く形でタイミングやバランスと言った多少は具体的な理由を述べたものの、やはり多くは語らない。
 秘密主義というわけではないのだろうが、このあまりの語らなさは大きな危険性を孕んでいると言える。「プロデューサーとアイドル」の関係性が濃密なものであれば、多くを語らずともある程度の意思疎通は可能であろうが、今現在そこまでの関係を築いている者は劇中には存在しないわけで、そのような状態ではやはり言葉での具体的なコミュニケーションが必要になるのだ。
 このシーンで言えば総合的な判断というその「総合的」の内幕、それこそ部長やちひろさんとのやり取りの中で出てきた様々な事情や思惑をある程度はきちんと、凛たち3人だけでなくプロジェクトメンバー全員にあらかじめ話すべきだった。明確にメンバー間の「格差」とそれに伴う不公平感が生じてしまっている以上、感情面で納得できなくともせめて理屈の上でだけは納得してもらうことは必須であり、現にどちらの面からも納得できていないからこそ、みくが3話の時以上に躍起になって対抗心を燃やしてしまっているのである。
 そしてそれはプロジェクトの仲間同士ではなく、彼女らに道を示す立場のプロデューサーでなければできないことなのだが、その点において彼はあまり器用に立ち回れてはいない。
 「バランス」という表現を受けて会話を弾ませる卯月や未央の横で、無表情に視線を下げる凛の描写は、プロデューサーと彼女らプロジェクトメンバーとの関係性の危うさを暗示したものかもしれなかった。

 デスクのプロデューサーに書類を渡すちひろさんは、順調に進んでいるかを尋ねてきた。プロデューサーは当たり障りなく問題ないと答えるが、さり気ないながらもこの場面ではちひろさんとプロデューサー、2人の認識の違いが見え隠れしている。
 すなわちちひろさんが尋ねた「順調か」とは何についてか、CDデビューについてかプロジェクト全体についてなのか。「あの子たちは?」とは誰を指しているのか、CDデビューを控えた5人なのかプロジェクトメンバー全員なのか、ということである。
 直後の「プロデューサーにかかっている」発言から考えると、ちひろさんは恐らくプロジェクト全体、メンバー全員について問いただしていたのだと思われる。そう考えるとAパートで卯月たち3人の登用について懐疑的な言葉を口にした時、卯月たちの名前を直接出していなかったのは、このシーンに繋がる意図的な演出であったのかもしれない。
 Aパートの時のように直接名前を口にせずともニュアンスで相手の言わんとしている内容を理解することは常に出来るわけではないし、少なくともプロデューサーはそれを常に実践できるようなパーフェクトな存在ではない。何気ないやり取りだったためにわかりにくいが、これら2つの場面でその事実を浮き彫りにしているのである。そしてその事実は後々の展開に重大な影響を及ぼすことにもなるわけだ。
 それらを踏まえて、というわけでは無論ないだろうが、ちひろさんが差し出したスタドリハーフには、これからの展開に直面していくプロデューサーに対しての、制作側からの激励の意図が込められているようにも取れる。

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 卯月たち3人はプロジェクトルームで自分たちのユニット名を決めるべく、色々な案を提出しつつ話し合っていた。
 ミーティングのような仰々しいものではなく、お菓子を食べながら和気あいあいと、というのはいかにも年頃の女の子の集まりらしいと言えるが、出てくる案も食べ物の名前のようなゆるいネタばかりのものになってしまっており、どうにもまとまらない。

