2015年06月15日

アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ 第9話「"Sweet" is a magical word to make you happy!」感想

 今更言うまでもなく、シンデレラプロジェクトは14人のアイドルと1人のプロデューサーが所属している、結構な大所帯である(アシスタントという立場でちひろさんも間接的に関与しているが)。
 7話までで描かれた1つの大きな流れの物語が完結した現在、全員がまずしなければならないのはお互いをよく知ることであるというのは前話の感想で既に記した通りである。
 このうち7話で示されたプロデューサーとアイドルという関係の方向性をさらに突き詰めたのが8話の流れであった。アイドルを知るためにプロデューサーはどう行動するか、その行動を前にアイドルはどのような想いを抱き対応するか、それらをプロデューサーと蘭子という一つの具体的な例を通して明示したのが前話のストーリー上の主軸であったと言えるだろう。
 であれば本作が次に描かなければならないのは、必然的に「アイドル同士の関係性」となる。プロデューサーとは異なり基本的には自分と同じ立ち位置、極めて近しい存在である同僚アイドルとの関係性は、プロデューサーとのそれとは当然異なるものになるわけだが、さらに今話ではその関係性が紡がれる過程のドラマを色濃く浮かび上がらせるために、一つのギミックが施された。
 それは「複数メンバーで構成されたアイドルユニット」である。前話で誕生したローゼンブルクエンゲルはソロユニットであったし、ラブライカの美波とアナスタシアやニュージェネレーションズの卯月、凛、未央は元から同じ面子で行動を共にすることが多く、ユニット結成は普段の交友関係の延長線上に位置するものでもあったが、今回新たに結成された「CANDY ISLAND(キャンディ・アイランド)」の構成メンバーは前3ユニットとは決定的に異なっている。
 所属メンバーのうち、かな子と智絵里は2話以降たびたび一緒にいるシーンが描かれていたのでさほど違和感はないが、3人目のメンバーである杏とはまったくと言っていいほど絡むシーンがなく、ユニット結成によって初めて行動を共にすることとなった間柄だ。
 もちろん決してこれまでの3人の仲に問題があったという話ではないが、3人で行動することは皆無であったこの面々が、外的な要因とは言え共に行動するようになることで、どのような関係性が築かれていくのか、そこを描くのが本作の肝となる。

 さてこのキャンディアイランド、作品世界の時間軸上では今話の開始よりも以前にデビューとCDリリースを行っていたようで、冒頭で描かれるのはそのデビューCD「Happy×2 Days」のリリースイベント、いわゆるお渡し会だ。
 結構広めのイベント会場は、かつてのアニマス1話でまだ売れていない頃の天海春香が自らCDを販売していたCDショップの店頭とはえらい違いだが、肝心の手渡しをするかな子や智恵理たちアイドルの様子は、終始笑顔だった春香と違って少々ぎこちない。
 こちらはデビューしたばかりだからやむを得ない部分はもちろんあるが、そんな中にただ1人、にこやかな笑顔を作って積極的にCDの手渡しとユニットの宣伝に勤しむアイドルがいた。

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 少しでも杏のキャラクター性を知っていれば「誰だお前!?」と突っ込みたくなること必至であろう。原作ゲームから慣れ親しんできた層であれば、彼女が「そういう一面」を持っていることも理解できるはずであるが、それでも普段の杏からはあまりにかけ離れたこの姿や笑顔の放つインパクトは、ほとんどの視聴者に強烈過ぎる印象を残したであろうことは想像に難くない。
 前述のとおり原作ゲームでの杏を詳しく知っていれば、今回のこの振る舞いも決して不思議なものではないのだが、予備知識があってもなお見る者が驚かせられるのは、やはりアニメという映像媒体でその描写が具体的な画として明示されたからに他ならないだろう。この辺はアニメならではの利点というところか。

 イベントから数日経った後のプロジェクトルームでは、キャンディアイランドのテレビ番組への初出演決定の報を聞きつけた未央やみくたちが、嬉しそうにかな子や智絵里に話しかけていた。
 3人が出演する番組は「頭脳でドン!Blain's Castle!!」というクイズ番組。二組のアイドルチームが「アピールタイム」を賭けて成績を競う形式で、346プロアイドルの先輩である川島瑞樹、そして十時愛梨が司会を務めている番組でもある。
 ちょうど明日収録と言うことでクイズの予習をしていたかな子や智絵里を未央にみく、そして李衣菜は素直に羨ましがるが、2人の方は初のテレビ番組収録に対して不安の色を隠せない。殊に智絵里は生来の弱気な面が災いしてか、大勢の観客に見られながらの収録という状況にかなり緊張している様子だ。
 そんな2人に同調するのは3人目のメンバーである杏だが、前話で持ち込んだウサギ型の大きなクッションに座り込みながら不安と呟くその様は、どうにもかな子や智絵里と同様の意味での「不安」を抱えているようには見えない。それもそのはずで後に続いた言葉を聞けばわかるとおり、杏の不安とはCD発売の件で自分としては珍しく働いたので今後しばらくは働かなくていいと考えていたのに、その上テレビ番組の収録まですると働きすぎなのでもう限界、という意味でのものだった。
 このセリフを聞いて原作を遊んでいる人であればニヤリとしただろうし、アニメから入った人であれば冒頭の杏の笑顔に得心が行ったことだろう。つまり冒頭のお渡し回で見せた笑顔は決して勤労意欲に目覚めたからではなく、とりあえず働いて一定の成果を出しておき、その成果を元にしてまた働かないで済む生活を過ごそうという算段からのものだったのである。
 「明日の楽のために今日少しだけ苦労する」という考え方は杏の生き方の根本の一つと言ってもいいもので、特に4話でも少し触れていたがCDの販売は印税が発生する仕事だから、「印税生活」「不労所得」を目標にしている杏にとっては多少無理してでもやり遂げるべき仕事だったわけだ。
 アイドルとしては甚だ不純な動機ではあるが、未来の安定した収入と自由な生活を得るために今存在する仕事をきちんとこなすという姿勢は真面目そのものとも言えるので一概に否定もできない、何とも不思議な話ではある。
 そんな杏にしてみればCD販売関連の仕事をこなした時点で自分のノルマは達成したようなものなので、テレビ番組出演を面倒がるのは当然と言えなくもないのだが、一般的な考え方からはかけ離れているのも事実。やる気のない態度を見せる杏に未央からのするどいツッコミが飛んだ。
 ハッとする3人に未央は「バラエティの基本はボケとツッコミとリアクション」と持論を展開、これらを習得すれば問題ないと力説する。2話でも見られた未央のミーハーチックな一面が再び描かれているが、かな子や智絵里にとって自信たっぷりのその発言はかなり頼りがいのあるものと受け止められたようだ。2人以上にみくが力強く同意しているのは、お笑いに関してはうるさいとされる大阪の出身故だろうか。
 早速ツッコミの練習を始める2人。ツッコミの定型文句とも言うべき「なんでやねん」をひたすら繰り返すその光景は、どこからかハリセンまで持ち出して指導する未央や、いつの間にか指導に参加しているみくの大真面目な態度も合わさってかなりのシュールさを醸し出している。

