2015年02月01日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第3話「A ball resplendent, enjoyable, and...」感想

 「アイドルの仕事」と言って思い浮かぶものにはどのようなものがあるだろう。
 グラビア写真の撮影、CD発売やテレビ番組への出演、各種イベント参加など色々なものが考えられるが、多くの人が真っ先に思い浮かべる代表的なアイドルの仕事とは、大きくきらびやかな舞台に立って歌い踊る、ライブやコンサートの類になるのではなかろうか。
 輝くスポットライトを浴びながら華々しく歌とダンスを披露する。これはアイドルだからこそ行えることであり、その意味でライブとはアイドルをアイドルたらしめる最も重要な「アイドルの仕事」と言えるだろう。
 2話にてついにアイドルの肩書を得た卯月、凛、未央の3人であったがしかし、初日に行った内容はレッスンに宣材撮影という、アイドルとしての華やかさとは程遠いものだった。
 もちろん両方ともアイドル活動を行う上でなくてはならない大切なものであるし、単純に実力不足、経験不足なのは事実なのだから仕様がない。3人がさしたる不満を口にしないのも、それについてきちんと理解しているからに他ならない。
 しかしそんな彼女たちに美嘉のバックダンサーとしてライブに出演するという千載一遇の機会が訪れた。美嘉直々の推挙とは言えアイドル活動初日からの大抜擢に、手放しに喜ぶ者もいれば賛同しかねている者もいる。また別の感情を持つ者も…。
 彼女ら3人がメインでないとは言え、彼女たちが初めて迎えた本格的な「アイドルの仕事」。それは彼女たちにどのような経験と結果をもたらすことになるのであろうか。

 美嘉たち先輩アイドルが行う「Happy Princess Live!」にバックダンサーとは言え参加できることを卯月と未央が喜ぶのは2話の時と変わらないが、その2話での態度同様に凛は今一つ自分の心の整理がついていない様子だ。
 凛にしてみればこれは当然の態度であろう。以前からアイドルに憧れ、今回の件も素直に楽しいと思える卯月や未央と違い、凛にはアイドルというものに思い入れがあるわけではないし、人生の目標としてきたわけでもないのだから。直接心動かされて自ら決意した道ではあるものの、その道と自分がどう向き合っていけばよいのか、自分が具体的に何を望むのか、彼女にはまだそれがわかっていないのだろう。
 まして今回は突然の決定である。彼女にとっては自分の意思決定権の範疇を超えた場所で「勝手に」決まったことと言っても過言ではない。アイドルになると決めたのは自分、しかしそれ以降のことはすべて言われるがままに決まっていく。よくよく考えれば上にドがつくほどの新人なのだからそれは当たり前の話なのだが、その理屈で納得できるほど凛も大人ではなかったと言うことか。
 そんな複雑な胸中は未だ凛に「ステージに立つ」実感を与えず、やってみればわかると明るくハッパをかける未央にも同意させてはくれなかった。

 しかしこの事務所、シンデレラプロジェクトは卯月たち3人だけではない。残りの11人が冒頭に記した通り、当事者たる3人とは別の感情を抱くのは道理と言うものだろう。
 その内の1人であるみくが、3人への「ライバル心」をむき出しにして立ちはだかってきた。彼女にしてみればプロジェクトの最後の参加者、つまり既に活動していた自分たちより遅れてきた3人の方が先にステージデビューすると言うのだから、納得できないというのもまあ理解はできる。

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 自分とどっちが先にデビューするのがふさわしいか、勝負を持ちかけてくるみく。シチュエーションだけで考えると小物がギャーギャー吠えているだけで鬱陶しく思えるかもしれないが、実際はみくの「〜にゃ」言葉を始め、本人が元から持っている可愛らしさがそのようなマイナスイメージを絶妙に緩和してくれている。
 そしてこのような感覚は原作ゲームを遊んだことのある人なら以前にも一度は抱いた感覚ではないだろうか。ゲーム開始時のチュートリアルにて最初にプロデュースするアイドル(卯月・凛・未央のいずれか)を決めた後、最初に勝負を挑んでくるライバルアイドルとして設定されているのが、誰あろうこの前川みくなのだ。
 その対決でみくが負けるとみくはこちらのプロダクションに参加して担当アイドルとして育てることが可能になる。つまりゲームを遊んだことのある人ならば必ず知っているであろうアイドルが、絶対見ているはずのシチュエーションをほぼそのままアニメで再現してくれたわけだ。去年10月に徳島で行われたイベント「マチアソビ」内にて、みく役の高森奈津美さんが「アニメは原作ゲームの再現がものすごい」というようなことを言っていたが、それがここだったのかと思わされる一幕だった。
 で、みくと未央の対決と相成ったわけだが、その内容はジェンガで勝敗を決めるという極めてソフトなもの。しかしそのソフトな勝負にみくは負けてしまい、さらにこれはアイドルに関係あるのかとの卯月の一言が最後のダメ押しとなってその場に倒れ伏してしまう。
 シリアス展開かと思いきやコメディタッチに振り切った一連のシークエンスであるが、これもまた前述と同様にみくの人の好さ、可愛らしさといったものの表現の一つと解釈できるだろう。ライバル心はあっても彼女も同じプロジェクトの仲間なのだから、視聴者に悪印象を抱かせるような愚策を講じたりはしないということだ。
 そんなみくたちの様子を隣で智絵里と共に見ていたかな子は、こじれた場の雰囲気をとりなすように、3人へのお祝いにと自作のシュークリームを差し出す。基本穏やかな性格のかな子はライバル心を持つことなく、純粋に3人が抜擢されたことを喜んでくれていた。

