2015年07月11日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第10話「Our world is full of joy!!」感想

 前話までにシンデレラプロジェクトも過半数のメンバーがそれぞれユニットを組み、めでたくCDデビューを迎えてきたが、その編成については多くの視聴者、とりわけ原作ゲームに以前から慣れ親しんできた人々にとって、かなり意外性の強いものだったというのは衆目の一致するところだと思う。
 原作を代表するプレーンな存在としての卯月、凛、未央のニュージェネレーションズはともかく、ラブライカの美波とアナスタシア、キャンディアイランドのかな子・智絵里・杏などは原作ゲーム中では全くと言っていいほど接点のなかった間柄だったのだ。
 既にある程度人物関係が定着してきている原作ゲームに敢えて追従せず、設定を今一度撹拌、再構成して組み直すという行為はともすれば批判の的になりかねない危険性を孕んでいるが、新たに提示された人間関係から生じるドラマやキャラの個性が常に丁寧に、且つ緻密に構築されてきているということは、これまで本作を見てきた人であれば素直に認めるところであろうと思う。
 そんな本作は今話でまたも新しいユニットを我々ファンの前に送り出す。名前は「凸(デコ)レーション」。諸星きらり、城ヶ崎莉嘉、赤城みりあの3人で編成されるトリオユニットだ。
 年少組2人に年長組のきらりという編成は、一見するとこれまでのトリオユニットよりも統一感を出しづらそうであるが、子供のみりあや莉嘉の面倒を実は精神年齢高めのきらりが見るという視点で考えるとバランスが取れていると言えなくもなく、何とも評価の難しいユニットである。
 だが前話の感想に書いたとおり、きらりは今までの話の中だけでも杏との絡みが一番多く、莉嘉も基本的には姉である美嘉と一緒にいるイメージが強い。この3人の取り合わせがどのような化学反応を起こすのか想像もつかないという点では、先のキャンディアイランドと同様だろう。
 果たして凸レーションの物語はどのような顛末を迎えるのであろうか。

 凸レーションもキャンディアイランドと同じく、今話の開始前にCDデビュー自体は果たしていたようで、今プロジェクトルームで3人とプロデューサーが打ち合わせを行っている内容は、CDの販促についてだった。
 販促の目玉としてプロデューサーが企画・実施したのはファッションブランド「PikaPikaPop」とのコラボレーション。話を聞いたみくが羨ましがるほどの有名ブランドのようで、コラボ衣装から見るに凸レーションというユニットが本来持つポップなビジュアルイメージともマッチしており、宣伝効果は抜群というところか。このコラボを実現させたプロデューサーの手腕もまた見事と言えるだろう。

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 有名ブランドとのコラボ実現に凸レーションの面々も大いに喜ぶが、そこはシンデレラプロジェクト内でも有り余るほどの元気さや明るさを湛えている3人、打ち合わせもそれですんなり進行するはずはない。
 プロデューサーの発した「露出は多ければ多いほどいい」という言葉に莉嘉が即反応して「エッチ」と返せば、みりあがプロデューサーに「エッチなの?」と質問し、この場合の「露出」はメディアへの露出という意味だときらりが解説する、といった具合である。
 意味のわからないままみりあに「エッチなの?」と質問させたり、ソッチの方の意味の露出が多めでもいいと莉嘉に言わせる流れに背徳的な何かを感じなくもないが、それはそれとしてこの場面では事あるごとに年相応以上のことを求めて背伸びしたがる莉嘉と、よく理解できないながらも莉嘉に同調するみりあ、そんな2人を優しくフォローするきらりという、ユニット内におけるそれぞれの役割や立ち位置が過不足なく描写されている。
 元々みりあと莉嘉のそのような関係は2話や4話などで描かれてはいたが、ここに3話あたりからさり気なく描かれてきたきらりの常に周囲の誰かをフォローしようとする姿勢をうまく噛みあわせており、結成したばかりではあるが早くもユニットとして十分な関係性が築かれていることがわかるだろう。
 そんな3人に対応するプロデューサーとのやり取りは、アナスタシア曰く「楽しそう」、凛曰く「遊ばれてる」ようなものであったが、どちらにしてもプロデューサーを含んだ4人の関係もまた良好であることは間違いない。それはみくの「Pチャン」呼びと同様、既に莉嘉がプロデューサーを原作ゲームに即した「Pくん」というフランクな呼称で呼んでいる点からも察せられるところだ。
 プロデューサーは3人に、グッズの販売に合わせてコラボイベントを実施することを伝える。しかし場所の都合で歌は歌えずトークショーのみとの話に、莉嘉はかなり不満な様子。
 それでもトークショーのことがよくわからないみりあに、すぐ気分が切り替わり嬉々として話を始めるあたりは年相応のお子様らしいと言えるが、その内容は「恋バナしたり○○の話をしたり」と少々危なっかしい。これもある意味で背伸びしたがる子供らしいと言えなくもないが、さすがにこのまま進行させるわけにもいかず、トークの内容について改めて打ち合わせを行うことを提案するプロデューサー。
 プロデューサーも以前に比べると会話によるコミュニケーションを積極的に取ろうとしているようだが、主に莉嘉やみりあの持つ子供特有のパワーは細かな理屈を容易に跳ね飛ばしてしまうような力を持っているだけに、振り回されてしまうのは仕方のないところだろう。生真面目な性格故に彼は2人の攻勢をまともに受け止めてしまうのだから尚更だ。
 和気藹々とはしているものの、2人の子供パワーにプロデューサーが振り回されがちなその様子は、傍から見ている凛やみくに不安を抱かせるには十分すぎるものだった。

 イベントの当日。PikaPikaPopの店舗横にある駐車場と思しきスペースにステージは設営されていた。場所が場所なだけにステージ自体は小ぢんまりとしたものだが、結構な数の観客が集まってきており、コラボによる相乗効果は確実に発揮されていると言えるだろう。
 司会に呼ばれてステージに上がる3人。まだデビューしたばかりではあるが3人揃ってのユニット名紹介もきちんと合わせており、前話のキャンディアイランドと違って全員まったく緊張しているような素振りがないのは、生来の性格故であろうか。
 コラボ元であるPikaPikaPopの服についてや「凸レーション」という名前の由来などについてのトークをそつなくこなしていく3人。メンバーの身長差や年齢差が文字通り凸凹しているから、というユニット名の由来やメンバー間の立ち位置をイベントのトークという形で説明調にせず視聴者に明示している巧い構成となっている。

