2015年06月01日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第7話「I wonder where I find the light I shine...」感想

 ずっと待ち焦がれていた初のライブ。しかし目の前に広がっていたのは、バックダンサーとして始めてステージに上がった時とは比較にならないほど閑散とした光景。それは未央にライブの「失敗」を印象付けるには十分だった。
 失敗という認識、あの時の光景がまた見られると思い込み全く疑おうとしなかった愚かさ、ニュージェネレーションズのリーダーとしての役目を果たせず、デビューできていない他のプロジェクトメンバーの想いにも応えられなかった自責の念。
 未央の胸中に様々な想いが渦巻いていたであろうことは想像に難くないが、最後の最後に彼女の精神を追い込んでしまったものはそのどれでもなく、自分の混乱するその想いをプロデューサーに拒絶されたことだった。
 何より未央にとって辛かったであろうその事実は、彼女の抱いていたプロデューサーへの信頼感を完全に喪失させ、未央に「アイドルを止める」とまで口走らせてしまう。魔法の解けてしまった「シンデレラ」は、ひび割れ砕けたガラスの靴を残して走り去る。そしてそんな未央に対し、何故かプロデューサーは呆然とするだけだった。
 壊れてしまったガラスの靴は、二度とは元に戻らない。窮地の中で未央に卯月、凛、そしてプロデューサーは何を想い、どう行動するのであろうか。

 ミニライブから一夜明けた翌日、プロジェクトルームで卯月と凛は未央が来るのを待っていた。
 湧きあがってくる不安を打ち消そうとするかのように、未央はちゃんと来ると自ら口にする卯月だが、傍らの凛はそれに答えようとはしない。軽々しく同意をしないのは冷静な性格の凛らしい態度だが、今回に限っては「しない」と言うより「できない」とするのが正解だろう。
 卯月の言葉を肯定も否定もできない、極めて曖昧で不確かな状況。光を遮り部屋の中を薄暗く彩る曇天は、不安や戸惑いを抱く彼女たち2人の今の胸中そのものと言える。

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 不意に響いたドアの開く音に2人は思わず視線を向けるが、入ってきたのは2人の期待していた人物ではなく、プロデューサーだった。
 未央が来ていないことを凛から聞かされても言葉少なに返事をするだけのプロデューサーは、いつも通りの態度を取っているように見えるが、未央の家に行ってみたいという2人の懇願を拒否する彼の表情からは、明らかに普段とは異なる感情が胸中に湧き上がっていることが見て取れる。
 しかしそれが何であるかを彼が吐露することはなく、彼は未央の件はこちらに任せてほしいとだけ言い渡す。その返事はいつものように簡潔で端的であったが、今は殊更に頼りないものに感じられた。

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 不安を抱いているのは卯月や凛だけではなく、シンデレラプロジェクトの他のメンバーも同様だった。
 とりあえずはプロデューサーの言に従い、ルーキートレーナーの指導の下で卯月たちが日課のレッスンをこなす一方、レッスン場の片隅で未央のことを口にするかな子と智絵里。
 2人とも昨日の未央とプロデューサーのやり取りを直接聞いているのだから、未央が来ない理由も当然知っているわけだが、「力なく」という注釈こそつくものの、ライブ疲れで休んでいるのかもと直接の理由を明言しなかったのは、一緒に座っている李衣菜やみりあたち傍らの4人への気遣いもあったろうが、本当の理由を口にしたくなかったというのもあるのだろう。口にしてしまったら、その理由に起因している不安が、彼女たちの中でより明確なものとなってしまうかもしれないのだから。
 だが彼女たちとしてもその不安から目を背けるわけにはいかず、その意味でかな子たち年長組が意図的に口にするのを避けていた「未央が止めてしまうかもしれない」という不安を、最年少のみりあに言わせる流れは、物語上の展開としてもみりあというキャラクターから見ても、極めて順当な構成であったと言える。
 みりあの言葉を受けて莉嘉と李衣菜も不安を口にする中、ただ1人未央を「プロ失格」と断じるみく。未央たちよりも先にプロジェクトに加入し、デビューを迎えるその時までずっとがんばってきたみくが未だデビューできない中、トントン拍子に話が進んでいく後発組の未央たちニュージェネ3人に対しどうしても虚心ではいられないという、3話や5話でたびたび描かれてきた事実を考えれば、そのような発言が出てくるのはごく自然なことだった。

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 しかし言葉の内容とは裏腹にその声に怒気はこもっていない。むしろどことなくためらいがちに発言しているのは、みくのそんな複雑な気持ちを超えたもっと深い部分に根付いている、未央や卯月たちを案じる優しさ故であろう。
 レッスン中に思わず転倒してしまうほど精神的に不安定な状態の凛たちを思いやらないではいられないが、それでも未央の勝手な行為を許せない。今のみくがそんなアンビバレンツな感情を抱え込んでいる状態だというのは想像に難くない。

 当の未央は自室にこもり、力なくベッドに横たわっていた。見つめているスマホの画面には卯月に凛、そしてプロデューサーからのメッセージが表示されていたのだが、見つめるばかりで何らかのリアクションを起こす気配はなかった。
 と、その時スマホの着信音が鳴る。それはプロデューサーからの着信であったが、未央は出ようとはせずにスマホを放り出す。表情は全く映しだされないものの、今の未央がプロデューサーに対してどのような感情を抱いているのかは、その行動から容易に窺い知れるだろう。

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 ややあって部屋を覗きこんできた弟が、プロデューサーが自宅マンションの入り口に来ていることを伝えてくる。帰ってもらってと返す未央に自分で話すよう言ってそっけなく立ち去るあたり、弟は未央の現在の状態を知らないと思われるが、過剰に介入しようとしないこの兄弟関係は却ってリアルなものとして映るかもしれない(ちなみに未央は上に兄、下に弟という3人兄妹の真ん中である)。
 インターホンに出た未央は会いたくない、家にまで来ないでと短く、そして強くプロデューサーを拒絶する。プロデューサーの言葉にも耳を貸そうとしないその態度は傍から見れば自分勝手以外の何物でもないが、それを他ならぬ彼女自身が一番よくわかっているというのは、未央1人の問題ではないと話すプロデューサーの言葉への返答からもよくわかる。
 そして図らずもこのやり取りは、前話にて未央がプロデューサーへの信頼を失った最後のやり取りと酷似したものになってしまった。
 このような状況に陥っている原因が自分にあることも皆に迷惑をかけていることも、彼女はきちんと理解はしている。理解していても感情の面で納得できない今の彼女にとって、プロデューサーの言葉はあの時と同じ、自分でわかっていることをただ繰り返しただけだったのである。
 わがままと言えばそれまでだが少なくとも彼女が望む言葉ではなかったし、むしろあの時と同様に最も聞きたくない言葉だったに相違ない。自分で認識している自分の誤りをただ繰り返されただけというのは、弱っている彼女の心をより追いつめることにしかなっていないのだから。
 言わばこのやり取りで未央の「ガラスの靴」はより一層ダメージを受け壊れてしまったわけで、直後に描かれる346プロを出た卯月がガラスの破片を踏みつけてしまうというシークエンスは、その辺りの未央の感情の暗喩とも言えるだろう。
 夜も更けた頃、帰宅しようとしていた卯月と凛は、346プロの正門前で戻ってきたプロデューサーと鉢合わせる。しかし未央のことを尋ねられたプロデューサーは2人から露骨に視線を逸らし、未央の家に行きたいという2人の再度の頼みも、未央が会いたくないという意を汲みたいと断り、このままでいいのかという凛の問いにははっきり答えないまま立ち去ってしまった。