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 その美味しさに卯月や未央だけでなく露骨に感情表現することの少ない凛さえも感嘆の声を上げる。2話でも披露されたお菓子作りの腕前がここでも遺憾なく発揮されたわけだが、甘いお菓子を食べることの弊害に思い至らせていたのは、この場では凛だけだった。
 程無くして凛の危惧は、一緒にシュークリームを食べようとしたかな子を注意してきたベテラントレーナーの言葉として皆にも知れ渡る。つまりは甘いお菓子を食べすぎると太ってしまうと言うことだ。
 かな子は元々ふくよかな体型で本人もそれを少し気にしている設定があるから(コンプレックスにしているわけではない)、一般論としてもその注意は妥当なのであるが、それ以上に彼女たちはアイドルなのだから、一般人よりも体型維持に気を使わなければならないというのは必定である。その意味ではかな子だけでなく卯月や未央にも同様の問題があった。2話でのはしゃぎぶりや今話の冒頭と同じく、彼女ら2人のアイドルになり切れていない部分が露わになったと言うところだが、この場面では注意を受ける立場としてかな子を配置することで、アイドルとしての自覚が足りない者が卯月たちだけではないことを明示している。この問題は彼女たち特有の欠点ではないのである。
 少し遅れて美嘉がレッスンルームに入ってくる。メインの美嘉とバックダンサーの3人は今日から一緒にレッスンを受けるわけだが、その状況ににわかにテンションを上げる未央。憧れていたアイドルと一緒にレッスンなど少し前には考えられなかったことなのだから舞い上がるのは当然と言えるが、同時にやはりプロのアイドルとしての意識は欠如していると言わざるを得ないのも確かだ。
 対する美嘉はゲームの方では3人と完全に対等な立場なので、本作のような卯月たちの先輩としての立場で描かれるのは初めてとなる。とは言っても見た目に反してアイドル活動はごくごく真面目に取り組んでいたり、未央と同様に誰に対してもフランクに会話をしたりする個性は、原典からさほど変わってはいない。未央から尊敬の念を込めて「美嘉ねぇ」と呼ばれた際に思わず照れてしまうような、まだ3人の知らない彼女の一面は今後の話で明らかになっていくのだろう(ちなみに原作ゲームでは単に莉嘉の姉だから「美嘉ねぇ」と呼ばれている設定だが、本作ではいわゆる「姐さん」の意味合いで呼ばれている)。
 まずは美嘉が一緒に3人を指導することになり、4人で美嘉の持ち歌「TOKIMEKIエスカレート」のレッスンを開始する。しかし一通り振付は覚えてきたとは言え、まともに踊ればその力の差は歴然で、呼吸一つ乱していない美嘉に対して3人は早くも息が上がってしまう。養成所での専門的なレッスン経験がある卯月だけ若干落ち着いた顔を見せているが、それでも3人の様子に大差はない。未央が思わず漏らした「きつい」という言葉がそれをはっきりと証明していた。

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 レッスンを見ていたプロデューサーとベテラントレーナーが何事か相談していた時、凛はわからない部分について美嘉に質問する。
 その場所を伝えるため、凛はごく自然に歌のワンフレーズを口ずさんだ。初めて聞く凛の歌声に、わかりづらいながらもはっきりと目を見張り、凛を見つめるプロデューサー。今もって凛のダンスや歌の技量を直接確認していなかったのは減点対象と言えなくもないが、「笑顔」のみを理由としてスカウトした凛に、アイドルとしての素養が十分備わっていることを彼が確信した瞬間でもあった。

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 それは卯月たちも同様で、先輩アイドルたる美嘉も凛の歌を褒め、激しいダンスに参っていた卯月や未央の顔にもひと時明るい笑顔が戻る。この「アイドルから一番遠いところにいた凛がアイドルとしての素養を開花させる時、状況好転のきっかけになる」下りは、後半の展開にそのまま生かされることとなる。
 そんな4人を見て思い思いの感想を述べるかな子と智絵里。純粋に3人を応援しているかな子に対し、智絵里が本番の時を想起して我が事のように緊張するのは、彼女の気弱な性格を考えると仕方のないところか。諦めずにまた勝負を持ちかけてベテラントレーナーに怒られるみくも併せて、シンデレラプロジェクトの他メンバーの描写を細かく挿入しているのも、個々人の考えと卯月たち3人との繋がりの深化を見せるという点で効果を発揮していると言えるだろう。
 今日の分のレッスンは終了し、美嘉は次のスケジュールがあるのか駆け足でレッスンルームを後にする。美嘉がいなくなるやいなやへたり込んでしまった3人を見つめるプロデューサーは、プロジェクトルームのデスクに戻った後も3人のことに思いを巡らせる。
 2話で美嘉からバックダンサーの提案が出された際に逡巡していた通り、彼は3人のバックダンサーへの起用は時期尚早と考えていた。それぞれの資質は認めているが、実力もそれを培う練習量も、そして経験も絶対的に不足している今の段階でバックダンサーとは言え3人をステージへ上げることに不安を覚えるのは、プロデューサーとしては当然の考えだろう。
 だが前者の2つはともかく「経験」に関しては、ただの練習だけでは絶対に習得できず、実際にステージに出て回数をこなさなければ己の糧とすることは出来ない。結果はどうあれステージに上がり実際の現場に触れることは彼女たちに取って間違いなくプラスになる。そうプロデューサーを諭すのはちひろさんだった。彼女の言葉にプロデューサーも心を動かされるものがあったようだ。

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 後日、衣装室に集まる卯月たち。ここで本番時の衣装合わせをするようだが、美嘉たちの着る新しい衣装を始め、大量のステージ衣装に3人も目を奪われる。未央や卯月がはしゃいでしまうのはいつものことだが、凛さえも少し興味ありげに新作衣装を見つめているのは、本番に向けて次第に意識が高まってきたことの表れであろうか。
 そこへ1人の女性が3人の新作衣装を持って入ってくる。女性の顔がベテラントレーナーと似ていることを不思議がる3人に、ベテラントレーナーの妹と自己紹介する女性。

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 役名でいうところのルーキートレーナーの初登場である。トレーナー四姉妹の末っ子である彼女には「青木慶(けい)」という名前も設定されてはいるが、ゲーム中でも本作でも基本的に「ルーキートレーナー」という名前で呼ばれている(ちなみに未央からは友達感覚で「ルキちゃん」というあだ名をつけられていたが、設定年齢19歳と3人より年上である。
 今話のEDではキャスト表記されていなかったが、ゲームコンテンツのフライデーナイトフィーバーによれば、担当声優はベテラントレーナーと同じ藤村歩さんということだが、姉の方とは完全に声色も口調も変えてゲーム中よりのんびりした性格を感じさせる演技をしており、その巧みな演じ分けは経験豊富なベテラン声優ならではであった。残る長女のマスタートレーナーや三女のトレーナーはどのような演技になるのか、こちらも今から楽しみである。
 ルーキートレーナーの運んできた衣装を身にまとう3人。3人とも基本は同じだが、それぞれの個性に合わせて細部に修正を入れて独自性を打ち出しているのが特徴の衣装だ。