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 これを見ると逆に前話のキャンディアイランドは、何故ユニット名の由来について劇中で一切触れなかったのか少々疑問が湧いてくるが、これはメンバー間の関係性と同様に言葉ではなく劇中の描写すべてを使って指し示そうという演出意図だったのだと思われる。
 とすると今話の凸レーションはここで言葉で説明を一旦終えてしまったわけであるから、この時点で今話は「ユニット」というものについて前話とは異なるスタンス、アプローチが行われるであろうことを示唆している、とも取れるだろう。
 イベントは順調に進められたが、莉嘉がプロデューサーの方に視線を向け、プロデューサーが慌てて視線を戻すよう身振りで支持する一幕もあり、まだ完璧とまではいかないようだ。トーク自体も観客を喜ばせるには十分な内容であったが、敷地外の道を行く通りすがりの人を惹きつけるまでには至っていない様子。
 そのイベントもとりあえずは無事に終了した。この会場でのイベントはまだ一回目で、別の会場でのイベントは控えているものの、ひとまずはとステージ裏のテントに戻ってきた3人に労いの言葉をかけるプロデューサー。
 と、そこへ3人のトークに少々厳しめの評価を下しつつ、サングラスをかけた少女が入り込んできた。先程のステージも観客の中に紛れて見ていたその少女をプロデューサーは慌てて外へ連れ出そうとするが、そんな彼を遮るように莉嘉が駆け寄る。
 莉嘉だけはすぐに気付いた彼女の正体は変装していた姉の美嘉だったのだ。時間が出来たので少し寄ってみただけという美嘉だったが、3話や6話、及び6話のNO MAKEなど随所で面倒見の良さを発揮していた彼女のこと、今回も妹とその仲間たちの仕事が気になって駆けつけてくれたのであろう。

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 美嘉はアイドルの先輩としてステージ上での3人のトークに、それぞれアドバイスを送る。一時期は中の人の影響によってか、原作ゲームでは小さい女の子に対して過剰とも言える愛情を露呈してしまうこともあった美嘉であるが、現在は原作の方でもそのような描写は控えめになっており、今話のこのシーンについても年少者のみりあに対しては良きお姉さんとして優しくアドバイスを送っている。
 年下のみりあだけでなく同い年のきらりにアドバイスをしているのは、もちろん話の流れ的には当然なのであるが、単に先輩としてだけではなく、先に触れた6話のNO MAKEでのきらりとのやり取りにおいても発揮された、血の繋がりに関係ない彼女の持つ「お姉ちゃん」としての個性を強調する、という側面もあったのだと思われる。
 莉嘉へのアドバイスだけ少々明け透けなのも、付き合いの長い実の姉妹ならではの会話を他の2人との対比という形で強調しており、このシーンは総じて美嘉の「姉」の部分をかなり前面に押し出したものとなっている。
 さらに言えば特にきらりとのやり取りについては6話NO MAKEを想起させること、それ自体が後々の展開に向けた伏線と取れなくもない。
 続けて美嘉から意見を求められたプロデューサーは、もっと客を巻き込みたい、見に来てくれた観客だけでなく通りがかった通行人にも足を止めてもらえるような何かがあればと話す。
 今回のイベントは閉じた会場ではなく言わばオープンスペースのようなものなので、興味を持たずに歩き去っていく通行人の姿も嫌でも目に入ってくるのは道理である。実際にイベントの最中にそのような光景を目の当たりにしていたからこそのプロデューサーの意見に、同じ気持ちを抱いていた莉嘉も賛成する。
 しかしすぐに妙案が出てくるはずもなく、その件はひとまず置いてまずは次の会場への移動の準備をするよう3人を促す美嘉。
 莉嘉たちに準備をさせる一方、テントの外で美嘉は次のステージをどうするのか、プランについてプロデューサーに質問する。3人には軽めの態度をとりながらも、彼女らに聞こえない場所で「仕事」についての話題を持ちかける辺りに、美嘉の先輩アイドルとしての後輩に対する気遣いが見て取れる。
 プロデューサーは特に指示はせず次も3人の思うように進めてもらうという。その回答に疑念を抱く美嘉だが、それは自由に行動させることこそが凸レーションというユニットの魅力を引き出す一番の要因であり、そこに賭けてみたいというプロデューサーの確たる判断があっての発言だった。
 凸レーションの結成に至るまでの流れや各メンバーをそこまで強く信頼するに至った経緯は劇中で明確に描写されてはいないものの、元より7話の展開を経てプロデューサーと彼女たちとが強い信頼で結ばれたことは自明であるし、メンバー3人の人となりは2話以降の劇中描写で見ている側にわかる形で明示されており、つまりは劇中で最も彼女たちの近くにいたであろうプロデューサーもまた彼女らの個性を十分理解する機会があったわけだから、彼の判断理由が薄弱ということにはならないだろう。
 さらに自分の考えを述べる時のプロデューサーの柔和な表情が、その判断を補完する形になっている点は見逃せない。3話や5話でステージデビューやユニットデビューを決めた時の彼の表情がどうであったかを思い返すと、彼の表情の変化それ自体がきらりたち3人とそれぞれ濃密な時間を過ごし、信頼をおける関係になったことの証左として機能しているのである。
 そんなプロデューサーの言葉に美嘉が半信半疑な態度を示したのは、凸レーションの3人ほどには彼を信用していないということであろうか。シンデレラプロジェクトに所属していない美嘉からすれば、7話での事件が終息したこと自体は認知していても、事件がこじれ妹たちを始めプロジェクトメンバーを混乱させる要因となったプロデューサーに対して信を置けないのは止むを得ないところかもしれない。
 この態度ややり取りから7話で明かされたプロデューサーの過去を絡ませて「美嘉とプロデューサーは過去に何かあったのでは」と推測されることがネット上では何度となく見られるが、今話の時点ではそれとはっきり示す情報は皆無であるから、あくまでファンの二次創作的独自解釈に留めておくべきであろう。