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 そんな中でも未央の考えたいくつもの案の中に「トリプルスター」という名称が含まれているのは、原作ゲームや関連CDに触れたことのある人ならばニヤリとするところであろう。
 尤も当人はこれよりも、3話で精神的に追い込まれた自分たちを救うきっかけの一つとなった言葉である「フライドチキン」を推していたわけだが、あちらの方はややもすると今後の展開にかかわってこないとも言い切れない重要な名前であるだけに、ここでユニット名として推挙されなかったのはある意味当然だったと言える。
 未央の「フライドチキン」案を即答で却下した凛も案を求められるが、その案を口にするのが恥ずかしいのか、凛は小声になってしまう。その仕草がいつもの凛らしからぬ可愛らしい仕草になっているのも楽しいが、その凛の案である「プリンセスブルー」という名称を聞いて思わず笑い出してしまう未央や卯月の描写も、すっかり打ち解けて無用な遠慮をする必要もなくなった3人の現在の関係性を端的に表現していて微笑ましい。
 ちなみに元々凛の父親が提案したというこの「プリンセスブルー」、遺伝子組み換え技術によって作られた青紫色のカーネーション「ムーンダスト」の品種の1つ、またはロベリアという花の品種の1つとして実在する名称であり、花言葉はそれぞれ「永遠の幸福」「いつも愛らしい」などがあるとのこと。
 花屋を営む凛の父親ならそこまで考えていたとしても何ら不思議はなく、その辺りの経緯を色々想像してみるのも一興であろう。
 しかしユニット名自体は大量の案が出たものの、夜までかかっても結局決まらなかった。最後の方の案はかなり投げやりな印象のものになっているあたりに、3人の疲弊ぶりがうかがえるが、とりあえず今回はこれでお開きとし、凛と卯月はプロデューサーにも名称案を考えてもらうよう頼みこむ。

 その頃346プロの別のスタジオでは美穂の写真撮影が行われていた。本来は恥ずかしがり屋の美穂も、こと仕事となればアイドルとして立派に仕事をこなすのは2話や3話で既に描かれた通りであるが、それは美穂を彩るための着ぐるみの中の人として働くみくや莉嘉、みりあには眩しすぎる光景でもあった。

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 照明に照らされスタッフに汗を拭いてもらう美穂と、照明の届かないスタジオの一角で汗も拭けずにただ座り込む3人の姿が、如実にその落差を突き付けている。それでもみくがちゃんとネコの着ぐるみを選んで着用しているあたりはさすがであるが。
 みりあから美波たちのレコーディングが今日行われることを聞いた莉嘉は、自分の曲が欲しいとまたプロデューサーに頼みに行こうとするが、みくにすげなく否定される。
 「検討中と言われるのがオチ」と力なく呟くみくの姿からは先述の「危うさ」が想起させられてしまうがしかし、どうするのと聞かれるとすぐに莉嘉とは別の案を思いついたらしく、1人自信ありげにニヤリと笑う。

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 一方プロジェクトの他メンバー、かな子や智絵里たちは先輩アイドルが参加している交通安全のイベントに、チラシ配布担当として参加していた。交通安全ということでかな子たちも全員警察官の制服に身を包んでいるのだが、かな子に智絵里、李衣菜はともかくきらりや蘭子は普段着ている服とのギャップが大きく、可愛らしさと共に何とも言えない可笑しさを醸し出している。
 壇上に立っている先輩アイドルは3人。その内2人は2話で画面の奥の方に小さく登場していた堀裕子と及川雫、そしてもう1人は今回初登場となる片桐早苗だ。2話の感想でも少し触れたが、この3人は原作ゲームでは時々「セクシーギルティ」というユニット名でイベントライバルとして参加することがあり、今回の組み合わせはそれを反映したものとなっている。