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 2人に反して杏は特訓には参加せず、みくたちからモノボケするよう指示を受けてもただ寝返ってツチノコの物真似をするだけという、いつものようにやる気のない態度を見せていた。
 そんな杏のボケを待ってましたとばかりにすかさずツッコミを入れるみくはさすが大阪出身と言うべきところだが、自分のボケを未央に「ぬるい」と評されてむっとした表情を作る杏にも、やる気はなくともある程度の自尊心、意地のようなものを持っていることが窺えて楽しい。

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 ところがツッコミの件はともかく、スタジオ内の観客の存在を思い出してまたも智絵里は弱気になってしまう。控え目で引っ込み思案な性格の智絵里にとっては、大勢の人に見られることそのものがかなりの緊張を強いられる事態なのだ。
 まずはそれを何とかしなければということで、何かしらの妙案?を思いついた様子の未央は、そのまま別室のプロデューサーを訪ねる。智絵里の緊張をほぐすためにプロデューサーの協力を求める未央だったが、カット内に映っているプロデューサーのデスクの上のディスプレイをよく見ると、「緊張のほぐし方」というタイトルのサイトが表示されており、プロデューサーとしてもテレビ出演を控えて緊張している智絵里たちを心配し、緊張を解消するための方法を元々思案していたようだ。
 その智絵里はアイドルをすること自体は楽しいが、大勢の人の前ではどうしても緊張してしまうという自身の悩みを改めて吐露していた。智絵里の悩みに同調するかな子。そんな2人に自分なら絶対楽しむ、お客も楽しませると豪語するのはみくだった。そちらに同意する李衣菜も含め、このシーンでそれぞれの個性を強調しているのは興味深い。
 人前に立つことを楽しもうとするみくたちの姿勢は、これまでの挿話の端々でも見受けられたアイドルを目指す者としての意識の高さが窺え、その意味では緊張している智絵里やかな子の方が少なくとも精神面においてはアイドルとして未熟と言わざるを得ないところであるが、同時にそれは普通の人間が普通に抱くであろう、ごく当たり前の感情でもある。簡単に克服できる者がいれば、そう出来ない者がいるのも当然の話なのだ。
 だからこそ様々な性格のアイドルたちを様々な点でサポート、フォローし背中を押す存在が必要になってくる。それが誰を指しているのかは今更言うまでもないだろう。
 ところがそんな重要な存在であるプロデューサーの呼びかけを聞いて皆が視線を向けたその先にいたのは、彼の着こんだ大きなカエルの着ぐるみだった。お世辞にもかわいいとは言えない着ぐるみの見た目と大きさに驚いて一同が悲鳴を上げる一方で、彼と一緒に現れた未央はあまりの似合わなさに大笑いする。

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 未央が言うには「緊張したらお客の顔をカボチャと思えばいい」というよく言われる話を実践してみたとの話だが、実際にプロデューサーが着てきたのはカボチャとはまったく違うカエルだったのだから、ここは李衣菜でなくても突っ込まざるを得ないだろう。
 カエルの着ぐるみしか残っていなかったためにこうなったらしいが、それでも少しでも智絵里たちの役に立てればと敢えて着こんでくれたプロデューサーの気遣いに、智絵里もかな子も笑顔を作る。
 その真剣な態度とカエルの着ぐるみという見た目のアンマッチぶりから来る可笑しさも少しは影響しているのだろうが、何はともあれ明るさを取り戻した2人は勝負に勝ってアピールタイムをゲットするべく、かな子が音頭を取って掛け声を上げる。唯一反応しなかった杏もみんなの視線を受け、いつものだらけた感じの調子ではあるものの後から声を上げるのは、御愛嬌と言うところだろうか。

 そして翌日、番組収録の日がやってきた。キャンディアイランドの3人も既に楽屋入りしていたが、前日に気合を入れたとは言えやはり本番直前となれば緊張するなと言うのが無理な話で、かな子はクイズの予習を繰り返し、智絵里は昨日のプロデューサーの行動に倣って観客をカエルと思い込もうとしたり、ツッコミの練習を思い返したりするのに余念がない。
 ただ1人、杏だけはいつものように飴をなめながらだらだらと寝転がっていた。いつもと変わらぬ堂々と?した態度はさすがと言うべきなのだろうが、とてもやる気があるようには見えないので素直に褒めるのも難しいところか。ただやる気はないにせよ仕事自体をサボるような真似をしていないのは、何だかんだで受けた仕事は一応きちんとこなすという原作ゲームからの性格設定をしっかり踏襲している。
 と、そこへ1人の少女が入り込んでくる。応援に駆けつけると言っていた未央たちかと思いきや、入ってきたのは先輩アイドルの輿水幸子だった。本編では1話冒頭のライブと2話での卯月たちの「冒険」シーン、ナレーターとしては3話の予告編に登場したのみであったが、今回ようやくの本格的なゲスト参加である。

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 見てすぐわかるとおり何もしていなくとも素直に可愛いと思えるルックスを持つ、いかにもアイドルと言った感じの美少女なのだが、楽屋に入ってきた時のセリフを聞けばわかるとおり自分の可愛らしさに過剰なまでの自信を持っており、それを言動や行動の端々に反映させるため、若干小憎らしく思えてしまうのが玉にきずだ。
 しかしキャンディアイランドの楽屋に入ってきたのが自分の所属するユニット「KBYD」の楽屋と間違えてのものであったり、同じユニットメンバーの小早川紗枝や姫川由紀にそのことを茶化されてバレバレの言い訳をしてしまうなど少々抜けた面があり、それも含めて幸子の魅力となっている。