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 この衣装の元ネタは「ロッキングスクール」。原作ゲームを進めていく中で初めて入手できるようになる衣装であり、それをアニメの方ではアイドルデビューを果たした3人が初めて着用するステージ衣装として、ゲーム版の流れとシンクロさせつつ引用しているわけである。
 3人の衣装を見に来たみりあや莉嘉、またまた勝負を挑んできたみくも混ざって衣装室は一気に騒がしくなった。トランプを持っていたみくがどのような勝負をするつもりだったのかは不明だが、未央に強引にジャンケン→あっちむいてホイの流れに持っていかれて負けてしまうのは何ともはやというところだ。
 引き続き3人は美嘉指導の下でレッスンを続ける。同じレッスンルームで未だむくれているみくをベテラントレーナーが注意する中、同じくレッスンを受けていたアナスタシアは、激しいレッスンをこなしている3人を不安げな表情で見つめていた。

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 ロッカールームで一緒になった美波に、その胸中を打ち明けるアナスタシア。彼女はオーバーワーク気味になってきている3人が純粋に心配だったのだ。
 自らもレッスンをこなす一方で3人を気にかけるのは無論彼女自身の優しさもあるが、みくとは逆に一番最後にプロジェクトに参入してきた、メンバーの中では一番の新米と言える3人がいきなりバックダンサーに選ばれステージに上がるということを案じていたからかもしれない。劇中でそれとわかる明確な描写はないが、原作ゲーム中でのみくとの関連性を考えると、みくとある種の対比としてのキャラシフトが設定されていると言うのは、それほど飛躍した発想ではないように思われる。
 ついでに言えばここで「オーバーワーク」という単語を使わせることで、一応英語も話せるらしいアナスタシアの設定もフォローしている。
 本番が近いからがんばっているのだと美波は説明するが、彼女も彼女なりに思うところがあるようで、壁に貼られたライブのポスターを共に見上げる2人。今3人が取り組んでいることは他人事ではない。多少早いか遅いかの違いはあれどいずれは、そしていつかは必ず自分たちも例外なく同じ経験をすることになるのだし、皆その時を待ち望んでいるはずなのだ。
 他の11人に先んじてステージデビューを果たす卯月たち3人は、言ってみればプロジェクトメンバーの代表。そんな重責をも担った3人を応援したいと思うのはごくごく自然な感情であったろう。
 3人の練習はそれからも続く。346プロでのレッスンだけでなく、卯月は近所?の小さな広場で、未央は川の土手で、そして凛は自分にとっての大きな転換点となったあの公園で、それぞれに自主練習も行いながら。懸命に練習するその姿を見つめるプロデューサーは一体何を思っているのか、例によって変化の乏しいその表情から窺い知ることは出来ない。
 そんな3人の様子をきらりは楽しそうに見つめていた。彼女も3人を応援する気持ちは同じだが、アナスタシアとは違い3人がステージに上がれることを純粋に喜んでいるようだ。
 きらりは休憩所で1人ヘッドホンで音楽を聴いていた李衣菜に話しかけるが、その音楽のためかきらりの言葉は聞きとれていなかったようで、一緒にステージに立ちたかったかというきらりの問いにも、バックダンサーなんてロックじゃないとつれない返事しか返さない。

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 そのきらりの問いを受けてのことか、同じく休憩所にいた蘭子はいつもの言い回しで3人を応援する言葉を残す。言葉自体は難解だが、ここでのセリフの内容は「3人ともがんばってください!私もいつかステージに立ちたいな!」くらいの意味と解釈しておけば問題ないだろう。
 ここで注目したいのは、きらりからの問いを受けたすぐ後にヘッドホンをつけ直した李衣菜が、きらりに杏の居場所を聞かれた際、ヘッドホンをつけた状態のままで答えているという点だ。
 李衣菜の動きを追う限り、きらりに話しかけられた後も「ヘッドホンが接続されている音楽再生機器を停止させる」動作を行ったようには見えない。このことから最初にきらりが声をかけた時点で実は音楽は再生されていなかったのではないかという見方も出来、それを前提にすると、きらりが3人のがんばっている様子を報告した際に聞いていないふりをしたことになる。
 それは何故かと、その後の一緒にステージに立ちたかったかどうかのやり取りも加味した上で考えると、やはり3人に対する羨望の想いがあったのではないか。羨ましいけどその気持ちを素直に吐露することはできない。何故ならそれは「クール」じゃないから。そんな葛藤が李衣菜の中にあったのかもしれないし、そう解釈すればレッスン中の3人から距離を取るような形で休憩室にいたのも納得できよう。
 これはさすがに拡大解釈の域に入ってしまっているが、原作ゲームをプレイすればわかる李衣菜の素の部分を勘案すると、こういう見方もありなのではないかと愚考する。
 プロジェクトのメンバーはそれぞれ、一足先にステージに立つ3人に対して様々な想いを抱いていた。だがそれは人並みの女の子なら持って当たり前の、自然な感情の発露であったとも言えるだろう。
 「さして関心を示していない」杏の様子を各人の描写の一番最後に持ってきたのは、杏の姿がある意味そういう自然で自由な感情の最たるものであったからかもしれない。

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 そして本番前日、ベテラントレーナーやプロデューサーが見守る中、4人はこれまでの仕上げとしてのダンスを披露する。評価を待つ3人に向けられたベテラントレーナーからの「ギリギリ及第点」という言葉に、喜びの気持ちをぶつけ合う卯月と未央。まだ若干怪しいところはあるものの、とりあえずのお墨付きはいただいたわけだ。
 そんな3人に労いの言葉をかける美波。美波に促されたアナスタシアは3人にスポーツドリンクを差し出すが、その時の呼びかけがロシア語だったために、3人も感謝はするもののぎこちない対応を返してしまう。
 3人のそんな様子を見てアナスタシアは何かに逡巡していたようだったが、笑顔の美波にまた促されて、少し視線を落として考え込むも、決心したように口を開く。
 それはレッスンをやり終えた3人への称賛と明日の本番に向けた応援の言葉だった。日本語は片言になってしまうことの多いアナスタシアにとってみれば、自分の気持ちを相手に伝える程度のことでも大変だろうし、まして3人とはまだ会ってそれほど日も経っておらず、親しい関係というわけでもないのだから、自分の素直な想いを3人に伝えられるのか、彼女が逡巡するのも当然だったと言えるだろう。
 それでも内心の不安を振り払い、少し拙いながらも気持ちを込めて送られた彼女の精一杯の言葉に、3人も心からの笑顔を返す。それはプロジェクトに参加した時期もバラバラで、まだ互いのこともよく知らない彼女たちがようやく紡いだ「仲間」としての繋がりであったのかもしれない。