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 そしてここでは2話と同様、声優面におけるサプライズが用意されていた。2話での千枝や春菜と同様に、原作ゲームではそれまで声のついていなかった雫と早苗のCVが、ここで初お披露目となったのである。もちろん本放送のタイミングでゲームの方でも声が実装されており、これは本作に用意されている一種の恒例イベントと言っていいのかもしれない。
 さてこのセクシーギルティ、「サイキックアイドル」とか「エスパーユッコ」を自称し、事あるごとに何でもかんでも「サイキック○○」と名付けてスプーン曲げなどの超能力を披露しようとし、うまくいかない時は強引な理屈でごまかすアホの子的な面を持つ裕子に、元本職の警察官という異色の経歴と、瑞樹と同じ28歳というアイドルとしてはトウが立った年齢ながら、十代と見まごうルックスと年相応のサバサバした性格、そして元警官故の各種格闘技有段者という資格を併せ持つ早苗と、かなり個性的なメンツが揃っている。
 そして3人目の及川雫。数いるデレマスアイドルの中で筆者一番のお気に入りのアイドルに声までついたとあっては、フィーチャーしないわけにはいくまい。
 彼女の最大の特徴はやはり、裕子の「サイキック逮捕」でその一部が露わになってしまった豊満なバストにあるだろう。そのサイズは105センチと、デレマスのみならずアイドルマスター歴代作に登場する全アイドル中最大を誇り、未だその記録は破られていない。
 (ちなみに早苗も雫ほどではないものの92センチとかなりなものを持っている。裕子だけは平均的なプロポーションなのだが、着用する衣装が基本ヘソ出しの露出が高いものであることが、ユニットを組んだ理由であろうか。)

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 「女性の胸は母性の象徴」などという言葉もあったりするが、原作ゲーム中で昨年末に行われた「アニバーサリーボイスアイドルオーディション」のCMで「豊かさの化身」というキャッチフレーズをつけられていたのも、そこに起因している部分が大きいだろう。
 だが雫の持つ「豊かさ」は決して胸だけの話ではない。岩手出身の彼女の実家は牧場を経営しており、彼女も以前から牧場の手伝いをしていたという。そのせいもあって牛が好きになっているのだが(彼女の初登場となったN+の衣装はホルスタイン牛をモチーフにした(露出の高い)衣装になっている)、同時に広く大らかな牧場で育ってきたからか、のんびりしている牛たちとずっと一緒にいたからか、雫自身もかなりのんびりした性格である。
 そして酪農はかなりの体力を必要とする仕事という点からわかるとおり、雫も結構な体力を備えている。実際にゲーム中のシンデレラガールズ劇場では実家の雪かきをして汗をかいたもののさほどくたびれた様子は見せず、さらには実家の牛乳2リットルパックをのんびりではあるが一気に飲んで全く動じないなど、様々な面でタフネスぶりや体育会系的な面を披露。
 さらには恐らく実家の手伝いをより円滑に行うために16歳という若さでトラクターの免許を取得したり、自分より背の低い相手(バストサイズのインパクトに薄れがちだが、雫の身長は170センチと女性としてはかなり高く、アイマスの全アイドルの中でも彼女より背の大きいアイドルは5、6人しかいない)と目線を合わせて会話をするために姿勢を低くするなど、他者に気を遣う優しさがきちんと備わっている少女でもある。
 のんびりとした性格とそのタフネスぶりから来る体育会系的な思考から生じる優しさと力強さ、それが雫という少女の持つ「豊かさ」の源であると断言できるだろう。
 ちなみに雫の体育会系的思考というのは、彼女が露出の高い衣装を着たり、汗で濡れたシャツを男性であるプロデューサーの視線を気にせず絞ってしまう(脱いではいない)という面にも表れている。
 つまり決意という言葉で表現するほど重いものではないにせよ、自分であらかじめ決めたり判断したことについては、それを実行する一連の流れの中で自分の性的な部分が強調されることになったとしても動じない、そういう精神状態が無自覚の内に彼女の心の大元の部分に形成されているのだろう。その意味では彼女の持つ「体育会系思考」とは、己にのみ責任を課すいささか古風な考え方と言える。
 逆を言えば自分の意図していない状態、すなわち今話のこのシーンで発生したいわゆるお色気ハプニングに対しては、さほど耐性がないのだろう。だから慌ててしまったのだろうし、同時に公衆の面前でこんなことになれば普通に恥ずかしがる、ごく当たり前の羞恥心を持ちあわせていて、のんびりした性格と混同されがちな「天然系」な性格ではないという点も、この場面からは見て取れるのだ。
 原作ゲームではこのようなお色気ハプニングは今まで描かれてこなかったため、雫を単なるお色気要員として消費したと非難する者も一部には見受けられたし、実際そのような役割を背負っていたということを否定はしないが、画面の向こうの存在とは言え自分が好きになった相手なのだから、どうせなら最後まで肯定的に、好意的に解釈して評価し、愛したいものではないか。それが創作物を愛好する人間のあるべき一つの姿だと筆者は思う次第である。
 (ちなみに原作ゲームの方では雫のお色気が過剰にならないよう色々と配慮している節が散見されるのだが、さすがにこれ以上は脱線もいいところなので割愛する。)

