2015年06月08日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第8話「I want you to know my hidden heart.」感想

 卯月、凛、未央の3人を中心としたアイドルを目指す14人の少女たちの物語は、互いに手を取り合いながら力強く新たな一歩を踏み出す3人の姿を象徴として、一旦の節目を迎えた。
 少女たちがそれぞれの立場や経緯からアイドルを志すようになり、時に傷つきながらも互いに努力し励まし合いながら、仲間やプロデューサーとの絆を育み、それを糧として各々が抱いた夢に向かって歩き始めるという展開は、まぎれもなくアイドルマスターの名を冠するにふさわしい、「アイドルを目指す少女たち」の成長譚として成立していたと言えるだろう。
 そしてもちろん彼女たちの物語はまだまだ始まったばかりだ。その先にはまだ知らないことや未知のものがたくさんあり、それら一つ一つに彼女たちが直面する都度、新たな物語が生み出されていくことになるのである。
 さてそんなたくさんの「知らないこと」がある中で、皆が真っ先に知らなければならないものと言えば、まずは同じシンデレラプロジェクトに所属する仲間の人となりであろう。とりわけ過去の経緯もあってメンバーから一歩引いて接していたプロデューサーにしてみれば、それは急務の事項と言っても差し支えあるまい。
 今話でクローズアップされるのは、そんなプロジェクトメンバーの中で最も人となりがわかりにくいと思われる少女である。その理由は言うまでもなく、彼女の「言葉」に起因していた。

 前話から幾分かの時が流れ、初夏の強い日差しが346プロのビルを照らす中、元気良く挨拶をしながらプロジェクトルームに入ってくる未央。もうすっかりいつもの調子に戻った様子だ。
 先に部屋に来ていた蘭子とアナスタシアも親しげに挨拶を返すが、蘭子は例によって大仰な言い回しでの挨拶だった。さすがに「煩わしい太陽ね」という言葉を「おはようございます」とすぐに解釈できる人間は滅多にいまい。
 そんな言い回しを好む蘭子にしてみれば、未央のつけた「らんらん」という可愛らしい自分のあだ名に戸惑うのも仕方のないところだろう。
 しかし蘭子が決して偏屈なわけではなく、むしろ純粋な性格の持ち主であるということは、未央の取り出した携帯扇風機や衣類用の冷却スプレーを見て「涼しそう」「冷たそう」と、ごくごく普通の感想を述べた点からも十分察せられる。ただそのような素直な感想も、彼女の言い回しにかかると「シルフの戯れ」「シヴァの息吹」となってしまうのであるが。

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 今のこの流れを引き合いに出すまでもなく、蘭子という少女は別に本心を隠しているわけではないのだが、それを伝える手段が第三者からすると難解なために、結果としてコミュニケーションが成立しにくくなってしまっている。ニュアンス程度なら既に皆も理解できているようだし、それだけでも蘭子がいい子だということは十分認識できるのだが、だからこのままの状態でいいと言うものでもない。
 今話はその「このままの状態」ではいられなくなった時に、蘭子や周囲の面々が何を考えどう立ち回るのか、それを描くのが骨子となる。
 ちなみに本筋とはあまり関係ない話だが、蘭子の発言の中にあった「シルフ」とは中世の錬金術師・パラケルススが提唱した地水火風の四大元素にそれぞれ存在する四精霊のうち、風の精霊とされる存在であり、「シヴァ」とはヒンドゥー教の最高神の1人(一柱)である破壊神のことである。
 前者はともかく後者は冷気とは本来関係ない存在なのだが、これは恐らく近来の各種ゲーム作品によって付与された「氷・冷気を司る」属性に影響を受けているのだろう。

 やがて部屋に集まったみんなもめいめい、未央の持ってきた扇風機や冷却スプレー、そして7話でも未央の部屋に置かれていたハンバーガーを模した大きなクッションを話の種にして盛り上がる。初夏というだけあって全員夏を意識した服装に変わっており、原作ゲーム中では私服の変化があまり見られないだけに、かなり新鮮な印象を見る側に与えてくれる画となっている。
 そんな中、当の未央はプロデューサーに私物の持ち込み許可を進言していた。その提案に仕事に関係ないものは必要ないとつれない態度を示すみくであったが、彼女が普段つけているネコ耳は仕事用だからセーフらしい。確かにアイドルとしてのみくのアイデンティティを形成する大事な道具であることは間違いないのだが。
 みくに反対されて少し意気消沈する未央。それにより事務所の中がより明るくなる、みんなの個性が見えるようになって面白いという未央の考え方は、誰に対しても物怖じせず積極的に交流を図ろうとする性格の未央らしいアイデアだろう。
 少々深読みをしてみれば、6話及び7話で起きた事件の原因の一端は、未央とプロデューサー相互の理解度不足にもあったのだから、それを踏まえてプロジェクトメンバー全員との関係性を強めたいという意思が働いたと考えることも出来るのであるが、実際にはそこまで過去の事象に深く縛られた故の発想ではないだろう。やはり未央は単純にみんなともっと仲良くなりたいという極めて純粋で素直な衝動からこのような提案をしたと捉えるべきで、その方は明るく元気で人懐っこいいつもの未央らしいと言うものである。
 そんな未央の心情を汲み取ったのか、プロデューサーは改めて全員にこの提案の是非について尋ねる。それはプロデューサーとして非常に良い姿勢なのだが、前話のラストで未央から言われた「丁寧口調を止めよう」という提案もあって、普段の「です・ます」調的言葉で話した後に慌てて「だ・である」口調で律義に言い直すというのを繰り返しており、何とも言えない可笑しさを醸し出している。その様子を見ていた卯月と凛が苦笑してしまうのも当然と言ったところだろう。