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 「未央が会いたがらないから」という理由は、当人の意思を尊重するという点では真っ当なものなのかもしれないが、彼の言葉の中に未央をいずれ必ず連れ戻すというやる気や熱意のようなものは感じられず、流れに任せているだけのような消極的な姿勢しか見受けられない。
 そんな煮え切らなさをプロデューサーの態度に感じ取ったのか、凛ははっきりと彼に対する不信感を募らせる。そんな凛の様子にも無反応だった卯月は、彼女自身が言うとおりかなり疲れている様子だ。今回の未央の件だけでなく、CDデビューに合わせてレッスンやプロモーション等をずっとやってきたことを考えれば、身体に疲れが出るのも止むを得ないところであろう。

 その夜、とうとう降り出した雨は次の日になっても止むことなく、街並みを濡らし続けていた。しとしと降る雨の音だけがプロジェクトルームに響く中、凛は昨日と同じ椅子、同じ位置に座って、来てくれるはずの人物を待つ。昨日とただ一つ違うのは、その傍らにいた人物もまた、今日は姿を見せていないことだった。

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 卯月までも姿を見せないという事実に、さすがの凛も焦燥感に駆られたようで、ロッカールームやレッスン場などを歩き回るが誰もおらず、レッスン場の掃除をしていたルーキートレーナーも、まだ誰も来ていないと言う。卯月に電話をかけてみるものの応答はない。
 一方自室にいたプロデューサーは、デスクに座ってはいるもののやはり心中穏やかではないようで、キーボード上の手も動かす気配はない。ふと傍らに置いてある写真を取ろうとした時、凛が卯月のことを尋ねに部屋を訪れる。
 プロデューサーは先ほど卯月の家から連絡を受けていたらしく、卯月は体調不良で休暇を取るという話だった。昨夜見せた疲れは体調を崩す前兆だったのであろうか。
 しかし未央については未だ連絡はないという。凛が今後の自分たちの去就についてプロデューサーに問いただすのは、昨日とさほど変わらないこの現状を考えれば、当然の質問だった。基本的に冷静な性格の凛だからこそ、未央がこのまま来なかった場合のことを嫌でも考えないではいられなかったのだろう。

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 凛の問いに「こちらで調整」「皆はそれぞれできることを」と返すプロデューサーだったが、そのあまりに中身のない内容は、どれも凛を納得させられるものではなかった。
 これからどうするつもりなのかと語気を強めてプロデューサーに問う凛の態度からは、明らかにプロデューサーに対する苛立ちが見て取れる。現在のこの状況が、プロデューサーが「見解の相違」と言い表した未央と彼とのすれ違いに起因しているのは明白であり、彼自身もそれを認識しているのにもかかわらず、事態を打開するための行動を全く行おうとしていないのだから、凛が苛立つのも無理はない。
 思えば前話で未央がアイドルを止めると言い残して走り去った時、凛が後を追おうとしなかったプロデューサーに厳しい表情を向けたのは、根底にその苛立ちの萌芽と言うべきものが生じていたからなのだろう。それがプロデューサーの煮え切らない態度を前にして、次第に顕在化、肥大化してきたのだと思われる。
 その自身の覚えている苛立ちを、凛は「逃げないでよ」とストレートに口にしてプロデューサーにぶつける。彼が凛をスカウトする際に言った「夢中になれる何か」。初めてステージに上がった時、初めての自分たちの歌を聞いた時、それが見つかるように思えたが、今はそうは考えられない、と。
 元々内面に直情的な部分も持っている凛らしい行動だが、ある意味ではこの時の凛は前話ラストの未央と同じような精神状態になっていたとも考えられるだろう。即ち自分の中の不安や苛立ちと言った、自分自身で処理しきれない感情を受け止めてほしい、解決できるかはともかく真正面から向き合ってほしいという想いがそこにはあったに違いない。それは無理からぬことだろう。彼女だって未央や卯月より理知的な面はあるものの、まだ15歳の年若い少女なのだから。
 独白する凛のカットが雨に濡れた窓ガラス越しの描写となっており、流れ落ちる雨水によって、さながら儚い陽炎のように凛が揺らめいて見えるという演出が、彼女の想いを何より雄弁に物語っていると言える。
 「あんたは何を考えてるの?」という最後の問いかけは、そんな極めて不安定な状態にある凛からの救いを求める言葉であったのかもしれなかった。しかしその言葉に対してさえも、プロデューサーはただ一言の謝罪しか返せない。

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 彼のその態度に一言、「信じてもいいと思ったのに」と言い残して立ち去る凛。それは未央に続いて凛の「ガラスの靴」までもが傷つき壊れてしまった瞬間でもあった。そしてプロデューサーもまた未央の時と同様にただ茫然と佇むだけで、自分の前から去りゆく「シンデレラ」に無力だった。
 ちなみにプロデューサーの前から未央や凛が去っていく時にオーバーラップする「シンデレラ」のシルエットは、原作ゲームにおけるキュート、クール、パッションの属性色でそれぞれ描かれているが、これが単なるイメージなのか、それとも具体的な対象者がいるのかは不明なままだ。個人的にはゲームでのイベントなどでよく使われている、「アイドル」を意味する抽象表現としてのシルエットに似通っているように見えるのだが、今後のストーリーに無関係とは今の段階では言い切れないだけに、留意しておくべき点かもしれない。

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 凛が帰ってしまったこと、そして卯月が休んでいることを知り、みく始め他のプロジェクトメンバーも動揺の色を隠せない。ただでさえ埒外にある彼女たちは今回の問題にほとんど介入出来ず、さらに渦中の3人が3人とも不在になってしまった状態では、皆が問題の解決はもはや絶望的と考えるのも無理からぬ話だろう。歯噛みするみくの描写がそんな各人の心境を如実に示している。
 そしてこのような状況に美嘉も1人苦悩していた。あの時半ば強引に3人を自分のライブに参加させたことが、今回の問題の遠因になったのではと自責の念を覚える美嘉。もちろん直接的な原因は未央たち3人の誤った思い込みにあり、前話の感想にも書いたとおり3話で見たあのきらめく瞬間を目標に据えること自体は悪いことではないのだから、彼女が責任を感じる必要は本来まったくないのであるが、責任を感じずにいられないのは3話や6話での面倒見の良い描写とも繋がる、派手な外見の内にある美嘉自身の優しさや真面目さ故からであろう。
 しかし現実問題としてこの問題は美嘉にも対処できるようなものではなく、莉嘉から相談を受けても答えあぐねてしまうのは仕方のないところだった。プロデューサーの対応を問いただす美嘉にみりあも力なく首を横に振るばかり。
 それに続く莉嘉の「あの人何考えてるかわかんないんだもん」という言葉は、未央や凛だけでなく莉嘉たち他のプロジェクトメンバーからも、プロデューサーへの気持ちが離れつつあることを示唆していた。アイドルとプロデューサーの信頼感が損なわれることは即ち、シンデレラプロジェクトそのものの存続にも影響を及ぼしかねない。今にも泣きだしそうな莉嘉の弱々しい声が、その危機的状況を端的に物語っていた。
 帰宅した凛は母親の呼びかけにも返事をすることなく、自室のベッドに横たわる。視線の先にあるのはコップに生けられた一輪の花、というシチュエーションは1話のラスト、卯月やプロデューサーからの言葉を受けた後の時と同じものだ。ただ1つ異なっているのは、その花の横にニュージェネレーションとラブライカ、つまり自分たちの出したCDが置かれていること。
 あの頃から様々な人に出会い、様々な出来事を体験し、変わっていくように思えた自分。本来ならそのCDはそんな変わりゆく自分の象徴となるはずのもの。しかし今の凛にとってはそのような価値すらも見出せなくなってしまっていた。窓の外の雨がちょうどCDに降り注ぐかのように重なるカットが、彼女の今の心情を代替的に物語っている。
 1話のあの時には自分の心に湧き上がる想いを確かめる如く胸に手をやっていた凛が、今は胸に当てていたその手を下ろしたというのも、その想いを彼女の中で完全に喪失してしまった証左と言えるだろう。