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 幸子に2話でも登場した紗枝、そして今話で初登場の由紀を加えた3人のユニット「KBYD」が、かな子たちキャンディアイランドの対戦相手になるわけだが、楽屋に現れた先輩アイドルたちを前にかな子や智絵里が驚いたのも束の間、「ケガ」や「ハード」という紗枝や由紀の言葉に違和感を覚える3人。
 実は3人の知らないうちに、今回から番組内容がアクションバラエティへと変更になっていたのだ。「筋肉でドン!Muscle Castle!!」へと変わっている番組タイトルを見て、応援に来ていた卯月、凛、未央の3人も、そしてプロデューサーも一様に困ったような表情を浮かべるしかなかった。

 それぞれの戸惑いをよそに番組収録は始まった。司会を務めるのは冒頭で未央が言ったとおり、川島瑞樹と十時愛梨。瑞樹は1話から3話まで連続で登場、特に3話では名前の字幕付きで紹介されたこともあって、視聴者にとっても「346の先輩アイドル」として記憶しやすかった存在になっていると思われるが、一方の愛梨は1話冒頭のライブシーン以来の登場であり、幸子同様まともに他キャラとコミュニケーションを取るのは今話が初となる。

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 18歳の大学生という美波に近いプロフィールを持つ愛梨だが、その性格はのんびりしていて良くも悪くも天然気質という、しっかり者の美波とは正反対の個性の持ち主だ。その性格と抜群のプロポーションもあって、原作ゲームではサービス開始当初から人気が高く、2012年7月にゲーム内で行われた第1回シンデレラガール選抜総選挙では堂々の1位を獲得、初代「シンデレラガール」の座に輝いたという実績を持つ。
 すぐに暑がって着ている服を脱ぎたがるという困った癖があるが、さすがに今話の中でそこは描写されていないものの、少々深読みするなら着用している瑞樹とお揃いのこの衣装、パンツルックの瑞樹と違ってかなり際どい短さのミニスカートを着て長い脚を露出しているのが暑がり対策と考えられないこともない。
 さらに言えばこの衣装はゲーム中イベント「アイドルLiveロワイヤル」の期間中に取得できる限定Rアイドルが着用していた衣装「ロワイヤルスタイル」とほぼ同じものになっている(初期のイベントのみで現在の同イベントでは「ロワイヤルスタイルNP」という別衣装)。ゲームの方では瑞樹も愛梨もこの衣装を着用した姿が描かれることはなかったため、ゲーム側の設定と本作の設定とをうまく組み合わせた結果の産物と言えるだろう。
 ただこのMCシーンでは愛梨以上に瑞樹の方に注目すべきだろう。10歳年下の愛梨と一緒になって「キュンキュンパワーでハートを刺激しちゃうわよ♪」などと言っている様は、2話や3話でメンバー最年長としての落ち着いた大人の女性らしい魅力を見せていた瑞樹からはおよそ結びつかない姿だが、これが2話の感想で書いた彼女の「かなりお茶目な一面」である。
 瑞樹はもちろんこのままでも十分綺麗なのだが、美容や体力面において必要以上に年齢を意識しているところがあり、そのためさながら十代の女の子のようにはっちゃけてしまう時がある、という側面がある女性なのだ。本作ではそれほどでもないが、原作ゲームの方ではノリノリでビーチバレーに興じたりクリスマスパーティでは率先して騒ぐなど、「大人の女性」の一般的イメージから離れた可愛らしい一面をたびたび披露している。たまにやりすぎて痛々しく見えてしまう時もあるが、そういった部分もまた瑞樹の代替し難い魅力であるということは、デレマスに長く慣れ親しんでいる人間であれば誰しも認めるところであろう。
 そんな2人をMCとして番組は開始する。今回からいきなり番組コンセプトが変わった原因について、「登場アイドルがあまりにクイズに答えられないから」と愛梨がいきなり暴露してしまうが、そんな天然故の危うさを本番中でも発揮してしまう愛梨と、基本的には落ち着いた年上の女性として愛梨をフォローできる瑞樹のコンビは、なかなか良い組み合わせなのかもしれない。
 2人の進行を受けて対戦するチームが入場してくる。番組常連なだけあってこなれた感じのKBYDチームに反して、今回初出場のキャンディアイランド側は自己紹介する言葉のタイミングもうまく合わせられず、少々不安な出だしになってしまった。
 ちなみにここではKBYDの意味が、「カワイイ」「ボクと」「野球」「どすえ」というメンバー3人の個性を象徴する言葉の頭文字を組み合わせたものだったということが判明する。今話分のマジックアワーによれば最初は3人がそれぞれチーム名の案を出したものの、それぞれあまりよろしい案ではなかったため、折衷した結果としてこの名前になったとの由。
 「カワイイ」「ボクと」はもちろん幸子のこと(彼女の一人称は「ボク」)で、「どすえ」は京都出身で京都弁を使う紗枝を象徴している。そして「野球」というのは最後の1人である由紀の最大の趣味、と言うか特徴を表していた。
 彼女は趣味のプロフィールが野球観戦となっているとおり、自他共に認める大の野球好きなのだ。特に原作ゲーム中に登場する強豪プロ野球チーム「キャッツ」がお気に入りで、ビール片手に応援するスタイルはファンの間で完全に定着しているほど。その一方、今書いたとおり飲酒できる年齢(20歳)にもかかわらず、キャッツのマスコットキャラクター「ねこっぴー」の着ぐるみを本物と信じている態度を見せたり、何でもかんでも野球に結びつけて考えた結果ひどいことになってしまう(料理など)場合があったりと、かなりフリーダムな性格でもある。
 キャンディアイランドの3人が杏を除けばかなり控えめな性格であるのに対し、メンバー全員尖った個性の持ち主であるKBYDチームは、対比という意味でもお互いに良い対戦相手なのかもしれない。
 早速MCの流れから始まるマイクパフォーマンス対決。KBYD側はその流れを引き継いで幸子がキャンディアイランドを挑発する。しっかり自分の可愛さをアピールするのはさすがであるが、一方のキャンディアイランド側はよくわからないままスタッフからマイクを渡された智絵里がすっかり動転してしまい、とっさに幸子に謝ってしまう。
 そのリアクションは存外受けたようで、キャンディアイランドがどうにか10ポイント先取することが出来た。次のコーナーの準備のために一旦撮影は中断し、客席の卯月たち3人もとりあえず一息入れる。しかし先にポイントが取れたし幸先いいのではという卯月に反し、未央は厳しい見方を崩さない。確かに今の採点はMCの采配に拠るところが大きく、智絵里自身はテンパって何もできていなかったことを考えると、未央の心配も決して的外れではないだろう。
 それは当の智絵里もよくわかっているようで、舞台裏で休憩している間にも、大勢の観客を前に頭が真っ白になってしまったと2人に謝る。そんな智絵里をフォローしたのは杏だった。