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 プロデューサーからの問いに美波やきらり、莉嘉にみりあは賛意を示すが、みくは仕事とプライベートは分けたいという考えから、先ほどと同様に否定的な返事を返す。そんなみくの意見に「今の事務所の雰囲気はクールで嫌いじゃないから」とまったく異なる理由ではあるものの、李衣菜が賛同しているのは面白い。みく本人がそれを珍しがっているのは、視聴者が抱くであろう印象のメタフィクション的な代弁とも、制作陣という神の視点からの茶化しとも取れる。
 真面目すぎるみくと莉嘉とが、意見の相違からあわや口論というところにまで発展しかかってしまったため、プロデューサーは少し悩みながらもそれぞれ1人一品ずつのみ持ち込みOKとしてはどうかと妥協案を提示してきた。
 直前まで寝こけていたにもかかわらず突然飛び起きてきた杏の質問から、ある程度弁えてさえいれば基本何でも持ち込んで良いという言質も取れ、みくも李衣菜もとりあえずは了承し、喜ぶ一同。未央も嬉しそうにプロデューサーにお礼を告げる。
 プロデューサーのこの異なる二種の意見のどちらか一方を否定することなく、両方を掛けあわせた上で妥協点を模索したというやり方は、片方を無下に否定すればそちらに遺恨が残る可能性もあり、それが引いてはメンバー間の軋轢に発展しかねない危険性を考えれば、プロジェクトメンバーをまとめる立場としても、1人のプロデューサーとしても理想的な提案であったと言えるだろう。それはそのまま「アイドルマスター」という作品がずっと定義してきたプロデューサーとしての理想像の1つに重なるとも言えるのだから。
 この「相手の考え方を否定しない」彼のやり方、プロデューサーとしての有り様は、後々の展開に生かされることとなる。
 一気ににぎやかになった室内に大西部長とちひろさんが入ってくる。ちひろさんに促され、プロデューサーは改めて皆を集めてある重大事項の説明を始める。それはラブライカ、ニュージェネレーションズに続くプロジェクトメンバーのCDデビュー決定の知らせだった。
 久々の朗報に一同もにわかに色めき立つ。次は誰がデビューするのか、自分がデビューできるのかを気にかけるものがほとんどの中で、みんなに悪いからデビューを譲るとあっさり言ってのける娘がいるのは、何ともシンデレラプロジェクトらしいところではあるが。

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 プロデューサーが口にした次のデビューメンバーは蘭子だった。今回は前回と違い蘭子単独のソロデビューということで、また次回以降となってしまったみくや莉嘉は残念そうな表情を浮かべるが、「待っていて下さい」というプロデューサーの言葉に笑顔を作り、蘭子に激励の言葉を送る。
 みくたちが不満を飲み込んで素直に蘭子を祝福出来たのも、5話や7話を経てより深まったプロデューサーとの強い信頼があればこそだろう。7話での一件以降はそれぞれプロデューサーと良好な関係を構築してきているであろうという時間経過も窺えて、6、7話の展開を見届けた視聴者は、このやり取りだけでも一種の感慨深さを抱いたのではないだろうか。
 皆の祝福を受け、蘭子も全力で取り組むといつもの口調で宣言する。その表情が喜びに溢れているのは言うまでもない。

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 デビューに向けて蘭子とプロデューサーがミーティングを始める一方、他のメンバーはいつも通りベテラントレーナー指導の下でレッスンに勤しむ。さり気なく描かれる美波とアナスタシア、ラブライカのダンスがかなり切れの良いものになっており、表情にも以前より自信が感じられ、2人の著しい成長が垣間見えよう。
 未デビュー組のみくたちはストレッチをしながらデビュー話に花を咲かせる。蘭子の次は3人編成のユニット2組でデビューというプロデューサーの説明があったようで、今はプロデューサーを信じて待とうというみく。彼女がいつの間にか原作ゲームではおなじみの「Pチャン」呼称を使用しているところからも、彼への信頼感が強まっていることがわかるだろう。
 みくが非常に良い変化をしている一方で、杏はいつものごとくレッスンを嫌がって抜け出しており、全員が全員一斉に何かしら変わったと言うわけでもないようだ。それぞれが独自の個性を持っている以上それは当然の話なのであるが、それをここできちんと見せるのは、制作陣がキャラクターに対して常に真剣に向き合って描写しようとしているからこそと言える。
 蘭子の歌はかな子やみくが想像した通り、ゴシック的な雰囲気を前面に押し出したものになっていた。一口にゴシックと言っても具体的にどういうものか言葉で説明するのは非常に難しいところだが、蘭子の場合は単純なゴシックというよりはいわゆる「ゴスロリ」様式に比重が置かれていると考えた方が正しいかもしれない。曲調もパンクやデスメタルと言うよりは軽めのロック(ポップ・ロック)であり、その意味では李衣菜の「めちゃロック」という言葉もあながち的外れではないのかもしれない。
 まだ曲が出来ているだけで詞は完成していないもの、蘭子のイメージに合わせて作られたという曲の出来栄えには蘭子もご満悦の様子。プロデューサーは残る作詞と同時にPVの企画を進めているということで、その企画書を蘭子に手渡す。
 こちらも蘭子のイメージに合わせてダークなゴシックホラーの雰囲気で制作する計画のようであるが、企画書を一読した蘭子はその内容に何か衝撃を受けたらしく、企画書をゆっくりと差し戻す。やけに丁寧な仕草なのが可愛らしいが、どうやら企画の内容に不満があるようで、蘭子はもっと違う感じで行きたいという意思をいつもの口調でプロデューサーに伝える。

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 そこでプロデューサーが取り出すメモ帳に、蘭子の使う言葉とそれについての自分なりの解釈がまとめられているのが何とも面白い。わざわざメモとしてまとめているところに彼のちょっと度が過ぎていると言えなくもない几帳面さが窺え、ギャグ的要素として機能しているだけでなく、難解ではあっても自分から蘭子に歩み寄ろうとしている努力や誠実さも同時に描いている点は巧い見せ方と言えるだろう。
 そのメモを頼りに企画の内容に問題を感じているところまではプロデューサーもどうにか察し、蘭子は自信たっぷりといった様子で自分の考える案を披露する。
 特徴的なポーズを取りつつ放った発言内容を単純に書き記すと「かつて崇高なる使命を帯びて、無垢なる翼は黒く染まり、やがて真の魔王への覚醒が」となるのだが、さすがにプロデューサーがこの意味を理解するのはメモ帳を使っても難しかったようで、蘭子の希望を完全に読み取ることは出来なかった。
 蘭子の希望と現在の企画案との間に明確な差異を見出せないプロデューサーに、思わずふくれっ面をする蘭子。原作ゲームの限定SR「[覚醒魔王]神崎蘭子」でも見られたこのふくれっ面は、自分の想いが相手に通じない場合に蘭子が思わず取ってしまう仕草として、ファンにはよく知られたものである。