 自動車で次の会場へ移動する3人だったが、車中でも「お客を巻き込む」その手段をどうすれば良いか妙案が浮かばず、まだ思案に暮れていた。
 「『お話聞いて下さい』と言ってみたら」とみりあが子供らしい素直な意見を言う一方で、莉嘉は「セクシーに言ったらいいかも」と相変わらず背伸びがちな提案をしてきたので、さすがにプロデューサーもやんわり却下する。
 ちなみに蛇足であるが、この却下されてむくれた時の莉嘉の目のあたりが、先程プロデューサーと会話して彼に疑念の眼差しを向けた時の美嘉の目が非常によく似ており、意としてのものかはわからないが、こんなところでも姉妹らしさが強調されていることが微笑ましい。
 考えあぐねた莉嘉はプロデューサーに救いの手を求めるが、当然彼にもすぐには良い案は出てこない。
 その時きらりが唐突にみんなでクレープを食べに行こうと提案してきた。甘いお菓子を食べればテンションも上がっていいアイデアが浮かぶかもというきらりの言葉は、思案に行き詰まり元気がなくなってしまった他の2人に向けた、いつも「みんなで一緒にはぴはぴする」ことを望んでいる彼女らしい心遣いでもあった。

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 きらりの提案に莉嘉もみりあもすぐ笑顔を作って賛同し、お伺いを立てられたプロデューサーも時間的には余裕があるからと了承。プロデューサーを含めた4人は車を降り、一路クレープ屋へと向かうことに。
 4人が降り立ったのはちょうど原宿の駅前だった。駅からすぐの商店街の賑やかさにみりあたち3人のテンションもすぐに上がってきた様子。
 莉嘉に頼まれ莉嘉のスマホで写真を撮ったプロデューサーは、商店街を歩く3人の様子を撮影し、シンデレラプロジェクトのホームページに掲載することを思いつき、3人はきらりを先頭に商店街の中へと入っていく。

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 挿入歌「Orange Sapphire」をBGMに、クレープ屋へ向かいつつ商店街を散策して楽しむ3人と、それを撮影する1人の様子が軽快に描写される。「Orange Sapphire」はパッション属性アイドルのイメージソングでもあるので、原作ゲームでは同じパッション属性であるきらり、莉嘉、みりあの3人の道中にはふさわしい選曲と言えるだろう。
 そんな中でみりあと話をする時にしゃがんでみりあの目線に合わせるきらりや、店頭に飾られたマネキンに合わせてセクシーポーズを取ってみたり「自分は池袋派」と説明する莉嘉と言った、各人の細やかな仕草や言動がしっかり描写されているのはさすがである。
(埼玉出身の莉嘉が電車で行ける一番近い東京の「若者が集まる」繁華街としては、埼京線もしくは東武東上線ですぐに行ける池袋と言うことになるのだろう。ちょっと足を延ばせば新宿や渋谷にも行けるのだが、そうしていないあたりがついこの間まで小学生だった莉嘉らしい。)
 いかにも蘭子が好みそうなゴスロリ風の服が売っている店を見つけて、3人とも蘭子を思い出すところは、ユニットの隔てなくプロジェクトメンバーの仲が良いことを強調しているとも取れるひとコマだ。
 そしてこのシークエンスでは本作で半ば恒例となった「新規にCVが設定されたデレマスアイドル」が登場している。
 クレープ屋の前を通りがかる形で登場したのは空手少女の中野有香、清楚なお嬢様然とした振る舞いの水本ゆかり、そしてとにかくドーナツが大好きな椎名法子の3人だ。もちろん3人とも今話にて新規に担当声優が割り当てられ、放送終了直後に原作ゲームの方にも反映されている。

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 この3人は同じキュート属性アイドルであり、原作ゲームでは他に「今井加奈」「間中美里」の2人を入れた5人で「イエローリリー」というユニットを組んでいるのだが、最近はゲームの方でも3人だけセットで登場する場合がままあり、さらに有香とゆかりは2人だけで「ストレートフルート」というユニットを組む場合もあるので、多少ややこしくなってしまっている。
 今話では3人とも私服姿での登場であるため、アイドルとして活動しているかどうかは今話を見るだけでは不明なのだが、後の11話放映時に更新された原作ゲーム内コンテンツ「マジックアワー」では346プロ所属のアイドルとしてしっかり登場している。いつか本作内でアイドルとしての3人の姿も見られるのだろうか。これについても今後の展開に期待したい。
 さてクレープ屋に到着したきらりたちの方はたくさんの種類のクレープに目を輝かせるが、プロデューサーの方は3人にクレープを奢るのを「接待交際費」と言い回したために、みりあや莉嘉から「デート」と騒がれてしまったり、購入したクレープの最初の一口をどうぞと勧められたりと、3人のパワーに少々押され気味の様子だ。
 それでも仕事の一環と3人のスナップ撮影に余念のないプロデューサーだったが、年頃の女の子3人をひたすら撮影し続ける厳めしい大男、という光景は傍から見るとどうしても怪しく見えてしまうもので、彼もさすがにそういった目を気にしたらしく3人から少し離れてしまう。
 1話や7話でも不審者に間違われてしまった経験から、彼なりに気を遣った行動だったのだろうが、その様子が莉嘉の言ったとおり逆にもっと怪しくなってしまっているのは悲しい皮肉であった。
 その厳しい現実は早速、またも不審者として警官に呼び止められるという事態を招いてしまう。
 ちなみにこの時きらりたち3人が物色していたアクセサリーの中には、アニマス14話にも登場したスピンオフ作品「ぷちます!」のぷちどるや765アイドル・水瀬伊織が常に持ち歩いているうさぎのぬいぐるみ(シャルル)、我那覇響のペットであるハムスターのハム蔵に劇場版「輝きの向こう側へ!」での矢吹可奈の思い出の品となったパンダのぬいぐるみと言ったキャラクターのキーホルダーも含まれている。