 いつも誰かしらがいて和気藹々としていたプロジェクトルームも、とうとう誰もいなくなってしまった。
 扉で仕切られたプロデューサーの部屋には一応プロデューサーとちひろさん、そして美波とアナスタシアがいたが、ちひろさんから今後の予定について説明を受ける2人の表情もやはり暗い。
 説明を聞き終え立ち去ろうとする2人に、プロデューサーが声をかけてくる。一昨日のミニライブについてどう感じたかを2人に尋ねるプロデューサーだったが、2人から視線を逸らしてのその質問は、まるで2人からの回答を恐れているかのようにも見える。
 2人は自分たちが抱いている正直な想いを伝える。ステージで歌っている間は何も考えられず、ただ歌うだけで精一杯だったこと、歌い終えて観客から拍手をもらった時、ここが自分たちにとっての第一歩なのだと嬉しく思えたこと、そして今のこの状況でどうすればいいのかわからないこと…。

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 無論彼女たちには何の落ち度もないし、先日のライブも彼女たちにとってはむしろ成功と言うべき内容だった。しかし同じプロジェクトのメンバーが、誤解によるものとは言え悩み苦しむままに離脱、その影響がプロジェクト全体に波及している現状で、自分たちは前に進んでいけるのか、不安を抱くのは当然のことと言えるだろう。
 しかしそんな2人の言葉を聞いてもなお、プロデューサーは答えを示さない。未央や凛からの信頼を失い、今また美波やアナスタシアからも、そして本人の知らぬところで他のプロジェクトメンバーからも信頼を失いつつあるこの状態は、プロジェクトのみならずプロデューサー自身をも確実に追い詰めていた。
 1つの事象を段階的に描いて範囲を拡大させつつ詳細な描写を盛り込んでいくと言うのは、アニマスからのアニメ版「アイドルマスター」シリーズがよく用いる演出手法であるが、このプロデューサーを追い込んでいく流れも実に巧妙な構成が仕組まれており、アイドルたちだけでなくプロデューサーも苦悩し、その彼の苦悩がまた他のアイドルを苦悩に追いやっていくという感情のやり取りの相乗効果による派生が、わずか10分足らずの短い時間で効果的に且つ明確に描出されている。
 この見せ方がアニメ版アイマスシリーズ独自のものであるというわけでは無論ないし、むしろ構成的には非常にオーソドックスなものと言える。しかしその基本的な要素を丹念に練り上げ構築することにより、地に足のついた骨太のドラマを生み出せるというのは、かつてのアニマスを視聴した大部分のファンであれば十分理解できるところだろう。

 その頃体調不良で休みを取っていた卯月は、自宅の部屋で寝込みつつ母親の看病を受けていた。どうやら発熱していたようだったがそれも落ち着いたらしく、母親も安心して部屋を出ていく。

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 体調不良で休んでいたのだから卯月が寝込んでいるのは当たり前の話なのだが、このシーンを見て驚いた、あるいは拍子抜けしたという視聴者も少なくなかったのではないだろうか。すなわち現在の状況に未央や凛だけでなく卯月もショックを受け、精神的に参ってしまったために休んだと考えていた視聴者も一定数いたのではないかということである。
 卯月も未央の今後について不安を抱いていたのは確かだから、体調を崩したのが彼女の精神状態とまったく無縁というわけではないかもしれないが、そういった劇中内の事情よりはむしろ、視聴者がある程度そのような勘違いを起こすと見越した上で、このブラフと言うべき流れを劇中に仕掛けた制作側の巧妙さを、ここでは堪能すべきだろう。
 もちろん「卯月が風邪を引いて家にいる」というシチュエーション自体がこれからの展開に必要なものであるから、このような手筈を整えたというのも事実であろうが、その上でこのようなブラフを仕掛けられるところに、制作陣のある種の余裕のようなものまで窺えて興味深い。
 寝込んだままでスマホの着信履歴を眺める卯月。一番上には凛からの着信が不在着信として記載されているが、そのすぐ次に表示されている自宅からの着信も不在着信となっていることを考えると、ちょうど凛からの電話がかかってきた時間は、病院なり薬局なりにいて電話に出られない状態だったと考えるのが妥当と言える。卯月はごく普通の女の子なのだから、病気で体調が悪くても構わず四六時中スマホをいじってツイッターのTLを眺め続けるような層とは違うと言うことであろう。
 凛からの着信履歴を見、連絡を取れず凛に心配をかけてしまったであろうことを気に病む卯月。未央の件も含めて、未だ彼女の胸中から不安が拭い去られていないという点がよくわかる。凛までも自発的にプロデューサーの下を去っていってしまったことなど、この時の卯月は無論知る由もなかったのだが。
 卯月はしばし1人でベッドに横たわる。少し引いた視点からのそのカットでは前話の描写で映らなかった部分もはっきり映っており、いかにも先ほどまでいた母親が片づけてくれたように見える床の本や、数枚の写真が貼られた壁のボードなどが見て取れる。
 ちなみにそのボードには2話での宣材写真撮影時にプロジェクトメンバー全員で撮った集合写真や、1話冒頭の冬のライブで撮らせてもらったと思しき美嘉や瑞樹たちの写真が貼られているが、それだけでなく1話で購入したアネモネの花や、CDデビュー決定時に家族で行ったのだろうお祝いのケーキ、そして養成所時代の仲間たちとの集合写真も貼られている。養成所時代は仲間たちがどんどんいなくなり、最終的に1人だけになってしまった卯月だが、その頃の記憶も良き思い出として彼女の中に息づいていることがはっきりとわかるカットだ。
 なおケーキについては、劇中で直接映ったのは5話Aパート冒頭のケーキの残りだけであったから、食べる前のホールケーキの状態が映されるのはこのシーンが初となっている。
 その時不意にドアをノックする音が響く。卯月の返事に続くように漏れ聞こえてきたのは、卯月が想定していた母親の声ではなく、何とプロデューサーのものだった。聞こえるはずのないものが聞こえてきた予想外の事態に、思わず飛び起きて大声を上げてしまう卯月。
 卯月を見舞いに訪れたというプロデューサーは、お見舞いの品だけ置いて帰るつもりだったものの、卯月の母親に勧められて仕方なく家に上がったらしい。
 それでもプロデューサーは卯月にドア越しに声をかけるのみで(ある意味当然とも言えるが)、見舞いの品を置いて帰ろうとするが、卯月に呼び止められる。すぐに行くから階下で待っていてほしいという卯月の言葉に、多少困ったような様子を見せながらも従うプロデューサー。
 リビングにやってきた卯月は、風邪を引いて休んでしまったことをまず謝る。風邪の話題を口にしたからか、ずっとベッドで寝ていて髪の毛がぼさぼさになっていることに気付き恥ずかしがる卯月。今話の脚本担当によると卯月は元々癖っ毛なのでこういう場合はぼさぼさとするよう、キャラ原案の杏仁豆腐氏から注文があり、話の展開とは別に力を入れて描写したという。
 髪の毛の件や突然の来訪ということもあるのだろうか、今一つ会話らしい会話を切り出せない2人。そんな2人への助け船のような立場として間に入ってきたのは卯月の母親だった。