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 こういう特徴的な言葉遣いをしていれば、今回のようなすれ違いや認識の齟齬はいずれ起こりうることであり、客観的に見ればこのような事態になっても言葉遣いを平易なものに変えない蘭子がわがままと思われても仕方のない場面ではある。無論それにはきちんとした理由があるのだが、この時点ではまだそれは明らかにはされない。仮にそれが明らかになっていたとしても、それを以て彼女に一方的な変化を強いるのもまた酷と言うものであろう。
 なぜなら彼女は14歳。莉嘉やみりあとさほど年齢の変わらない、プロジェクトメンバー内でも年少者の側に属する「子供」だからだ。変化が必要だと理解していても、それをすぐに実践できるような器用な立ち回りが、14歳の子供に容易く出来ようはずもない。曲がりなりにも蘭子の言葉遣いは彼女の重要なアイデンティティなのだから。
 それを理解しているのかは不明だが、変化を求めようとせず自分の側からの歩み寄りに徹底しているプロデューサーの姿勢は、極めて賢明なものと言えるだろう。
 しかしそれはそれとして意思の疎通が取れていないのは大きな問題である。結局その日のミーティングは問題が解決しないまま終わり、1人事務所を出て帰路につく蘭子。ちょうどニュージェネ3人とラブライカの2人、それにみりあも帰宅するタイミングだったため、蘭子を見かけた未央がデビューの件について気さくに尋ねるが、浮かない表情の蘭子に皆も訝しむものの、肝心の話す言葉が例によってわかりにくいため、具体的に何があったのかは判然としない。だからなのか、1人ごく普通に頷いている者がいることに誰も気づかなかったようであるが。
 寂しそうにお疲れ様の挨拶を意味する「闇に飲まれよ」という言葉を残して立ち去ろうとする蘭子を追いかけるアナスタシア。熊本出身の蘭子と北海道出身のアナスタシアは346プロ所有の女子寮に住んでいるため、帰り道が同じなのである。
 元気のない様子の蘭子を凛たちも案じるが、詳細が分からない以上どうすることもできなかった。
 このあたりの蘭子とプロデューサーの考え方のずれは、言葉の足りなさがすれ違いを生じさせる一端となった6話や7話と違い、蘭子としては言葉を尽くしているのにもかかわらずすれ違いが生じてしまっているという点で、前話でのコミュニケーション上の問題とは若干異なる。ニュアンスを理解する程度ならという注釈を加えるなら、蘭子とプロデューサーの会話は普通に成立しているだけに、なおのこと蘭子の本心が伝わらない、プロデューサーも理解してあげられないという事実に対するジレンマが深まる構成となっている。
 原作ゲームにある程度通じている人間であれば蘭子の意図するところは比較的容易に理解できるであろうが、本作からデレマスそのものに触れる人にとっては蘭子の言い回しの理解に苦慮するプロデューサーの姿は、そのまま初見である視聴者自身の蘭子に対する印象とシンクロしているとも言えるわけで、その視点から考えると積極的に理解しようとしているのに理解しきれないプロデューサーの戸惑いは、そのまま今話の内容への見る側の没入度を高める効果としても機能していると言えるだろう。
 赤信号に自動車の赤いテールライト、消火栓や送水口を示す赤い標識、赤いカラーコーンなど、執拗に「赤色」を押し出してくるカットも、蘭子とプロデューサーとの関係性が「止まっている」ことを明示するだけでなく、このような現状の物語世界への没入度を高める意図があるのかもしれない。
 アナスタシアは元気のない蘭子を案じるが、それに対する蘭子の答えはただでさえ難しい日本語が苦手なハーフのアナスタシアに到底理解できるものではなかった。
 それでもなお健気に蘭子を案じ、力になれることはあるかと問いかけてくるアナスタシアに心配無用と返答する蘭子だったが、その表情が笑顔に戻っていたのはアナスタシアの優しさに触れたからというのは言うまでもない。蘭子もまた他人の気遣いを素直に受け止め汲み取ることのできる、心の優しい女の子なのだ。

 女子寮に戻ってきた2人を迎えたのは1話以来の登場であり、先に5話の予告編でも蘭子とのやり取りを披露していた(そしてOPでは美嘉たちと共にワンカット出演している)先輩アイドルの白坂小梅、そしてこちらは本作では初登場の星輝子だった。
 2人ともたどたどしいしゃべり方が特徴の女の子だが、同時に2人揃って非常に際立った個性の持ち主でもある。
 輝子は手に持っていた(恐らく自分で栽培したと思われる)シイタケの声真似?をして蘭子たちに挨拶していたことからも察せられるが、大のキノコ好きであり、「親友」と呼ぶほどにキノコを溺愛している少女だ。それだけでも十分に一風変わっているのだが、輝子にはまだここでは描かれない強烈な個性が実は隠されている。彼女がステージ衣装をまとってステージに立った時に判明するのであるが、それを本作中で見る日は来るのだろうか。

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 一方の小梅は通販で届いた映画のディスクが届いたので一緒に見ようと2人に持ちかけるが、その映画の内容はホラー。小梅はホラー絡みのものが大好きで、公式プロフィールでも趣味として挙げられているものはホラー・スプラッタ映画鑑賞に心霊スポット巡りと、ホラー・心霊ネタが目白押しとなっているくらいなのである。しかも単に好きというだけでなく実際に…、という面も隠れているのだが、こちらもこのシーンでは描かれないので、今後に期待と言うところだろう。