 閑話休題。
 仕事を終えてかな子たちが戻ってきたプロジェクトルームでは、みくたち3人が紙に何やら絵を描いていた。自分たちのCDデビューの時にどんなことをやりたいか、プロデューサーの代わりに考えているというのである。
 つまりCDデビューの折にどのようにプロモートするか、それをこちらから用意することで、自分たちのデビューへ向けた具体的なアプローチとしようとしているわけだ。
 プロデューサー側が動かないからと言っていつまでも受け身で待つのではなく、自分たちから積極的にデビューを推し進めようという姿勢自体は好感の持てるものだし、その手段として具体的な企画案をこちらから提示するというのも、なかなか理に叶った方法と言える。
 冒頭で黒ひげ危機一発を使った勝負を挑んできた人物と同じとは思えないくらい理知的な手段であるが、これがいつデビューできるかわからない逆境の中で生真面目に自分の今後を思案した結果であることは論を持たず、みくの内包する多面的な個性が4話でのPR動画撮影に続いてまたもや発揮されたというところだろう。
 惜しむらくはその思考に現実感覚が追い付いていないことだった。みくは可愛い衣装にたくさんのネコを集めてのライブ、みりあは屋外でみんなで楽しく歌う、莉嘉は渋谷でゲリラライブと、案自体はそれぞれの個性が程良く打ち出されたものばかりだが、とても無名の新人アイドルに適用できるような案でないのも事実である。

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 だがかな子たちもそんな現実には気づかないまま、3人の姿に感化されてそれぞれのデビュー案を語り出し始めた。
 一方のデビュー決定組はレコーディングルームに集まっており、ちょうど美波が楽曲収録を行っていた。そこで初めて判明する美波とアナスタシアのユニット名は「LOVE LAIKA(ラブライカ)」。
 ライカとは一般的に2つの意味があり、1つは犬種としての名称で正式には「ロシアン・ライカ」、もう1つは1957年に旧ソ連が打ち上げた宇宙船・スプートニク2号に乗せられ、動物としては初めて軌道周回を体験した犬の名前である。ユニット名としては後者の意味合い、すなわち犬としての可愛らしさを持ちつつ宇宙、つまり遥か高みに向かって飛び続ける、そんな意味が込められているのだろう。
 更衣室でレッスン着に着替えながら、デビュー時のミニライブを卯月たち3人と一緒にやることが決まって良かったと話す美波。彼女もアナスタシアも内心の不安を拭いきってはいなかったのだ。
 大丈夫と明るく励ます未央だったが、それでも美波の表情は晴れない。彼女は今の自分にはプロデューサーが用意した衣装と曲、つまり外から得たものしかなく、今の自分が拠って立つ内面的な要素が自分自身の中に存在していないことを懸念していた。自分の中に自分を信じられる要因がないのに、本番まで自分を支えていられるのか、それが美波の中の大きな不安だったのである。
 それはある意味では仕方のないことでもあった。誰でも最初の一歩があるわけだし、その際は皆等しく自身の内面に自信となる根拠など持っていない、もしくは極めて薄弱なものであるに違いないのだから。
 そんな美波を励ますかのように、アナスタシアは彼女の手を取り呼びかける。4話でも見られた、いざという時はアナスタシアが美波を支える側に回るという構図はこのシーンでも十分生かされており、それ以上に「自分には何もない」と言っていた美波への1つの回答、その片鱗と捉えることもできるだろう。2人の繋がりがどのような形で結実するかは、ライブの当日まで判明しないのであろうが。

