2015年06月15日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第9話「"Sweet" is a magical word to make you happy!」感想

 今更言うまでもなく、シンデレラプロジェクトは14人のアイドルと1人のプロデューサーが所属している、結構な大所帯である(アシスタントという立場でちひろさんも間接的に関与しているが)。
 7話までで描かれた1つの大きな流れの物語が完結した現在、全員がまずしなければならないのはお互いをよく知ることであるというのは前話の感想で既に記した通りである。
 このうち7話で示されたプロデューサーとアイドルという関係の方向性をさらに突き詰めたのが8話の流れであった。アイドルを知るためにプロデューサーはどう行動するか、その行動を前にアイドルはどのような想いを抱き対応するか、それらをプロデューサーと蘭子という一つの具体的な例を通して明示したのが前話のストーリー上の主軸であったと言えるだろう。
 であれば本作が次に描かなければならないのは、必然的に「アイドル同士の関係性」となる。プロデューサーとは異なり基本的には自分と同じ立ち位置、極めて近しい存在である同僚アイドルとの関係性は、プロデューサーとのそれとは当然異なるものになるわけだが、さらに今話ではその関係性が紡がれる過程のドラマを色濃く浮かび上がらせるために、一つのギミックが施された。
 それは「複数メンバーで構成されたアイドルユニット」である。前話で誕生したローゼンブルクエンゲルはソロユニットであったし、ラブライカの美波とアナスタシアやニュージェネレーションズの卯月、凛、未央は元から同じ面子で行動を共にすることが多く、ユニット結成は普段の交友関係の延長線上に位置するものでもあったが、今回新たに結成された「CANDY ISLAND(キャンディ・アイランド)」の構成メンバーは前3ユニットとは決定的に異なっている。
 所属メンバーのうち、かな子と智絵里は2話以降たびたび一緒にいるシーンが描かれていたのでさほど違和感はないが、3人目のメンバーである杏とはまったくと言っていいほど絡むシーンがなく、ユニット結成によって初めて行動を共にすることとなった間柄だ。
 もちろん決してこれまでの3人の仲に問題があったという話ではないが、3人で行動することは皆無であったこの面々が、外的な要因とは言え共に行動するようになることで、どのような関係性が築かれていくのか、そこを描くのが本作の肝となる。

 さてこのキャンディアイランド、作品世界の時間軸上では今話の開始よりも以前にデビューとCDリリースを行っていたようで、冒頭で描かれるのはそのデビューCD「Happy×2 Days」のリリースイベント、いわゆるお渡し会だ。
 結構広めのイベント会場は、かつてのアニマス1話でまだ売れていない頃の天海春香が自らCDを販売していたCDショップの店頭とはえらい違いだが、肝心の手渡しをするかな子や智恵理たちアイドルの様子は、終始笑顔だった春香と違って少々ぎこちない。
 こちらはデビューしたばかりだからやむを得ない部分はもちろんあるが、そんな中にただ1人、にこやかな笑顔を作って積極的にCDの手渡しとユニットの宣伝に勤しむアイドルがいた。

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 少しでも杏のキャラクター性を知っていれば「誰だお前!?」と突っ込みたくなること必至であろう。原作ゲームから慣れ親しんできた層であれば、彼女が「そういう一面」を持っていることも理解できるはずであるが、それでも普段の杏からはあまりにかけ離れたこの姿や笑顔の放つインパクトは、ほとんどの視聴者に強烈過ぎる印象を残したであろうことは想像に難くない。
 前述のとおり原作ゲームでの杏を詳しく知っていれば、今回のこの振る舞いも決して不思議なものではないのだが、予備知識があってもなお見る者が驚かせられるのは、やはりアニメという映像媒体でその描写が具体的な画として明示されたからに他ならないだろう。この辺はアニメならではの利点というところか。

 イベントから数日経った後のプロジェクトルームでは、キャンディアイランドのテレビ番組への初出演決定の報を聞きつけた未央やみくたちが、嬉しそうにかな子や智絵里に話しかけていた。
 3人が出演する番組は「頭脳でドン!Blain's Castle!!」というクイズ番組。二組のアイドルチームが「アピールタイム」を賭けて成績を競う形式で、346プロアイドルの先輩である川島瑞樹、そして十時愛梨が司会を務めている番組でもある。
 ちょうど明日収録と言うことでクイズの予習をしていたかな子や智絵里を未央にみく、そして李衣菜は素直に羨ましがるが、2人の方は初のテレビ番組収録に対して不安の色を隠せない。殊に智絵里は生来の弱気な面が災いしてか、大勢の観客に見られながらの収録という状況にかなり緊張している様子だ。
 そんな2人に同調するのは3人目のメンバーである杏だが、前話で持ち込んだウサギ型の大きなクッションに座り込みながら不安と呟くその様は、どうにもかな子や智絵里と同様の意味での「不安」を抱えているようには見えない。それもそのはずで後に続いた言葉を聞けばわかるとおり、杏の不安とはCD発売の件で自分としては珍しく働いたので今後しばらくは働かなくていいと考えていたのに、その上テレビ番組の収録まですると働きすぎなのでもう限界、という意味でのものだった。
 このセリフを聞いて原作を遊んでいる人であればニヤリとしただろうし、アニメから入った人であれば冒頭の杏の笑顔に得心が行ったことだろう。つまり冒頭のお渡し回で見せた笑顔は決して勤労意欲に目覚めたからではなく、とりあえず働いて一定の成果を出しておき、その成果を元にしてまた働かないで済む生活を過ごそうという算段からのものだったのである。
 「明日の楽のために今日少しだけ苦労する」という考え方は杏の生き方の根本の一つと言ってもいいもので、特に4話でも少し触れていたがCDの販売は印税が発生する仕事だから、「印税生活」「不労所得」を目標にしている杏にとっては多少無理してでもやり遂げるべき仕事だったわけだ。
 アイドルとしては甚だ不純な動機ではあるが、未来の安定した収入と自由な生活を得るために今存在する仕事をきちんとこなすという姿勢は真面目そのものとも言えるので一概に否定もできない、何とも不思議な話ではある。
 そんな杏にしてみればCD販売関連の仕事をこなした時点で自分のノルマは達成したようなものなので、テレビ番組出演を面倒がるのは当然と言えなくもないのだが、一般的な考え方からはかけ離れているのも事実。やる気のない態度を見せる杏に未央からのするどいツッコミが飛んだ。
 ハッとする3人に未央は「バラエティの基本はボケとツッコミとリアクション」と持論を展開、これらを習得すれば問題ないと力説する。2話でも見られた未央のミーハーチックな一面が再び描かれているが、かな子や智絵里にとって自信たっぷりのその発言はかなり頼りがいのあるものと受け止められたようだ。2人以上にみくが力強く同意しているのは、お笑いに関してはうるさいとされる大阪の出身故だろうか。
 早速ツッコミの練習を始める2人。ツッコミの定型文句とも言うべき「なんでやねん」をひたすら繰り返すその光景は、どこからかハリセンまで持ち出して指導する未央や、いつの間にか指導に参加しているみくの大真面目な態度も合わさってかなりのシュールさを醸し出している。

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 2人に反して杏は特訓には参加せず、みくたちからモノボケするよう指示を受けてもただ寝返ってツチノコの物真似をするだけという、いつものようにやる気のない態度を見せていた。
 そんな杏のボケを待ってましたとばかりにすかさずツッコミを入れるみくはさすが大阪出身と言うべきところだが、自分のボケを未央に「ぬるい」と評されてむっとした表情を作る杏にも、やる気はなくともある程度の自尊心、意地のようなものを持っていることが窺えて楽しい。

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 ところがツッコミの件はともかく、スタジオ内の観客の存在を思い出してまたも智絵里は弱気になってしまう。控え目で引っ込み思案な性格の智絵里にとっては、大勢の人に見られることそのものがかなりの緊張を強いられる事態なのだ。
 まずはそれを何とかしなければということで、何かしらの妙案?を思いついた様子の未央は、そのまま別室のプロデューサーを訪ねる。智絵里の緊張をほぐすためにプロデューサーの協力を求める未央だったが、カット内に映っているプロデューサーのデスクの上のディスプレイをよく見ると、「緊張のほぐし方」というタイトルのサイトが表示されており、プロデューサーとしてもテレビ出演を控えて緊張している智絵里たちを心配し、緊張を解消するための方法を元々思案していたようだ。
 その智絵里はアイドルをすること自体は楽しいが、大勢の人の前ではどうしても緊張してしまうという自身の悩みを改めて吐露していた。智絵里の悩みに同調するかな子。そんな2人に自分なら絶対楽しむ、お客も楽しませると豪語するのはみくだった。そちらに同意する李衣菜も含め、このシーンでそれぞれの個性を強調しているのは興味深い。
 人前に立つことを楽しもうとするみくたちの姿勢は、これまでの挿話の端々でも見受けられたアイドルを目指す者としての意識の高さが窺え、その意味では緊張している智絵里やかな子の方が少なくとも精神面においてはアイドルとして未熟と言わざるを得ないところであるが、同時にそれは普通の人間が普通に抱くであろう、ごく当たり前の感情でもある。簡単に克服できる者がいれば、そう出来ない者がいるのも当然の話なのだ。
 だからこそ様々な性格のアイドルたちを様々な点でサポート、フォローし背中を押す存在が必要になってくる。それが誰を指しているのかは今更言うまでもないだろう。
 ところがそんな重要な存在であるプロデューサーの呼びかけを聞いて皆が視線を向けたその先にいたのは、彼の着こんだ大きなカエルの着ぐるみだった。お世辞にもかわいいとは言えない着ぐるみの見た目と大きさに驚いて一同が悲鳴を上げる一方で、彼と一緒に現れた未央はあまりの似合わなさに大笑いする。

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 未央が言うには「緊張したらお客の顔をカボチャと思えばいい」というよく言われる話を実践してみたとの話だが、実際にプロデューサーが着てきたのはカボチャとはまったく違うカエルだったのだから、ここは李衣菜でなくても突っ込まざるを得ないだろう。
 カエルの着ぐるみしか残っていなかったためにこうなったらしいが、それでも少しでも智絵里たちの役に立てればと敢えて着こんでくれたプロデューサーの気遣いに、智絵里もかな子も笑顔を作る。
 その真剣な態度とカエルの着ぐるみという見た目のアンマッチぶりから来る可笑しさも少しは影響しているのだろうが、何はともあれ明るさを取り戻した2人は勝負に勝ってアピールタイムをゲットするべく、かな子が音頭を取って掛け声を上げる。唯一反応しなかった杏もみんなの視線を受け、いつものだらけた感じの調子ではあるものの後から声を上げるのは、御愛嬌と言うところだろうか。

 そして翌日、番組収録の日がやってきた。キャンディアイランドの3人も既に楽屋入りしていたが、前日に気合を入れたとは言えやはり本番直前となれば緊張するなと言うのが無理な話で、かな子はクイズの予習を繰り返し、智絵里は昨日のプロデューサーの行動に倣って観客をカエルと思い込もうとしたり、ツッコミの練習を思い返したりするのに余念がない。
 ただ1人、杏だけはいつものように飴をなめながらだらだらと寝転がっていた。いつもと変わらぬ堂々と?した態度はさすがと言うべきなのだろうが、とてもやる気があるようには見えないので素直に褒めるのも難しいところか。ただやる気はないにせよ仕事自体をサボるような真似をしていないのは、何だかんだで受けた仕事は一応きちんとこなすという原作ゲームからの性格設定をしっかり踏襲している。
 と、そこへ1人の少女が入り込んでくる。応援に駆けつけると言っていた未央たちかと思いきや、入ってきたのは先輩アイドルの輿水幸子だった。本編では1話冒頭のライブと2話での卯月たちの「冒険」シーン、ナレーターとしては3話の予告編に登場したのみであったが、今回ようやくの本格的なゲスト参加である。

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 見てすぐわかるとおり何もしていなくとも素直に可愛いと思えるルックスを持つ、いかにもアイドルと言った感じの美少女なのだが、楽屋に入ってきた時のセリフを聞けばわかるとおり自分の可愛らしさに過剰なまでの自信を持っており、それを言動や行動の端々に反映させるため、若干小憎らしく思えてしまうのが玉にきずだ。
 しかしキャンディアイランドの楽屋に入ってきたのが自分の所属するユニット「KBYD」の楽屋と間違えてのものであったり、同じユニットメンバーの小早川紗枝や姫川由紀にそのことを茶化されてバレバレの言い訳をしてしまうなど少々抜けた面があり、それも含めて幸子の魅力となっている。

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 幸子に2話でも登場した紗枝、そして今話で初登場の由紀を加えた3人のユニット「KBYD」が、かな子たちキャンディアイランドの対戦相手になるわけだが、楽屋に現れた先輩アイドルたちを前にかな子や智絵里が驚いたのも束の間、「ケガ」や「ハード」という紗枝や由紀の言葉に違和感を覚える3人。
 実は3人の知らないうちに、今回から番組内容がアクションバラエティへと変更になっていたのだ。「筋肉でドン!Muscle Castle!!」へと変わっている番組タイトルを見て、応援に来ていた卯月、凛、未央の3人も、そしてプロデューサーも一様に困ったような表情を浮かべるしかなかった。

 それぞれの戸惑いをよそに番組収録は始まった。司会を務めるのは冒頭で未央が言ったとおり、川島瑞樹と十時愛梨。瑞樹は1話から3話まで連続で登場、特に3話では名前の字幕付きで紹介されたこともあって、視聴者にとっても「346の先輩アイドル」として記憶しやすかった存在になっていると思われるが、一方の愛梨は1話冒頭のライブシーン以来の登場であり、幸子同様まともに他キャラとコミュニケーションを取るのは今話が初となる。

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 18歳の大学生という美波に近いプロフィールを持つ愛梨だが、その性格はのんびりしていて良くも悪くも天然気質という、しっかり者の美波とは正反対の個性の持ち主だ。その性格と抜群のプロポーションもあって、原作ゲームではサービス開始当初から人気が高く、2012年7月にゲーム内で行われた第1回シンデレラガール選抜総選挙では堂々の1位を獲得、初代「シンデレラガール」の座に輝いたという実績を持つ。
 すぐに暑がって着ている服を脱ぎたがるという困った癖があるが、さすがに今話の中でそこは描写されていないものの、少々深読みするなら着用している瑞樹とお揃いのこの衣装、パンツルックの瑞樹と違ってかなり際どい短さのミニスカートを着て長い脚を露出しているのが暑がり対策と考えられないこともない。
 さらに言えばこの衣装はゲーム中イベント「アイドルLiveロワイヤル」の期間中に取得できる限定Rアイドルが着用していた衣装「ロワイヤルスタイル」とほぼ同じものになっている(初期のイベントのみで現在の同イベントでは「ロワイヤルスタイルNP」という別衣装)。ゲームの方では瑞樹も愛梨もこの衣装を着用した姿が描かれることはなかったため、ゲーム側の設定と本作の設定とをうまく組み合わせた結果の産物と言えるだろう。
 ただこのMCシーンでは愛梨以上に瑞樹の方に注目すべきだろう。10歳年下の愛梨と一緒になって「キュンキュンパワーでハートを刺激しちゃうわよ♪」などと言っている様は、2話や3話でメンバー最年長としての落ち着いた大人の女性らしい魅力を見せていた瑞樹からはおよそ結びつかない姿だが、これが2話の感想で書いた彼女の「かなりお茶目な一面」である。
 瑞樹はもちろんこのままでも十分綺麗なのだが、美容や体力面において必要以上に年齢を意識しているところがあり、そのためさながら十代の女の子のようにはっちゃけてしまう時がある、という側面がある女性なのだ。本作ではそれほどでもないが、原作ゲームの方ではノリノリでビーチバレーに興じたりクリスマスパーティでは率先して騒ぐなど、「大人の女性」の一般的イメージから離れた可愛らしい一面をたびたび披露している。たまにやりすぎて痛々しく見えてしまう時もあるが、そういった部分もまた瑞樹の代替し難い魅力であるということは、デレマスに長く慣れ親しんでいる人間であれば誰しも認めるところであろう。
 そんな2人をMCとして番組は開始する。今回からいきなり番組コンセプトが変わった原因について、「登場アイドルがあまりにクイズに答えられないから」と愛梨がいきなり暴露してしまうが、そんな天然故の危うさを本番中でも発揮してしまう愛梨と、基本的には落ち着いた年上の女性として愛梨をフォローできる瑞樹のコンビは、なかなか良い組み合わせなのかもしれない。
 2人の進行を受けて対戦するチームが入場してくる。番組常連なだけあってこなれた感じのKBYDチームに反して、今回初出場のキャンディアイランド側は自己紹介する言葉のタイミングもうまく合わせられず、少々不安な出だしになってしまった。
 ちなみにここではKBYDの意味が、「カワイイ」「ボクと」「野球」「どすえ」というメンバー3人の個性を象徴する言葉の頭文字を組み合わせたものだったということが判明する。今話分のマジックアワーによれば最初は3人がそれぞれチーム名の案を出したものの、それぞれあまりよろしい案ではなかったため、折衷した結果としてこの名前になったとの由。
 「カワイイ」「ボクと」はもちろん幸子のこと(彼女の一人称は「ボク」)で、「どすえ」は京都出身で京都弁を使う紗枝を象徴している。そして「野球」というのは最後の1人である由紀の最大の趣味、と言うか特徴を表していた。
 彼女は趣味のプロフィールが野球観戦となっているとおり、自他共に認める大の野球好きなのだ。特に原作ゲーム中に登場する強豪プロ野球チーム「キャッツ」がお気に入りで、ビール片手に応援するスタイルはファンの間で完全に定着しているほど。その一方、今書いたとおり飲酒できる年齢(20歳)にもかかわらず、キャッツのマスコットキャラクター「ねこっぴー」の着ぐるみを本物と信じている態度を見せたり、何でもかんでも野球に結びつけて考えた結果ひどいことになってしまう(料理など)場合があったりと、かなりフリーダムな性格でもある。
 キャンディアイランドの3人が杏を除けばかなり控えめな性格であるのに対し、メンバー全員尖った個性の持ち主であるKBYDチームは、対比という意味でもお互いに良い対戦相手なのかもしれない。
 早速MCの流れから始まるマイクパフォーマンス対決。KBYD側はその流れを引き継いで幸子がキャンディアイランドを挑発する。しっかり自分の可愛さをアピールするのはさすがであるが、一方のキャンディアイランド側はよくわからないままスタッフからマイクを渡された智絵里がすっかり動転してしまい、とっさに幸子に謝ってしまう。
 そのリアクションは存外受けたようで、キャンディアイランドがどうにか10ポイント先取することが出来た。次のコーナーの準備のために一旦撮影は中断し、客席の卯月たち3人もとりあえず一息入れる。しかし先にポイントが取れたし幸先いいのではという卯月に反し、未央は厳しい見方を崩さない。確かに今の採点はMCの采配に拠るところが大きく、智絵里自身はテンパって何もできていなかったことを考えると、未央の心配も決して的外れではないだろう。
 それは当の智絵里もよくわかっているようで、舞台裏で休憩している間にも、大勢の観客を前に頭が真っ白になってしまったと2人に謝る。そんな智絵里をフォローしたのは杏だった。