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 しかし小梅からの誘いを受けた蘭子は慌てたそぶりで「儀式があるので」と言い残して早々に部屋に戻ってしまった。
 その際の冷や汗をかいている様子や体を震わせている仕草からも容易にわかるとおり、実は蘭子は小梅とは正反対にホラーの類が大の苦手なのである。これは既発売済のドラマCDなどでも触れられている由緒正しい設定であるが、それならば蘭子がPVの企画案を拒否した行為についても得心がいくと言うものであろう。
 自室に戻った蘭子は決意の表情を浮かべ、おもむろにスケッチブックを手に取り、何かを書き込み始める。食堂での夕食も1人で先に終え、「何か」の作成に夢中になる蘭子。しかしそれが何なのかはアナスタシアや同じく寮住まいの大阪出身であるみくにはわかりかねるところでもあった。

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 ちなみにみくやアナスタシアの食事シーンでは、同じ寮に住んでいると思しき小梅や輝子以外のアイドルが何人か登場している。輝子の姿に隠れているのはそのアホ毛から見るに、蘭子と同じ熊本出身の小日向美穂だろうが、その正面に座っているのは仙台出身の佐久間まゆであろうか。端の方に映っている後ろ姿の少女は1話でも少し登場した福岡出身の上田鈴帆、その正面にいるのは大阪出身の難波笑美だろう。
 元々シンデレラガールズに登場するアイドルは全国各地(場合によっては海外)から集まっており、本作のシンデレラプロジェクトだけでも関東以外の場所が出身の娘が幾人かいるため、住まいがどうなっているのかは以前からファンの気にしていた事項であったのだが、今回明確にその回答が得られたわけで、この設定が今後どのようにストーリーに絡むか、あるいはストーリーを膨らませる上で貢献してくれるのか、大いに期待したいところだ。
 ついでに言えば食事中、口に食べ物を入れている状態のアナスタシアがしゃべる際に、手を口に当てて口が相手に見えないようにする仕草が、アニマス11話でパスタを食べる時の春香の仕草と同様な育ちの良さを感じさせる好演出だった。

 あくる日もプロジェクトルームでスケッチブックへの書き込みを続けていた蘭子だったが、ついに完成した様子。画面から判断する限り、可愛らしい絵柄のイラストを描き込んでいたようだが、それに気付いた未央が近寄ると慌ててすぐにスケッチブックを抱え込んでしまう。
 このスケッチブック自体は未央が考えていた蘭子の「私物の一品」ではなく、蘭子曰く自分の魂の一部で決して切り離すことのできない「グリモワール」であるらしい。
 実は5話でも少しだけ出てきていたこのスケッチブック、「グリモワール」の本来の意味はヨーロッパで流布したという実際の魔導書の名前(総称)であり、かの有名な「エロイムエッサイム、我は求め訴えたり」という呪文の原典でもあるが、蘭子の場合はさしずめ自分の空想や夢をイラストとして描き残すための道具と言うところか。いかにも蘭子らしいネーミングであるが、実際の魔導書というものが有り体に言って非現実の内容が書き記されたものであることを考えれば、あながち的外れな名前とも言えないだろう。
 何にせよこのスケッチブックは事務所に置くために持ってきた私物ではないということで、蘭子は改めて持参してきた「一品」を未央に指し示す。
 やがて皆も部屋に集まりいつものように和気藹々とすごす。未央を始め私物の一品を一早く持参した者も何人かおり、皆は思い思いのスタイルでその一品を活用していた。
 劇中で明確に名指しはされていないが、画面上から判断する限りではかな子の使用しているティーセットはそのままかな子、パターゴルフセットは未央、クローバーの形をした置物が智絵里で2話で撮影したプロジェクトメンバー全員の集合写真が入ったフォトスタンドは恐らく卯月、お絵描きセットはみりあ、天球儀はアナスタシアがそれぞれ持ってきたのだと思われる。フォトスタンドと卯月はすぐには結び付かないので判断が難しいところではあるが、後に出てくる他メンバーの持ち込み品を考えた上での消去法と、7話で過去に撮影した写真を大切に扱っている描写がなされていたという二つの点から、卯月の私物と考えて差し支えないだろうと思われる。
 そして凛は花屋の娘らしくきれいな花を持参していた。涼しげな印象を与える白色の花に卯月たちも見とれる中、蘭子は小さく「きれい」と感想を漏らす。いつもの口調ではない、彼女の素直な想いがそのまま吐露された言葉に凛もアナスタシアも、そして部屋に入ってきたプロデューサーも思わずハッとして蘭子に目を向ける。しかしプロデューサーの存在に気付いた蘭子は驚いたように顔をこわばらせて目を逸らしてしまった。

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 かな子からのお誘いを受けてお茶とクッキーをいただくことにするプロデューサー。クッキーはいつものようにかな子が自作したものと思われるが、4話での智絵里とのやり取りを踏まえて、恐らく智絵里のために四つ葉のクローバーの形をしたクッキーをきちんと混ぜているのは、かな子の優しさと細かい気遣い故のものだろう。
 ここでもプロデューサーは律義にいつもの丁寧口調を砕けた口調に言い直していたが、さすがに毎度毎度言い直す苦労を見兼ねたか、提案者の未央を始めみんなも彼の口調の変更についてはあきらめた様子で苦笑する。
 元々未央が口調の変更を提案したのは「プロデューサーがアイドルたちにより近づくため、仲良くなるため」という理由だったことを考えると、みくや莉嘉たちからも一定の信頼を得、かな子たちと一緒にお茶やクッキーを楽しむほどに親睦を深めている現在のプロデューサーに、そのような瑣末な変更はもはや無用なのであろう。
 小さくさり気ないコメディタッチの描写ではあるが、実はとても大切なことをこの一連の流れは訴えている。
 そんな中、李衣菜が入口のドアノブにぶら下がっている飾りについて尋ねてきた。それは蘭子がみんなの中では一番最初に持ってきた私物の一品だと未央が説明するが、当の蘭子は恥ずかしいのか頬を赤く染め、先ほどと同様に視線を逸らしてしまう。
 蘭子の持ってきた一品は、馬に使われる蹄鉄を飾りにしたものだった。本来は馬の蹄を保護するために使用されるものだが、扉にぶら下げることで魔除けや幸運のお守りとして扱われる場合もあるという話に感心する一同。