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 昨日のカエルの件を持ち出して、観客をカエルと思うようにとアドバイスするのは実に的確なフォローである。が、よくよく思い返してみると智絵里は収録開始前の楽屋でのシーンで既にカエルのことを口にしていたので、一見するとまるでここで初めてカエルの件を話題に出したようにも受け取れるが、これは智絵里の「頭が真っ白になった」という言葉から考えて、収録開始してスタジオに登場した時点で、直前まで頭の中にあったカエルの件もすっかり忘れた、緊張の余りどこかに飛んで行ってしまったとするのが一番妥当な見方だろう。
 それは杏のアドバイスにかな子もまたカエルのことを改めて思い出したかのような同意のセリフを発しているあたりからも窺える。かな子も智絵里ほどではないにせよ、カエルのことをパッとは思い出せないほどに緊張し、精神的な余裕がなくなっていたというわけだ。なかなかリアリティある人間臭い描写とも言える。
 そう考えるとこのカエルというアドバイスを行う役回りをこなせたのは、良くも悪くも緊張とは無縁の存在である杏しかいなかった。だらだらしている杏のいつも通りの態度も、今回ばかりは2人の緊張をある程度緩和させる良い方向に働いたと言えるだろう。智絵里も改めて収録に臨む意思を強める。

 再開した収録で次に行うのは風船早割り対決。その名の通り大きな風船に3人一斉に空気を入れて、先に割った方が勝ちという一昔前の対決ものバラエティでチラホラ見られた趣向のものだ。
 最年長の由紀が一番楽しそうにしている一方で、杏は単純な体力勝負のためかあからさまにやる気を出さない。そのためかは不明だがKBYDの方が空気を入れるのが早く、キャンディアイランドの面々の頭上に仕掛けられた風船は勢いよく破裂してしまう。
 杏が空気入れを止めて一早く身構えたり、かな子が破裂の勢いで倒れ込んでしまったりとおいしいところは持っていったものの、負けは負けなので罰ゲームとしてかなり苦い味の健康茶を飲む羽目になってしまった。
 この辺はアニマスの15話と同様に劇中劇たるバラエティ番組の進行を、気を衒うことなく大真面目に追っており、それを通して劇中の世界観そのものの拡大化を行っているだけでなく、見方によってはいわゆるライブ回などと同様、アイドルたちが取り組む様々なシチュエーションのドキュメンタリー風映像と解釈することもできる。
 今話のストーリー自体がここで極端に変化するわけではないが、キャンディアイランドの面々のみならず、名称を適度に省略して呼ぶ瑞樹の司会慣れした様子や、その際「カワイイボク」が省略されたことに慌てる幸子など、各登場人物の細かい描写が随所に盛り込まれており、それがキャラクターが単なる類型的な記号から独自の個性を持つ存在へと脱却するのに一役買っている。
 それは次のマシュマロキャッチ対決も同様で、キャッチする側に野球好きの由紀とマシュマロ好きのかな子がそれぞれ立候補したり、手を抜く気満々の杏がマシュマロを撃つ方として半ば強引に智絵里を推挙するなど、イベントを通しての各人の個性が遺憾なく描写されていた。
 またそれを抜きにしても、挿入歌「アタシポンコツアンドロイド」に乗って描かれるそれぞれのアトラクションシーンは非常に可愛らしいものになっており、かな子と智絵里はもちろんのこと、今回が初めての本格登場となった幸子と由紀の活躍にもたっぷり時間を割いており、自然と彼女たちについても見る者の興味がいくような構成になっているのは、注目しておくべきだろう。口で直接マシュマロを食べるルールなのに由紀が迷うことなく両手で「キャッチ」するシーンなどは、原作ゲームで色々描かれてきた由紀の野球バカという面を知っている人ならば納得の行動だったのではないだろうか。

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 結局マシュマロ対決は一対一の引き分けで終わり、続いて私服ファッションショーに進む。おしゃれを「女の子が常に磨き、鍛え上げなければならない筋肉」と形容するのは叶い強引と言わざるを得ないが、アイドルがメインの番組である以上、アイドルらしい部分を見せるコーナーも必要ということなのだろう。
 一番手として登場した杏が着てきた服は、当然いつもの「働いたら負け」Tシャツ姿。あまりにもいつも通り過ぎるその出で立ちに見ていた卯月たちも大いに驚くが、当の杏が涼しい顔をしているのは、このコーナーに関しては自分のやる「仕事」がただ歩いて簡単なポーズを決めるだけのものだったからかもしれない。その意外性もあってか、観衆にも瑞樹にも受けは良かったようだ。

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 対する紗枝の服装は、いつも和装の紗枝には珍しいセーラー服姿だった。原作ゲームにおける限定ガチャ「新・制服コレクション2013」での限定SRで披露したのと同じ制服だが、これは狙ってのものではなく下校して直接仕事に来たからのようで、紗枝本人にとってこの姿を見せるのは結構恥ずかしい様子。