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 これよりちょっと後のシーンでは劇場版のエピローグで結成が示唆された響に双海真美、高槻やよいの3人編成の新ユニットの宣伝広告が貼られており、この辺はストーリー上決して重要なファクターではないが、長年のファンに向けられた制作陣からの嬉しいお遊びと言うところだろうか。
 それはさておきプロデューサーが警官に連れて行かれたのを知らない3人は、タイミング悪くスナップ撮影を求めてきたカメラマンから「デビュー済のアイドルだから」と走って逃げたこともあり、結果として完全にプロデューサーと離れ離れになってしまう。
 プロデューサーの方は交番で聴取を受ける羽目になっていたが、これまたタイミング悪く名刺を切らしてしまっていたために身分を証明できるものがなく、ようやくプロデューサーがいないことに気づいた莉嘉からの電話にも出させてもらえない。
 現実に不審者の聴取をしている場合、不用意に自分の携帯電話を持たせるとその途端に携帯そのものやSDカードなどを破壊し、保存されたデータを確認できないようにする場合があるため、聴取中は電話に触らせないという話があるが、それを考えると妙にリアルな流れではある。
 莉嘉に続いてきらりが事務所に電話をかけてみるが、こちらもこちらで間の悪いことに事務所の方にはプロデューサーの身分を確認するためか警察の方から電話がかかってきており、ちょうど美波が応対している最中だったのできらりからの電話は繋がらなかった。
 事務所の方は事態を知った卯月こそ動揺してテンパってしまうものの、他にいたのが美波や凛といった落ち着いた性格の面々だったためさほど混乱せずに済んだが、現地のきらりたちはそう落ち着いてもいられない。
 事務所とも連絡が取れない中、莉嘉は今度は美嘉に連絡を取る。当然と言えば当然の行動かもしれないが、すぐに連絡が取れて且つプロデューサー以外に頼れる人物として真っ先に姉が思い浮かぶところは、仲の良いこの姉妹らしい行動とも言える。
 ちょうど仕事が終わったばかりだった美嘉は妹からの連絡を受け、同僚のアイドルを楽屋に残して現場に急行する。
 楽屋にいた「同僚のアイドル」と言うのは、1話のポスターなどでビジュアルだけは既出だった大槻唯、そして今話で本作初登場となる藤本里奈の2人だった。この2人も先の由香たち3人と同様、今話で新規にCVが設定されたアイドルだ。

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 美嘉と同じく見た目はいかにもなギャルと言った感じの2人は、原作では美嘉を含めて「セクシーギャルズ」というユニットを組むこともあり、美嘉とセットという形での今話の登場はその縁からであろうか。軽そうな見た目に反して仕事に対してはきちんと向き合って取り組んでいるというのも美嘉と同様である。

 プロデューサーとも事務所とも連絡がつかず、さすがに困り果てる凸レーションの面々。そんな中みりあは自分たちがあの時走り出したからプロデューサーとはぐれてしまったと、落ち込んだ様子で謝罪の言葉を口にし、その様子に莉嘉も視線を落としてしまう。
 実際にはその前にプロデューサーは警官に捕まっていたのだからみりあたちのせいというわけではないのだが、プロデューサーの方の事情を未だ把握できていないのだから、責任を自分に負わせてしまうのも仕方のないところであろう。2人ともまだまだ子供の年齢だが、子供なりに事態の深刻さを感じ取っているからこそ意気消沈してしまったのだと言える。
 そんな2人を明るくハグするきらり。きらりは来た道を戻ってプロデューサーを探そうといつもの調子で2人に提案してきた。「この辺みんなきらりのお庭」と冗談めかして話すきらりの朗らかな笑顔に2人も少し元気を取り戻したようで、微笑みながらきらりに頷く。

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 きらりの気遣いがここでも発揮された形であり、余計な事を考えずにまず動いて事態を打開しようという提案自体も的を射たものであるが、ここはAパートでも見られた同様の描写をただ重ねて見せただけではないという点に、注意を向けておく必要があるだろう。
 ここで重要なのはみりあや莉嘉が意気消沈していた時に見せたきらりの表情である。自責の念に駆られるみりあを見つめるきらりの表情は、今までの挿話の中で見せたことがないくらいに悲しげなものだった。
 無論みりあのそんな様子を目の当たりにすれば誰でもそんな表情を作ってしまうに違いないというのも確かだが、常に笑顔で例外的に5話や7話で不安げな表情を見せるくらいであったきらりが、それらの時以上に悲しげな表情になった。それを視聴者側に見せること、そしてその様子はきらりに背中を向ける位置関係になっていたみりあと莉嘉にはまだ認識されていないこと、これら2つの事実を見せることがシーンの役割だったとも言えるのである。その役割がいかなるものかについては今後の展開の中で触れられよう。
 一方のプロデューサーは身元引受のためなのか、ちひろさんに交番に来てもらうことでようやく解放されていた。逆光気味に映し出される彼女のご尊顔は変に凄みを帯びており、屈託のないにこやかな笑顔もそんな印象に拍車をかけているが、実際にこれをみて怯えた一部ファンもいたとかいないとかいう話を聞くし、ある程度「狙った」演出なのだろう。