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 フルーツと紅茶を出しつつ卯月以上ではないかと思われるような朗らかさで、娘がきちんとアイドルをやれているかと話しかけ、一昨日のライブに関しても不安がっていた卯月が1人で何度も練習していたことを楽しそうに語るところは、キャラクター原案担当である杏仁豆腐氏のメモに書かれていたと言う「卯月ママはパッション属性」という点を忠実に反映させていると言えるだろう。
 入学式など何かしらの節目に撮影されたと思われる卯月と母親のツーショット写真もいくつかリビングに飾られ、これを撮影したのがすべて父親であると考えると、親子中も非常に良好であることが窺える。これまでアニメのアイマスシリーズで登場アイドルの家庭環境が実際の親が登場する形で描かれてきたのは、765アイドルの如月千早程度であったため、古参のファンにとってもこの一連のシークエンスはなかなか新鮮に映ったのではないだろうか。
 恥ずかしがって母親を退散させた卯月は、未だ黙したままのプロデューサーも風邪を引いたのではと気遣う。実際に今のプロデューサーは意気消沈した状態なのだから、卯月がそう考えてしまうのも当たり前であるが、プロデューサーはまた例によって仔細を話そうとはしない。
 その時プロデューサーが目に留めたのは、卯月たちニュージェネレーションズのCDだった。卯月の両親が購入したものであるのは間違いないところだろうが、開封済の1枚を含めても合計16枚も購入しているには少々驚かされる。単なる親バカと言えなくもないが、それだけ娘がアイドルとして活躍するのを純粋に楽しみにしているのだろう。
 「純粋に楽しむ」その姿勢が娘の卯月にもしっかり受け継がれているというのは、同じCDを見つめながら、これからはどんな仕事をしていくことになるのか、今後への期待を述べる卯月に向けられた、どうなりたいかというプロデューサーの問いに屈託なく「テレビ出演ができればいいな」と答える彼女の様子からもはっきりと認識できるところだ。
 ややあって卯月は、過日のミニライブの件で心残りがあったと切り出してくる。言うまでもなくそのミニライブをきっかけとして未央や凛からの信頼を喪失してしまっているだけに、プロデューサーも卯月の次の言葉に思わず身構えるような姿勢を取るのは仕方のないところだろう。

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 ここで卯月の言葉に触れる前に考えておきたいのは、プロデューサーが卯月を見舞いにわざわざ卯月の家にまでやってきた、その理由だ。
 純粋に病欠している卯月を案じてと言ってしまえばそれまでだが、彼を取り巻く現状を考えれば、とてもそんなことをしている余裕はないと言うのは明白である。未央や凛のみならず他のプロジェクトメンバーからも信頼を失いつつある状態の中、彼がわざわざ卯月の家を訪れた理由は何であるのか。
 凛がAパートで言ったとおり、彼自身の「逃げ」の姿勢がそうさせたと考えるのは容易いし、実際にそういう側面も多分にあったのだろうが、ただ単に現実からの逃避だけを意図したのであれば、何も担当アイドルの許へ出向く必要はないわけで、そこには別の理由があると見るのが妥当であろう。
 では何故卯月の家へ行ったのか。卯月がミニライブのことに触れた際、プロデューサーが表情も体も強張らせた描写から考えると、このミニライブの件について卯月に聞くのが彼の目的だったのではないだろうか。もっと言えば彼女もまた未央や凛と同様、ミニライブでの出来事を通して自分に対する信頼感をなくしているのではないか、それを確認するために出向いてきたように思えるのだ。
 先ほど卯月が体調不良で休んだことを「精神的に参ってしまったためではと視聴者を勘違いさせるブラフ」と記述したが、もしかしたらその「ブラフ」に真っ先に引っかかってしまったのは、他ならぬプロデューサーであったのかもしれない。凛に未央と立て続けに信頼を失ってきてしまったプロデューサーだが、その酷な状況がいつしか卯月に対する信頼感を彼から見失わせてしまっていたのではないだろうか。
 本来であれば実際にどう考えているのか、この時点では確認の取れていない卯月よりも、今現在はっきりとした問題が起きている凛や未央の方に対処しなければならないのが道理であり、その点から言うと間違いなくこれは「逃げ」の行為なのだが、それ以上に卯月の自分への信頼感がどうであるか、彼にそのような想いを抱かせる、気づかぬうちに芽生え恐らくは今も気づいていないであろう己の猜疑心が真実であるか否か、それを確かめたいと言うのが最も強い動機なのではなかったかと、そう考えられるのである。
 そう考えると彼が卯月の家を訪れた時点で、見舞いの品だけ置いて帰ろうとしたのは、卯月が本当に風邪を引いて休んでいるという事実が確認できたからとも解釈でき、言わばこの時点でプロデューサーはいくらか救われていたと見なせるかもしれない。
 そして卯月がミニライブの件に触れた時、体を強張らせたのは、次に出てくる言葉が自分を否定する言葉と無意識のうちに思い込んでしまったからではないか。卯月への信頼感を見失いつつあるのと同時に湧き上がってきた猜疑心が、彼にそう思い込ませていたように見える。
 しかし卯月が次に話した内容は、彼にとって予想外のものだった。
 あのミニライブの時、卯月は最後まで笑顔で歌うことができなかった。だから次の機会がある時は最後まで笑顔で、凛や未央と一緒にステージに立っていたい。目を輝かせながらそう話す卯月を、ハッとした表情で見つめるプロデューサー。
 笑顔でやり切れなかった後悔があった。未央が戻ってくるかどうかわからない不安もあった。だがそのようなネガティブな感情よりもずっと強い未来への希望が、卯月の心の中に確たるものとして存在し続けていたのである。それは取りも直さず、自分たちの未来を示し背中を押してくれる存在であるプロデューサーへの信頼感が些かも失われていないことを意味していた。

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 アイドルになる夢をずっと抱きながらそれを叶えられずにいた卯月を見つけてくれた、自分を輝くステージに立たせてくれたプロデューサー。凛のようなスカウトにも未央のようなオーディションにも恵まれなかった、そういう意味では彼女ら2人よりも不遇な環境に卯月は甘んじていたと言える。しかし卯月はそんな状況にも決してめげることはなく、明るく元気に夢を信じて日々努力をし続けてきた。そんな彼女の象徴たる「笑顔」を理由に卯月を見出し、アイドルとして導いてくれた大恩ある人への信頼感が揺らぐことなど、彼女にとってはあろうはずもなかったのである。
 卯月にとってプロデューサーは夢を叶えてくれるかもしれない人であると同時に、一部ではあるがもうその夢を叶えてくれた人でもある。その「実績」や「体験」は、卯月にとって彼を信頼するに足る根拠として十分すぎるものであろうことは想像に難くない。だから彼女は今でも迷うことなくプロデューサーを信じ、彼が示してくれるであろう未来も信じることができるのだ。
 これまでの物語の中で卯月がプロデューサーとの間に紡いできた信頼という繋がり。その強さは自分の側から信頼関係を見失いかけてしまっていたプロデューサーの弱った心を奮起させるには十分なものだった。卯月の家を辞したプロデューサーは卯月の笑顔、そして2人がこれまで紡いできた絆の強さに後押しされるように、雨の中を駆けだしていく。その姿はアイドルとプロデューサーの関係性が強まることでより大きな力を育む、「アイドルマスター」の世界観そのものを象徴しているようでもあった。