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 ついにライブ開催の日がやってきた。会場のモデルとなっているのは大阪のオリックス劇場。アイマス関連では8周年記念ライブの大阪会場として使用されており、未央を演じる原紗友里がアイマスガールズとして初めて観衆の前で持ち歌「ミツボシ☆☆★」を披露した場所でもある。
 この会場モデル選定は、これからの流れの中で未央が大きくフィーチャーされる展開になることと無関係ではないだろう。
 会場入りした卯月たち3人に、今日のすべてを貴重な体験とし、先輩たちから色々学ぶよう伝えるプロデューサー。Aパートで彼に向けられたちひろさんの言葉と同様のことを彼が発言しているのは、彼も彼で腹を括ったというところだろうか。
 そこに入ってきたのはかな子に智絵里、そしてみくの3人だった。未だ納得していない雰囲気のみくだったが、今日のところは3人に託すという言葉には、彼女なりの激励の気持ちが込められていたことは間違いない。かな子や智絵里からも応援の言葉をもらい、卯月たちも笑顔を返す。
 3人はバックダンサーの楽屋に移動するが、ライブ開始前の楽屋裏の様子を初めて目の当たりにし、さすがに凛も未央も緊張の色を隠せない。卯月だけ若干余裕があるように見えるその理由を彼女が口にし始めた時、プロデューサーが3人に声をかけてくる。
 プロデューサーの言葉に遮られてしまったが、卯月の話そうとしていた内容は「以前同様のイベントで物販の手伝いをしていた」というものらしい。これは1話冒頭で描かれたライブのことを指しているのだろうから、やはりあの場面はイメージ的なものではなく現実描写の一環であり、あの時点で3人+1人は運命的な出会いを、互いに自覚することなく果たしていたということになるのであろうか。
 プロデューサーに連れられて3人が向かった先は、今日の主役である美嘉を含むライブ出演者5人の楽屋だった。バックダンサーとは言え3人は彼女ら5人と同じ事務所に所属しているわけだから、礼儀として挨拶はしておくのは必要なことだろう。同時に今日1日しかないライブ本番当日に直接先輩アイドルとの顔合わせを行い、3人に出来うる限りの体験をさせようというプロデューサーの配慮も窺える。
 美嘉はまだ姿を見せていなかったがその場の4人を見て、以前からアイドルとして知っていたであろう卯月と未央が歓声を上げ、反して凛は淡白な反応を見せるというのも2話から続く定番の描写と言ったところだ。
 挨拶をする3人に最初に話しかけてきたのは、2話にも少し登場した小日向美穂。初ステージに緊張している3人を気遣う思いやりを見せてくれたのは、本来恥ずかしがり屋な性格で今も緊張しているという美穂にとって決して他人事ではなかったからだろう。

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 そんな美穂とは正反対に明るい声で一緒にがんばろうと呼びかけたのは、1話冒頭のライブ以来の登場となる日野茜。メイン出演者の5人はおろか卯月たち3人を含めても一番小柄な体格だが、その小さな体から溢れ出る元気と情熱は誰にも引けを取らない「熱血乙女」である。

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 わからないことがあれば何でも聞いてと優しく微笑んでくれるのは、こちらも1話以来の登場となる佐久間まゆ。原作ゲームの設定でも他人に気を遣える優しい性格ではあるのだが、ある理由から「プロデューサーが絡まなければいい子」とも言われているまゆ、本作では登場しているプロデューサーが彼女の専属というわけではないため、まゆがプロデューサーにどのような感情を抱いているのかは不明だが、もしまゆの思慕の対象がプロデューサーであるのなら、そう遠くないうちに彼女の内面の奥底を垣間見ることができるだろう。

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 そして4人目は2話で卯月や未央とニアミスを果たしていた川島瑞樹。自分の席の前に恐らく私物のメイク道具がずらりと並んでいるあたりは、最年長らしくアンチエイジングにも余念がないというところか。当人も2話での出会いを覚えていてくれたようで、そのことに触れられて未央も感激する。

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 この4人に遅れて姿を見せた美嘉を加えた5人が今日のメインを務める「Happy Princess」となる。美嘉と茜の気合の入れ方はいかにもパッション属性の2人らしいやり取りで、片やカリスマJKギャル、片やラグビー大好き熱血少女とだいぶかけ離れた個性を持つ2人だが、根っこの部分はお互い似通っているのだ。
 そこへ今度はシンデレラプロジェクトの部長が1人の連れを伴って楽屋に入ってきた。連れがどのような人物なのかは明らかにされないが、その風貌や部長と行動を共にしていることから見ても、かなりの大物であるのは間違いないだろう。
 瑞樹たちもその人物のことは知っているようで、全員立ち上がっての挨拶を行う。和やかな雰囲気だった楽屋が一瞬でプロの現場らしい緊張感に満ちる、その瞬間を目の当たりにし表情を険しくする未央は、その空気に圧倒されているようにも見えた。
 準備が進むステージの袖で台本の確認を行う卯月たちだが、初めての現場にすっかり余裕をなくしてしまい、舞台の「上手」「下手」という基本的な用語さえも把握できない状態になってしまっていた。
 よくよく考えればレッスン中にこのような言葉が全く出てこないわけはなく、ステージ進行の段取りも当日までに一通り把握はしているはずなのだから、3人が元から上手・下手という言葉を知らなかったとは考えにくい。つまり知ってはいたがその知識が己の中で曖昧になってしまうくらいに、精神的な余裕がなくなっていたと解釈するのが最も妥当と思われる。その言葉がアイドルになったばかりの3人にとってまだ使い慣れていない単語であるという事実も、混乱に拍車をかけていたのかもしれない。
 そんな3人に美嘉は何もしない。別に深い意味や他意があるわけではなく、彼女は彼女で自分のやらなければならないことに集中していただけなのだろう。1人アップのカットが挿入されるのみの美嘉がどこに視線を向けているのか、そもそも彼女が3人に対してどこに位置しているのか、すなわちそばで見ていたのか離れた場所で別のところを見つめていたのか、こちらにはそれすら判然としないのだから。
 音響確認のためのハウリングに、今まで見たことのない美嘉の「プロのアイドル」としての姿。すべてが自分たちにとって全く未知の世界の中で、3人の混乱は深まっていくばかりなのは、衣装用のブーツ一つ着用した時にも過剰に不安視しているような様からもはっきり見て取れる。とりわけ未央の表情が目に見えて固くなり、言葉も少なくなっていくのは、普段の彼女からは予想だにし得ない姿だった。