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 2人に卯月たちが安易な言葉をそれ以上抱えなかったのは、美波の苦悩がついこの間自分たちが味わったものと同義であることをよく承知していたからだろう。今この場で声をかけて元気になったとしても、それは本番の空気に飲まれれば容易く霧散してしまう程度のものでしかないと、彼女たちもわかっているのだ。
 さて本文中では構成の都合上わかりにくく書いてしまったが、実際の作中では美波が自身の不安を告白するシーンと交互する形で、先ほどのみくたち非デビュー組それぞれがデビュー案を語らう描写がインサートされている。
 武道館でゲリラライブという李衣菜、ファンの皆と一緒に楽しみたいという蘭子、お客に手作りお菓子を配りたがるかな子、自分のライブで誰か1人でも幸せな気持ちに出来ればと願う智絵里…。どれも残念ながら現状では実現できないであろうものばかりだが、無論この演出は実際にデビューの時期を迎えつつあり、厳しい現実に直面している5人(と言うか美波とアナスタシア)と未だ夢想めいたことしか見えない他メンバーとの対比を描いているのであるが、個人的にはそれ以外にもある事項について描写されているように思える。
 先ほど文中で「現実感覚が追い付いていない」と書いたが、これは何もみくたちだけの話ではない。美波もまたもうすぐアイドルとしてデビューするという「現実」に、自分の感覚が追い付いていないのである。初めて体験するであろう未知なる世界を前にどう向き合えばいいのかわからないから、自分が何を拠って立つ根拠と見定めればいいのかもわからない。
 もちろんみくたちと美波たちの目の前にある「現実」は明確に異なっており、それが皮肉にもそれぞれの現状の差を浮き彫りにしてしまっているが、例え差があったとしても「現実感覚が追い付いていないことにより生まれる不安やすれ違い」そのものは、全員同質であるはずなのだ。そしてそれは思春期の少女であれば誰でも持ちうる感情であることは疑いない。
 つまりこのシーンは5人と9人の対比を描くと同時に、皆等しく十代の少女であり根本的には大差ないと明示しているとも考えられるのだ。
 「アイドルを目指す少女」の物語を描くというかつてのアニマスのテーゼについては既に以前触れているが、ここでもまた本作を「アイドルマスターのアニメ」足らしめている一要素が顕現したと言えるだろう。

 一通りそれぞれのデビュー案をまとめたみくたちは、部屋に入ってきたプロデューサーに案を書いた紙を手渡すが、プロデューサーは一応受け取るものの「実現しないと思ってほしい」と、いつもの通りつれない返事を返すのみだった。
 今回はこれ以外に返答のしようもなかったろうから仕方のないところではあるが、全員かなりテンションが上がっていただけにすっかり意気消沈してしまい、かな子のとりなしの言葉も力なく響くだけだ。
 だがただ1人、みくだけはそれでもあきらめないと、最後の手段としてストライキの決行を宣言する。そしてその時、今までずっとだらだら寝こけていただけだった最後の1人が嬉々として起き上がる。

 休憩していた様子の卯月たち5人の許へ駆けてくるかな子。かな子は宣言通りにストライキを始めてしまったみくたちを何とかしてもらおうと、プロデューサーを探していたのだった。
 そのみくたちは346カフェの一角を占拠、テーブルを使ってのバリケードまで用意してしまった。参加者はみくに莉嘉、そして杏。場所の占拠という行為が4話の終盤で杏が行ったプロジェクトルームの占拠を受けての発想だとすると、このような大仰なやり方そのものも杏が提唱したように思われる。
 と言っても杏は別にデビュー云々が目的ではないようで、やっていることは週休八日の要求と、いつもと全く変わっていない様子だ。