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 それを説明するのが凛というのは、所謂「中の人ネタ」を知っている人なら思わずニヤリとしてしまいそうなシークエンスだが、蹄鉄をお守りとする考え方もヨーロッパが発祥のようなので、ゴシック的なものを愛好する蘭子らしい私物と言えるだろう。
 蘭子もいつものように大仰な振る舞いを取りつつ難しい言葉を並べるが、その意味は要約すると「お守りの力で皆さんも幸せになって下さいね」という、ストレートに話すとなると少々気恥ずかしい内容であるためか、堂々とした振る舞いに反して顔には冷や汗が浮かんでいた。みんなから素直に感謝されたり褒められたりすると、照れてすぐ言葉少なになってしまう点も、彼女の見た目と内面のギャップを端的に表している。
 莉嘉の発した「ドクロとか血塗られた十字架とか持ってくるかと思った」という旨の発言は、そのような蘭子の見た目や立ち居振る舞いから受ける印象と内面と間に生じる齟齬を、最も如実に示したものと言えるかもしれなかった。
 ドクロとか血と言った言葉を聞くだけで怖がってしまう蘭子を、ホラー系は苦手なのだとフォローするアナスタシア。「意外だね」という凛の言葉が象徴しているように、みんなも大なり小なり莉嘉と同じような印象を持っていたようで一様に驚くが、とりわけプロデューサーは驚きも一入であったろう。PVの企画案を蘭子が拒否した理由が今ここで判明したわけだから。
 思わず蘭子を見つめるプロデューサーであったがしかし、蘭子はまたも視線を逸らすだけだった。

 偶然とは言え蘭子の本音の一端を知ることができたプロデューサーであったが、それで即事態好転とはならない。確かに蘭子がPV案を拒否した理由はわかったが、では蘭子はどのようなPVを望んであの時口にしていたのか、そもそも今回の件でさえ偶然わかっただけで蘭子とのコミュニケーションに未だ難があることは変わりないからだ。
 根本的な問題を解決できていない以上、当然このまま放置しておくわけにはいかない。プロデューサーは改めて話をするために蘭子の下へ赴くが、蘭子は何かを言いたげにしながらもそれを抑えるように「プロヴァンスの風」とだけ叫んで立ちさってしまう。その後も幾度繰り返しても蘭子はその都度同じような態度を取って立ち去る、と言うよりは逃げてしまうため、プロデューサーも困惑するばかり。
 「プロレタリア文学」やら「プロテイン」などと様々な言葉を用いるものの、最後はネタが尽きたのか力なく「プリン」と呟くところは失礼ながら可愛らしく見えてしまうが、それをいちいちメモに取り、蘭子にとってはどのような意味なのかを思案するプロデューサーの真面目ぶりも、その接し方は良いことだとわかっていても何とも可笑しい。
 蘭子が本当に言いたい言葉は「プロ」で始まる単語らしい…と白々しいことを書くまでもなく、彼女が口にしたい言葉、そしてその次に何を行いたいのかは、視聴者側からすれば明々白々であろう。そしてそれを実際に口に出来ない理由も。
 これまでの蘭子の描写を見ていれば容易に察せられることと思うが、彼女は本来相当な恥ずかしがり屋なのだ。相手の名前をそのまま呼ぶことにさえ抵抗を覚えてしまうほどの。彼女がいつも難解な言葉を使っているのは、その性格故に普通の言葉は素直に口に出来ないからという側面があったわけなのだが、今回はその言葉遣いでの意思疎通が完全に行えなかったため、何とかごく普通の言葉で自分の気持ちを伝えようとしているのである。
 極度の恥ずかしがり屋が「恥ずかしい」と思っている行為を実行するのには、大変な勇気と決断力が必要になるが、今の蘭子にはその2つとも欠けてしまっているのだろう。だからプロデューサーに本心を告げられず1人思い悩み、プロデューサーと蘭子のやり取りを見かけた未央たちのとりなしも拒んでしまう。一連の様子から蘭子はスケッチブックに描いたイラストをプロデューサーに見せたいのではと未央は推測するが、肝心の蘭子がそれを見せたがらないのではどうしようもない。
 蘭子とまともに話ができず、プロデューサーもどうすれば良いか考えあぐねる。書き取ったメモを見てもそれらの言葉自体にはさしたる意味はないのだから、そこから蘭子の真意を汲み取ろうとするのは無理な話なのであるが、残念ながらそれは今のプロデューサーの考えが及ぶところではなかった。
 そんな彼の下を訪ねる凛。凛は蘭子から避けられているというプロデューサーの考えをやんわりと否定し、言葉を理解することよりもまず蘭子に近づいてみたらいいとアドバイスする。

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 それは前話においてプロデューサーへの信頼を喪失し弱りきった自分の心が、まっすぐな想いを胸に再び駆けつけてくれたプロデューサー自身の行為に救われた、その経験があったからこその意見だった。
 これはプロデューサーへのアドバイスという形ではあるが、あの時来てくれたプロデューサーに対する凛なりの謝意を示したとも言える。あの時プロデューサーが駆け付けたこと、自分の混乱する心情を受け止めてくれたこと、その上でもう一度アイドルとして進む道を示すとはっきり言ってくれたこと、それらすべてが凛にとっては本当に嬉しかったに違いない。
 凛はそういう感情をストレートにプロデューサーに打ち明けるタイプではないが、この「自分たちにしてくれたことと同じことをすればきっとうまくいく」という言い方の中には彼の行為、引いては彼自身への強い信頼が込められており、見ようによってはこの時点における凛のプロデューサーに対する最大級の「デレ」だったと言えるのではなかろうか。
 それを意識していたのかはわからないが、プロデューサーと凛のやり取りを部屋の外で聞いている卯月と未央の様子が、プロデューサーとアイドルと言うよりむしろ「仲の好い男女の会話」を聞きながら喜んでいるように見えるところも、受け手のそう言った捉え方を肯定しているように思える。
 プロデューサーは改めて他のプロジェクトメンバーに蘭子の人となりについて尋ねる一方、蘭子も自分の気持ちを伝えられないことをメンバーに相談していた。会話を弾ませるきっかけにとかな子がお菓子を差し出すのはいかにもかな子らしい提案であるが、それは同時にみりあや智絵里と言った、蘭子の悩みに共感し協力したいと想う仲間たちの優しさの象徴でもあった。
 そこへあの時と同じように駆けつけるプロデューサー。さり気ない描写だが歩いてきたのではなく「駆けつけてきた」ことも、殊この場面においては重要な演出であろう。プロデューサーは蘭子と話をするため、2人で346プロ内の「聖なる泉」、すなわち噴水前に移動する。
 陽も傾いた夕焼け空の下、蘭子と少し離れた位置に腰を下ろしたプロデューサーは、空が綺麗だと他愛ない世間話を始め、蘭子も強い日差しのせいで日焼けしそうだと他愛ない返事を返す。