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 3人の胸中の混乱は収まることなく、結果としてリハーサルも成功させられないまま終わってしまう。せりからの登場に卯月は尻もちをつき、凛は戸惑って立ちつくし、未央は踊れずにふらつく、その姿は3人の内面がそのまま形となって表れたと言っていいだろう。3人のそんな様子にプロデューサーも不安を抱く。
 リハーサルのやり直しを頼む卯月だったが、時間的にも作業的にも当然受け入れられるはずはなく、それでもせめてと3人は舞台袖でリハーサルの音声にダンスを合わせる。しかしそれをやっても3人の心が平静を取り戻すことはなく、楽屋で食事を摂ろうとしても、食欲すらわいてこない。
 これら一連の3人を追い込んでいく流れは実に巧妙だ。元々初めてのステージということで3人は最初から緊張していたわけだが、実際に3人を苦しめる感情は、緊張という単語一つだけで括れるほど単純なものではなかった。
 知らない場所で知らない人だらけの場所に放り込まれ、ようやく知っている人、それも憧れのアイドルと出会い、直接やりとりをして幾らか落ち着きを取り戻すものの、その直後、自分たちの知らないプロのアイドルが持つ厳しさを目の当たりにする。
 そして開場前、準備中のステージというすべてが未体験の場所で、戸惑い緊張する自分たちをよそに、周りは刻一刻と「ライブの成功」という目的に向けて動き続ける。自分たちも目的は同じなのにまったくついていけず、リハーサルとは言え失敗までしてしまう。
 プロとして現場に立つ責任感、周囲から取り残されてしまったような疎外感や孤独感、本番が目の前に迫っていることへの焦燥感…。初ステージに臨む上での緊張だけではない複雑な感情が彼女たちの中に生まれ、それがさらに3人を追い込んでしまっていく様を、各要素を段階的に積み上げていくことで浮き彫りにしているのである。
 知らない場所で知らない人だらけの場所に放り込まれる、そのこと自体はそれこそ2話で初めて3人が346プロを訪れたシークエンスからも察せられる通り、それほど重い状況設定ではない。その軽めの状況設定を一としてより重い段階を積み重ねていくことで、3人の心の流れを丹念に描くことができるというわけだ。
 キャラクターの心情的な追い込みを段階を踏んで描くというのはアニマスでも何度か行われた効果的な手法だが、同時にこの手法は一気にキャラの心情を変化させるものではないため、見ている側にキャラの心情変化の流れを伝えにくいという側面もある。そこで心の変遷を見る側に端的に伝えられる象徴的なキャラクターが必要になってくる。
 この場合の適役としては、正負に拠らず感情表現の豊かなキャラが第一に挙げられるが、その点で考えれば3人の中で未央がキーパーソン的な立ち位置に選ばれるのは自明だったと言えるだろう。2話で彼女の持つ明るさや人懐っこさを徹頭徹尾押し出して描いていたからこそ、正から負へと感情が反転してしまった場合に、より一層の落差となって顕現することになるのだ。
 改めて見返すと3人がバックダンサー用の楽屋に入った時点で、未央が既に緊張した表情を作っていることがわかるし、それ以降の各「段階」シーンでも、段階ごとに未央が精神的に追い込まれていく描写が挿入されていく。2話ではあれだけ騒がしかった未央がついに口を利かなくなるのもそれだし、卯月たちが再度のリハーサルを懇願するシーンで完全に2人から一歩引いてしまっている構図も該当するだろう。
 それは楽屋での食事シーンから未央の目の部分がまったく映らない構図を取るようになることで最高潮に達する。

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 目を映さない構図はキャラクターの心情面に関する曖昧な点を強調している場合が多いが、具体的に何を曖昧とするのかは2つのパターンに分けられる。すなわちキャラの心情に対する視聴側の認識を曖昧にさせることと、逆にキャラの心情が曖昧な状態になっていることだ。
 前者の場合はキャラの心情自体はかっちりと定まっていてぶれることはないが、後者だとキャラの胸中は絶えず揺れ動いて定まっていないことになる。未央は当然後者だった。
 本作ではまだはっきりと描かれていないが、原作ゲームにおける未央本人の申告によると、彼女には小心者の一面もあるという。未央のそういう性格も加味して考えると、彼女の今の精神状態が見えてくるのではないだろうか。
 アイドルとしてステージに立ちたい希望を持ちながら、目の前に次々押し寄せる今まで味わうことのなかった、アイドルだからこそ本来味わう様々な感情。初ステージに向けての幾ばくかの不安に加えて前述の責任感や孤独感、焦燥感と言ったものが、彼女の頭の中で渦を巻くかのようにせめぎ合っていたであろうことは想像に難くない。
 その混乱した精神状態は程度の差こそあれ卯月や凛も同様であったはずだが、未央の場合は生来の小心者故にその渦巻く感情が実態以上に巨大なものに感じられ、それこそ音なきノイズのように彼女の胸中に広がり、彼女が本来望んでいたもの、目指していたものまで曖昧にしてしまったのだ。
 単に不安を覚えていただけではないし、あまりの緊張に放心状態になっていたというわけでもない。むしろ様々なことを自分の中できちんと受け止めようとしつつも叶わず、それでもその行為を続けたためにこのような、言わば自縄自縛のような状態に陥ってしまったのである。
 「小心者」という設定で勘違いされる可能性もあるので言及しておくと、未央が持つ明るさや人懐っこさも彼女が生来持っている性格である。明るくて元気で人懐っこい、だが小心者でもある、これらの性格をすべて個性として内包しているのが未央という少女なのだ。
 その意味では今の未央の状態は、彼女の性格的にはさほど不思議なものではないのかもしれない。今までと同様に感情をストレートに表現しているだけ、ただそれが正の方向と負の方向、どちらに振り切れているかの違いでしかないのだろう。
 そして今、負の方向に感情が振り切れてしまった未央の心情は混乱の極みに達していたと言える。余計な説明セリフをキャラに言わせず、件の目を見せないカット割りに焦燥感を煽るBGM、どことなくセピア調を思わせる薄い色彩の美術設定など、数々の技巧を絶妙に絡ませて、彼女の痛切なまでの混迷ぶりを際立たせる演出は見事と言う他ない。
 その巧みな演出はカットが切り替わってからも続く。開場し観客がどんどん入場してくる中、シンデレラプロジェクトのメンバーも3人を応援するために観客席までやってくるのだが、その11人が登場するシークエンスにも同じBGMが継続してかかっているのである。