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 昨日のカエルの件を持ち出して、観客をカエルと思うようにとアドバイスするのは実に的確なフォローである。が、よくよく思い返してみると智絵里は収録開始前の楽屋でのシーンで既にカエルのことを口にしていたので、一見するとまるでここで初めてカエルの件を話題に出したようにも受け取れるが、これは智絵里の「頭が真っ白になった」という言葉から考えて、収録開始してスタジオに登場した時点で、直前まで頭の中にあったカエルの件もすっかり忘れた、緊張の余りどこかに飛んで行ってしまったとするのが一番妥当な見方だろう。
 それは杏のアドバイスにかな子もまたカエルのことを改めて思い出したかのような同意のセリフを発しているあたりからも窺える。かな子も智絵里ほどではないにせよ、カエルのことをパッとは思い出せないほどに緊張し、精神的な余裕がなくなっていたというわけだ。なかなかリアリティある人間臭い描写とも言える。
 そう考えるとこのカエルというアドバイスを行う役回りをこなせたのは、良くも悪くも緊張とは無縁の存在である杏しかいなかった。だらだらしている杏のいつも通りの態度も、今回ばかりは2人の緊張をある程度緩和させる良い方向に働いたと言えるだろう。智絵里も改めて収録に臨む意思を強める。

 再開した収録で次に行うのは風船早割り対決。その名の通り大きな風船に3人一斉に空気を入れて、先に割った方が勝ちという一昔前の対決ものバラエティでチラホラ見られた趣向のものだ。
 最年長の由紀が一番楽しそうにしている一方で、杏は単純な体力勝負のためかあからさまにやる気を出さない。そのためかは不明だがKBYDの方が空気を入れるのが早く、キャンディアイランドの面々の頭上に仕掛けられた風船は勢いよく破裂してしまう。
 杏が空気入れを止めて一早く身構えたり、かな子が破裂の勢いで倒れ込んでしまったりとおいしいところは持っていったものの、負けは負けなので罰ゲームとしてかなり苦い味の健康茶を飲む羽目になってしまった。
 この辺はアニマスの15話と同様に劇中劇たるバラエティ番組の進行を、気を衒うことなく大真面目に追っており、それを通して劇中の世界観そのものの拡大化を行っているだけでなく、見方によってはいわゆるライブ回などと同様、アイドルたちが取り組む様々なシチュエーションのドキュメンタリー風映像と解釈することもできる。
 今話のストーリー自体がここで極端に変化するわけではないが、キャンディアイランドの面々のみならず、名称を適度に省略して呼ぶ瑞樹の司会慣れした様子や、その際「カワイイボク」が省略されたことに慌てる幸子など、各登場人物の細かい描写が随所に盛り込まれており、それがキャラクターが単なる類型的な記号から独自の個性を持つ存在へと脱却するのに一役買っている。
 それは次のマシュマロキャッチ対決も同様で、キャッチする側に野球好きの由紀とマシュマロ好きのかな子がそれぞれ立候補したり、手を抜く気満々の杏がマシュマロを撃つ方として半ば強引に智絵里を推挙するなど、イベントを通しての各人の個性が遺憾なく描写されていた。
 またそれを抜きにしても、挿入歌「アタシポンコツアンドロイド」に乗って描かれるそれぞれのアトラクションシーンは非常に可愛らしいものになっており、かな子と智絵里はもちろんのこと、今回が初めての本格登場となった幸子と由紀の活躍にもたっぷり時間を割いており、自然と彼女たちについても見る者の興味がいくような構成になっているのは、注目しておくべきだろう。口で直接マシュマロを食べるルールなのに由紀が迷うことなく両手で「キャッチ」するシーンなどは、原作ゲームで色々描かれてきた由紀の野球バカという面を知っている人ならば納得の行動だったのではないだろうか。

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 結局マシュマロ対決は一対一の引き分けで終わり、続いて私服ファッションショーに進む。おしゃれを「女の子が常に磨き、鍛え上げなければならない筋肉」と形容するのは叶い強引と言わざるを得ないが、アイドルがメインの番組である以上、アイドルらしい部分を見せるコーナーも必要ということなのだろう。
 一番手として登場した杏が着てきた服は、当然いつもの「働いたら負け」Tシャツ姿。あまりにもいつも通り過ぎるその出で立ちに見ていた卯月たちも大いに驚くが、当の杏が涼しい顔をしているのは、このコーナーに関しては自分のやる「仕事」がただ歩いて簡単なポーズを決めるだけのものだったからかもしれない。その意外性もあってか、観衆にも瑞樹にも受けは良かったようだ。

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 対する紗枝の服装は、いつも和装の紗枝には珍しいセーラー服姿だった。原作ゲームにおける限定ガチャ「新・制服コレクション2013」での限定SRで披露したのと同じ制服だが、これは狙ってのものではなく下校して直接仕事に来たからのようで、紗枝本人にとってこの姿を見せるのは結構恥ずかしい様子。

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 ところがそんな恥じらいを見せる姿が観客の主に男性陣、そして瑞樹の琴線をいたく刺激したようで、今回の対決もKBYDチームの勝利に終わる。負けた杏がそれほど悔しそうにしていないのは、この時点では勝敗そのものにさほど拘っていなかったからだろうか。尤も未央が「爪あとは残せた」と表現したとおり、強烈な印象を観客や視聴者に残したのは間違いないであろうから、デビューしたてのアイドルとしては、これはこれで良いのかもしれない。
 先ほどと同じ罰ゲームが行われた時点で得点差はちょうど100点。いよいよ最後の対決と相成るわけだが、その前に合計得点で負けた場合の「豪華な」罰ゲームが渓谷の吊り橋上からのバンジージャンプだと説明され、アイドルたちも一様に顔を強張らせる。
 次の対決への準備のためにまた収録は小休止に入るが、舞台裏に引き上げてきたかな子たち3人の表情は暗いままだ。何だかんだで仕事をこなしてきた杏もさすがに弱音を吐くが、勝つにしろ負けるにしろこれもアイドルとしての仕事の1つなのだから、プロデューサーとしては彼女らの弱気をそのまま受け入れるわけにもいかない。
 しかしプロデューサーが言葉を言い終えるより前に、緊張と疲れからか智絵里がその場にへたり込んでしまった。慌ててプロデューサーも駆け寄り、楽屋に戻って智絵里を休ませることに。
 横になった智絵里は何とか落ち着き、次の収録について尋ねたプロデューサーにも了承の返事を返すが、プロデューサーは改めてもう一度、「笑顔で出来ますか?」と智絵里に問いかける。
 今更言うまでもなく「笑顔」とはプロデューサーがアイドルにとって一番必要なものと考える、アイドルをアイドルたらしめる最も重要なファクターである。それを今この場で問いただしたのは、智絵里が次に控えている収録を「アイドル」としてやり抜こうとする意思があるか、その覚悟を確認するためという点に疑いの余地はない。
 そしてその覚悟は次回以降の仕事についても影響を及ぼすほど大きなものでもある。智絵里は時と場合に応じて上手に立ち回れるような器用な性格ではない。智絵里がもしここで拒絶してしまったら、アイドルをやりたいという自分の意思を自分自身で否定することになり、今後どのような仕事をしたとしても彼女はもうアイドルとして人前に立つことができなくなることすらありうるのだ。
 その意味ではこの問いに対する智絵里の回答は、彼女の今後を決める上での重要な分水嶺になるものと言えるだろう。
 それを感覚的に理解しているのか、智絵里もすぐには返事をせずに口をつぐみ俯く。わずかの沈黙が楽屋を支配する中、口を開いたのはかな子だった。
 バンジージャンプは怖いけど本番は笑顔でがんばると言うかな子の言葉は、智絵里への説得としては殊更に感動を呼ぶような劇的なものではない、ごくありきたりの内容である。しかしこの言葉は度合いの違いはあれど智絵里と同じようにアイドルを楽しみ、同じように緊張し、同じように悩みながら努力してきたかな子が発したものだからこそ、字面以上の重みが込められているのである。
 単に「仲間がいるから強くなれる」と言うのは容易いが、かな子の場合は智絵里に取って苦楽を共にしてきた仲間というだけではない。2人はそれぞれアイドル活動に喜びや楽しみを見出しながらも、それに伴い直面する様々な出来事にその都度不安や緊張も覚えてきた。前述のとおり程度の差はあるものの、智絵里とかな子はキャンディアイランドとして活動するようになって以降も、そしてそれ以前からアイドル活動というものに対して極めて近しい感じ方、感性を持ち、それを自然と共有してきたのである。
 2話で自分たちもいつか出るであろうステージに想いを馳せたり、3話で卯月たち3人の晴れ舞台を心配しつつ応援したり、5話でアイドルとして客に喜んでもらったり幸せな気持ちになってほしいと夢を語らったり…。明示的にではないし、本人たちも自覚してはいないだろうが、アイドルに関する限り2人の考え方や受け止め方は「似た者同士」に近いものとなっていたのだ。
 そんなかな子が自分と同じような緊張や恐怖心を抱きながらも、アイドルとしてきちんと自身の「アイドル」という立場と向き合おうとしている。その事実は智絵里の心に小さな勇気を呼び起こす。
 怖さは消えたわけではないし自信もないが、それでもみんなに勇気をもらえたから、キャンディアイランドとして仲間と一緒にアイドルをやりたいという自分の想いを、たどたどしくもはっきりと伝える智絵里。彼女の決意にかな子も杏もまずは胸をなでおろす。
 だがここにもう一つ、智絵里が思い定めなければならないものがあった。それは自分がそのような決意をしてまで、アイドルとして何をやり遂げたいと思うのか、即ち今回の仕事における「目標」である。自分たちが何故がんばる必要があるのか、何を目指して頑張らないといけないのか、そこが定まっていなければ智絵里の決意も地に足がつかないが如く曖昧になってしまうのだが、内心の緊張や不安定さ故に智絵里のみならずかな子までもそれを見失ってしまっているのである。
 それを2人に再認識、そして新たな目的を認識させる役目を担うのがキャンディアイランドの3人目、つまり杏だ。ちょうど収録が始まって緊張している2人に「カエル」の件を思い出させたように。
 バンジーは怖いと現実的な見方を口にしつつも、逆転勝利すればいいということを彼女らしいレトリックで提案する杏。対決に勝てば罰ゲームをする必要はもちろんないし、当初立てていた目標であるアピールタイムでの曲紹介も行える。杏の言葉でそのことに智絵里もかな子も気づいた(思い出した)のだ。
 杏にとってはいつも通り、自分の直面している事態を円滑に処理する(仕事を早く終わらせる)ために考えた最善の案を提示したのだろうが、決してそれ「だけ」ではないということも、笑顔を作るかな子や智絵里と共に杏自身も少々照れながら笑顔を見せているところから十分に察せられるだろう。特別に仲間への想いが人一倍強いと言うわけではない、困っている仲間を放ってはおけないという人間が本来当たり前に持っているはずの人間らしい小さな優しさが発露した結果としての助言だったのである。
 ここにおいてようやく「罰ゲームを回避し、自分たちの歌を観客に聞いてもらうためにアイドルとしてがんばる」という目標が3人の中で一致した。それ以外の思惑を秘めている者もいるにはいるが、とにかくも3人の想いが1つになったことを象徴するように、今度3人で上げた掛け声は、前日のあの時とは違いタイミングもテンションも見事に揃ったものとなっていた。そんな3人の様子にプロデューサーも安堵の表情を見せる。

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 再開した収録で行われる最後の対決は滑り台クイズ。解答者は滑り台に乗り、クイズに間違えたり答えられなかったりするごとに滑り台の角度が上がっていき、耐えきれなくて滑り落ちてしまったら失格、という昭和の頃から存在するポピュラーな形式のクイズである。別のパネルに出題クイズのジャンルと得点が表示されており、クイズで正解すればその分の得点を取得できるというルールだ。
 早速対決開始ということで、最初に瑞樹が出題パネルの中から選択した問題は芸能の10。「先週の放送で天然回答を連発し、番組を終了させたアイドルチームの名前は?」というクイズに幸子が正解の「B.Bチーム」と解答、かな子も答えるものの幸子より若干遅れたので負けとなり、滑り台は一段上がってしまう。
 ちなみにこのB.Bチーム、原作ゲームを遊んでいない人でもモニタに表示された画像を見ればすぐわかるとおり、2話や5話で登場した及川雫と今回初登場の大沼くるみの2人ユニットである(わざわざ目の部分に黒線を入れるのはいかがなものかと思うが)。

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 くるみは弱虫で泣き虫、何かあればすぐ泣く上によだれまで垂らしてしまうという大変に難儀な性格の持ち主。13歳という年齢の割に幼い思考を持つ半面、不釣り合いなくらいの豊満なバストが目につくが、男子にからかわれるため本人にとってはこれも悩みの種になっているとのこと。
 この2人がBパート冒頭で愛梨の言った「クイズに答えられないアイドル」というのはこの2人を指しているのは明白だが(2人「だけ」かは不明)、具体的な状況を推理してみると、まずくるみはその気弱な性格上まともに解答できず、それが続くうちに泣きだして解答するどころではなくなってしまった、というのは容易に想像できる。
 雫の方は5話の感想に書いたとおり考え方や行動は決して天然ではないのだが、原作ゲーム内「シンデレラガールズ劇場」の278話や365話で描写されているように、のんびりした性格のためかわからないことについて考える時も非常にゆっくりなので、結果的に解答が出せない状態に陥ってしまうパターンが多い(278話では温泉に浸かったまま考えすぎてのぼせてしまい、365話ではスイカ割り挑戦中に考えすぎた結果としてあさっての方向に進みすぎ転んでしまう)。なので制限時間が決まっているクイズ番組ではその思案の途中でどうしても解答しなければならず、結果として天然的な解答になってしまったというところだと思われる。
 クイズの方は幸子が続いて芸能の20を選択、男性ユニットアイドルについてのクイズに、今度は紗枝が「ジュピター」と解答する。ジュピターの3人も1話での広告に、別ゲーム「アイドルマスターsideM」に登場する315(サイコー)プロ所属と思われる状態で登場していたが、本作がアニマスから直接時系列を引き継いでいることを考えると、961プロを離脱してから地道に活動を続けてついに全国ツアーを実現できるほどにまでなったというのも、アニマスから見てきた者にとってはなかなか感慨深いものがある。
 その後もKBYDチームが正解を連発し、キャンディアイランドの方は合計三段階も滑り台が上昇、ついに杏が耐え切れなくなって滑り落ちそうになってしまう。あわやというところで杏の腕を掴んだのは智絵里だった。智絵里の励ましを受けて杏も何とか耐えられるように体勢を変えて持ち直す。
 小さなことではあるが、かな子や杏の応援を受けて立ち直った智絵里が、今この場では杏を応援してどうにか踏み止まらせる立場となっているというのは非常に巧い構成である。特定の人物に依存するのではなく、文字通りに互いが互いを支え合う仲間同士の理想の連携に近いものが育まれていることが、この短い場面から窺い知れるだろう。
 一方のKBYDチーム、特に幸子は次で決めると意気揚々だ。自信たっぷりに歴史の10を選択するものの、「徳川将軍の三代目は誰か?」という出題の正解がわからず、あっさり答えに詰まってしまう。そこにすかさずかな子が先ほどのお返しとばかりに正解を答え、何とか相手側に一矢報いる。
 本文中では敢えて記述しなかったが、この徳川幕府歴代将軍についてはAパートの終盤、収録前の楽屋においてかな子がクイズ対策にと暗記をしていたものである。事前の努力が本番で奏功したというのは、勝負の流れが変わってきたということを何より端的に示す事柄であると言えるだろう。
 問題の選択権がキャンディアイランド側に移ったところで、杏は最高得点である30番台のジャンル「科学」を選択する。取得できる点が高いということは無論それだけクイズの内容も高難度になっているわけだが、逆転勝利を達成するために杏は敢えて選択したのだ。
 その出題は「スカイツリーのてっぺんからリンゴを落としたら、落下直前の速度はいくつになるか?」というもの。
 これは高校物理(物理T)でいうところの「等加速度直線運動」の問題である。一般的にこの計算をする場合は初速度v0、時間t、加速度aに移動距離sを用いて、tの時点での速度vを求めるのだが、今回の問題では時間についての条件が指定されていないので、v0=0とa(今回は重力加速度なのでg=9.8)、それにs=634(m)を用いた方程式で答えを出す必要がある。
 ただこの場合はある理由から暗算で計算するのが非常に難しく、今回のような場で容易に答えられる類のものではなかった。KBYDもキャンディアイランドも答えられず思案にふける中、ただ1人があっさりと解答を口にした。

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 「秒速111.474メートル」と切り出した杏は、さらに瑞樹からの指摘に合わせて「401.306キロ」と時速への換算も一瞬で行い、見事に正解する。
 この計算、何がそんなに難しいのかと言うと、時間tを使用せずに距離で速度を算出する場合の公式はv^2−v0^2=2gsとなり、v=の形に直すと「v=√2gs」となる。つまり平方根を利用する必要が出てくるからである。
 平方根自体は中学の課程で学習する「平方(自乗)すると元の値に等しくなる数」のことである。例えば4の平方根は2^2で2、9の平方根は3^2で3、という具合だ。
 ところが数字によっては整数で表現しきれない平方根と言うものも存在する。例えば2の平方根や3の平方根は実際には延々と続く少数になるため、わかりやすく記述するために√2や√3と記述している。実際の値については語呂合わせで2の平方根を「1.41421356(ひとよひとよにひとみごろ)」などと暗記した諸兄も多いことだろう。
 √2や√3のようにある程度基礎知識として浸透している値ならば良いが、今回のようにまっさらな状態から出てきた計算結果の平方根を求めるのはかなり大変である。今回ならば2gs=2×9.8×634=12426.4の平方根を計算するのは、紙なり電卓なりあれば可能だが暗算で行うのはかなり難しい。ましてクイズである以上制限時間つきなのだから、余計に難しくなっていたのであるが、それを杏はわずか数秒で計算してしまったのである。しかも小数点3ケタ以下をわざわざ四捨五入までして。
 時速換算は秒速に3.6をかければいいだけではあるが、これも暗算に慣れていないと結構苦戦することを考えると、いずれにせよ杏のこの暗算能力は常人をはるかに上回る技能と言える。これがだらだら生きることを信条とする杏の「本気」だったのだ
 尤もスカイツリーが出来た時点で同様のクイズは色々出ているだろうから、杏が本番前にどこかで予習しておいたという線も考えられなくはないのだが、現時点でそこに至るような伏線が劇中で見つからない以上、杏の能力そのものと考えるのが妥当であろう。
 長々と解説したがとにかくキャンディアイランドが正解したわけで、驚くKBYDの方の滑り台も容赦なく上昇していく。二段階目の時点で幸子はあっさりと滑り落ちてしまうが、滑り台にしがみついて何とか落ちることだけは免れる。愛梨の言うとおり傍目には変な格好だが、落ちないために幸子も幸子で必死なのだから仕方がない。
 ちなみにこの「滑り台クイズで落ちそうになるもしがみついて必死に耐えるアイドル」というのも、アイマスとは関係ないが元ネタ自体は存在するようなので、興味があれば確認してみてもいいかもしれない。
 続けて杏はアニメの30を選択。劇中世界で放送されていると思われるアニメ「幽体離脱!フルボッコちゃん」のクイズが出題されるが、これもまた杏が難なくこなし、さらに一段上がったKBYDからはついに紗枝が脱落してしまった。
 ここで余談だが、フルボッコちゃんとして登場しているキャラはどう見てもデレマスアイドルの1人である小関麗奈である(ついでにマスコットキャラは太田優の飼っているペットの犬「アッキー」と思われる)のだが、これが「アニメ」であって「実写」ではないということを考えると、これは麗奈をモデルにしてデザインされたキャラクターと言うことになるのだろうか。であれば麗奈は声優として参加しているのかもしれない。