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 仕事の話を持ち出さず世間話を続ける行為が、蘭子により近づきたいというプロデューサーの意思から生じているのは疑いないだろう。そして蘭子も彼と同じ気持ちだというのは、日差しが強いと漏らしたプロデューサーに自分の日傘を手渡すことで2人の座る位置が近づき、かな子からもらったお菓子をプロデューサーに差し出すという描写として表現されている。日傘を渡されたプロデューサーが結局自分に対してはほとんど使わず、隣の蘭子の方にだけ傘を傾けているところに、彼のさり気ない気遣いが感じられて良い。
 静かに流れていく時間の中、他愛のない会話をゆっくりと進める2人。休日は何をしているかとか音楽は何を聞くかと言った質問から始まるやり取りは極めて平凡なものだが、蘭子の言葉遣いはいつものままなので、どこかシュールな印象を受ける。そんな蘭子に対し彼女の言葉の意味を書き記していたメモ帳を脇に置き、彼女の言葉の意味を直接理解しようとしているプロデューサーの接し方は注視すべきだろう。
 当人たちは至って真剣なのであるが、傍から見るとまるでお見合いでもしているかのようなやり取りになってしまっているのも面白い。2人の様子を後ろの建物の中からかな子やみりあたち他のメンバーが心配そうに見守っているのも、そんな印象に拍車をかけている。
 とは言え一足飛びに相手を理解することなど出来るはずもないのだから、地味で定番な質問を重ねて蘭子に少しずつ歩み寄ろうとするプロデューサーの姿勢は、愚直ではあるが非常に的を射たものと言える。
 彼のそんな態度が功を奏したのは、彼がハンバーグを話題に出した時だった。ハンバーグとは先ほどプロデューサーが他のメンバーに蘭子の人となりを尋ねていた時にみくから聞いた、蘭子の好きな食べ物である。
 その言葉を聞いた蘭子が立ちあがって驚いたのは、「禁忌に触れる」という発言から考えてみても、それがあまり知られたくない事柄だったからだろうというのは容易に察せられる。そこにはハンバーグという「子供の好きなもの」のイメージが強い食べ物と普段の自分とのギャップを気にしたからとか、食べ物の好みという単純な事柄ではあるが自分の内面が曝け出されてしまうのを恥ずかしがったと言った、彼女なりの複雑な理由があったのは間違いない。
 ところがプロデューサーが次に口にしたのは、「自分もハンバーグが好き」という言葉だけだった。蘭子の好みを自分と同じだと言い回すことで肯定し、ありのままを受け入れようとしている彼の姿勢は、生来の恥ずかしがりな性格やPV企画の件で一度コミュニケーションに失敗した経験からの緊張故に頑なになってしまっていた蘭子の心を静かに解きほぐす。一度はプロデューサーから離れながらもまた元の位置に戻る仕草は、その証左と言うところだ。
 ここで改めて考えてみると、蘭子が自分のスケッチブックをプロデューサーになかなか見せられなかったのは、恥ずかしがり屋という自分の性格が多分に影響しているのは間違いないが、それとは別にこれでもまたもし自分の意図や考えがプロデューサーに届かなかったら、という恐れがあったからと思われる。自分を曝け出す恥ずかしさを乗り越えたとしてそれでも自分を理解してもらえなかった時のことを考えると、彼女がスケッチブックを見せるのを躊躇してしまっていた心情も理解できよう。
 しかしプロデューサーはすべて意識した上での行動ではないだろうが、結果として本題に入る前にハンバーグの件というワンクッションを置くことで、蘭子の素直な気持ちを受け止めようとしている自己の姿勢を明示した。その態度は蘭子の胸中に芽生えていた恐れを軽減し、恥ずかしがり屋の自分の背中を後押ししてくれるには十分なものであったろう。
 蘭子は意を決して立ち上がり、何度も逡巡しながらついにずっと言いたかったに違いない「プロデューサー」という言葉と共に、持っていたスケッチブックを手渡す。
 それでもまだびくついた様子で目を閉じてしまうのは、ここまでしてもなお自分の想いが通じなかった場合を想像しての恐れ故だろうか。ちょうど蘭子だけが画面に映って隣にいるプロデューサーもスケッチブックの中身も一切映されておらず、スケッチブックを見ている瞬間のプロデューサーの様子を一切窺い知ることが出来ないという構図もまた、蘭子の抱いている不安感を強調している。
 ややあって口を開くプロデューサー。彼はスケッチブックに描かれたある2つのイラストの関係性について尋ねてきた。すぐには返答しない蘭子を促すように、プロデューサーは「とても大事なことだと思う」と質問した理由を続ける。
 このプロデューサーの発言に対する蘭子の心の変遷の見せ方は実に巧妙だ。一見するとプロデューサーは蘭子の描いたイラストに興味を持って理解しようとしているのに、未だ躊躇う蘭子が頑な過ぎるように見えるのだが、ここまでの2人のやり取りを思い返してみると、単に「プロデューサーが蘭子を理解しようとしている」だけではこれ以上の進展が見込めないということがきちんと描写されている。
 プロデューサーが自分の気持ちを受け止め理解しようとしてくれているというのは、ハンバーグの件で蘭子も既に十分理解しており、むしろそれを理解しているからこそ勇気を振り絞ってスケッチブックを手渡せたのであって、蘭子がそれ以上の行為、即ちもう一度自分の言葉で自分の想いを伝えられるようになるためには、プロデューサーもワンステップ上の行為を示さなければならなかった。それがストーリーの文脈上の必然だったのだ。
 そこでプロデューサーが次に示した行為、それは2枚の絵の間に何かしらの経緯があって変遷している、つまり「イラストの中に蘭子独自の世界観とストーリーが存在している」ことに独力で気づくことだった。本人としてはそれを意識的にやったわけではなく、あくまで蘭子という一個人と真摯に向き合った結果としての気づきだったのだが、この第8話という物語の中では彼の気づきは蘭子に対する最適解だったと言うわけである。それは取りも直さず蘭子の価値観を共有する者、彼女の言うところの「瞳を持つ者」であることの一番の証にもなるのだから。
 蘭子もそれを理解したからこそ自らの瞳を輝かせ、プロデューサーを「我が友」と称して、イラストに託した自分の想いをとうとうと語り出す。今までの不安げな所作が吹き飛んだかのような自信たっぷりの蘭子の姿は、作画の流麗さもあって「美しい」という言葉がふさわしい振る舞いとなっている。一気に話し終えた後に疲れて息を切らせてしまう、少々子供っぽい仕草とのギャップによるコントラストも良い味を出していた。