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 楽屋の3人の状況など知る由もない11人に、同じく焦燥感を煽るような雰囲気のBGMをアテるのにはどのような意味があるのか。無論バックダンサーとして参加する3人が無事に成功させられるのか、観客目線の11人の懸念や不安を煽って、3人の置かれている苦しい状況を強調するというのが構成上第一の目的であろうが、それは同時に彼女たち11人のうち何人かが自覚なく抱いていた、自身に対する不安を重ねているようにも見える。
 卯月たち3人が今日まで必死にやってきたことも、今日これから大勢を前にステージに立つことも、すべて明日の自分が味わうことかもしれない。彼女たちもまた目の前のステージにいつか立つのだし、それを目標に今も活動を続けているのだから。観客の多さに圧倒されたかのような美波の言葉から、ふとそんなことまで考えさせられるのである。
 尤もこれはあくまで独自解釈であり、厳密には3人のステージが成功するか否か不安を抱いている者も美波やアナスタシアといった一部のメンバーのみで、莉嘉やみりあ、蘭子などはステージを純粋に楽しみにしているようだし、杏に至ってはだるそうにしてるだけで、3人に対してどのような想いを抱いているかは判然としない。それぞれの想いを抱きながらもこのライブを注視しているという点は間違いないところだろう。

 落ち着かぬ気持ちを抱えたまま、楽屋裏の卯月たちも出演に備えて準備を進めていく。衣装に着替えながらも初めて衣装をまとったあの日のはしゃぎようはどこへ行ったかというほどに覇気のない3人に対し、メインの5人は円陣を組み、瑞樹の音頭を合図に一斉に声を上げてヴォルテージを高めていく。
 先輩との格の違いが見せつけられたという感じだが、ただそれだけの描写ではなく、暗さの中をペンライトで照らすスタッフに彼女たちが囲まれているという構図も、今現在の3人の様子と対比させているように見える。
 3人が今いる場所はバックダンサーの楽屋なのだから、1人くらいは別のバックダンサーがいても不思議ではないのだが、画面上では3人しか映し出されていない。大勢の人間がいるはずの舞台裏で彼女たち3人しかいないような、誰も彼女たちのことを見ていないかのような演出は、前述の疎外感や孤独感と言ったものを大なり小なり3人がその内に覚えてしまっている証左と言えるだろう。無論そんなことはまったくないのであるが。
 そしてついにライブは開始される。だが今の3人はそれを手放しで喜べる状態ではない。そこに立つことを望みながらそんな精神状態にまで追い込まれてしまっている3人の現状は、純粋に楽しみで歓声を上げる莉嘉やみりあたちの様子との対比もあって、より厳しいものに見える。無論未央の様子も変わることはなく、卯月や凛からの呼びかけにも呆けた返事を返すのみだった。
 ライブ自体は順調に進み、ついに3人も出番の時がやってきた。しかし未だ目がはっきりと映し出されない未央は内心の混乱から脱していないことが明白であるし、その混乱が彼女1人だけのものでないということも、スタンバイするよう伝えられた際の「もうですか?」という卯月の言葉が如実に示している。幼い頃からアイドルに憧れていた卯月をして「もう」と言わせてしまうほどに、3人の混迷は続いていたのである。
 だがそんな中で凛は1人、胸中の混乱を半ば強引に抑えつけて立ち上がり、未央の肩を叩いて呼びかける。元々3人の中では一番落ち着いた性格の凛であるがそれだけではなく、アイドルというものにまったく関心を持っていなかったが故に、3人の中ではアイドルであることに対するプレッシャーも小さかったのかもしれない。その意味ではこの場でこのような行動を取るのに最もふさわしい人物は凛以外考えられなかったわけだが、ここでの凛の行動は先に書いた理由以上に大きな意味を持っている。

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 初のステージに臨むという現実は3人とも変わらない。そんな中で彼女は真っ先に混乱を抑えて他の2人を引っ張っていこうとした。凛自身は深く意識したわけではないが、それは舞台度胸とか胆力という言葉で表現すべき、アイドルが持っていなければならない重要な「意志の強さ」を、気づかぬうちに彼女が発揮したことになる。
 1話でスカウトを受けたのは確かに凛自身の意思だったが、「アイドルを目指す」という根本的な考え方が彼女の中で未だ希薄なままだったのは、今話冒頭の彼女の独白が示すとおりである。その意味では3人で行動を共にしながらも、どこか卯月や未央とはアイドルに対するスタンスが異なっていた、はっきり言えばずれていたと取れるだろう。
 そんな彼女が初めてはっきりと「アイドルとしてステージに立つ」ことを自覚し、能動的に行動したのである。ここに至ってようやく凛もアイドルとして、卯月や未央と同じ位置に立てたと言える。
 未央に呼びかける時に肩を叩いたのも、そのような自分の意志から生まれた彼女自身のアイドルとしての素養が無意識に発揮された故だったと考えれば納得がいく。今の未央の胸中に渦巻いているのは先ほども表現したが激しいノイズのようなもので、ただ声をかけるだけではノイズにかき消されてしまう。そのノイズを払い、未央が本来抱いていた目標や夢を再び見定めさせるためには、よりはっきりとした身体的感覚が必要だった。それが「肩を叩く」という行為に繋がるわけである。
 凛は勿論それを狙って行動したわけではない。凛が見定めた覚悟がよりはっきりと、彼女の中にあるアイドルの素養を呼び起こし、それが未央や卯月に影響を及ぼしたのだ。
 それがどのような意味を持つか、それはAパートでのレッスンの描写を思い出せばすぐわかることだろう。初めての本格レッスンで参ってしまっていた卯月や未央を元気づけたのは、凛が何気なくその歌声を披露した時、つまり凛が持つアイドルとしての素養を彼女が発揮した時だった。
 最もアイドルから縁遠い場所にいた凛が、知らず知らずのうちに自分の秘めたるアイドルの素養を発揮した時、状況は好転する。既にAパートの時点で物語の構成的にもそれが示唆されていたのである。
 つまりこの時点で3人の成功は八割方確定していたと言えるのだ。それは肩を叩かれた未央の目がようやく画面に映し出され、本番直前の舞台裏で未だ緊張を残しつつ、それ以上の決意を秘めた表情を3人それぞれが美嘉に向けた種々の描写からも容易に理解できるだろう。
 そんな3人をより確実に成功へ導く最後の一手、それは彼女らがこの場で漠然と感じていた「疎外感」や「孤独感」の排除だった。
 舞台袖の3人に話しかけてくる茜と美穂。2人は舞台に上がる時には何か掛け声があった方がいいとアドバイスを行う。