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 何にせよ麗奈もまた今話において初めて登場したデレマスアイドル。声なしとは言え彼女のファンにとっては待ちに待った瞬間であったろうし、彼女と対になる?存在のヒーロー系アイドルの出演にも期待したいところだ。
 閑話休題。続けて杏が選択したのはスペシャルの30。ここで決めるつもりだと客席の未央たちも期待の表情を浮かべて見つめる中、クイズが出題される。
 「江戸時代のオランダ貿易でガラス製品の緩衝材として持ち込まれた外来種で、花言葉に「幸運」「約束」などがある花は?」という内容に皆が杏に注目するが、当の杏はわからないとあっさりギブアップを宣言する。
 このタイミングでのギブアップに愛梨を始め観客からも笑いが漏れるが、わからないのであればと瑞樹が解答権を移そうとした時、1人声を上げたのは智絵里だった。

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 未だ緊張しているのか顔を強張らせながらも、自分の背中を押してくれた大事な仲間と繋ぐ手を強く握りながら、はっきりと解答を口にする智絵里。その答えとは「シロツメクサ」。智絵里がいつも大切にしている四つ葉のクローバーを湛える花である。智絵里の小さな勇気に四つ葉のクローバーが応えてくれたかのような幸運に、客席の卯月たちも、仲間であるかな子や杏も、そして智絵里自身も顔をほころばせる。
 KBYDチームの滑り台はさらに一段上がり、今度は由紀が脱落、次いで滑り台にしがみついていた幸子もとうとう耐え切れずに落ちてしまい、この対決は晴れてキャンディアイランドの勝利となった。
 滑り落ちるのをずっと耐えていた杏もようやく一安心するが、感極まったかな子が飛びついてきたため、さすがに耐えられなくなって智絵里も巻き込み滑り落ちてしまう3人。本気出すのは疲れると独りごちる杏をかな子と共に笑顔で見つめる智絵里は、客席に未央たちの姿を認めて手を振る。
 今までお客は「カエルさん」だったから気づかなかったという智絵里に、ならしょうがないと3人は笑い合う。それは苦労しながらも互いに助け合って1つの事を成した、キャンディアイランドというアイドルユニットの1つの成果であったと言えるだろう。
 すべての対決が終わり結果発表となるが、結果は何と同点の引き分け。この場合はアピールタイムはそれぞれ半分ずつの時間で、そして罰ゲームのバンジージャンプも一緒に実施という説明を聞かされ、KBYDチームの面々慌てて文句を言うが、愛梨たちにも言わないようにとのお達しがあったようでもはや後の祭り。
 智絵里はまた3人で仕事ができると喜ぶが、それに反して仕事を早く終わらせるためという名目もあって本気を出していた杏は当てが外れてしまい、文字通り涙目になりながらそんなつもりじゃなかったと叫ばずにはいられなかった。

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 そして3人のデビュー曲「Happy×2 Days」をバックに、待望のアピールタイムが始まる。時間は短くなっているようだが、智絵里が皆を代表して述べたとも言える「みんなにハッピーを届けたい」というこの楽曲に込められた想いは、見ている人たちにも十分伝わったに違いない。
 最後の最後でいきなり引退宣言をする杏に「なんでやねん」とすかさずツッコミを入れられたのも、事前の努力を活かせたという点で彼女らがアイドルとしてきちんと成長できた証と言えるだろう。
 そのままHappy×2 Daysをエンディング曲として描写されるのは、罰ゲームであるバンジージャンプの様子。
 全員強制参加のようで杏も結局バンジーをする羽目になったが、ここで面白いのはやはり涙目になりながらバンジーに臨む幸子の描写だろう。
 幸子はそういう系統のアイドルではないにもかかわらず、原作ゲームで排出される限定SRではスカイダイビングに挑まされたり遊園地の絶叫マシーンで水を被ったり、泳げないにもかかわらず水泳大会に参加したり、何かと体を張った仕事をやらされることが多い。今話の場合も罰ゲームがバンジーだと判明した途端にツイッターやニコニコ生放送におけるコメントでは「幸子がオチか」と視聴者のほとんどが一様に呟くほどに浸透しているネタであるが、その予想に違わぬ奮闘をアニメでも見せてくれたのは実にすばらしいことであった。

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 キャンディアイランドの方も最終的にどうにか全員無事にバンジーをこなしたようで、髪の毛がぼさぼさになりながらも仕事の達成を喜ぶ3人の笑顔でクロージングとなっている。智絵里の目に浮かんでいる涙も怖さだけではない、もっと大きな理由故のものであるに違いないだろう。
 さらに言えばこの「Happy×2 Days」、普通に歌詞を追っていくとよくあるラブソングのように思われるのだが、途中で歌詞とは関係なく杏が自身のフリーダムさを歌うラップが同時に挿入され、最終的にメインの歌詞を歌っているかな子と智絵里がツッコミを入れるという結構な異色作となっているので、ぜひ一度聞いてほしいところだ。

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 冒頭に記した通り、キャンディアイランドはニュージェネレーションズに続く2つ目の3人編成ユニットである。ニュージェネに関しては1話から7話までたっぷり時間をかけて、ある一定までの関係性の成熟が描かれたが、尺の都合上、今回のキャンディアイランドについても同じような見せ方で関係性を描くことは非常に困難であった。これはキャンディアイランドに限らず、まだデビューしていないメンバーが将来的にユニットを組んだ場合においても該当する、言わば共通の懸案事項と言える。
 そこでスタッフは2つの方策を用意した。1つは最小単位の人間関係を、省略した上で序盤(2話)からずっと描写し続けたという点だ。最小単位の人間関係とはもちろん一対一、即ち「2人」の関係である。2話の時点からかな子と智絵里は基本的にずっと一緒、言わば2人一組のような体制で行動し続けてきた。ストーリー上の中心に来ることはこれまでなかったものの、共にいる描写を継続的に挿入することで、視聴者側に2人がどのような性格で2人一緒の場合はどのような役回りになるかをある程度把握させ、そこから「2人は基本仲が良い」という見方を映像上の情報のみで見る側に刷り込んできたのだと言える。
 これが「省略した上での描写」だ。劇中ではかな子と智絵里がどのように出会い、どのように2人一緒に行動するほど仲良くなったのかについては一切触れられていない(そのような背景設定があるのかどうかも見ているこちらとしてはわからない)が、そのような設定を見せる行為を敢えて省略し、今現在の2人の仲の良さを何度も映像として見せることで、「2人は前から仲が良い」という印象を強烈なものとして見る側に植え付けている。
 かつてのアニマスの、特に仲が良かった伊織とやよいがどのように出会いどのように仲良くなったか、その辺りの設定を完全に省略した上でストーリーを進行したのと同様の見せ方になっているわけだ。
 さらにもう1つの方策とは、そのような最小単位の人間関係のうち一つをあえて崩し、既にある程度完成されている別の関係性に入りこませることである。キャンディアイランドで言えばきらりと一緒にいるシーンがずっと強調されてきた杏が、1人その関係性から抜け出してかな子と智絵里という2人きりの人間関係に組み込まれたというのが該当する。
 そうすることで杏、かな子、智絵里の3人別個の関係ではなく、「杏」と「かな子・智絵里」という一組の関係性が成り立ち、その関係性を描写するという手段を今話では取っているのである。これにより3人がバラバラの状態から関係性を描くよりは短い尺で、より濃密に描写できるという利点が生じることになる。
 また別の組み合わせから半ば強制的にこちらの組み合わせに編入される(今回の場合は杏)ことによる画的なインパクトそれ自体が、3人の物語展開、及び関係性の発展に説得力を付与してもいる。
 これはストーリー構成としてはかなり強引なやり方には違いないのだが、にもかかわらず今話にさしたる破綻なく3人がお互いの繋がりを深められたのは、3人が元々シンデレラプロジェクトの仲間同士で、互いの人となりを以前からある程度把握していたという点が大きい。「相手を知る」ことからではなく「相手との関係性を深める」ところからのスタートなのだから色々省略できる一方で、見せたい部分だけを強調して描写することが出来るのだ。
 ニュージェネ3人を通して本作の「アイドル」観を描写するという基本プロットにデレマス、引いてはアイマスそのものの世界観を考慮した上でキャンディアイランド3人の関係性が深まるストーリーを構築する。これは決して行き当たりばったりでできることではない。様々な制約等を考慮した上で計算しつくされた構成の下に今話は生み出されたと言える。1話完結のアンソロジー形式を基本としながら様々な要素を配置しておき、必要な話の中でそれらの要素を1つの縦糸軸として機能させるストーリーテリングは見事と言う他ない。
 そんなストーリーテリングによって紡ぎ出されたキャンディアイランドの関係性は、前述のとおりニュージェネレーションズとは似て非なるものになっている。
 元々やる気のない杏にお互い控えめな性格のかな子と智絵里という3人がメンバーのため、誰かが誰かを引っ張っていくというよりは、常に誰かが誰かを支えている、静かに互いの背中を押してくれる関係性、という表現が一番適当であろう。
 お互い緊張しながらも目標のためにがんばろうと誓いあうかな子と智絵里、そんな2人の心が少しばかり楽になるようそっと助力する杏、今話で一番強調されていたこれらの描写を思い返すと、そんな風に思えるのである。
 互いを支え、背中を押すばかりでは歩調が合わない時もあるだろう。しかしどんなにゆっくりでもしっかりと、着実に歩みを進めていけるということは、支えてくれる手に込められた優しい想いを知っている3人なら十分わかっているはずだ。「CANDY ISLAND」とはそんな3人の優しさが生み出す幸せな時間そのものと言えるのかもしれない。

 また今回は幸子を始め様々なアイドルのユニークな一面を色々見ることが出来る挿話でもあった。3話のように字幕表記が出てもおかしくないくらいの出番だったのにもかかわらず字幕は出なかったが、本作の世界や人物関係の広がりに各人の個性と、十分に堪能できたと思われる。
 そんな中で1つ個人的に一考してみるとすれば、愛梨のセリフが天然を通り越して若干毒舌の領域にまで達しているように思われる点だろうか。
 と言ってもそんな大仰に考えるほどのものでもなく、構成台本上のセリフと素の自分自身の言葉とが入り混じってあんな妙な感じになってしまったのだろうと自分の中では決着をつけているが、どこまでが台本でどこからが自分の言葉なのか、これについてはもう少し考えてみるのも一興だろう。

 さて今話の時点でまだデビューしていないシンデレラプロジェクトの面々は残り5人。次回予告を見る限り次のデビューユニットも3人編成のようだが、キャンディアイランドとは180度異なる賑やかなユニットになりそうだ。次に迎える物語はどのような展開になるのだろうか。



2015年06月08日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第8話「I want you to know my hidden heart.」感想

 卯月、凛、未央の3人を中心としたアイドルを目指す14人の少女たちの物語は、互いに手を取り合いながら力強く新たな一歩を踏み出す3人の姿を象徴として、一旦の節目を迎えた。
 少女たちがそれぞれの立場や経緯からアイドルを志すようになり、時に傷つきながらも互いに努力し励まし合いながら、仲間やプロデューサーとの絆を育み、それを糧として各々が抱いた夢に向かって歩き始めるという展開は、まぎれもなくアイドルマスターの名を冠するにふさわしい、「アイドルを目指す少女たち」の成長譚として成立していたと言えるだろう。
 そしてもちろん彼女たちの物語はまだまだ始まったばかりだ。その先にはまだ知らないことや未知のものがたくさんあり、それら一つ一つに彼女たちが直面する都度、新たな物語が生み出されていくことになるのである。
 さてそんなたくさんの「知らないこと」がある中で、皆が真っ先に知らなければならないものと言えば、まずは同じシンデレラプロジェクトに所属する仲間の人となりであろう。とりわけ過去の経緯もあってメンバーから一歩引いて接していたプロデューサーにしてみれば、それは急務の事項と言っても差し支えあるまい。
 今話でクローズアップされるのは、そんなプロジェクトメンバーの中で最も人となりがわかりにくいと思われる少女である。その理由は言うまでもなく、彼女の「言葉」に起因していた。

 前話から幾分かの時が流れ、初夏の強い日差しが346プロのビルを照らす中、元気良く挨拶をしながらプロジェクトルームに入ってくる未央。もうすっかりいつもの調子に戻った様子だ。
 先に部屋に来ていた蘭子とアナスタシアも親しげに挨拶を返すが、蘭子は例によって大仰な言い回しでの挨拶だった。さすがに「煩わしい太陽ね」という言葉を「おはようございます」とすぐに解釈できる人間は滅多にいまい。
 そんな言い回しを好む蘭子にしてみれば、未央のつけた「らんらん」という可愛らしい自分のあだ名に戸惑うのも仕方のないところだろう。
 しかし蘭子が決して偏屈なわけではなく、むしろ純粋な性格の持ち主であるということは、未央の取り出した携帯扇風機や衣類用の冷却スプレーを見て「涼しそう」「冷たそう」と、ごくごく普通の感想を述べた点からも十分察せられる。ただそのような素直な感想も、彼女の言い回しにかかると「シルフの戯れ」「シヴァの息吹」となってしまうのであるが。

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 今のこの流れを引き合いに出すまでもなく、蘭子という少女は別に本心を隠しているわけではないのだが、それを伝える手段が第三者からすると難解なために、結果としてコミュニケーションが成立しにくくなってしまっている。ニュアンス程度なら既に皆も理解できているようだし、それだけでも蘭子がいい子だということは十分認識できるのだが、だからこのままの状態でいいと言うものでもない。
 今話はその「このままの状態」ではいられなくなった時に、蘭子や周囲の面々が何を考えどう立ち回るのか、それを描くのが骨子となる。
 ちなみに本筋とはあまり関係ない話だが、蘭子の発言の中にあった「シルフ」とは中世の錬金術師・パラケルススが提唱した地水火風の四大元素にそれぞれ存在する四精霊のうち、風の精霊とされる存在であり、「シヴァ」とはヒンドゥー教の最高神の1人(一柱)である破壊神のことである。
 前者はともかく後者は冷気とは本来関係ない存在なのだが、これは恐らく近来の各種ゲーム作品によって付与された「氷・冷気を司る」属性に影響を受けているのだろう。

 やがて部屋に集まったみんなもめいめい、未央の持ってきた扇風機や冷却スプレー、そして7話でも未央の部屋に置かれていたハンバーガーを模した大きなクッションを話の種にして盛り上がる。初夏というだけあって全員夏を意識した服装に変わっており、原作ゲーム中では私服の変化があまり見られないだけに、かなり新鮮な印象を見る側に与えてくれる画となっている。
 そんな中、当の未央はプロデューサーに私物の持ち込み許可を進言していた。その提案に仕事に関係ないものは必要ないとつれない態度を示すみくであったが、彼女が普段つけているネコ耳は仕事用だからセーフらしい。確かにアイドルとしてのみくのアイデンティティを形成する大事な道具であることは間違いないのだが。
 みくに反対されて少し意気消沈する未央。それにより事務所の中がより明るくなる、みんなの個性が見えるようになって面白いという未央の考え方は、誰に対しても物怖じせず積極的に交流を図ろうとする性格の未央らしいアイデアだろう。
 少々深読みをしてみれば、6話及び7話で起きた事件の原因の一端は、未央とプロデューサー相互の理解度不足にもあったのだから、それを踏まえてプロジェクトメンバー全員との関係性を強めたいという意思が働いたと考えることも出来るのであるが、実際にはそこまで過去の事象に深く縛られた故の発想ではないだろう。やはり未央は単純にみんなともっと仲良くなりたいという極めて純粋で素直な衝動からこのような提案をしたと捉えるべきで、その方は明るく元気で人懐っこいいつもの未央らしいと言うものである。
 そんな未央の心情を汲み取ったのか、プロデューサーは改めて全員にこの提案の是非について尋ねる。それはプロデューサーとして非常に良い姿勢なのだが、前話のラストで未央から言われた「丁寧口調を止めよう」という提案もあって、普段の「です・ます」調的言葉で話した後に慌てて「だ・である」口調で律義に言い直すというのを繰り返しており、何とも言えない可笑しさを醸し出している。その様子を見ていた卯月と凛が苦笑してしまうのも当然と言ったところだろう。

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 プロデューサーからの問いに美波やきらり、莉嘉にみりあは賛意を示すが、みくは仕事とプライベートは分けたいという考えから、先ほどと同様に否定的な返事を返す。そんなみくの意見に「今の事務所の雰囲気はクールで嫌いじゃないから」とまったく異なる理由ではあるものの、李衣菜が賛同しているのは面白い。みく本人がそれを珍しがっているのは、視聴者が抱くであろう印象のメタフィクション的な代弁とも、制作陣という神の視点からの茶化しとも取れる。
 真面目すぎるみくと莉嘉とが、意見の相違からあわや口論というところにまで発展しかかってしまったため、プロデューサーは少し悩みながらもそれぞれ1人一品ずつのみ持ち込みOKとしてはどうかと妥協案を提示してきた。
 直前まで寝こけていたにもかかわらず突然飛び起きてきた杏の質問から、ある程度弁えてさえいれば基本何でも持ち込んで良いという言質も取れ、みくも李衣菜もとりあえずは了承し、喜ぶ一同。未央も嬉しそうにプロデューサーにお礼を告げる。
 プロデューサーのこの異なる二種の意見のどちらか一方を否定することなく、両方を掛けあわせた上で妥協点を模索したというやり方は、片方を無下に否定すればそちらに遺恨が残る可能性もあり、それが引いてはメンバー間の軋轢に発展しかねない危険性を考えれば、プロジェクトメンバーをまとめる立場としても、1人のプロデューサーとしても理想的な提案であったと言えるだろう。それはそのまま「アイドルマスター」という作品がずっと定義してきたプロデューサーとしての理想像の1つに重なるとも言えるのだから。
 この「相手の考え方を否定しない」彼のやり方、プロデューサーとしての有り様は、後々の展開に生かされることとなる。
 一気ににぎやかになった室内に大西部長とちひろさんが入ってくる。ちひろさんに促され、プロデューサーは改めて皆を集めてある重大事項の説明を始める。それはラブライカ、ニュージェネレーションズに続くプロジェクトメンバーのCDデビュー決定の知らせだった。
 久々の朗報に一同もにわかに色めき立つ。次は誰がデビューするのか、自分がデビューできるのかを気にかけるものがほとんどの中で、みんなに悪いからデビューを譲るとあっさり言ってのける娘がいるのは、何ともシンデレラプロジェクトらしいところではあるが。

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 プロデューサーが口にした次のデビューメンバーは蘭子だった。今回は前回と違い蘭子単独のソロデビューということで、また次回以降となってしまったみくや莉嘉は残念そうな表情を浮かべるが、「待っていて下さい」というプロデューサーの言葉に笑顔を作り、蘭子に激励の言葉を送る。
 みくたちが不満を飲み込んで素直に蘭子を祝福出来たのも、5話や7話を経てより深まったプロデューサーとの強い信頼があればこそだろう。7話での一件以降はそれぞれプロデューサーと良好な関係を構築してきているであろうという時間経過も窺えて、6、7話の展開を見届けた視聴者は、このやり取りだけでも一種の感慨深さを抱いたのではないだろうか。
 皆の祝福を受け、蘭子も全力で取り組むといつもの口調で宣言する。その表情が喜びに溢れているのは言うまでもない。