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 一度焦点がぼけたような画面が次第にはっきり映し出されるという演出が入るのは、語っているうちに内なる自信をより確かなものに出来た暗喩だろうか。二羽の白い鳥が羽ばたきながら彼方へ飛んでいく描写も象徴的だ。
 プロデューサーも蘭子の話を聞き、イラストに込められているものが「聖なる存在の堕天」という世界観であるとついに理解する。自分の想いが通じたと破顔する蘭子と改めてPV企画についての話を始めるプロデューサー。そんな2人の様子を見守る卯月たちも笑顔を浮かべる。
 決定した蘭子のユニット名は「ROSENBURG ENGEL(ローゼンブルク・エンゲル)」。ドイツ語で「薔薇の城の天使」を意味するこの名称は、「聖なる存在でありながら闇に堕ちた堕天使」の持つ妖しい美しさを、美しさ(花)と危うさ(棘)とが共存しているバラに形容して表現している凝ったネーミングである。
 元々の名称が「ROSENBURG EKLIPSE(ローゼンブルク・エクリプス、ドイツ語で「薔薇の城を蝕む」)であったことを考えると、バラについての名称上の意味合いが若干変わったようであるが、蘭子の望むイメージを具象化するという点では怪我の功名的効果と言えるかもしれない。
 そして蘭子の新曲PVが今話独自仕様のエンディングテーマとして流される。曲は「-LENGE- 仇なす剣 光の旋律(しらべ)」。LENGEというのは「ENGEL」を逆から表記した造語で読みはそのまま「エンゲル」とのことだが、聖なる存在である天使と闇に堕ちた堕天使という、同一でありながら光と闇というまったく異なる属性を備えた存在を謳う曲のタイトルにはふさわしい言葉であろう。
 衣装もダークイメージを強調しつつ、背中の一対の羽は光と闇の暗喩と言える白と黒の色を湛え、歌詞も闇に堕ち罪の業火を纏いながらも堕天の存在として在り続けるというような、総じて蘭子のイメージに即したものに仕上がっている。

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 ついでに言えば今話の放送終了後すぐに本曲の発売日が告知されたが、アニマスも含めて劇中で初披露された新曲のCD発売としては非常に短いスパン(最速放送:3月6日→発売日:3月25日)になっているのも、デレマスのみならずアイマス全体としても初めての試みであり、今後の展開も含めて興味深いところだ。
 自信たっぷりに、そして楽しそうにPVを撮影する蘭子。その胸中には自分の言葉に込められた思いを理解してくれたプロデューサー、そしてシンデレラプロジェクトの仲間たちへの感謝の気持ちで溢れていた。

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 それから幾日か経ち、プロジェクトルームはそれぞれが持参した私物の効果により、今までよりも親しみやすい、「彼女たちのお城」に変わっていた。
 Bパート冒頭の描写から新たに追加されたものは、杏の巨大なうさぎ型クッションにみくの猫足型マグネット、美波が持ってきたと思しきキャンドルセット、きらりのソファーカバー、李衣菜のヘッドホンセット。未央や莉嘉たちが遊んでいるいわゆる「ブタミントン」はわかりにくいが、今話の脚本担当の言を参考に考えると、パターセットと入れ替えに未央が持ってきたと考えるのが妥当だろう。どちらも「みんなで一緒に楽しめるもの」であるところが未央らしい選択である。
 そこへやってきた蘭子に文字通り飛びつく未央。未央の「らんらん」呼びにはまだ若干の抵抗はあるようだが、抱きつかれても照れることなく笑顔を見せるあたり、以前よりも確実に蘭子と仲間たちの距離が縮まったことが窺える。
 蘭子の新曲CDは売り上げ好調のようで、今日もこれからステージの仕事が控えているらしい。未央も莉嘉も我が事のように喜ぶが、返ってきた蘭子の「月は満ちて太陽は滅ぶ。漆黒の闇に解き放たれし翼」という言葉は相変わらず難しく、容易には理解できない。
 ところがここに、その言葉を「今日も仕事で帰りが遅くなる」と完璧に理解した者が1人いた。仰天する一同にむしろみんなは今までわかっていなかったのかと返すみりあ。これにはさすがのプロデューサーも思わず突っ込みを入れてしまう。

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 無垢なる少女のような澱みのない純真な心こそが、言葉の壁や思い込みを超えた純粋な想いを理解するのに必要だった…ということなのかもしれない。