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 茜の挙げた具体例が「好きな食べ物」というのは何とも珍妙ではあるが、過剰なまでの熱血少女である茜にかかれば、彼女の好物「ホカホカご飯」もあっという間に自らを奮い立たせる立派な掛け声になるのだろう。
 このシーンの直前にプロデューサーが茜と美穂、さらに現場のスタッフにも話しかけているシーンが存在することから考えて、2人が卯月たちに声をかけたのはプロデューサーに頼まれたからという見方が最も妥当と思われるが、具体的に何を話すかまで細かく指示を受けたわけではないだろうから、話の内容については2人が自分たちで考えたのだろう。
 そう考えると美穂が掛け声のアドバイスを送ったのは、今もなお緊張しているであろう3人を気遣ってのことであろうし、そこに茜が同調したのもひとえに皆で一緒に熱く燃えたいという想いがあったからだろう。
 きっかけはプロデューサーであったにせよ、2人は自分の意思で3人を励まし、応援してくれたのである。決して卯月たち3人だけではない、この舞台裏にもちゃんと自分たちを見て、気にかけてくれる人がいる。思い返せばこの2人だけでなくまゆも瑞樹も最初から3人を気にかけていたし、2人のアドバイス自体がその時のやりとりの流れをそのまま踏襲した内容になっていることからもそれは明白だったのであるが、混乱していた3人には見えなくなってしまっていたのだろう。
 だが今なら美穂や茜の気持ちも届く。同じステージに立つ仲間として自分たちを応援してくれる彼女たちの想いを受けた3人は、アドバイスに従いそれぞれの好物を言い出し合う。率先して口にした凛に続いて卯月と未央が発言するのも、先ほどと同じポジショニングだが、ジャンケンで誰の発言を掛け声に採用するかを、前後の会話なく決めてしまう姿からは、先ほどまでの混乱からやおぼろげに感じていた孤独感からは完全に脱したことが窺える。
 後は今なお残る不安や緊張を抑えて本番に臨むのみだが、3人はその手段をもう知っている。美穂や茜の心遣いを胸に、美嘉の呼びかけに合わせて走り出し、せりにスタンバイする3人。
 ここでさりげなく、しかし大切な描写がなされているのはプロデューサーだ。彼はスタッフが暗部で控えている演者の足元などを照らすのに使うライトを手に持って3人を照らしているのだが、当然これは現場スタッフの仕事であって、プロデューサーがやることではない。ではなぜ彼がこんなことをしているのか、先ほど茜たちに話しかけていた時、隣にいたスタッフにも何事か話をしていたという事実を思い返せば、その理由は明白だろう。
 彼は自分も3人をライトで照らせるようスタッフに頼んでいたのだ。先述したとおりこれはプロデューサーの仕事ではないし、プロデューサーならば本来はもっと別の、直接的なやり方で3人の緊張や不安を払拭してやらねばならないのだが、プロデューサーと卯月たちとはまだ一言二言会話を交わした程度でそれを叶えられるほどの強固な関係性を築いていないし、そうでなくとも彼はそんな便利な言葉を簡単に口に出来るようなタイプではない。その意味では彼のプロデューサーとしての立ち回りもまだまだと言ったところだが、そんな現状を理解した上で茜たち同僚アイドルに声をかけるよう頼み、今またせめてと初ステージに臨む3人を自ら照らしている。彼は彼で今出来る精一杯のことをして、プロデュースしているアイドルを支えようとしているのだ。
 応援してくれた仲間、そして支えてくれるプロデューサー。多くの人たちの想いを背に受けて、3人はステージへと飛び出す。負の感情を抑え込んだその掛け声は、内心の混乱から復活を果たした3人の今の姿を象徴する存在となった未央の好きな食べ物である「フライドチキン」!

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 ステージに飛び出した3人は刹那、その視界に飛び込んできた一面のサイリウムの輝きに時を忘れ心奪われる。アイドルでなければ一生見ることがなかったであろう光景、アイドルになったから、アイドルになると決めたからこそ巡り会えたその光景は、紆余曲折ありながらもこの日この時この瞬間のために走り続けてきた3人を待っていた最良の「結果」だった。
 無事にステージに飛び出した3人は、美嘉の「TOKIMEKIエスカレート」に合わせてダンスを披露する。堂々たるそのパフォーマンスに美穂と茜は喜びのハイタッチを交わし、プロデューサーもようやく胸をなでおろす。

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 観客席にいるシンデレラプロジェクトの仲間たちも、最初からノリノリのみりあに莉嘉、蘭子を筆頭に思い思いのスタイルで声援を送る。その中では終始顔が見切れてしまって声を出しているのか、サイリウムを持っているのかさえ分からない杏や、少々茫然とした表情でステージを見つめていたみく、最初はクールな感じで頭を振っていたものの、最後の方ではかな子たちと一緒にサイリウムを持ってコールを上げていた李衣菜などが印象的なところか。出だしの時点ではみくを始め半分以上のメンバーは着席していたが、ラストのTOKIMEKIコールでは全員とも立ってコールを送っていたところも、全員の気分の高揚ぶりを示して楽しい。
 そして3人を応援していたもう1人の人物の心遣いも、このライブパートでは窺い知ることができる仕掛けになっている。サビのところに美嘉と卯月たち3人がそれぞれ一対一で組んだ状態での振付が用意されているが、当然これらの振付は美嘉が1人だけで考えたというものではないだろう。では誰がメインとなって考案したのか、劇中描写からわかる情報で判断する限り、一番その役に適しているのはベテラントレーナーだ。
 初ステージに臨む3人を始終1人だけ、ないしバックダンサーのみで踊らせることには心細さを覚えるかもしれない。そんな気遣いからこの振付が生まれたのではないか。無論それ「だけ」の理由で振付を決められるものではないし、例によって筆者個人の拡大解釈に過ぎない部分も大きいが、かつてのアニマスと同様、本作はそう思わせてくれるような「優しさ」に満ちた世界なのだという点に異論を挟む向きはないだろう。
 パフォーマンスを終えた3人が美嘉に感想を求められた際の言葉に、すべての観客が大きな歓声を送ったのも、本作の世界観が基本的に「優しい」世界であることを如実に示していると言える。