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 やっと手元に戻ってきた自分の携帯電話に、莉嘉やきらりからの着信履歴が大量に残っているのを確認したプロデューサーは慌てて電話をかけるが、こちらもこちらで繋がらない。またタイミング悪くきらりはようやく電話の繋がった事務所と、莉嘉は美嘉と連絡を取っていたために繋がらなかったのだ。
 到着した駅で莉嘉に電話をかけていた美嘉は、とりあえず3人に駅まで来るようにと莉嘉に伝えるが、ちょうど莉嘉は隣で事務所の美波と話をしているきらりから、プロデューサーが警察にいるという話を聞かされたようで、警察に行くとだけ伝えて電話を切ってしまった。仔細が未だわからないものの、とりあえず美嘉も警察へと向かう。
 きらりたちと連絡のつかないプロデューサーは、遠くへ入っていないと判断し街中を歩き回って探そうとする。彼本来のまっすぐな性格が顕著な行動と言えるが、それを制したのはちひろさんだった。
 連絡が取れた時に全く別の場所にいた場合を考えると、今はむやみに動かない方がいい、彼女たちも子供ではないのだからと極めて真っ当な忠言を述べるちひろさんに、プロデューサーも押し黙るしかなかった。
 このプロデューサーとちひろさんのやり取りに、もしかしたらアニマス12話のプロデューサーと小鳥さんのやり取りを想起した人もいるかもしれない。どちらも焦燥感に駆られ先走ってしまいそうになったプロデューサーが、身近な大人の女性に諭されるという点で共通している。アニマス同様にアイドル同士だけでなく、アイドルを支える側のプロデューサーとサポートスタッフもまた助け合っているという横の繋がりが垣間見えた瞬間とも言えるだろう。
 アニマスでは小鳥さんのアドバイスにプロデューサーが己の至らなさを痛感していたが、その意味では本作のプロデューサーもまだまだ未熟な点、逆を言えばまだこれから成長していける余地があるというところであろうか。
 しかしすれ違いは未だ収束を見せない。莉嘉たちが向かった交番には当然だが既にプロデューサーはおらず、美嘉の方は「警察」とだけ聞かされていたため、勘違いして交番ではなく近くの警察署に向かってしまい、結局莉嘉たちとは合流できずじまいとなってしまう。
 美嘉が警察署に行ってしまったことを知らずまだ駅にいると思い込んでいる3人は、美嘉との合流も兼ねて駅へ向かうが、またまた間が悪くちょうどプロデューサーは事務所と連絡を取っていたため、彼との連絡はつかないままだ。
 プロデューサーの方は美波からきらりたちの話を聞き、自分は彼女らが行ったと思われる交番へ向かう一方、プロデューサーは事務所に残っているメンバーの中でこちらに来れる人はいないか質問する。
 美嘉がようやく件の交番に到着していたが、既に莉嘉たち3人は駅に向かっていたため当然だが合流できない。ちょうど駅に着いた莉嘉に電話をかけた美嘉は場所を動いてしまった莉嘉に思わず怒ってしまう。
 莉嘉たちを心配しているからこその反応だとはわかるものの、待ち合わせの約束や場所の確認をしっかり行っていなかったのは美嘉も同様なので、ここで莉嘉個人を責めるのは酷と言うものであろう。
 と、今度はみりあが雑踏の中にプロデューサーによく似た後ろ姿の人物を認めたため、本人と思い込んで走り出してしまう。後の2人も慌てて追いかけようとするが、その際人にぶつかった莉嘉は携帯を落として破損、美嘉との電話が切れてしまう。突然の事態にしばし呆然とする美嘉。
 さてここまで一連のすれ違いについて比較的淡々と文章にして記述してきたが、段階的に高まっていく各人の緊迫感が文章から感じ取れないのは筆者の文章力の問題として、それとは別にこの騒動について一つ考察を試みる必要があるだろう。即ち「何故このようなすれ違いが起きたか」である。
 本放送の時点からよく言われているのは、「何故メールやSNSで連絡を取らなかったのか」「何故GPSを活用しなかったのか」という疑問である。昭和の頃のようにリアルタイムで連絡を取る手段が固定電話や公衆電話しかなかった時代に比して、現代は電話以外にも即応性のある連絡手段は複数存在し、対象の位置情報さえも道具があればすぐに知ることが出来る時代である。だが今話の中でそれを活用しているシーンはない。であれば上記のような疑問を視聴者が抱くのは無理もないと言える。
 その意味では前述の「何故起きたか」という疑問は、より正確を期すなら「連絡を取る手段が複数ある中で「すれ違い」というシチュエーションを劇中でうまく描出出来たのか」と言い換えることが出来るだろう。
 まず7話でのプロデューサーは未央とSNSでやり取りをしているところから、他のプロジェクトメンバーとも連絡手段として平素はSNSを活用していると思われる。無論メールも今のご時世使っていないと考える方が無理がある。GPS等位置情報取得の手段については本作中でそれを行使した描写が今までに存在しないため、考察対象としては若干優先度を下げておく。
 これらを前提とした上で今話のすれ違いに考えてみると、全体としてそういった手段を「使えなかった」のではなく、自ら「使わなかった」、もっと言うなら「使わなくてもいい」と思い込んでしまうような状況に、それぞれが段階的に陥っていった事実が見えてくる。
 まず最初に凸レーションの3人とプロデューサーがはぐれてしまった時、すぐにプロデューサーと連絡を取れなかったのは、プロデューサーが警官に自分の携帯を確保されてしまっており出ることが出来なかったという明確な理由がある。さすがにこれでは電話はおろかメールやSNSも役に立つものではない。
 続けて電話した事務所の方も、ちょうど警察やちひろさんとのやり取りで電話を使っていたため繋がらない。美嘉には莉嘉が連絡を取ったとは言え、この段階で3人以外の当事者とまったく連絡が取れない自体が成立する。さらに「すぐ近くではぐれた」という認識ときらりのみりあや莉嘉への気遣いもあり、3人はとにかくも動いてプロデューサーを探すことにしたため、ツールを使っての連絡や確認を二の次としてしまったのだ。
 さらにもう一つ重要な点は、それぞれの探す相手の居場所が中途半端に伝わってしまったということである。劇中で明確に各人のいる場所として名前が挙がったのは「警察」と「駅」であるが、あくまで場所を提示しただけで後は各々それなりの根拠あってのものではあるものの、結果的に見ると「勝手に」動き回ってしまったため、すれ違いは続くこととなってしまった。
 電話という限りなくリアルタイムで情報伝達が行えるツールを使っているからこそ、却って伝達するべき情報が漏れてしまうという、便利なツール故の落とし穴に完全にはまってしまったと言えるのである。
 最終的に凸レーションの3人、プロデューサー、そして美嘉も「動いて探しまわる」ことを行動上の第一義としてしまったこと、そして情報伝達の不備、この2つがそれぞれのすれ違いを拡散させてしまった原因であろう。
 このように考えてみると一連のシークエンスは、実はかなり計算というか練られた上で用意されたシチュエーションであるとわかるのだが、それでも難点はなくはない。
 考察する上で対象としての優先度を下げたGPSの件もそうだが、何より大きいのはこの各人の思考と行動の流れが一度見ただけでは分かりにくいことだ。
 元より本作には一度見ただけでは把握しきれないような細かい描写やネタが数多く用意されてはいるが、今回のように結構な人数のキャラクターが、短い時間の中で入り乱れつつすれ違うというシチュエーションを一気に見せるのは、結構強引な手段と言わざるを得ない。人があまりおらず且つ広い場所で起きたのならともかく、今回はかなり狭い範囲を舞台としているだけに、余計に次々とキャラ視点を変更して見せなければならず、それもまた分かりにくさを増幅させてしまっている。
 二度、三度と見返せばきちんと理解できるものではあるから、この状況の描き方をおかしい、間違っているなどというつもりは毛頭ない。完全ともまた言えないが、情報伝達の手段が発達した現代において描写しにくいであろうシチュエーションを、露骨なギャグ展開等に頼らず描ききったという事実は認めてしかるべきところであろう。