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 デビューに向けて蘭子とプロデューサーがミーティングを始める一方、他のメンバーはいつも通りベテラントレーナー指導の下でレッスンに勤しむ。さり気なく描かれる美波とアナスタシア、ラブライカのダンスがかなり切れの良いものになっており、表情にも以前より自信が感じられ、2人の著しい成長が垣間見えよう。
 未デビュー組のみくたちはストレッチをしながらデビュー話に花を咲かせる。蘭子の次は3人編成のユニット2組でデビューというプロデューサーの説明があったようで、今はプロデューサーを信じて待とうというみく。彼女がいつの間にか原作ゲームではおなじみの「Pチャン」呼称を使用しているところからも、彼への信頼感が強まっていることがわかるだろう。
 みくが非常に良い変化をしている一方で、杏はいつものごとくレッスンを嫌がって抜け出しており、全員が全員一斉に何かしら変わったと言うわけでもないようだ。それぞれが独自の個性を持っている以上それは当然の話なのであるが、それをここできちんと見せるのは、制作陣がキャラクターに対して常に真剣に向き合って描写しようとしているからこそと言える。
 蘭子の歌はかな子やみくが想像した通り、ゴシック的な雰囲気を前面に押し出したものになっていた。一口にゴシックと言っても具体的にどういうものか言葉で説明するのは非常に難しいところだが、蘭子の場合は単純なゴシックというよりはいわゆる「ゴスロリ」様式に比重が置かれていると考えた方が正しいかもしれない。曲調もパンクやデスメタルと言うよりは軽めのロック(ポップ・ロック)であり、その意味では李衣菜の「めちゃロック」という言葉もあながち的外れではないのかもしれない。
 まだ曲が出来ているだけで詞は完成していないもの、蘭子のイメージに合わせて作られたという曲の出来栄えには蘭子もご満悦の様子。プロデューサーは残る作詞と同時にPVの企画を進めているということで、その企画書を蘭子に手渡す。
 こちらも蘭子のイメージに合わせてダークなゴシックホラーの雰囲気で制作する計画のようであるが、企画書を一読した蘭子はその内容に何か衝撃を受けたらしく、企画書をゆっくりと差し戻す。やけに丁寧な仕草なのが可愛らしいが、どうやら企画の内容に不満があるようで、蘭子はもっと違う感じで行きたいという意思をいつもの口調でプロデューサーに伝える。

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 そこでプロデューサーが取り出すメモ帳に、蘭子の使う言葉とそれについての自分なりの解釈がまとめられているのが何とも面白い。わざわざメモとしてまとめているところに彼のちょっと度が過ぎていると言えなくもない几帳面さが窺え、ギャグ的要素として機能しているだけでなく、難解ではあっても自分から蘭子に歩み寄ろうとしている努力や誠実さも同時に描いている点は巧い見せ方と言えるだろう。
 そのメモを頼りに企画の内容に問題を感じているところまではプロデューサーもどうにか察し、蘭子は自信たっぷりといった様子で自分の考える案を披露する。
 特徴的なポーズを取りつつ放った発言内容を単純に書き記すと「かつて崇高なる使命を帯びて、無垢なる翼は黒く染まり、やがて真の魔王への覚醒が」となるのだが、さすがにプロデューサーがこの意味を理解するのはメモ帳を使っても難しかったようで、蘭子の希望を完全に読み取ることは出来なかった。
 蘭子の希望と現在の企画案との間に明確な差異を見出せないプロデューサーに、思わずふくれっ面をする蘭子。原作ゲームの限定SR「[覚醒魔王]神崎蘭子」でも見られたこのふくれっ面は、自分の想いが相手に通じない場合に蘭子が思わず取ってしまう仕草として、ファンにはよく知られたものである。

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 こういう特徴的な言葉遣いをしていれば、今回のようなすれ違いや認識の齟齬はいずれ起こりうることであり、客観的に見ればこのような事態になっても言葉遣いを平易なものに変えない蘭子がわがままと思われても仕方のない場面ではある。無論それにはきちんとした理由があるのだが、この時点ではまだそれは明らかにはされない。仮にそれが明らかになっていたとしても、それを以て彼女に一方的な変化を強いるのもまた酷と言うものであろう。
 なぜなら彼女は14歳。莉嘉やみりあとさほど年齢の変わらない、プロジェクトメンバー内でも年少者の側に属する「子供」だからだ。変化が必要だと理解していても、それをすぐに実践できるような器用な立ち回りが、14歳の子供に容易く出来ようはずもない。曲がりなりにも蘭子の言葉遣いは彼女の重要なアイデンティティなのだから。
 それを理解しているのかは不明だが、変化を求めようとせず自分の側からの歩み寄りに徹底しているプロデューサーの姿勢は、極めて賢明なものと言えるだろう。
 しかしそれはそれとして意思の疎通が取れていないのは大きな問題である。結局その日のミーティングは問題が解決しないまま終わり、1人事務所を出て帰路につく蘭子。ちょうどニュージェネ3人とラブライカの2人、それにみりあも帰宅するタイミングだったため、蘭子を見かけた未央がデビューの件について気さくに尋ねるが、浮かない表情の蘭子に皆も訝しむものの、肝心の話す言葉が例によってわかりにくいため、具体的に何があったのかは判然としない。だからなのか、1人ごく普通に頷いている者がいることに誰も気づかなかったようであるが。
 寂しそうにお疲れ様の挨拶を意味する「闇に飲まれよ」という言葉を残して立ち去ろうとする蘭子を追いかけるアナスタシア。熊本出身の蘭子と北海道出身のアナスタシアは346プロ所有の女子寮に住んでいるため、帰り道が同じなのである。
 元気のない様子の蘭子を凛たちも案じるが、詳細が分からない以上どうすることもできなかった。
 このあたりの蘭子とプロデューサーの考え方のずれは、言葉の足りなさがすれ違いを生じさせる一端となった6話や7話と違い、蘭子としては言葉を尽くしているのにもかかわらずすれ違いが生じてしまっているという点で、前話でのコミュニケーション上の問題とは若干異なる。ニュアンスを理解する程度ならという注釈を加えるなら、蘭子とプロデューサーの会話は普通に成立しているだけに、なおのこと蘭子の本心が伝わらない、プロデューサーも理解してあげられないという事実に対するジレンマが深まる構成となっている。
 原作ゲームにある程度通じている人間であれば蘭子の意図するところは比較的容易に理解できるであろうが、本作からデレマスそのものに触れる人にとっては蘭子の言い回しの理解に苦慮するプロデューサーの姿は、そのまま初見である視聴者自身の蘭子に対する印象とシンクロしているとも言えるわけで、その視点から考えると積極的に理解しようとしているのに理解しきれないプロデューサーの戸惑いは、そのまま今話の内容への見る側の没入度を高める効果としても機能していると言えるだろう。
 赤信号に自動車の赤いテールライト、消火栓や送水口を示す赤い標識、赤いカラーコーンなど、執拗に「赤色」を押し出してくるカットも、蘭子とプロデューサーとの関係性が「止まっている」ことを明示するだけでなく、このような現状の物語世界への没入度を高める意図があるのかもしれない。
 アナスタシアは元気のない蘭子を案じるが、それに対する蘭子の答えはただでさえ難しい日本語が苦手なハーフのアナスタシアに到底理解できるものではなかった。
 それでもなお健気に蘭子を案じ、力になれることはあるかと問いかけてくるアナスタシアに心配無用と返答する蘭子だったが、その表情が笑顔に戻っていたのはアナスタシアの優しさに触れたからというのは言うまでもない。蘭子もまた他人の気遣いを素直に受け止め汲み取ることのできる、心の優しい女の子なのだ。

 女子寮に戻ってきた2人を迎えたのは1話以来の登場であり、先に5話の予告編でも蘭子とのやり取りを披露していた(そしてOPでは美嘉たちと共にワンカット出演している)先輩アイドルの白坂小梅、そしてこちらは本作では初登場の星輝子だった。
 2人ともたどたどしいしゃべり方が特徴の女の子だが、同時に2人揃って非常に際立った個性の持ち主でもある。
 輝子は手に持っていた(恐らく自分で栽培したと思われる)シイタケの声真似?をして蘭子たちに挨拶していたことからも察せられるが、大のキノコ好きであり、「親友」と呼ぶほどにキノコを溺愛している少女だ。それだけでも十分に一風変わっているのだが、輝子にはまだここでは描かれない強烈な個性が実は隠されている。彼女がステージ衣装をまとってステージに立った時に判明するのであるが、それを本作中で見る日は来るのだろうか。

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 一方の小梅は通販で届いた映画のディスクが届いたので一緒に見ようと2人に持ちかけるが、その映画の内容はホラー。小梅はホラー絡みのものが大好きで、公式プロフィールでも趣味として挙げられているものはホラー・スプラッタ映画鑑賞に心霊スポット巡りと、ホラー・心霊ネタが目白押しとなっているくらいなのである。しかも単に好きというだけでなく実際に…、という面も隠れているのだが、こちらもこのシーンでは描かれないので、今後に期待と言うところだろう。

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 しかし小梅からの誘いを受けた蘭子は慌てたそぶりで「儀式があるので」と言い残して早々に部屋に戻ってしまった。
 その際の冷や汗をかいている様子や体を震わせている仕草からも容易にわかるとおり、実は蘭子は小梅とは正反対にホラーの類が大の苦手なのである。これは既発売済のドラマCDなどでも触れられている由緒正しい設定であるが、それならば蘭子がPVの企画案を拒否した行為についても得心がいくと言うものであろう。
 自室に戻った蘭子は決意の表情を浮かべ、おもむろにスケッチブックを手に取り、何かを書き込み始める。食堂での夕食も1人で先に終え、「何か」の作成に夢中になる蘭子。しかしそれが何なのかはアナスタシアや同じく寮住まいの大阪出身であるみくにはわかりかねるところでもあった。

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 ちなみにみくやアナスタシアの食事シーンでは、同じ寮に住んでいると思しき小梅や輝子以外のアイドルが何人か登場している。輝子の姿に隠れているのはそのアホ毛から見るに、蘭子と同じ熊本出身の小日向美穂だろうが、その正面に座っているのは仙台出身の佐久間まゆであろうか。端の方に映っている後ろ姿の少女は1話でも少し登場した福岡出身の上田鈴帆、その正面にいるのは大阪出身の難波笑美だろう。
 元々シンデレラガールズに登場するアイドルは全国各地(場合によっては海外)から集まっており、本作のシンデレラプロジェクトだけでも関東以外の場所が出身の娘が幾人かいるため、住まいがどうなっているのかは以前からファンの気にしていた事項であったのだが、今回明確にその回答が得られたわけで、この設定が今後どのようにストーリーに絡むか、あるいはストーリーを膨らませる上で貢献してくれるのか、大いに期待したいところだ。
 ついでに言えば食事中、口に食べ物を入れている状態のアナスタシアがしゃべる際に、手を口に当てて口が相手に見えないようにする仕草が、アニマス11話でパスタを食べる時の春香の仕草と同様な育ちの良さを感じさせる好演出だった。

 あくる日もプロジェクトルームでスケッチブックへの書き込みを続けていた蘭子だったが、ついに完成した様子。画面から判断する限り、可愛らしい絵柄のイラストを描き込んでいたようだが、それに気付いた未央が近寄ると慌ててすぐにスケッチブックを抱え込んでしまう。
 このスケッチブック自体は未央が考えていた蘭子の「私物の一品」ではなく、蘭子曰く自分の魂の一部で決して切り離すことのできない「グリモワール」であるらしい。
 実は5話でも少しだけ出てきていたこのスケッチブック、「グリモワール」の本来の意味はヨーロッパで流布したという実際の魔導書の名前(総称)であり、かの有名な「エロイムエッサイム、我は求め訴えたり」という呪文の原典でもあるが、蘭子の場合はさしずめ自分の空想や夢をイラストとして描き残すための道具と言うところか。いかにも蘭子らしいネーミングであるが、実際の魔導書というものが有り体に言って非現実の内容が書き記されたものであることを考えれば、あながち的外れな名前とも言えないだろう。
 何にせよこのスケッチブックは事務所に置くために持ってきた私物ではないということで、蘭子は改めて持参してきた「一品」を未央に指し示す。
 やがて皆も部屋に集まりいつものように和気藹々とすごす。未央を始め私物の一品を一早く持参した者も何人かおり、皆は思い思いのスタイルでその一品を活用していた。
 劇中で明確に名指しはされていないが、画面上から判断する限りではかな子の使用しているティーセットはそのままかな子、パターゴルフセットは未央、クローバーの形をした置物が智絵里で2話で撮影したプロジェクトメンバー全員の集合写真が入ったフォトスタンドは恐らく卯月、お絵描きセットはみりあ、天球儀はアナスタシアがそれぞれ持ってきたのだと思われる。フォトスタンドと卯月はすぐには結び付かないので判断が難しいところではあるが、後に出てくる他メンバーの持ち込み品を考えた上での消去法と、7話で過去に撮影した写真を大切に扱っている描写がなされていたという二つの点から、卯月の私物と考えて差し支えないだろうと思われる。
 そして凛は花屋の娘らしくきれいな花を持参していた。涼しげな印象を与える白色の花に卯月たちも見とれる中、蘭子は小さく「きれい」と感想を漏らす。いつもの口調ではない、彼女の素直な想いがそのまま吐露された言葉に凛もアナスタシアも、そして部屋に入ってきたプロデューサーも思わずハッとして蘭子に目を向ける。しかしプロデューサーの存在に気付いた蘭子は驚いたように顔をこわばらせて目を逸らしてしまった。

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 かな子からのお誘いを受けてお茶とクッキーをいただくことにするプロデューサー。クッキーはいつものようにかな子が自作したものと思われるが、4話での智絵里とのやり取りを踏まえて、恐らく智絵里のために四つ葉のクローバーの形をしたクッキーをきちんと混ぜているのは、かな子の優しさと細かい気遣い故のものだろう。
 ここでもプロデューサーは律義にいつもの丁寧口調を砕けた口調に言い直していたが、さすがに毎度毎度言い直す苦労を見兼ねたか、提案者の未央を始めみんなも彼の口調の変更についてはあきらめた様子で苦笑する。
 元々未央が口調の変更を提案したのは「プロデューサーがアイドルたちにより近づくため、仲良くなるため」という理由だったことを考えると、みくや莉嘉たちからも一定の信頼を得、かな子たちと一緒にお茶やクッキーを楽しむほどに親睦を深めている現在のプロデューサーに、そのような瑣末な変更はもはや無用なのであろう。
 小さくさり気ないコメディタッチの描写ではあるが、実はとても大切なことをこの一連の流れは訴えている。
 そんな中、李衣菜が入口のドアノブにぶら下がっている飾りについて尋ねてきた。それは蘭子がみんなの中では一番最初に持ってきた私物の一品だと未央が説明するが、当の蘭子は恥ずかしいのか頬を赤く染め、先ほどと同様に視線を逸らしてしまう。
 蘭子の持ってきた一品は、馬に使われる蹄鉄を飾りにしたものだった。本来は馬の蹄を保護するために使用されるものだが、扉にぶら下げることで魔除けや幸運のお守りとして扱われる場合もあるという話に感心する一同。

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 それを説明するのが凛というのは、所謂「中の人ネタ」を知っている人なら思わずニヤリとしてしまいそうなシークエンスだが、蹄鉄をお守りとする考え方もヨーロッパが発祥のようなので、ゴシック的なものを愛好する蘭子らしい私物と言えるだろう。
 蘭子もいつものように大仰な振る舞いを取りつつ難しい言葉を並べるが、その意味は要約すると「お守りの力で皆さんも幸せになって下さいね」という、ストレートに話すとなると少々気恥ずかしい内容であるためか、堂々とした振る舞いに反して顔には冷や汗が浮かんでいた。みんなから素直に感謝されたり褒められたりすると、照れてすぐ言葉少なになってしまう点も、彼女の見た目と内面のギャップを端的に表している。
 莉嘉の発した「ドクロとか血塗られた十字架とか持ってくるかと思った」という旨の発言は、そのような蘭子の見た目や立ち居振る舞いから受ける印象と内面と間に生じる齟齬を、最も如実に示したものと言えるかもしれなかった。
 ドクロとか血と言った言葉を聞くだけで怖がってしまう蘭子を、ホラー系は苦手なのだとフォローするアナスタシア。「意外だね」という凛の言葉が象徴しているように、みんなも大なり小なり莉嘉と同じような印象を持っていたようで一様に驚くが、とりわけプロデューサーは驚きも一入であったろう。PVの企画案を蘭子が拒否した理由が今ここで判明したわけだから。
 思わず蘭子を見つめるプロデューサーであったがしかし、蘭子はまたも視線を逸らすだけだった。

 偶然とは言え蘭子の本音の一端を知ることができたプロデューサーであったが、それで即事態好転とはならない。確かに蘭子がPV案を拒否した理由はわかったが、では蘭子はどのようなPVを望んであの時口にしていたのか、そもそも今回の件でさえ偶然わかっただけで蘭子とのコミュニケーションに未だ難があることは変わりないからだ。
 根本的な問題を解決できていない以上、当然このまま放置しておくわけにはいかない。プロデューサーは改めて話をするために蘭子の下へ赴くが、蘭子は何かを言いたげにしながらもそれを抑えるように「プロヴァンスの風」とだけ叫んで立ちさってしまう。その後も幾度繰り返しても蘭子はその都度同じような態度を取って立ち去る、と言うよりは逃げてしまうため、プロデューサーも困惑するばかり。
 「プロレタリア文学」やら「プロテイン」などと様々な言葉を用いるものの、最後はネタが尽きたのか力なく「プリン」と呟くところは失礼ながら可愛らしく見えてしまうが、それをいちいちメモに取り、蘭子にとってはどのような意味なのかを思案するプロデューサーの真面目ぶりも、その接し方は良いことだとわかっていても何とも可笑しい。
 蘭子が本当に言いたい言葉は「プロ」で始まる単語らしい…と白々しいことを書くまでもなく、彼女が口にしたい言葉、そしてその次に何を行いたいのかは、視聴者側からすれば明々白々であろう。そしてそれを実際に口に出来ない理由も。
 これまでの蘭子の描写を見ていれば容易に察せられることと思うが、彼女は本来相当な恥ずかしがり屋なのだ。相手の名前をそのまま呼ぶことにさえ抵抗を覚えてしまうほどの。彼女がいつも難解な言葉を使っているのは、その性格故に普通の言葉は素直に口に出来ないからという側面があったわけなのだが、今回はその言葉遣いでの意思疎通が完全に行えなかったため、何とかごく普通の言葉で自分の気持ちを伝えようとしているのである。
 極度の恥ずかしがり屋が「恥ずかしい」と思っている行為を実行するのには、大変な勇気と決断力が必要になるが、今の蘭子にはその2つとも欠けてしまっているのだろう。だからプロデューサーに本心を告げられず1人思い悩み、プロデューサーと蘭子のやり取りを見かけた未央たちのとりなしも拒んでしまう。一連の様子から蘭子はスケッチブックに描いたイラストをプロデューサーに見せたいのではと未央は推測するが、肝心の蘭子がそれを見せたがらないのではどうしようもない。
 蘭子とまともに話ができず、プロデューサーもどうすれば良いか考えあぐねる。書き取ったメモを見てもそれらの言葉自体にはさしたる意味はないのだから、そこから蘭子の真意を汲み取ろうとするのは無理な話なのであるが、残念ながらそれは今のプロデューサーの考えが及ぶところではなかった。
 そんな彼の下を訪ねる凛。凛は蘭子から避けられているというプロデューサーの考えをやんわりと否定し、言葉を理解することよりもまず蘭子に近づいてみたらいいとアドバイスする。