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 ところがそんな恥じらいを見せる姿が観客の主に男性陣、そして瑞樹の琴線をいたく刺激したようで、今回の対決もKBYDチームの勝利に終わる。負けた杏がそれほど悔しそうにしていないのは、この時点では勝敗そのものにさほど拘っていなかったからだろうか。尤も未央が「爪あとは残せた」と表現したとおり、強烈な印象を観客や視聴者に残したのは間違いないであろうから、デビューしたてのアイドルとしては、これはこれで良いのかもしれない。
 先ほどと同じ罰ゲームが行われた時点で得点差はちょうど100点。いよいよ最後の対決と相成るわけだが、その前に合計得点で負けた場合の「豪華な」罰ゲームが渓谷の吊り橋上からのバンジージャンプだと説明され、アイドルたちも一様に顔を強張らせる。
 次の対決への準備のためにまた収録は小休止に入るが、舞台裏に引き上げてきたかな子たち3人の表情は暗いままだ。何だかんだで仕事をこなしてきた杏もさすがに弱音を吐くが、勝つにしろ負けるにしろこれもアイドルとしての仕事の1つなのだから、プロデューサーとしては彼女らの弱気をそのまま受け入れるわけにもいかない。
 しかしプロデューサーが言葉を言い終えるより前に、緊張と疲れからか智絵里がその場にへたり込んでしまった。慌ててプロデューサーも駆け寄り、楽屋に戻って智絵里を休ませることに。
 横になった智絵里は何とか落ち着き、次の収録について尋ねたプロデューサーにも了承の返事を返すが、プロデューサーは改めてもう一度、「笑顔で出来ますか?」と智絵里に問いかける。
 今更言うまでもなく「笑顔」とはプロデューサーがアイドルにとって一番必要なものと考える、アイドルをアイドルたらしめる最も重要なファクターである。それを今この場で問いただしたのは、智絵里が次に控えている収録を「アイドル」としてやり抜こうとする意思があるか、その覚悟を確認するためという点に疑いの余地はない。
 そしてその覚悟は次回以降の仕事についても影響を及ぼすほど大きなものでもある。智絵里は時と場合に応じて上手に立ち回れるような器用な性格ではない。智絵里がもしここで拒絶してしまったら、アイドルをやりたいという自分の意思を自分自身で否定することになり、今後どのような仕事をしたとしても彼女はもうアイドルとして人前に立つことができなくなることすらありうるのだ。
 その意味ではこの問いに対する智絵里の回答は、彼女の今後を決める上での重要な分水嶺になるものと言えるだろう。
 それを感覚的に理解しているのか、智絵里もすぐには返事をせずに口をつぐみ俯く。わずかの沈黙が楽屋を支配する中、口を開いたのはかな子だった。
 バンジージャンプは怖いけど本番は笑顔でがんばると言うかな子の言葉は、智絵里への説得としては殊更に感動を呼ぶような劇的なものではない、ごくありきたりの内容である。しかしこの言葉は度合いの違いはあれど智絵里と同じようにアイドルを楽しみ、同じように緊張し、同じように悩みながら努力してきたかな子が発したものだからこそ、字面以上の重みが込められているのである。
 単に「仲間がいるから強くなれる」と言うのは容易いが、かな子の場合は智絵里に取って苦楽を共にしてきた仲間というだけではない。2人はそれぞれアイドル活動に喜びや楽しみを見出しながらも、それに伴い直面する様々な出来事にその都度不安や緊張も覚えてきた。前述のとおり程度の差はあるものの、智絵里とかな子はキャンディアイランドとして活動するようになって以降も、そしてそれ以前からアイドル活動というものに対して極めて近しい感じ方、感性を持ち、それを自然と共有してきたのである。
 2話で自分たちもいつか出るであろうステージに想いを馳せたり、3話で卯月たち3人の晴れ舞台を心配しつつ応援したり、5話でアイドルとして客に喜んでもらったり幸せな気持ちになってほしいと夢を語らったり…。明示的にではないし、本人たちも自覚してはいないだろうが、アイドルに関する限り2人の考え方や受け止め方は「似た者同士」に近いものとなっていたのだ。
 そんなかな子が自分と同じような緊張や恐怖心を抱きながらも、アイドルとしてきちんと自身の「アイドル」という立場と向き合おうとしている。その事実は智絵里の心に小さな勇気を呼び起こす。
 怖さは消えたわけではないし自信もないが、それでもみんなに勇気をもらえたから、キャンディアイランドとして仲間と一緒にアイドルをやりたいという自分の想いを、たどたどしくもはっきりと伝える智絵里。彼女の決意にかな子も杏もまずは胸をなでおろす。
 だがここにもう一つ、智絵里が思い定めなければならないものがあった。それは自分がそのような決意をしてまで、アイドルとして何をやり遂げたいと思うのか、即ち今回の仕事における「目標」である。自分たちが何故がんばる必要があるのか、何を目指して頑張らないといけないのか、そこが定まっていなければ智絵里の決意も地に足がつかないが如く曖昧になってしまうのだが、内心の緊張や不安定さ故に智絵里のみならずかな子までもそれを見失ってしまっているのである。
 それを2人に再認識、そして新たな目的を認識させる役目を担うのがキャンディアイランドの3人目、つまり杏だ。ちょうど収録が始まって緊張している2人に「カエル」の件を思い出させたように。
 バンジーは怖いと現実的な見方を口にしつつも、逆転勝利すればいいということを彼女らしいレトリックで提案する杏。対決に勝てば罰ゲームをする必要はもちろんないし、当初立てていた目標であるアピールタイムでの曲紹介も行える。杏の言葉でそのことに智絵里もかな子も気づいた(思い出した)のだ。
 杏にとってはいつも通り、自分の直面している事態を円滑に処理する(仕事を早く終わらせる)ために考えた最善の案を提示したのだろうが、決してそれ「だけ」ではないということも、笑顔を作るかな子や智絵里と共に杏自身も少々照れながら笑顔を見せているところから十分に察せられるだろう。特別に仲間への想いが人一倍強いと言うわけではない、困っている仲間を放ってはおけないという人間が本来当たり前に持っているはずの人間らしい小さな優しさが発露した結果としての助言だったのである。
 ここにおいてようやく「罰ゲームを回避し、自分たちの歌を観客に聞いてもらうためにアイドルとしてがんばる」という目標が3人の中で一致した。それ以外の思惑を秘めている者もいるにはいるが、とにかくも3人の想いが1つになったことを象徴するように、今度3人で上げた掛け声は、前日のあの時とは違いタイミングもテンションも見事に揃ったものとなっていた。そんな3人の様子にプロデューサーも安堵の表情を見せる。