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 事務所に戻ったプロデューサーはある物をかき集め、またすぐに出かけようとしたところで、ちょうどそこに現れたみくたちと鉢合わせする。
 プロジェクトルームに集まった11人は、みくを先頭に未央たち3人、そしてプロジェクト自体のこれからをプロデューサーに問いただす。その根底にあるのが自分たちが何を頼りにすればいいのか、誰を信用すればいいのかがわからなくなってしまったことへの不安というのは、「やっとデビューまで信じて待っていようって思えたのに」というみくの言葉からも容易に理解できるだろう。

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 現状、彼女たち11人は自分たちで積極的に動いて事態を解決できるような立場にはない。美波とアナスタシア以外は正式デビューすらしていない彼女らにプロジェクトの今後をどうこうできるはずもないし、ニュージェネ3人の去就についても未央の件は近くにかな子や智絵里たちがいたからある程度は把握可能としても、凛や卯月が今この場にいない理由はわからない(無論彼女たちも卯月が「本当に体調不良で休んでいる」と認識できていない)のだから、わからないことに対して対処できないのは当然だ。
 この状況に不安を覚えていても、自分たちはそれを打破するために動くことすらできない。それを口惜しく思っているというのは、凛や卯月の不在を知って歯噛みするみくの描写からも一目瞭然である。彼女たちはニュージェネ3人の今後やプロジェクトの今後そのもの以上に、それらがまったく明確に指し示されず、自分たちで示すこともできない現状に不安を抱いている。
 いや、ここはもう「怖がっている」と表現するのが正しいのかもしれない。自分たちが不安を抱いている要素のすべてが明確に示されず曖昧なまま、時間だけをズルズルと消費していく今の状況に対し抱く感情というのは、怖れ以外の何物でもないだろう。重ねて言うが彼女たちはまだ十代の年若い女の子なのである。湧き上がる負の感情を自分で制御することなど到底望めるものではない。
 莉嘉やみりあの悲しそうな声もだが、杏がいつものだらけた態度を取らずに皆を見つめるというカットが、逆説的に皆のそのような感情を強調し、浮き彫りにしてもいた。
 ここで以前のプロデューサーであれば、かつての未央や凛の時と同様に曖昧な言葉を返すだけだったかもしれない。だが今の彼には信頼という力に後押しされた強い想いがあった。その想いは彼にはっきり「大丈夫」と言わしめる。ニュージェネレーションズは解散しないし誰かが止めることもない、未央も凛も必ず連れて帰るから待っていてほしいと。それは今まで基本的に事実を淡々と伝えることしかしてこなかった彼が、少女たちに向けて初めて話した、彼自身の「望み」だった。

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 そんなプロデューサーの言葉を外で聞いていた大西部長は、彼が部屋を飛び出して行った後、皆を案じてか姿を見せた美嘉と共に部屋に入る。
 どうしたのかと尋ねてきた部長に、まだ若干弱々しいながらも「プロデューサーを待っている」と伝えるみく。
 確たる根拠はない、確約された未来の事象というわけでもない。ただ自分がこうしたい、こうしてみせるという純粋な希望、決意。未だニュージェネ3人も他の11人の未来も、そしてプロジェクトの今後もまだ曖昧なのは事実だが、プロデューサーが内に秘める強い意志を初めて明確に示した、その真摯な態度そのものが、怖れや不安に疲弊したみくたちの心を幾分なりとも救ったというのが、このみくのセリフから窺い知れるだろう。
 そんな少女たちに、部長はとある「昔話」を語り出す。
 それは1人のとてもまっすぐな性格の男の話。男はシンデレラたちが正しく道を進めるよう、いつもまっすぐに道を示してきた。しかしどれほど正しくとも、どんなにまっすぐな示し方であっても、時と場合によってはそれらすべてを息苦しく感じてしまう者が現れるのは避けられない。結果、幾人かのシンデレラが男の下を去っていき、それが繰り返されるうちに男はとても臆病になっていき、いつしか自分を「シンデレラをお城へ送るだけの無口な車輪」に変えてしまった。
 言わば自分で自分に枷という名の魔法をかけてしまったその男は今、その魔法を解き、再びシンデレラに道を示すために雨の中を走り続ける。傘も差さず、ずぶ濡れになりながらもまっすぐに。
 彼の導き出す結果を待ってみようと話す部長。その顔にはまるで結末がわかっているかのような穏やかな笑みが浮かんでいた。

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 未央は昨日と同様、ベッドに横たわったままだった。スマホに表示されている卯月からの未央を案じるメッセージを見やりながらも、卯月への謝罪の念やリーダーとしての責任を放棄した罪悪感を覇気なく吐露するだけで、ベッドから起き上がろうとはしない。
 昨日の、つまりAパートでの同様のシーンの時に比して未央が体をより小さく丸め、縮こまってしまっている描写からは、むしろ時間の経過により、彼女の中で罪悪感や孤独感と言ったものが一層膨れ上がってしまっているようにも見える。
 まして未央の見ていた卯月からのメッセージは、未央や凛に迷惑をかけないよう自分もがんばるから、未央が戻ってくるのを待っているという旨の内容のものばかりで、現在の未央の行動を否定する文言はまったく含まれていない。未央を信じ、未央に迷惑をかけないようにがんばるとまで言ってくれる卯月の優しさがわかるからこそ、実際に今最も迷惑をかけているのが自分であるとはっきり自覚している未央にとってはそれが重すぎる励ましであり、応えられないことへの罪悪感が未央の中でより顕著になってしまっていたのかもしれない。
 と、その時新たなメッセージが着信される。それはプロデューサーからのものだった。気のない態度を示す未央だったが、未央と話をするために家の下まで来ているというメッセージの内容を見て、思わず窓から階下に視線を向ける。

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 果たして階下、マンションの駐車場にプロデューサーはいた。事務所を飛び出した時と同じく、傘も差さずに1人で佇むその姿に未央も驚くが、思わず呟いた「あんなこと言っちゃったのに」という言葉からは、プロデューサーに向けて言い放った「アイドル止める」「もう来ないで」という類の発言に、ある程度の後ろめたさを覚えていたことを窺わせ、ごく普通にそう思える性格こそが未央の本質であって、無下に他人を突っぱねるような今の状態が異常なのだと見ている側に改めて認識させてくれてもいる。
 ところがそんなプロデューサーの下に、マンションの住人からの通報を受けたと思われる警察官が現れて話しかけてきたため、未央も驚いてしまう。
 まあ雨の中を傘も差さずただマンションを見上げているだけの男がいたら、住人が不審者と誤解するのも止むを得ないところであろう。1話での凛のスカウトの時にも見られたこのシークエンスは、張りつめた状態の未央の心を偶然とは言え若干緩和させる効果を発揮しているし、ずっと緊張して見続けていたであろう視聴者側にとっても、わずかながらにホッとさせてくれるシーンとして機能している。
 だがそればかりではなく少々飛躍させて考えてみると、良くも悪くも周囲を顧みない彼の行動は、彼の本来の性格であるまっすぐさに直結しているものと言え、その前提で見ると1話の頃から見られた彼のこの行動は、「無口な車輪」となってしまった現在の状態で、なお発露していた唯一の本来の彼自身と言えるものだったのかもしれない。
 さて前述の「未央の張りつめた心を若干緩和させた」効果は、未央がわざわざ階下に降りてプロデューサーの誤解を解いたと目されるシーンという形で描かれた。しかし未央はすぐ頑なな態度に戻って部屋に戻ろうとする。
 呼びかけたプロデューサーに小さく向けた「止めるって言ったよ」の言葉に、またも委縮するプロデューサー。かつて味わった、彼に本来の個性を抑えつけさせてしまうほどの苦い記憶が今また目の前で再現されていると考えれば今回の、更には6話ラストでの彼の態度にも納得はいく。
 その意味では彼もまた、シンデレラプロジェクトのアイドルたちと同じく「不安」や「怖れ」をずっと抱いてここまで来たのだろう。自分の言動や行動がいつかまた少女たちを追い詰めてしまうかもしれない。自分の最も見たくない光景、聞きたくない言葉を見、聞く羽目になってしまうかもしれない。その想いが彼を「無口な車輪」に変えてしまっていたのだ。
 そんな彼の心を救ったのは、1人の少女の信じる気持ち。自分の未来も大事な仲間も、そして自分を夢見た世界へ誘ってくれた人に対しても、揺らぐことなく信じ続けてくれる少女=アイドルの強い想いが、プロデューサーに力と勇気を与えてくれる。
 みくたち11人の「アイドル」の心を「プロデューサー」の決意が救ったように、「プロデューサー」の心を救ったのも1人の「アイドル」の強い想いだった。「アイドルとプロデューサー」という絆に支えられ、プロデューサーは今まで躊躇っていたその一歩を踏み出し、未央を力強く引きとめる。