 その頃凸レーションが向かう予定である次の会場にはちひろさん、そして凛に美波、蘭子が姿を見せていた。凸レーションの3人の捜索をプロデューサーに任せたちひろさんは、万一彼女らが時間に間に合わなかった場合、凛たちにステージを繋いでもらうことを伝える。先程事務所への美波との電話の中でプロデューサーが話そうとしていたのは、この依頼だったのだ。

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 ちひろさんの依頼を了承する凛たちではあったものの、その場合は用意されている派手な衣装を自分たちも着用すると聞かされ、蘭子が嬉しそうにする一方で凛と美波は露骨に渋い表情を作る。どう見ても普段の凛や美波が着ないであろうポップな衣装だけに、ためらいを覚えるのは当然か。卯月と同様に留守番していれば良かったと独りごちるのも無理からぬ話だろう。
 ゴスロリ以外の服を着るのを喜んでいる蘭子が少し意外に思えるが、単純に可愛らしさに惹かれたのか、ある意味ゴスロリに相通じる非現実的な衣装に惹かれたのか、この場合はどちらだったのであろうか。
 みりあが追いかけていた男性はやはりプロデューサーはなく人違いだった。Aパートに続いて後先構わず走り出したために余計混乱する結果となってしまったわけだが、Bパート冒頭で自責の言葉を漏らしたあたりからずっと彼女なりに責任を感じていた故の行動と考えると、とても批判できるものではない。落ち込むみりあをきらりが優しく慰めるのは最良の対応だったと言える。
 次のイベント開始時間が迫っていることに気づいたきらりは、とりあえず自分たちだけでも会場へ向かおうと提案する。まだ合流できていないプロデューサーを案じる2人を、イベントはきちんと行わないとダメといつものようにきらりが優しく諭すが、2人の表情は晴れないままだ。
 その頃美波との会話から交番に戻ってきていたプロデューサーは、ちょうど同じ交番を訪れていた美嘉を目に留める。
 同じくプロデューサーに気づいた美嘉はつかつかと歩み寄り、強い口調でプロデューサーを非難する。美嘉にしてみれば突然莉嘉との通話が途切れ、以降連絡もつかなくなってしまったのであろうから、焦りと苛立ちとで膨れ上がった激情をプロデューサーにぶつけてしまうのは無理もない。

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 そんな美嘉をプロデューサーは努めて冷静に制し、美嘉を落ち着かせようとする。「目を見て話して下さい」と美嘉を諭すプロデューサーの姿勢は至極真っ当なものであるが、同時にアイドルたちとまっすぐ向き合うようになった、7話を経ての彼の成長も窺える。
 凸レーションの3人はきらりの言うとおりに次の会場へ向かっていたが、莉嘉やみりあの足取りはやはり重い。プロデューサーだけでなく美嘉とも合流できず、美嘉との連絡も中途半端に終わったままなのだから、2人が気まずい思いを抱くのは当然と言えるが、そんな2人をきらりはいつものように明るく元気づける。
 きらりに励まされて2人も一緒に会場へと走って向かおうとするが、その時不意に顔を歪める莉嘉。長時間の歩行には不向きな靴で歩き回っていたためか、莉嘉の足が靴ずれを起こしてしまっていた。
 実は交番に行ったあたりから莉嘉は足の痛みを気にしていたのだが、ずっと我慢していたのである。「おしゃれは我慢」とごまかすように笑顔を作る莉嘉だったが、そんな莉嘉の状態の変化に気付かず我慢をさせ続けてしまったことに、強くショックを受けるきらり。
 プロデューサーを探すために歩き回らなければ、そもそもクレープを食べようと自分が言い出さなければプロデューサーとはぐれることはなかったし、莉嘉やみりあに大変な思いをさせることもなかったとしゃがみこんで2人に謝るきらりの姿は、いつもの彼女からは想像もできないくらい弱々しいものだった。