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 再開した収録で行われる最後の対決は滑り台クイズ。解答者は滑り台に乗り、クイズに間違えたり答えられなかったりするごとに滑り台の角度が上がっていき、耐えきれなくて滑り落ちてしまったら失格、という昭和の頃から存在するポピュラーな形式のクイズである。別のパネルに出題クイズのジャンルと得点が表示されており、クイズで正解すればその分の得点を取得できるというルールだ。
 早速対決開始ということで、最初に瑞樹が出題パネルの中から選択した問題は芸能の10。「先週の放送で天然回答を連発し、番組を終了させたアイドルチームの名前は?」というクイズに幸子が正解の「B.Bチーム」と解答、かな子も答えるものの幸子より若干遅れたので負けとなり、滑り台は一段上がってしまう。
 ちなみにこのB.Bチーム、原作ゲームを遊んでいない人でもモニタに表示された画像を見ればすぐわかるとおり、2話や5話で登場した及川雫と今回初登場の大沼くるみの2人ユニットである(わざわざ目の部分に黒線を入れるのはいかがなものかと思うが)。

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 くるみは弱虫で泣き虫、何かあればすぐ泣く上によだれまで垂らしてしまうという大変に難儀な性格の持ち主。13歳という年齢の割に幼い思考を持つ半面、不釣り合いなくらいの豊満なバストが目につくが、男子にからかわれるため本人にとってはこれも悩みの種になっているとのこと。
 この2人がBパート冒頭で愛梨の言った「クイズに答えられないアイドル」というのはこの2人を指しているのは明白だが(2人「だけ」かは不明)、具体的な状況を推理してみると、まずくるみはその気弱な性格上まともに解答できず、それが続くうちに泣きだして解答するどころではなくなってしまった、というのは容易に想像できる。
 雫の方は5話の感想に書いたとおり考え方や行動は決して天然ではないのだが、原作ゲーム内「シンデレラガールズ劇場」の278話や365話で描写されているように、のんびりした性格のためかわからないことについて考える時も非常にゆっくりなので、結果的に解答が出せない状態に陥ってしまうパターンが多い(278話では温泉に浸かったまま考えすぎてのぼせてしまい、365話ではスイカ割り挑戦中に考えすぎた結果としてあさっての方向に進みすぎ転んでしまう)。なので制限時間が決まっているクイズ番組ではその思案の途中でどうしても解答しなければならず、結果として天然的な解答になってしまったというところだと思われる。
 クイズの方は幸子が続いて芸能の20を選択、男性ユニットアイドルについてのクイズに、今度は紗枝が「ジュピター」と解答する。ジュピターの3人も1話での広告に、別ゲーム「アイドルマスターsideM」に登場する315(サイコー)プロ所属と思われる状態で登場していたが、本作がアニマスから直接時系列を引き継いでいることを考えると、961プロを離脱してから地道に活動を続けてついに全国ツアーを実現できるほどにまでなったというのも、アニマスから見てきた者にとってはなかなか感慨深いものがある。
 その後もKBYDチームが正解を連発し、キャンディアイランドの方は合計三段階も滑り台が上昇、ついに杏が耐え切れなくなって滑り落ちそうになってしまう。あわやというところで杏の腕を掴んだのは智絵里だった。智絵里の励ましを受けて杏も何とか耐えられるように体勢を変えて持ち直す。
 小さなことではあるが、かな子や杏の応援を受けて立ち直った智絵里が、今この場では杏を応援してどうにか踏み止まらせる立場となっているというのは非常に巧い構成である。特定の人物に依存するのではなく、文字通りに互いが互いを支え合う仲間同士の理想の連携に近いものが育まれていることが、この短い場面から窺い知れるだろう。
 一方のKBYDチーム、特に幸子は次で決めると意気揚々だ。自信たっぷりに歴史の10を選択するものの、「徳川将軍の三代目は誰か?」という出題の正解がわからず、あっさり答えに詰まってしまう。そこにすかさずかな子が先ほどのお返しとばかりに正解を答え、何とか相手側に一矢報いる。
 本文中では敢えて記述しなかったが、この徳川幕府歴代将軍についてはAパートの終盤、収録前の楽屋においてかな子がクイズ対策にと暗記をしていたものである。事前の努力が本番で奏功したというのは、勝負の流れが変わってきたということを何より端的に示す事柄であると言えるだろう。
 問題の選択権がキャンディアイランド側に移ったところで、杏は最高得点である30番台のジャンル「科学」を選択する。取得できる点が高いということは無論それだけクイズの内容も高難度になっているわけだが、逆転勝利を達成するために杏は敢えて選択したのだ。
 その出題は「スカイツリーのてっぺんからリンゴを落としたら、落下直前の速度はいくつになるか?」というもの。
 これは高校物理(物理T)でいうところの「等加速度直線運動」の問題である。一般的にこの計算をする場合は初速度v0、時間t、加速度aに移動距離sを用いて、tの時点での速度vを求めるのだが、今回の問題では時間についての条件が指定されていないので、v0=0とa(今回は重力加速度なのでg=9.8)、それにs=634(m)を用いた方程式で答えを出す必要がある。
 ただこの場合はある理由から暗算で計算するのが非常に難しく、今回のような場で容易に答えられる類のものではなかった。KBYDもキャンディアイランドも答えられず思案にふける中、ただ1人があっさりと解答を口にした。