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 心配そうに3人に呼びかけるきらりたちの所に卯月たちも到着するが、肝心のプロデューサーは打ち合わせの最中のようで捕まらなかったらしい。
 と、ここで当人たち以外の第三者を代表して登場するのは楓、そして本作では今話が初登場の大和亜季だ。彼女もまた本作で初めてCVが割り振られた1人である。

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 その言葉の内容もサバイバルゲームが好きな軍事マニアという面を持つ彼女らしいと言えるが、原作ゲームにあまり触れずアニメで初めて「シンデレラガールズ」に触れた人であれば、亜季よりはむしろ楓の唐突に発したダジャレの方に違和感を覚えたかもしれない。
 1話で「お願い!シンデレラ」を歌う面々のセンターを務め、2話でも登場シーンこそ少ないものの妙齢の美女といった雰囲気を全身に漂わせていた彼女がいきなりあまり面白くないダジャレを口にしたのだから、驚くなという方が無理な話かもしれないが、これもまた楓のれっきとした個性・特色の一つである。
 話が進むにつれてこのような未だアニメでは一面的な要素しか描かれていない他のアイドルたちも、様々な側面が描かれる可能性をもここで示唆されたわけで、これは各アイドルのファンも本作そのもののファンも期待しないではいられないところだ。
 だがこの2人の描写は単なるファンサービスに留まらない。「カフェの一角を占拠してストライキを起こす」という行為は、字面だけで考えるとかなり危険な行為なのだが、2人の描写に代表されるように、周囲の人間は注目こそしてはいるが、行為そのものをあまり脅威と捉えていない節がある。
 それは占拠された一角以外のカフェの敷地では普通にお客が食事を摂り(ある人は騒動を一切意に介さずスマホをいじっていたりする)、また店員のバイトをしていたらしい菜々が注文を受けた際には普通にみくがその品を用意している点からも窺え、当事者たるシンデレラプロジェクトの関係者以外は文字通りのストライキではなく、それこそ子供のごっこ遊び、レクリエーション程度にしか考えていないように見受けられるのだ。
 尤も346プロの敷地内とは言え一施設の一角を占拠するなどという行為を真面目に考えていくと、話の筋としてもリアリティという側面から見ても色々面倒なことになりそうなので、そのあたりは良くも悪くも「話の都合」としてごまかしている感は否めない。
 しかしその描写は同時に今まで以上にみくたちの内面と周囲とのギャップを明確に浮かび上がらせるという機能も果たしている。みくにしてみれば自分の要求を少しでも本気で聞いて欲しいからという極めて真剣な気持ちでこのようなことをしているわけだが、どれほど真剣であっても、その想いを表現する手段がどうしても稚拙なものになっているため、気持ちがいまいち周囲に伝わっていないのである。
 スマートな方法ではないにせよ、みくはみくなりに目標に向かって懸命にあがいているのに、周囲の大多数の人間にはその気持ちが届かない。話の都合上止むを得ない処置である周囲の人間の無反応ぶりを、怪我の功名的にみくの現状を強調するガジェットとして利用する演出の冴は見事であった。
 しかし当事者のシンデレラプロジェクトメンバーは無関係ではいられない。未央の呼びかけに対しても3人は徹底抗戦の構えを見せるが、続けて未央から美嘉の名前が出てきたとたん、意気消沈して止めてしまう莉嘉が、本当に美嘉のことが大好きなのだということが強く伝わってきて非常に微笑ましい。
 みくは残った杏と一緒にがんばろうと持ちかけるが、みくの要求が自分たちのデビューを確約することと知るや否や、杏は完全にやる気をなくしてしまった。ある意味一番ぶれないメンタルの強さを持っていると言えないこともない杏らしい一幕である。
 他方、卯月たちもみくの真意を聞いて何も言えずに押し黙ってしまう。デビューが既に決まっている立場の彼女らでは、どうしようもないのは確かだった。それでもなおきらりやかな子が呼びかける中、ようやく駆けつけたプロデューサーは、みくが語り出した想いを聞く。