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 実家の花屋で物憂げな表情を浮かべる凛の描写を皮切りに、プロデューサーと未央の会話が始まる。
 Bパート冒頭における卯月とのやり取りの開始時にもインサートされた凛のこの描写、意味するところは何かと考えてみると、凛のある心情に思い至るのであるが、それについては後ほど触れることにする。
 1階のエレベーターホールで話を始めたプロデューサーが未央に手渡したのは、あのミニライブの際にプロデューサーが撮影した3人の写真だった。写真に写っている自分自身の顔を見やり、全然笑っていないと自嘲気味に呟く未央。
 そこへプロデューサーが、ミニライブの後に告げた「当然の結果」という言葉の真意を語り出す。失敗して当然という意味の発言ではなく、ライブはむしろ成功だったと。
 「失敗」と決めつけている未央はその言葉を素直に信じようとしないが、プロデューサーは未央の傍らに腰を下ろし、未央に次の写真を見るよう促す。
 細かい点だがこのプロデューサーの「立っている→腰を下ろす」という動作の流れは非常に丁寧だ。誤解が生じていた部分を淡々と説明させる時は立ったまま、つまり未央と視線を敢えて合わせず、自分の考えをきちんと未央に伝える段になった時には腰を下ろし未央と目線の高さを合わせて、「対等に会話している」シチュエーションを構築している。
 ずっと立ったままで話をしていた場合、プロデューサーが未央に高圧的な態度を取っていると視聴者側に受け取られかねず、かと言って心情的に弱り切った状態の未央を無理に立たせるのは演出上難しいし、何より立たせたところでプロデューサーとの目線は、身長差から言っても合わず、どうしても未央が見上げる形になってしまう。ここで重要なのは「プロデューサーが未央に歩み寄る」こと。彼が未央に目線の高さを合わせて屈んだのは、苦い記憶を乗り越えて一歩踏み出した彼自身の決意の象徴でもあったわけだ。
 プロデューサーの指し示した写真には、3人のライブを見つめる観客の姿が小さく写っていた。笑顔を浮かべながら3人を見てくれている観客の姿が。
 言葉を続けるプロデューサー。確かに観客の数自体は決して多くはない。けれど写真に写っているこの人たちは、足を止めて3人の歌を聴いてくれていたのだと。
 数は少なくても3人の歌を聴いていた人はちゃんといた。歌を聴き、ライブを見て笑顔になった人たちがいて、3人は間違いなく自分たちの歌と踊りでその人たちを笑顔にしたのである。その事実こそがこのミニライブを成功と彼が判断した理由だった。「笑顔」をアイドルに必要な条件としてずっと拘ってきたプロデューサーらしい理由と言えるだろう。
 プロデューサーの言葉に、あの時観客から拍手をもらえていたことを思い返す未央。観客が喜び拍手をしてくれたという事実を、彼女もちゃんと記憶の片隅に留めていたのだ。しかし観客の人数にしか目を向けられないままライブを「失敗」と断じた、その思い込みが未央の視界を曇らせ、自分たちに拍手が向けられた、「失敗ではなかった」という事実の根拠さえも記憶の中で喪失させてしまっていたのだろう。
 本来ならばライブ終了後のあのやり取りの中でプロデューサーがそれに気付かせてあげなければならなかったのであるが、さすがにあの時点でプロデューサーにそこまで完璧な立ち回りを求めるのは酷と言うものである。その時の彼は物言わぬ車輪と同等の存在であり、苦しむアイドルを諭すような役回りは、当時の彼の中には存在していなかったのだから。
 今回の一件に明示的な悪人はいないし、悪と断じるべき行動を取った者もいない。しかし確実に2人の間には各々の「落ち度」が存在していた。それが事態をより深刻な方向へ推し進めてしまったのだ。
 そういう意味では随分遠回りしたものの、未央の心情に一歩踏み込む勇気を取り戻した彼は、あの時に本来すべきであったプロデューサーとしての役目をようやく果たせたのだと言える。
 あのライブは決して失敗ではなかった。しかしそれを自覚しても未央はなお顔を伏せる。それは未央の言葉からもわかるとおり、未央にとってミニライブは「成功」でもなかったからに他ならない。

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 未央のその考え方は今更言うまでもなく、自分の勘違いによってライブをダメにしてしまったこと、そして1人であの場から逃げ出してしまったこと。それら自分自身の行為に起因していた。プロデューサーの言うとおり客観的に見れば今回のライブは十分成功と言えるのだが、艦違いとは言えショックを受けていた状態でのライブパフォーマンスは万全ではなく、さらにはリーダーという立場であるにも関わらず、1人逃げ出して最後の最後に気まずい空気を作ってしまったという事実が、彼女に「自分のせいでみんなのライブをダメにしてしまった」という想いを今なお抱かせていたのである。
 顔を伏せる未央を前に、自分も辛そうな表情を浮かべるプロデューサー。今の彼には未央の心情が我が事のように理解できるのであろう。目の前の現実から目を背け「逃げた」ために多くの人に迷惑をかけてしまった、それはプロデューサーも同様だったからに他ならないからだ。
 凛に指摘された通り、彼は自らを「無口な車輪」に変えてかつての苦い記憶、そして今現在目の前にいるプロデュースアイドルからも「逃げて」いた。未央や凛の心を追いつめ、他のプロジェクトメンバーをも混乱させてしまったのも、彼のその逃げの姿勢による部分が大であることは明白なのだから、未央の苦しみに自分を重ねたとしても何ら不思議はないだろう。
 だがただ未央の心情に同調していればいいわけではない。彼はプロデューサー。アイドルが時に迷い苦しむことあらば、また一つの道を指し示してやらなければならない、そういう立場の人間なのだから。
 プロデューサーは未央に、そして自分自身にも言い聞かせるように一言、「戻りましょう」と呼びかける。
 それでもどういう顔で会えばいいのかと渋る未央に、だからこそこのままではいけないと語るプロデューサーは、「このまま貴方たちを失うわけにはいかない」と、自らの正直な想いを打ち明ける。初めて耳にしたプロデューサー自身の純粋な想いに突き動かされるように、涙を拭ってようやく顔を上げる未央。
 それはみくたち11人に向けたものと同様の彼の真摯な言葉が、未来を怖れ先に進むことを躊躇っていた未央に、不安を抱きながらも一歩踏み出す決意を固めさせた瞬間であった。いつしか雨も止み、厚い雨雲の隙間から光芒が差し込む空は、彼女のそんな心の様の暗喩なのであろう。