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 「秒速111.474メートル」と切り出した杏は、さらに瑞樹からの指摘に合わせて「401.306キロ」と時速への換算も一瞬で行い、見事に正解する。
 この計算、何がそんなに難しいのかと言うと、時間tを使用せずに距離で速度を算出する場合の公式はv^2−v0^2=2gsとなり、v=の形に直すと「v=√2gs」となる。つまり平方根を利用する必要が出てくるからである。
 平方根自体は中学の課程で学習する「平方(自乗)すると元の値に等しくなる数」のことである。例えば4の平方根は2^2で2、9の平方根は3^2で3、という具合だ。
 ところが数字によっては整数で表現しきれない平方根と言うものも存在する。例えば2の平方根や3の平方根は実際には延々と続く少数になるため、わかりやすく記述するために√2や√3と記述している。実際の値については語呂合わせで2の平方根を「1.41421356(ひとよひとよにひとみごろ)」などと暗記した諸兄も多いことだろう。
 √2や√3のようにある程度基礎知識として浸透している値ならば良いが、今回のようにまっさらな状態から出てきた計算結果の平方根を求めるのはかなり大変である。今回ならば2gs=2×9.8×634=12426.4の平方根を計算するのは、紙なり電卓なりあれば可能だが暗算で行うのはかなり難しい。ましてクイズである以上制限時間つきなのだから、余計に難しくなっていたのであるが、それを杏はわずか数秒で計算してしまったのである。しかも小数点3ケタ以下をわざわざ四捨五入までして。
 時速換算は秒速に3.6をかければいいだけではあるが、これも暗算に慣れていないと結構苦戦することを考えると、いずれにせよ杏のこの暗算能力は常人をはるかに上回る技能と言える。これがだらだら生きることを信条とする杏の「本気」だったのだ
 尤もスカイツリーが出来た時点で同様のクイズは色々出ているだろうから、杏が本番前にどこかで予習しておいたという線も考えられなくはないのだが、現時点でそこに至るような伏線が劇中で見つからない以上、杏の能力そのものと考えるのが妥当であろう。
 長々と解説したがとにかくキャンディアイランドが正解したわけで、驚くKBYDの方の滑り台も容赦なく上昇していく。二段階目の時点で幸子はあっさりと滑り落ちてしまうが、滑り台にしがみついて何とか落ちることだけは免れる。愛梨の言うとおり傍目には変な格好だが、落ちないために幸子も幸子で必死なのだから仕方がない。
 ちなみにこの「滑り台クイズで落ちそうになるもしがみついて必死に耐えるアイドル」というのも、アイマスとは関係ないが元ネタ自体は存在するようなので、興味があれば確認してみてもいいかもしれない。
 続けて杏はアニメの30を選択。劇中世界で放送されていると思われるアニメ「幽体離脱!フルボッコちゃん」のクイズが出題されるが、これもまた杏が難なくこなし、さらに一段上がったKBYDからはついに紗枝が脱落してしまった。
 ここで余談だが、フルボッコちゃんとして登場しているキャラはどう見てもデレマスアイドルの1人である小関麗奈である(ついでにマスコットキャラは太田優の飼っているペットの犬「アッキー」と思われる)のだが、これが「アニメ」であって「実写」ではないということを考えると、これは麗奈をモデルにしてデザインされたキャラクターと言うことになるのだろうか。であれば麗奈は声優として参加しているのかもしれない。

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 何にせよ麗奈もまた今話において初めて登場したデレマスアイドル。声なしとは言え彼女のファンにとっては待ちに待った瞬間であったろうし、彼女と対になる?存在のヒーロー系アイドルの出演にも期待したいところだ。
 閑話休題。続けて杏が選択したのはスペシャルの30。ここで決めるつもりだと客席の未央たちも期待の表情を浮かべて見つめる中、クイズが出題される。
 「江戸時代のオランダ貿易でガラス製品の緩衝材として持ち込まれた外来種で、花言葉に「幸運」「約束」などがある花は?」という内容に皆が杏に注目するが、当の杏はわからないとあっさりギブアップを宣言する。
 このタイミングでのギブアップに愛梨を始め観客からも笑いが漏れるが、わからないのであればと瑞樹が解答権を移そうとした時、1人声を上げたのは智絵里だった。

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 未だ緊張しているのか顔を強張らせながらも、自分の背中を押してくれた大事な仲間と繋ぐ手を強く握りながら、はっきりと解答を口にする智絵里。その答えとは「シロツメクサ」。智絵里がいつも大切にしている四つ葉のクローバーを湛える花である。智絵里の小さな勇気に四つ葉のクローバーが応えてくれたかのような幸運に、客席の卯月たちも、仲間であるかな子や杏も、そして智絵里自身も顔をほころばせる。
 KBYDチームの滑り台はさらに一段上がり、今度は由紀が脱落、次いで滑り台にしがみついていた幸子もとうとう耐え切れずに落ちてしまい、この対決は晴れてキャンディアイランドの勝利となった。
 滑り落ちるのをずっと耐えていた杏もようやく一安心するが、感極まったかな子が飛びついてきたため、さすがに耐えられなくなって智絵里も巻き込み滑り落ちてしまう3人。本気出すのは疲れると独りごちる杏をかな子と共に笑顔で見つめる智絵里は、客席に未央たちの姿を認めて手を振る。
 今までお客は「カエルさん」だったから気づかなかったという智絵里に、ならしょうがないと3人は笑い合う。それは苦労しながらも互いに助け合って1つの事を成した、キャンディアイランドというアイドルユニットの1つの成果であったと言えるだろう。
 すべての対決が終わり結果発表となるが、結果は何と同点の引き分け。この場合はアピールタイムはそれぞれ半分ずつの時間で、そして罰ゲームのバンジージャンプも一緒に実施という説明を聞かされ、KBYDチームの面々慌てて文句を言うが、愛梨たちにも言わないようにとのお達しがあったようでもはや後の祭り。
 智絵里はまた3人で仕事ができると喜ぶが、それに反して仕事を早く終わらせるためという名目もあって本気を出していた杏は当てが外れてしまい、文字通り涙目になりながらそんなつもりじゃなかったと叫ばずにはいられなかった。

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 そして3人のデビュー曲「Happy×2 Days」をバックに、待望のアピールタイムが始まる。時間は短くなっているようだが、智絵里が皆を代表して述べたとも言える「みんなにハッピーを届けたい」というこの楽曲に込められた想いは、見ている人たちにも十分伝わったに違いない。
 最後の最後でいきなり引退宣言をする杏に「なんでやねん」とすかさずツッコミを入れられたのも、事前の努力を活かせたという点で彼女らがアイドルとしてきちんと成長できた証と言えるだろう。
 そのままHappy×2 Daysをエンディング曲として描写されるのは、罰ゲームであるバンジージャンプの様子。
 全員強制参加のようで杏も結局バンジーをする羽目になったが、ここで面白いのはやはり涙目になりながらバンジーに臨む幸子の描写だろう。
 幸子はそういう系統のアイドルではないにもかかわらず、原作ゲームで排出される限定SRではスカイダイビングに挑まされたり遊園地の絶叫マシーンで水を被ったり、泳げないにもかかわらず水泳大会に参加したり、何かと体を張った仕事をやらされることが多い。今話の場合も罰ゲームがバンジーだと判明した途端にツイッターやニコニコ生放送におけるコメントでは「幸子がオチか」と視聴者のほとんどが一様に呟くほどに浸透しているネタであるが、その予想に違わぬ奮闘をアニメでも見せてくれたのは実にすばらしいことであった。