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 シンデレラプロジェクトに選ばれ、いつかデビューできる日を夢見てレッスンや小さな仕事をこなしてきたが、自分はどんどん置いて行かれる。デビューしたいとプロデューサーに訴えてもダメで放っておかれるばかりの状況で、どれだけがんばればいいのかさえもわからない。
 このままは嫌、デビューしたいと叫ぶまでに至ったみくの胸中を、プロデューサーが今初めて知ったというのは明白だろう。逆を言えば彼は今までみくのこのような気持ちが伝わる程度のコミュニケーションさえろくに取っていなかったことになる。
 文中で触れた「プロデューサーのあまりの語らなさによって生じる危険性」とはすなわちこれであった。担当の娘に「放っておかれる」とまで言われてしまうほどに長らくコミュニケーション不足であった事実は、みくの心にプロデューサーへの不信感、疑心暗鬼といった感情を根付かせてしまっていたのである。
 互いに支え合う信頼関係を築くことが大前提の「アイドルとプロデューサー」という関係性において、この疑念は致命的だった。アイドル活動を行う上で最も自分に近い、自分のそばにいることになるであろう人物を信用することができないのだから、いくらレッスンをしても細かい仕事をこなしても、この猜疑心が払拭できない限りは楽観的に未来を信じてなんばるなどということは絶対に出来ないであろう。
 それはちひろさんとの会話の中で浮き彫りになった、彼自身の明確な落ち度だった。彼はシンデレラプロジェクトのプロデューサーである以上、卯月たち5人のデビューが間近に迫っている時であっても、プロジェクトメンバー全員を常に気にかけていなければならなかったのである。
 みくの痛切な告白を目の当たりにしたプロデューサーは意を決して歩み寄り、はっきりとした口調で自分の非を詫びる。その言葉に一瞬態度を軟化させるものの、すぐにまた表情を強張らせたのは、まだプロデューサーへの信頼感が回復していないからであろう。
 続けてプロデューサーは大切なことをみくに伝える。デビューについてはプロジェクトメンバー全員について考えていること、まだ完全に決定したわけではないので話せなかったが、第一弾を卯月たち3人と美波たち2人とし、残りのメンバーも第二弾、第三弾とそれぞれユニットを組んでデビューさせる予定であることを。

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 プロデューサーは決してみくたちを忘れていたわけではなかった。ただそれを守秘義務等のややこしい面は抜きにしても、みくたちに伝えて明日を信じさせる努力を怠ってしまっていたのである。しかしこのような事態に至って、まだ口外するのはあまりよろしくないであろう情報をみくたちに伝えたのは、アイドルをプロデュースする「プロデューサー」としては誠に正しい行為であったと言えるだろう。
 その言葉にようやく安堵したのかみくは一気に力が抜けたように座り込み、一言「早く言ってにゃ」と口にする。それはプロデューサーへの信頼感が回復した証でもあった。
 他のメンバーもみくに感情移入し、プロデューサーの言葉に皆一様に安堵したというのは、みくの最後の独白を受けて思わず「ほんとだよ」を呟く凛と、みくとプロデューサーのやり取りを、目に涙を浮かべながら聞いて最後に笑顔を見せた卯月の姿が象徴していたと言えるだろう。
 殊に卯月自身もかつてデビューする日を夢見ながらオーディションを受け続け、シンデレラプロジェクトに選ばれてからも他のメンバーが確定するまでレッスンに1人勤しんでいた経験があるわけで、みくの言葉には大いに共感できる部分があったろうし、だからこそプロデューサーの言葉を受けて我が事のように喜んだに違いない。
 ただ1人、全員デビュー決定の報を受け拒否しようとしながらも、いつものようにきらりに抱き抱えられてしまう杏は、どこまでもいつもの杏であった。
 今回の一件はみくたちが年端も行かぬ少女であった故に起きた騒動と言えるが、ある意味では誤ったり間違ったりするのも若者の特権であるのかもしれない。無論そのような理屈で許していいことばかりではないが、少なくとも今回のみくたちの騒動はその考え方を念頭にした形でひと段落したようだ。
 それはみくたち首謀者とプロデューサーがカフェの店主や部長にきちんと謝罪しているカットが挿入されていることからもわかるが、画的な解説はともかく言葉での説明担当に「永遠の17歳」である菜々を選び、その聞き役に楓を配しているのはうまい人物配置であった。
 改めて迷惑を変えたプロジェクトメンバーにも謝罪するみくだったが、勿論彼女を責める者など1人もいない。みんな内心ではみくのような苦悩を大なり小なり抱えていたのだから。
 そしてみくはデビューの決まっている卯月たち5人に向け、少々ばつの悪そうな、それでも満面の笑みで激励の言葉を送る。みくなりに心の中で自分の苦悩に区切りをつけた証であろうその笑顔に、5人もそれぞれ改めてデビューに向けて気合を入れる。