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 きらりは普段の言動や立ち居振る舞いから誤解されがちだが、単に明るく騒ぐだけの能天気な性格では決してない。もちろんそのような明るさが嘘偽りない彼女の本質であるのは事実だが、常に周囲に気を配り、時には他者のネガティブな感情さえも敏感に受け止め、その上でなお明るく振る舞い周りの人を元気にさせようと、半ば意識的に行っている面があると言うのも、今話Bパート冒頭で落ち込むみりあを見つめる彼女の悲しそうな表情を例に挙げるまでもなく、これまでの挿話を見てきた人であれば容易に理解できることと思う。
 彼女はなぜそうするのか、それはひとえに「みんなではぴはぴしたい」からに他ならない。みんなと一緒に喜びや楽しさを感じ共有しあうことを何よりも望んでいるからこそ、きらりはいつも明るく振る舞っているのである。ただ騒ぐのではなく、周囲の人たちの様子を気にかけながら。ここはただ無頓着に騒ぐ凡百のキャラクターとは一線を画すきらりの特徴でもある。
 そしてそれ故に、6話のNoMakeで既にその片鱗は見せていたが、彼女は自分が原因となって誰かが迷惑を被ったり悲しんだりすることを強く恐れている。自分が迷惑をかけた張本人となれば、周りの人たちが「はぴはぴ」出来ない原因は即ち自分自身となってしまう。それはみんなで幸せを感じあうことを最良としているきらりにとって、何よりも辛いことだったのだ。
 常に他者を気遣う優しい性格の持ち主だからこそ、その「気遣う」という行為が通用しない事態になった時、彼女は身動きが取れなくなってしまう。優しさの裏返しとも言える繊細さをも内在している、それがきらりという少女なのである。
 莉嘉もみりあも恐らくは初めて見たであろう、きらりの弱々しい姿。だがそんな様子に取りみだすことなく、みりあはきらりの頭をそっとなでる。ちょうど落ち込む子供を大人が慰めるかのように。
 みりあに合わせて莉嘉も大丈夫と笑顔で返し、走って会場まで行こうときらりに明るく声をかけるが、莉嘉が無理をしていると思ったのだろうか、きらりの表情はまだ晴れない。
 その時みりあが何事かを思いついたらしく、莉嘉にその内容を耳打ちする。最初こそ露骨に困ったような顔をする莉嘉だったが、みりあに懇願されてしぶしぶ承諾し、きらりにある頼みごとをする。
 それは足を痛めている自分を抱っこしてほしい、というものだった。ダッシュで会場に行くことはできないけれど、今ここから「ステージ」を始めれば遅刻じゃないと、2人は上着を脱いでステージ衣装姿となり、3人で一緒にアピールしようと、しゃがみこんだままのきらりに手を差し伸べる。
 最年少のみりあらしい良くも悪くも大胆な思いつきであるが、ここで大事なのは提案したその内容ではなく、みりあや莉嘉の側からきらりに「提案した」という行為そのものにある。
 「みんなで一緒にはぴはぴする」ために時としてきらりが行ってきた周囲への気遣いを、そのまま同じ理由の下に莉嘉とみりあがきらりに向ける。言葉で表すと実に簡単なものだが、実際に行動に移すとなるとそう簡単にいくものではない。みりあは12歳で莉嘉は13歳。同じ十代とは言え17歳のきらりとは、特に精神面においては文字通り子供と大人ほどの違いがあるのだから。
 他者のネガティブな感情を受け止めてなお自分の持つ生来の明るさを発揮し、周囲をそれに巻き込んで空気を変えていくなど、12、3歳の子供には容易にできることではない。本来的には子供は幼さ故にむしろ気を遣われる側なのだから出来なくとも当然の話ではあるし、実際にみりあがきらりを気遣って提案したアイデアは稚拙と言われても仕方のない面を内包している。
 しかしみりあは彼女なりに考えた上できらりを思いやり、莉嘉もそれに同調した。ただきらりを励ましただけではない、きらりと同じように「みんなではぴはぴする」ためのやり方・手段を、各々のきらりに向けた気遣いからの発露という形で提示した。
 即ちきらりが常日頃求めてきたものと同じものをみりあと莉嘉が望んだ上で、普段のきらりと同様の気遣いを周囲(この場合はきらり)に見せた。ここが一番重要なのである。
 当たり前だがユニットのメンバー間で価値観を共有するのは一番大切なことであると同時に、ユニットとしてのある種理想の形と言える。個人の価値観を他者に強要するのではなく、全員が同一の価値観を是としてそれを実現するために行動する。それが「互いを支えあう」行為に繋がり、凸レーションの3人は年齢の差を越えてこれを実践してみせたのだ。
 アイドルマスターという作品に慣れ親しみすぎると忘れがちになってしまうが、アニメ版アイドルマスターにおける765プロは全員出会って既に一定の期間(世界観のベースになっているアイマス2の設定からいくと半年ほど)が経過しており、それ故に互いを支えあうという良質な人間関係は本編開始の時点である程度完成していた。
 しかしシンデレラプロジェクトの面々は出会ってまだ日も浅く、さらに凸レーションの場合はまだユニットを組んだばかり。みんなの仲が良いというのは765プロと変わりないが、アイドルという仕事をこなす上での関係性においてはまだ未成熟だった。その未熟な関係性が一定の完成形を成すまでの通過儀礼としての役割を、この3人の一連のやり取りが担っていたのである。
 ただ仲良く一緒にいるだけではない、共に支えあいながら前に向かって歩んでいける関係性へと、3人は言わば「ランクアップ」を果たしたわけだ。差し出された2人の手を、いつもの笑顔に戻ったきらりが掴む画は、その象徴と言えるだろう。

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 プロデューサーと邂逅を果たしていた美嘉は、彼の説得に平静さを取り戻して今現在の状況を伝えていた。美嘉には定刻に合わせて次のイベント会場へ向かってもらい、自分は3人の行きそうな場所をもう一度探すと伝えるプロデューサー。
 イベントの開始時間が迫っていることがわかれば、3人は仕事を優先して会場に向かってくれるはずだと言う彼の言葉からは、3人に対する彼の信頼の強さが窺えるが、それ以上にこの場面では妹を心配するあまり私人の立場に戻ってしまっていた美嘉を配置することで、あくまで公人としての立場を貫いているプロデューサーの性格を浮き彫りにしているという面がある。
 そんな時、周囲の人々の喧騒が2人の耳に飛び込んでくる。人々の注目を集める何かが行われているらしいという周りの話に、2人も向かってみることに。
 辿り着いたその先にいたのは、自分たちの歌を歌いながら会場への道を練り歩くみりあにきらり、そしてきらりに肩車された莉嘉の姿だった。3人はみりあが「ここからステージ始める」と言ったとおり、道行く中でパフォーマンスを披露して周りの人たちを惹きつけていたのである。その様子に驚きながらも感嘆するプロデューサー。