 雨も上がり日もだいぶ傾いた中、凛はハナコを連れてあの公園のベンチに腰掛けていた。
 そこは初めて出会った卯月の夢と笑顔に心を揺さぶられ、初めてプロデューサーの言葉に耳を傾けようと思えた、凛にとっての始まりの場所。
 そこで凛は自分たちの初めての歌を口ずさんでいたが、その声にやはり覇気はない。やがて歌も止め小さくため息をついたところに、凛を呼ぶ声が響き渡る。
 声の主はプロデューサーと一緒に駆けつけてきた未央だった。自分たちの姿を認めた凛に未央は、一瞬言葉に詰まりながらも自分の正直な想いを口にする。1人で逃げ出して皆に迷惑をかけてしまったことへの謝罪、そしてそれでもこのまま終わりたくない、一緒にアイドルを続けさせてほしいと。
 精一杯の言葉で懸命に紡いだ未央の素直な気持ちに、しかし凛は視線を上げることなく俯いたままだった。凛が未央を大切に思っているというのは今更語るまでもない話だが、ではなぜその凛が未央の謝罪と懇願を聞いても顔を上げなかったのか。

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 あのような形でライブという「仕事場」から未央が逃げ出したことについて、完全に虚心でいられたのかはわからないが、仕事上の是非はともかく凛が卯月と共にひたすら未央を案じ、未央の自宅に向かおうとまで考えた事実があるのだから、今更未央に殊更腹を立てた結果としての行動とは考えにくい。
 そこまで考えると凛の心理状態が見えてくる。未央は凛たちと再びアイドルをしたいと願って戻ってきた。ところが当の凛が今はアイドルというものに意欲を見出せなくなってしまっている。未央が改めて顔を上げ一歩を踏み出した時点で、凛と未央とで心理面における立場、立ち位置と呼ぶべきものが逆転してしまっており、それ故にアイドルを続けたいという未央の言葉に視線を上げられなかったのではないだろうか。
 未央の想いだけでは今の凛の弱った心は戻らない。そんな凛に向け、彼女の心を著しく憔悴させたであろうもう1人の人物が歩み寄る。
 プロデューサーからの呼びかけに視線を向ける凛。プロデューサーは自分のこれまでを振り返り、凛たちと正面から向き合わず逃げていたこと、そのために凛や未央たちを混乱させ傷つけてしまったと語る。
 だがここでプロデューサーは謝罪の言葉を口にしない。何故なら凛はAパートでのプロデューサーとのやり取りで「謝罪」自体は聞いているから。プロデューサーがそれを念頭に入れていたというわけではないだろうが、少なくとも今の凛に必要なものは謝罪の繰り返しではなく、未央たち他のアイドルと同様に、プロデューサーが素直な気持ちを凛に打ち明けることだったのだ。
 彼の言葉に触発されたのか、凛も静かに語り出す。アイドルが何なのかよくわからないまま初めて、よくわからないままここまで来た。でももうこれまでのようにわからないままは、迷った時に誰を頼ればいいのかわからないままなのはもう嫌だという凛のその言葉は、単に内面の不安を吐露しただけではなく、その不安に自分1人では抗いきれない、彼女の弱さをも曝け出していた。

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 Aパートの時のように気を張ってプロデューサーを問い詰めるわけでも、まして叱咤するわけでもない。その性格故に普段は、そしてこのような状況に至っても容易に露わには出来なかった、しかしずっと胸の奥に秘めていた自分自身の弱さを、凛は恐らく初めてプロデューサーという他者の前に曝したのである。
 それは今回の出来事のみならず、アイドルそのものに対して常に彼女が心のどこかで引っかかっていたものだったのだろう。卯月や未央のようにアイドルというものに対する明確な憧れや目標のない自分が、アイドルという自分のまったく知らないものになっていく、そのことに怖れを抱かないはずはなかったのだ。
 そして無理もない話であるが卯月も未央も、そしてプロデューサーも、彼女のそんな弱い面に気づく者は誰もいなかった。今まではそれでも良かったが今回のような重大事に直面し、自分よりもずっとアイドルに愛着を持ってきた未央がアイドルを止めると言い出したその時から、凛は弱い自分を抑えられなくなってきたに違いない。
 弱い自分を支えてほしい、だがそれを一番期待していたはずのプロデューサーに対する信頼感は喪失してしまった。それでもやはり諦めきれない。凛のそんな複雑な胸中を描くための描写、それが卯月や未央とプロデューサーがそれぞれ会話を始めるシーンの冒頭でインサートされる、実家の花屋での凛の様子だったのではなかったか。期待できないけれども完全には割り切れない、そんな十代の少女の相反する想いを見せるのがあのシーンの目的であったように思えるのである。
 その直後からプロデューサーと卯月や未央の会話シーンが始まるのは、凛が打ち明けられるまで、凛の本心が聞けるほどになるまでに、プロデューサーが卯月・未央との会話を経て成長する、段階的なプロセスを明示する意味もあったのかもしれない。
 自身の弱さを曝け出すのは凛にとって重大な選択であったろうことは疑いない。もし自分のこの気持ちさえも拒絶されてしまったら、少なくともアイドルを続けることは完全に不可能となるだろう。目線を下げつつ独白する凛の姿からは、そうなることを怖れている様がありありと窺える。
 それでも言わないではいられなかった凛にプロデューサーは歩み寄り、もう一度みんなに信じてもらえるよう努力すると、凛に手を差し伸べる。無論これもはっきりと約束できる類のものではないかもしれない。しかしはっきりと凛を見つめて話すプロデューサーの真摯でまっすぐな想いは、凛の怖れを次第に霧消させていく。

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 しかしその怖れをまだ完全に打ち消すことができないのか、差し出されたプロデューサーの手を取ろうと出した自分の手を、凛は下げようとしてしまう。
 そんな凛の手を引きとめたのは、駆け寄った未央の手だった。未央はプロデューサーと凛の手を取り合わせ、想いを込めて凛に呼びかける。
 かつて卯月の想いに触れてプロデューサーへの信頼感を抱き始めた凛が、今また未央というもう1人の仲間の助力を受け、改めてプロデューサーとの信頼を紡ぎ始めようとするシークエンスは1話の再現であると同時に、未央とも同様のプロセスを経ることで凛がかつての1話で卯月に抱いた想いと似て非なる想いを未央に抱かせ、凛にとって卯月と未央の双方とも極めて等価な存在=仲間であることを再認識させる構成にもなっている。
 つまりこの時にしてようやく3人は、「ニュージェネレーションズ」の仲間としてとりあえずの完成を見たと言えるのである。
 だからあの時と同じ「夢中になれる何かを見つけに行こう」というプロデューサーの言葉も、素直に受け止められるほどには信頼感を取り戻すことができたのだ。
 出自も立場も異なっていた3人が、図らずも同様のシチュエーションを経て結束を高めるその話運びは、実際に画とするためには細かい伏線を幾重にも張り巡らす必要があるというのは、1話からずっと視聴してきた方であれば容易に理解できるところだろう。離れ業と言ってもいいこの構成をきちんとクライマックスに持ってきた制作陣の手腕には、今更ながら舌を巻かざるを得ない。
 プロデューサーの手に引かれるように立ち上がった凛、そして未央に、「明日からもよろしくお願いします」と伝えるプロデューサー。2人の力強い返事は、勘違いとすれ違いの中でいつしか見失っていたものを再び見定めた証であった。

 すっかり天候も回復して青空が広がる翌日、凛と未央はシンデレラプロジェクトに戻ってきた。
 揃って頭を下げる2人に涙を見せながら飛びつき、戻ってきてくれたことを喜ぶ卯月。未来への希望を失うことはなかったものの、不安を拭い去ることも出来なかった「普通の女の子」である卯月らしい行動だろう。それでも2人に何も言わずただ戻ってきたことを喜んでくれる卯月に、凛も未央も救われたような笑顔を見せる。