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 それは前話においてプロデューサーへの信頼を喪失し弱りきった自分の心が、まっすぐな想いを胸に再び駆けつけてくれたプロデューサー自身の行為に救われた、その経験があったからこその意見だった。
 これはプロデューサーへのアドバイスという形ではあるが、あの時来てくれたプロデューサーに対する凛なりの謝意を示したとも言える。あの時プロデューサーが駆け付けたこと、自分の混乱する心情を受け止めてくれたこと、その上でもう一度アイドルとして進む道を示すとはっきり言ってくれたこと、それらすべてが凛にとっては本当に嬉しかったに違いない。
 凛はそういう感情をストレートにプロデューサーに打ち明けるタイプではないが、この「自分たちにしてくれたことと同じことをすればきっとうまくいく」という言い方の中には彼の行為、引いては彼自身への強い信頼が込められており、見ようによってはこの時点における凛のプロデューサーに対する最大級の「デレ」だったと言えるのではなかろうか。
 それを意識していたのかはわからないが、プロデューサーと凛のやり取りを部屋の外で聞いている卯月と未央の様子が、プロデューサーとアイドルと言うよりむしろ「仲の好い男女の会話」を聞きながら喜んでいるように見えるところも、受け手のそう言った捉え方を肯定しているように思える。
 プロデューサーは改めて他のプロジェクトメンバーに蘭子の人となりについて尋ねる一方、蘭子も自分の気持ちを伝えられないことをメンバーに相談していた。会話を弾ませるきっかけにとかな子がお菓子を差し出すのはいかにもかな子らしい提案であるが、それは同時にみりあや智絵里と言った、蘭子の悩みに共感し協力したいと想う仲間たちの優しさの象徴でもあった。
 そこへあの時と同じように駆けつけるプロデューサー。さり気ない描写だが歩いてきたのではなく「駆けつけてきた」ことも、殊この場面においては重要な演出であろう。プロデューサーは蘭子と話をするため、2人で346プロ内の「聖なる泉」、すなわち噴水前に移動する。
 陽も傾いた夕焼け空の下、蘭子と少し離れた位置に腰を下ろしたプロデューサーは、空が綺麗だと他愛ない世間話を始め、蘭子も強い日差しのせいで日焼けしそうだと他愛ない返事を返す。

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 仕事の話を持ち出さず世間話を続ける行為が、蘭子により近づきたいというプロデューサーの意思から生じているのは疑いないだろう。そして蘭子も彼と同じ気持ちだというのは、日差しが強いと漏らしたプロデューサーに自分の日傘を手渡すことで2人の座る位置が近づき、かな子からもらったお菓子をプロデューサーに差し出すという描写として表現されている。日傘を渡されたプロデューサーが結局自分に対してはほとんど使わず、隣の蘭子の方にだけ傘を傾けているところに、彼のさり気ない気遣いが感じられて良い。
 静かに流れていく時間の中、他愛のない会話をゆっくりと進める2人。休日は何をしているかとか音楽は何を聞くかと言った質問から始まるやり取りは極めて平凡なものだが、蘭子の言葉遣いはいつものままなので、どこかシュールな印象を受ける。そんな蘭子に対し彼女の言葉の意味を書き記していたメモ帳を脇に置き、彼女の言葉の意味を直接理解しようとしているプロデューサーの接し方は注視すべきだろう。
 当人たちは至って真剣なのであるが、傍から見るとまるでお見合いでもしているかのようなやり取りになってしまっているのも面白い。2人の様子を後ろの建物の中からかな子やみりあたち他のメンバーが心配そうに見守っているのも、そんな印象に拍車をかけている。
 とは言え一足飛びに相手を理解することなど出来るはずもないのだから、地味で定番な質問を重ねて蘭子に少しずつ歩み寄ろうとするプロデューサーの姿勢は、愚直ではあるが非常に的を射たものと言える。
 彼のそんな態度が功を奏したのは、彼がハンバーグを話題に出した時だった。ハンバーグとは先ほどプロデューサーが他のメンバーに蘭子の人となりを尋ねていた時にみくから聞いた、蘭子の好きな食べ物である。
 その言葉を聞いた蘭子が立ちあがって驚いたのは、「禁忌に触れる」という発言から考えてみても、それがあまり知られたくない事柄だったからだろうというのは容易に察せられる。そこにはハンバーグという「子供の好きなもの」のイメージが強い食べ物と普段の自分とのギャップを気にしたからとか、食べ物の好みという単純な事柄ではあるが自分の内面が曝け出されてしまうのを恥ずかしがったと言った、彼女なりの複雑な理由があったのは間違いない。
 ところがプロデューサーが次に口にしたのは、「自分もハンバーグが好き」という言葉だけだった。蘭子の好みを自分と同じだと言い回すことで肯定し、ありのままを受け入れようとしている彼の姿勢は、生来の恥ずかしがりな性格やPV企画の件で一度コミュニケーションに失敗した経験からの緊張故に頑なになってしまっていた蘭子の心を静かに解きほぐす。一度はプロデューサーから離れながらもまた元の位置に戻る仕草は、その証左と言うところだ。
 ここで改めて考えてみると、蘭子が自分のスケッチブックをプロデューサーになかなか見せられなかったのは、恥ずかしがり屋という自分の性格が多分に影響しているのは間違いないが、それとは別にこれでもまたもし自分の意図や考えがプロデューサーに届かなかったら、という恐れがあったからと思われる。自分を曝け出す恥ずかしさを乗り越えたとしてそれでも自分を理解してもらえなかった時のことを考えると、彼女がスケッチブックを見せるのを躊躇してしまっていた心情も理解できよう。
 しかしプロデューサーはすべて意識した上での行動ではないだろうが、結果として本題に入る前にハンバーグの件というワンクッションを置くことで、蘭子の素直な気持ちを受け止めようとしている自己の姿勢を明示した。その態度は蘭子の胸中に芽生えていた恐れを軽減し、恥ずかしがり屋の自分の背中を後押ししてくれるには十分なものであったろう。
 蘭子は意を決して立ち上がり、何度も逡巡しながらついにずっと言いたかったに違いない「プロデューサー」という言葉と共に、持っていたスケッチブックを手渡す。
 それでもまだびくついた様子で目を閉じてしまうのは、ここまでしてもなお自分の想いが通じなかった場合を想像しての恐れ故だろうか。ちょうど蘭子だけが画面に映って隣にいるプロデューサーもスケッチブックの中身も一切映されておらず、スケッチブックを見ている瞬間のプロデューサーの様子を一切窺い知ることが出来ないという構図もまた、蘭子の抱いている不安感を強調している。
 ややあって口を開くプロデューサー。彼はスケッチブックに描かれたある2つのイラストの関係性について尋ねてきた。すぐには返答しない蘭子を促すように、プロデューサーは「とても大事なことだと思う」と質問した理由を続ける。
 このプロデューサーの発言に対する蘭子の心の変遷の見せ方は実に巧妙だ。一見するとプロデューサーは蘭子の描いたイラストに興味を持って理解しようとしているのに、未だ躊躇う蘭子が頑な過ぎるように見えるのだが、ここまでの2人のやり取りを思い返してみると、単に「プロデューサーが蘭子を理解しようとしている」だけではこれ以上の進展が見込めないということがきちんと描写されている。
 プロデューサーが自分の気持ちを受け止め理解しようとしてくれているというのは、ハンバーグの件で蘭子も既に十分理解しており、むしろそれを理解しているからこそ勇気を振り絞ってスケッチブックを手渡せたのであって、蘭子がそれ以上の行為、即ちもう一度自分の言葉で自分の想いを伝えられるようになるためには、プロデューサーもワンステップ上の行為を示さなければならなかった。それがストーリーの文脈上の必然だったのだ。
 そこでプロデューサーが次に示した行為、それは2枚の絵の間に何かしらの経緯があって変遷している、つまり「イラストの中に蘭子独自の世界観とストーリーが存在している」ことに独力で気づくことだった。本人としてはそれを意識的にやったわけではなく、あくまで蘭子という一個人と真摯に向き合った結果としての気づきだったのだが、この第8話という物語の中では彼の気づきは蘭子に対する最適解だったと言うわけである。それは取りも直さず蘭子の価値観を共有する者、彼女の言うところの「瞳を持つ者」であることの一番の証にもなるのだから。
 蘭子もそれを理解したからこそ自らの瞳を輝かせ、プロデューサーを「我が友」と称して、イラストに託した自分の想いをとうとうと語り出す。今までの不安げな所作が吹き飛んだかのような自信たっぷりの蘭子の姿は、作画の流麗さもあって「美しい」という言葉がふさわしい振る舞いとなっている。一気に話し終えた後に疲れて息を切らせてしまう、少々子供っぽい仕草とのギャップによるコントラストも良い味を出していた。

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 一度焦点がぼけたような画面が次第にはっきり映し出されるという演出が入るのは、語っているうちに内なる自信をより確かなものに出来た暗喩だろうか。二羽の白い鳥が羽ばたきながら彼方へ飛んでいく描写も象徴的だ。
 プロデューサーも蘭子の話を聞き、イラストに込められているものが「聖なる存在の堕天」という世界観であるとついに理解する。自分の想いが通じたと破顔する蘭子と改めてPV企画についての話を始めるプロデューサー。そんな2人の様子を見守る卯月たちも笑顔を浮かべる。
 決定した蘭子のユニット名は「ROSENBURG ENGEL(ローゼンブルク・エンゲル)」。ドイツ語で「薔薇の城の天使」を意味するこの名称は、「聖なる存在でありながら闇に堕ちた堕天使」の持つ妖しい美しさを、美しさ(花)と危うさ(棘)とが共存しているバラに形容して表現している凝ったネーミングである。
 元々の名称が「ROSENBURG EKLIPSE(ローゼンブルク・エクリプス、ドイツ語で「薔薇の城を蝕む」)であったことを考えると、バラについての名称上の意味合いが若干変わったようであるが、蘭子の望むイメージを具象化するという点では怪我の功名的効果と言えるかもしれない。
 そして蘭子の新曲PVが今話独自仕様のエンディングテーマとして流される。曲は「-LENGE- 仇なす剣 光の旋律(しらべ)」。LENGEというのは「ENGEL」を逆から表記した造語で読みはそのまま「エンゲル」とのことだが、聖なる存在である天使と闇に堕ちた堕天使という、同一でありながら光と闇というまったく異なる属性を備えた存在を謳う曲のタイトルにはふさわしい言葉であろう。
 衣装もダークイメージを強調しつつ、背中の一対の羽は光と闇の暗喩と言える白と黒の色を湛え、歌詞も闇に堕ち罪の業火を纏いながらも堕天の存在として在り続けるというような、総じて蘭子のイメージに即したものに仕上がっている。

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 ついでに言えば今話の放送終了後すぐに本曲の発売日が告知されたが、アニマスも含めて劇中で初披露された新曲のCD発売としては非常に短いスパン(最速放送:3月6日→発売日:3月25日)になっているのも、デレマスのみならずアイマス全体としても初めての試みであり、今後の展開も含めて興味深いところだ。
 自信たっぷりに、そして楽しそうにPVを撮影する蘭子。その胸中には自分の言葉に込められた思いを理解してくれたプロデューサー、そしてシンデレラプロジェクトの仲間たちへの感謝の気持ちで溢れていた。

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 それから幾日か経ち、プロジェクトルームはそれぞれが持参した私物の効果により、今までよりも親しみやすい、「彼女たちのお城」に変わっていた。
 Bパート冒頭の描写から新たに追加されたものは、杏の巨大なうさぎ型クッションにみくの猫足型マグネット、美波が持ってきたと思しきキャンドルセット、きらりのソファーカバー、李衣菜のヘッドホンセット。未央や莉嘉たちが遊んでいるいわゆる「ブタミントン」はわかりにくいが、今話の脚本担当の言を参考に考えると、パターセットと入れ替えに未央が持ってきたと考えるのが妥当だろう。どちらも「みんなで一緒に楽しめるもの」であるところが未央らしい選択である。
 そこへやってきた蘭子に文字通り飛びつく未央。未央の「らんらん」呼びにはまだ若干の抵抗はあるようだが、抱きつかれても照れることなく笑顔を見せるあたり、以前よりも確実に蘭子と仲間たちの距離が縮まったことが窺える。
 蘭子の新曲CDは売り上げ好調のようで、今日もこれからステージの仕事が控えているらしい。未央も莉嘉も我が事のように喜ぶが、返ってきた蘭子の「月は満ちて太陽は滅ぶ。漆黒の闇に解き放たれし翼」という言葉は相変わらず難しく、容易には理解できない。
 ところがここに、その言葉を「今日も仕事で帰りが遅くなる」と完璧に理解した者が1人いた。仰天する一同にむしろみんなは今までわかっていなかったのかと返すみりあ。これにはさすがのプロデューサーも思わず突っ込みを入れてしまう。

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 無垢なる少女のような澱みのない純真な心こそが、言葉の壁や思い込みを超えた純粋な想いを理解するのに必要だった…ということなのかもしれない。

 シンデレラプロジェクトのこれからの進展に向けて互いが互いを、とりわけプロデューサーはアイドルたちをより深く知っていかなければならないというのは冒頭に記した通りであるが、今話はそのうちの後者、即ちプロデューサーの側に注目した内容となっている。
 今回目指されたのは6、7話での復帰劇を経てアイドルとプロデューサーの関係性の深化の必要性に改めて気づいたプロデューサーが、それをどのように実践するか、アイドルはそれに対してどのように対応するのか、それを見せることだったわけだ。
 アイドル同士の関係性についてのドラマを盛り込んでしまったら、今話の目指すところであるアイドルとプロデューサーの関係性についてのドラマという大事な焦点がぼやけてしまうことにもなりかねず、次のデビューアイドルをソロユニットとしたのはその辺りの物語的な説得力の付与という側面も多分にあったのだろう。
 さらに物語上の焦点をより浮き彫りにするという意味で、プロデューサーに決して空く感情は持っておらず、しかし意思疎通にはかなりの困難を伴い、他のメンバーアイドルも助け船を出しにくいキャラクターとして、プロデューサーと一対一で向き合うアイドルに蘭子が選出されたのは必然であったと言える。
 蘭子とのコミュニケーションがうまくいかず立ち止まりかけてしまうプロデューサー。そんな2人の関係性を回復させ、より強固にしたものとは結局のところ7話で未央や凛の心を救ったのと同様、彼自身の愚直なまでにまっすぐなその姿勢だった。お世辞にも器用な立ち回りとは言えないが、その真摯な想いは凛や未央と同様に蘭子の心を救い、関係性を進化させるに至った。これは言うまでもなく作品世界としてはプロデューサーのやり方こそがこのシンデレラプロジェクト、引いては所属する蘭子たちアイドルにとっては最良の方法であることを示唆している。
 7話でそのやり方を実践した結果としての今の凛との関係性を、蘭子とどう向き合えばいいか分からず悩むプロデューサーを凛の助言が救うという展開で描いておくことで、その示唆をより強調しているという点も忘れてはならない。
 忘れてならない演出上の良点と言えば、前話のラストから継続して描かれていたプロデューサーの丁寧口調を止めるか否か、という描写が挙げられよう。
 未央たちに言われた通りプロデューサーも何とか口調を変えようと努力はするものの、最終的には無理に変えるのは難しいという判断に落ち着く。しかし彼の口調が一時的にフランクになったから、また結局元の丁寧口調に戻ったからと言って、特にプロデューサーのアイドルへの接し方や話す内容が変わったわけではないし、逆もまた然りである。
 これが何を言っているか、今話を最後まで見た諸兄であればすぐに理解できるだろう。つまりこのプロデューサーの「変わらない」描写は、そのまま蘭子の口調が最終的に「変わらない」ことの物語的な肯定につながっているのだ。
 一般的に考えれば他人が聞いても意味がよくわからない言葉、しかも外国語のようなれっきとした言語ではなく単なる言い回し上の問題となれば、その言葉を使う側により平易な言葉を使わせようとするのが普通だろう。今話で言えば蘭子の言葉遣いがまさにその対象になるわけだが、今話の登場人物の中で誰一人蘭子の言葉遣いを平易なものに強制的に変えようとする者はおらず、現在の口調のままでその意味を理解しようと努めている。誰も蘭子に「変化」を強要していないのだ。
 相手を無理に変えようとする前にまず相手を理解しようとし、変わるか否か自体は当人の意思に任せる。これがプロデューサーの選んだ「まっすぐ」というプロデュース方針の最たるものであった。それは同時にかつてのアニマスのプロデューサーが選択した、そして歴代のアイマス作品で最も良しとされているアイドルとのコミュニケーションの手段でもある。
 アイドルの意思を尊重して一方的に抑えつけず、それでいてより良い方向に進めるよう行動する。今話でそれを実践してみせたプロデューサーは、本当の意味での「アイドルマスターのプロデューサー」にようやくなることができたと言えるだろう。
 そして変化を強要されなかった蘭子は、最終的に自分の意思で「自分の考えをきちんと相手に伝えるために勇気を出す」という変化を遂げている。実際にやれたことと言えばスケッチブックに描いた内容を見せるだけという傍目にはごくごく小さな変化であるが、喜んでスケッチブックを取り出したにもかかわらずその中身はきらりに見せようとしなかった5話での描写を思えば、今話でのこの変化は蘭子にとっては大きな一歩となったことは論を持たない。
 さらに言えばこの「相手に変化を強要しない」シンデレラプロジェクトメンバーのスタンスを、見ている側に素直に納得させる要因として、アナスタシアの存在及び今話におけるクローズアップも挙げられよう。
 知っての通りアナスタシアは日本語に若干不慣れなところがあり、ロシア語で呟いてから同じ意味の日本語を口にする、という独特の喋り方をする。日本語とロシア語、2つの言語が自分の中で共存しているという点において、アナスタシアは蘭子の鏡写しと言える存在なのだ。
 そして2話での初登場の時点から誰もアナスタシアに口調の修正を強要してはいない。このアナスタシアに対する皆の接し方、それ自体が「相手に変化を強要しない」スタンスを静かに作品世界に、そして見ている我々視聴者に根付かせていたと言えるのである。
 制作側がどこまで意図していたのかは不明だが、もしこの見せ方が相手に変化を強要せず自由意思を尊重するという本作らしい優しい世界観を根付かせるための計算であったとするならば、まさに見事と言う他ない。
 いや、この場合はやはり計算ではなく偶発的な要素が重なっての結果と捉えるべきか。振った賽の目が偶然良い結果に繋がるというのは、作品それ自体が計算を超えたパワーを内包していることの証左なのだから。

 今話ではプロデューサーとアイドルという関係性の深化が描かれた。となると次は当然アイドル同士の関係性の深化が描かれることになるのだろう。
 予告を見る限りではかな子、智絵里、杏の3人がメインになるようだが、杏という非常に癖の強いキャラクターを前に、他の2人はどのように立ち回るのであろうか。

2015年06月01日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第7話「I wonder where I find the light I shine...」感想

 ずっと待ち焦がれていた初のライブ。しかし目の前に広がっていたのは、バックダンサーとして始めてステージに上がった時とは比較にならないほど閑散とした光景。それは未央にライブの「失敗」を印象付けるには十分だった。
 失敗という認識、あの時の光景がまた見られると思い込み全く疑おうとしなかった愚かさ、ニュージェネレーションズのリーダーとしての役目を果たせず、デビューできていない他のプロジェクトメンバーの想いにも応えられなかった自責の念。
 未央の胸中に様々な想いが渦巻いていたであろうことは想像に難くないが、最後の最後に彼女の精神を追い込んでしまったものはそのどれでもなく、自分の混乱するその想いをプロデューサーに拒絶されたことだった。
 何より未央にとって辛かったであろうその事実は、彼女の抱いていたプロデューサーへの信頼感を完全に喪失させ、未央に「アイドルを止める」とまで口走らせてしまう。魔法の解けてしまった「シンデレラ」は、ひび割れ砕けたガラスの靴を残して走り去る。そしてそんな未央に対し、何故かプロデューサーは呆然とするだけだった。
 壊れてしまったガラスの靴は、二度とは元に戻らない。窮地の中で未央に卯月、凛、そしてプロデューサーは何を想い、どう行動するのであろうか。