 後日、卯月たちは自分たちのために用意された新曲を確認する。その出来栄えに感動する3人だったが、卯月は資料に書かれていたユニット名に目を向けた。
 「ニュージェネレーションズ」と書かれたそのユニット名はプロデューサーのつけた仮の名称であり、「新しい時代が始まる」という意味があると言う。
 名称に込められたその意味に感銘した3人は、この名前をそのまま自分たちのユニット名として使用することを提案し、プロデューサーも了承。3人のユニット名は「ニュージェネレーションズ」に決定する運びとなった。
 卯月、凛、未央の3人がその名の通り新たな時代を築く旗手となれるのか、それはひとえにこれからの3人のがんばりにかかっている。とりあえずの目標はCDデビューと関連するイベントやライブを成功させること。
 これから歩んでいく先に待っているであろう輝く舞台を前に、3人も束の間、心を躍らせるのであった。

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 今話は単純に見るとデビューする側になれなかったみくの視点のみで描かれているように思われがちだが、実際にはまだデビューできない側のみくたち9人に、デビューが決定していて且つ本番のステージに立った経験もある卯月、凛、未央の3人、そしてデビューは決定したものの本番のステージに立ったことはない美波とアナスタシアの2人という、3つの集団による物語が展開されている。
 描写が注力されていたのがみくたちの方であるのは論を持たないが、同時に他の5人についても、特に未来を不安視する美波の視点を取り入れ、デビュー決定が必ずしも手放しで喜べることばかりではないという点を描くことで、内面的にはみくたちも美波たちもあまり変わらない同年代の少女であるという、等身大の人間像を強調しており、それにより一歩先んじた者と後塵を拝している者との「格差」が必要以上に大きなものとならないよう、配慮している意図が窺える。
 同時に1話以降は比較的大人しい描写に終始していたプロデューサーに再びスポットを当て、みくとのすれ違いによる関係性の悪化と修復を今話後半のメインに据えることで、本作の中軸には「アイドルとプロデューサー」という関係性が存在し、それこそが本作をアイマスたらしめる原初の人間関係なのだということを改めて視聴者に顕示していた。
 ただそれを考えるとやはりまだまだプロデューサーと各アイドルとの繋がりは薄いように思われる。特にデビューが決まったニュージェネレーションズの3人やラブライカの2人に対しても、劇中描写を見る限りは事務的な内容のやり取りに終始しており、互いに打ち解けているとは言い難い部分が散見される。
 みくとの信頼関係は修復したとは言え、まだ彼女たちが実際にデビューしたわけでもないのだから、これからもプロデューサーは彼女たち14人を真摯にプロデュースしていかなければ、また元の木阿弥になってしまう可能性は十分あるわけで、そういう意味ではまだまだ前途多難、艱難辛苦もまた彼女たちの前には広がっているのかもしれない。
 ニュージェネレーションズとラブライカのデビューは、そんな現状を打破する起爆剤となるのであろうか。次回を楽しみにしたいところだ。

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