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 キャンディアイランドの方も最終的にどうにか全員無事にバンジーをこなしたようで、髪の毛がぼさぼさになりながらも仕事の達成を喜ぶ3人の笑顔でクロージングとなっている。智絵里の目に浮かんでいる涙も怖さだけではない、もっと大きな理由故のものであるに違いないだろう。
 さらに言えばこの「Happy×2 Days」、普通に歌詞を追っていくとよくあるラブソングのように思われるのだが、途中で歌詞とは関係なく杏が自身のフリーダムさを歌うラップが同時に挿入され、最終的にメインの歌詞を歌っているかな子と智絵里がツッコミを入れるという結構な異色作となっているので、ぜひ一度聞いてほしいところだ。

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 冒頭に記した通り、キャンディアイランドはニュージェネレーションズに続く2つ目の3人編成ユニットである。ニュージェネに関しては1話から7話までたっぷり時間をかけて、ある一定までの関係性の成熟が描かれたが、尺の都合上、今回のキャンディアイランドについても同じような見せ方で関係性を描くことは非常に困難であった。これはキャンディアイランドに限らず、まだデビューしていないメンバーが将来的にユニットを組んだ場合においても該当する、言わば共通の懸案事項と言える。
 そこでスタッフは2つの方策を用意した。1つは最小単位の人間関係を、省略した上で序盤(2話)からずっと描写し続けたという点だ。最小単位の人間関係とはもちろん一対一、即ち「2人」の関係である。2話の時点からかな子と智絵里は基本的にずっと一緒、言わば2人一組のような体制で行動し続けてきた。ストーリー上の中心に来ることはこれまでなかったものの、共にいる描写を継続的に挿入することで、視聴者側に2人がどのような性格で2人一緒の場合はどのような役回りになるかをある程度把握させ、そこから「2人は基本仲が良い」という見方を映像上の情報のみで見る側に刷り込んできたのだと言える。
 これが「省略した上での描写」だ。劇中ではかな子と智絵里がどのように出会い、どのように2人一緒に行動するほど仲良くなったのかについては一切触れられていない(そのような背景設定があるのかどうかも見ているこちらとしてはわからない)が、そのような設定を見せる行為を敢えて省略し、今現在の2人の仲の良さを何度も映像として見せることで、「2人は前から仲が良い」という印象を強烈なものとして見る側に植え付けている。
 かつてのアニマスの、特に仲が良かった伊織とやよいがどのように出会いどのように仲良くなったか、その辺りの設定を完全に省略した上でストーリーを進行したのと同様の見せ方になっているわけだ。
 さらにもう1つの方策とは、そのような最小単位の人間関係のうち一つをあえて崩し、既にある程度完成されている別の関係性に入りこませることである。キャンディアイランドで言えばきらりと一緒にいるシーンがずっと強調されてきた杏が、1人その関係性から抜け出してかな子と智絵里という2人きりの人間関係に組み込まれたというのが該当する。
 そうすることで杏、かな子、智絵里の3人別個の関係ではなく、「杏」と「かな子・智絵里」という一組の関係性が成り立ち、その関係性を描写するという手段を今話では取っているのである。これにより3人がバラバラの状態から関係性を描くよりは短い尺で、より濃密に描写できるという利点が生じることになる。
 また別の組み合わせから半ば強制的にこちらの組み合わせに編入される(今回の場合は杏)ことによる画的なインパクトそれ自体が、3人の物語展開、及び関係性の発展に説得力を付与してもいる。
 これはストーリー構成としてはかなり強引なやり方には違いないのだが、にもかかわらず今話にさしたる破綻なく3人がお互いの繋がりを深められたのは、3人が元々シンデレラプロジェクトの仲間同士で、互いの人となりを以前からある程度把握していたという点が大きい。「相手を知る」ことからではなく「相手との関係性を深める」ところからのスタートなのだから色々省略できる一方で、見せたい部分だけを強調して描写することが出来るのだ。
 ニュージェネ3人を通して本作の「アイドル」観を描写するという基本プロットにデレマス、引いてはアイマスそのものの世界観を考慮した上でキャンディアイランド3人の関係性が深まるストーリーを構築する。これは決して行き当たりばったりでできることではない。様々な制約等を考慮した上で計算しつくされた構成の下に今話は生み出されたと言える。1話完結のアンソロジー形式を基本としながら様々な要素を配置しておき、必要な話の中でそれらの要素を1つの縦糸軸として機能させるストーリーテリングは見事と言う他ない。
 そんなストーリーテリングによって紡ぎ出されたキャンディアイランドの関係性は、前述のとおりニュージェネレーションズとは似て非なるものになっている。
 元々やる気のない杏にお互い控えめな性格のかな子と智絵里という3人がメンバーのため、誰かが誰かを引っ張っていくというよりは、常に誰かが誰かを支えている、静かに互いの背中を押してくれる関係性、という表現が一番適当であろう。
 お互い緊張しながらも目標のためにがんばろうと誓いあうかな子と智絵里、そんな2人の心が少しばかり楽になるようそっと助力する杏、今話で一番強調されていたこれらの描写を思い返すと、そんな風に思えるのである。
 互いを支え、背中を押すばかりでは歩調が合わない時もあるだろう。しかしどんなにゆっくりでもしっかりと、着実に歩みを進めていけるということは、支えてくれる手に込められた優しい想いを知っている3人なら十分わかっているはずだ。「CANDY ISLAND」とはそんな3人の優しさが生み出す幸せな時間そのものと言えるのかもしれない。

 また今回は幸子を始め様々なアイドルのユニークな一面を色々見ることが出来る挿話でもあった。3話のように字幕表記が出てもおかしくないくらいの出番だったのにもかかわらず字幕は出なかったが、本作の世界や人物関係の広がりに各人の個性と、十分に堪能できたと思われる。
 そんな中で1つ個人的に一考してみるとすれば、愛梨のセリフが天然を通り越して若干毒舌の領域にまで達しているように思われる点だろうか。
 と言ってもそんな大仰に考えるほどのものでもなく、構成台本上のセリフと素の自分自身の言葉とが入り混じってあんな妙な感じになってしまったのだろうと自分の中では決着をつけているが、どこまでが台本でどこからが自分の言葉なのか、これについてはもう少し考えてみるのも一興だろう。

 さて今話の時点でまだデビューしていないシンデレラプロジェクトの面々は残り5人。次回予告を見る限り次のデビューユニットも3人編成のようだが、キャンディアイランドとは180度異なる賑やかなユニットになりそうだ。次に迎える物語はどのような展開になるのだろうか。



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