 ミニライブから一夜明けた翌日、プロジェクトルームで卯月と凛は未央が来るのを待っていた。
 湧きあがってくる不安を打ち消そうとするかのように、未央はちゃんと来ると自ら口にする卯月だが、傍らの凛はそれに答えようとはしない。軽々しく同意をしないのは冷静な性格の凛らしい態度だが、今回に限っては「しない」と言うより「できない」とするのが正解だろう。
 卯月の言葉を肯定も否定もできない、極めて曖昧で不確かな状況。光を遮り部屋の中を薄暗く彩る曇天は、不安や戸惑いを抱く彼女たち2人の今の胸中そのものと言える。

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 不意に響いたドアの開く音に2人は思わず視線を向けるが、入ってきたのは2人の期待していた人物ではなく、プロデューサーだった。
 未央が来ていないことを凛から聞かされても言葉少なに返事をするだけのプロデューサーは、いつも通りの態度を取っているように見えるが、未央の家に行ってみたいという2人の懇願を拒否する彼の表情からは、明らかに普段とは異なる感情が胸中に湧き上がっていることが見て取れる。
 しかしそれが何であるかを彼が吐露することはなく、彼は未央の件はこちらに任せてほしいとだけ言い渡す。その返事はいつものように簡潔で端的であったが、今は殊更に頼りないものに感じられた。

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 不安を抱いているのは卯月や凛だけではなく、シンデレラプロジェクトの他のメンバーも同様だった。
 とりあえずはプロデューサーの言に従い、ルーキートレーナーの指導の下で卯月たちが日課のレッスンをこなす一方、レッスン場の片隅で未央のことを口にするかな子と智絵里。
 2人とも昨日の未央とプロデューサーのやり取りを直接聞いているのだから、未央が来ない理由も当然知っているわけだが、「力なく」という注釈こそつくものの、ライブ疲れで休んでいるのかもと直接の理由を明言しなかったのは、一緒に座っている李衣菜やみりあたち傍らの4人への気遣いもあったろうが、本当の理由を口にしたくなかったというのもあるのだろう。口にしてしまったら、その理由に起因している不安が、彼女たちの中でより明確なものとなってしまうかもしれないのだから。
 だが彼女たちとしてもその不安から目を背けるわけにはいかず、その意味でかな子たち年長組が意図的に口にするのを避けていた「未央が止めてしまうかもしれない」という不安を、最年少のみりあに言わせる流れは、物語上の展開としてもみりあというキャラクターから見ても、極めて順当な構成であったと言える。
 みりあの言葉を受けて莉嘉と李衣菜も不安を口にする中、ただ1人未央を「プロ失格」と断じるみく。未央たちよりも先にプロジェクトに加入し、デビューを迎えるその時までずっとがんばってきたみくが未だデビューできない中、トントン拍子に話が進んでいく後発組の未央たちニュージェネ3人に対しどうしても虚心ではいられないという、3話や5話でたびたび描かれてきた事実を考えれば、そのような発言が出てくるのはごく自然なことだった。

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 しかし言葉の内容とは裏腹にその声に怒気はこもっていない。むしろどことなくためらいがちに発言しているのは、みくのそんな複雑な気持ちを超えたもっと深い部分に根付いている、未央や卯月たちを案じる優しさ故であろう。
 レッスン中に思わず転倒してしまうほど精神的に不安定な状態の凛たちを思いやらないではいられないが、それでも未央の勝手な行為を許せない。今のみくがそんなアンビバレンツな感情を抱え込んでいる状態だというのは想像に難くない。

 当の未央は自室にこもり、力なくベッドに横たわっていた。見つめているスマホの画面には卯月に凛、そしてプロデューサーからのメッセージが表示されていたのだが、見つめるばかりで何らかのリアクションを起こす気配はなかった。
 と、その時スマホの着信音が鳴る。それはプロデューサーからの着信であったが、未央は出ようとはせずにスマホを放り出す。表情は全く映しだされないものの、今の未央がプロデューサーに対してどのような感情を抱いているのかは、その行動から容易に窺い知れるだろう。

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 ややあって部屋を覗きこんできた弟が、プロデューサーが自宅マンションの入り口に来ていることを伝えてくる。帰ってもらってと返す未央に自分で話すよう言ってそっけなく立ち去るあたり、弟は未央の現在の状態を知らないと思われるが、過剰に介入しようとしないこの兄弟関係は却ってリアルなものとして映るかもしれない(ちなみに未央は上に兄、下に弟という3人兄妹の真ん中である)。
 インターホンに出た未央は会いたくない、家にまで来ないでと短く、そして強くプロデューサーを拒絶する。プロデューサーの言葉にも耳を貸そうとしないその態度は傍から見れば自分勝手以外の何物でもないが、それを他ならぬ彼女自身が一番よくわかっているというのは、未央1人の問題ではないと話すプロデューサーの言葉への返答からもよくわかる。
 そして図らずもこのやり取りは、前話にて未央がプロデューサーへの信頼を失った最後のやり取りと酷似したものになってしまった。
 このような状況に陥っている原因が自分にあることも皆に迷惑をかけていることも、彼女はきちんと理解はしている。理解していても感情の面で納得できない今の彼女にとって、プロデューサーの言葉はあの時と同じ、自分でわかっていることをただ繰り返しただけだったのである。
 わがままと言えばそれまでだが少なくとも彼女が望む言葉ではなかったし、むしろあの時と同様に最も聞きたくない言葉だったに相違ない。自分で認識している自分の誤りをただ繰り返されただけというのは、弱っている彼女の心をより追いつめることにしかなっていないのだから。
 言わばこのやり取りで未央の「ガラスの靴」はより一層ダメージを受け壊れてしまったわけで、直後に描かれる346プロを出た卯月がガラスの破片を踏みつけてしまうというシークエンスは、その辺りの未央の感情の暗喩とも言えるだろう。
 夜も更けた頃、帰宅しようとしていた卯月と凛は、346プロの正門前で戻ってきたプロデューサーと鉢合わせる。しかし未央のことを尋ねられたプロデューサーは2人から露骨に視線を逸らし、未央の家に行きたいという2人の再度の頼みも、未央が会いたくないという意を汲みたいと断り、このままでいいのかという凛の問いにははっきり答えないまま立ち去ってしまった。

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 「未央が会いたがらないから」という理由は、当人の意思を尊重するという点では真っ当なものなのかもしれないが、彼の言葉の中に未央をいずれ必ず連れ戻すというやる気や熱意のようなものは感じられず、流れに任せているだけのような消極的な姿勢しか見受けられない。
 そんな煮え切らなさをプロデューサーの態度に感じ取ったのか、凛ははっきりと彼に対する不信感を募らせる。そんな凛の様子にも無反応だった卯月は、彼女自身が言うとおりかなり疲れている様子だ。今回の未央の件だけでなく、CDデビューに合わせてレッスンやプロモーション等をずっとやってきたことを考えれば、身体に疲れが出るのも止むを得ないところであろう。

 その夜、とうとう降り出した雨は次の日になっても止むことなく、街並みを濡らし続けていた。しとしと降る雨の音だけがプロジェクトルームに響く中、凛は昨日と同じ椅子、同じ位置に座って、来てくれるはずの人物を待つ。昨日とただ一つ違うのは、その傍らにいた人物もまた、今日は姿を見せていないことだった。

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 卯月までも姿を見せないという事実に、さすがの凛も焦燥感に駆られたようで、ロッカールームやレッスン場などを歩き回るが誰もおらず、レッスン場の掃除をしていたルーキートレーナーも、まだ誰も来ていないと言う。卯月に電話をかけてみるものの応答はない。
 一方自室にいたプロデューサーは、デスクに座ってはいるもののやはり心中穏やかではないようで、キーボード上の手も動かす気配はない。ふと傍らに置いてある写真を取ろうとした時、凛が卯月のことを尋ねに部屋を訪れる。
 プロデューサーは先ほど卯月の家から連絡を受けていたらしく、卯月は体調不良で休暇を取るという話だった。昨夜見せた疲れは体調を崩す前兆だったのであろうか。
 しかし未央については未だ連絡はないという。凛が今後の自分たちの去就についてプロデューサーに問いただすのは、昨日とさほど変わらないこの現状を考えれば、当然の質問だった。基本的に冷静な性格の凛だからこそ、未央がこのまま来なかった場合のことを嫌でも考えないではいられなかったのだろう。

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 凛の問いに「こちらで調整」「皆はそれぞれできることを」と返すプロデューサーだったが、そのあまりに中身のない内容は、どれも凛を納得させられるものではなかった。
 これからどうするつもりなのかと語気を強めてプロデューサーに問う凛の態度からは、明らかにプロデューサーに対する苛立ちが見て取れる。現在のこの状況が、プロデューサーが「見解の相違」と言い表した未央と彼とのすれ違いに起因しているのは明白であり、彼自身もそれを認識しているのにもかかわらず、事態を打開するための行動を全く行おうとしていないのだから、凛が苛立つのも無理はない。
 思えば前話で未央がアイドルを止めると言い残して走り去った時、凛が後を追おうとしなかったプロデューサーに厳しい表情を向けたのは、根底にその苛立ちの萌芽と言うべきものが生じていたからなのだろう。それがプロデューサーの煮え切らない態度を前にして、次第に顕在化、肥大化してきたのだと思われる。
 その自身の覚えている苛立ちを、凛は「逃げないでよ」とストレートに口にしてプロデューサーにぶつける。彼が凛をスカウトする際に言った「夢中になれる何か」。初めてステージに上がった時、初めての自分たちの歌を聞いた時、それが見つかるように思えたが、今はそうは考えられない、と。
 元々内面に直情的な部分も持っている凛らしい行動だが、ある意味ではこの時の凛は前話ラストの未央と同じような精神状態になっていたとも考えられるだろう。即ち自分の中の不安や苛立ちと言った、自分自身で処理しきれない感情を受け止めてほしい、解決できるかはともかく真正面から向き合ってほしいという想いがそこにはあったに違いない。それは無理からぬことだろう。彼女だって未央や卯月より理知的な面はあるものの、まだ15歳の年若い少女なのだから。
 独白する凛のカットが雨に濡れた窓ガラス越しの描写となっており、流れ落ちる雨水によって、さながら儚い陽炎のように凛が揺らめいて見えるという演出が、彼女の想いを何より雄弁に物語っていると言える。
 「あんたは何を考えてるの?」という最後の問いかけは、そんな極めて不安定な状態にある凛からの救いを求める言葉であったのかもしれなかった。しかしその言葉に対してさえも、プロデューサーはただ一言の謝罪しか返せない。

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 彼のその態度に一言、「信じてもいいと思ったのに」と言い残して立ち去る凛。それは未央に続いて凛の「ガラスの靴」までもが傷つき壊れてしまった瞬間でもあった。そしてプロデューサーもまた未央の時と同様にただ茫然と佇むだけで、自分の前から去りゆく「シンデレラ」に無力だった。
 ちなみにプロデューサーの前から未央や凛が去っていく時にオーバーラップする「シンデレラ」のシルエットは、原作ゲームにおけるキュート、クール、パッションの属性色でそれぞれ描かれているが、これが単なるイメージなのか、それとも具体的な対象者がいるのかは不明なままだ。個人的にはゲームでのイベントなどでよく使われている、「アイドル」を意味する抽象表現としてのシルエットに似通っているように見えるのだが、今後のストーリーに無関係とは今の段階では言い切れないだけに、留意しておくべき点かもしれない。

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 凛が帰ってしまったこと、そして卯月が休んでいることを知り、みく始め他のプロジェクトメンバーも動揺の色を隠せない。ただでさえ埒外にある彼女たちは今回の問題にほとんど介入出来ず、さらに渦中の3人が3人とも不在になってしまった状態では、皆が問題の解決はもはや絶望的と考えるのも無理からぬ話だろう。歯噛みするみくの描写がそんな各人の心境を如実に示している。
 そしてこのような状況に美嘉も1人苦悩していた。あの時半ば強引に3人を自分のライブに参加させたことが、今回の問題の遠因になったのではと自責の念を覚える美嘉。もちろん直接的な原因は未央たち3人の誤った思い込みにあり、前話の感想にも書いたとおり3話で見たあのきらめく瞬間を目標に据えること自体は悪いことではないのだから、彼女が責任を感じる必要は本来まったくないのであるが、責任を感じずにいられないのは3話や6話での面倒見の良い描写とも繋がる、派手な外見の内にある美嘉自身の優しさや真面目さ故からであろう。
 しかし現実問題としてこの問題は美嘉にも対処できるようなものではなく、莉嘉から相談を受けても答えあぐねてしまうのは仕方のないところだった。プロデューサーの対応を問いただす美嘉にみりあも力なく首を横に振るばかり。
 それに続く莉嘉の「あの人何考えてるかわかんないんだもん」という言葉は、未央や凛だけでなく莉嘉たち他のプロジェクトメンバーからも、プロデューサーへの気持ちが離れつつあることを示唆していた。アイドルとプロデューサーの信頼感が損なわれることは即ち、シンデレラプロジェクトそのものの存続にも影響を及ぼしかねない。今にも泣きだしそうな莉嘉の弱々しい声が、その危機的状況を端的に物語っていた。
 帰宅した凛は母親の呼びかけにも返事をすることなく、自室のベッドに横たわる。視線の先にあるのはコップに生けられた一輪の花、というシチュエーションは1話のラスト、卯月やプロデューサーからの言葉を受けた後の時と同じものだ。ただ1つ異なっているのは、その花の横にニュージェネレーションとラブライカ、つまり自分たちの出したCDが置かれていること。
 あの頃から様々な人に出会い、様々な出来事を体験し、変わっていくように思えた自分。本来ならそのCDはそんな変わりゆく自分の象徴となるはずのもの。しかし今の凛にとってはそのような価値すらも見出せなくなってしまっていた。窓の外の雨がちょうどCDに降り注ぐかのように重なるカットが、彼女の今の心情を代替的に物語っている。
 1話のあの時には自分の心に湧き上がる想いを確かめる如く胸に手をやっていた凛が、今は胸に当てていたその手を下ろしたというのも、その想いを彼女の中で完全に喪失してしまった証左と言えるだろう。

 いつも誰かしらがいて和気藹々としていたプロジェクトルームも、とうとう誰もいなくなってしまった。
 扉で仕切られたプロデューサーの部屋には一応プロデューサーとちひろさん、そして美波とアナスタシアがいたが、ちひろさんから今後の予定について説明を受ける2人の表情もやはり暗い。
 説明を聞き終え立ち去ろうとする2人に、プロデューサーが声をかけてくる。一昨日のミニライブについてどう感じたかを2人に尋ねるプロデューサーだったが、2人から視線を逸らしてのその質問は、まるで2人からの回答を恐れているかのようにも見える。
 2人は自分たちが抱いている正直な想いを伝える。ステージで歌っている間は何も考えられず、ただ歌うだけで精一杯だったこと、歌い終えて観客から拍手をもらった時、ここが自分たちにとっての第一歩なのだと嬉しく思えたこと、そして今のこの状況でどうすればいいのかわからないこと…。

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 無論彼女たちには何の落ち度もないし、先日のライブも彼女たちにとってはむしろ成功と言うべき内容だった。しかし同じプロジェクトのメンバーが、誤解によるものとは言え悩み苦しむままに離脱、その影響がプロジェクト全体に波及している現状で、自分たちは前に進んでいけるのか、不安を抱くのは当然のことと言えるだろう。
 しかしそんな2人の言葉を聞いてもなお、プロデューサーは答えを示さない。未央や凛からの信頼を失い、今また美波やアナスタシアからも、そして本人の知らぬところで他のプロジェクトメンバーからも信頼を失いつつあるこの状態は、プロジェクトのみならずプロデューサー自身をも確実に追い詰めていた。
 1つの事象を段階的に描いて範囲を拡大させつつ詳細な描写を盛り込んでいくと言うのは、アニマスからのアニメ版「アイドルマスター」シリーズがよく用いる演出手法であるが、このプロデューサーを追い込んでいく流れも実に巧妙な構成が仕組まれており、アイドルたちだけでなくプロデューサーも苦悩し、その彼の苦悩がまた他のアイドルを苦悩に追いやっていくという感情のやり取りの相乗効果による派生が、わずか10分足らずの短い時間で効果的に且つ明確に描出されている。
 この見せ方がアニメ版アイマスシリーズ独自のものであるというわけでは無論ないし、むしろ構成的には非常にオーソドックスなものと言える。しかしその基本的な要素を丹念に練り上げ構築することにより、地に足のついた骨太のドラマを生み出せるというのは、かつてのアニマスを視聴した大部分のファンであれば十分理解できるところだろう。

 その頃体調不良で休みを取っていた卯月は、自宅の部屋で寝込みつつ母親の看病を受けていた。どうやら発熱していたようだったがそれも落ち着いたらしく、母親も安心して部屋を出ていく。

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 体調不良で休んでいたのだから卯月が寝込んでいるのは当たり前の話なのだが、このシーンを見て驚いた、あるいは拍子抜けしたという視聴者も少なくなかったのではないだろうか。すなわち現在の状況に未央や凛だけでなく卯月もショックを受け、精神的に参ってしまったために休んだと考えていた視聴者も一定数いたのではないかということである。
 卯月も未央の今後について不安を抱いていたのは確かだから、体調を崩したのが彼女の精神状態とまったく無縁というわけではないかもしれないが、そういった劇中内の事情よりはむしろ、視聴者がある程度そのような勘違いを起こすと見越した上で、このブラフと言うべき流れを劇中に仕掛けた制作側の巧妙さを、ここでは堪能すべきだろう。
 もちろん「卯月が風邪を引いて家にいる」というシチュエーション自体がこれからの展開に必要なものであるから、このような手筈を整えたというのも事実であろうが、その上でこのようなブラフを仕掛けられるところに、制作陣のある種の余裕のようなものまで窺えて興味深い。
 寝込んだままでスマホの着信履歴を眺める卯月。一番上には凛からの着信が不在着信として記載されているが、そのすぐ次に表示されている自宅からの着信も不在着信となっていることを考えると、ちょうど凛からの電話がかかってきた時間は、病院なり薬局なりにいて電話に出られない状態だったと考えるのが妥当と言える。卯月はごく普通の女の子なのだから、病気で体調が悪くても構わず四六時中スマホをいじってツイッターのTLを眺め続けるような層とは違うと言うことであろう。
 凛からの着信履歴を見、連絡を取れず凛に心配をかけてしまったであろうことを気に病む卯月。未央の件も含めて、未だ彼女の胸中から不安が拭い去られていないという点がよくわかる。凛までも自発的にプロデューサーの下を去っていってしまったことなど、この時の卯月は無論知る由もなかったのだが。
 卯月はしばし1人でベッドに横たわる。少し引いた視点からのそのカットでは前話の描写で映らなかった部分もはっきり映っており、いかにも先ほどまでいた母親が片づけてくれたように見える床の本や、数枚の写真が貼られた壁のボードなどが見て取れる。
 ちなみにそのボードには2話での宣材写真撮影時にプロジェクトメンバー全員で撮った集合写真や、1話冒頭の冬のライブで撮らせてもらったと思しき美嘉や瑞樹たちの写真が貼られているが、それだけでなく1話で購入したアネモネの花や、CDデビュー決定時に家族で行ったのだろうお祝いのケーキ、そして養成所時代の仲間たちとの集合写真も貼られている。養成所時代は仲間たちがどんどんいなくなり、最終的に1人だけになってしまった卯月だが、その頃の記憶も良き思い出として彼女の中に息づいていることがはっきりとわかるカットだ。
 なおケーキについては、劇中で直接映ったのは5話Aパート冒頭のケーキの残りだけであったから、食べる前のホールケーキの状態が映されるのはこのシーンが初となっている。
 その時不意にドアをノックする音が響く。卯月の返事に続くように漏れ聞こえてきたのは、卯月が想定していた母親の声ではなく、何とプロデューサーのものだった。聞こえるはずのないものが聞こえてきた予想外の事態に、思わず飛び起きて大声を上げてしまう卯月。
 卯月を見舞いに訪れたというプロデューサーは、お見舞いの品だけ置いて帰るつもりだったものの、卯月の母親に勧められて仕方なく家に上がったらしい。
 それでもプロデューサーは卯月にドア越しに声をかけるのみで(ある意味当然とも言えるが)、見舞いの品を置いて帰ろうとするが、卯月に呼び止められる。すぐに行くから階下で待っていてほしいという卯月の言葉に、多少困ったような様子を見せながらも従うプロデューサー。
 リビングにやってきた卯月は、風邪を引いて休んでしまったことをまず謝る。風邪の話題を口にしたからか、ずっとベッドで寝ていて髪の毛がぼさぼさになっていることに気付き恥ずかしがる卯月。今話の脚本担当によると卯月は元々癖っ毛なのでこういう場合はぼさぼさとするよう、キャラ原案の杏仁豆腐氏から注文があり、話の展開とは別に力を入れて描写したという。
 髪の毛の件や突然の来訪ということもあるのだろうか、今一つ会話らしい会話を切り出せない2人。そんな2人への助け船のような立場として間に入ってきたのは卯月の母親だった。