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 ちなみに厳密には卯月は寝込んでいたため、その間の凛や未央にプロデューサー、他のプロジェクトメンバーの様子はまったく知らないのであるが、それについて卯月自身がどう捉えて何を思ったかという点については、本放送では今話の翌週、8話の一週前に放送された特別番組「スペシャルプログラム」内における1話から7話までの出来事を卯月の視点で振り返るというコーナーにて、卯月のモノローグという形で触れられているので、機会があれば是非視聴していただきたいところだ。
 部長に一礼したプロデューサーは11人の方に向きなおり、自分たちが戻ってくるまで待っていてくれたことへの感謝と、改めてシンデレラプロジェクトを進めていくことを伝える。

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 一緒に一歩ずつ階段を登っていこうと呼びかける彼の言葉に大きく返事をする一同。紆余曲折あったものの、結果的にはプロジェクトとしての結束もより高まったのかもしれない。それはそのすぐ後に未央から出た「プロデューサーの丁寧口調を止めてみたら」という提案に、皆が賛意を示すところからも察せられるだろう。
 少々困った態度を取りながらたどたどしく言葉を言い直すプロデューサーに、部屋の中はひとしきり楽しげな笑い声に包まれる。そんな様子を扉の向こうから美嘉は1人、笑顔を浮かべながら聞いていた。
 今回の出来事が無事に解決して胸をなでおろしているのは美嘉も同じだったわけだが、中に入ってはというちひろさんからの誘いを、部外者だからと少々寂しそうに断る姿も印象に残る。彼女が今後シンデレラプロジェクトの面々と関わることはあるのだろうか。
 そして卯月、凛、未央の3人はプロデューサーと共に、ミニライブを行った会場を再び訪れる。
 心残りもあったし、辛い経験も苦い想いもたくさん味わった初めてのライブ。しかし同時に彼女たち3人の中に残ったものも、新たに育まれたものも確実に存在している。それらすべての、そして彼女たちニュージェネレーションズにとっての始まりの地と言うべき会場を、複雑な表情で見つめる凛と未央。
 その中にあってただ1人、卯月だけは一切の迷いなく、次に行うであろうライブに想いを馳せていた。凛に未央、そしてプロデューサーと一緒にどこまでも前を見て、夢に向かって進むことを願う卯月の揺らがない想いに、2人も思わず笑顔を作る。卯月のその強い想いは、2人にとって心の拠り所となるのだろうか。
 3人は手を取り合い、今度こそ自分たち自身の足で歩み始める。夢を叶えるため、求めるものを得るため、そして一度失った「ガラスの靴」を再び自分たちのものとするため、かつて自分たちに勇気をくれた大事な言葉と共に、いつか見たきらめくステージを目指して新たな一歩を踏み出すのであった。

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 今話の中で描かれているのは本文中で何度も触れているとおり、「アイドルとプロデューサー」という関係性の喪失と再構築である。アイドルマスターという作品そのものが、基本的にその二者間の関係性を中心軸として作品世界を展開させているのであるから、アイマスの名を冠する本作においても、この関係性を物語世界の根幹に据えるというのはごく自然な流れであろう。
 アイドルとプロデューサーが互いを信じあい、より強い絆を育むことでそれぞれが願う夢や目標に向かって歩み続ける原動力が生み出される。既に先達たるアニメ版アイドルマスターで幾度となく描かれてきたテーゼであるが、本作ではその流れを一旦初期化し、二者の信頼関係がいかにして生み出されるか、困難を乗り越えて育まれるのかを改めて初手から描くことに注力している。
 その意味ではプロデューサーに出会った1話の時点で強い信頼感を抱いていた卯月、逆に1話開始の時点ではむしろマイナスに振り切れていたものの、段階的に信頼感を積み上げてきた凛、そしてオーディション選抜という経緯もあってか3人の中では可もなく不可もなくと言ったスタンスだった未央の3人に焦点を当てて、それぞれの関係性構築と喪失
を描いたのは、三者間における対比がしやすいという意味でも非常にわかりやすい構成として仕上がっていた。
 そして喪失した信頼関係を取り戻す、回復させる手段として全編通して貫かれている、もっと言えばアニマス本編の時分から一貫している理念は、理屈ではなく各々の極めて純粋な想いを相手に届ける、ということだった。相手がそれを受け止められるかはわからないし、言ったところで未来が自分の願うとおりになるかどうかも不明ではあるのだが、まずは自分の素直な想いを信じたい、信じてほしいと思う相手に自分の心からの想いを曝け出すこと。決して最良の選択とは言えないが、本作においてはそれが最適解なのである。
 その視点に立って考えてみると、卯月だけがプロデューサーへの信頼が揺らがなかった理由も容易に理解できる。彼女は3人の中でただ1人だけ、事務的な内容や客観的な事実だけでない、プロデューサーの「本音」を間近で聞いてきていたのだ。
 1話で1人レッスンに励む卯月の成果に「いい感じですね」と、3話でバックダンサーの大任を果たした卯月に「いいステージでした」と言葉少なに、しかしはっきりと自分の想いを伝えている、全体通してみればほんの些細なやりとりであるが、それが大きな柱のような存在となって卯月の心を支えてきた、だから彼女は迷うことも見失うこともなかったのである。
 素直な想いを相手に届けることが、互いの関係性をより強くする。6話から生じていた一連の問題の解決の糸口は、1話や3話の時点で実は既に明示されていたのだ。
 そして良くも悪くも常に素直な未央に対してプロデューサーは自分の正直な気持ちを話し、凛はそんな2人を前にやっと他者のことではなく自分自身の素直な想いを口にする。それぞれがやるべきことに気づき、あるいは気づかされ、互いにそれを実践する。
 当たり前だが信頼関係というものは互いに相手がいて初めて成立する関係だ。だからこそ一度喪失したその関係性を再構築するためには、互いの心の交流を描くことが必須となる。それをドラマとして描くには非常に丹念に且つ丁寧に各々の心情や交流を描写する必要があるが、本作の制作陣はそれに真正面から臨み、見事に喪失と再生の物語として完成させた。その手腕と作品に対する真摯な姿勢には、今更ながら感嘆を禁じ得ない。
 本作がこれからどのような挿話を紡いでいくのかはわからないが、少なくとも本編に登場するアイドルの少女たちにとって、どんな形であれ幸福な結末が待っていることは間違いないと、改めてそう確信させてくれるような、今話はそんな物語であった。

 もう一点触れねばならないところとしては、このアイドルとプロデューサーという関係性の喪失と再生というテーマは、かつてのアニメ版アイドルマスターでも描かれたものだった。
 古参のファンには今更説明不要だろうが、アニマスの6話から13話に至るまで、物語の縦糸軸として連綿と構築されてきた「美希とプロデューサー」の物語である。
 別にどちらがどうと比較するわけではなく、かつてのアニマスが第1クール終盤を彩るメインの物語の一つとして用意していたこのテーマと同じものを、本作では第1クール序盤の物語の目玉として用意してきたことに注目したい。本作とアニマスの関係は、同様のテーマを掲げていても、構成や演出の仕方が変われば内容そのものはこれほどまでに変容するというこれ以上ない好例と言えるだろう。
 とりあえずは第1クール終盤を彩る物語がどのようなものになるのか、そこに大いに期待したいところである。

 さて一つの大きな問題が解決したシンデレラプロジェクト、彼女らが次に直面する物語は如何様なものとなるのか。
 特番を挟んでの第8話からは他のプロジェクトメンバーに焦点を当てていくようだが、どのような展開になるのか、興味は尽きない。



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