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 このパフォーマンス、次のイベントに向けた「興味のないお客を巻き込む」という命題に一つの回答を示したのみならず、図らずも5話で莉嘉がデビューしたらやりたいこととして挙げていた「ゲリラライブ」が実現した形となっているのが面白い(ライブとは呼べないほどの小規模なものではあるが)。
 見ようによってはきらりの「みんなではぴはぴしたい」という願いと、4話のPR動画撮影時に述べられたみりあの「いろんなことをやりたい」という望みも実現していると考えられるわけで、3人の夢や目標が1つに重なり合ったこのシチュエーションは、凸レーションというユニットとして3人が一つの完成形に到達した証左とも言える。
 そんな3人に多くの人が惹きつけられたのも、3人がプロデューサーや美嘉をようやく見つけられたのも、成長を遂げた3人に向けられた物語世界からのご褒美であったのかもしれない。
 会場に向かった3人を待っていたのは、万一3人が間に合わなかった場合に備えてPikaPikaPopの衣装を着用していた凛、美波、蘭子の面々だった。喜んでいた蘭子はともかくかなり戸惑っていた凛や美波からすれば、3人が本番開始前に間に合って安堵するのも止むなしと言うところだろう。

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 準備が進む中、美嘉は先程の非礼を、プロデューサーは自分が至らなかったことについて互いに謝罪する。プロデューサーの言葉に美嘉が少し微笑んだところへ、後でプロデューサーにいっぱい謝るからと伝えに来るきらりたち。結果的に問題は解決したとは言えお互いに落ち度があった、それを素直に認めて謝罪出来るのもユニットメンバー同士、引いてはアイドルとプロデューサーの結束の強さがあるからこそに相違ない。
 プロデューサーと美嘉の後押しを受け、3人は再びステージに上がる。前の会場の時よりも格段に増えた観客の歓声を沸き起こらせたのは、一つの困難を経てより繋がりを深めあった3人のアイドルが見せる満面の笑顔だった。

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 3人のステージを満足げに見つめるプロデューサーに、アンタも笑ってみたらと勧める美嘉。こちらの関係も今回の事件を通じて多少深まったのかと思わせるような美嘉の振りであるが、言われるままに「ニコッ」と笑ってみせた彼の笑顔は、蘭子に「禍々しい」と言われるほどのぎこちないものになってしまったため、傍らの凛やちひろさんも苦笑せざるを得なかった(尤もこれはいつもの蘭子の言葉遣いなので、実際の意味がどのようなものなのかは不明であるが)。

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 エピローグを兼ねるエンディング映像のバックにかかるのは、凸レーションのデビュー曲「Let's Go Happy!!」。メンバー3人のパーソナリティを前面に押し出した、ハイテンションな仕上がりのナンバーだ。個性的な3人がまとまって未来に向かって進んでいくという旨の歌詞が今話の内容とシンクロしているのは、無論偶然ではあるまい。
 イベントの盛況ぶりから凸レーション3人とプロデューサーの謝罪、そして最終的にその場にいた全員がニコッと笑顔で締めるという明るく心地良いクロージングにふさわしい楽曲と言えるだろう。

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 これまで登場したシンデレラプロジェクトのアイドルユニットは、ソロの蘭子を除いては皆それぞれ互いが互いを支えあうという、ユニットとしては理想的な人間関係を比較的早期に築いてきた(キャンディアイランドの場合は杏というイレギュラー要素があるにはあるが)。
 ではなぜ今話でユニットメンバー間の信頼が強くなる過程を改めて描いたのかと言えば、それは一重に今回登場したユニットが凸レーションだからに他ならない。もっと言えば先述したとおり、メンバー間の年齢差に開きがあるユニットだったからだ。
 最年少組2人と最年長に近い年齢のメンバー1人がトリオを組めば、見る側としては当然年長の方がリーダーシップを取り、問題が発生しても常に率先して他メンバーを引っ張っていくものと考えるだろうことは想像に難くない。人によってはさらに弱気な面など全く見せない剛毅なリーダー像を重ねる場合もあるかもしれないが、スタッフ側の意図として凸レーション3人の関係性を、それこそ冒頭に記した「子供のみりあや莉嘉の面倒を精神年齢高めのきらりが見る」という一方向的なものにまとめるつもりは全くなかった、と言うのは今話を視聴した人ならば容易に理解できるだろう。
 その意図を視聴者側に伝えるために、三者の関係性が等質なものであると、等質なものになっていく過程を含めて物語の中で明確に描く必要があったのだ。まだまだ幼い莉嘉とみりあの2人がきらりと価値観を共有し、落ち込むきらりをいつも彼女がしてくれているように気遣い共に進んでいこうとするようになる。そこを凸レーションというユニットのとりあえずの到達点と定めきちんと描くことで、3人が年齢の関係なく支えあう関係になれたという結果を強調しているのである。
 アイドルとしての素養はともかく、年齢という絶対的なハンデが存在していた凸レーションは、今回の物語を経験することで他のユニットと比較しても遜色のないアイドルユニットになれたと言える。それは紛れもなく彼女たちにとって新たな始まりの第一歩であった。
 と言うような固いテーマが主軸ではあるが、その画はプロジェクトメンバー内でも一際元気で派手な3人がメインなだけに、終始にぎやかで楽しいものに仕上がっていた。街中が舞台となっていることも、そんな雰囲気に拍車をかけている。
 メインの3人や美嘉については言うまでもないが、他のアイドルたちも随所で個性を見せており、特にラスト近くで凛と美波が早々にPikaPikaPopの衣装を脱いでいたにもかかわらず、気に行ったのか1人だけずっと着続けていた蘭子の可愛らしさは特筆に値するだろう。

 そしてシンデレラプロジェクトのメンバーも、未デビュー組はあと2人を残すのみとなった。良くも悪くも我が道を行くタイプである2人の少女たちのデビューはどのような顛末を迎えるのか、そもそもきちんとデビューできるのであろうか。



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