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 フルーツと紅茶を出しつつ卯月以上ではないかと思われるような朗らかさで、娘がきちんとアイドルをやれているかと話しかけ、一昨日のライブに関しても不安がっていた卯月が1人で何度も練習していたことを楽しそうに語るところは、キャラクター原案担当である杏仁豆腐氏のメモに書かれていたと言う「卯月ママはパッション属性」という点を忠実に反映させていると言えるだろう。
 入学式など何かしらの節目に撮影されたと思われる卯月と母親のツーショット写真もいくつかリビングに飾られ、これを撮影したのがすべて父親であると考えると、親子中も非常に良好であることが窺える。これまでアニメのアイマスシリーズで登場アイドルの家庭環境が実際の親が登場する形で描かれてきたのは、765アイドルの如月千早程度であったため、古参のファンにとってもこの一連のシークエンスはなかなか新鮮に映ったのではないだろうか。
 恥ずかしがって母親を退散させた卯月は、未だ黙したままのプロデューサーも風邪を引いたのではと気遣う。実際に今のプロデューサーは意気消沈した状態なのだから、卯月がそう考えてしまうのも当たり前であるが、プロデューサーはまた例によって仔細を話そうとはしない。
 その時プロデューサーが目に留めたのは、卯月たちニュージェネレーションズのCDだった。卯月の両親が購入したものであるのは間違いないところだろうが、開封済の1枚を含めても合計16枚も購入しているには少々驚かされる。単なる親バカと言えなくもないが、それだけ娘がアイドルとして活躍するのを純粋に楽しみにしているのだろう。
 「純粋に楽しむ」その姿勢が娘の卯月にもしっかり受け継がれているというのは、同じCDを見つめながら、これからはどんな仕事をしていくことになるのか、今後への期待を述べる卯月に向けられた、どうなりたいかというプロデューサーの問いに屈託なく「テレビ出演ができればいいな」と答える彼女の様子からもはっきりと認識できるところだ。
 ややあって卯月は、過日のミニライブの件で心残りがあったと切り出してくる。言うまでもなくそのミニライブをきっかけとして未央や凛からの信頼を喪失してしまっているだけに、プロデューサーも卯月の次の言葉に思わず身構えるような姿勢を取るのは仕方のないところだろう。

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 ここで卯月の言葉に触れる前に考えておきたいのは、プロデューサーが卯月を見舞いにわざわざ卯月の家にまでやってきた、その理由だ。
 純粋に病欠している卯月を案じてと言ってしまえばそれまでだが、彼を取り巻く現状を考えれば、とてもそんなことをしている余裕はないと言うのは明白である。未央や凛のみならず他のプロジェクトメンバーからも信頼を失いつつある状態の中、彼がわざわざ卯月の家を訪れた理由は何であるのか。
 凛がAパートで言ったとおり、彼自身の「逃げ」の姿勢がそうさせたと考えるのは容易いし、実際にそういう側面も多分にあったのだろうが、ただ単に現実からの逃避だけを意図したのであれば、何も担当アイドルの許へ出向く必要はないわけで、そこには別の理由があると見るのが妥当であろう。
 では何故卯月の家へ行ったのか。卯月がミニライブのことに触れた際、プロデューサーが表情も体も強張らせた描写から考えると、このミニライブの件について卯月に聞くのが彼の目的だったのではないだろうか。もっと言えば彼女もまた未央や凛と同様、ミニライブでの出来事を通して自分に対する信頼感をなくしているのではないか、それを確認するために出向いてきたように思えるのだ。
 先ほど卯月が体調不良で休んだことを「精神的に参ってしまったためではと視聴者を勘違いさせるブラフ」と記述したが、もしかしたらその「ブラフ」に真っ先に引っかかってしまったのは、他ならぬプロデューサーであったのかもしれない。凛に未央と立て続けに信頼を失ってきてしまったプロデューサーだが、その酷な状況がいつしか卯月に対する信頼感を彼から見失わせてしまっていたのではないだろうか。
 本来であれば実際にどう考えているのか、この時点では確認の取れていない卯月よりも、今現在はっきりとした問題が起きている凛や未央の方に対処しなければならないのが道理であり、その点から言うと間違いなくこれは「逃げ」の行為なのだが、それ以上に卯月の自分への信頼感がどうであるか、彼にそのような想いを抱かせる、気づかぬうちに芽生え恐らくは今も気づいていないであろう己の猜疑心が真実であるか否か、それを確かめたいと言うのが最も強い動機なのではなかったかと、そう考えられるのである。
 そう考えると彼が卯月の家を訪れた時点で、見舞いの品だけ置いて帰ろうとしたのは、卯月が本当に風邪を引いて休んでいるという事実が確認できたからとも解釈でき、言わばこの時点でプロデューサーはいくらか救われていたと見なせるかもしれない。
 そして卯月がミニライブの件に触れた時、体を強張らせたのは、次に出てくる言葉が自分を否定する言葉と無意識のうちに思い込んでしまったからではないか。卯月への信頼感を見失いつつあるのと同時に湧き上がってきた猜疑心が、彼にそう思い込ませていたように見える。
 しかし卯月が次に話した内容は、彼にとって予想外のものだった。
 あのミニライブの時、卯月は最後まで笑顔で歌うことができなかった。だから次の機会がある時は最後まで笑顔で、凛や未央と一緒にステージに立っていたい。目を輝かせながらそう話す卯月を、ハッとした表情で見つめるプロデューサー。
 笑顔でやり切れなかった後悔があった。未央が戻ってくるかどうかわからない不安もあった。だがそのようなネガティブな感情よりもずっと強い未来への希望が、卯月の心の中に確たるものとして存在し続けていたのである。それは取りも直さず、自分たちの未来を示し背中を押してくれる存在であるプロデューサーへの信頼感が些かも失われていないことを意味していた。

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 アイドルになる夢をずっと抱きながらそれを叶えられずにいた卯月を見つけてくれた、自分を輝くステージに立たせてくれたプロデューサー。凛のようなスカウトにも未央のようなオーディションにも恵まれなかった、そういう意味では彼女ら2人よりも不遇な環境に卯月は甘んじていたと言える。しかし卯月はそんな状況にも決してめげることはなく、明るく元気に夢を信じて日々努力をし続けてきた。そんな彼女の象徴たる「笑顔」を理由に卯月を見出し、アイドルとして導いてくれた大恩ある人への信頼感が揺らぐことなど、彼女にとってはあろうはずもなかったのである。
 卯月にとってプロデューサーは夢を叶えてくれるかもしれない人であると同時に、一部ではあるがもうその夢を叶えてくれた人でもある。その「実績」や「体験」は、卯月にとって彼を信頼するに足る根拠として十分すぎるものであろうことは想像に難くない。だから彼女は今でも迷うことなくプロデューサーを信じ、彼が示してくれるであろう未来も信じることができるのだ。
 これまでの物語の中で卯月がプロデューサーとの間に紡いできた信頼という繋がり。その強さは自分の側から信頼関係を見失いかけてしまっていたプロデューサーの弱った心を奮起させるには十分なものだった。卯月の家を辞したプロデューサーは卯月の笑顔、そして2人がこれまで紡いできた絆の強さに後押しされるように、雨の中を駆けだしていく。その姿はアイドルとプロデューサーの関係性が強まることでより大きな力を育む、「アイドルマスター」の世界観そのものを象徴しているようでもあった。

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 事務所に戻ったプロデューサーはある物をかき集め、またすぐに出かけようとしたところで、ちょうどそこに現れたみくたちと鉢合わせする。
 プロジェクトルームに集まった11人は、みくを先頭に未央たち3人、そしてプロジェクト自体のこれからをプロデューサーに問いただす。その根底にあるのが自分たちが何を頼りにすればいいのか、誰を信用すればいいのかがわからなくなってしまったことへの不安というのは、「やっとデビューまで信じて待っていようって思えたのに」というみくの言葉からも容易に理解できるだろう。

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 現状、彼女たち11人は自分たちで積極的に動いて事態を解決できるような立場にはない。美波とアナスタシア以外は正式デビューすらしていない彼女らにプロジェクトの今後をどうこうできるはずもないし、ニュージェネ3人の去就についても未央の件は近くにかな子や智絵里たちがいたからある程度は把握可能としても、凛や卯月が今この場にいない理由はわからない(無論彼女たちも卯月が「本当に体調不良で休んでいる」と認識できていない)のだから、わからないことに対して対処できないのは当然だ。
 この状況に不安を覚えていても、自分たちはそれを打破するために動くことすらできない。それを口惜しく思っているというのは、凛や卯月の不在を知って歯噛みするみくの描写からも一目瞭然である。彼女たちはニュージェネ3人の今後やプロジェクトの今後そのもの以上に、それらがまったく明確に指し示されず、自分たちで示すこともできない現状に不安を抱いている。
 いや、ここはもう「怖がっている」と表現するのが正しいのかもしれない。自分たちが不安を抱いている要素のすべてが明確に示されず曖昧なまま、時間だけをズルズルと消費していく今の状況に対し抱く感情というのは、怖れ以外の何物でもないだろう。重ねて言うが彼女たちはまだ十代の年若い女の子なのである。湧き上がる負の感情を自分で制御することなど到底望めるものではない。
 莉嘉やみりあの悲しそうな声もだが、杏がいつものだらけた態度を取らずに皆を見つめるというカットが、逆説的に皆のそのような感情を強調し、浮き彫りにしてもいた。
 ここで以前のプロデューサーであれば、かつての未央や凛の時と同様に曖昧な言葉を返すだけだったかもしれない。だが今の彼には信頼という力に後押しされた強い想いがあった。その想いは彼にはっきり「大丈夫」と言わしめる。ニュージェネレーションズは解散しないし誰かが止めることもない、未央も凛も必ず連れて帰るから待っていてほしいと。それは今まで基本的に事実を淡々と伝えることしかしてこなかった彼が、少女たちに向けて初めて話した、彼自身の「望み」だった。

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 そんなプロデューサーの言葉を外で聞いていた大西部長は、彼が部屋を飛び出して行った後、皆を案じてか姿を見せた美嘉と共に部屋に入る。
 どうしたのかと尋ねてきた部長に、まだ若干弱々しいながらも「プロデューサーを待っている」と伝えるみく。
 確たる根拠はない、確約された未来の事象というわけでもない。ただ自分がこうしたい、こうしてみせるという純粋な希望、決意。未だニュージェネ3人も他の11人の未来も、そしてプロジェクトの今後もまだ曖昧なのは事実だが、プロデューサーが内に秘める強い意志を初めて明確に示した、その真摯な態度そのものが、怖れや不安に疲弊したみくたちの心を幾分なりとも救ったというのが、このみくのセリフから窺い知れるだろう。
 そんな少女たちに、部長はとある「昔話」を語り出す。
 それは1人のとてもまっすぐな性格の男の話。男はシンデレラたちが正しく道を進めるよう、いつもまっすぐに道を示してきた。しかしどれほど正しくとも、どんなにまっすぐな示し方であっても、時と場合によってはそれらすべてを息苦しく感じてしまう者が現れるのは避けられない。結果、幾人かのシンデレラが男の下を去っていき、それが繰り返されるうちに男はとても臆病になっていき、いつしか自分を「シンデレラをお城へ送るだけの無口な車輪」に変えてしまった。
 言わば自分で自分に枷という名の魔法をかけてしまったその男は今、その魔法を解き、再びシンデレラに道を示すために雨の中を走り続ける。傘も差さず、ずぶ濡れになりながらもまっすぐに。
 彼の導き出す結果を待ってみようと話す部長。その顔にはまるで結末がわかっているかのような穏やかな笑みが浮かんでいた。

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 未央は昨日と同様、ベッドに横たわったままだった。スマホに表示されている卯月からの未央を案じるメッセージを見やりながらも、卯月への謝罪の念やリーダーとしての責任を放棄した罪悪感を覇気なく吐露するだけで、ベッドから起き上がろうとはしない。
 昨日の、つまりAパートでの同様のシーンの時に比して未央が体をより小さく丸め、縮こまってしまっている描写からは、むしろ時間の経過により、彼女の中で罪悪感や孤独感と言ったものが一層膨れ上がってしまっているようにも見える。
 まして未央の見ていた卯月からのメッセージは、未央や凛に迷惑をかけないよう自分もがんばるから、未央が戻ってくるのを待っているという旨の内容のものばかりで、現在の未央の行動を否定する文言はまったく含まれていない。未央を信じ、未央に迷惑をかけないようにがんばるとまで言ってくれる卯月の優しさがわかるからこそ、実際に今最も迷惑をかけているのが自分であるとはっきり自覚している未央にとってはそれが重すぎる励ましであり、応えられないことへの罪悪感が未央の中でより顕著になってしまっていたのかもしれない。
 と、その時新たなメッセージが着信される。それはプロデューサーからのものだった。気のない態度を示す未央だったが、未央と話をするために家の下まで来ているというメッセージの内容を見て、思わず窓から階下に視線を向ける。

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 果たして階下、マンションの駐車場にプロデューサーはいた。事務所を飛び出した時と同じく、傘も差さずに1人で佇むその姿に未央も驚くが、思わず呟いた「あんなこと言っちゃったのに」という言葉からは、プロデューサーに向けて言い放った「アイドル止める」「もう来ないで」という類の発言に、ある程度の後ろめたさを覚えていたことを窺わせ、ごく普通にそう思える性格こそが未央の本質であって、無下に他人を突っぱねるような今の状態が異常なのだと見ている側に改めて認識させてくれてもいる。
 ところがそんなプロデューサーの下に、マンションの住人からの通報を受けたと思われる警察官が現れて話しかけてきたため、未央も驚いてしまう。
 まあ雨の中を傘も差さずただマンションを見上げているだけの男がいたら、住人が不審者と誤解するのも止むを得ないところであろう。1話での凛のスカウトの時にも見られたこのシークエンスは、張りつめた状態の未央の心を偶然とは言え若干緩和させる効果を発揮しているし、ずっと緊張して見続けていたであろう視聴者側にとっても、わずかながらにホッとさせてくれるシーンとして機能している。
 だがそればかりではなく少々飛躍させて考えてみると、良くも悪くも周囲を顧みない彼の行動は、彼の本来の性格であるまっすぐさに直結しているものと言え、その前提で見ると1話の頃から見られた彼のこの行動は、「無口な車輪」となってしまった現在の状態で、なお発露していた唯一の本来の彼自身と言えるものだったのかもしれない。
 さて前述の「未央の張りつめた心を若干緩和させた」効果は、未央がわざわざ階下に降りてプロデューサーの誤解を解いたと目されるシーンという形で描かれた。しかし未央はすぐ頑なな態度に戻って部屋に戻ろうとする。
 呼びかけたプロデューサーに小さく向けた「止めるって言ったよ」の言葉に、またも委縮するプロデューサー。かつて味わった、彼に本来の個性を抑えつけさせてしまうほどの苦い記憶が今また目の前で再現されていると考えれば今回の、更には6話ラストでの彼の態度にも納得はいく。
 その意味では彼もまた、シンデレラプロジェクトのアイドルたちと同じく「不安」や「怖れ」をずっと抱いてここまで来たのだろう。自分の言動や行動がいつかまた少女たちを追い詰めてしまうかもしれない。自分の最も見たくない光景、聞きたくない言葉を見、聞く羽目になってしまうかもしれない。その想いが彼を「無口な車輪」に変えてしまっていたのだ。
 そんな彼の心を救ったのは、1人の少女の信じる気持ち。自分の未来も大事な仲間も、そして自分を夢見た世界へ誘ってくれた人に対しても、揺らぐことなく信じ続けてくれる少女=アイドルの強い想いが、プロデューサーに力と勇気を与えてくれる。
 みくたち11人の「アイドル」の心を「プロデューサー」の決意が救ったように、「プロデューサー」の心を救ったのも1人の「アイドル」の強い想いだった。「アイドルとプロデューサー」という絆に支えられ、プロデューサーは今まで躊躇っていたその一歩を踏み出し、未央を力強く引きとめる。