 シンデレラプロジェクトのこれからの進展に向けて互いが互いを、とりわけプロデューサーはアイドルたちをより深く知っていかなければならないというのは冒頭に記した通りであるが、今話はそのうちの後者、即ちプロデューサーの側に注目した内容となっている。
 今回目指されたのは6、7話での復帰劇を経てアイドルとプロデューサーの関係性の深化の必要性に改めて気づいたプロデューサーが、それをどのように実践するか、アイドルはそれに対してどのように対応するのか、それを見せることだったわけだ。
 アイドル同士の関係性についてのドラマを盛り込んでしまったら、今話の目指すところであるアイドルとプロデューサーの関係性についてのドラマという大事な焦点がぼやけてしまうことにもなりかねず、次のデビューアイドルをソロユニットとしたのはその辺りの物語的な説得力の付与という側面も多分にあったのだろう。
 さらに物語上の焦点をより浮き彫りにするという意味で、プロデューサーに決して空く感情は持っておらず、しかし意思疎通にはかなりの困難を伴い、他のメンバーアイドルも助け船を出しにくいキャラクターとして、プロデューサーと一対一で向き合うアイドルに蘭子が選出されたのは必然であったと言える。
 蘭子とのコミュニケーションがうまくいかず立ち止まりかけてしまうプロデューサー。そんな2人の関係性を回復させ、より強固にしたものとは結局のところ7話で未央や凛の心を救ったのと同様、彼自身の愚直なまでにまっすぐなその姿勢だった。お世辞にも器用な立ち回りとは言えないが、その真摯な想いは凛や未央と同様に蘭子の心を救い、関係性を進化させるに至った。これは言うまでもなく作品世界としてはプロデューサーのやり方こそがこのシンデレラプロジェクト、引いては所属する蘭子たちアイドルにとっては最良の方法であることを示唆している。
 7話でそのやり方を実践した結果としての今の凛との関係性を、蘭子とどう向き合えばいいか分からず悩むプロデューサーを凛の助言が救うという展開で描いておくことで、その示唆をより強調しているという点も忘れてはならない。
 忘れてならない演出上の良点と言えば、前話のラストから継続して描かれていたプロデューサーの丁寧口調を止めるか否か、という描写が挙げられよう。
 未央たちに言われた通りプロデューサーも何とか口調を変えようと努力はするものの、最終的には無理に変えるのは難しいという判断に落ち着く。しかし彼の口調が一時的にフランクになったから、また結局元の丁寧口調に戻ったからと言って、特にプロデューサーのアイドルへの接し方や話す内容が変わったわけではないし、逆もまた然りである。
 これが何を言っているか、今話を最後まで見た諸兄であればすぐに理解できるだろう。つまりこのプロデューサーの「変わらない」描写は、そのまま蘭子の口調が最終的に「変わらない」ことの物語的な肯定につながっているのだ。
 一般的に考えれば他人が聞いても意味がよくわからない言葉、しかも外国語のようなれっきとした言語ではなく単なる言い回し上の問題となれば、その言葉を使う側により平易な言葉を使わせようとするのが普通だろう。今話で言えば蘭子の言葉遣いがまさにその対象になるわけだが、今話の登場人物の中で誰一人蘭子の言葉遣いを平易なものに強制的に変えようとする者はおらず、現在の口調のままでその意味を理解しようと努めている。誰も蘭子に「変化」を強要していないのだ。
 相手を無理に変えようとする前にまず相手を理解しようとし、変わるか否か自体は当人の意思に任せる。これがプロデューサーの選んだ「まっすぐ」というプロデュース方針の最たるものであった。それは同時にかつてのアニマスのプロデューサーが選択した、そして歴代のアイマス作品で最も良しとされているアイドルとのコミュニケーションの手段でもある。
 アイドルの意思を尊重して一方的に抑えつけず、それでいてより良い方向に進めるよう行動する。今話でそれを実践してみせたプロデューサーは、本当の意味での「アイドルマスターのプロデューサー」にようやくなることができたと言えるだろう。
 そして変化を強要されなかった蘭子は、最終的に自分の意思で「自分の考えをきちんと相手に伝えるために勇気を出す」という変化を遂げている。実際にやれたことと言えばスケッチブックに描いた内容を見せるだけという傍目にはごくごく小さな変化であるが、喜んでスケッチブックを取り出したにもかかわらずその中身はきらりに見せようとしなかった5話での描写を思えば、今話でのこの変化は蘭子にとっては大きな一歩となったことは論を持たない。
 さらに言えばこの「相手に変化を強要しない」シンデレラプロジェクトメンバーのスタンスを、見ている側に素直に納得させる要因として、アナスタシアの存在及び今話におけるクローズアップも挙げられよう。
 知っての通りアナスタシアは日本語に若干不慣れなところがあり、ロシア語で呟いてから同じ意味の日本語を口にする、という独特の喋り方をする。日本語とロシア語、2つの言語が自分の中で共存しているという点において、アナスタシアは蘭子の鏡写しと言える存在なのだ。
 そして2話での初登場の時点から誰もアナスタシアに口調の修正を強要してはいない。このアナスタシアに対する皆の接し方、それ自体が「相手に変化を強要しない」スタンスを静かに作品世界に、そして見ている我々視聴者に根付かせていたと言えるのである。
 制作側がどこまで意図していたのかは不明だが、もしこの見せ方が相手に変化を強要せず自由意思を尊重するという本作らしい優しい世界観を根付かせるための計算であったとするならば、まさに見事と言う他ない。
 いや、この場合はやはり計算ではなく偶発的な要素が重なっての結果と捉えるべきか。振った賽の目が偶然良い結果に繋がるというのは、作品それ自体が計算を超えたパワーを内包していることの証左なのだから。

 今話ではプロデューサーとアイドルという関係性の深化が描かれた。となると次は当然アイドル同士の関係性の深化が描かれることになるのだろう。
 予告を見る限りではかな子、智絵里、杏の3人がメインになるようだが、杏という非常に癖の強いキャラクターを前に、他の2人はどのように立ち回るのであろうか。



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