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 ちなみにこの美嘉の持ち歌である「TOKIMEKIエスカレート」、本作ではライブというシチュエーションでは初めて使用されたソロ曲となったが、以前からのファンの中にはこの選曲やシチュエーションに格別の感慨を抱いた者も多かったのではないだろうか。美嘉を演じる佳村はるかさんのこの歌に対する想いを知っていれば、あるいは今初めて知った上でもう一度見返せば、歌い終えた後の後輩3人を気遣う美嘉の姿も含め、また異なる印象を抱けるかもしれない。

 ライブはその後も滞りなく進み、すべてのプログラムが無事に終了した。メインの5人や多くのスタッフと共に、卯月たち3人もライブ成功を拍手で祝う。
 労いの言葉をかけてきた美嘉に3人は感謝の意を伝える。「見込み通りだった」という美嘉の言葉からは、3人に対する期待感や信頼感が聊かも揺らいでいなかったことが窺え、他の4人の労いも含めてその暖かさが非常に嬉しいところだ。
 そして3人の元へやってきたプロデューサーに駆け寄る卯月。卯月は零れそうになる涙を抑えながら、それ以上の喜びと嬉しさを湛えた笑顔で、ステージに立たせてくれたことへの感謝の気持ちをプロデューサーに伝える。
 この卯月の言葉に、殊更多言を費やして説明を加える必要はないだろう。プロデューサーが自分を見つけてくれたから、だから夢を叶えられると信じた少女は、今アイドルとして1つの夢を叶え、最高の笑顔を彼に見せた。それは彼女の持つアイドルとしての一番の素養を「笑顔」と見定めたプロデューサーにとって、最高の返礼であったことは論を持たない。プロデューサーもまた彼なりの笑顔を作って卯月を労ったその瞬間、2人の「アイドルとプロデューサー」としての関係性も一つの発展を遂げたのだ。

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 先輩アイドルやプロデューサーからの労いの言葉を受け、初ステージの成功を強く実感した3人は、互いに抱き合ってその喜びを分かち合う。「アイドルってやっぱり最高!」という未央の言葉は冒頭での卯月とのやり取りでも出てきた言葉だが、そこに込められた想いは冒頭の時とは明確に異なる、一種の重みを持っている。だからこそ卯月だけでなく、凛もその言葉に同調出来たのに違いない。
 もちろん今回は美嘉のバックダンサーという立場での出演にすぎないのであって、アイドルとしてのスタートは文字通り始まったばかりではあるが、それでも3人にとって今日の体験は何よりも得難いものであったのは言うまでもない。
 この経験を踏まえて次のステージに進めるかは彼女たち3人が今後アイドル活動をどのように行うかにかかっているわけだが、それに関しては心配の必要はないだろう。彼女たちがあの時見た眼前に広がる光、それは夢のように一時、ステージを照らすだけのものに過ぎないのかもしれない。しかし彼女たちを包みこんだあの輝きは確かに存在していたし、その眩さを忘れない限り彼女たちはもう道に惑うことはないだろう。
 すべてが終わった後の会場を見つめる3人、とりわけ凛の姿がそんな風に思わせてくれる、素晴らしいクロージングであった。

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 芸能プロダクションに所属した新人アイドルが、先輩アイドルのバックダンサーとしてステージに立つ。それは「アイドルの仕事」として考えるには少々中途半端な面があるのは否めない。華やかなステージに立って歌い踊るのは紛れもなくアイドルの仕事と言えるが、彼女ら3人がメインではなくあくまで先輩アイドルのバックダンサー、失礼な言い方をすれば「おまけ」程度の扱いでしかない。
 物語の主役を担うアイドルの最初の仕事としては何とも微妙と言わざるを得ないところだが、本作では敢えて主役陣をその立場に置き、今話でその様子を丹念に描写することで2つの要素を提示している。
 1つ目は初ステージに臨む3人の不安や混乱の増大と、そこからの逆転による大団円という流れの中で描かれた、「バックダンサーもライブを完成させる上で必要な仲間の1人」という定義だ。ライブという1つの目的を完遂するにあたって、その場に不要な人間は1人もおらず、その意味では皆等しく仲間であるという考え方は、実際には卯月たち3人を気にかけていた美嘉たち先輩アイドルやプロデューサーのみならず、3人をレッスン時から応援してきたシンデレラプロジェクトの仲間との繋がりまで包含し、「仲間同士の繋がりが力になって背中を押してくれる」というテーゼに昇華されている。
 さらにもう1つは、媒体上仕方のないこととは言え原作ゲームでは全く描かれていなかったアイドルの仕事内容の詳細な提示である。一足飛びに派手な仕事はこなせない、小さな仕事から段階を踏んでいかなければならないという、現実的に考えれば当然だがシビアでもある観点が、本作の世界観の中に息づいていることを見せたかったわけだ。
 そしてこれらはそれぞれアイマスの名を冠する歴代作品の中で打ち出されてきた重要なテーマでもある。1つ目のはアニマス劇場版での春香の独白と共通項が存在するし、2つ目はいわゆる無印の頃からほぼすべてのアイマス作品の根底に存在している重要な価値観であることは言うまでもない。
 3人の成長譚の中で提示されたこの2つの要素は、本作もまた「アイドルマスターのアニメ」であることを何より雄弁に物語っている。そしてそれはこれからもまた、「アイドルである少女たち」が優しい世界の中で幸せな時を育むであろうことの証左とも言えるのだ。
 これからも時に迷い時に悩みながら、それでも彼女たちは夢に向かって歩み続ける。そんな彼女たちの姿をこれからも追い続けていきたい、今話は見る者を素直にそう思わせてくれる良質なエピソードであったと言えるだろう。

 さて直接参加した3人と彼女たちを応援していた11人、全員等しく1つの大きな経験を経たわけだが、そんな14人が次に迎える物語とはどのようなものになるのだろうか。



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