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 実家の花屋で物憂げな表情を浮かべる凛の描写を皮切りに、プロデューサーと未央の会話が始まる。
 Bパート冒頭における卯月とのやり取りの開始時にもインサートされた凛のこの描写、意味するところは何かと考えてみると、凛のある心情に思い至るのであるが、それについては後ほど触れることにする。
 1階のエレベーターホールで話を始めたプロデューサーが未央に手渡したのは、あのミニライブの際にプロデューサーが撮影した3人の写真だった。写真に写っている自分自身の顔を見やり、全然笑っていないと自嘲気味に呟く未央。
 そこへプロデューサーが、ミニライブの後に告げた「当然の結果」という言葉の真意を語り出す。失敗して当然という意味の発言ではなく、ライブはむしろ成功だったと。
 「失敗」と決めつけている未央はその言葉を素直に信じようとしないが、プロデューサーは未央の傍らに腰を下ろし、未央に次の写真を見るよう促す。
 細かい点だがこのプロデューサーの「立っている→腰を下ろす」という動作の流れは非常に丁寧だ。誤解が生じていた部分を淡々と説明させる時は立ったまま、つまり未央と視線を敢えて合わせず、自分の考えをきちんと未央に伝える段になった時には腰を下ろし未央と目線の高さを合わせて、「対等に会話している」シチュエーションを構築している。
 ずっと立ったままで話をしていた場合、プロデューサーが未央に高圧的な態度を取っていると視聴者側に受け取られかねず、かと言って心情的に弱り切った状態の未央を無理に立たせるのは演出上難しいし、何より立たせたところでプロデューサーとの目線は、身長差から言っても合わず、どうしても未央が見上げる形になってしまう。ここで重要なのは「プロデューサーが未央に歩み寄る」こと。彼が未央に目線の高さを合わせて屈んだのは、苦い記憶を乗り越えて一歩踏み出した彼自身の決意の象徴でもあったわけだ。
 プロデューサーの指し示した写真には、3人のライブを見つめる観客の姿が小さく写っていた。笑顔を浮かべながら3人を見てくれている観客の姿が。
 言葉を続けるプロデューサー。確かに観客の数自体は決して多くはない。けれど写真に写っているこの人たちは、足を止めて3人の歌を聴いてくれていたのだと。
 数は少なくても3人の歌を聴いていた人はちゃんといた。歌を聴き、ライブを見て笑顔になった人たちがいて、3人は間違いなく自分たちの歌と踊りでその人たちを笑顔にしたのである。その事実こそがこのミニライブを成功と彼が判断した理由だった。「笑顔」をアイドルに必要な条件としてずっと拘ってきたプロデューサーらしい理由と言えるだろう。
 プロデューサーの言葉に、あの時観客から拍手をもらえていたことを思い返す未央。観客が喜び拍手をしてくれたという事実を、彼女もちゃんと記憶の片隅に留めていたのだ。しかし観客の人数にしか目を向けられないままライブを「失敗」と断じた、その思い込みが未央の視界を曇らせ、自分たちに拍手が向けられた、「失敗ではなかった」という事実の根拠さえも記憶の中で喪失させてしまっていたのだろう。
 本来ならばライブ終了後のあのやり取りの中でプロデューサーがそれに気付かせてあげなければならなかったのであるが、さすがにあの時点でプロデューサーにそこまで完璧な立ち回りを求めるのは酷と言うものである。その時の彼は物言わぬ車輪と同等の存在であり、苦しむアイドルを諭すような役回りは、当時の彼の中には存在していなかったのだから。
 今回の一件に明示的な悪人はいないし、悪と断じるべき行動を取った者もいない。しかし確実に2人の間には各々の「落ち度」が存在していた。それが事態をより深刻な方向へ推し進めてしまったのだ。
 そういう意味では随分遠回りしたものの、未央の心情に一歩踏み込む勇気を取り戻した彼は、あの時に本来すべきであったプロデューサーとしての役目をようやく果たせたのだと言える。
 あのライブは決して失敗ではなかった。しかしそれを自覚しても未央はなお顔を伏せる。それは未央の言葉からもわかるとおり、未央にとってミニライブは「成功」でもなかったからに他ならない。

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 未央のその考え方は今更言うまでもなく、自分の勘違いによってライブをダメにしてしまったこと、そして1人であの場から逃げ出してしまったこと。それら自分自身の行為に起因していた。プロデューサーの言うとおり客観的に見れば今回のライブは十分成功と言えるのだが、艦違いとは言えショックを受けていた状態でのライブパフォーマンスは万全ではなく、さらにはリーダーという立場であるにも関わらず、1人逃げ出して最後の最後に気まずい空気を作ってしまったという事実が、彼女に「自分のせいでみんなのライブをダメにしてしまった」という想いを今なお抱かせていたのである。
 顔を伏せる未央を前に、自分も辛そうな表情を浮かべるプロデューサー。今の彼には未央の心情が我が事のように理解できるのであろう。目の前の現実から目を背け「逃げた」ために多くの人に迷惑をかけてしまった、それはプロデューサーも同様だったからに他ならないからだ。
 凛に指摘された通り、彼は自らを「無口な車輪」に変えてかつての苦い記憶、そして今現在目の前にいるプロデュースアイドルからも「逃げて」いた。未央や凛の心を追いつめ、他のプロジェクトメンバーをも混乱させてしまったのも、彼のその逃げの姿勢による部分が大であることは明白なのだから、未央の苦しみに自分を重ねたとしても何ら不思議はないだろう。
 だがただ未央の心情に同調していればいいわけではない。彼はプロデューサー。アイドルが時に迷い苦しむことあらば、また一つの道を指し示してやらなければならない、そういう立場の人間なのだから。
 プロデューサーは未央に、そして自分自身にも言い聞かせるように一言、「戻りましょう」と呼びかける。
 それでもどういう顔で会えばいいのかと渋る未央に、だからこそこのままではいけないと語るプロデューサーは、「このまま貴方たちを失うわけにはいかない」と、自らの正直な想いを打ち明ける。初めて耳にしたプロデューサー自身の純粋な想いに突き動かされるように、涙を拭ってようやく顔を上げる未央。
 それはみくたち11人に向けたものと同様の彼の真摯な言葉が、未来を怖れ先に進むことを躊躇っていた未央に、不安を抱きながらも一歩踏み出す決意を固めさせた瞬間であった。いつしか雨も止み、厚い雨雲の隙間から光芒が差し込む空は、彼女のそんな心の様の暗喩なのであろう。

 雨も上がり日もだいぶ傾いた中、凛はハナコを連れてあの公園のベンチに腰掛けていた。
 そこは初めて出会った卯月の夢と笑顔に心を揺さぶられ、初めてプロデューサーの言葉に耳を傾けようと思えた、凛にとっての始まりの場所。
 そこで凛は自分たちの初めての歌を口ずさんでいたが、その声にやはり覇気はない。やがて歌も止め小さくため息をついたところに、凛を呼ぶ声が響き渡る。
 声の主はプロデューサーと一緒に駆けつけてきた未央だった。自分たちの姿を認めた凛に未央は、一瞬言葉に詰まりながらも自分の正直な想いを口にする。1人で逃げ出して皆に迷惑をかけてしまったことへの謝罪、そしてそれでもこのまま終わりたくない、一緒にアイドルを続けさせてほしいと。
 精一杯の言葉で懸命に紡いだ未央の素直な気持ちに、しかし凛は視線を上げることなく俯いたままだった。凛が未央を大切に思っているというのは今更語るまでもない話だが、ではなぜその凛が未央の謝罪と懇願を聞いても顔を上げなかったのか。

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 あのような形でライブという「仕事場」から未央が逃げ出したことについて、完全に虚心でいられたのかはわからないが、仕事上の是非はともかく凛が卯月と共にひたすら未央を案じ、未央の自宅に向かおうとまで考えた事実があるのだから、今更未央に殊更腹を立てた結果としての行動とは考えにくい。
 そこまで考えると凛の心理状態が見えてくる。未央は凛たちと再びアイドルをしたいと願って戻ってきた。ところが当の凛が今はアイドルというものに意欲を見出せなくなってしまっている。未央が改めて顔を上げ一歩を踏み出した時点で、凛と未央とで心理面における立場、立ち位置と呼ぶべきものが逆転してしまっており、それ故にアイドルを続けたいという未央の言葉に視線を上げられなかったのではないだろうか。
 未央の想いだけでは今の凛の弱った心は戻らない。そんな凛に向け、彼女の心を著しく憔悴させたであろうもう1人の人物が歩み寄る。
 プロデューサーからの呼びかけに視線を向ける凛。プロデューサーは自分のこれまでを振り返り、凛たちと正面から向き合わず逃げていたこと、そのために凛や未央たちを混乱させ傷つけてしまったと語る。
 だがここでプロデューサーは謝罪の言葉を口にしない。何故なら凛はAパートでのプロデューサーとのやり取りで「謝罪」自体は聞いているから。プロデューサーがそれを念頭に入れていたというわけではないだろうが、少なくとも今の凛に必要なものは謝罪の繰り返しではなく、未央たち他のアイドルと同様に、プロデューサーが素直な気持ちを凛に打ち明けることだったのだ。
 彼の言葉に触発されたのか、凛も静かに語り出す。アイドルが何なのかよくわからないまま初めて、よくわからないままここまで来た。でももうこれまでのようにわからないままは、迷った時に誰を頼ればいいのかわからないままなのはもう嫌だという凛のその言葉は、単に内面の不安を吐露しただけではなく、その不安に自分1人では抗いきれない、彼女の弱さをも曝け出していた。

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 Aパートの時のように気を張ってプロデューサーを問い詰めるわけでも、まして叱咤するわけでもない。その性格故に普段は、そしてこのような状況に至っても容易に露わには出来なかった、しかしずっと胸の奥に秘めていた自分自身の弱さを、凛は恐らく初めてプロデューサーという他者の前に曝したのである。
 それは今回の出来事のみならず、アイドルそのものに対して常に彼女が心のどこかで引っかかっていたものだったのだろう。卯月や未央のようにアイドルというものに対する明確な憧れや目標のない自分が、アイドルという自分のまったく知らないものになっていく、そのことに怖れを抱かないはずはなかったのだ。
 そして無理もない話であるが卯月も未央も、そしてプロデューサーも、彼女のそんな弱い面に気づく者は誰もいなかった。今まではそれでも良かったが今回のような重大事に直面し、自分よりもずっとアイドルに愛着を持ってきた未央がアイドルを止めると言い出したその時から、凛は弱い自分を抑えられなくなってきたに違いない。
 弱い自分を支えてほしい、だがそれを一番期待していたはずのプロデューサーに対する信頼感は喪失してしまった。それでもやはり諦めきれない。凛のそんな複雑な胸中を描くための描写、それが卯月や未央とプロデューサーがそれぞれ会話を始めるシーンの冒頭でインサートされる、実家の花屋での凛の様子だったのではなかったか。期待できないけれども完全には割り切れない、そんな十代の少女の相反する想いを見せるのがあのシーンの目的であったように思えるのである。
 その直後からプロデューサーと卯月や未央の会話シーンが始まるのは、凛が打ち明けられるまで、凛の本心が聞けるほどになるまでに、プロデューサーが卯月・未央との会話を経て成長する、段階的なプロセスを明示する意味もあったのかもしれない。
 自身の弱さを曝け出すのは凛にとって重大な選択であったろうことは疑いない。もし自分のこの気持ちさえも拒絶されてしまったら、少なくともアイドルを続けることは完全に不可能となるだろう。目線を下げつつ独白する凛の姿からは、そうなることを怖れている様がありありと窺える。
 それでも言わないではいられなかった凛にプロデューサーは歩み寄り、もう一度みんなに信じてもらえるよう努力すると、凛に手を差し伸べる。無論これもはっきりと約束できる類のものではないかもしれない。しかしはっきりと凛を見つめて話すプロデューサーの真摯でまっすぐな想いは、凛の怖れを次第に霧消させていく。

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 しかしその怖れをまだ完全に打ち消すことができないのか、差し出されたプロデューサーの手を取ろうと出した自分の手を、凛は下げようとしてしまう。
 そんな凛の手を引きとめたのは、駆け寄った未央の手だった。未央はプロデューサーと凛の手を取り合わせ、想いを込めて凛に呼びかける。
 かつて卯月の想いに触れてプロデューサーへの信頼感を抱き始めた凛が、今また未央というもう1人の仲間の助力を受け、改めてプロデューサーとの信頼を紡ぎ始めようとするシークエンスは1話の再現であると同時に、未央とも同様のプロセスを経ることで凛がかつての1話で卯月に抱いた想いと似て非なる想いを未央に抱かせ、凛にとって卯月と未央の双方とも極めて等価な存在=仲間であることを再認識させる構成にもなっている。
 つまりこの時にしてようやく3人は、「ニュージェネレーションズ」の仲間としてとりあえずの完成を見たと言えるのである。
 だからあの時と同じ「夢中になれる何かを見つけに行こう」というプロデューサーの言葉も、素直に受け止められるほどには信頼感を取り戻すことができたのだ。
 出自も立場も異なっていた3人が、図らずも同様のシチュエーションを経て結束を高めるその話運びは、実際に画とするためには細かい伏線を幾重にも張り巡らす必要があるというのは、1話からずっと視聴してきた方であれば容易に理解できるところだろう。離れ業と言ってもいいこの構成をきちんとクライマックスに持ってきた制作陣の手腕には、今更ながら舌を巻かざるを得ない。
 プロデューサーの手に引かれるように立ち上がった凛、そして未央に、「明日からもよろしくお願いします」と伝えるプロデューサー。2人の力強い返事は、勘違いとすれ違いの中でいつしか見失っていたものを再び見定めた証であった。

 すっかり天候も回復して青空が広がる翌日、凛と未央はシンデレラプロジェクトに戻ってきた。
 揃って頭を下げる2人に涙を見せながら飛びつき、戻ってきてくれたことを喜ぶ卯月。未来への希望を失うことはなかったものの、不安を拭い去ることも出来なかった「普通の女の子」である卯月らしい行動だろう。それでも2人に何も言わずただ戻ってきたことを喜んでくれる卯月に、凛も未央も救われたような笑顔を見せる。

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 ちなみに厳密には卯月は寝込んでいたため、その間の凛や未央にプロデューサー、他のプロジェクトメンバーの様子はまったく知らないのであるが、それについて卯月自身がどう捉えて何を思ったかという点については、本放送では今話の翌週、8話の一週前に放送された特別番組「スペシャルプログラム」内における1話から7話までの出来事を卯月の視点で振り返るというコーナーにて、卯月のモノローグという形で触れられているので、機会があれば是非視聴していただきたいところだ。
 部長に一礼したプロデューサーは11人の方に向きなおり、自分たちが戻ってくるまで待っていてくれたことへの感謝と、改めてシンデレラプロジェクトを進めていくことを伝える。

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 一緒に一歩ずつ階段を登っていこうと呼びかける彼の言葉に大きく返事をする一同。紆余曲折あったものの、結果的にはプロジェクトとしての結束もより高まったのかもしれない。それはそのすぐ後に未央から出た「プロデューサーの丁寧口調を止めてみたら」という提案に、皆が賛意を示すところからも察せられるだろう。
 少々困った態度を取りながらたどたどしく言葉を言い直すプロデューサーに、部屋の中はひとしきり楽しげな笑い声に包まれる。そんな様子を扉の向こうから美嘉は1人、笑顔を浮かべながら聞いていた。
 今回の出来事が無事に解決して胸をなでおろしているのは美嘉も同じだったわけだが、中に入ってはというちひろさんからの誘いを、部外者だからと少々寂しそうに断る姿も印象に残る。彼女が今後シンデレラプロジェクトの面々と関わることはあるのだろうか。
 そして卯月、凛、未央の3人はプロデューサーと共に、ミニライブを行った会場を再び訪れる。
 心残りもあったし、辛い経験も苦い想いもたくさん味わった初めてのライブ。しかし同時に彼女たち3人の中に残ったものも、新たに育まれたものも確実に存在している。それらすべての、そして彼女たちニュージェネレーションズにとっての始まりの地と言うべき会場を、複雑な表情で見つめる凛と未央。
 その中にあってただ1人、卯月だけは一切の迷いなく、次に行うであろうライブに想いを馳せていた。凛に未央、そしてプロデューサーと一緒にどこまでも前を見て、夢に向かって進むことを願う卯月の揺らがない想いに、2人も思わず笑顔を作る。卯月のその強い想いは、2人にとって心の拠り所となるのだろうか。
 3人は手を取り合い、今度こそ自分たち自身の足で歩み始める。夢を叶えるため、求めるものを得るため、そして一度失った「ガラスの靴」を再び自分たちのものとするため、かつて自分たちに勇気をくれた大事な言葉と共に、いつか見たきらめくステージを目指して新たな一歩を踏み出すのであった。

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 今話の中で描かれているのは本文中で何度も触れているとおり、「アイドルとプロデューサー」という関係性の喪失と再構築である。アイドルマスターという作品そのものが、基本的にその二者間の関係性を中心軸として作品世界を展開させているのであるから、アイマスの名を冠する本作においても、この関係性を物語世界の根幹に据えるというのはごく自然な流れであろう。
 アイドルとプロデューサーが互いを信じあい、より強い絆を育むことでそれぞれが願う夢や目標に向かって歩み続ける原動力が生み出される。既に先達たるアニメ版アイドルマスターで幾度となく描かれてきたテーゼであるが、本作ではその流れを一旦初期化し、二者の信頼関係がいかにして生み出されるか、困難を乗り越えて育まれるのかを改めて初手から描くことに注力している。
 その意味ではプロデューサーに出会った1話の時点で強い信頼感を抱いていた卯月、逆に1話開始の時点ではむしろマイナスに振り切れていたものの、段階的に信頼感を積み上げてきた凛、そしてオーディション選抜という経緯もあってか3人の中では可もなく不可もなくと言ったスタンスだった未央の3人に焦点を当てて、それぞれの関係性構築と喪失
を描いたのは、三者間における対比がしやすいという意味でも非常にわかりやすい構成として仕上がっていた。
 そして喪失した信頼関係を取り戻す、回復させる手段として全編通して貫かれている、もっと言えばアニマス本編の時分から一貫している理念は、理屈ではなく各々の極めて純粋な想いを相手に届ける、ということだった。相手がそれを受け止められるかはわからないし、言ったところで未来が自分の願うとおりになるかどうかも不明ではあるのだが、まずは自分の素直な想いを信じたい、信じてほしいと思う相手に自分の心からの想いを曝け出すこと。決して最良の選択とは言えないが、本作においてはそれが最適解なのである。
 その視点に立って考えてみると、卯月だけがプロデューサーへの信頼が揺らがなかった理由も容易に理解できる。彼女は3人の中でただ1人だけ、事務的な内容や客観的な事実だけでない、プロデューサーの「本音」を間近で聞いてきていたのだ。
 1話で1人レッスンに励む卯月の成果に「いい感じですね」と、3話でバックダンサーの大任を果たした卯月に「いいステージでした」と言葉少なに、しかしはっきりと自分の想いを伝えている、全体通してみればほんの些細なやりとりであるが、それが大きな柱のような存在となって卯月の心を支えてきた、だから彼女は迷うことも見失うこともなかったのである。
 素直な想いを相手に届けることが、互いの関係性をより強くする。6話から生じていた一連の問題の解決の糸口は、1話や3話の時点で実は既に明示されていたのだ。
 そして良くも悪くも常に素直な未央に対してプロデューサーは自分の正直な気持ちを話し、凛はそんな2人を前にやっと他者のことではなく自分自身の素直な想いを口にする。それぞれがやるべきことに気づき、あるいは気づかされ、互いにそれを実践する。
 当たり前だが信頼関係というものは互いに相手がいて初めて成立する関係だ。だからこそ一度喪失したその関係性を再構築するためには、互いの心の交流を描くことが必須となる。それをドラマとして描くには非常に丹念に且つ丁寧に各々の心情や交流を描写する必要があるが、本作の制作陣はそれに真正面から臨み、見事に喪失と再生の物語として完成させた。その手腕と作品に対する真摯な姿勢には、今更ながら感嘆を禁じ得ない。
 本作がこれからどのような挿話を紡いでいくのかはわからないが、少なくとも本編に登場するアイドルの少女たちにとって、どんな形であれ幸福な結末が待っていることは間違いないと、改めてそう確信させてくれるような、今話はそんな物語であった。

 もう一点触れねばならないところとしては、このアイドルとプロデューサーという関係性の喪失と再生というテーマは、かつてのアニメ版アイドルマスターでも描かれたものだった。
 古参のファンには今更説明不要だろうが、アニマスの6話から13話に至るまで、物語の縦糸軸として連綿と構築されてきた「美希とプロデューサー」の物語である。
 別にどちらがどうと比較するわけではなく、かつてのアニマスが第1クール終盤を彩るメインの物語の一つとして用意していたこのテーマと同じものを、本作では第1クール序盤の物語の目玉として用意してきたことに注目したい。本作とアニマスの関係は、同様のテーマを掲げていても、構成や演出の仕方が変われば内容そのものはこれほどまでに変容するというこれ以上ない好例と言えるだろう。
 とりあえずは第1クール終盤を彩る物語がどのようなものになるのか、そこに大いに期待したいところである。

 さて一つの大きな問題が解決したシンデレラプロジェクト、彼女らが次に直面する物語は如何様なものとなるのか。
 特番を挟んでの第8話からは他のプロジェクトメンバーに焦点を当てていくようだが、どのような展開になるのか、興味は尽きない。

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